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第77回総合科学技術会議議事要旨


(開催要領)

1.開催日時:2008年10月31日(金)17:30〜18:30

2.場所:総理官邸4階大会議室

3.出席議員

 議長 麻生 太郎 内閣総理大臣
 議員 河村 建夫 内閣官房長官
 同 野田 聖子 科学技術政策担当大臣
 同 鳩山 邦夫 総務大臣
 同 中川 昭一 財務大臣
 同 塩谷  立 文部科学大臣
 同 二階 俊博 経済産業大臣
 同 相澤 益男  
 同 薬師寺泰蔵  
 同 本庶  佑  
 同 奥村 直樹  
 同 郷  通子  
 同 榊原 定征  
 同 金澤 一郎  
(臨時議員)    
 議員
舛添 要一 厚生労働大臣
 同
斉藤 鉄夫 環境大臣


(議事次第)

1.開会

2.議事
(1) 平成21年度概算要求における科学技術関係施策の重点化の推進について
(2) 諮問第7号「特定胚の取扱いに関する指針の改正について」及び
諮問第8号「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針の改正について」
(3) 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定について
(4) 報告事項
(5) 2008年ノーベル賞受賞者との意見交換

3.閉会


(配付資料)
資料1−1   平成21年度概算要求における科学技術関連施策の重点化の推進について(PDF)
資料1−2  

平成21年度概算要求における科学技術関連施策の重点化の推進について
1(PDF)2(PDF:446KB)3(PDF:470KB)4(PDF:480KB)5(PDF:470KB)
6(PDF:405KB)7(PDF)

資料2−1   諮問第7号「特定胚の取扱いに関する指針の改正について」(PDF)
資料2−2   諮問第8号「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針の改正につい て」(PDF:311KB)
資料2−3   諮問第7号「特定胚の取扱いに関する 指針の改正について」及び
諮問第8号「ヒトES細胞の樹立及び使用に関す る指針の改正について」 (参考資料)
1(PDF)2(PDF:435KB)3(PDF)
資料3−1  「国の研究開発評価に関する大綱的指針」改定案(PDF)
資料3−2   「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定案(案)(PDF:396KB)
資料4−1−1  独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動(平成19事業年度)に関する所見について(PDF)
資料4−1−2   独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動(平成19事業年度)に関する所見について(PDF)
資料4−1−3  

独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動に関する調査結果(平成19事業年度)
1(PDF)2(PDF:443KB)3(PDF)4(PDF:475KB)5(PDF:465KB)
6(PDF:490KB)7(PDF:500KB)8(PDF:493KB)9(PDF:456KB)10(PDF)
11(PDF:450KB)12(PDF:447KB)13(PDF:425KB)14(PDF:459KB)
15(PDF)16(PDF:421KB)17(PDF:383KB)18(PDF:344KB)19(PDF:500KB)
20(PDF:482KB)21(PDF:323KB)22(PDF:42KB)23(PDF:304KB)24(PDF:323KB)
25(PDF)26(PDF:311KB)27(PDF)

資料4−2  

iPS細胞研究の推進について(第一次とりまとめ)(PDF)

資料4−3   宇宙開発利用専門調査会の廃止について(PDF)
資料5   研究内容の紹介(PDF)
資料6   第76回総合科学技術会議議事録(案)(PDF)


* 議事概要中の資料はPDFファイルです。

(会議概要)

1.議事概要

麻生議長(内閣総理大臣)御挨拶

【麻生議長(内閣総理大臣)】
昔、総務大臣のときに毎回お世話になっていたが、改めて総理大臣として一言御挨拶させていただきたい。
日本の強みは勤勉な国民と科学技術。その科学技術政策の司令塔という意味で、この会議は非常に大事なものだと思っている。
科学技術によって日本の未来を。資源のない国であり、人材が資源だと思う。有意義かつ活発な御意見を心から期待する。

