コラム:豊島に見る産業廃棄物処理の実際 香川県土庄町豊島は、小豆島の西方約4km の瀬戸内海に浮かぶ周囲 約20km、人口約1,300 人の島である。 1980 年代前半から1990 年にかけて、この島で、地元の豊島総合観光 開発(株)(以下「豊島開発」という)が、金属回収の名のもとに、大 量の産業廃棄物を許可を受けずに運び込み、野焼きや不法投棄を行った。 1990 年11 月、豊島開発が兵庫県警察から廃棄物処理法違反の容疑で 強制捜査を受け、同年12 月、香川県は立入検査の結果をもとに、豊島 開発に対して産業廃棄物処理業の許可を取り消し、さらに産業廃棄物撤 去等の措置命令を行った。 しかし、廃棄物の撤去は行われず、膨大な量の産業廃棄物はそのまま 豊島に残されることとなった。不法投棄された廃棄物は、自動車などの 破砕くずであるシュレッダーダストなどが主で、廃棄物の分布範囲は約 6.9 ヘクタール、廃棄物とそれにより汚染された土壌はあわせて約67 万 トンに達している。 * 1993 年11 月、豊島住民438 名(後日住民111 名が参加申立)が、香 川県、県職員2 名、豊島開発、経営者とその親族、排出事業者21 社を 相手として、共同して一切の産業廃棄物を撤去することなどを求め、公 害紛争処理法に基づく調停申請を行った。 調停申請では、豊島開発及び経営者を不法投棄を行った本人であると した上で、香川県にも、豊島開発に対する必要な指導監督を怠った責任 の一端があるとされた。 豊島開発による原状回復が見込めない中、1997 年7 月、香川県が産 業廃棄物の溶融等の中間処理を行う方向で申請人との中間合意が成立 し、関連分野の専門家からなる豊島廃棄物等処理技術検討委員会が設置 され、廃棄物処理の技術的課題などについて、審議・検討が重ねられた。 その後、香川県は、施設の有効利用などを図るため、豊島の西隣の直 島で中間処理施設を建設する事業計画案を提案し、2000 年3 月の直島 町長の受入表明などを経て、同年6 月6 日、調停成立に至った。 * 豊島廃棄物等の処理は、廃棄物等を豊島から搬出し、不法投棄現場の 地下水や浸出水を浄化するとともに、直島町に建設した中間処理施設で 廃棄物等の焼却・溶融処理と副成物の再生利用を行うものであり、その 概要は、次のとおりである。 (1)暫定的な環境保全措置 豊島の不法投棄現場では、周辺地域への汚染の拡大を防止するため、 不法投棄現場北海岸で、約360m にわたり鋼矢板を打ち込んで遮水壁を 設置するとともに、地下水等は、北海岸中央部からポンプで汲み上げ、 高度排水処理施設に送って処理する。 (2)高度排水処理施設 高度排水処理施設では、不法投棄現場の地下水等を浄化し、水質を確 認した上で海に放流する(処理能力は1 日65m3)。 (3)廃棄物等の掘削・運搬 不法投棄現場において、廃棄物と汚染土壌を重機を使って掘削し、直 島での中間処理を効率化するために、掘削現場で混合して中間保管・梱 包施設に搬送する。 (4)中間保管・梱包施設/特殊前処理物処理施設 中間保管・梱包施設では、廃棄物等をピットで一時保管し、廃棄物等 の均質化などを行った後、廃棄物等をコンテナダンプトラックに積み込 む。 中間保管・梱包施設に併設された特殊前処理物処理施設では、掘削に より掘り出された大きな金属片や岩石、ドラム缶等について、洗浄、破 砕、切断等の前処理を行う。 (5)豊島廃棄物等の輸送 豊島から直島への廃棄物等の輸送は、コンテナダンプトラック18 台 をそのまま乗せて運べるフェリー型の専用船で行う。 1 日に豊島・直島間を2 往復し、約300 トンの廃棄物等を海上輸送す る。 (6)中間処理施設 中間処理施設には、1 日100 トンの処理能力を持つ回転式表面溶融炉 2 基と、金属片や岩石等に付着した可燃分を焼却する1 日24 トンの処 理能力を持つロータリーキルン炉1 基を備えている。 この施設では、徹底した排ガス処理を施し、大気汚染防止法の排出基 準より厳しい基準値を設定している。 また、プラント排水や雨水を処理してガス冷却水等に再利用するとと もに、余熱を蒸冷却水に再利用したり、余熱を蒸気に変えて有効利用す るほか、太陽光発電の導入など、環境への負担を減らす様々な工夫を行 っている。 (7)副成物の有効利用 副成物を埋め立てることなく、可能な限りリサイクルするため、溶融 処理により発生する副成物のうち、スラグは、安全性試験と品質試験を 行った後、コンクリート用骨材などの土木用材料としてリサイクルする。 排ガス中に含まれる飛灰は、パイプラインで隣接する三菱マテリアル (株)直島製錬所の施設に送り、銅製錬工程で有価金属を回収する。 * 豊島側の高度排水処理施設や中間保管・梱包施設では、2003 年4 月 から、施設を稼動させて、地下水等の浄化や廃棄物の保管業務等を始め るとともに、直島の中間処理施設については、同年9 月18 日から、廃 棄物の本格処理を開始している。 今後は、中間処理施設を年間300 日以上稼動させて、約10 年間で処 理を完了する計画であり、長い年月がかかる全国的に前例のない事業で ある。 * 豊島廃棄物等の処理については、中間処理施設等のハード整備(約 200 億円)については、国の補助(4 分の1)を受けるとともに、処理 経費(年間20 数億円)については、2003 年6 月に成立した「特定産業 廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」に基づき、同年 12 月9 日に、廃棄物処理にかかる実施計画について環境大臣の同意を 得た。 このことにより、処理費用についても、県の負担の約6 割が軽減でき る見込みとなった。 * 中間処理施設の建設場所である直島町では、これを機に、循環型社会 のモデル地域を目指して環境産業の創出を図り、自然、文化、環境の調 和したまちづくりを進めるため、2002 年3 月、全国で15 番目、島嶼部 では初めてエコタウンプラン※ 50 の承認を受けた。 また、香川県でも、豊島・直島を環境学習の場ととらえ、エコツアー の誘致など、環境を軸として両島の活性化を図るため、関係町ともども 取り組んでいる。 * 豊島問題に関し、香川県が廃棄物の認定を誤り、適切な指導監督を怠 ったことについては、公害調停の成立時に知事が謝罪し、関係職員の処 分が行われた。 香川県では、豊島問題を教訓として、不法投棄の根絶に全力をあげる とともに、循環型社会の形成に向けて、「拡大生産者責任」の徹底を図 るための国への提言、太陽光発電といった自然エネルギーの導入など、 「環境立県」を目指した種々の取り組みを進めている。