2-3 循環型設計・生産プログラム 2-3-1 エコデザインと循環生産 ○エコデザインとは エコデザインとは、狭義には製品や建物などの人工物を環境調和的に 設計することを言い、環境適合設計、環境調和型設計、Design for Environment(DfE)、ライフサイクル設計などとも呼ばれている。広 義には、これらを含み、人工物が環境調和的に循環するように社会シス テム、経済システム、社会インフラ、交通システムなどを含めて設計し てゆこうという目標を表している。ここでは、3R 実現のための人工物 の設計という視点からエコデザインを見ていく。 3R 実現のために設計が重要な理由は、人工物は生物と違って成長し ないため、その寿命やリサイクルのし易さが設計の時点であらかた決ま ってしまうからである。リサイクルを想定しない製品をリサイクルしよ うとしても、分解が大変だったり、リサイクルに適さない材料が使用さ れていたりすると、余分なコストやエネルギーがかかり、リサイクル率 も低くなってしまう。 これまで世の中で実践されてきたエコデザインは、有害物質の不使 用・削減、省エネルギー、リサイクル(マテリアルリサイクル、ケミカ ルリサイクル、エネルギーリカバリー)を指向したものが多く、リサイ クルに関して言えば、分解しやすい設計、リサイクル容易な材料選択、 素材のラベリングなどが中心となっており、「リサイクル性設計」とも 呼ばれている。これは、家電リサイクル法などの法規制の影響もあり、 それまでリサイクル性が全く考慮されてこなかった製品に対しては大き な効果をもたらした。例えばペットボトルにしても、ボトル側面にラベ ルを直接印刷することがなくなり、着色ボトルがなくなり、賞味期限等 のスタンプもキャップ部に押されるようになってきた。しかし、多くの 工業製品において実現されているのは3R のうちのリサイクル、それも 閉ループリサイクルではなく、カスケードリサイクルであり、3R 実現 のためには多くの設計・生産技術上の課題が残されている。 Brezet ら(2000)は、環境調和型設計の四段階のモデルを提唱して いる。そこでは、資源投入量あたりのサービス量(性能、付加価値)で 測られる資源生産性を、第一段階で2 倍、第二段階で5 倍、第三段階で 10 倍、第4 段階で20 倍に向上することを目標としている。 < 第一段階> Product Improvement 汚染物質や環境配慮の観点からの改善 < 第二段階> Product Redesign 部品の変更、無毒性物質の使用、リサイクル率を高め分解性を改善す る、部品の再利用、ライフサイクルでのエネルギー使用量の最小化  < 第三段階> Function Innovation 製品機能の発現のさせ方の変更、紙による情報交換からE-mail への 変更、車の私用から“call a car”などのシステムへの変更 < 第四段階> System Innovation インフラ、組織の変更、情報技術に基づいた組織、輸送、労働におけ る変更など このうち、実践されているリサイクル性設計は、第一段階、および、 第二段階の前半に対応している。一般にエコデザインは、第一段階から 第四段階の全てを対象としているが、第四段階はその設計方法論が明ら かでない点も多く今後の課題である。ここでは、3R の実現のために重 要な第二段階、および、第三段階を中心にエコデザインの技術、研究動 向を見ていく。なお、この部分のエコデザインをここでは「ライフサイ クル設計」(日本学術会議(2000))と呼ぶことにする(図2-11)。 従来のリサイクル性設計が、「リサイクル」のみを対象として、結果 的に大量生産と大量リサイクルを導きかねないのに対し、ライフサイク ル設計は以下をその考え方の基礎としている。 ●ライフサイクル思考:ライフサイクル全体を設計対象として考えるこ と。これにより、製品の特性に合わせた適切な3R の組合せによる循 環を実現する。ライフサイクル思考の重要性はエコデザインの様々な 研究で強調されている。 ●循環を前提とした、もしくは、物質を極力使用しないサービス提供手 段を検討し、価値向上を目指して製品の在り方を変革すること。欧州 を中心に「Sustainable Services & Systems(3S)」という概念が提唱 されている(Brezet ら(2001)、Oksana(2000)、Whilte ら(1999))。 また、我が国においても「ポスト大量生産パラダイム」という概念が 提唱されている(Tomiyama(1997))。