1-5 日本学術会議の取り組み 日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者 の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関である。科学 が文化国家の基礎であるとの理念のもとに、科学の向上発達を図り、行 政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的としており、 昭和24 年(1949 年)1 月に内閣総理大臣の所轄の下に「特別の機関」 として設置され、現在は、中央省庁再編に伴い総務省に置かれている。 日本学術会議は、全国約73 万人の科学者の代表として選出された210 人の会員により組織されている。 ゴミゼロ型・資源循環型技術研究イニシャティブに関連する第18 期 (2000 年7 月〜 2003 年7 月)日本学術会議の取り組みは、大きく2つ に分けられる。一つは、すべての学問領域から循環型社会をとらえるこ とを目的に運営委員会直属の形で設けられた「循環型社会特別委員会」 である。委員長は第6 部(農学)の熊澤喜久雄氏で、委員は人文社会学 系から理工学系、生物医学系の学問分野代表として従来学術会議に設置 されている7 つの部会の学術会議会員で構成されている。もう一つは、 リサイクル工学専門委員会である。日本学術会議第5 部(工学)「エネ ルギー・資源工学研究連絡委員会」内に設置された専門委員会であり、 主にリサイクルの面から資源循環型社会を検討することを目的としてい る。 ○循環型社会特別委員会 多くの学問分野の代表が議論を行うことができる学術会議の中にあっ て、循環型社会特別委員会は、社会技術の問題という側面からのみ循環 型社会をとらえることは行わず、人類の大きな課題として多少長期的視 野の中でとらえることを目的として活動を行った。その成果は、「第18 期日本学術会議循環型社会特別委員会報告書」※ 13 として学術会議から 出版されている。ここでは、その基本的な姿勢を示すものとして目次と 最後の提案を記す。 ○リサイクル工学専門委員会 「リサイクル工学専門委員会」は、第17 期(1998 〜 2000 年)に誕生 した新しい組織であり、リサイクル工学の立場を明らかにして、持続可 能な循環型社会構築に資するシステム作りを行うとともに、その基礎と なるリサイクル工学教育の指針を示すことを目標として活動を行ってい る。 リサイクル工学は学問や領域としてまだ十分な熟成を見ていないが、 循環型社会形成の必要性が指摘されている今日、その実現のための大き な柱の一つとして重要性が高まっている。ただ、社会のリサイクルに対 する考え方は未だ定まっておらず、リサイクル工学の立場(定義)を明 らかにすることが肝要である。 第17 ・18 期での議論を通じて「リサイクル工学」の定義を以下のよ うに策定した。 「リサイクル工学」とは、「生産、流通、消費の過程注1)にあるマテリ アルを、経済・エネルギー・環境負荷の上から注2)合理的に循環利用す る工学注3)」である。 これにより地球環境問題の解決に向けて循環型社会構築に資するリサ イクル工学の立場として、これからのリサイクルは、物質の自然循環と 人工循環の調和を図り、廃棄物の発生抑制、エネルギー・資源の高度利 用を促進する必要があることが強調されることになった。この定義付け は、リサイクルを含めた3R が単に“ゴミゼロ”の世界を実現するだけ ではなく、持続可能な発展を行うための循環型社会を実現するための手 段となることを明確にしたものである。 本委員会の最大の活動は、第5 部(工学)に関連ある各学協会の協力 を得て行うリサイクル工学シンポジウムの開催で、そのシンポジウムを 行う過程での議論でリサイクル工学の内容の深化を図っている。現在ま でに開催したシンポジウムは2 回で、第1 回は2000 年6 月27、28 日に、 「分野間交流とリサイクル工学の発展を目指して」との副題のもと、13 の学協会からリサイクル活動の現状と課題について講演が行われ、その 後、リサイクル工学・環境工学・環境経済学・法律学等の立場から循環 型社会に対する今後の課題抽出のための総合討論を行った。各学協会は それぞれに循環型社会構築への取り組みを実施しているが、その根本理 念・方針には大きな相違も認められ、今後も各分野間の整合を図る試み の必要性が再確認された。これを受けて、第2 回目は2002 年8 月6、7 日に、「循環型社会のグランドデザイン」との副題にて開催され、特に 先進的な取り組みを行っている10 の学協会からの講演と総合討論が行 われた。主な論点は以下のとおりである。(1)資源の大量輸入国としての 日本の責務、(2)リサイクルのビジネス化のための環境と経済の統合化さ れたシステム構築、(3) 3R を前提とした産業活動、(4)技術開発推進とラ イフスタイル転換、(5)人工循環系と自然循環系の調和、(6)グローバル経 済と地域経済の融合、(7)リース・レンタル等製品販売システムの転換、 (8)廃掃法とリサイクル(再資源化と適正処分)、(9)バイオマス資源の有 効利用、(10)環境影響評価法への期待、(11)静脈産業への英知結集 2004 年度は、第3 回リサイクル工学シンポジウムとして、リサイク ル工学教育のあり方をテーマにする予定である。リサイクルを含めて環 境問題の解決には、単なる規制等の強化でなく、むしろそれらを積極的 に受け入れる土壌の育成、すなわち個々の人間の意識レベルの向上が不 可欠であり、そのためには生涯にわたる環境教育システムの確立が急務 であると考えている。 本専門委員会の現状での提言をまとめれば、次のとおりである。 なお、日本学術会議における循環型社会構築に関する活動は、紹介し た2 つの委員会のみでなく、多くの部、研究連絡委員会で行われている。 特に第5 部(工学)はその性格上、具体的な提言をいくつかの研究連絡 委員会で行っている。総じて日本学術会議では、環境問題全体を大きく とらえる努力がなされ、議論が進められている。