4-1 文部科学省 ○ゴミゼロ・資源循環技術研究をめぐって  文部科学省は、第4 部で後に述べる他の省と異なり、それ自身が主務 官庁として廃棄物・リサイクル行政そのものを執り行うことはなく、専 ら科学技術・学術の振興という側面からこれらの問題に関係している。 具体的には、研究費とくに競争的資金の配分に関わりが深い。最近では 本イニシャティブと関係が深い分野における科学技術の基本的方向性に 関する検討も行っている。また、総合科学技術会議から示された研究資 源配分の方針に沿って着手された、「経済活性化のための研究開発プロ ジェクト(リーディング・プロジェクト)」と呼ばれる研究プロジェク トにおいても、本イニシャティブに関係する課題が実施されている。  科学技術の基本的方向性に関しては、2003 年5 月に科学技術・学術 審議会研究計画・評価分科会においてとりまとめられた「地球環境科学 技術に関する研究開発の推進方策について」に、本イニシャティブに関 連の深い記述が多く盛り込まれている。この検討では、幅広い環境問題 に目を向けているが、とくにゴミゼロ型・資源循環型技術研究について、 今後取り組むべき研究課題に踏み込んだ記述がなされている。  一方、総合科学技術会議による「平成15 年度の科学技術に関する予 算、人材等の資源配分の方針」を受けて、「実用化に直結した基礎研究 による比較的短期間で成果の実用化が図られるもの、または実用化まで に長期間を要するが、その中途段階ごとに一定の成果が期待できるも の」、「大学等のシーズを核として大学等と産業界の両者のポテンシャル を活用することが不可欠なもの」、「研究開発成果の明確な目標がスケジ ュールとともに設定されていること」等の要件を満たす研究開発課題が リーディング・プロジェクトとして位置付けられ、重点的に予算が配分 されている。環境分野で実施されている唯一の課題である「一般・産業 廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」は、本イニシ ャティブの主要課題の一つである。 ○競争的資金について  文部科学省所管の競争的資金は制度上、科学研究費補助金、科学技術 振興調整費、戦略的創造研究推進事業などに区分される。また、これら 各々について、いくつかの区分に分けて事業が実施されているが、とく に最近、募集区分の見直し、改訂が頻繁になされている。  科学研究費補助金は、「人文・社会科学から自然科学まで全ての分野 にわたり、基礎から応用までのあらゆる『学術研究』(研究者の自由な 発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする『競争的資金』」 であり、本イニシャティブに関連する研究課題も、これまでに実施され てきた。例えば、1997 年度から4 ヵ年実施された特定領域研究「ゼロ エミッションをめざした物質循環プロセスの構築」は、本イニシャティ ブの対象分野と特に関わりが深いが、それ以前に、より広範な環境問題 を対象に実施された重点領域研究「人間−環境系の変化と制御」(1987 〜1992年度)、「人間・地球系−人間生存のための地球本位型社会の実 現方法」(1993〜1997 年度)、さらにそれ以前の10 年にわたる環境科 学特別研究が、今日の環境研究やその人材育成の基盤となっている。  科学技術振興調整費は、旧科学技術庁所管であったが、省庁再編によ る内閣府総合科学技術会議の発足、科学技術庁と文部省の統合による文 部科学省の発足により、総合科学技術会議がその基本方針を示し、文部 科学省が配分事務を行うことになった。この枠では、本イニシャティブ との関連で特記すべきプログラムは現時点では設定されていないが、こ れまで個別の実施課題において、循環型社会形成等に資する環境分野の 研究開発等が実施されてきている。  戦略的創造研究推進事業は、独立行政法人科学技術振興機構(2003 年10 月に旧科学技術振興事業団: JST から改組。JST は新技術事業団 と日本科学技術情報センター: JICST が1996 年10 月に合併して発足 したもの)が予算配分を行っている。このうち、CREST ※1 タイプと呼 ばれるものは、「戦略的基礎研究推進事業」という名称で実施されてい たものが、科学技術基本計画及び総合科学技術会議による「競争的資金 の目的・役割の明確化」という方針を踏まえ、2002 年度から再編され たものである。CREST 研究で、環境分野にかかわるものとして、1995 〜 1997 年度開始の研究領域「低環境負荷型の社会システム」があげら れる。この領域の下での採択課題はいずれも既に終了しているが、1996 年度開始の「社会実験地での循環複合体のシステム構築と環境調和技術 の開発」※2 など、本イニシャティブの対象と密接に関連する課題が含 まれていた。また、1998 年度、1999 年度開始分として、研究領域「資 源循環・エネルギーミニマム型システム技術」が設けられており、この 枠でも「資源循環」に関する研究開発が進められてきている。  