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Q.ナノガラスが従来のガラスと比べて特に明白に違う部分がありましたらお伺いしたいのですが。 A. ガラスというのは皆さんの生活に欠かせないものですよね。自動車や建材としての窓ガラスなどが身近にありますが、最近では液晶やプラズマテレビディスプレイなどにも応用範囲が広がっています。ディスプレイ等に用いるガラスは、少しでも傷や泡があるとその部分が光ってしまうので、非常に高い技術が要求されます。それからDVDの基板や、デジカメのレンズなどに使われるガラスも同様です。 インターネット等の通信に使われている光ファイバーもガラスですが、例えばアメリカと日本との間で大容量の通信を可能にしているのは、エルビウムという元素を添加して伝送の途中で光増幅しているからです。このような特殊なガラスは非常に高い品質が求められます。実際に、原子・分子レベルまで高機能化が図られてきていますが、これをさらにもう1ランク技術レベルを上げたものがナノガラスです。 「ナノガラス」というネーミングは経済産業省にしていただいたのですが、この分野の研究者の思い入れが反映されたよい言葉だと思っています。そもそもガラスというものは透明でいろんな加工ができ、どんな元素でも溶かし込むことができ、耐候性、耐熱性に富む。これがプラスチックと比べた場合の大きな利点なのですが、逆にガラスには割れるという弱点がありました。それならば割れないガラスを作ろうということでもナノガラスの技術が発展してきました。 ナノガラスプロジェクトでは多くのガラス関連企業に参入していただき、優秀な研究者を派遣していただきました。沢山の共同研究の成果が出て、各会社で要素技術として現在発展しています。例えばガラスのなかに屈折率の異なる異質層というものをフェムト秒レーザーでつくると、これによってクラックが止まり、割れないガラスができます。また、ガラス端面をCO2ガスレーザーで照射すると表明キズをなくせます。こうすると薄くても強度の強いガラスができます。 Q.フェムト秒レーザーとはどのようなものなんでしょうか? A. 1000兆分の1秒という非常に短い時間の単位が、フェムト秒です。光は1秒に地球を7週半回りますから、この光が紙の厚さを通り過ぎる時間が、100フェムト秒。逆にいうと地球7週半の光を紙の厚さである100μmまで圧縮したことに相当します。この非常に短い時間に照射できるレーザーがフェムト秒レーザーであり、ピークパワーが非常に高いのが特徴です。 Q.そのフェムト秒レーザーを照射したガラスは、曲げることもできるのですか? A.はい、曲げることはもちろん、将来的には丸めたりもできます。現在最も大きな利点は、端面のキズからクラックがたとえ走っても照射部で止まることにより、製品出荷時の歩留まりが良くなることです。 Q.強いというのは具体的にどの程度なのでしょうか? A.簡単に表現すれば、普通のガラスの2倍程度です。例えば80インチのディスプレイで使用しているガラスは今までのものでは重量は60kgくらいになるのですが、ナノガラスだと強度が強いので、薄くでき、この半分くらいの重さとなります。よって、軽量化に大いに貢献します。 Q.レーザー一発で回路ができるのですか! これはどのくらい近い将来に出来るのでしょうか? A.もういくつかの試作品は出来ていますよ。製品になるのは本当に近い将来でしょう。 Q.極端に小さなものと極端に短い時間を融合させたということですね。 A. そのとおりですね。それから今、うちの研究員が、フェムト秒レーザーをアルコールに照射するとどうなるかという研究をしています。なんと、蒸発する代わりに気体の水素が作れるのです。これはまさに燃料電池用水素につかえる技術として、研究を進めているところです。それからこの液体内に金属をいれると金属ナノ粒子やナノワイヤを生成することができることもわかりました。これからはさらにナノチューブもつくろうと思っています。これらは反応速度をあげる触媒としても働くことが期待されています。 水素生成は非常に面白いメカニズムなんですよ。フェムト秒レーザーのエネルギーは熱が伝わるよりも速く伝わるので、液体に当てると分子を切ってしまう。