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自殺対策 サイトマップ
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平成14年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)

自殺と防止対策の実態に関する研究

研究協力報告書

WHOによる自殺予防の手引き

研究協力者:高橋祥友(防衛医科大学校・教授)

 

研究要旨:世界保健機関(WHO)は自殺予防のための6種の冊子を2000年に公表し、多くの国々で翻訳され、活用されている。その中で、一般医、プライマリケア従事者、メディア関係者向けの手引き書を翻訳した。これらの手引きはわが国でも十分に利用可能なものと考えられる。

A.研究目的

WHOが各国の専門家の意見をもとに、それぞれの目的に沿った自殺予防の手引きをまとめている。わが国にも十分に適応できるものであり、それを翻訳して紹介する。

B.研究方法

WHOがまとめた自殺予防の冊子のうち、一般医向け (WHO: Preventing Suicide: A Resource for General Physicians.WHO/MNH/MBD/00.1)、プライマリケア従事者向け(WHO: Preventing Suicide: A Resourcefor Primary Health Care Workers.WHO/MNH/MBD/00.4)と、メディア関係者向けの手引き (WHO: Preventing Suicide: A Resource for Media Professionals.WHO/MNH/MBD/00.2)を全訳した。なお、わが国の実情に合わない部分に関しては注を加えてある。

(倫理面への配慮)

WHO文書の翻訳であり、被験者はいないため、倫理的な問題はない。営利目的で使用しない限り、翻訳して配布することに問題はないとの確約をWHOから得ている。

C.結果と考察

【一般医のための手引き】(注1)

(注1)手引きではgeneral physician という言葉を用いているが、精神科以外の一般の医師を指している。かかりつけ医、プライマリケア医、ホームドクターなどだが、ここでは一般医で統一しておく。

患者が自殺するということは医師が経験する最悪の出来事のひとつである。その際に医師が経験する一般的な反応には、不信感、自信喪失、怒り、恥などがある。患者の自殺によって専門家としての能力や技量に対する自信喪失や名声の失墜が生じる。さらに、医師は遺族や知人に対応することに非常に困難な思いをする。

この手引きは一般医を主な対象としてまとめた。自殺に密接に関連する問題や他の要因を提示し、自殺の危険が高い患者をどのように発見し対処するかについての方針を示す。

自殺の影響

WHOの推計によると、2000年には世界中で100万人が自殺している。どの国でも自殺は10位以内の死因であり、15〜35歳の年代では、3位以内の死因になっている。自殺が家族や社会に対して及ぼす心理社会的影響は計りしれない。自殺が1件生じると、最低でも平均6人が深刻な影響を受ける。学校や職場で自殺が起きると、数百人の人々に影響を及ぼす。

自殺のもたらす影響はDALY(disability adjusted life years)で推定される。この指標によると、1998年には、自殺は全世界ですべての病気がもたらした影響の1.8%であった(高収入国で2.3%、低収入国で1.7%)。これは戦争と他殺を合わせた影響に匹敵し、糖尿病の影響の約2倍、死産と外傷の影響とほぼ同等であった。

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自殺と精神障害

自殺はさまざまな要因から生じる問題であると今では考えられている。すなわち、生物・遺伝・心理・社会・環境要因が複雑に関与して生じる。自殺した人の40〜60%は、自殺する以前の1ヶ月間に医師のもとを受診していたことを研究の結果が示している。その多くは、精神科医ではなく、一般医のもとを受診している。精神科治療の体制が十分に整備されていない国では、自殺の危険の高い人が一般医を受診する可能性はさらに高いと考えられる。

したがって、自殺の危険が高い患者を評価し、適切に対処し、自殺を予防するために、医師はきわめて重要な役割を果たしている。

自殺それ自体は病気でもなければ、かならずしも病気の症状でもない。しかし、精神障害は自殺に密接に関連している主要な要因である。

先進国でも開発途上国における調査でも、自殺した人の80〜100%が生前に精神障害に罹患していたことが明らかにされている。自殺の生涯危険率は気分障害(主にうつ病)で6〜12%、アルコール依存症で7〜15%、統合失調症で4〜10%である。

ところが、自殺した人の大多数が精神保健の専門家に受診せずに、最後の行動に及んでいる。したがって、プライマリケアの場において精神障害を早期に診断し、専門医に紹介し、適切な治療を実施することは、自殺予防の重要な第一歩となる。

また、自殺者に認められる共通点として、複数の障害を抱えているという事実がある。たとえば、アルコール依存症とうつ病、あるいは人格障害と他の精神障害が同時に存在する場合は危険度はさらに高くなる。

精神科医と連携し、患者が適切な治療を受けられるようにすることは、一般医がすべき重要な役割である。

 

気分障害

気分障害のすべてのタイプが自殺と関連している。すなわち、ICD-10 のF31〜F34に該当する双極性障害、うつ病、反復性うつ病、慢性の気分障害(例:気分循環症、気分変調症)などである(1)。したがって、診断も下されずに治療もされていないうつ病では自殺の危険はきわめて高い。うつ病の有病率は一般人口においても高いのだが、多くの人はそれを病気と認識していない。一般医のもとを受診している患者の30%がうつ病に罹患していると推定されている。うつ病患者の約60%はまず精神科ではない一般医のもとを受診している。身体疾患と同様に心理的問題についても取り組んでいかなければならないというのは、医師にとってきわめて負担が大きい。さらに、身体的な症状だけを訴える患者が多いことも問題を複雑にしている。