さらに、この文脈でIT 化と 環境負荷削減の関係が議論されている(例えば、松本ら(2002))。 以上、従来の製品設計、従来のリサイクル性設計、および、ライフサ イクル設計の特徴を比較すると表2-4 のようになる。 ○ライフサイクル設計に求められるもの 以上に述べたように、ライフサイクル設計とは、製品の販売だけでな いサービス提供と安定した循環を実現することであり、いわば、現状で は個別の行動原理で実施されている製品設計、製造、使用、リサイクル、 廃棄などの個々のプロセスを有機的に結合し、製品ライフサイクル全体 をシステム化する計画図を作成することに相当する。従来の設計と比較 した場合のライフサイクル設計の課題は、次の4 項目に整理できる(木 村(2004))。 1)ビジネス戦略の策定:製品販売のみによらないサービス提供手段、 別の言い方をすれば利益獲得の手段 2)ライフサイクル戦略の策定:製品の出荷のみならず、製品の回収、 リユース、リサイクル品の使用先の確保といった、ライフサイクル 全体を通した、モノの流れの設計と管理 3)時間の設計:寿命、販売期間、回収期間といった長い時間尺度での 製品の設計 4)要素設計技術の適用:分解性、有害性など多様な視点からの設計と その統合化 以下では、それぞれについて研究の現状の一部として、自動車、パソ コン、OA 機器などの組立型製品を中心に紹介する。 1 ビジネス戦略の策定 ビジネス戦略の策定は、前述したようにライフサイクル設計の一つの 鍵を握っているが、上に述べたような種々のコンセプトや考え方は提唱 されているものの、具体的な方法論に関する研究は未だ充分ではなく、 今後さらなる研究が必要な課題である。 2 ライフサイクル戦略 ライフサイクル戦略の策定は、3R を指向した設計を行う際に核とな る設計課題である。いくらリユース性を高める設計を行ってもその製品 がリユースするルートに乗らなければ何の意味も無いし、分解性を高め る設計を行う場合にもそれがリサイクルのための分解なのか、メンテナ ンス(修理)のためか、リユースのためかで必要な分解性が異なってく る。つまり、分解性設計や材料選択を行う前に、製品やそのライフサイ クルに適した循環方法(「ライフサイクル・オプション」と呼ばれる。 リデュース、メンテナンス、アップグレード、製品リユース(リマニュ ファクチャリング)、部品リユース、マテリアルリサイクルなどを含む) を適切に設計しようというものである。例えば、ライフサイクル・オプ ション選択の考え方として、表2-5、表2-6 に示すような考え方が提唱 されている(木村(2004))。 表2-5 では、製品が捨てられる理由を、製品が故障、劣化し動作しな くなるために捨てられる「物理寿命」と、動作していても新製品と比べ て外観、容量・サイズ、機能・性能が劣るために捨てられてしまう「価 値寿命」に分類している。パソコン、プリンタなど技術進歩の速い製品 など、現代の我が国の製品は物理寿命よりも価値寿命で捨てられること が多く、その意味で「リデュース」や「アップグレード」が大きな意義 を持っている。しかし、これらの設計方法論は未開拓であり、今後の発 展が期待される。一方、製品にはその部品の物理寿命や価値寿命が直接 廃棄に結びつくもの(例えば、パソコンにおけるCPU)とそうでない もの(例えば、複写機におけるフレーム)がある。表2-5 ではこれをク リティカルな部品、クリティカルでない部品と分類しており、「リユー ス」はクリティカルでない部品を主対象にするライフサイクル・オプシ ョンであるとしている。 このようなライフサイクル戦略の策定支援は、エコデザイン研究の一 つの主要課題となっている。例えば、製品の一生をシナリオとしてスケ ッチすることによってライフサイクル戦略を策定する方法(山際 (2002))、製品が廃棄される理由を「廃棄要因分析表」と呼ばれる表に より分析し、廃棄要因を軽減することにより循環を設計する方法(梅田 ら(2003))、この方法を拡張し、さまざまなチャートを用いて製品ライ フサイクルのプランを作成する手法(小林(2003))、さらには、設計で 良く用いられる品質機能展開(QFD : Quality Function Deployment) を用いて、環境調和性のための要件を洗い出す方法(増井ら(2000)) などが提案されている。 3 時間の設計 時間の設計は、まさに製品ライフサイクルの終わりまで製品、部品を 適切に使い尽くすための設計であり、従来から信頼性工学、メンテナン ス工学の分野でも、劣化や寿命の管理、予測技術が盛んに開発されてき た。