戦略的創造研究推進事業のうち、本イニシャティブと関わりの深いも う一つのプログラムとして、社会技術研究プログラムがあげられる。こ のプログラムは2001年度募集分が最初であり、「環境や福祉・生活支援、 安全問題等、社会や国民ニーズへの対応が求められているものの市場原 理ではなかなか取り組みの進まない課題や、現実社会が直面している諸 問題の解決を図り、社会における新たなシステムの構築等を目指す」と されている。社会技術研究は、3 つの研究領域から構成されているが、 その一つが「循環型社会」であり、本イニシャティブの対象分野、とく に循環型社会創造支援システム開発プログラムと密接にかかわるもので ある。この領域の概要は、「個々の要素技術を超えて理工学的視点、社 会科学的視点の両面から地球環境問題に俯瞰的に取り組む、広義の『循 環型社会』についての研究を対象とする。具体的には、持続可能な開発 を判断する指標群の開発、エコ効率の高い技術、製品、サービスの設計、 生産、普及、循環のための新たな社会システムとビジネスモデルの構築 や環境認識共同体の形成のための方法等の研究が含まれる」とされてお り、2001 〜 2003 年度までに9 課題が採択されている。  独創的革新技術開発研究提案公募制度は、2000 年度にミレニアム・ プロジェクトの一環として創設され、「次代の産業の未来を切り拓くと ともに、21 世紀の新たな発展基盤を築く革新性の高い独創的な技術開 発に関する研究を、民間等において研究活動に携わる者等から提案公募 の形式により幅広く募り、優秀な課題を選定し、より革新的かつ、実用 的な技術への育成を図る」ことを目的とする制度である。本制度では従 来より公募分野の1 つとして、「環境」に関する分野を設けており、 2003 年度には「環境・エネルギー」分野として公募を行った。なお、 2004 年度からは独立行政法人科学技術振興機構(JST)に移管し、「革 新技術開発研究事業」において、引き続き「環境・エネルギー」分野を 設け、公募を行っている。  大学発ベンチャー創出のための制度は、「大学等の研究成果を基にし た起業が実現されるために必要な研究開発を推進することにより、大学 発ベンチャーが創出され、これを通じて大学等の研究成果の社会・経済 への還元を推進すること」を目的としたものである。同制度は、2002 年度に文部科学省で「大学発ベンチャー創出支援制度」として発足し、 2003 年度からは科学技術振興機構で大学発ベンチャー創出推進事業 (2004 年度に「大学発ベンチャー創出事業」から名称変更)として実施 している。制度名は、「大学発」とされているが、大学のほか、高等専 門学校、国公立試験研究機関、研究開発を行っている特殊法人、独立行 政法人も応募可能である。本イニシャティブの対象分野では、2003 年 度に「家庭用有機物資源化装置(オーガニックシステム)の研究開発 (長崎大学)」が「環境・その他」分野で採択されている。  総合科学技術会議の競争的資金一覧には掲載されていないが、独立行 政法人日本学術振興会(JSPS)が実施する未来開拓学術研究推進事業 でも、競争的資金が提供されてきている。この事業は、「21 世紀を展望 し、地球規模の問題の解決、経済・社会の発展、豊かな国民生活の実現 等を目指し、我が国の未来の開拓につながる創造性豊かな学術研究を大 学主導により重点的に推進すること」を目的とし、1996 年度に発足し ている。複合領域の下に設けられた9 分野のうち、「環境負荷の影響評 価と軽減」の中で、廃棄物・資源循環に関係する課題が1997 年から 2003 年まで実施された。 ○ 21 世紀COE プログラム  これら研究支援を第一義とする競争的資金とはやや性格が異なるが、 21 世紀COE プログラムによる研究教育拠点づくりも、研究支援に関連 の深いものとしてあげられる。21 世紀COE プログラムは、「大学の構 造改革の方針」(2001年6月)に基づき、2002年度から文部科学省に新 規事業として「研究拠点形成費補助金」が措置されたものである。この プログラムは、我が国の大学が世界のトップレベルの大学と伍して、教 育及び研究水準の向上や世界をリードする創造的人材を育成していくた めに、競争的環境を醸成し、世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支 援することにより、活力に富み、国際競争力のある世界最高水準の大学 づくりを推進することを目的としている。「学際・複合・新領域」にお いて環境・エネルギー関連の拠点が採択されており、2003 年度採択の 岡山大学「循環型社会への戦略的廃棄物マネジメント」などが、本イニ シャティブの分野に該当する。  一方、旧科学技術庁傘下の国立試験研究機関は、独立行政法人として 再編されたが、無機材質研究所と金属材料技術研究所から発足した独立 行政法人物質・材料研究機構は、「エコマテリアル」研究など、資源循 環と密接に関連する研究開発に取り組んでいる。