3-4 事務機器メーカーの取り組み事例  ここで紹介する企業は、環境保証を経営の重要な柱とし「省資源」、 「省エネルギー」、「有害物質排除」を重点テーマとして活動している。 その中でも特に「省資源」活動の一環として1970 年代より廃棄物の発 生抑制、再使用、再資源化をグループ全体として組織的な取り組みを行 ってきて、省資源、廃棄物削減の両面で実績をあげてきた。ここでは、 その実績及び取り組み例また企業にとっての環境保証活動を継続的に実 行するための収益性の確保についての現状を紹介する(キャノン株式会 社(2003))。 ○環境目標を掲げて  グループ内で廃棄物対策として中期環境目標を以下のように掲げてい る。 2010 年:廃棄物総発生量1998 年比30 %削減 2003 年:廃棄物総排出量1998 年比50 %削減 2003 年:国内事業所での埋め立て廃棄物ゼロ 廃棄物対策の基本であるリデュース(発生抑制)、リユース(再利用)、 リサイクル(再生利用)方法を改めて検討し、より高付加価値な廃棄物 対策をめざした取り組みを推進している。また有価物化のための徹底し た分別回収や解体、再資源化技術の導入などにより、国内39 事業所中 27 事業所で埋め立て廃棄物「ゼロ」を達成した。 廃棄物削減の推移と目標を図3-23 に示す。 2002 年の廃棄物の総発生量、総排出量の実績は、表3-4 に示すとおり である。 ○廃棄物削減の実際  上記のような廃棄物削減を1)発生抑制、2)減量化、3)再生利用・ 再資源化に分類し取り組みを紹介する。 事例1 発生抑制:レンズスラッジ ガラスレンズを製造する工程では、材料として購入したガラスブラン クから製品としてガラスレンズができ上がる工程で、ガラスブランクを 切削・研磨することからレンズスラッジと呼ばれるガラスの廃棄物が発 生する。この廃棄物は、1990 年には社内の総合計で91 トンに達した。 この対策として、ガラスブランクを可能な限り製品であるレンズに近い 形状にすることを実施した。これを具現化するにあたり、以下の2 点の 技術開発をガラス素材メーカーと共同で実施した。 (1)新規のレンズ成型シミュレーションソフトの開発による取代の極小 化(従来の約1/2) (2)レンズの研磨、切削工程で使用する切削工具及び研磨面の細目化の 実施。 これらの技術開発の効果で、レンズスラッジの発生量を対策前と比較 し約1/2 にすることに成功した。さらにレンズスラッジを高熱溶融スラ グ化した後、粉砕分級して骨材及び非透水性レンガ材料として使用が可 能となった。またレンズスラッジからランタン、セリウム等の希土類元 素を化学処理で高純度で回収する技術の開発も実施した。 事例2 減量化:廃液の濃縮 事務機器に使用されるインク製造工程から、インクの着色排水が廃棄 物として発生する。この廃液は、これまで濃縮後産業廃棄物として委託 処理を行っていた。廃棄物の減量化を目的として凝集剤によるインク排 水中の染料の凝集沈殿を検討した結果、凝集剤及び凝集助剤による染料 の凝集沈殿が可能となった。さらに色汚染度連続監視システムを組合わ せることにより、凝集沈澱処理後に自動的に放流することに成功した。 このシステムを導入することで廃棄物の発生量を対策前の約1/100 (重量比)に削減することに成功し、結果的に年間に1,000 万円以上の 経費削減等の経済効果をもたらした。 事例3 再生利用:発泡スチロール(EPS) 製品の梱包時の衝撃吸収剤として一般的に使用されている発泡スチロ ール(以下EPS)は、これまで使用後廃プラスチックとして回収、焼 却さらに焼却残渣をセメント原料として処理されていた。 廃棄物の発生抑制と処理費用の削減の2 つの観点から、回収、再生し たEPS を再生利用する計画を実現することに成功した。 図3-24 にそのリサイクルフロー図を示す。  ユーザーから回収したEPS は、販売拠点で回収しEPS 収縮物とし再 生材料メーカーにて粉砕される。次に粉砕された再生EPS とバージン EPS をビーズメーカーにて混合し、成型メーカーにて部品梱包材とし て成型され自社に納入される。  このようなリサイクルフローを完成させるために、再生EPS の物性 の検討及び梱包材としての衝撃吸収力の検証を行った。EPS の物性と しては、曲げ強度、圧縮クリープ特性、衝撃特性等のテストを実施した。 また製品を梱包した状態での衝撃試験、落下試験等を実施し再生EPS の総合的評価を実施している。  また再生EPS を使用することにより、結果的に年間に1,000 万円以上 の経費削減等の経済効果をもたらした。 事例4 再生利用:ストレッチフィルム(SF)  製品を梱包後パレット等に載せて運搬する際に、ストレッチフィルム (以下SF)と呼ばれるポリエチレン製の透明なフィルムを梱包した製品 の保護と荷崩れ防止の目的で使用している。年間数百トンのSF を使用 しているが、廃SF はこれまで産業廃棄物として処理していた。これら を有価物化するために、廃SF の回収拠点の整備、図3-25 に示すような SF のリサイクルフローにより再生SF を使用することが可能となった。  自社内で回収した廃SF を破砕後造粒を行い、原材料メーカーでリペ レット(ペレットに再生)しさらにフィルムメーカーにてフィルムに加 工する。再生SF の品質は、厚み、透明性、破断強度、引裂強度、表面 抵抗率等の物性を評価した結果従来のものと比較し遜色のない結果が得 られた。またLCA による環境負荷低減効果は再生SF を使用すること で従来に比べ10 %以上に及ぶことがわかった。 事例5 再資源化:金属材料  めっき廃液は、これまで乾燥し凝縮乾燥汚泥となったものを産業廃棄 物として処理してきた。めっき廃液中の金属を何らかの方法で取り出し 再資源化することを検討した。酸化還元反応を利用しめっき廃液中の硫 酸ニッケルを金属ニッケルとして沈殿させ回収することに成功し、回収 した金属ニッケルをめっきの原料として利用している。まためっき廃液 中に含有されているリンをリン酸肥料の原料として使用する検討を行 い、実用化に至っている。このようにニッケル及びリンを再資源化する ことで、産業廃棄物の量は実施以前の約1/3 となった。  以上、企業における廃棄物削減及び発生抑制対策について、廃棄物の 発生抑制、減量化、再生利用・再資源化という観点から事例をあげて解 説した。これらを組織的に取り組んで行くことが現時点での廃棄物削減 及び発生抑制対策に最も効果的であると考える。このように企業は、 「資源生産性の最大化」というテーマの下で、資源の使用効率を高めて いくことが要求される。あらゆる資源の消費を最小限にし、再使用・再 生利用しながら、製品やサービスの質を高めることを意味すると考える。 その課題は、いかに少ない資源やエネルギーで高い付加価値を生み出す かにかかっている。