また、例えば、部品のリユースを積極的に実施している複写機にお いては、モーターなどの機能部品に対して、設計時に部品の寿命を「ワ イブル分布」を用いて相当程度把握し、それに基づきリユースの可否の 決定を行っている(梅田(1998))。ただし、寿命や劣化は個々の素材、 部品に大きく依存して挙動が異なるため、その評価、予測手法は、セン シング技術を含めて分野別に開発されている傾向がある。また、技術開 発コスト、検査コストもかかるため製品コストが高く安全性に対する要 求が高い分野、例えば、航空機、原子力発電所、社会インフラなど、で 適用されていることが多く、一般の耐久消費財やOA 機器ではそれほど 活用されていない。この分野の展開も今後の重要な課題である。さらに、 これらは上に述べた「物理寿命」の評価、予測であり、「価値寿命」の 評価、予測は大きな課題として残っている(Yokoyama(2003)、 Daimon ら(2003))。 もう一つの大きな問題は、製品製造・販売期間と廃棄時期に依存する マテリアルバランスの問題である。例えば、部品をリユースして製品製 造に活用しようとしても、利用できるリユース部品の数量を把握しなけ れば生産計画がたてられないし、そもそもリユース部品が帰ってきたと きにその部品を使用できる製品を製造していなければ、製品組み込リユ ースは実施できない。この問題は、「限界リユース率」として定式化さ れており(梅田(2000))、また、産業界では例えば複写機においてリユ ース率を高めるための、多世代共通化設計やプラットフォーム設計が実 施され始めている(梅田(1998))。ここでの問題は2の問題とも関係す るが、ライフサイクル全体のものの流れやバランスを定量的に評価する 試みとして、経済性や環境負荷について3R の動的な循環をシミュレー ションしようとする試みも行われている(エコデザイン(2002))。 4 要素設計技術 製品循環を達成するためには、2で述べたライフサイクル戦略を適切 に策定した上で、その戦略を達成できるように製品を具体的に設計しな ければならない。このとき、分解性設計、リサイクル性設計など種々の 要素設計技術(Design for X とも呼ばれる)が必要となってくる。ライ フサイクル・オプションと適用すべき要素設計技術の視点を表2-7 に整 理した(木村(2004))。ここで、適用すべき要素設計技術は、構造設計 (材料設計以外の設計要素)と材料選択の基準に大きく分類される。構 造設計においては、製品のモジュール化と分解性設計が基盤となる要素 設計技術であると捉え、「モジュール化の視点」、「分解性設計の視点」、 および、「その他の視点」の三種類に整理した。 個別の要素設計技術の中では、分解性設計やリサイクルのための要素 設計技術は比較的研究、実践が進んでいる。より小さな効率の良い循環 を目指すためには、「リデュース設計」「アップグレード設計」「リユー ス設計」のさらなる発展が必要であろう。 ○建築のエコデザイン これまでは主に組立型製品のエコデザインの状況を述べてきたが、建 築分野においても建設リサイクル法などの影響もあり、エコデザインは 重要な課題となっている。例えば、寿命に応じて、躯体や床スラブなど の長寿命部分(スケルトン)と内装壁、内装床など比較的短寿命で使用 者のニーズの変化などにあわせて模様替えを行える部分(インフィル) を分けて設計する「スケルトン住宅」などの考え方も実践されている (安井ら(2002))。さらに、インフィル部分をリユースするための試み など建築物の持続可能性を追求した「サステナブル・ビルディング」と いうコンセプトが提案されている(野城(1999))。 ○循環生産という考え方 製品循環を駆動する、生産・逆生産に関する技術開発も重要な課題で ある。事業所などを単位としてゴミの排出量を大幅に削減する「ゼロエ ミッション」(カプラ・パウリ(1996))は相当程度浸透している。これ は、環境管理システムに代表されるような管理技術に負うところが大き い。また、逆生産工程においては使用済み製品の回収にかかわる部分 (これらは、「リバース・ロジスティックス」、「リバース・サプライチェ ーン」などと呼ばれている)のコストが大きな割合を占めており、この 物流システムの効率化も大きな課題である。この課題については、情報 システムの活用や複数企業間での共同回収など主として管理技術の開発 が行われている(木村(2004))。 生産・逆生産に直接かかわる部分については、種々の要素技術開発が 行われているが、例えば、各生産プロセスの環境負荷を削減する「エミ ッションフリー・マニュファクチャリング」というコンセプトが提唱さ れている(Hattori ら(2000))。