うつ病では一般的に以下のような症状が現れる。
●抑うつ気分(悲哀感)
●興味や喜びの喪失
●エネルギーの低下(疲れやすさ、活動の低下)

うつ病でよく現れる症状は以下のようなものがある。

このような症状に気づいたら、医師はうつ病が存在する可能性や自殺の危険の評価をすべきである。以下のような症状は、うつ病で自殺の危険が増す臨床的な特徴である(2)。

うつ病患者で以下のような特徴が認められる場合には自殺の危険が高まる(3) 。

うつ病は思春期でも老年期でも自殺の重要な危険因子であるが、とくに晩発性のうつ病は危険が高い。

うつ病の治療が最近発展してきたことは、プライマリケアの場における自殺予防にとって大いに関連がある。うつ病を診断し治療することを一般医に教育したところ、スウェーデンでは自殺率を減らすことができた(4)。抗うつ薬がうつ病患者の自殺率を減らしたという疫学データもある。十分な治療量の薬物を数ヶ月投与し続けるべきである。高齢者においては、回復後も2年間治療を続ける必要があるだろう。炭酸リチウムによる維持療法を受けている患者では自殺の危険が、より低いことが明らかになっている(5)。

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アルコール依存症

自殺者は生前にしばしばアルコール依存症(アルコールの乱用および依存)に罹患していたことが明らかになっている。とくに若年者にこの傾向が顕著である。自殺とアルコール依存症の関係については、生物・心理・社会的な説明が可能である。以下の要因がアルコール依存症患者の自殺の危険を高めている。

(注2)わが国では40〜50歳代の男性と高齢者で自殺率が高い。

 

統合失調症

統合失調症患者の最大の死因は自殺である。統合失調症に関連した自殺の危険因子には以下のようなものがある(6)。

以下のような時期に自殺率はとくに高まる。

統合失調症が発病して長年が経過すると自殺の危険は徐々に下がっていく(注3)。

 

人格障害

最近の調査によれば、自殺した若年者では人格障害が高率に認められた(20〜50%)。境界性人格障害や反社会性人格障害が自殺に密接に関連している(7)。

衝動性や攻撃性を伴う演技性人格障害や自己愛性人格障害も自殺に関連している。

 

不安障害

不安障害の中でも、パニック障害がもっとも自殺に関連しており、それに強迫性障害が続く。身体表現性障害と摂食障害(神経性食欲不振症、過食症)も自殺行動に関連している。

(注3)慢性の統合失調症における自殺の危険について注意を喚起する報告も少なくない。

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自殺と身体疾患(注4)

慢性の身体疾患では自殺の危険が高まる(8)。さらに、身体疾患に罹患している患者では精神障害(とくにうつ病)が合併する率が高い。慢性の障害や予後不良であるという事実が自殺と関連している。

 

神経疾患

てんかんでは自殺率が高まるという報告がある。衝動性、攻撃性、慢性の障害などのために、てんかんと自殺には関連があるとされてきた。脊髄損傷や頭部外傷でも自殺の危険は高まる。最近の調査では、脳卒中(とくにより身体的な障害を伴う後頭葉領域の障害)後では19%の患者が抑うつ的になり、自殺の危険も高まる。

 

悪性新生物(がん)

診断された直後や、末期疾患の最初の2年間に、進行性の悪性新生物の患者の自殺率が高まる。

 

HIV/AIDS

HIV感染やAIDSでは、とくに若者の自殺率が高まる。診断が確定された当初や病気の初期に自殺の危険が高い。薬物を静脈内に投与する乱用者が最も危険が高い。

 

他の疾病

慢性の腎疾患、肝疾患、骨や関節の障害、循環器疾患、消化器疾患などの他の慢性の身体疾患も自殺の危険を高める。運動、視覚、聴覚の障害も自殺の契機になり得る。

近年、安楽死や自殺幇助が医師にとって重要な問題になってきている。しかし、積極的安楽死はほとんどの国で違法であり、自殺幇助は道徳・倫理・哲学的な論争を引き起こしている。

(注4)身体疾患と自殺の関係は以前考えられていたほど1対1といった単純なものではなく、他の心理・社会的な条件も当然考慮しなければならない。

 

自殺:社会・人口動態的要因

自殺は個人的な行為であるのだが、ある種の社会・人口動態的要因が自殺に関連している社会もある。

 

性別

大多数の国では既遂自殺者は男性に多いが、その男女比は国によって異なる。中国は唯一例外的な国で、農村部では女性の自殺者数が多く、都市部でも自殺数は男女ほぼ同数である。

 

年齢

高齢者(65歳以上)と若年者(15歳〜30歳)で自殺率のピークを認める(注5)。中年男性の自殺率が上昇しているという最近のデータもある。

 

婚姻

離婚した人、配偶者を亡くした人、結婚していない人は、結婚している人に比べて自殺の危険が高い。結婚は男性にとって自殺防止の保護要因であるが、女性では必ずしもそうではないようだ。別居や単身生活も自殺の危険を高かめる。

 

職業

獣医、薬剤師、歯科医、農民、医師など、高い自殺率を示す職業がある。この点について確固たる説明はないが、致死性の高い方法を手に入れやすい、職業上の重圧、社会的孤立、経済的な問題などが挙げられている。

 

失業

失業率と自殺率の間に強い相関関係があるが、両者の関係はきわめて複雑である。失業の結果として、貧困、社会的孤立、家庭内の問題、絶望感などが生じ、自殺と関連してくる。精神障害に罹患している人は、精神的な問題を抱えていない人に比べると職を失う可能性も高いだろう。また、最近失業したことと、長期にわたって失業状態にあることに関しても配慮しなければならない。前者のほうが自殺の危険は高い。

