Interview file
(株) 半導体テクノロジーズ
渡辺久恒氏
東京大学・荒川泰彦氏
産業技術総合研究所
飯島澄男氏
信州大学・遠藤守信氏
神奈川科学技術アカデミー
藤嶋昭氏
京都大学・平尾一之氏
東京女子医科大学
岡野光夫氏
東北大学・江刺正喜氏
(株)日立製作所
外村彰氏
産業技術総合研究所
中西準子氏

Q.半導体産業の現状について、お聞かせいただけますでしょうか。

A.日本はエレクトロニクス大国だと言われています。具体的には何といってもモバイル大国、更に言えば携帯電話大国です。それから、光ファイバーが個人宅まで届いているブロードバンド大国。更には、デジタルテレビに代表される、様々なデジタル家電があふれるデジタルホーム大国。加えて、スーパーコンピュータ大国でもあります。かつて世界トップの処理能力だった地球シミュレータもありますし、2010年にペタプロップス級のスーパーコンピュータを作るプロジェクトも進行しています。そうそう、デジタルカーもありますね。これはカメラやアラームなど運転支援によるデジタル機器で運転を楽にするものです。あとエレクトロニクスの材料大国ですよね。日本はものすごく材料技術が進んでいます。

 日本は、今挙げた産業技術において、世界のけん引役ですが、それを可能にしている中身は全て半導体関連デバイスなのです。半導体は大国といわれる産業の要中の要です。90年代以降日本の産業的なシェアは落ちており、その理由として様々な事が言われていますが、これらの分野に関する技術力や競争力は決して負けているわけではありません。

Q.いま半導体の世界もナノの領域に入っていると言われていますが、これについてはいかがですか?

A.私は、この「エレクトロニクス大国」をそっくり、「ナノエレクトロニクス大国」にしていきたいと思っています。この想いは私だけではないはずです。

 例えば、シリコンテクノロジーは簡単に言えば半導体の寸法をどんどん小さくするようなテクノロジーなのですが、おおよそ100nm(0.1μm )のサイズ以下がナノの領域と言われています。ただ、ナノの領域に入ったからといってシリコンテクノロジーと過去の技術との関連が全くないわけではありません。

 ナノテクノロジーにはいくつかの特徴があります。サイズがナノレベルになると、自己組織化など、特有の性質や現象がみられるようになります。したがって、サイズに揺らぎがないなど従来のシリコンテクノロジーとは根本的に異なる技術が要求されます。特に自己組織化は、原子レベルで、一定の大きさで物質が形成される独特の現象です。このようにして物質をつくる手法を「ボトムアップテクノロジー」と言いますが、大きな物質を切って削って小さい半導体をつくる、従来の「トップダウンテクノロジー」とは観点が全く異なり、準備する材料の量が節約できる省材料・省エネルギー的特長を本質的に保有している技術です。これが、ナノテクノロジーなのです。
 
 アメリカでは2000年、クリントン大統領が国家を挙げてナノテクノロジーをやるべきであるという政策を打ち出しました。この刺激を与えたきっかけが、日本の「アトムテクノロジープロジェクト」です。これは原子分子レベルの加工技術により半導体や材料、製薬分野などの幅広い分野に貢献するという、強烈なプロジェクトでした。「日本は海外の基礎研究にただ乗りしている」というかつての批判を受け、国をあげて基礎研究を推進するというプロジェクトでしたが、10年間に集中的に資金が投入され、ノーベル賞級の成果も生まれました。

 日本を始めとするこういった海外の動きに触発されたアメリカは、クリントン大統領のもと国家ナノテクノロジー・イニシアティブを立ち上げ、ナノテクノロジーの本格的な推進を決めました。アメリカの凄いところは、いったん「こうする」と決めると、トップが全ての省庁を動員して推進するところです。半導体は勿論、薬や生物や有機化学、そういったものを全てナノテクノロジーで発展させていこうということになったのです。

 半導体の世界では「ムーアの法則」という有名な法則があります。これはインテル社のムーア氏が半導体の集積度の過去のトレンドをみて今後の動向を1965年に予言したもので、「チップの中にのっているトランジスタの数は、約2年で2倍に増え続ける」という予測です。確かに、それ以来驚くべきことにほぼこのペースで微細化技術が発展しております。

 近年はこの法則をさらに促進させる標語として「モア・ムーア」が謳われています。半導体の微細化を加工精度で30nm,20nm,10nmと進め、その上で音声処理、画像処理、何でもチップで実現しようという技術開発です。私の会社では、ナノテクノロジーによってこの「モア・ムーア」を実現しようとしています。

