3-1 鉄鋼産業における循環システム構築 ○素材産業の取り組み  CO2 削減や資源循環型社会形成等、地球環境問題への対応が求められ ている。持続可能な企業を目指すためには、環境経営と経済活動を両立 させることが必要となる。大量生産を優先させた高度成長時代には産業 廃棄物や大気汚染といった負の遺産を残してきたといっても過言ではな い。ところが、昨今は世界的な地球環境問題が産業を変えようとしてい る。素材産業は高温反応を伴っているとともに排ガス処理設備が整って おり、あらゆる資源を原料として活用することが得意である。製造現場 では歩留りを向上するために、例えば鉄鋼業の場合、古くから飛灰(ダ スト・スラジなど)に含まれる鉄分を固化し再利用することによって鉄 歩留りを向上させている。また、プラスチックは成分が炭素(C)と水 素(H)であることから、高炉での還元反応に使用できることに着目 (炭材代替)し、使用済みプラスチックを循環資源として高炉やコーク ス炉に入れてリサイクルしている。こうした取り組みからさらに拡大し、 最近では産業間連携が進み他産業のプラスチックに続き半導体の廃液や 廃タイヤ等の数々の使用済み廃棄物を資源として有効利用することが試 みられている。 ○廃棄物のリサイクル  鉄鋼業ではプラスチックリサイクルに関して早くからニーズをキャッ チし、研究開発を行ってきた(Wakimoto(2001))。ごみの分別資源化 技術と高炉での微粉炭吹込み技術を合わせ、使用済みプラスチック高炉 原料化一貫リサイクルシステムを開発し、1996 年度に実用化した。ま た、その後コークス代替としてコークス炉へ装入するシステムも開発さ れた(加藤(2003))。こうした取り組みにより、容器包装プラスチック については、容器包装リサイクル法が完全施行された2000 年度から順 次、京浜・福山地区の高炉および名古屋・君津・室蘭・八幡地区のコー クス炉においてリサイクルできる設備が完成した。図3-1 に使用済みプ ラスチックの高炉原料化の全体システムを示す。  鉄鉱石から銑鉄を作るには石炭(コークス)によって還元するが、プ ラスチックは炭素と水素であるため、これを原料に使用すると石炭の代 わりの還元剤となる。高炉吹込みでは廃プラスチックを一定の粒に加工 して、羽口から吹込むことによってリサイクルする。コークス炉では石 炭とともに乾留しコークス炉ガス、化学原料としてリサイクルする。両 者とも石炭をプラスチックで代替させることで二酸化炭素の削減にも寄 与する。このリサイクル方法はマテリアルリサイクルの中のケミカルリ サイクルと位置付けられており、サーマルリサイクルとは区別されてい る。一方、プラスチックをマテリアルリサイクルする場合には、一般に 相当なコストがかかるとともに多くの残渣が発生し、再商品化の収率が 45 %と低い。これに対して高炉やコークス炉を使用したケミカルリサ イクルは製造設備を活用しており、前処理増設で対応できるため比較的 安価に、大量にリサイクルすることができ、収率も75 %〜 80 %と高く できる。 最近ではさらに、使用済みプラスチックから建設用のコンクリート用 型枠パネル(通称コンパネ)を製造(マテリアルリサイクル)し、使用 後に再び高炉原料化にてリサイクルすることで2 度利用できるリサイク ルシステム(図3-2)を開発し実用化している。一般的にコンパネは南 洋材合板でできており、軽量で低価格であることが特徴である。従って、 プラスチックでパネルを製造するには軽くて強度のあるものが必要であ る。このため、廃プラスチックに混入した異物を取り除いた後、連続的 に押し出し成型する際に発泡させることによって軽量化を実現した。ま た、強度を保つために成型時表裏面に補強剤を加えたプラスチックを同 時押し出しさせて三重構造としている。このコンパネは、コンクリート の型枠として十数回使用した後、高炉において原料としてリサイクルさ れることになる。従って、廃棄されたプラスチックが一旦マテリアルリ サイクルとして使用された後、もう一度高炉原料としてリサイクルされ ることとなる。なお、販売、回収は大手建設会社との連携により行って いる。  2001 年度からスタートした家電リサイクル法に対応するために、鉄 鋼産業でも家電リサイクル工場を立ち上げている。法対象である4 品目 (冷蔵庫・エアコン・テレビ・洗濯機)は、プラスチックと鉄と非鉄金 属が約85 %を占めており、製鉄所に立地することによって選別したも のをそのまま製鉄所でリサイクルすることができるためコストが安く、 競争力をもった家電リサイクルが実現できている。  ペットボトルマテリアルリサイクルについても製鉄所においては高効 率なリサイクルが可能となる。自治体が集めたペットボトルは、破砕・ 洗浄を行う過程でキャップ、ラベルや金属異物を除去した後フレークに 加工し、洋服やシートを作るための再生PET 樹脂として販売する。カ ラーボトルやキャップなどは再生PET 樹脂に戻らないため、従来シス テムでは残渣として埋め立てすることになるが、製鉄所におけるシステ ムではこれも高炉にて還元剤としてリサイクルできるため100 %リサイ クルできるという強みを持つことができる。  