(注5)わが国では、中高年(50歳代)と高齢者に2つの自殺率のピークがある。

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地方・都市での居住

都市部の自殺率が高い国もあれば、農村部での自殺率が高い国もある。

 

移民

外国へ移民し、貧困、劣悪な住環境、社会的なサポートの不足、期待が十分に達成できないなどの理由から、自殺の危険が高まる。

 

その他

ある特定の自殺手段が容易に手に入ったり、とくにストレスに満ちた出来事を経験するといった社会的な要因は、自殺の危険を高める上で重要な役割を果たしている。

 

自殺行動に及ぶ危険の高い患者をどのように発見するか

自殺に関連する以下のようないくつかの個人的かつ社会人口動態的要因がある。

患者がすでに精神科治療を受けている場合は、以下のような時にとくに自殺の危険が高まる。

さらに、以下のような最近経験したストレッサーも自殺の危険に関連している。

調査のために自殺の危険を評価するさまざまな尺度が開発されてきたが、自殺の危険が緊急に迫っている人を発見するためには熟練した臨床家による面接ほど有用なものはない。

自殺行動に及びかねないさまざまな状況に医師は出会うことになるだろう。高齢の男性が最近妻を亡くし、うつ病の治療を受けていていて、単身で生活し、以前にも自殺を図ったことがあるといった人と、失恋したために手首を数カ所切ったという若い女性は、両極端の事例と考えてよいだろう。しかし、現実には、ほとんどの患者がこの両極端の間に位置し、揺れ動いているといってよい。

ある患者が自殺するのではないかと医師が妥当な疑いを抱いた時に、それでは、その後どのように進めていけばよいかジレンマに陥る。自殺の危険が高い患者に対処するのが苦手な医師もいる。そのような医師は、自分の感情について十分に意識しておきながら、患者に対処するにあたって、同僚や精神保健の専門家に援助を求めるべきである。けっして、自殺の危険を無視したり軽視してはならない。

もしも、医師が自ら患者に対処していこうと決めたのならば、最も重要で緊急な第一歩は、たとえ待合室に他の多くの患者がいたとしても、その患者に十分な時間を取ることである。

理解しようとする態度を示すことによって、医師は患者との間に良好な疎通性を築き上げることができるだろう。あまり、答をはっきり求めるような直接的な質問は最初は望ましくない。「すっかり困っているように見えますよ。どうしたのか話してみてください」などと語りかけるとよいだろう。共感を示しながら相手の訴えに傾聴すること自体が、自殺の危険を伴うような絶望感を徐々に和らげていく最初の重要な一歩となる。

 

誤解
事実
自殺について語る患者は滅多に自殺しない。 自殺する患者は普通前もって何らかのサインを発している。自殺をするとほのめかすような場合は真剣に受け止めるべきである。
患者に自殺について質問すると、かえって自殺行動を引き起こしてしまう。 自殺について質問するとしばしばその感情に伴う不安感が和らいでいく。患者は安心し、理解されたと感じる。

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どのように質問すべきか

希死念慮について質問することはけっして容易ではない。徐々にその話題に入っていくほうがよい。以下のような質問をしていくとよいだろう。

 

いつ質問をすべきか

以下のような内容の質問をすることが重要である。

 

さらにどのような質問をするか

自殺したいという気持ちを患者が抱いているという事実だけを確認しただけですべてが終わるわけではない。希死念慮がどれくらい強くて、自殺の危険がどれくらい高いかを確認するためにさらに質問していかなければならない。患者がすでに自殺の計画を立てていて、その方法まで手に入れているかどうかを知ることは重要である。銃で自殺するつもりだといっても、銃を手に入れる方法がなければ、自殺の危険は比較的低い。しかし、計画をすでに立てていて、具体的な方法(たとえば、薬)を手に入れている場合、あるいはその方法がすぐに手に入るような場合は、自殺の危険は高い。押し付けるような感じや強制的な感じを相手に抱かせないようにして、さらに詳しく質問していくことが重要である。暖かく相手を思いやるような態度で、医師が患者に共感を抱いていることを示しながら質問する。以下のような質問が含まれるべきだろう。

注意
●表面的には改善したように見えるときがある。不安焦燥感が極めて強かった患者が、自殺を決行することを決意してしまい、その後、表面的には落ち着いて見える場合があるのだ。
●否認。深刻に自殺について考えているにもかかわらず、そのような考えを意図的に否定する患者もいる。

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自殺の危険が高い患者への対処法

患者が感情的に混乱しているものの、希死念慮がまだ漠然としたものであるときには、真に心配している医師に、患者がその思考や感情を打ち明ける機会を与えられるだけで十分なことがある。しかし、患者が周囲から十分なサポートを得られない場合には、その後も慎重にフォローアップしていかなければならない。どのような問題を抱えていようとも、自殺の危険が高い患者は無力感、絶望感、失望感に圧倒されているのだ。患者は以下のような心理状態に置かれている。

  1. 両価性:ほとんどの人は自殺することに対して最後まで複雑な相反する感情を抱いている。生きたいという願望と死にたいという願望の間を激しく揺れ動いている。もしも、医師が患者の生の願望を強めることができれば、自殺の危険は和らいでいく。
  2. 衝動性:自殺は衝動的な行為である。他の衝動と同様に、自殺衝動も一時的なものである。もしも衝動的な行為に及びそうなときに適切なサポートが与えられれば、自殺願望は軽減するだろう。
  3. 頑固さ:自殺の危険が高まると、思考・感情・行為が非常に幅の狭いものになっていき、二者択一的な思考法に陥っていく。他の可能な選択肢を探っていき、たとえそれが理想的なものでないにしても、他にも解決策があることを医師は患者に優しく示す必要がある。

