パネルディスカッション第二部SIPでの産学官連携や成果を生み出す仕組みの特徴は何か」

パネルディスカッション第二部は、

4名のPDおよびサブPDと2名の総合科学技術・イノベーション会議議員による議論が行われた。

最初にPD、サブPDより各課題の目的、意義をひと通り再確認した中で、SIPにおける仕組みの特徴についても言及があった。例えば、インフラ維持管理・更新・マネジメントの藤野PDからは、「土木系インフラは従来国土交通省や農林水産省の管轄と認識されてきたが、今回のプログラムは文部科学省、経済産業省と国土交通省、農林水産省が一体となって取り組む点で画期的であり、1プロジェクト内に開発側と使う側が含まれているために常に現場でチェックできる利点もある。」と発言があった。
革新的設計生産技術の佐々木PDからも、「中小企業でもグローバルに勝てるモノづくりを実現するための新しいスタイルづくり、プラットフォームづくりがSIPの目標であり、従来はこのような研究プロジェクトに参画できなかった公的機関をはじめ、多様な組織の参画によりイノベーションを生み出すことを期待している。」と発言があり、多様な組織が連携して研究開発を進めるSIPの仕組みこそ重要であると確認された。

続いて、総合科学技術・イノベーション会議議員を代表して、

SIPの特徴や仕組みそのものを作りこむ作業を担当した原山議員より「SIPにはこれまでできなかった分野間、組織間、省庁間の壁を乗り越えた行動原理を促すという目的がある。それができなければイノベーションは生み出せない。各PDにはそれらを乗り越え、プログラムを作りこみ、プロセスそのものを変えて新しい発想を生み出してほしい。産学官連携は世界中でトライアルされているが、SIPは修正しながら学習できる制度にしたい。各課題のやり方をシェアし、学び合う中から新たなグラウンドを生み出し、そこから飛躍していってほしい」と期待が述べられた。
内山田議員からは、「これまでの日本の科学技術と異なる、研究成果が社会成果、産業成果に結びつく政策を実施すべきだという思いがSIPの制度につながった。」と発言があった。「目的を具体的に示して投資し、議論を尽くし、リーダーは責任をもってオールジャパンの能力を各分野から集めて目的を達成してほしい。そしてSIPの大きな特徴として、以下の点を挙げた。①PDが産学連携をコーディネートする、②省庁間をまたいで連携する、③産業界が主体となって大きくかかわる課題がある。特に③については、競争領域と協調領域の境界において、いかに協調領域を広げて研究開発の効率化を図れるかが重要である。」と指摘した。

産学官、企業間連携はSIPの大きな特徴であるが、現実には連携は容易ではない。

レジリエントな防災・減災機能の強化の中島PDからは「府省連携というキーワードが他の多くの防災プロジェクトと本課題を分かつ点だが、防災にはあらゆる府省が関わり、これまでも各省庁の主要プロジェクトとして進められてきた。その中で各省庁のカルチャーの違いを学びながら、調整し束ねていく大変さを感じている。」との発言があった。
また、インフラ維持管理・更新・マネジメント技術の藤野PDからは「多様な分野や組織はそれぞれ意識や言語が異なり、それらが連携するには異分野を尊敬し合うことが重要である。」という発言があった。

社会の多様化とともにユーザーニーズの多様化も進む中で、モノづくりにおいてはユーザーの志向をいち早く取り込む必要がある。

この点について革新的設計生産技術の佐々木PDは、まずユーザーから出発する“デライトなモノづくり”の重要性を述べた。これまでの企業は目標から出発したモノづくりを行ってきたが、目標が不確定である時代には製品化以前にユーザーの意見を聞く“産学官+ユーザー連携”により、最適な試行錯誤により効率よく付加価値の高いモノづくりを行う必要がある。
革新的燃料技術の古野サブPDも“産学官+ユーザー連携”という視点は全課題に共通するとし、縦横の連携だけではなく、「皆でやることでこそ効率化が進む。」と共感を示した。
続いて行われた、SIPならではの仕組みで困難を乗り越えられるかという議論では、古野サブPDは、革新的燃焼技術の課題では2014年4月に動き出した“自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)”という自動車メーカー8社と2団体で構成される組織が重要な役割を果たしていることを紹介した。“産“であるAICEは4つの大学チームとの協働を行っているが、SIPによって府省連携もさらに強化され、産学官が一体となって進める体制ができた。これをいかにマネジメントするかが内燃機関の熱効率50%以上を実現するカギとなる。

その後、科学技術政策の国際比較という点について原山議員から見解が述べられた。

「科学技術政策面のベンチマークは重要であるが、他で成功しているモデルを持ってくるだけではイノベーションにつながらず、自国の文脈に則った支援やエコシステムが必要である。国際的に“科学技術政策”から“科学技術イノベーション政策”へ移行しており、また社会的課題を設定し、それを解決するツールとしてのイノベーションという位置付けも主流になっている。有効性の検証はなかなか難しいがアクションを取らねば始まらないので日本ではSIPとして試行している。財源的な問題もあり短期的な成果が出るものが優先されがちになる中、SIPでは短期的な成果を期待する課題と長期的に判断されるべきチャレンジングな課題の両者を走らせ、シナジー効果を発揮することを期待している。」

続いて国際的な開発競争の中にある産業界の立場から、

内山田議員が日本企業の強みとして、他国より先を見通した投資をしてきたこと、必要な人材育成を行ってきたことを挙げた。一方、「人材の流動性には課題があり、産学連携の仕組みについて、日本では企業と大学で行われるが海外では両者の間に研究所が入り、そこが“場”として機能している。」と紹介があり、「今後は民間資金も入れ、研究所を介して人も橋渡しされるような産学官連携が行われれば現在以上の成果が出てくるだろう。」と述べた。また、大学をより大規模化し、研究者、設備等の資源を集中させて地域ごとの特徴、強みを明確にしての連携を進めていくことの重要性にも触れられた。

その後、SIPの各課題の国際的な状況が紹介され、最後に各PD、サブPDから感想や抱負が述べられた。

「自治体に技術が入りやすくする仕組みが必要」(藤野PD)
「デライトというモノづくりを、文化、思想としていきたい」(佐々木PD)
「地域をうまく使って個人の防災対応を最適化していく」(中島PD)
「工学的人材が日本の資源となることを期待したい」(古野サブPD)