コラム:循環複合体研究の成果 「社会実験地での循環複合体の構築と環境調和型技術の開発」は、科 学技術振興事業団(JST、現科学技術振興機構)の戦略的基礎研究 CREST のプログラムによって採択、実行された研究プロジェクトであ る。現在の循環型社会形成の枠組みが整う以前に、製品連鎖に沿ってリ ユースを含む製品のエコデザインを追及し、ゼロエミッションを地域の 複数事業所の連携により達成する枠組みを示すとともに、都市、工場、 農村などで先進的な社会実験をおこなって、いわゆる環境効率で達成度 を評価している。研究は3 つのサイト類型(工場、農村、都市)での研 究と、評価ならびに計画論とにわけられる。 工場を対象とする製品連鎖マネジメントでは、使用済みの産業機械製 品の解体、分離の実証から、DfD ※ 27 が生産工程の効率化につながり、 軽量化とインバータ化が廃棄物と二酸化炭素のライフサイクル負荷を減 少し、他方で、メンテナンス・サービスが寿命を延ばし、環境効率と経 済効率のいずれをも改善することを示している。また、代表的な製品で あるポンプの都市複合施設での設置・運転、管理により30%ものライフ サイクル負荷の削減が可能なことを示している。加えて、産業連関分析 を用いて、あるいは簡易な一般均衡モデルを用いて、修理やメンテナン スを重視する産業構成で、他産業への経済波及効果が大きいことを見出 し、環境事業の産業化へのプラス効果をあきらかにしている。 * 工場のメタボリズム・マネジメントでは、物質フロー分析※ 28 を工場 およびその地域について実施し、工場内の資源化施設で熱エネルギーを 回収して、ガーデン化した敷地内に立地した住宅で利用すると、それぞ れが個別に孤立して展開されたときより25%程度の二酸化炭素の減少が ライフサイクルで得られることが判明している。また、有機資源の直接 燃焼よりもガス化のもとでの管理された資源回収や燃料電池による高度 利用形態の効果が大きいことの見通しを示した。 農業と食品流通をつなぎ合わせて、製品の連鎖で環境管理をするテー マとして、製造と流通の過程で発生する有機廃棄物の飼料化、肥料化、 エネルギー回収等をおこなう代替的施策を実施するとして、そのトータ ルの環境負荷を算定して、環境効率によってそれぞれの案を比較した。 その結果、二酸化炭素量では、後にバイオマス・ニッポン総合戦略が示 したように対象範囲を広げたエネルギー回収型が有利であり、他方で、 高い支払い容認価格を示す食の安心・安全等の質にこだわれば、出所の 明らかな飼料化・堆肥化が優れている。他方で、廃棄物処分量の減少、 すなわち、プロセス減量化の効果で見ると焼却がコスト面でも効率面で も優れていることが再確認されている。 * メタボリズムを管理する類型として、単独の食品工場および食品工場 群で残渣の資源化とゼロエミッションを進めるケースと堆肥化施設の周 辺で堆肥を還元する農地を含めて物質流動をクローズするケースを検討 し、多くの場合、装置規模にふさわしい地域共同化、もしくは系列事業 所からの輸送による集中処理が資源再生のパフォーマンスをあげること をあきらかにした。同時に、共同排水処理場や共同熱供給などの技術開 発時期に応じた最適化(製材廃材の燃料投入を含めて)をはかった食品 コンビナートでは、その減価償却が済んでいない場合には、(with-without) の比較から初期の改善効果が投下追加費用に対して小さくなり、 新たな資源化施策が選好されない傾向が評価結果からもうかがわれた。 この事情は食品リサイクル法の施行やバイオマス・ニッポン総合戦略の ビジョンの策定を経てかなり変化しているので、2004 年には再度、高 次の資源・エネルギー回収(食品工場のメタン醗酵と回収熱利用、ある いは食品コンビナートの共通ユーティリティの見直し)が試みられるこ とになっており、これらの推移から施策のダイナミクスを見極めること の重要性が読み取れる。 * 都市のメタボリズムや製品連鎖の研究対象としたのは建築・建設物で 54 ある。建設物のストック量の増加はメンテナンスの重要性を高める。一 方、装置的サービスの高度化に伴い、その基数(床面積)当たりのエネ ルギー消費を増大させる。都市の街区単位、あるいは地区単位、さらに 都市単位で資材量を推定し、交通発着量を推定し、構造物のライフサイ クルで負荷量を推定した。3 つの主要な負荷発生のカテゴリーを特定し、 その量的水準を明らかにしている。第一は内部でのエネルギーの直接利 用と外部の発電による内部での消費であり、第二は床面積を指標として 構造物(実態は活動)が外部に誘発する自動車交通等による負荷であり、 以上の二つは二酸化炭素排出量を負荷の指標とするときに顕著である。 第三は構造物の建設のための資材の調達と建設活動時の負荷であり、埋 め立て量を指標にとるときに相対的にウェイトが高い。 ライフサイクルで見ながら、同時に都市のメタボリズムとして収支を とりつつ、負荷削減の施策の効果を検討すると、資材消費量あるいは廃 棄物埋め立て量では、いわゆる再資源化のゼロエミッション工法を建 設・解体時に実行するとともに、延命化・長寿命化、スケルトンインフ ィル工法を促進することが有効であり、それらを通して環境効率が高ま ることを示している。 * 建築構造物と都市活動に着眼すれば、そこからマクロに都市全体のマ テリアルフローの推定に向かって、いわゆるエコロジカル・リュックサ ックやエコスペースを算定して、その外部依存を浮き彫りにするのもひ とつのアプローチである。もうひとつは逆にミクロに向かい、もっとも 件数の多い住宅等を対象に工業化住宅の工場生産と逆流通のなかに再資 源化(リサイクルとリユース)を組み入れることが施策となる。これら の検討はプロジェクトでは調査研究で終わっていたが、後者の提案は、 2004 年の現在では、大手住宅メーカー2 社が持ち帰り、ゼロエミッシ ョンとあわせてビジネスとして提案し、実現されている。 最後に、地域に循環複合体を構築してゆく手順を示そうという野心的 な試みがなされ、概念的ではあるが、未利用資源の特定、パートナーと なる業種・業態の特定、転換技術の探索、物質フローの変化の推定、ラ イフサイクルでの負荷の増減の定性的・定量的チェック、などの手順を 通して、資源化の重点対象となる未利用資源(循環社会形成推進基本計 画では循環資源として類型が明確化)とコア技術を検討してゆく過程を 示している。この適用は、本来ならば、このプロジェクトの深い関係を 持つ地域での実例を対象になされるべきであったが、研究期間中にはな されず、各地のエコタウン事業において中核的な循環複合施設が計画・ 建設されて初めて、それが可能となっている。特に、複合中核(北九州 市)や廃タイヤガス化(ひょうご)、廃プラのケミカルリサイクル(川 崎市)などの基幹的な物質転換がなされた地域で、関連する資源や技術 を選択する過程を説明しうる実例を提供している。循環形成にいくつか の代替案があるとき、その望ましさを判定するには環境効率がもっとも 適切であるとして、その他の指標をあわせて、評価をおこなうプロセス を示している。 【代表的な成果】 ・盛岡通,2001 :「社会実験地での循環複合体の構築と環境調和型技 術の開発」報告書6 分冊,CD − ROM. ・盛岡通編著,1998 :「産業社会は廃棄物ゼロを目指す」,森北出版. ・Morioka, T., Noboru Yoshida, and Y. Yamamoto, 2003 : Cycle-closing product chain management with appropriate production site metabolism toward zero-emission in an industrial machinery corporation, Clean Techn. Environ. Policy, vol.6, p.7-17.