 

どのようなサポートが選られるか

患者が実際に周囲の人々からどのような、そしてどの程度のサポートが得られるのか医師は評価しなければならない。親戚、友人、知人、他の人々など、患者を支えてくれる人を探し、協力を求める。

 

自殺しないと約束してもらう

自殺を予防するには「自殺しない」という約束を取り交わすことが有用である。そのような約束を交わす時に、患者にとって近い関係にある人に同席してもらうのもよい。このような約束について話し合うことで、他のさまざまな関連の問題が浮かび上がってくる。大多数の患者は医師との約束を尊重する。自分の行動を十分にコントロールできる患者の場合のみに、このように約束することが適切である。

重症の精神障害や希死念慮を認めない場合には、医師は抗うつ薬や心理療法(認知行動療法)を用いて治療をすることもできる。継続して医師と連絡を取りあえることで、大多数の患者は救われた思いがする。これらは個々のケースの必要性にあったものである必要がある。

背景に精神障害があり、その治療の必要性がある場合を除き、2〜3ヶ月以上サポートが必要な人はほとんどいない。希望を与え、自立を働きかけ、人生のストレスに対処していく他の方法を患者に教えることなどがサポートの中心になる。

 

専門家への紹介

いつ紹介すべきか

以下のような場合、医師は患者を精神科医に紹介すべきである。

 

どのように紹介すべきか

紹介すると決めた場合、医師は以下のようにすべきである。

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いつ患者を入院させるか

以下に緊急入院の条件をいくつか挙げておいた。

 

どのようにして患者を入院させるか

 

自殺予防の各段階のまとめ

患者に自殺の危険があると疑ったり、その危険に気づいた場合に医師が取るべき主なステップを次表にまとめた。

 

自殺の危険
症状
評価
対策
0
苦痛はない
1
感情が混乱している 希死念慮について尋ねる 共感を持って傾聴する
2
漠然と死を思う 希死念慮について尋ねる 共感を持って傾聴する
3
漠然と自殺を考える 意図を評価する(計画や方法) 周囲からどの程度のサポートが得られるか評価する
4
希死念慮はあるが、精神障害はない 意図を評価する(計画や方法) 周囲からどの程度のサポートが得られるか評価する
5
希死念慮、精神障害がともにある。あるいはきわめて深刻な人生のストレスに見舞われた。 意図を評価する(計画や方法)自殺をしないという約束をしてもらう 精神科医に紹介する
6
希死念慮と精神障害がともにある。あるいはきわめて深刻な人生のストレスに見舞われた。あるいは、不安焦燥感が強く、以前にも自殺を図ったことがある。 (自殺手段が手に入らないようにするために)患者と一緒にいる 入院

文献

  1. WHO. International Statistical Classification of Disease and Related Health Problems. 10th Revision. Vol.1 Geneva, World Health Organization, 1992.
  2. Angst J, Angst F, Stossen HM. Suicide risk in patients with major depressive disorders. Journal of Clinical Psychiatry, 1999, 60, Suppl. 2: 57-62.
  3. Simposon SG, Jamison KR. The risk of suicide in patients with bipolar disorder. Journal of Clinical Psychiatry, 1999, 60, Suppl. 2: 53-56.
  4. Rutz W, von Knorring L, Walinder J. Long-term effects of an education program for general practitioners given by the Swedish Committee for Prevention and Treatment of Depression. Acta Psychiatrica Scandinavica, 1992, 85: 83-88.
  5. Schou M. The effect of prophylactic lithium treatment on mortality and suicidal behavior. Journal of Affective Disorders, 1998, 50: 253-259.
  6. Gupta S, et al.: Factors associated with suicide attempts among patients with schizophrenia. Psychiatric Services, 1998, 10: 1353-1355.
  7. Isometsa ET, et al. Suicide among subjects with personality disoreders. American Journal of Psychiatry, 1996, 153: 667-673.
  8. Gonzalez Seijo JC, et al. Poblaciones especificas de alto riesgo. [Population groups at high risk.] In: Bobes Garcia J, et al., eds. Prevencion de las Conductas Suicidas y Parasuicidas. [Prevention of Suicidal and Parasuicidal Behaviors.] Masson, Barcelona, 1997, 69-77.
  9. Gunnnell D, Frankel S. Prevention of suicide: Aspirations and evidences. British Medical Journal, 1999, 308: 1227-1233.