逆生産工程においては、リサイクル工 程であれば精度が良く効率が高い素材選別プロセス技術の開発が最重要 課題であり、リユース工程であれば、リユース部品の洗浄、検査技術の 開発が重要である。また、両者に共通の課題として、手動、もしくは、 自動分解技術の高度化があげられる。これら要素技術の高度化はそれぞ れの企業において着実に進められているが、例えば、ドイツでは大規模 なプロジェクトも実施されており(Seliger ら(2002))、我が国でも21 世紀の基礎的な生産技術として技術的な蓄積を図る必要がある。 2-3-2 ゴミゼロを目指す材料選択・開発 ○材料のライフサイクルと3R ゴミをゼロにすることは、実質上かなり難しい。その手段は、といえ ば、いわゆる3R であろう。 一般に、3R の対象となるものは、製品もしくは材料である。製品が 3R に適した設計がなされるのであれば、材料も3R に適した選択もし くは、3R に特化した材料開発が行われるべきである。ここでは、この ような観点から、材料について、ゴミゼロに適した材料選択とは何かを 考察する。 言うまでもないが、すべての材料の製造は、地球からなんらかの資源 を採取することから始まる。地下資源が一般的であるが、木材などの再 生可能資源も含まれる。原料採取に続いて、製造・使用・リサイクル・ 廃棄といったライフステージが続く。 これらのライフステージと3R との関係であるが、2000 年の循環型社 会基本法に則り、リデュースをゴミ発生量の削減だと考えれば、原料採 取・製造・使用段階はそれほど大きな問題にはならない。しかし、本来 のリデュースは、2003 年の同基本計画が資源生産性の向上を第1のタ ーゲットとして定めたように、地球資源消費量の削減であると考えるべ きである。すなわち、いかに少量の資源で、経済的な効用だけは最大に することが可能か、という議論である。 しかし、資源生産性の議論を進めることは、ゴミゼロ型・資源循環型 技術研究イニシャティブの範囲にとどまらない内容を含む。ここでは、 リデュースはゴミの減量と同時に最終処分量の削減を意味すると考え、 リサイクル・廃棄段階を中心として考察することとする。 さて、ゴミ減量をどのような材料戦略で実現すべきだろうか。 1)リサイクルプロセスを阻害するような材料を使わない。あるいは、 リサイクルプロセスを阻害するような材料の組み合わせを行わない。 2)リサイクル時にオゾン層破壊効果、あるいは、地球温暖化効果が大 きい物質がでないように材料選択をする。 3)埋め立て処分量の減量のために有効な方法である焼却時に有害物質 がでないような材料を選択する。 4)焼却灰などは最終処分されることになるが、有害性などの理由で廃 棄が困難な元素類はできるだけ使用しない。 これらに加え、規制に対応するための代替物質・元素を選択する場合 には、次の条件を加えたい。 5)地球資源の持続可能性を考えると、枯渇性が高い元素・資源の使用 を制限する。 これらのうち、2)の対処は、ほぼ実現できていると言っても良いだ ろう。 ○材料選択の条件 1 何のリサイクルを何が妨げるのか リサイクルを行うとき、どの材料の活用を目指しているかによって、 考え方が異なってくる。例えば、携帯電話をリサイクルする目的は、多 くの場合、金を回収するためである。金の含有量は、ppm(100 万分の 1)オーダーに過ぎない。このように微量であっても、貴金属を回収目 的とする際には、妨害元素というものは存在しないと考えてよい。なぜ ならば、貴金属は価格が高く、かなり凝ったリサイクルプロセスも採用 が可能だからである。 しかし、自動車から鉄を回収しようとしたり、アルミ製品からアルミ を回収するという場合、すなわち、主成分である汎用材料を回収しよう とするときには、現時点では、コストが問題となる。手分解で時間を十 分掛けることが可能であれば、再生用のスクラップの純度は上がるが、 コストの制約によって適当なところで妥協せざるを得ない。 このような状況であれば、主成分別に、避けるべき元素あるいは物質 をできるだけ使わないような材料設計・材料選択をすべきだとうことに なる。そこで、表2-8 のリストを作成した。 具体的にどのようなケースを想定しているか、若干の説明を行いたい。 例えば、自動車からの鉄のスクラップを考えたとき、銅はどこから混じ るのか。最近、小型のモーターが多数使用されるようになった。