2-4 適正処理処分技術・システムプログラム 2-4-1 廃棄物をいかに適正に処理するか ○一般廃棄物焼却灰 最終処分容量の逼迫対策として近年、焼却灰(底灰)や飛灰の溶融ス ラグ化技術による再資源化が注目されている。しかしながら、2002 年 度末までの稼働溶融施設普及率は、施設数ベースで7.7%(2000 年施設 比)にしか達しておらず、大部分の焼却施設から発生した焼却灰と飛灰 は、埋め立て処分されている。焼却灰や飛灰は易溶性無機塩を高濃度 (焼却灰で10 〜 28%、飛灰では37 〜 46%)(貴田・野馬(1997))に含 有しており、その結果、高濃度の塩を含んだ浸出水が長期にわたって発 生し(松藤・島岡(1997))、しばしば水田等に塩障害を起こしている。 一方、焼却灰や飛灰は鉛などの有害重金属(表2-12、2-13)やダイオキ シン類(表2-14)等の微量の難分解性有害物質を含んでおり、これらが 最終処分場に対する住民の不安を払拭できない原因となっている。そこ で、焼却灰等の無害化(改質)技術が開発されてきた。無害化技術には 熱や化学反応による分解技術、固化や結合反応による不溶化、および分 級・選別・溶解による有害物質の分離技術があり、表2-15 のような特 徴がある。これらの技術において溶融固化、焼結固化あるいは酸抽出技 術は、適正処理技術ではあるがリサイクル技術として分類されるので、 ここでは、主として加熱分解・化学反応処理と分離処理について述べる。 加熱分解とは溶融固化や焼結固化のように高温で反応させるのではな く、250 〜 500 ℃の比較的低い温度での脱塩素反応による微量難分解性 有害物質の分解技術である(小島ら(2002))。近年、低コスト型の技術 として注目され、研究開発が行われている。加熱方法としては加熱脱塩 法、過熱水蒸気脱塩法、加熱揮発分離法、マイクロ波加熱法等が報告さ れている。この中で、加熱揮発分離法は、ダイオキシン類の揮発特性を 利用した方法であり、マイクロ波加熱法は局所的な加熱分解反応を利用 したもので興味深い技術といえる。以上の技術はダイオキシン類等の微 量難分解性有機物の無害化を目的とした技術であり、重金属は別途適正 処理が必要となる。 化学処理に関しては長期的な捕捉機能の維持に関心が注がれている。 模擬埋め立て槽での6 年程度の埋め立て実験では重金属の浸出はないと の報告(島岡ら(1998))があるが、さらに長期的な研究が必要である。 また、この種の研究ではキレート薬剤による単なる不溶化だけでなく、 長期的な対策への取り組みが必要となろう。 重金属の捕捉法として注目されるのが、水熱反応法である(大迫 (2001))。重金属の捕捉プロセスは、Ca とSi の反応によるトモボライ ト等の安定な鉱物の形成に伴うPb 等の重金属の捕捉、およびCa 溶出 量の減少によって起こるpH 低下に伴う不溶化の効果によるものだとし ている。この鉱物化反応を300 ℃過熱蒸気下で行った場合、脱塩素化反 応と同時進行が可能となることも考えられる。一方、促進エイジン グ※ 31 による重金属固定化も低コスト技術として、また二酸化炭素削減 技術としても興味が持たれている。 分離処理技術は、近年焼却灰の粒径と易溶性無機化合物や重金属との 関係が明らかにされる中でその存在意義が見直されている。 一般に吸脱着反応系においては表面積が大きな微粒子への遊離化合物 等の濃縮が考えられる。燃焼反応も反応系がアナロジーになるとして焼 却灰や飛灰の物性が検討されてきた。その結果、アルカリやアルカリ土 類金属およびMn、Cr については、微粒子への濃縮傾向が現れたが、 その他の元素には見られないとの報告(貴田・野間(2003))がある。 また、S やCl もアルカリ金属と同様な傾向を示し、焼却灰主体の埋め 立て処分場に特有な高塩分を含んだ浸出水問題を起こしてきた(図2- 12)。この高塩分問題対策として脱塩装置等の塩分除去装置が導入され ている処分場も見受けられる。一方、もう一つの問題としてカルシウム スケールがある。これは焼却灰中に含まれる大量のカルシウムが埋立層 から溶けだし、浸出水中に溶解している二酸化炭素と反応し炭酸カルシ ウムの結晶を形成するもので、浸出水集排水設備をはじめ、多くの水処 理施設に致命的な打撃を加えることもある。以上のような焼却灰や飛灰 の特性に対して、高含有無機化合物や重金属を分離や不溶化するための 埋め立て前の前処理法として乾式分離、水洗浄、促進エイジング、酸洗 浄等が開発実施されてきた。 ○最終処分場 1 最終処分場の確保 循環基本計画では循環指標の1つとして最終処分量が選定されてい る。2010 年までに埋め立て処分量(一般廃棄物と産業廃棄物の合計) を半分(約3,700 万トン)に削減し、さらに経済財政諮問会議「循環型 経済社会に関する専門調査会」において、2050 年までに最終処分量を 2000 年の1/10 量(約730 万トン)に削減するという数値目標が掲げら れた。埋め立てられる廃棄物量は、経年ごとにみると、一般廃棄物では 1,700 万トン(1990)、1,100 万トン(2000)、600 万トン(2010)、100 万 トン(2050)に、産業廃棄物では、8,900 万トン、4,500 万トン、2,200 万トン、450 万トンとなる。一方、残余埋め立て容量は2001 年4 月1 日現在で一般廃棄物処分場が1 億5,700 万m3、産業廃棄物処分場が1 億7,600 万m3 となっている。埋め立て密度を1 トン/m3 とすると、 2010 年までに一般廃棄物処分場で9,500 万m3、産業廃棄物処分場で3 億7,000 万m3、2050 年までにそれぞれ2 億3,000 万m3、8 億9,000 万 m3 の埋め立て容量が必要となる。一廃・産廃合わせて不足容量が7 億 9,000 万m3 となるが、これはこの約50 年間で新たに5 ヘクタール× 10m(50 万m3)の処分場を1,580 カ所、100 ヘクタール× 10m(1 千万 m3)程度の海面処分場を約80 カ所建設しなければならないことを意味 している。 