3-2 IT 機器の循環技術開発 ○企業の役割は何か  1970 年代、公害が社会問題化して以来、環境活動の主体は、大気や水 域などに対する公害災害防止活動が主流であり、利害関係者も地域住民 や自治体など周辺地域に限られていた。  しかし、1992 年の地球サミット以降、公害災害問題から持続可能な 開発(Sustainable Development)を目指したものへと環境活動の質は 大きく変わり、生産工程・設備だけでなく製品における環境対応も必須 の状況となっている。しかもサプライチェーンがグローバルに進んでい る現在では、一地域の環境規制といえども世界中の企業に否が応でも影 響が出てくる状況で、国内外を問わず製品を販売しているIT 機器メー カーにおいては、その利害関係者が世界中に存在し、地域毎の規制への 対応、様々な地域からの顧客ニーズへの対応など、まさに“Think Globally, Act Locally.”の精神が要求されている。  その実現ためには、環境配慮型製品・サービスの開発、企業価値やコ ーポレートブランドを高める活動など、戦略的に環境活動に取り組むこ とが重要となり、必然的に経営の中に環境対応を組み込む「環境経営」 が展開される時代を迎えることとなった。  また、「ファクター10」や「ファクター4」という資源利用効率を高 めた循環型社会構築への企業の社会的責任・貢献も求められるようにな り、企業における環境活動の質が問われる時代にもなってきている。  このように今や、企業は、循環型社会作りに大きな役割を担っており そのために実効性のある行動が必要となってきている。 ○資源循環型製品とは何か  まず、我が国における環境配慮型開発状況を紹介する。 図3-9 はGPN(グリーン購入ネットワーク)※ 3 がまとめたデータで ある。図3-9 に示すとおり、環境配慮型製品の登録件数の増加は一目瞭 然である。自動車においては一時下降傾向になっているが、概して環境 配慮型製品数は過去3 年で1.5 〜 2.5 倍に増加している。次に、IT 機器 における資源循環型製品開発の事例を紹介する。 1 エコデザイン、LCA で総合的評価  今や製品設計時には、「資材調達」「製造」「使用」「廃棄」という 製品のライフサイクル全体を考慮した環境設計が求められ、環境負荷の 低減を図るべく、各社が独自に設定した評価項目や基準をもとに環境ア セスメントが実施されている。製品アセスメントは図3-10 に示すとおり、 「製品企画・開発段階での製品環境目標設定」、「製品開発・設計部門 が自ら行うチェック」(製品アセスメント−1)と「客観的に評価ので きる部門によるチェック」(製品アセスメント−2)の2 段階により 実施される。評価項目としては、省エネルギー、リサイクル・長寿命化、 解体容易性、環境影響物質の含有状況など多岐にわたっている。また、 地球温暖化の影響を評価するなどLCA も実施され、製品のライフサイ クルを通して発生する環境影響を定量的に把握し、次期製品企画・設計 時の削減目標にフィードバックしている。なお、LCA を簡易、かつ効 率的に実施するため、各社、独自のデータベースをもとにLCA 実施支 援ソフトを開発・導入している。 2 グリーン調達の実施(環境影響物質の削減) 低消費電力化などの地球温暖化防止対応、リサイクル設計などの資源 循環型設計、環境影響物質の使用抑制を含めたグリーン化設計などの視 点を盛り込んだ環境配慮型製品開発が求められている。特に、グリーン 化設計においては、製品を構成する部品の購入段階で物質の含有状況を 管理する必要があり、これがグリーン調達の始まりとなっている。国内 外を問わず製品・部品を購入しているIT 機器メーカーにおいては、グ リーン調達の取り組みも各社のサプライチェーン※ 4 に基づき国内外の ベンダーに各々協力を要請している状況である。そのため、2001 年1 月には、電気・電子機器メーカーの有志が集まって、部材・部品中の含 有化学物質調査の共通化について、検討を始め、2002 年4 月より「グ リーン調達調査共通化協議会」(JGPSSI)を設置し活動を行っている (2004 年8 月時点では70 企業、4 工業会がメンバーとなっている)。