3-3 家電産業のゴミゼロ技術開発 ○(財)家電製品協会のリサイクル実証実験 (財)家電製品協会は、通商産業省(現:経済産業省)から国庫補助を 受けて、1996 年から4 年間、総額50 億円を投じて「廃家電品一貫処理 リサイクルシステム開発」事業を行った(家電製品協会(2000))。この プロジェクトは、大型の使用済み家電製品を、省力的かつ安全な工程で 効率的なマテリアルリサイクルを行うことを目的として、現存する最新 技術を統合して、処理品の受け入れから、分解、破砕、選別、有価物回 収から無害化処理までを一貫して行うことができる「理想プラント」を 目指したものであった。図3-12 に実証プラントの概観写真とプラント 内部、表3-1 に開発項目の概要を示す。 このプロジェクトは、97.5 %以上の資源回収の実証やプラントレベル のLCA 実施など(上野・吉田(1998)、吉田・上野(2000))所期の目 的を達成し2000 年にプラントを撤去して終了した。今日全国に展開さ れている家電リサイクルプラントは、これらの成果を様々な形で取り入 れている。 ○家電リサイクル法への対応 家電各社は、A グループとB グループにまとまり、協力連携してリ サイクル法に対応している(上野(2001))。これら以外の会社は、A もしくはBグループ又は法律で定められた指定法人に使用済み家電製品 の処理を委託している。リサイクルプラントは2003 年8 月時点で、全 国41 カ所で操業をしている。A グループは、既存の廃棄物処理施設を 主体に25 カ所、そのうち2 カ所は新規建設プラントである。一方B グ ループは、15 カ所の新規プラントを建設した。この他A、B 共用プラ ントが1 カ所ある。リサイクルプラントに密接に関係する使用済み家電 品の指定引取場所(ストックヤード)は、A、B 両グループがそれぞれ 約190 カ所を開設している。図3-13 に代表的な家電リサイクルプラン トの処理フローを示す。このプラントでは、コピー機やパソコンなどの OA 機器も処理されている。 ○リサイクル技術開発の事例  事例1 プラスチックの高炉還元剤への適用技術開発(上野・嶋村 (2001))家電リサイクルプラントで破砕処理を行い、鉄、銅、アルミな どの主要金属を選別した後の金属樹脂混合物(家電シュレッダーダスト) から、プラスチックを選別回収する技術開発が行われてきた。ここでは、 1998 年度にNEDO ※ 7 の助成を受け開発した「パソコンの金属分離・ 選別後のプラスチック残さの高炉還元剤・RDF への利用技術開発事 業」の開発成果を紹介する。この事例では、素材の静電容量の差を利用 して銅成分や塩ビ成分を0.5 %以下の含有量まで精選する静電選別方式 (時田ら(2000))によって、高度に選別されたプラスチックは、高炉還 元剤であるコークスの代替品として製鐵所の高炉に提供されているほ か、再生プラスチック素材としての活用も増えている。 事例2 プラスチックの水平マテリアルリサイクルの開発 従来の再生プラスチック使用部品は、ダウングレードユースが基本で あり、使用箇所も限定的であった。図3-18 は、家電リサイクルプラン トで回収された冷蔵庫の野菜ケース(ポリプロピレン)をエアコン室外 機の部品(サービスパネル)に適用した事例である。使用済み家電製品 から発生したプラスチックを精製して、新型家電製品に使用した点で従 来の再生材プラスチック使用とは大きく性格が異なる使用方法である。 他の家電メーカーからは、回収した洗濯機の洗濯槽のプラスチックを再 調整して新製品の洗濯槽に使用したり、回収したテレビのプラスチック キャビネットを素材として再びテレビのプラスチックパーツに適用する などの事例も発表されている。この使用方法を評価するために「素材自 己循環率」などの新たなリサイクル指標が提案されている。 事例3 冷蔵庫用ウレタンのケミカルリサイクル(村井ら(2003)) 電気冷蔵庫の断熱材には、熱硬化性プラスチックの発泡ウレタンが使 用されている。平均的な使用量は約7.5kg /台(300L クラス)で、日 本全体では年間に約3 万トンが使用、廃棄されていると推定される。 この事例は、NEDO の助成金を得て、使用済み冷蔵庫の断熱材ウレ タンを高い収率でポリオールに再生する基本的プロセスの開発である。 