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【プライマリケア従事者のための手引き】

自殺:問題の深刻さ

自殺は複雑な現象であり、単一の原因や理由では説明できない。自殺とは、生物・遺伝・心理・社会・文化・環境的な多くの要因が相互に作用して生じる複雑な現象である。

自殺を決意する人もいれば、同様のあるいはそれ以上の劣悪な状況にあるのに自殺しない人もいるという事実を説明するのは非常に難しい。

自殺は現在、全ての国々とって公衆衛生上の重要な問題である。プライマリケア従事者が地域において自殺の危険の高い人を発見し、その危険を評価し、働きかけ、専門家へ紹介することができれば、自殺予防にとって重要な一歩となる(注6)。

(注6)プライマリケア従事者:WHOの冊子では、primary health care worker となっている。一般には、地域の掛かり付け医(いわゆるホームドクター)などがまず念頭に浮かぶのだが、むしろこの冊子では、たとえば、保健師、ソーシャルワーカー、そして場合によってはボランティアなど、自殺の危険の高い人に最初に接触する可能性のある人を指している。そのため、「プライマリケア従事者」に統一しておいた。

 

なぜプライマリケア従事者を対象とすべきなのか

以上をまとめると、プライマリケア従事者は、地域住民にとってすぐに援助してもらえ、地域のことをよく知っていて、献身的なケアが可能なのである。

 

自殺と精神障害

発展途上国および先進国における研究で共通して次の2点が明らかにされている。第一に、自殺した人の大多数は生前に精神障害に罹患していた。第二に、自殺行動は精神障害者でより高率に認められる。以下のような精神障害が自殺に関連している。

自殺した人のほとんどは生前に何らかの精神障害に罹患していたが、その大多数は、先進国においてさえ、精神保健の専門家に受診していない。したがって、プライマリケア従事者の果たす役割はきわめて大きい。

 

うつ病

うつ病が既遂自殺と最も関連している精神科診断である。誰でも時には気分が滅入ったり、悲しくなったり、孤独に感じたり、不安定になることはあるが、このような感情は普通はしばらくするとおさまるものである。しかし、こういった感情が長引いて、日常生活に支障を来すようになると、単に気分がふさぐといった状態を超えて、うつ病と呼ばれる状態になる。うつ病の一般的な症状としては以下のようなものがある。

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どうしてうつ病が見逃されてしまうのか

うつ病に対して各種の治療法があるにもかかわらず、しばしばうつ病が適切に診断されていないのは次のようないくつかの理由がある。

うつ病は治療が可能である。したがって、自殺は予防できる。

 

アルコール依存症

(注7)アルコール依存症と自殺の関連は、欧米ではわが国以上に強調されている。

飲酒の問題を抱えていて自殺する人には以下のような特徴がある。

アルコール依存症のために自殺する人は、若い頃から飲酒を開始し、多量に飲酒するばかりでなく、アルコール依存症の家族のもとで育ったという場合も少なくない。

自殺行動に及ぶ若者に薬物乱用が増えつつあることも明らかになっている。

うつ病とアルコール依存症が合併した場合、自殺の危険は一層高くなる。

 

統合失調症

統合失調症患者の約10%は結局、自殺によって死亡する。統合失調症では、思考障害、幻聴、衛生状態が保てなくなる、社会生活に支障をきたすといった症状が出てくる。まとめると、行動、感情、思考の面で極端な変化が現れてくる。

統合失調症で自殺の危険が高まる患者には次のような特徴がある。

統合失調症の患者は次のような場合にさらに自殺の危険は高まる。

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身体疾患と自殺

ある種の身体疾患と高い自殺率が示唆されている。

 

神経疾患

てんかん

てんかんの患者で、衝動性、攻撃性、慢性の障害を認める場合、自殺行動に及ぶ傾向が強まる可能性がある。アルコールや薬物の乱用が重なれば、さらに危険が高まる。

 

脊髄損傷、頭部外傷、脳血管障害

障害が重篤なほど、自殺の危険は高まる。

 

がん

末期疾患(たとえば、がん)では自殺率が高まる。以下のような人には自殺の危険がより高い。

 

HIV/AIDS

この病気に対する偏見や予後が不良のためにHIV に感染した人の自殺の危険は高まる。診断を下されたときに、心理的なカウンセリングを受けられないと、自殺の危険が高い。

 

慢性疾患

その他にも、歩行、視覚、聴覚に問題を抱えた人も自殺の危険が高い。

苦痛を伴う慢性疾患に罹患した人の自殺率は高まる。

 

自殺:社会・人口動態・環境的要因

性別

既遂自殺者は男性に多く、未遂自殺者は女性に多い。

 

年齢

自殺には次の2つのピークがある。

 

婚姻

離婚した人、配偶者が亡くなった人、結婚していない人は、結婚している人に比べて自殺の危険が高い。単身生活者、別居者も危険が高い。

 

職業

医師、獣医、薬剤師、化学者、農民は、一般人口よりも高い自殺率を示す。

 

失業

職を失うということも自殺に関連していることが明らかになっている。

 

転居、移民

農村から都市部へ転居した人や、外国に移住した人はより自殺の危険が高まる。

 

ライフ・ストレス

自殺を決行する以前の3ヶ月間に、以下に挙げるようなさまざまな人生におけるストレスに満ちた出来事を経験している。

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方法が容易に手に入る

ある種の手段がすぐに手に入るということは、自殺が決行されるか否かに大きく関わってくる要因である。そこで、自殺手段を容易に手に入れられないようにすることは有効な自殺予防対策になる。

 

他者の自殺を経験する

実際に知っている人、あるいはメディアを通じて誰かの自殺を知った人(とくに若者)はそれに影響されて、自分自身も自殺行動に及ぶ可能性がある。

 