2 最終処分場の建設・運営 我が国の最終処分場は、搬入可能な埋め立て廃棄物から法的に安定型、 管理型および遮断型処分場に分類されており、2001 年4 月1 日現在で 産業廃棄物処分場がそれぞれ、1,643、1033、41(計2,717)施設、一般 廃棄物処分場(管理型)が2,007 施設、稼働している。 我が国では1997 年の基準省令および1977 年3 月の共同命令※ 32 の改 正により、規模要件の撤廃と構造基準・維持管理基準・廃止基準の強化 がなされた。それまでの遮水が一重から二重遮水システムへと環境汚染 防止対策がより強化されるとともに、一方では遮水シート破損検知技術 システム(全国都市清掃会議(2001))が著しく発展した。そして、 2000 年12 月には一般廃棄物最終処分場の設計に「性能指針」※ 33 導入 が盛り込まれ、基準省令を遵守した構造規格から性能規格への転換が図 られた。性能指針では基準省令と同等以上の能力を有する技術等に対し てその性能の確認方法(評価手法)が確立されていることとされている。 また、準好気性埋め立て構造が明確に記述された。これは明らかに欧州 や米国の「嫌気性埋め立て構造+トップキャッピング」埋め立て概念 (Stief(1989))とは異なった考え方である。この性能基準は、自治体が 独自に導入可能で、環境汚染防止対策がより強化された廃棄物最終処分 場技術を「廃棄物最終処分場整備の計画・設計要領」(全国都市清掃会 議(2001))として集大成された。 今や住民の最終処分場建設受け入れ問題は、適正な廃棄物管理行政の ための最も重要な事項である。循環型社会において受け入れられる最終 処分場の形態がどんなものであるかについての議論が巻き起こってい る。結果としては最終処分場の技術は、2つの方向に進んでいる。それ は、超低リスク型処分場建設技術と埋め立て物を超減量化するための技 術開発の方向である。前者は遮水工破損検出技術や新しい遮水工技術、 破損カ所の修復技術、遮水工施工管理の強化技術、埋め立て物洗浄技術、 覆蓋型処分場建設技術、クローズド型浸出水処理技術、埋め立て物安定 化促進技術である。一方、後者は灰溶融、山元還元※ 34、焼却灰のエコ セメント化であるが、これは同時に資源化技術でもある。しかし、この ような技術の高度化が費用対効果の面から適切であるか、LCA 的に適 正かどうか、検討の必要性が指摘されている(井上(2003))。 田中(2000、2002、2003)は、埋め立て概念を取り扱った一連のレビ ューで社会が受け入れ可能な処分場の形態を模索し、@恒久封じ込め概 念、A備蓄保管概念、B微生物反応器概念、C最終安定化物概念、とし てまとめ、@一世代(20 〜 30 年)で安定化し、A周辺住民が受け入れ、 継続建設が可能な、B埋め立て跡地が汚染土壌とならず、有益な土地と して還元され、C埋め立て処分に対して適切なコストとリスクが割り当 てられるとしている。適正な埋め立て処分技術は、循環型社会が受け入 れ可能な技術であるといえる。 3 処分場浸出水に対する技術 一般廃棄物最終処分場および管理型産業廃棄物最終処分場からの浸出 水の水質は非常に長期にわたって汚濁物質を流出する。典型的な浸出水 の水質経過パターンは、埋め立て形式や埋め立て物により異なるが、お およそ図2-13 のようになり、一般的には数十年にわたって水処理をし なければならない。管理型最終処分場の場合、上に述べたように我が国 では焼却灰や飛灰の埋め立て率が上昇し、先に示したカルシウムスケー ルの発生防止対策や塩類障害対策が重要になっている。また、BOD ※ 35 に対してCOD ※ 35 や総窒素(TN)の残存率が高く、時間が経過するに ともなって生物処理から物理化学的な処理へと施設の機能を変化させる ことも必要になる。一方、最終処分場浸出水処理施設は、基準省令によ り放流水質基準を遵守する必要があるが、性能指針においては、生活環 境項目においてBOD20mg/L(海湖沼COD50mg/L)およびSS ※ 35 30mg/L(ばいじん、又は燃えがらを埋め立てる場合には10mg/L)の 基準が設けられている。さらに、ダイオキシン類対策特別措置法により ダイオキシン類の放流水基準値を10pg-TEQ/L ※ 36 と規定している。こ のように厳しい水質基準が適用されているにもかかわらず、処分場浸出 水には非常に多くの未規制の化学物質の存在が確かめられている(井上 (2003)、田中(2000)、国立環境研究所(1999、2001))。最終処分場浸 出水11 カ所で190 成分が検出された中で、高検出率と中央値が比較的 高い主な化合物は、プラスチック添加剤、ジオキサン、フタル酸エステ ル等36 物質に及んだ。これらの化合物の中で外因性内分泌攪乱化学物 質が22 種類検出されている。 以上のように廃棄物最終処分場の浸出水は、有機性汚濁物質、無機イ オン、ダイオキシン類、そして外因性内分泌攪乱物質をはじめ未規制の 有害物質を数多く含んでおり、より安心できる水処理技術の開発が必要 になっている。これらの適正処理技術としては、先に述べたように性能 指針の中で、放流水の基準および安定稼働が明記されている。その結果、 実際に開発・利用されている技術には、カルシウム対策技術としてはア ルカリ凝集沈殿法や晶析法、pH 調整法やスケール防止剤添加法、窒素 除去技術としては機能性活性汚泥法(生物学的脱窒素法)、難分解性 COD 除去プロセスおよびダイオキシン類の除去法としては凝集沈殿法、 ダイオキシン類やSS 除去技術としては砂ろ過法、重金属やホウ素、塩 分除去、ダイオキシン類除去技術としては高度処理プロセス(活性炭吸 着処理、キレート処理、脱塩処理、UV+ 過酸化水素・オゾン分解)等 の処理プロセスが利用されている。 2-4-2 処分場の再生はいかにすれば可能か ○処分場再生とは 前節では2050 年までに一廃・産廃廃棄物処分場合わせて約7.9 億m3 が必要となるが、これはこの50 年間で新たに5 ヘクタール× 10m(50 万m3)の処分場を1,580 カ所建設しなければならいと述べた。