ま た、グローバルなSCM4 展開に伴い、グリーン調達調査の国際標準への 視野も入れ、欧州情報通信技術製造者協会(EICTA)や米国電子工業 会(EIA)と定期的に協議を行い、2003 年9 月の会合において、調査 対象化学物質や調査フォーマットといった内容で大筋合意が得られると ともに、三極ガイドライン案も策定され、近々発行される予定になって いる(グリーン調達調査共通化協議会(2003))。 3 電機電子業界における3R の取り組み  持続可能な開発をめざし、「循環型社会形成推進基本法」が2000 年6 年に制定され、その中で使用済み製品の3 Rがひとつの推進政策に位置 づけられた。  この新法制定により、「資源有効利用促進法」が2001 年4 月に改正さ れ、今後普及が予測されるパソコンの顧客からの回収とその再資源化が 企業に義務づけられた。企業など法人で使用済みとなったパソコンなど の情報通信機器はすでにITメーカで回収・再資源化が行われていた が、家庭からのパソコンのリサイクルのための新たなシステムが構築さ れた。使用済み製品のリサイクルにおいて回収率と費用負担で最も鍵と なる回収システムについては、すでに全国で回収網を持っている日本郵 政公社の「ゆうパック」のルートを活用し家庭の戸口回収を行っている。 2003 年10 月から家庭系PC の回収を始め、2003 年度は79,300 台 (JEITA ※ 5 算出)と着実な回収が行われている。  パソコンの構成部品は「筐体・シャーシ」「プリント基板」「ユニッ ト部品」「ケーブル類」「液晶およびブラウン管モニター」などであり、 またパソコンは多機種商品のため、選別作業は効率や費用などを考慮し て手解体が主流である。各部品に解体された後は、精錬所や素材メーカ で鉄、非鉄、貴金属などが回収されている。プラスチックは材質が多種 でありまた難燃性を保つため化学物質などが添加されているため素材リ サイクルは難しく、ほとんどがサーマルリサイクルされている。使用済 み製品のマテリアルリサイクルは業種横断的な取り組み(業際的取組) が効果的なひとつのリサイクル事例である。最近は、パソコン性能が高 いレベルに近づいたこともあり、中古市場や大型家電販売店による引き 取り・販売、WEBによるオークション等、リユース市場も拡大されて きている。これら使用済み製品のリサイクルは、「拡大生産者責任: EPR ※6(Extended Producer Responsibility)」と認識し、消費者や 自治体との連携を一層強化しながら進化させていきたい。 ○環境技術でも世界のリーダーに 1 バイオプラスチックの開発  IT 機器の外装部分にはプラスチックが多く使用されているが、一度 市場に出て回収されたものは表面の汚れや劣化などの問題により同一素 材に戻すことは難しい状況である。また、熱を発するIT 機器には、安 全性を確保するため難燃材を含んだプラスチックを使用しており、万が 一発火した際にはダイオキシンが発生する原因とも言われている。そこ で、環境への負荷が少ない植物系素材(ケナフ繊維や植物でんぷんなど) を活用したバイオプラスチックの開発が進んでいる。このようなバイオ プラスチックは、たとえ地中に埋められても水と炭酸ガスなどに自然分 解され、カーボンニュートラルとなり、非常に環境に配慮されている。 また、従来のプラスチックは石油を原料としているが、植物を原料とす るバイオプラスチックは天然資源の枯渇防止にも貢献している(井上ら (2004))。 2 今後の展望  我が国のIT 機器各社は非常に優れた環境技術を保有しており、世界 をリードしている状況である。資源循環型、持続可能な社会を構築する ために国内外を問わず、また企業の垣根を取り除いて環境への取り組み を展開していくべきだと考える。また、2002 年までに世界市場では累 計10 億台のパソコンが販売され、IT 化社会の急激な拡大により、2003 年においては市場の台数が1 億6130 万台に達すると見込まれている。 製品開発・設計〜廃棄までの製品ライフサイクルを通して環境に配慮し た取り組みを今後も継続することに加えて、IT 機器システムを活用し たソリューション・サービスは流通やものづくりの改革を進めると共に 社会全体の環境負荷低減に貢献していくなど、間接的に環境負荷低減の 可能性がある新たなビジネスモデルでもある。