パワー シート、パワーウィンドウなどであるが、パワーステアリングも電動の ものが増えてきた。これらのモーターのコイルは、通常銅製である。ア ルミ製で何も問題は無いが、コストを問題にするときには銅製が選択さ れる。アルミは、脱酸素材として使用されることもあり、多少の混入は 余り問題にならない。 アルミ缶の場合、以前の缶は、ベースコートと呼ばれる白色のチタン 顔料を含む塗料が使われていた。デザイン上の要請がその理由である。 このチタンは、アルミに混じるため、リサイクルの阻害要因になる。 さて、以上は、金属であるが、プラスチックの場合には、どうだろう。 リサイクルの対象になりうる素材は、一たび消費者の手を経るとそれほ ど多くは無い。硬質のスチレン、硬質の塩化ビニル、それに、ペットボ トルぐらいだろうか。その他、農業用ビニルのように大量に廃棄物にな る場合は対象になるが、一般廃棄物中のフィルム状のプラスチックは PE とPP の混合物であり、マテリアルリサイクルは困難だろう。 2 焼却のときに有害物質を出す物質 プラスチックの場合に特に問題になるが、それ以外に、電子部品に広 く使われるガリウムヒ素(GaAs)のようにヒ素などを使っている場合 も該当する。 プラスチックの場合に特に問題になるのは、臭素系難燃剤の使用であ る。電子機器に関するEU の規制(RoHS 規制※ 29)でも、2 種類の臭素 系難燃剤が使用不可になっている。 我が国の場合、臭素系ダイオキシンの発生の懸念ということが理由に なりそうであるが、焼却炉の性能改善が進んだことを考えると、大きな 要素にはならないだろう。 むしろ、後述する物質の残留性や蓄積性などを慎重に検討して対処を 決定すべき事項である。 3 埋め立てなどで考慮すべき物質 現在、我が国の各種法令で規制がある物質群は、農薬類を除けば、以 下の通りである。 まず、化学物質審査規制法などで使用が禁止されているPCB などは、 最初から除外されるべき物質である。もしも製品を破砕して埋め立てを するのであれば、これらの物質のすべての使用を規制の対象とすべきか もしれない。もしも焼却してから埋め立てをするのであれば、有機物は 除外されるべきだろう。 しかし、もっとも重要な要素は、やはりリサイクルである。もしも製 品の100 %が回収され、確実にリサイクルされるのであれば、これらの 物質がむやみと環境に放出されることはないはずである。 すなわち、このような物質に対する規制は、製品の使用後のライフサ イクルに対してどのように配慮されているか、によって変化させてしか るべきである。 このように考えると、EU のRoHS 規制は、鉛などの有害物質による リスクを規制の根拠としたものではなく、ハザードレベル※ 30 での管理 を目指したものであると言えそうである。もっとも、欧州という地では、 ある場所を発掘すると、ローマ時代の鉛汚染が出てくる場合がある。す なわち、これまでのような鉛排出を続けると1000 年後には重大な環境 影響が出る事まで考慮した規制であると表現することもできる。 そのような規制が正しいか、それは、絶対無二の答えがある訳ではな いが、もっと様々な議論を行うべき課題のように思える。 4 代替物質の条件 使用可能な物質や元素などに規制が掛かり始めると、当然のことなが ら、代替物質を選択することになる。その際には、最後の条件である枯 渇性あるいは希少性を考慮すべきである。可採年数が50 年以下の元素 は、本当に枯渇する可能性がある。一例を表2-11 に示す。 具体例を示すと、鉛フリーはんだのためにインジウムといった金属を 大量に使うことは、枯渇可能性の観点から注意を払うべきである。なぜ ならば、インジウムは、透明伝導体になりうる、限られた元素の一つだ からである。 新材料や新物質の開発を行っている研究者にとっては、材料・物質に 使用規制がかかること自体、大変に面倒なことである。自由に機能を追 及できることが、科学・技術の発展にとっても望ましいことではある。 しかし、持続可能性を達成するためにも、なんらかの規制が必要な時 代が21 世紀というものなのだろう。 どのような原理・原則に基づいて規制をするのか、どのぐらいの長期 的な観点を含めた見方を行うのか、そして、何をどのように規制するか、 などといった合意が必要な時代になったと言えるだろう。 【参考文献】 ・梅田靖(編著),1998 :インバース・マニュファクチャリング,工業 調査会. ・梅田靖,2000 :インバースマニュファクチャリング・フォーラム 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