(1)平成21年度概算要求における科学技術関係施策の重点化の推進について

 「平成21年度科学技術関係施策の重点化の推進」について、資料1−1(PDF)に基づき、相澤議員から説明。

(2)諮問第7号「特定胚の取扱いに関する指針の改正について」及び諮問第8号「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針の改正について」

 諮問第7号「特定胚の取扱いに関する指針の改正について」及び諮問第8号「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針の改正について」
について、塩谷文部科学大臣から説明。

(3)「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定について

 『「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定』について、「資料3−1」(PDF)に基づき、野田科学技術政策担当大臣から説明。


 資料3−2(PDF)の『「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の改定案(案)』については、原案どおり決定し、総合科学技術会議から
 内閣総理大臣に対し意見具申することとした。

 議題(1)〜(3)に関する議員の意見等は以下のとおり


【舛添議員】
 本日、研究費について総合科学技術会議における科学的な評価が出された。厚生労働省は、国民の命と健康を守るという観点から様々な研究に取り組んでおり、その間口はかなり広いものとなっている。その中で、今、特に力を入れているのが難病を克服するための研究である。難病は、患者数が少ないため、民間の研究資金が集まりにくく、また、病気の種類も多いため、まだ多くの患者さんが、治療法の開発が進まず苦しんでいる。しかし、患者数が少ない病気だから救われないという状況を放置することはできない。まさに国が率先して難病の研究に取り組む必要があると思う。これは国の責務だと考えている。
 私は、政治の責任として、つらいお立場におられる患者さんのために難病対策の抜本的強化に取り組む決意である。今後とも関係各位の御支援と御協力をお願い申し上げる。


【塩谷議員】
 国際競争が大変激化している中で、欧米に加えて、アジア諸国も大変な科学技術の強化を図っているところであり、景気低迷の打破をするためにも成長力強化に向けて科学技術の振興は不可欠。今回の順位づけ等を踏まえ、文部科学省としても政府の研究開発の主な役割を担う立場からしっかり予算編成に取り組みたいと思っている。
 このたび日本人によるノーベル賞受賞を受けて、基礎科学への関心が高まっているが、iPS細胞の樹立や鉄系超伝導物質の発見などの画期的な成果も基礎科学分野は出ている。また、国際競争力強化の観点からも宇宙輸送システムや次世代スーパーコンピューターなど国家基幹技術の推進の重要性が高まっていることも踏まえ、引き続き一層の努力をしてまいる次第。総合科学技術会議においては、革新的技術推進費の確保を初め、科学技術関係予算の増大に向けてリーダーシップを発揮していただくようお願い申し上げる。


【鳩山議員】
 我が国のGDPの成長率に対して、情報通信産業の寄与度が4割ぐらいあると言われており、そういう意味で我が国の成長力、国際競争力の強化の観点から情報通信技術の発展について重点的に進めていきたい。来年度については、優先度判定においてA評価をいただいた3次元映像技術やネットワークロボット技術などの革新的技術、それから情報通信技術を活用して家庭の消費エネルギーを抑制するという環境エネルギー技術に重点化を図っている。