自殺の危険の高い人の心理状態

自殺の危険の高い人の心理状態として以下の3点が特徴的である。

  1. 両価性:ほとんどの人は自殺することに対して複雑な相反する感情を抱いている。生きたいという願望と死にたいという願望の間を激しく揺れ動いている。生きていくことの苦しみから逃れたいという衝動とともに、生きたいという願望がともに存在している。自殺の危険の高い多くの人は、実際には死にたいわけではなく、むしろ、人生に満足していないと言うべきである。適切な援助が差し伸べられれば、生の願望は増し、自殺の危険は和らいでいく。
  2. 衝動性:自殺は衝動的な行為である。他の衝動と同様に、自殺衝動も一過性のものであり、数分あるいは数時間しか続かない。この衝動性はごく日常的な不快な体験から引き起こされるのが一般的である。そのような危機的状況を解決するか、あるいはしばらく時間をかせぐことによって、プライマリケア従事者は自殺の願望を減らすのに助力できる。
  3. 頑固さ:自殺の危険が高まると、思考・感情・行為が非常に幅の狭いものになっていく。常に自殺のことばかりを考え、問題を解決する他の方法を考えられなくなってしまい、ひどく極端な思考に陥ってしまう。

自殺の危険の高い人の大多数は希死念慮を伝えている。「死んでしまいたい」「生きていても無駄な存在だ」などと、何らかのサインやはっきりと言葉に出しているのだ。このような救いを求める必死な叫びを無視してはならない。

どのような問題であっても自殺の危険の高い人の感情や思考は世界共通のものである。

 

感情
思考
悲哀、抑うつ 「死んでしまいたい」
孤独感 「なにもできない」
無力感 「もう耐えられない」
絶望感 「私は負け犬だ。皆の迷惑になる」
無価値感 「私がいないほうが皆は幸せだ」

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どのようにして自殺の危険の高い人に働きかけるか

「生きているのに疲れた」とか「生きている意味がない」などと打ち明けられた場合、話を逸らしたり、もっと苦しんでいる人もいるのだと反論することがしばしばある。こういった反応は、自殺の危険の高い人にとって何の役にも立たない。

自殺の危険の高い人に最初にどのように対応するかは非常に重要である。しばしば、こういったやり取りが起きるのは、慌しい診察室であったり、患者の自宅であったり、公の場所であり、個人的に話をすることは難しいかもしれない。しかし、以下のような原則を守ってほしい。

  1. 他人の目を気にしないで静かに個人的に話しができる適当な場所を探す。
  2. 十分な時間をとる。自殺の危険の高い人というのは、自分の背負ってきた重荷を下ろすのに多くの時間がかかる。話を聞く人は、十分な時間を与える必要がある。
  3. 最も重要なのは、誠実に相手の訴えを傾聴することである。真摯な態度で耳を傾けることは、自殺にまで追いやられるような絶望感を少しでも和らげるための重要な一歩となる。

不信感や絶望感のために深められてしまった溝を埋めて、事態を改善する希望があることを伝えるのが目的となる。

そのためには、次のようにすべきである。

逆に以下のようなことをしてはならない。

冷静で、率直で、相手の立場を思いやり、受け入れ、一方的な判断を下さないといった態度が、相手とのコミュニケーションを促進する。

相手を思いやる態度で訴えに傾聴する。
相手の立場を尊重する。
感情に共感を示す。
自信を持って相手を思いやる。

 

自殺:誤解と事実

自殺に関しては広く信じられている誤解がある。その誤解と事実をまとめてみた。

 

誤解
事実
1.自殺を口にする人は本当は自殺しない。 1.自殺した人のほとんどはその意図を前もってはっきりと打ち明けている。
2.自殺の危険の高い人の死の意志は確実に固まっている。 2.大多数の人は死にたいと言う気持ちと生きていたいという気持ちの間を揺れ動いている。
3.自殺は何の前触れもなく生じる。 3.自殺の危険の高い人はしばしば死にたいというサインを表わしている。
4.いったん危機的状況がおさまって症状が改善すると、二度と自殺の危機は起きない。 4.いったん改善してエネルギーが戻ってきて、絶望感を行動に移すことができるような時期にしばしば自殺が生じる。
5.すべての自殺が予防できるわけではない。 5.これは事実である。しかし、大多数は予防が可能である。
6.一度でも自殺の危険が高くなった人はいつでも自殺の危険に陥る可能性がある。 6.希死念慮は再び生じるかもしれないが決して永遠に続くわけではないし、二度とそのような状態にならない人もいる。

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自殺の危険の高い人をどのようにして発見するか

現在や過去の以下のような行動からそのサインを発見する。

  1. 引きこもりがちな行動を認め、家族や友人と良好な関係を持てない。
  2. 精神障害。
  3. アルコール依存症。
  4. 不安障害、パニック障害。
  5. 不安・焦燥感、厭世的態度、抑うつ感、無力感などに現れる性格変化。
  6. 自殺未遂歴。
  7. 食事や睡眠パターンの変化。
  8. 自己嫌悪、自責感、無価値感、恥辱感。
  9. 最近、重大な喪失体験があった。例:死、離婚、別居など。
  10. 自殺の家族歴。
  11. 個人的な事柄を突然整理しようとしたり、遺言状を用意する。
  12. 孤独感、無力感、絶望感。
  13. 遺書。
  14. 身体疾患。
  15. 死や自殺をしばしば話題にする。

 

自殺の危険をどのように評価するか

プライマリケア従事者が、自殺行動が起きる可能性に気づいたならば、以下の点について検討しなければならない。

ある人が自殺したいと考えているかを知るためにもっともよい方法というのは、直接質問することである。広く信じられていることとは異なり、自殺について話しても、自殺を実行に移すことを植えつけることにはならない。実際には、相手は真剣に話を聞いてもらって感謝し、率直に話ができたことで安心し、自分の抱えている問題を話題にする。

 

どのように質問すべきか

希死念慮について質問することはけっして容易ではない。徐々にその話題に入っていくほうがよい。以下のような質問をしていくとよいだろう。

 

