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Q.まず光触媒について、簡単に教えていただけますでしょうか。 A. 光触媒は今、いろいろなところで使っていただいていますが、キーワードは2つあります。それは酸化チタンと光です。酸化チタンを10−20nm(ナノメートル)の大きさの粉末にして、いろいろな物質にコーティングします。すると、酸化チタンの粒は非常に小さいので透明コーティングになります。これに太陽光が当たると強い酸化力がはたらきます。これが、光触媒の原理であり、これにより殺菌効果が確認されています。また、コーティングされた表面に水をかけると水が全面を覆ってしまう、超親水性効果という現象も確認されています。すると、油汚れがあっても、水が油を浮かせてしまうわけです。これも光触媒の大きな特徴の1つです。これらの効果は、既に建材のセルフクリーニングや、空気や水の浄化、殺菌、ガラスの曇り防止など、様々な場面で利用されており、製品も出ています。 Q. 光触媒作用で消臭効果のある造花というのがありますよね。最近買ったのですが。 A. それはまがい物じゃあないかな(笑)。効果の疑わしい光触媒製品も沢山ありますから。 Q. えっ、そうなんですか(笑) A. 酸化チタンはそれだけではコーティングできない。固定するための材料(バインダー)は有機物ですから、これに埋められたら効かない。もし効いたらバインダーがぼろぼろになってしまいますね。だから、本当の光触媒には高度な技術が入っていて、油や煙草の汚れを取ることはできるけれども、バインダーには反応しないようにしているんです。 今、私が所属している神奈川サイエンスパーク内に、光触媒ミュージアムをつくっています。そこにはいろいろな光触媒の製品が展示してあります。でも、ここでは本物しか展示していません。そこに造花はないですね。 Q. 逆に、本物といえる光触媒製品としては、どういうものがあるのですか。 A. 建物、タイル、ガラスなどに塗る光触媒、それから空気清浄機などでしょうか。造花などは疑わしいと思います。「光触媒製品」と言われているものでも効果があるものと無いものがあることを良く知っていただきたい。私たちは巷に出回っている光触媒製品をきちんと評価しようと思っており、そのために標準化活動としてのJISとさらにISO化も行っています。つい最近JIS規格が2件オープンになりましたが、これをISOへも提案する予定です。 Q. 光触媒の効果は、先生が約40年前、当時大学院生だった頃に発見されたと聞きしました。酸化チタンの光触媒現象に気づかれたきっかけは何だったのでしょうか。 A. 当時、東京大学生産技術研究所の菊池教授と本多助教授の研究室にいたのですが、そこでは写真科学の研究を行っていました。先輩はみな富士フィルムやコニカなどに就職しているような研究室です。その頃ちょうどゼロックスのコピーがはじまりました。コピーは当時、電子写真といいましたが、うちの研究室でも、この基礎研究が始まっていました。その材料の1つとして酸化チタンはどうかという研究があったわけです。 当時、宝飾品用に酸化チタンの単結晶をつくったベンチャーがありました。その単結晶をもらって、水の電気分解の電極に利用しました。当時、電気分解のときに光を使う研究が始まっていたのですが、この結晶は誰も使っていませんでした。 実験を行っていて面白いことに気づきました。通常の半導体を電極に使うと、光をあてると全部溶けてしまっていたのですが、酸化チタンは溶けずに、光をあてるとガスが出て電流が流れたのです。このガスを調べてみると酸素だった。水の電気分解が光をあてるだけで実現していることが分かったわけです。 これは面白い現象を発見したと思い、成果を取りまとめてNATURE誌に発表しました。この成果でもっともうれしかったのは、酸素が出たことでした。太陽の光で酸素が出る。これは光合成反応ですよね。つまり葉緑素が水を分解して酸素を出す、植物成長の反応をこんな簡単な形でまねることができた。このときの感動はすごかったです。 Q. 発見後の反響は如何でしたでしょうか。 A. Nature誌よりも前に私が書いた一番初めの英語の論文のテーマはこれでした。ところが、日本の学会では全く相手にされなかった。むしろ、こてんぱんにやられたのです。何故なら当時は、電気分解は電圧をかけなければ起こらないという常識しかなく、光エネルギーの認識もなかった。