序  現代社会において人類の活動に伴う物質循環が各所に与える影響は顕著である。我が国では1980 年 代までは高度成長を優先させていたが、1990 年代に入り地球環境への負荷低減が社会あるいは企業活 動の中でも重視されるようになり、21 世紀を迎えた現在は資源の投入、廃棄物等の排出を極小化する 生産システムの導入、資源の有効利用と廃棄物等の発生抑制を行いつつ資源循環を図る循環型社会を実 現することが求められている。  具体的には我が国経済社会の持続可能な発展のために、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、 リサイクル(Recycle)の3R を実現し、かつ廃棄物の適正処分や自然循環機能の活用等を図ることに より、天然資源の消費が抑制され、環境負荷が可能な限り低減される循環型社会の構築を図ることが必 要となってくる。3R にかかわる技術開発は、環境負荷低減のためのコスト負担の削減や生産効率の向 上並びに適正なエネルギー消費等を通じて、産業や企業の競争力を強化すると考えられる。それゆえ、 3R で新たな技術シーズを創出することは、我が国の循環型社会構築に貢献するのみならず、世界経済 における我が国産業の競争力の強化にも貢献するものと期待される。  循環型社会の構築のためには、個々の技術を相互に連携させるシステム化技術が重要である。このた め、地域スケールに応じた適切な資源循環の環が確立するよう、地域における産業構成及び生活様式へ の資源循環システムの適合性を高めていくことが必要である。また、製品の多くは海外で生産されてい ることから、国内だけの取り組みでは不十分であり、海外との連携が必要とされる。不適正処理や不法 投棄の多発・悪質化は未だとどまらず、汚染土壌や不適正処分場など負の遺産の蓄積や保安管理不履行 による事故災害の発生が起こっている。より安全で、より安心感を得るための適正処理技術の開発利用、 処分場の延命化や再生、不法投棄現場環境の修復および安全性研究が急務となっている。  この状況の中で政府は、2003 年3 月に「循環型社会形成推進基本計画」を閣議決定し、2010 年度ま でに「1 人1 日あたりごみ排出量の20 %削減」、「循環型社会ビジネスの市場・雇用規模の倍増」等を 達成することを取り組み目標とした。このように最終的に到達すべき目標値ははっきり定められたが、 そこへ向かう個々のプラクティスについては多面的な部分があり、現状ではそれらが全体として1 つの シナリオとしてまとまっていない。従って、これを実現化するための理念、ビジョンを明確にした包括 的シナリオをつくっていく必要がある。  2001 年1 月に発足した総合科学技術会議は、科学技術基本計画(2001 年3 月閣議決定)を踏まえ、 科学技術における重点分野の推進戦略を定めた。その中で、「環境分野における重点課題については、 各省により取り組まれている個別研究を整合的に集成・再構築し、政府全体としての政策目標とその達 成に至る道筋を設定したシナリオ主導型の『イニシャティブ』で推進すべきである」としている。これ を受けて、「ゴミゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブ」が2002 年度より開始された。ここでは、 資源消費とゴミ発生が少なく、しかも環境負荷を最小化するような物質循環・低環境負荷型の技術とシ ステムの開発を目標としている。  今般、関係者の参考に資するため、この分野の研究開発の現状や、対策・施策の状況を俯瞰的に把握 することを目的に、イニシャティブとして報告書をとりまとめた。本書は、その報告書の内容をベース に編集を加え、政策決定者、行政担当者、産業界を含め社会一般に発信することをねらいとして出版す るものである。これは、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究における産学官における取り組みを網羅した 出版物として初めての試みとなった。  本書が、循環型社会構築の意義を理解する一助となることを願っている。  本書をまとめるにあたり、内閣府総合科学技術会議の薬師寺泰蔵議員には、環境分野担当議員のお立 場から助言を頂いた。また、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブの各プログラムの世話人 である細田衛士氏(慶應義塾大学)、永田勝也氏(早稲田大学)、安井至氏(国連大学)、藤江幸一氏 (豊橋技術科学大学)には、第2 部の監修を頂いた。さらに、笹野泰弘参事官(当時)をはじめとする 総合科学技術会議事務局(環境推進グループ)には、本書の発行に至るまで多大なご努力を頂いた。 これらの方々には厚く感謝の意を表したい。  さらに、森口祐一氏(国立環境研究所)、大和田秀二氏(早稲田大学)、柚山義人氏(農業工学研究所) は編集委員会メンバーとして、企画編集にあたられた。特に森口祐一氏は、全体をとりまとめる事実上 の編集委員長の役割を果たされた。改めて御礼申し上げる。  最後に、巻末に記した執筆者の方々は、現在現場で携わる最新・最先端の技術内容について、一般読 者にも分かりやすくという要請に応えるべくご努力頂き、立派な原稿を執筆頂いた。心から感謝を捧げ たい。 2004 年8 月 秋元勇巳  ゴミゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブ 前座長(総合科学技術会議専門委員)