いつ質問をすべきか

 

何を質問すべきか

1. 自殺するはっきりとした計画があるかどうかを確かめるためには、

2. 具体的な手段を手にしているかどうかを確かめるためには、

3. 自殺を決行する時期を決めているかどうかを確かめるためには、

相手を思いやり、心配し、共感しながら、これらの質問をしなければならない。

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どのようにして自殺の危険の高い人に働きかけるか

危険度:低

「もう駄目だ」「死んだほうがましだ」といった希死念慮を抱いているが、具体的な計画はない。

具体的な対処法

危険度:中

希死念慮があり、その計画を立てているが、直ちに自殺するつもりはない。

具体的な対処法

危険度:高

自殺についてはっきりとした計画があり、その方法も手にしていて、直ちに自殺する危険がある。

具体的な対処法

 

紹介

いつ紹介すべきか

どのように紹介すべきか

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援助源

以下の人々や機関がサポートを差し伸べてくれる。

 

どのようにして援助源に連絡を取るか

 

すべきこと・してはならないこと

すべきこと

 

してはならないこと

 

結論

慎重な態度で、自殺の危険の高い人に関わり、心底から相手を心配し、人生には価値があるのだと伝える。これこそがプライマリケア従事者が、自殺予防のためにできることなのだ。

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【マスメディアのための手引き】

現代社会において、メディアは、広範囲にわたる情報をさまざまな方法で提供し、重要な役割を果たしている。地域の態度、信条、行動などに大きな影響力を持ち、政治、経済、社会に対して重要な役割を果たしている。このような影響力があるからこそ、メディアは自殺予防にも積極的な役割を果たすことができる。

おそらく自殺は自己の命を終わらすもっとも悲劇的な方法である。自殺を考えている人の大多数は、生と死の間を揺れ動いているのであって、けっして死の意思が固まっているわけではない。そもそも自殺に傾きやすい人を死の渕に追いやるさまざまな要因のひとつとして、メディアによる自殺報道の影響もあるだろう。メディアが自殺をいかに報じるかということは他の自殺にも大いに影響を及ぼす可能性がある。

本冊子はメディアが自殺を報道することによってどれほどの影響力を持つかを概説する。そして、一般的状況あるいは特定の状況で自殺をどのように報道すべきか提言し、さらに、自殺を報道する際に避けるべき問題点についても指摘する。

 

自殺に関するメディア報道の影響力

1774年に出版されたゲーテの「若きウェルテルの悩み」は、メディアと自殺に関連があるということを示す最も古い一例である。その小説では、失恋した後に、主人公は銃で自殺した。この本が出版されて間もなく、多くの若い男性が同じ手段で自殺したと伝えられた。その結果、この本はいくつかの場所で発禁となった(1)。というわけで、自殺の模倣を示すのに「ウェルテル効果」という言葉を使っている学術論文もある(注8)。

(注8)模倣性とは、ある人物の自殺がモデルとなり、他の複数の自殺を引き起こす過程を指す。群発自殺とは、一連の自殺が時間的・空間的に近接して起こる現象を指し、直接的な関連がある場合とない場合がある。伝染性とは、ある人物の自殺が、他の複数の自殺を引き起こす場合を指し、直接的あるいは間接的に前に起きた自殺について知っていたかということは問わない。

自殺とメディアの役割についての他の研究は20 世紀に米国で実施された (2)。広く知られている最近の事例として、DerekHumphry の書いた"Final Exit"(最後の出口)があり、ニューヨークではこの本に説明されていた手段を用いた自殺が増加した(3)。フランスで出版された「自殺」という題の本が翻訳された後に、やはり自殺の増加が見られた(4)。Philips らによると、ある自殺がどれほど大々的に報道されたかという程度は、その後に引き起こされる自殺の数に直接関連している(5)。著名人の自殺の事例は、とくに強い衝撃をもたらす(6)。

テレビもまた自殺行動に影響を及ぼす。テレビが自殺のニュースを伝えた後は10日後まで自殺が増えることをPhilips は示した(7)。活字メディアと同様に、多くの局や番組で取り上げられ、広く知られた事例ほど影響力があり、とくに自殺したのが著名人の場合その傾向がよりいっそう強かった。しかし、フィクションの番組については、その影響力について意見の一致を見ていない。すなわち、まったく影響がないというものから、自殺行動が増加したというものまである(8)。

演劇や音楽と自殺行動の関係についてはあまり調査されていない。主に個々の事例の報告に過ぎない。

最近では、インターネットが一連の新しい話題を提供している。希死念慮のある人が自殺するように仕向けるウェブサイトもあれば、自殺を予防しようとするウェブサイトもある。インターネットが自殺にもたらす影響について今のところ系統的な研究はない。

一般的に、現実に起きた自殺について新聞やテレビが報道すると、自殺が統計学的に有意に増える場合があることを示唆する十分な証拠があり、とくに若者に影響が強いように思われる。大多数の自殺はメディアでは報道されないのだが、特定の人物、方法、場所によっては、自殺を報道するという決断が下される。自殺はしばしばニュースバリューがあり、メディアにはそれを報道する権利がある。しかし、メディアの注目を最も集める自殺というのは、一般のパターンからはるかに外れた自殺でもあるのだ。実際のところ、メディアで報道される事例というのは、ほとんどの場合、非定型的で、例外的なものであり、それを典型的な例であると報道するために、自殺についての誤解がますます広まってしまう。潜在的に危険性の高い人の自殺行動を増やしてしまうのは、自殺報道そのものではなく、ある種の特定の報道の仕方であることについて臨床家や研究者は同意している。その反対に、自殺行動を模倣するのを防止するのに役立つ報道の仕方もある。それにも関わらず、自殺について報道することは、自殺は「正常な行為である」という認識を広めてしまっている可能性がある。自殺について繰り返し持続的に報道すると、特定の人は自殺についてますますとらわれてしまう。その影響はとくに思春期や若年成人で強い。