それが光をあてるだけで電気が流れるというわけですから、お前は何を言っているのだという調子です(笑)。もっと勉強してから発表しろといわれました。どうしてみな理解してくれないか不思議でした。今なら、光をエネルギーに替える原理を利用した典型的な技術として、太陽電池がありますけどね。 ところがこの現象が先程言いました通り、NATUREに載った。光を利用して水が酸素と水素になるという内容です。1972年のことです。翌年に第一次オイルショックが起こったのですが、そのとき、ヨーロッパ、アメリカで私の論文が注目されだしたわけです。石油がなくても太陽光で電気が起こせる。それから水素がとれると。私は酸素に注目していたのですが、脚光を浴びたのは水素のほうだったわけです。それで、水から理想的なエネルギーである水素がとれるという研究成果が評判になっていたのを、朝日新聞の若手の記者の大熊さんという方が注目してくださった。取材にこられて、74年元旦の朝日新聞のトップ記事になりました。そうしたら周囲の私に対する態度ががらりと変わったわけです(笑)。それから私は“水素博士”と呼ばれるようになりました。 ところが、出ている水素の量はわずかだし、利用している酸化チタンも単結晶でとても高価だったので、安価な材料でもっとたくさんの水素が出る方法はないかを模索することにしました。チタンの薄い板をバーナーであぶって、表面に酸化チタンをつくって同様の実験をしたところ、簡単に大きい面積が実現して単結晶と同じ効果があることがわかりました。大面積の酸化チタンで太陽光のもとで水素を集める実験を行ったところ、1日7リットルの水素を集めることができるようになりました。そもそも酸化チタンは透明なので太陽光の3%しか吸収できない。紫外線に近いところしか吸収できない。それが効率の悪い理由なのですが、それでも何とか7リットルとれた。これで特許も出しました。この技術は簡単なので、今でも高校の文化祭の実験テーマになったりしています。 その後いろいろな材料もやり、平成元年に教授になったときに、橋本君(注:現在東京大学先端科学技術研究センター長)がきてくれました。彼はすごいアイデアマンで、透明コーティングをタイルなどに応用できないかというアイデアを出しました。 さらに当時東陶(株)にいた渡部俊也氏(注:現在東京大学先端科学技術研究センター教授)がディスカッションしたいと言ってきました。東陶ではトイレの汚れを解消する問題をかかえていたのですが、東陶のタイルに酸化チタンをコーティングしたらどうかというのです。まず殺菌できるかを試験したところ、光をあてるだけで殺菌できる。次に病院の手術室の床と壁に使用したところ、空中の菌さえなくなった。これは本当に効果があるということで、現在も東陶のタイルで使われています。 それから、東陶とのディスカッションのなかで、鏡が曇ってしまう現象をどうにかできないかという話もありました。シャワーで鏡が曇ってしまう。はじめ、これは油汚れによるものかと思い、鏡に酸化チタンをコーティングしたらどうかと思った。すると確かに曇らなくなる。ところがよく調べるとどうも油汚れが原因ではないらしい。そこでまた基礎研究に戻り、酸化チタンの単結晶に光をあてるとどういう現象が起こっているか、オングストロームオーダーで調べようということなった。当時中国から来ていた留学生の女性に調べてもらいました。そうしたら油ではなく、酸化チタンに水を分解する力とともに水になじみやすくなる性質があることが分かったのです。これで建材への応用が一気に広がったほか、空気中のNOXまでとれるので公害対策にも利用されています。 Q. 本当にすごい成果ですね。他に、実際に利用された例はございますか。 A. 一番最近の大規模な例は、東京駅の丸ビルの1−6Fに使われた例です。またパナホームのエコクリーンハウスに光触媒タイルが使われています。それから駅や空港ですね。つくばエクスプレスの駅のテント材料、東急線の元住吉駅、二子玉川駅、また成田空港にも使われました。中部空港のガラス2万平米にも使われています。それからトヨタ自動車のサイドミラーにも採用してもらいました。これで交通事故が減っているのではないかなと思っています。 Q. JRでもご研究されていると聞きしました。 A. JR東海の研究所長をしていて、週に1回行っています。今、のぞみN700系で光触媒を使う実験を行っています。のぞみの新型車両の客席は全面禁煙ですが、喫煙者のためにデッキに喫煙室をつくってあり、大型の空気清浄機で光触媒を使っています。