これが 廃棄物最終処分場が、循環型社会においても必要不可欠な基盤施設と位 置づけなければならない理由である。ところが、埋め立て構造や埋め立 て廃棄物に対する住民の不安や事業者に対する不信感等により、周辺住 民との合意形成が難しく、新たな最終処分場の立地が非常に困難になっ てきており、最終処分場の確保に不安を抱いている地方自治体も少なく ない。このような状況の中、2002 年に環境省では新たに最終処分場の 容量増加政策として、「最終処分場の再生、ルネサンス」補助事業が立 ち上げられた。 最終処分場の再生とは、狭義には過去に埋め立てられた処分場内の埋 設物(ごみや覆土材など)を掘り起こしたのち、選別および熱処理等減 容・安定化処理を行ない、最終処分場を再び利用可能な状態に復元する ことをいう。処分場の再生の目的は、掘削・減容化による処分場の埋め 立て容量の増加あるいは延命化であるが、環境汚染防止対策が不十分な 過去の不適正処分場跡地の修復技術としても注目されている。 1 最終処分場の現状 2000 年度における一般廃棄物の排出量は、5,236 万トン/年、1人1 日当たり1.13kg であり、前年度に比べて僅かに増加している。ごみ処 理量の中で、中間処理されるごみ量4,678 万トン/年のうち焼却される 量は4,032 万トン(全体の77.4%:直接焼却率)、最終処分量は直接埋め 立て量307 万トン(5.9%)と中間処理残渣量743 万トン/年(14.3%)を 合わせて1,050 万トン/年、毎年およそ4%減少を続けている。最終処分 場の施設総数は2000 年現在2077 施設、総残余容量は1億5900 万m3、 残余年数は全国平均で12 年、首都圏が12 年、近畿圏が9.5 年と比較的 余裕があるような印象を受けるが、これらの数値は都道府県の残余年数 の平均であり、事業主体ごとに大きく異なっている。残余容量が逼迫し、 埋め立て地確保に不安を抱いている自治体も少なくない。一方、産業廃 棄物の排出量は、ほぼ横ばい状態で2000 年度は4億600 万トン/年であ る。最終処分量は、近年の社会状況を反映して年間7 〜 8%の割合で減 少しているものの、その量は4,500 万トンにも及んでいる。 最終処分場の残余年数は処分量の減量化により全国レベルではむしろ 3 〜 4 年へと漸増してはいるものの、最近の新設最終処分場の建設は、 1999 年から極端に少なくなっている。特に、首都圏や近畿圏のような 大都市圏では1 〜 2 年という事態が起こっている。自治体では既存埋め 立て地の延命化や再生に乗り出すところ(亀山市、諫早市、高砂市、安 城市など)も現れ始めている。 2 再生技術の可能性をさぐる 最終処分場の再生は、埋設していた廃棄物を掘り起こし(攪乱し)、 結果的には再び大気に晒し、内部に閉じこめられていた有害物質や悪臭 物質を容易に周辺環境に拡散・輸送・移動させる可能性を著しく高める 行為である。特に、覆土材料などの土や安定化物、プラスチックや未分 解の紙類・木質などの可燃物あるいは金属を分離・処理する工程で粉 塵、VOC ※ 37 あるいは悪臭物質等を発生させる可能性がある。粉塵の 中にはダイオキシン類等の微量有害化学物質や有害重金属が含まれる可 能性も考えられる。以上のように再生事業においては、一連の再生工程 における環境影響防止が最も重要な課題となる。 一方、再生事業フローの途中において最終処分場の特性によっては現 状の技術レベルでは封じ込めをすることが最もよい場合もある(再生事 業の中止→修復事業への転換)し、予めある程度埋め立て層内部を通気 等により安定化した後、掘削工程や分離工程に入ることも考えられる。 従って、最終処分場の再生では、掘り起こし工程の前に処分場の再生ニ ーズ・目的の確認、最終処分場の性状把握(キャラクタライゼーション) その後にニーズ・目的合致性の評価(現状維持、封じ込め、資源化・再 生、溶融・再生等)および工程選択を行う一連の事前調査・計画策定・ 評価が必要になる。以上のように再生事業は、事業性評価と住民理解の 社会事業であり、総合技術システムとして位置づける必要がある。なお、 埋め立て地再生の技術ステップについては、我が国では埋め立て地再生 総合技術研究会(2003)ならびにイナンチら(2003)の諸外国の最終処 分場再生の現状でレビューされている。 (1)埋め立て地の特性把握 埋め立て地の特性把握は、基礎・本調査からなり、本事業の推進や工 程選択を行うための極めて重要な技術である。基礎調査とは、不適正処 分場や旧構造基準処分場の大きさや深さ、埋設されているごみの密度や ごみ組成などの把握、埋設埋め立て物の処理方法の検討、掘削による作 業環境や周辺環境影響評価のための調査である。また、本調査では目的 事業の効果(埋設廃棄物の物性把握、容量増加率、延命化効果)、選別、 運搬等再生事業工程に伴う作業環境や周辺環境への影響が評価される。 これらの技術には埋め立て履歴調査手法、埋設廃棄物探査手法、埋設廃 棄物安定化把握手法、埋設廃棄物性状把握手法等の技術がある。ボーリ ングやテストピットによる埋め立て層直接把握技術あるいは比抵抗探査 や電磁探査技術のような間接的な埋め立て層把握技術が利用されている が、後者については最終処分場の調査事例が少なく、その信頼性が今後 の課題である。特に、事業実施工程における作業環境や周辺環境影響把 握に関する技術に関しては、これも諸外国をも含めてその実施例がそれ ほど多くはないが、北米廃棄物協会(SWANA(1997))は処分場再生 に係る技術上の基準を提案している。またフロリダ州では埋め立て地調 査法としてテストピットを5 エーカー(2 ヘクタール)に1個としてい る。一方、選別や運搬等における作業環境や周辺環境への影響把握技術 として、交通・大気汚染分野の環境計測技術が利用可能である。 また、埋設廃棄物の性状を把握するためにテストピット掘削ごみをス ケルトンバケットやトロンメル、磁力選別機、風力選別機等を用いて選 別し、埋め立て地ごとにその性状特性を把握する必要がある。 (2)掘削工程 掘削(掘り起こし)工程に関連する技術は、既に他の分野で実用化さ れている技術(土木施工技術や鉱山掘削技術)が利用できるが、掘削物 の性状が大きく異なるので、作業性や効率に関するデータを集積し、技 術改良の評価・検討が必要であろう。関連技術としては、掘削現場が粉 塵やVOC 等周辺環境に対する影響を防止するために、覆蓋技術や環境 保全(作業環境における対策技術や計測技術)が必要になる。これらの 技術は既に廃棄物の中間処理、特に破砕・資源化処理において技術開発 されたものが利用可能である。しかし、硫化水素や酸欠ガスの発生、メ タンなどの可燃性ガスの発生、ダイオキシン類の存在等があり、モニタ リングや対策処理技術、施工技術の適法性の検討が必要である。また、 処分場によっては緊急性から非常に劣悪な作業環境での掘削作業が強い られる場合も想定される。このような場合、遠隔操作重機やロボット型 重機等の開発も必要になる。 (3)輸送・選別工程 廃棄物の選別は、処分場ごとにその埋設物の性状が異なり、性状に応 じた機種や仕様選定技術が必要になる。また、後工程になる中間処理施 設の能力や処理方式との相性や柔軟性の高い組み合わせを検討する必要 がある。破砕・選別工程においては粉塵対策が最も重要な課題となる。 特に、ダイオキシン類対策のために湿潤状態や半湿式による選別技術の 検討が必要であるが、既に土壌汚染対策技術としていくつかの湿式法が 開発されている(埋立地再生総合技術研究会(2003))。 運搬工程ではダイオキシン類などの有害物質を含み悪臭を放つごみを 運搬するのであるから、場外汚染防止対策技術や運搬途中での拡散や散 乱による環境汚染防止対策等の検討が必要である。これらの技術は、焼 却灰や土壌汚染対策において実証された技術が利用可能であるが、実証 研究の必要がある。 (4)中間処理技術 事業対象となる埋設廃棄物は、可燃物に不燃物や土砂等が混ざったも ので、処分場により著しく異なるが、埋め立て廃棄物とは物性的に著し く異なった組成を示す。前項の選別技術により既存中間処理施設にマッ チした組成に変えられることもあるが、溶融技術のようにそのまま処理 可能な場合もある。ただし、既存施設を利用する場合には、収集ごみと 掘り起こされたごみとの混合率の把握が実施レベルで必要になる。 (5)再生埋め立て地整備 埋め立て地再生事業の主な目的は、埋め立て地を再生し、延命化を図 ることである。その場合、周辺住民の受容可能な施設とするために新構 造基準との整合性、跡地利用促進など地域振興のための斬新な社会シス テム開発が必要となる。 ○不適正処分場を修復する 1997 年の廃棄物処理法改正以前には最終処分場の廃止制度がなく、 埋め立て終了後は廃止措置のみで明確な規定はなく、その後の施設の管 理状況が不明なものが少なくない。我が国の一般廃棄物最終処分場の総 数は、1994 年の時点で2,392 カ所となっている。しかし、この数字は閉 鎖後の管理状況の不備もあり、実数が明らかではないが、処分場施設総 数は3,500 施設以上と推計されている(樋口・藤吉(2003))。さらに 1993 年度版施設年報(環境産業新聞社(1993))において調査した 2,313 施設のうち、遮水工のない施設が67%に当たる1,538 施設と報告 された。1997 年に旧厚生省により不適正処分場の恐れの指摘を受けた 処分場(公表)は、その後に大部分は何らかの改善措置がなされている。 一方、産業廃棄物の管理型最終処分場は、同じく過去20 年間で約2,000 施設(供用1,100、閉鎖/廃止900)と推定されている。 上記の不適正処分場の指摘施設の中で約1割の42 施設で基準超過が 見られた。その内訳は、COD は大部分の施設で、Pb は28 施設、As は 7施設、1,2-ジクロロエタンは2施設、T-Hg、Cd、シアン、シマジンは 1施設であった。ダイオキシン類も任意報告で埋め立て地内保有水等に 高濃度検出が示された。また、可燃性ガス(メタン)や有害ガス(硫化 水素など)の発生が報告されている。 以上のように、古い処分場については遮水工もなく、また不適正処分 場の指摘がなされたところも少なくなく、将来的に適切な環境汚染防止 対策が必要となる。 一方、環境省調査によれば、2002 年度の全国の不法投棄量は約32 万 トンにのぼっており、都道府県の監視・指導の強化により投棄量、投棄 件数ともに最近徐々に減りつつあるが、依然として生活環境保全上の支 障をもたらす大きな問題である※ 38。 1 汚染状況調査 既に地盤工学会(2002)等において汚染調査・予測・対策に関する書 籍が出されているので、詳細はこれを参考にされたい。一般には土壌・ 地下水汚染が顕在化した段階では、汚染が検出された井戸や湧水におけ る断片的な情報のみである。そのため、広域的な調査により水文地質構 造、汚染物質の分布状況や移動・拡散状況を把握し、最終的には汚染源 を突き止めることが目的となる(図2-14 参照)。広域調査より汚染源が 絞り込まれたら、以下のようにして詳細調査が行われる。 (1)敷地境界確認の基本手順 敷地境界の特定手法には、@廃棄物最終処分場の住所(地籍番号)を 確認の上、A住所と自治体が所有する地籍図から廃棄物最終処分場の所 在地を明らかにし、B信頼性の高い当該最終処分場の構造や埋め立て履 歴情報を入手し、C入手できた場合には、現地詳細調査を行い、敷地境 界を確定する、入手できなかった場合には、地形・履歴情報をもとに概 略調査を行い、敷地境界を確定する。 (2)敷地境界の詳細確定 廃棄物最終処分場の構造・埋め立て履歴情報や概略調査である程度把 握した敷地境界情報をもとに、詳細調査は現場にて実際の確定作業を行 う。調査技術として、トレンチ掘削、電気探査、弾性波探査(浅層反射 法)、弾性波探査(屈折法)、地下レーダー、浅部電磁法探査、磁気探査、 重力探査、CSAMT 法、比抵抗トモグラフィ、リモートセンシング、空 中電磁法等の既存技術が最終処分場に利用可能である。