金属もまた、結合が切れて小さくなる。しかもこの反応はマイクロリアクターでやれば非常に効率的で爆発の危険もない。 Q.マイクロリアクターは平尾先生と同じ京都大学桂キャンパスの、吉田先生、前先生、長谷部先生など大変ご活躍されていらっしゃいますよね。 A.そうです。マイクロリアクターの設計は前さんと一緒にやりました。マイクロリアクターは面白いですよ。いままで大量の廃液を出さなければならなかった化学反応を、非常に効率よく起こすこともできます。 ただ、この研究にも課題があります。最大の課題はフェムト秒レーザーを発生させるエネルギー効率がよくない。電圧は100Vで良いのですが電流がかなり必要で効率が悪いのです。何とか小型フェムト秒レーザー装置を作らなければなりません。実現は今のところ難しいですが、たとえばペンライト型のフェムト秒レーザーとマイクロリアクターがあれば、アルコール、つまり芋焼酎でも水素を発生させながら走る燃料電池車も実現できるというわけです(笑)。 フェムト秒レーザーは他にも医療分野などにいろいろと応用できます。例えば近視の手術。今の近視の手術はナノ秒レーザーでやっていますが、これは一種の火傷現象を伴っているわけです、フェムト秒なら分子メスとして働くので火傷にはなりません。他にも歯の治療への応用が考えられます。 いま京大桂キャンパスでいろいろなプロジェクトをやっています。フェムト秒レーザー装置が数台あり、世界でも有数の規模です。これを開放型の桂キャンパスで大いに活用してどんどん中小・ベンチャー企業の方にイノベーションを起こしてもらおうと思っています。なるべく煩雑な契約手続き等を行わずに使用可能な状態に出来ればいいと考えています。
A.高校生の時に理系へ行くことを決めました。当時から社長になるなら文系といわれていましたけど(笑)、理系は人気がありましたね。高度成長のときで、日本は「資源がないから技術の国となるべき」だと教えられていましたからね。 Q.大学の先生になるというのは、どのあたりでお決めになったのでしょうか。 A.これは父の影響が大きかったですね。父は大阪大学から九州工業大学へ教授職として30代の時に招かれました。地域の企業に凄く貢献していました。当時は北九州工業地帯にある多くの企業にくらべて大学のレベルが高く、いろいろな企業が相談に来ていましたが、父はとても丁寧に教えていました。特許の権利も企業にあげてしまったりして、もう完全にボランティアでしたね(笑)。おかげで地域の賞とか、最終的には日本化学会賞をいただいたりしておりました。 Q.大学では、なぜナノガラスの方向にいかれたのでしょうか。 A.父が有機化学の教授でしたので、まず化学が身近にありました。化学の中では昔から有機化学は人気がありまして、まわりでも志望者が多かった。私はもうちょっとマイナーなところに行きたいという気持ちがありまして(笑)、無機化学の研究室へ行くことにしました。当時友人にこれを話したら「お前ガラス工芸をやるのか?」といわれましたよ(笑)。 Q.今は無機化学の環境も変わったのでしょうか。 A.そうですね。いままではガラスの持つ機能をフルに利用しようという研究はあまりされなかったのですが、今は情報化社会に欠かせない光ファイバーをはじめ多くの新素材が創出されています。SiO2を始めとして地球に多く存在している有望な材料としても見直されています。ガラスの研究は日本が進んでいます。24ヶ国の代表が集まっている国際ガラス委員会というものがあり、現在私が日本の代表を務めているのですが、ここでもガラス産業では日本がトップを走っているという認識で一致しています。