またグリーン車のガラスにも使う予定です。 Q. 新幹線車両の外側にも使えるのではないですか。 A. 今のところ車両の外側はその後になりますね。JRは安全、正確とか、そういう技術には特に注力している。これも大事なのですけれど、これからは綺麗にすることにも注力してもらいたいですね(笑)。 Q. 光触媒を見つけられたとき、虫を光触媒で分解した実験をやったという話を聞いたのですが。 A. これは橋本君の仕事ですね。橋本君は岡崎の研究所で光触媒をやっていたのですが、光触媒の粉末の箱の中にゴキブリを入れたら、酸化作用によって1年間で無くなった。こういう実験をやっていました。この話、もう1つ面白い話があるのですが、これを聞いたある人が、光触媒包丁なるものを作って、デパートの実演で、これはゴキブリもなくなる包丁ですといって売っていた。確かに光触媒は1年でゴキブリはいなくなったけど、瞬時になくなる訳ではないでしょう。たまたま私が通りかかったので、思わず言いましたよ。それはさすがにウソだと(笑)。 Q. まさか発明者に見られているとは思わなかったでしょうね(笑)。このインタビューを読まれる若い方にメッセージをいただけますでしょうか。 A. 何のために研究するのか。その目的は何かということ。何のために研究するのかを常に考えながらやることが大事です。 どんな人も天寿を全うしたいですよね。そのためには健康で快適であること。私は、科学技術者の最終的な目標は、これに少しでも役立つことではないかと思っています。光触媒はその1つではないかと思っています。 また、面白いと思って自ら感動することも大事ですね。私は最近、タンポポに関心があるのですが、タンポポを見ると、いろいろな種類があることが分かります。このあたりはほとんど西洋タンポポなのですが、先日、霞ヶ関の文部科学省と財務省の間に、日本タンポポを発見したんです。西洋タンポポと同居している。感動しましたね。聞いた話では、西洋タンポポは交配しなくても繁殖するのですが、日本タンポポは交配しなければならないから繁殖しにくいらしいですね。 また最近は朝、ラジオ体操をしているのですが、先日、体操しながら前にあった桜の木を見ていたら、桜の葉は虫にたくさん食べられている。美味しいんでしょうね。それで、知っている人に聞くと、たしかにやわらかくて美味しいらしい。こういうことに関心を持つと、何でも面白くなります。 Q. いろいろなことに、関心がおありなのですね。 A. それでは今度は、私から質問していいですか(笑)? 簡単なことです。「携帯電話は何故、目的の人と通じるのですか」。携帯電話、世界で何億とあるのに、何故、相手の番号をかけると、その携帯しか鳴らないのでしょう? 分かりますか? Q. すみません、わからないです(笑) A. 実は同じ質問を、ある大手企業の社長さんに聞いたことがあります。エレクトロニクスの専門家の方です。そうしたら、彼も分からなかった。彼、あせっちゃってね(笑) それで、僕も分からなかったので、専門の人に聞いたんです。そうしたら、簡単でした。 携帯電話は結局、無線でつながっているんです。いままで家の電話が有線で他の電話でつながっているように、携帯は電波で常に他の携帯とつながっているのですよ。常に繋がっているから、携帯の基地局は、どの電話がどこにあるか常に分かっているのです。そういわれると、実は普通の電話のネットワークと同じ。有線が無線になっただけです。 もう1つ質問。今、石油時代ですね。石油は人類始まって以来、どれくらい使ったか分かりますか。でも、マスがないとわからないから、富士山を使いましょう。富士山と同じ大きさのバケツがあったとしましょう。では、石油は、人類始まって以来、何杯使ったでしょうか?1杯、10杯、100杯、1000杯、1万杯、どれでしょうか。 Q. 世界中で使っていますよねえ・・ 1万杯位? A. 答えは私も聞いてびっくりしました。何と、半杯。1杯もない。富士山は2兆バレルの容量があるのですが、今まで使ったのは8000億バレルです。この数字には驚きました。 Q それしかないのですか! 驚きました。意外に少ないのですね。 A. 何でもいいから比べる、面白いですね。面白いものに感動すること。これが大事だと思っています。若い人もぜひ、いろいろなものに関心を持って、感動してもらいたいですね。 光触媒だけでなく、いろいろと楽しいお話を有難うございました。 |
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