判定法としては、 掘削による直接判定、地表植生・地形等の表面特性の違いを検出する、 埋設廃棄物と原地盤との物理化学的な特性の違いを検出する、といった 方法がある。これらの詳細はいくつかの報告書(国立環境研究所(2001、 2002)、NPO 最終処分場技術システム研究協会(2002))に示されてい るので参照されたい。 (3)埋設廃棄物の汚染状況の把握 不適正処分場や不法投棄場における埋設廃棄物や汚染物質の埋設位置 や汚染が周辺環境へどの程度拡散しているかを把握するための調査技術 であり、物理探査技術としては基本的には(2)の敷地境界の確定技術 と同じ技術が利用可能である。一方、不適正処分場や不法投棄場の場合、 現場を絞り込んで具体的な汚染拡散防止策やリスク削減対策を策定する ためには、より詳細な廃棄物の埋設状態や汚染状況を知ることが求めら れる。そのためにボーリングによる地下水調査、層内廃棄物の調査、表 層土壌ガス調査等により埋設廃棄物分布や汚染状況が把握される。 2 修復技術 一般に環境修復対策は汚染状況や汚染源の種類やリスクの大きさによ って異なるのであるが、不適正処分場は廃棄物最終処分場であること、 不法投棄場は自然環境であることから、その対策は法律上著しく異なる。 一方、時間的な問題や費用問題から応急対策と恒久対策を考える必要が でてくる。応急対策には人暴露防止対策と汚染拡散防止対策がある。前 者においては廃棄物や土壌の場合は、接触回避、飛散防止策として立入 禁止柵の設置や表示およびシートがけが行われる。地下水の場合には飲 料回避策をとる。後者は移動媒体である大気や地下水に汚染物質が拡 散・移動することを防止する対策となる。この場合、シートがけやアス ファルト舗装による表面被覆、堤防や沈砂池による系外への廃棄物や土 壌の流出防止対策となる。そして、最終的には恒久対策をとることが必 要となる。応急対策や恒久対策がとられたらそれでよいというわけはな く、これらの対策による効果を確認、モニタリングすることが必要とな る。 (1)不適正処分場における修復技術 汚染拡散防止が主要な対策技術である。拡散物質は浸出水中で移動す る溶解性物質や懸濁物質に吸着する物質、およびガス状物質である。前 者については汚染状況調査で汚染箇所(漏洩)が特定され(あるいは特 定されなくても)、生活環境への影響が明らかにされれば、何らかの漏 洩防止対策が必要になる。厚生省(当時)は1998 年に「不適正処分場 の改善方策に関する技術資料」を都道府県に対して通知した(厚生省 (1998))。その資料によると対策工法として遮水工と貯留堤の関係や最 終覆土、浸出水集排水設備、ガス抜設備等の組み合わせから6ケースが 示された(表2-16)。図2-15 にこれらの6ケースで施工される工法の分 類を示すが、主要な工法として鉛直遮水工法、オーバーキャッピング工 法、その他の工法で地下水制御や埋め立て廃棄物自体を安定化・固化を 行う工法が実用化されている。 対策工法の選択の考え方としては、地質への適合性、施工深度、地形 への対応性、遮水性、耐食性や耐久性、施工厚、経済性、その他(用水、 電気、周辺環境)があり、それぞれの工法には遮水や耐久性を維持する ための施工の留意点がある。 (2)不法投棄場における修復技術 基本的には前項の不適正処分場における修復技術が適用される。但し、 不適正処分場の場合と大きく異なる点を認識しておく必要がある。すな わち、不法投棄は、非常に発見し難い(不法投棄がし易い)場所に投棄 されるので、一般には何らかの重大な環境影響が地域住民によって発見 され、事件として取り上げられない限り、地域社会が認知することはで きない。発見されたときには環境汚染が緊急性を要する事態にまで進 行している場合が多いし、現場の水文・地質情報は殆どないという状況 にある。従って、修復を行う場合の留意点としては、@緊急性把握のた めの汚染現場の状況把握、A緊急性を考慮した段階的修復、B複合汚染 に対応した技術の選択、C微量の難分解性物質への対応があげられる。 2-4-3 廃棄物をモニタリングする 廃棄物の再生利用や処理処分過程からの環境汚染を防ぐために、関係 する物質や行為をモニタリングすることは安全で安心感のある利用や管 理のために強く要請されるところとなってきた。こうした循環資源や廃 棄物のモニタリングの基本的方向には、一つの対象物質を計測する場合、 複数の対象物質を計測する場合、生物影響を含めて包括的に計測する場 合などがある。最近、こうした取り組みの成果があがってきているため、 この関連の成果を中心に最前線のいくつかを紹介する。 ○一つの対象物質と複数の対象物質の計測 第1の単一の対象物質が明確な場合は、その物質(例えば、水銀や塩 化水素など)を的確に測定し、場合によっては自動計測することが求め られる。第2の複数の物質や物質群をターゲットとする考え方の具体化 として、有機ハロゲン化合物(TOX : Total Organic Halogen)を測 る試みがあり、一定の成果があがってきている(川本ら(2003))。粒状 活性炭を用いて排ガス中のTOX を捕集し、その燃焼試料中のハロゲン 化水素を電量滴定する方法について検討している。ダイオキシン類濃度 が0.5ng-TEQ/m3N ※ 39 から0.001ng-TEQ/m3N 以下のレベルまでの排 ガスを対象にTOX との相関性のある測定値が得られ、その値は10 〜 170g-Cl/m3N@12%O2 ※ 40 となった。確認された主なTOX としての捕 捉対象物は脂肪族塩素化合物、クロロベンゼン類およびクロロフェノー ル類化合物である。測定が簡便、迅速であることを考慮すると排ガスの サンプリングおよびハロゲン量の定量によるTOX 測定の精度は実用的 に十分と考えられる。また、半・難揮発性有機ハロゲン化合物として、 沸点が240 ℃相当以上の物質群を対象とする取り組み(浦野・加藤 (2001))もある。沸点の面からダイオキシン類に性状の近い有機ハロゲ ン化合物群を対象としている。