啓発されたメディアによって、適切で、正確で、援助するような方法で自殺が報道されるならば、自殺によって生命が失われるという悲劇的な死を予防することに役立つだろう。

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信頼できる情報源

自殺に関して信頼に足る情報が世界のいくつかの機関から得られる。WHO のデータバンクには1950年からの年齢と性別の自殺に関するデータがある。他の機関としては、国連児童基金(UNICEF)、国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)、国連女性開発基金(UNIFEM)、国際臨床疫学ネットワーク(INCLEN)、国際児童虐待防止協会(ISPCAN) 、国際刑事警察機構(INTERPOL) 、欧州統計事務所(EUROSTAT)、世界銀行などがある。

さらに、いくつかの行政機関、各国の学会、ボランティア組織なども情報を提供している。たとえば、スウェーデン自殺予防研究センター、オーストラリア統計局、米国のCDC などである。

国際自殺予防学会(IASP http://www.who.ina-ngo/ngo/ngo027.htm)、アメリカ自殺予防学会(AAS http://www.suicidology.org/ )、オーストラリア若者のメンタルヘルス初期介入ネットワーク(AEINMHYP http://www.auseinet.flinders.edu.au/ )、国際自殺研究学会(IASR http://www.uni-wuerzbur.de/IASR/ ) などは独自のウェブサイトで情報を提供している。該当する国の過去18〜36 ヶ月の自殺に関する最新の情報がこれらの機関から入手できる。

自殺総数はしばしば実際よりも低く報告されている。その程度は、自殺がどのように判定されているかによって、国により異なる。自殺の報告数が実際よりも低い他の原因としては、偏見、社会・政治的要因、生命保険の規定などがあり、事故死や他の原因の死と処理されているためである。自殺は実際よりも20〜25%は現実よりも低く報告されていると推定される(高齢者では、6〜12%)。

自殺未遂者の約25%しか治療を求めていないために、自殺未遂に関する世界的な公式記録はない。したがって、ほとんどの自殺未遂に関しては報告も記録もない。

 

自殺のデータを使用する際の注意点

しばしば自殺に関する各国のデータが比較されるが、死亡に関する情報の収集法が国によって大きく異なるために、直接比較することはきわめて難しい場合があることを念頭に置くべきである。

自殺率は一般に人口10万人あたりに年間に生じる自殺者数で表わされる。十分に大きくない人口(たとえば、市、県、あるいは人口の少ない国)に関して自殺率が報告されている場合は、たとえ、数件の自殺さえも極端に全体像を変化させてしまうかもしれないので、とくに慎重に解釈しなければならない。人口25万人以下の場合、自殺率で表わすのではなく、一般的には実際の自殺総数で表わすほうがよい。

また、年齢補正して自殺率が報告されることもある。しばしば15歳以下の自殺は発生件数が少ないという理由で統計から除外されているが、多くの国々でこの年齢層において自殺が激増している。

 

自殺を報道する際の一般的原則

自殺を報道する際にはとくに以下の点に注意を払う必要がある。

 

特別な自殺をどのように報道すべきか

以下の点を念頭に置くべきである。

 

入手可能な援助源について情報を与える

自殺報道に際して以下のような情報を伝えることによって、メディアは自殺予防の重要な役割を果たすことができる。

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まとめ

ぜひすべきこと

 

してはならないこと

 

文献

  1. Schmidtke A, Schaller S. What do we do about media effects on imitation of suicidal behavior. In: De Leo D, Schmidtke A, Schaller S, eds. Suicide prevention: A holistic approach. Dordrecht, Kluwer Academic Publishers, 1998: 121-137.
  2. Motto J. Suicide and suggestibility. American Journal of Psychiatry, 1967, 124: 252-256.
  3. Marzuk PM et al. Increase of suicide by asphyxiation in New York City after the publication of "Final Exit". New England Journal of Medicine, 1993, 329: 1508-1510.
  4. Soubrier JP. La prevention du suicide est-elle encore possible dupuis la publication autorisee d’un livre intitule: Suicide Mode d’Emploi-Histoire, Techniques, Actualites. (Is suicide prevention still possible after the authorized publication of a book entitled "Suicide: How to do it ‐ History, techniques, news") Bulletin de l’Academie Nationale de Medecine, 1984, 168: 40-46.
  5. Philips DP, Lesnya K, Paight DJ. Suicide and media. In: Maris RW, Berman AL, Maltsberger JT, eds. Assessment and prediction of suicide. New York, Guilford, 1992: 499-519.
  6. Wasserman D. Imitation and suicide: A re-evaluation of the Werther effect. American Sociological Review, 1984, 49: 427-436.
  7. Philips DP. The impact of fictional television stories on US adult fatalities: New evidence on the effect of the mass media on violence. American Journal of Sociology, 1982, 87: 1340-1359.
  8. Hawton K et al. Effects of a drug overdose in a television drama on presentations to hospital for self-poisoning: Time series and questionnaire study. British Medical Journal, 1999, 318: 972-977.

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