A.京大桂キャンパスのまわりにJST研究成果活用プラザ、中小企業基盤整備機構の京大桂ベンチャープラザ北館・南館があり、いろいろな大・中小・ベンチャー企業が集まっています。ここで異業種が集まりにぎやかに研究をやっています。またNEDOが京大キャンパス内に特別講座を作ってくれまして、産学連携のいろいろなコーディネートをしてくれています。チームで動き、企業と大学の架け橋となる研究室ユニットです。ここで一般の方にセミナーを開いたり、中小企業にナノテク技術を教えたりしています。先日、その講座のスタートアップセミナーをしたのですが、300人以上が集まってびっくりしました。皆こういうセミナーを望んでいるんですね。 私はこれらの仕組みは人間の脳と同じだと思っています。脳にはニューロンがあり、活性化すると輝き、樹状突起として伸び、シナプスになって記憶となる。つまり、このように活性化したニューロンのようなベンチャー企業同士を三次元ネットワーク形成したクラスター内でつなぎ、1+1が5になるような仕組みが必要かと思っています。資金力のないベンチャーには資金が必要です。大学の高度な装置、大学の知も使っていただきたいです。また、学生にとってもベンチャーを間近で見るいい機会になりますしね。 これまでのプロジェクトはプロジェクトだけで閉じられていました。あるプロジェクトが終わると研究者はそれぞれの企業に戻って引き続き研究をやるわけですが、そうするとその後再びみんなが集まる機会が少ないのです。しかも最初に決められた範囲でしか研究はやれない、派生したものはやってはいけないという課題もあったのです。しかし、派生したものが結合するところに面白い創造的なものがあり、個人と個人の新しい結合も有効であります。こういう結合をNEDOプロジェクトのそばに作ると、それを活用してイノベーションを起こそうとする人が出てくるわけです。 私が1993年にERATOプロジェクトをはじめたときの一番最初の言葉は、「共に咲く喜び」です。当時は「何をそんな乙女チックなことを」、という声もあったのですが(笑)。プロジェクトでは志のある企業同士がモラルをもって近づき、一緒に咲けばいいじゃないか、という意味です。日本のいいところはハーモニー、和ですよね。これがないとベンチャーも育たないと思います。 いままでは日本はキャッチアップでやってこれました。何かテーマがあり、それに向かって進めていけばよかったのですが、これからはトップランナーで走ることが期待されています。受身的な学生や企業ばかりでは困ります。それでは早晩、東アジア諸国にキャッチアップされます。 日本はこれに対抗するのではなく、ベンチャーで小さいなりにも高い技術力を保持し続けるシステムをつくらなければなりません。これを実現するには、アメリカのMITやスタンフォード大学と同じく、大学が地域と一体化して研究開発を一緒にやるようなシステムも必要です。京大桂地区はその実験モデルとなるには良い環境だと思います。移転したばかりで新しい試みを行えるし、研究できる建物もどんどん増えていますので。 ただこのような試みは緒についたばかりで、十分機能するにはある程度の時間がかかることは覚悟しなければいけません。プラズマディスプレイや液晶ディスプレイも事業化するには30年近くかかっています。MITでも特許収入を占めている大半は18年前等の古いものですよね。こういうものをずっと継続しなければならないと思います。 しかし、そうはいっても何か少しずつでも実用化を図っていかなければなりません。京大桂キャンパスでも、お蔭様で小さい部品など出はじめてきました。いい例が指輪サイズの紫外線センサーなどです。これも無線技術屋、半導体レーザー作製屋、回折格子理論屋、金型設計屋、それぞれの専門家が沢山集まるからできるわけです。 そう言えば、エジソンがフィラメントに京都岩清水八幡の竹を使ったというのは有名な話です。京大桂キャンパスもどんどん新しいものを出したいと思いますね。 Q.先生の将来の夢は何でしょうか? A.多くのベンチャー企業がナノテク・材料分野のモノづくりに興味をもってどんどん成長して行くことでしょうか。サイエンス面からは私たちがバックアップしていく、日本からみても海外からみても桂が拠点となってにぎやかな産学連携が実現できればいいと思っています。 Q.最後に、若い方へのメッセージをお願いします。 A.いまきっちり基礎を勉強しておけば、将来応用製品をつくる際に必ず非常に役立つということをわかっていただきたい。それから、地球を持続発展させるための環境にやさしい技術を発展させて欲しいです。それから小さくともキラリと光るようなナノテク製品も作っていただきたいと思います。 |
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