Q.具体的にはどのような技術なのですか。

A.例えばチップ内の配線材にカーボンナノチューブを採用する技術があります。一本が数ナノメートルのナノチューブを数百本束ねてワイヤーをつくり、そこに電流を流す技術です。現在は先端の配線材料として銅を用いていますが、ナノレベルの細さでは大きな電流に耐えられません。細いところに電流を流すのですからものすごい電流の密度となるからです。指の太さに換算すると1000万アンペアもの電流になります。指一本に電子レンジ10万台分ですよ。これには銅では耐えられない。そこでカーボンナノチューブをとりあげました。カーボンナノチューブの何がいいかというとそれ自体が非常に丈夫。あと配線を作る時に自己組織化という現象によって、太さを一定に揃えながら成長するので、後から加工することも不要になります。そういうものにどんどん切り替えていこうというのが、ナノエレクトロニクスを用いた半導体なのです。

Q.カーボンナノチューブは量産化が難しいというお話がありますが?

A.量産というと、何トンというレベルを想像するかと思うのですが、半導体の場合はICの中の、そのほんの一部である配線に必要なわけですから、このレベルでの量産は充分可能だと思います。さらに、半導体にカーボンナノチューブを利用する場合、どこかでそれを生産して持ってくるのではなく、半導体をつくる場所での生産も可能です。釣りざおとか航空機の構造材に用いる場合は何トンも必要でしょうが、半導体は別です。今半導体の世界で重要なのは、上手に制御して狙った所に狙ったものを作ることです。この技術はまだまだ開発中ではありますが、ナノテクノロジーのおかげで相当進んできています。

Q.今や半導体の世界は、ナノの世界に入る目前なのでしょうか。

A.目前だと思います。定義によっては既に入っています。ただし、テクノロジーの範疇から見れば、まだ9割は従来のシリコンテクノロジーの世界で、ナノテクノロジーはまだこれからというところです。

Q.半導体の歴史をひもとくと、かつて圧倒的に強かったアメリカ企業に対し、80年代から日本企業が競争力を付け、急速にシェアを拡大しました。その後90年代に入り、日本の半導体産業は弱くなったと言われています。この点をどうお考えですか。

 A.80年代の日本のシェア拡大は、人によって見方が異なるかと思いますが、私は日本が半導体の事業化、特に集積回路の製品化の取組をいちはやく始めたことが大きいと思っています。まず3本足のトランジスタからはじまり、それを沢山並べて集積回路をつくり、さらに、シリコンの中にトランジスタを作り、その中で配線まで作ってしまい、大きな回路にして家庭電気製品やコンピュータあるいは通信システムに使う、という取組です。この取組を世界的に事業化したのは日本が一番早かったのではないでしょうか。

 それから、信頼性と品質。昔の半導体は雷や大きな電源変動などですぐに壊れて、信頼性がほとんどなかったものです。日本の企業はこれをどんどん改善し、信頼性と品質が向上した。半導体を利用する製品のなかでも、信頼性に一番厳しかったのは軍事用、宇宙用、自動車用などのデジタルアプリケーションですが、この分野では日本製の半導体を採用せざるを得なかったという過去がありました。

 90年代の弱体化についてもいろいろな議論がありますが、原因の一つとして、あまりに日本のがシェアが高く影響が大きすぎる状況になってきてを上げすぎてしまい、注目もされたが非難もされやすくなってしまったということが挙げられます。実際にシェアをあげたのはDRAMが中心で、半導体全てではなかったのですが。アメリカから見れば、「半導体はアメリカ生まれなのに、日本はその成果にただ乗りをした」と捉えられたのではないかということです。そこで、どうしても意図的にシェアを下げざるを得なくなりました。

 さらに、近年のアジア諸国、特に韓国や台湾の台頭も大きな原因です。韓国は「半導体で立国する」として国を挙げて半導体産業を盛り上げていますし、台湾も優遇税制などで支援しています。さらには日本からこれらの国々に技術者がたくさん流出し、これに伴って日本の技術もどんどん流出してしまったのです。しかし、当時は国内のリストラによる整理がかなり激しくしょうがないことだと思われ、その昔アメリカも遅れていた日本にいろいろ技術を教えてくれたのだから、今回は日本が教える番なのだという評論も流行ったものです。

Q.半導体産業を支える次の世代の育成も大事だと思うのですが、今、電気系の学科はいまひとつ人気がないと聞きます。学生にこの世界の面白いところをアピールするならば、どのような点が挙げられるでしょうか。