さらに、レーザーによる分子励起と飛行 時間型の質量分析計を組み合わせた実時間計測方法(Zimmermann ら (2001))が開発され一部応用されつつある。 ○生物影響まで含めた計測 以上は、有機ハロゲン化合物全体を制御対象と見て把握しようとする 試みである。そして、第3 の生物影響を含めて包括的に計測することを ねらって、さまざまな検出原理の基礎と応用に関する研究が極めて活発 に行われている(小野・山田(1999)、鎌田ら(2001)、岩崎ら(2003))。 図2-16 は、さまざまなバイオアッセイ手法を、影響と対象、時間軸の 視点から整理したものである。バイオアッセイはいずれも包括的であり、 相互作用の最終の影響を検出するものであるが、その結果の意義付け、 使用法の設定はそれぞれの検出メカニズムにおける科学的根拠に基づい て行われることが重要である。同時に、必要十分なレベルまで手法や結 果の評価がなされ、手法が簡易化されることも重要である。バイオマー カー試験、抗体アッセイなどの個別の生体応答に基づくもの、生態毒性、 個体の内分泌攪乱性試験などの個体そのものへの包括的毒性を検出する もの、ならびに試験管内、生体の遺伝子毒性試験などの発がんのプロセ ス検出から発展した閾値の設定されていないものなど、さまざまな手法 の展開が図られている。 ダイオキシン類を検出するin vitro ※ 41 バイオアッセイは、その毒性 メカニズムの解明や生化学技術の発展に伴って1990 年代頃より盛んに 開発、研究されるようになった(Behnisch ら(2001a、2001b)、酒井ら (2003))。現在では、ダイオキシン類個別の分子の質量を定量する高分 解能ガスクロマトグラフ質量分析(HRGC/HRMS)とは異なる役割を もつ包括的な生物学的検出法として、環境、生体分析における一角を占 めるようになってきている。基づいている原理としては、ダイオキシン 類の分子構造を認識し、結合親和性の高い生体分子であるAh 受容 体※ 42 と免疫抗体※ 43 をそれぞれ用いた受容体結合アッセイとイムノア ッセイが中心である。Ah 受容体アッセイのうち、これまでよく知られ た方法としては、細胞内でAh 受容体にダイオキシン類が結合すること によって発現される酵素の活性を測定するEROD ※ 44 やAh 受容体/レ ポーター遺伝子アッセイ※ 45 がある(図2-17)。Ah 受容体/レポーター 遺伝子アッセイは哺乳類組換え細胞(ラット、マウス、ヒト肝癌細胞等) を利用するもので、実試料測定に先立ってダイオキシン類標準品を用い た検証が行われているが、感度の高い細胞では2,3,7,8-TCDD について 100 fg ※ 46 程度の量から定量に十分な応答が観察でき、ラットやマウス 細胞では、塩素化ダイオキシン類やダイオキシン様PCB について WHO-TEF ※ 47 と比較的よく一致した2,3,7,8-TCDD 比活性を与える。 従ってHRGC/HRMS により得られた化学TEQ 値※ 48 に対応したバイ オアッセイ値を得られることが、環境(大気、土壌、底質、水質等)、 廃棄物(排ガス、汚泥、廃油、排水等)、生体試料(母乳、血液等)を 対象とした両者の相関データの蓄積によって示されている。こういった バイオアッセイの有用性を示すデータを踏まえて、労力とコストを要す る化学分析に代替して簡易なバイオアッセイを適用できる場面が今後増 えてくるものと思われる。ただし、バイオアッセイを用いて調べる際で も、化学分析同様に抽出操作や妨害物質を除くためのクリーンアップを 行う一定の前処理が必要であり、前処理の簡易性も分析時間短縮やコス ト削減の点から重要である(滝上・酒井(2003))。 バイオアッセイ応用例の一つとして、ダイオキシン類を高濃度で含有 するフライアッシュ(飛灰)の脱塩素化分解処理過程でのモニタリング 利用を試みた結果が報告されている(Behnisch ら(2002))。処理前後 のフライアッシュ試料について、Ah 受容体/レポーター遺伝子アッセ イ(DR-CALUX)とHRGC/HRMS を用いて並行調査が実施された。 その結果、バイオアッセイの結果(バイオTEQ)とHRGC/HRMS に より得られた化学TEQ を比較すると、バイオTEQ が化学TEQ を数 倍程度上回り、一定量の未知のダイオキシン類縁化合物が存在すること が示唆された。その一方、処理前後のフライアッシュでバイオTEQ と 化学TEQ はよく相関する傾向を示しており、脱塩素化処理に伴い、バ イオTEQ と化学TEQ において同程度の低減率が確認された。このこ とから、フライアッシュの脱塩素化過程で新たなダイオキシン類縁化合 物の生成はまずはないとみていいことが確認されている。 ○廃棄物処分のモニタリング 廃棄物に関連する、今ひとつの重要なモニタリングの場は廃棄物処分 場である。とりわけ、不法投棄を未然防止することが要請されている。 環境省調査によれば、2002 年度の全国の不法投棄量は約32 万トンにの ぼっている。都道府県をはじめとする地方行政の監視・指導の強化によ り投棄量、投棄件数ともに最近徐々に減りつつあるが、依然として生活 環境保全上の支障をもたらす大きな問題である。これらの問題への対処 策としては、不法投棄を未然に防止し、仮に起こってもいち早く見つけ てその拡大を防止することが求められる。このような不法投棄の未然防 止・早期発見を目的として、環境省と国立環境研究所による「不法投棄 衛星監視システム」の研究開発が進められている。人工衛星に搭載され ている高分解能センサにより撮影された画像情報を解析し、不法投棄の 前兆行為(森林伐採等)や投棄後の現場特徴を抽出・識別し、早期発見 を可能にするものであり、また、衛星監視の効率化を図るために、予め 地理情報システム(GIS)を用いて投棄が起こりやすいエリアを絞り込 み、そこを重点的に撮影することによって、早期発見の確率をさらに高 めることが可能である(田崎ら(2004))。 図2-18 は、関東圏域を対象として、不法投棄が起こりやすい地域を 25m メッシュで10 ランクに分けて表示したものである。