【二階議員】
 昨今の経済情勢は、ややもすると国民が自信を失いがちなところだが、こういうときだからこそ科学技術によって将来の成長の根をきちっとつくっていく必要があると思っている。先般、閣議でも決定した新経済成長戦略においては、世界に先駆けての低炭素革命を実現する、革新的な省エネ、新エネルギー技術の開発を促進するということが重要な柱の一つになっている。この中で、先ほどお話のあった革新型蓄電池に関する研究事業は、典型的なプロジェクトであると確信している。資源、環境のイノベーションによる低炭素社会の実現に向けて、経済産業省としてもまさに官民総力戦でこの戦略に取り組むべきだということを強く認識している。
 私は、以前にアメリカのロスアラモス研究所を訪ね、NEDOとロスアラモス研究所で革新型の電池の共同研究をもう既にスタートさせているが、こうしたものとお互いに刺激し合っていい成果をおさめるようにしていたきいと思っている。ロスアラモスは、ご承知のとおり、原子爆弾の、我々としては思いのあるところだが、それはそれとして科学技術という意味では、1万4,000人もの研究員がいて、これをそのままにしておく必要はなく、積極的に取り入れていこうということで、今研究を進めている。
 もう一つ申し上げておきたいと思うのが、中小企業。独創的な技術を持ちながら商品化に結びつけられていないということがかなりあるのではないか。従業員は5人しかないというところで立派なものをつくっている会社もたくさんある。私たちは今まで420万の中小企業の中で300社を毎年選んで、立派な中小企業の典型的な見本だということでやってきた。今度この300社を150ともう一つの150に分けて、小さいほうの従業員5人とか10人とかといういわゆる小規模事業者、今まで零細と呼んでいたが、零細では自信が持てないので小規模事業といい、これは法律にもあるわけだが、そういうことで支援をしていきたいと思う。そういう方々に対して、お墨つきの場を与えていただくのは重要であり、こうした先生方のお集まりの総合科学技術会議は、この力を与えるという意味では大変立派なものですから、どうぞ御指導、応援をいただきたいと、このことをお願いしておきたいと思う。


【斉藤議員】
 1つは環境大臣として、環境エネルギー技術に重点化し、S及びA、また加速という評価をいただいたことに深く感謝する。  もう一点は、大綱的指針改定案だが、このとおりですばらしいと思う。研究者の方といろいろ議論するときに必ず、特に大学の先生から出てくる御意見として、重点化、そして評価は確かに大事なんだけれども、そのことによっていわゆる基礎的研究がお金の面でも、また人員の面でも、また国のバックアップの面でも少し力が落ちてきているのではないか、畑全体に水をまくように、その中から芽が出てきたものに対して重点的に肥料をやるということはいいが、まだ芽が出てきていない時点から、どこかに重点的に肥料をやるというようなやり方だと本当の芽が出てこないのではないかという意見を聞く。この大綱的指針にある重点化と評価ということは、限られた資源を有効に使う意味で大事なことだが、基礎的な研究に対して、今研究者の人がかなり危機感を持っているということも感じたので、どうかよろしくお願いしたい。


【薬師寺議員】
 塩谷大臣から諮問いただいた特定胚の取扱いに関する指針の改正について。これは4年前にメディアも非常に注目して、3大紙が一面の横並びで結果を出したクローン胚の研究の解禁の件。科学技術はやはり国民のための科学技術なので、そういう点ではきちんとした時間をかけて審議いただき、指針の改正について諮問いただいたことに御礼申し上げる。科学技術というのは国民のための科学技術だという典型的なケースなので、しっかりとこちらから答申を出させていただきたいと思う。

(4)報告事項

 野田大臣より、独立行政法人、国立大学法人等の平成19年度の活動状況について、有識者議員に所見を取りまとめたこと、昨年、京都大学の山中教授により世界で初めてつくられたiPS細胞について、その研究をオールジャパンで迅速に進めるための方策を取りまとめ公表したこと、総合科学技術会議の「宇宙開発利用専門調査会」を廃止することを報告。