A.現在のテクノロジーが既に非常に高度であり、ブレークスルーもなかなか起こせない時代にあって、若い世代に対しては、「いよいよナノの時代が来たぞ」と夢を与えてきました。ところが、今の若い世代にとっては、難しい、壁があるということに対していいイメージがない。「こんな壁にぶつかります。それをブレークスルーするのはあなたです」といっても、「えっ、そんなに難しいの?」となるわけです。では、ブレークスルーに成功した人はその後どんないいことがあるのと聞いても教えてくれない。ブレークスルーとかイノベーションとかキラキラしたことをいってもピンと来ない。最近は、そういうことを言うよりも、この世界の面白さを伝えるべきであると反省しています。ここでの面白さというのは、例えば思うように動かせないものを自分のちょっとしたアイデアで解決するようなことです。この面白さはとにかく“触る”ことのなかにある。そこで最近、とにかく若い世代に現場を見学してもらい、インターンシップに来てもらうことを始めました。

 さらに、ナノエレクトロニクス時代を引っ張るスターを育てたいと思っています。ゴルフで言えば藍ちゃんみたいな存在で、そういう人がいれば、たくさんの人にとって魅力のある世界になるわけです。幹部でありリーダーである、文字通り世界で戦う人が必要だと思っています。こういう人が10人もいれば、雰囲気は随分変わると思っています。

 このような人材を育てる際のルールは、『ナショナリティが日本である』ということだけです。DNA的に日本人であるのではなく、国籍が日本であれば、世界のどこの出身でも構わない。こうやって世界で活躍しているキラキラした30〜40歳代くらいの日本人が出ればいいと思っています。

Q.確かに、大成されている50代、60代の方は、若い人から見てすごい人たちではあっても、身近には感じないかも知れませんね。

A.大成された方が講演などで、大きな壁を乗り越えた話をしても、若い人にはピンときていないように思えます。しかし、こういう方の業績を理解することも大事です。

 私がかつて別の企業にいた頃、こういった偉業を成し遂げた先生のその“偉さ”をいかに身近に感じるかという方法を若い人に教えていました。どのような方法かというと、とにかくその先生が書いた論文を全部読む。当然難しいのですが、100本の論文があれば100本読む。特に、イントロダクションの部分が大事です。論文は最初に、自分の研究は何のためにやっているかって書いてある。ここのところは難しくないし、何度も読んでいるとこの人は何がやりたいかがわかる。さらに、余裕があればその人の書いた特許を読む。特許の数はそれほどないはずです。すると、その技術がどこに応用するのかが書いてある。この二つを読めばその人の考えている価値観がわかってきて、すごく身近になります。大先生であることには変わりないが人間の側面を見るとその人が分かった気がしてくるわけです。若い人には、その身近さを見て「自分もなれるかも知れない」と思ってほしいですね。

Q.いまはIT業界などで、若くて収入が高く華やいでいる人が注目されていますよね。

A.私がIT業界のスターに関してよく話すことがあります。日本のIT業界のトップで活躍している人を見ていると、お金を右から左に動かしているだけのように見えます。ところがこの人たちは、実は自分で必死に考え抜いた技術を持っていてその特許もとっている人が結構多いのです。実は皆さんもしっかり技術というものを磨いてこられて、その技術でもって自分の会社は食べていくのだという想いが必ずあるわけです。皆さん若いころから「これはどうなっているのか」「これで儲けるには」と考えて一生懸命勉強し、特許を書いている。技術にこだわって一仕事しようという文化は一見人の金を動かしているだけのように見える人たちにもちゃんとあるわけです。これは半導体の世界と同じですよね。

Q.最後に、日本の将来において半導体が担う役割をお聞かせいただけますでしょうか。

A. 半導体が実現させる大きな夢としては、ロボットが挙げられると思います。私は、将来家族の半分はロボットになるのではないかと思っています。家族の半分がロボットと聞くと何か暗いイメージがありますが、今の携帯電話と同じです。携帯電話のように、3人家族なら1人1台、3人持っていて3台あるようになる。そのロボットにいろいろさせて生活になくてはならないものになる。それは、小さな半導体なくしてはできない。大きなロボットじゃ、いやじゃないですか、怖くて(笑)。

ロボットに担ってもらいたい役割として大きなものが3つあります。まずは家事。家事をロボットに代わってもらう要望は大きいですよね。それから2番目は介護。介護をロボットに担ってもらうと、人間の尊厳を保つことができます。3番目はエンターテイメント。楽しく暮らすためのパートナーです。また、人間がロボットを利用する上で一番の問題は「飽きる」ということだと思います。人間同士、例えば夫婦同士で喧嘩してもお互いに長続きするというのは、人間というものに意外性があるからだと思います。まあ、夫婦の場合でも飽きてしまうことはあるかも知れませんが(笑)。ロボットには、この人間の意外性というものがまだありません。半導体をもっと発展させることで、こういったロボットも実現可能になると思います。

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