再生したポリオールの、原料配合を検討することにより、冷蔵庫用断熱 材ウレタンとして必要な基本特性を確保する事ができた。今後は複数種 の廃ウレタンからの再生利用技術の確立や、製品に適用するための効率 改善等の課題解決を目指している。設備の写真を図3-19、模式を図3-20 に示す。  家電リサイクル法により回収された冷媒フロンは、通常高周波プラズ マ方式、燃焼方式、セメントキルン方式などによって、無害化処理が行 われている。ここで紹介する事例は、NEDO の2000 年度循環型社会構 築促進技術実用開発によるもので、エアコンの冷媒フロンR22 がフッ 素樹脂の原料であることに着目し、家電リサイクルプラントから回収さ れたエアコン用冷媒フロンR22 から4 フッ化エチレンを製造し、得ら れた4 フッ化エチレンを原料として熱溶融成形に優れ、加工成形しやす いフッ素樹脂であるPFA(4 フッ化エチレンとパーフルオロアルコキ シエチレンの共重合樹脂)を製造する手法である。フッ素樹脂は安全性、 剥離性、防汚性を利用して、調理家電品やアイロンなどに広く使用され ている。今回開発された手法で得られたフッ素樹脂を使用して、家電品 用の部品が試作され、その機能評価が行われた。その結果、再生調合さ れたフッ素樹脂は現有フッ素樹脂を用いる場合と同等の性能を示し、製 品への適用が可能であるとの結論が得られている。図3-21 にR22 フロ ンのケミカルリサイクルのフロー図を示す。  R22 の年間生産量は8 万トンであり、そのうちの4 万トンが冷媒、残 り4 万トンから2 万トンのフッ素樹脂が作られている一方で3000 トン がエアコン等からの回収対象となる。フロンのケミカルリサイクル手法 による再利用技術が進展すれば、従来のフロン破壊処理に要する費用と エネルギー使用の抑制にも大きく寄与する。 ○家電リサイクル法が生んだブレークスルー 家電リサイクル法の運用が定着した結果、我が国はいつの間にか、世 界に先駆けて大きな技術的・社会的なブレークスルーを体験している (上野(2004))。表3-2 にその項目を示す。 使用済みプラスチックが大量かつ安定的に回収(供給)できることは、 これまで不安定であった再生プラスチックの市場が我が国に誕生するこ とを意味する。使用済み部品・コンポーネントの安定回収は、家電製品 では実現していない品質保証のされた部品・コンポーネントのリユース が実現する可能性を示している。製品開発者が、一番知りたい製品寿命 の市場データをリサイクルプラントに行けば手にすることができるよう にもなった。そして従来から安く早く大量に生産することを目的とした 我が国が世界に誇る生産技術の評価基準が変わってきたことである。こ のブレークスルーは、我が国の家電業界にだけ起きている世界でも特異 的なことであるが、やがて循環型経済社会の先鞭として世界に大きな影 響を与えるであろう。 ○家電業界の情報公開 環境配慮設計(DfE)※ 8 の実施範囲は素材・部品選定から、流通段 階の梱包・包装設計、使用時の省エネ設計、廃棄時のリサイクル容易設 計までと幅が広いので、実際に新製品を購入するとき製品本体やカタロ グを見ただけではなかなか理解できない。2002 年10 月に(財)家電製 品協会の製品アセスメント専門委員会では、同協会の専用ホームページ でDfE の取り組みと実施事例を公開した(上野(2002))。その後は、 英文版も公開している。製品事例は逐次拡充し、会員企業のホームペー ジ※ 9 にリンクして個別企業の環境情報も参照できるようになっている。 図3-22 にトップページとその構成を示す。  (社)日本電機工業会では、環境情報開示の手法としてISO の環境ラ ベルタイプ」(TR14025)の表示項目を参考にしながら表3-3 に示すよ うな12 項目からなる分かり易く簡便な家電製品共通環境表示項目を策 定し,電気冷蔵庫と洗濯機について会員各社製品の環境情報をホームペ ージ※10 で公開している。また、ここでは省略するが、(社)電子情報 技術産業協会からはテレビ、ビデオについて、(社)日本冷凍空調工業 会からはルームエアコンについて各社製品の環境情報が公表されてい る。