(5)2008年ノーベル賞受賞者との意見交換

 資料5(PDF)に基づき、小林・益川両先生からノーベル物理学賞を受賞した研究内容について説明の後、意見交換。


 意見交換における議員の意見等は以下のとおり


【本庶議員】
 先ほど二階大臣、斉藤大臣から非常にいいお言葉をいただき、非常に心を強くした。その前に小林・益川先生、大変おめでとうございます。この2人のいわゆる常識を破るような研究が評価されるまでに35年かかっていることは非常に意味があると思う。こういう革新的な発見が理解され、国民の利益というか、実際の役に立つまでにはものすごい時間がかかると。先ほど二階大臣が困難なときにこそ先へ向けた投資をしなければいけないと。実際に我々の先輩は、明治時代には、やはり100年の計を立てて財政困難なときに国立大学をつくり、大きな投資をした。今日日本がこれだけ発展したのは、やはりそのおかげがあるのではないかと考えている。また、斉藤大臣は基礎研究を重視しろとおっしゃった。これも私まさに申し上げようと思っていたことをおっしゃっていただき、大変ありがたいと思っている。政府の研究資金で、民間ができない基礎研究に重点化をするというのは、最も重要なことだと思っている。GDP比でいきますと、日本の政府研究資金というのは、まだ米国、ドイツ、フランスに比べて低い。また、中でも基礎研究とプロジェクト型を比べると、基礎研究のほうが低いということで、ぜひ今後とも基礎研究を充実し、国家100年の計を目指した長期的な投資を続けていくよう関係各位のお力添えをお願いしたい。


【塩谷議員】
 きょうは小林先生、益川先生、本当にありがとうございます。麻生内閣誕生と同時に4人の日本人がノーベル賞を受賞したことは日本のレベルの高さを証明したこととなっていますので、改めて基礎研究は大切なことだと思っている。このために1週間後(来週金曜日)に、小林・益川先生のほかあと4名のノーベル賞受賞者、それから有識者の方々にお集まりいただいて、研究環境の改善あるいは研究費の充実、さらには若い人に対して、この興味・関心をどう向上していったらいいかという点について等、具体的にいろんなお話をお伺いして、特に基礎科学力強化ということで、懇談会を行うようにしているので、御意見を伺って取り組みたいと思っているので、来週もまた先生方、よろしくお願いしたいと思う。


【奥村議員】
 両先生、おめでとうございます。違う切り口から一言。ただいま御紹介があったように、KEK(高エネルギー加速器研究機構)というか、理論も国内発、それから設備も国内の装置で確証されたことは、大変うれしいことだと思っているが、そういう設備をつくる技術もやはり大事だと思う。KEKの加速器をつくる材料、装置、その他の技術。これらは産業界の持っている技術をさらに一段ステップアップした技術から来ているのではないかと思う。前に小柴先生のノーベル賞のときも先生の本を拝見していたら、あの発見に貢献した大きな光電子増倍管と超純水の技術も産業技術の延長だろうと思う。やはり科学は科学で極めて徹底して専門分化で奥義を極め、産業技術も産業技術で違う方法で進化させる。両方ないとこれからの科学と技術がうまいこと発展していかないのではないかと思う。これが私は大事だと思いますが、いかがか。


【小林先生】
 そのとおりだと思う。例えば高エネルギーの場合、日本の産業が非常に力になっていることも事実。それともう一つ、高エネルギー研の場合だが、生まれてから40年ぐらいになるが、やはりそれだけの技術というか蓄積があって初めてB−ファクトリーで開花したと言えると思う。いきなりこういうレベルには来ないと思う。そういうノウハウの蓄積は非常に重要だという気がしている。