不法投棄の起 こりやすさの確率は、過去の多くの不法投棄箇所の地理地形的分布特性 を統計的に分析して、例えば発生源からの移動のしやすさ(物流因子の 一つ)、人目のつきにくさ(地形的因子の一つ)、投棄場所となる土地の 提供のされやすさ(社会経済的因子の一つ)などの複数の因子から構成 される予測モデルから求められる。全国的にみれば、千葉県や茨城県に 不法投棄が多い。 自治体などのシステム利用者は、不法投棄の起こりやすさの情報等を 基に衛星監視エリアを選定し、衛星センサによる撮影を行う。図2-19 は高分解能の光学センサを用いて撮影した画像を処理して、不法投棄さ れた可能性が高い箇所を抽出した結果である。森林領域では不法投棄が 森林伐採後に起こりやすいこと等の特徴を、平地領域では投棄場所のス ペクトルや輝度、形状等の特徴を用いて、一時期の画像のみで検知予測 したり、さらに確率を高めたい場合は二時期の画像の差分解析により、 投棄による特徴量の時間的変化を抽出して投棄箇所を検知できる。現段 階では、画像解析によって検知された投棄箇所の候補地から、さらに監 視者の眼で目視判読し、実際に現場パトロールを行う箇所を絞り込まな ければならないが、80%程度の確率で投棄現場を検知できる能力を有す る。衛星センサの機能が向上すれば、検知精度をさらに高めることが可 能である。一方で、このようなシステムが普及していくためには、利用 可能な多くの人工衛星が打ち上げられることによって、さらにコストダ ウンが図られることが必要である。こうした技術が開発されることで、 少なくとも不法投棄に対する抑止力になることは間違いない。 本システム開発は、情報技術(IT)のひとつである衛星技術情報の 適用事例であるが、その他GPS(全地球測位システム)を用いた廃棄 物運搬車両の移動監視や、GPS 機能搭載型の携帯端末(PDA)による 不法投棄現場情報の収集・発信のためのシステムが開発され、実用化さ れている。 2-4-4 有害物質をいかに分解処理するか 有害物質を含む廃棄物やダイオキシンなどの残留性化学物質が人々の 関心を集め、不安感を抱かせるのは、ヒトや環境への悪影響に対する懸 念があるからに他ならない。そうした不安感のきっかけになったのは、 廃棄物の不適正投棄による汚染問題の発覚にあり、また残留性化学物質 が地域の規模から地球規模で検出されていることにある。不適正投棄の 代表的な事例として、1970 年代におこった米国のラブキャナル事件や イタリアのセベソ事件、そして1980 年代に発覚した我が国の香川県豊 島事件※ 49 などをあげることができる。地球規模で検出されている残留 性化学物質には、PCB やヘキサクロロベンゼン(HCB)、DDT などが ある。こうした事件や検出は、健全であるべきヒトや環境への影響のお それを与えることのみならず、産業経済や国際社会にもたらす影響もき わめて大きい。そこで、こうした有害物質そのものや有害物質を含む廃 棄物を十分に分解する技術の開発が強く要請されるところとなってい る。ここでは廃PCB の分解技術を中心に触れ、そこから生まれつつあ る技術が再資源化技術としても展開しつつあることを紹介する。 ○ PCB をめぐる現状 我が国では、2001 年6 月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処 理の推進に関する特別措置法(PCB 特別措置法)」が制定され、15 年以 内にPCB 廃棄物を処分することが義務づけられた。これは、さまざま な環境媒体においてPCB が検出されていること、PCB の長期保管によ る紛失が発生しており、保管の継続による環境汚染のリスク増大が懸念 されていること、2001 年5 月には残留性有機汚染物質に関するストッ クホルム条約(POPs 条約)が成立し、国際的取り組みが促進されるこ となどの背景があり、早期処理体制を構築するための法制化が必要と判 断されたためである。 PCB とはビフェニル骨格に塩素が1 〜 10 個置換したもので、置換塩 素の数や位置によって理論的に209 種類の異性体が存在する。市販の PCB 製品では約100 種以上の異性体の存在が確認されている。PCB は 化学的に安定で、熱により分解されにくい、酸化されにくい、酸・アル カリに安定、水に極めて溶けにくい、絶縁性が良い、不燃性であるなど 多くの優れた特性を持っていたため、熱媒体、トランス・コンデンサー 用の絶縁油、感圧複写紙、潤滑油、可塑剤、塗料、印刷インキ、シーラ ントなど、広範囲にわたって使用されてきた。国内では1954 年から鐘 淵化学工業、1969 年から三菱モンサント化成により製造が開始され、 その後1968 年におきたカネミ油症による中毒事件が契機となり1973 年 より化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の第一種特定化学物 質に指定され,製造等が禁止されている。カネミ油症事件では、ニキビ 様発疹、色素沈着、手足のしびれ、痛み、倦怠感などの症状で約2000 名の被害者が出た。この原因はライスオイルを加熱脱臭するために使用 されていた熱媒体としてのPCB により汚染されたライスオイルを摂取 したためであることが、その後の調査研究によって明らかとなっている。 ○ PCB を分解する手法 PCB は国内では約59,000 トンが製造され、約54,000 トンが使用され たが、そのうち鐘淵化学工業で回収・保管していた約5,500 トンが1987 〜 1989 年に高温熱分解処理された(平岡(1991))。残りのほとんどは 使用していた事業所などで自己保管されており、処理すべきPCB 廃棄 物は多く残っている。現在の開発済みの技術は表2-17 のとおりで、高 温熱分解法は、高い分解効率で短時間にPCB を分解し、ダイオキシン 類の発生も極めて少ない技術で、欧米では確立済みの技術として廃 PCB 処理に広く使われている。