こうして鉄鋼産業における環境リサイクル技術はその強みを発揮し、 資源循環システムを作る上で強力な手段を提供することができる。 ○鉄鋼副産物のリサイクル  鉄鋼製造過程では、不純物を取り除くために石灰(CaO)などでスラ グ(主成分はCaO,SiO2,Al2O3)を作り、使用後そのスラグを路盤材 やセメント材料としてリサイクルしている。また、最近ではセメント原 料以外に沿岸域の修復やCO2 固化に使用される技術も確立している (高橋(2000))。この技術については、製鋼スラグ中多く存在するCaO がCO2 を吸収し、安定なCaCO3 となること、その成分と性質が珊瑚や 貝殻とほぼ同じであることから、海に沈め藻礁や漁礁として利用する実 験が全国17 カ所で行われている。製鉄業はエネルギー多消費産業であ るため、自社の副産物で自社のCO2 を固化できることは有効な手段と なる(図3-3)。 ○異業種間・産業間での連携  製造業は自社工場内でリサイクルを行ない、埋立廃棄物を削減する努 力を行なってきているが、最近では資源循環システムを単独の企業のみ で対応するには限界が生じてきていることも事実である。こうした背景 のもと、鉄鋼業では、ニッケルスラッジの造滓剤利用、紙パルプの保温 材利用、アルミドロスの反応促進剤利用など、他産業からの不要物を再 利用してきている。それをさらに拡大する試みとして最近では半導体産 業で発生する廃酸をフッ硝酸として表面処理に活用するなど多くの連携 が行われてきている。  さらに、地域社会との連携も行なっている。高炉反応の技術から生ま れたガス化溶融炉は様々な物質をリサイクルすることができる。廃棄物 の燃焼から発生する汚れたガスを洗浄フィルタリングし、高度な利用が 可能なガスとして回収し、そのガスから水素を製造し燃料電池を動かす 試みや、地域の企業と連携し廃棄物を一括して集め、溶融炉にてガス化 したガスを製鉄所ガスとして利用する試みが行なわれている。(行本 (2001))倉敷地区では図3-4 に示すようにガス化溶融炉を用い一般廃 棄物と産業廃棄物の同時処理を行っている。また、福山地区では16 市 町村と連携してゴミ焼却炉を各地域で設備化するのではなく、RDF 化 (固形燃料化)したものを広域に集め、シャフト型(高炉タイプ)ガス 化溶融炉にてガス化し高効率の発電を行なうことが試みられている。こ のように単独企業での限界を産業間連携によって資源循環システムとし て作り上げることが今後の資源循環型社会構築に必要となっている。 ○エコタウンづくり 資源循環をスムースに行うためには環境にやさしい街づくりが必要で ある。また、廃棄物を資源として利用するためには、住民や自治体の強 い協力が得られなければ成し得ない。そういう意味では、資源循環のた めの街づくりまで製鉄業が担う必要がある。当時の通産省と厚生省の事 業として1997 年度にスタートしたエコタウン事業※ 2 では、北九州市、 川崎市など2003 年度現在20 カ所のエコタウンが承認を受けている。北 九州エコタウンは、広大な土地を活用し、広域の環境リサイクル事業を 展開している。@企業連合体やベンチャー企業が集まったリサイクル工 場と処理困難物であるPCB 処理など多くの施設を持つ総合環境コンビ ナート、A実証研究エリア、B基礎研究のための北九州学術研究都市の 3 つのコンセプトからできあがっており、環境リサイクルコンビナート を形成している。  一方、川崎エコタウンでは、京浜臨海部工業地域の活性復活化を狙っ て都市再生の一環としてエコタウンを創生している(小倉(2001))。 図3-5 に示すように住宅街に最も近い場所には研究開発拠点を持ち、臨 海部には資源循環を行う産業が環境ネットワークを作っている。京浜工 業地域は我が国有数のコンビナートでセメント産業・鉄鋼産業・化学産 業・石油産業が立地しているが、他産業の副産物などの循環資源を原料 として生産活動に利用することで、まさしく循環型地域社会を作りつつ ある。 ○エココンビナート構想へ  鉄鋼業界は過去から省エネルギー技術を発展させると共に省エネ素材 を通じて社会に貢献してきている。最近では循環型社会を構築するため に使用済みプラスチックのリサイクルやガス化溶融技術、スラグのリサ イクル、選別・資源化技術など先進的に取り組んできている。至近では コークス炉から安価に水素を製造する技術開発が行なわれている。また、 高炉ガス利用技術から発展して天然ガス、石炭やバイオガスからも製造 できるDME(ジメチルエーテル)を製造する技術を確立させ(図3-6)、 従来の噴射剤の限定利用から発電燃料、LPG 代替燃料、ディーゼル軽 油代替燃料及び、水素の原料として利用できる事業化計画も検討されて いる。こうした資源循環のみならずエネルギー循環についても取り組み がなされ、鉄鋼の環境技術・インフラを生かし、他産業との連携による 製鉄所を核とした社会との新リンケージ(エコ・コンビナート)構想 (鉄鋼環境技術の将来展望検討特別委員会(2000))を構築している。  今後は各産業が技術と知恵を持ちよりネットワークを組み、企業間連 携によって市民と共に環境の街づくりを創造することが必要である。