【榊原議員】
 今のお話に関連するが、一般には産業界というのは開発研究や応用研究、いわゆる国際競争力に資するような技術開発には熱心だが、基礎研究の推進には熱心ではないという考えがあるようだが、そうではなくて、産業界、私自身も含めて基礎研究は非常に大事だと思っている。基礎研究と応用研究は車の両輪というか、基礎研究が車の前輪で応用研究が車の後輪といった関係にあるのではないかと思う。基礎研究の土台なしには応用研究の発展はあり得ないと考えており、両方とも必要だと思っている。私どもの経験でも国際競争に勝ち抜くような重要な技術は、いずれもその画期的な科学的発見あるいは革新的な科学的知見を土台にしたもので、小林先生も上流の基礎科学が枯れると下流も枯れるということを言っていらっしゃるが、まさにそのとおりだと思う。
 我々企業でも研究活動をしているわけだが、基礎研究と応用研究両輪で運用しており、私どもの場合でも全研究勢力の15%ぐらい、3,000何百人のうちの500人ぐらいを基礎研究に当てている。ただ、大事なことは基礎研究と応用研究のマネジメントの仕方、評価の仕方を明確に区分しているということ。基礎研究者には10年間ぐらいは事業的な成果は問わない。15年、20年先に事業の種となるような画期的な科学的発見あるいは革新的な科学的知見を生み出してほしいというミッションを与えており、細かいスケジュール管理や成果管理という短期的な評価はせずに、研究者の自主的な研究にゆだねている。一方、事業化がかかっている応用研究については、厳しい成果管理、スケジュール管理をする。成果が出なければ思い切ってやめてしまうといったことをしている。基礎研究についておもしろい統計データがあって、私どもの研究組織は世界で20ぐらいあるが、画期的な発明とか発見の多くは、本社の管理の目の届かない遠隔地、遠いところで成果が上がっている。例えば愛媛や海外で言えばアメリカでいい発見ができている。今回、両先生は、純粋に日本国内で成果を上げられたわけだが、一方で南部先生や下村先生は若いころからアメリカに研究拠点を移している。同じノーベル賞を受賞された江崎先生や利根川先生に一度お話を伺う機会があったが、先生方はアメリカに何で移転されたかとお聞きしたら、もちろん処遇の問題もあるが、アメリカでは研究者の雑用が圧倒的に少ないとおっしゃっておられた。研究に没頭できる風土、環境があると。それが一番大きなアメリカに移転する理由だということだった。したがって、きょうも評価の話があったが、色々な優先付け、評価は非常に大事だが、一方で基礎的な研究、例えば国の研究で言えば大挑戦枠のようなハイリスクの基礎研究の場合には、きょうの大綱的指針にもあったが、余り画一的な厳しい評価ではなくて、長い目で基礎研究を見守るあるいは育てるといった思想での評価が必要ではないかと思う。多分両先生方はそういった環境で研究されたと思うが、そういったことが必要だと思う。
 それから、全体の国の研究開発投資については、ぜひ一層の拡充をお願いしたいとい思う。


【郷議員】
 ありがとうございます。小林先生、益川先生本当におめでとうございます。私と益川先生は名古屋大学の大学院の同級生。私はお茶の水女子大学から名古屋大学の大学院の物理に行き、一緒に試験を受けた。私たちの学年は13名で、女性は私ともう一人、神戸大学から来た女性がいて、私と彼女は当時物理教室で生物物理を始めた大沢文夫先生のところに入った。クラスが仲良く集まっていて、優秀なクラスだったことが後から分かった。益川さんはそのときからいつも大きな声でいつもしゃべっていて、ほとんどの方が坂田昌一先生、益川さんがいらした大変大御所の素粒子の先生だが、そちらの研究室に進まれた。
 私の指導教官であった生物物理の大沢文夫先生が「飄々楽学」という本を書いている。飄々は飄々たるで、楽学は楽しく学問をすると、そういうタイトルの本があり、その中で実は私たちの同級生の北門新作さんが名古屋大学を定年退官するときに益川さんを紹介している。失礼だが、益川さんは英語ができなかったと。英語がお好きではないことは皆さん御存じだと思いますが、坂田昌一先生はそういうことは全く問題にしなかった。ドクターを出すときも英語の論文が幾つ必要だとかそういうことは全くなし。ただ、益川さんはよくできてこういう仕事をしたから、もうドクターを出そうとおっしゃると、みんながオーケーしたと、そういう時代だった。
 先ほど論文を何年もかかって書かれたということだったが、今はとにかく論文が何編なければドクターを出さない。それから、もっと言うと、教員は毎年論文を出さなければいけないとか、非常にせせこましい評価があって、先ほど斉藤大臣がおっしゃったが、それが今の大きな問題を生んでいると思う。私たちの時代は憧れがあったと思う。それはやはりサイエンスを引っ張っていらっしゃる坂田昌一先生や、その当時は化学の平田義正先生もおられたし、大沢文夫先生という生物物理の先生もおられた。そして大らかだったので、私たちは論文を書けと言われなかった。私も余り言われなかった。でも、本質的な問題、だれもやらないような問題をやりなさいと。それでエンカレッジされていたし、お金はなくて貧乏だったが、研究をする。その当時は湯川先生だけがノーベル賞受賞者だった。62年に大学院に入った。そういう憧れ、それからやはり基礎研究の偉大な研究者に対する尊敬が大きかったので、たとえ職に就けなくても研究しようと思って励んだ。
 雰囲気というか、今と比べてどういうところがよかったと思われるのか、益川さんからお聞きできたらと思います。ノーベル化学賞の受賞者である下村脩先生もちょうど同じころに平田研究室にいらっしゃった。榊原議員もおられた。名古屋のあの雰囲気は皆さん共有していますので。