その一方、焼却により排ガス中にPCB が含まれるのではないか、ダイオキシン類が発生するのではないか等の 不安もあり、高温熱分解処理は地方自治体や地域住民の同意が得られず、 施設建設には至らなかった。 高温熱分解法に変わる技術として、さまざまな化学処理法が開発され てきた。そのなかには、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱化学 分解法、光分解法、プラズマ分解法などのさまざまな原理を有するもの があり、モニタリングが容易、事故時の対応が取りやすい等の特長があ る。脱塩素化分解法とは、化学反応によりPCB 分子中の塩素原子を水 素等に置換してビフェニルなどPCB 以外の物質にする方法である。還 元熱化学分解法とは、還元雰囲気の高温下において、PCB を熱的、化 学的に分解する方法、光分解法では、紫外線(波長250 〜 300nm)を 照射することでPCB 中の塩素を脱離させる。プラズマ分解法とは、ア ルゴン雰囲気下で3000 ℃以上のプラズマを発生させ、その高温プラズ マ中にPCB を噴霧注入することにより、PCB を炭酸ガスや水、塩素、 水素などに分解させる。水熱酸化分解法のうち、超臨界水酸化分解技術 は臨界条件(374 ℃、22MPa)を超えた水のもつ強い反応溶媒特性を利 用して、炭酸ガスや水、塩素、水素などに酸化分解する。 ○進むPCB 研究 これらの処理技術により、PCB の分解とともにPCB 中に含まれてい るダイオキシン類も分解されること、また新たなダイオキシン類が発生 しないことの確認が重要であり、これらの技術開発段階ではそうした努 力もなされてきた。さらに、より安心感を高めるためには、これらの分 解過程においてPCB がどのようなメカニズムで分解していくのか、ま たPCB やダイオキシン類以外の有害物質、例えば他の有機塩素化合物 は生成していないかなどの研究も重要であり、精力的に取り組まれてい る。一例として、脱塩素化分解法の一つであるパラジウム・カーボン触 媒分解法(Pd/C 法)、金属ナトリウム分解法(SD 法)と光分解法 (UV 法)でPCB を分解したときの例を示す(Noma ら(2003))。Pd/C 法はPd/C 触媒の存在下で常圧で水素ガスにより塩素を水素に置換する 方法、SD 法は窒素雰囲気下で金属ナトリウム分散体(5 〜 10 μ m 程 度の金属ナトリウムを10 〜 20%となるよう絶縁油に分散させたもの) を用いて脱塩素化する方法、UV 法はアルカリ性イソプロピルアルコー ル中で紫外線を照射して脱塩素化する方法である。図2-20 に示したもの は、オルト位、メタ位、パラ位に連続した置換塩素のある2,3,4-トリク ロロビフェニルを分解したときの分解メカニズムを実験的に確認した例 である。この研究によって、UV 法ではオルト位塩素が脱離しやすい、 Pd/C 法ではオルト位塩素が脱離しにくい、SD 法ではパラ位塩素の反 応性がやや高いなどが分かっている。 ○埋設農薬の問題 PCB 処理は国をあげて取り組むための態勢が用意され、研究も精力 的に推進されているところであるが、POPs に関連する廃農薬類につい ては検討しなければならないことはまだ多くある。その一つが埋設農薬 の処理問題である(中杉(2001))。残留性有機塩素系農薬(BHC、 DDT、アルドリン、ディルドリン及びエンドリン)については、1971 年に「有機塩素系農薬の販売の禁止及び制限を定める省令」に基づき、 農林水産省は販売の禁止又は制限をした。これに併せて、使用不能農薬 については小規模な単位で地中埋設による処分を行うよう指導した。 1972 年には国庫補助事業として農薬安全処理対策事業を実施し、3 トン 以上の大規模な埋設処理による保管の指導がなされた。そして、2001 年にPOPs 条約が採択されたことを踏まえ、残留性有機塩素系農薬を計 画的かつ適切に処理していくこととして、農林水産省により実態調査が なされた。2001 年12 月の公表資料によれば、確認されている埋設農薬 は全国で174 カ所、総数量約3,680 トンである(農林水産省(2001))。 うち、7 県ではすでに掘出した上で処分済みであるとしているが、他の 埋設農薬についてはあらためて環境調査を実施し、適切な地上保管を図 るとしている。 ○分解から資源化へ こうして開発、実用化されつつある分解技術であるが、有害物質の分 解にとどまらず、資源化技術としての展開も視野に入ってきた技術もあ る。表2-18 から、超臨界水や亜臨界水酸化技術を用いる対象として、 有害物質の分解のみならず、油化や資源化の分野も期待されていること が分かる(佐伯ら(2003))。こうして多方面への展開が期待される種々 の技術であるが、当面、有害物質の分解技術として、安全に社会適用さ れていくことが肝要である。 【参考文献】 ・ブレント・イナンチ・石垣智基・山田正人・井上雄三,2003 :欧米 諸国における最終処分場再生の現状、特集諸外国の廃棄物最終処分場 の現状,環境技術,Vol.32, No.6, 594-600. ・井上雄三,2003 :循環型社会における廃棄物最終処分場の役割と課 題,財団だより(廃棄物研究財団),No.57, 6-10. ・岩崎誠二・加藤進・高橋正昭・木村哲也・粟冠和郎・大宮邦雄・松田 知成・松井三郎,2003 :英虞湾におけるエストロゲン様物質の挙動, 水環境学会誌,26(11),687-692. ・埋立地再生総合技術研究会・(財)日本環境衛生センター,2003 : 「埋立地再生総合技術に係る研究」平成14 年度報告書(平成15 年3 月). ・浦野紘平・加藤みか,2001 :高沸点有機ハロゲン化合物汚染の効率 的な調査・監視・対策のための測定方法,廃棄物学会誌,12(6), 376-385. ・大迫政浩,2001 :廃棄物最終処分場における微量汚染物質の長期的 挙動とその制御方策に関する研究,国立環境研究所平成13 年度報告. ・小野芳朗・山田正人,1999 :残留性生物濃縮性毒性化学物質のバイ 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