【益川先生】
 名古屋大学は1939年ぐらいにできたが、戦争中だったので私が大学に入ったのが1958年。その頃は新設の大学とほとんど同じような雰囲気で、先生方も非常に若かった。もう一つは社会の風潮として戦争で負け、日本には資源がないから科学で食べていくより仕方がないということで、科学に対する社会全体の熱い思いがあった。我々も戦前のようにお金持ちしか大学に行けないような時代ではなくて、あの時代は本当に貧乏な人でも勉強をしたい人達は来ていた。最近を見ると、家庭教師をつけるのとつけないのとで見たら、同じ頭だったら家庭教師をつけたほうがいいということで、ある統計によれば明らかにそういうお金持ちとは言わないけれども、ゆとりがある家庭でないと入りにくくなっている。そういう意味で、高校生、中学生が科学に憧れを持つということと、そういう人たちが自分の希望がかなえられるような社会(にすること)。それから、もう一つはドクターは出たけれども、就職できないというOD問題がある。お金を出してOD問題を完全に解消するなどということは、ばかげていると思う。私がいた京都大学の素粒子は、1つの講座に非常に優秀な学生が毎年5人入ってくる。しかし、それをみんな就職させるといったら、大学はパンクする。だから、そういう人たちが自然に転向というか選択していけるような。先ほど郷さんの言われたことでも、我々のクラス、大学はほとんど就職しているが、初め素粒子だと言っていた人間がM1のときは六、七人いた。それが実際に学問をやってみておもしろくなれば、自然に分かれていく。だから、そういう人たちが自然に転進というか選択していけるような、進める道みたいなものを用意してあげることが社会に必要なことではないかと。なぜそんなことが起こるかといったら、実験にしろ理論にしろ、教科書で勉強する。そうすると、それしか知らないから、そこで主に書いてあるところにまず向かおうとする。それがだんだん勉強し出すと、ここにもおもしろい道があるぞとわかって分散していく。だから、その分散していくようなシステムみたいなものを上手につくってあげれば、OD問題みたいなものも全部とは言わないが、ある程度解消するのではないのかと思う。

2.麻生議長(内閣総理大臣)しめくくり発言


【麻生議長(内閣総理大臣)】
 本日は、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生に御出席いただき、御礼申し上げる。
 今年、日本から4名ものノーベル賞受賞者が一挙に出たことは、本当に明るいニュースだと思っている。何となく暗いニュースが多い中にあって、大変明るい気持ちにさせていただいた。このことは日本の底力を示した意味で、大変誇らしく思っている。
 私どもとしては、第二、第三の小林・益川両先生に続く人を生み出す手助けをしていかなければと思っている。長期的な戦略は非常に大事。科学技術政策に関しては、長期的な視野を常に持って、きちんとした対応をしていきたい。

内閣府  科学技術政策・イノベーション担当
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