特集 自殺統計の分析

第3節 原因・動機別にみた自殺動向の変化

(健康問題は平成10年にピーク、経済・生活問題は15年および21年にピーク)

原因・動機別の自殺死亡率(図3)は、「健康問題」が最も高く、次いで「経済・生活問題」、「家庭問題」、「勤務問題」などが高くなっており、その順位は自殺死亡率の急上昇以前から直近まで入れ替わっていない。自殺死亡率が急上昇した平成10年には、こうした原因・動機が軒並み上昇した。その後、「健康問題」は変動しつつも緩やかな低下傾向にあったが、「経済・生活問題」はほとんど低下することなく15年をピークとした山を形成し、また、「家庭問題」、「勤務問題」はわずかながら上昇傾向にあった。

ここ数年の自殺死亡率の推移をみると、「健康問題」、「経済・生活問題」はともに平成21年以降、3年連続して低下しており、24年は各々10.7、4.1となっている。特に、「経済・生活問題」はこの3年間で約-38%と大幅に低下している。また「家庭問題」、「勤務問題」は緩やかな上昇傾向にあったものの24年には低下し、各々3.2、1.9となっている。

24年の自殺死亡率は、「健康問題」、「経済・生活問題」においては急上昇以前の水準へ低下する方向にあるようにみえるが、「家庭問題」、「勤務問題」においては低下傾向がほとんどみられず、原因・動機別の自殺死亡率の推移においても大きな違いがみられていることがわかる。

▼図3:原因・動機別の自殺死亡率の推移(昭和53年~平成18年)、(19年~24年)

図3:原因・動機別の自殺死亡率の推移(昭和53年~平成18年)、(19年~24年)

(高齢者においては「健康問題」が圧倒的に多く、若年者においては様々な問題で構成)

各年齢階級の合計に占める自殺の各原因・動機の割合(図4)をみると、60歳代においては「健康問題」が56.4%を占め、70歳代では68.3%、80歳以上では72.6%とさらに大きな割合を占めており、次いで多い「家庭問題」や「経済・生活問題」を大きく上回っている。その一方で、20歳代においては、様々な原因・動機で構成されている。

▼図4:各年齢階級の合計に占める自殺の各原因・動機の割合(不詳を除く)(平成24年)

図4:各年齢階級の合計に占める自殺の各原因・動機の割合(不詳を除く)(平成24年)

(1)健康問題

ここ数年の「健康問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移(図5)をみると、「病気の悩み・影響(うつ病)」、「病気の悩み(身体の病気)」による自殺者数が非常に多く、その傾向はほぼ変わっていない。

▼図5:「健康問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

図5:「健康問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

(「健康問題」への取組が全国に浸透しつつある)

ここ数年の都道府県別の自殺死亡率の変化(図6)をみると、ほとんどすべての都道府県において低下し、特に先駆的に自殺対策に取り組んできた秋田県や青森県、岩手県などにおいては、平成21年には自殺死亡率が高かったものの、24年には大きく低下している。

▼図6:都道府県別の自殺死亡率の変化(平成21年⇒24年)

図6:都道府県別の自殺死亡率の変化(平成21年⇒24年)

また、ここ数年の都道府県別の「健康問題」による自殺死亡率の変化(図7)をみると、多くの都道府県において低下し、都道府県間での自殺死亡率の違いが縮小している。ただし、前述の秋田県や青森県、岩手県において、他の都道府県と比較して、平成21年には特段高いというわけではなく、24年の低下幅も特段大きくはない。

▼図7:都道府県別、原因・動機が「健康問題」による自殺死亡率の変化(平成21年⇒24年)

図7:都道府県別、原因・動機が「健康問題」による自殺死亡率の変化(平成21年⇒24年)

こうしたことから、様々な自殺対策の中でも「健康問題」への取組はいち早く全国的に展開されつつあり、多くの地域において既に成果がみられるようになってきていると言える。

原因・動機別の自殺死亡率について「健康問題」の推移(図3)をみると、近年にない高水準に達した平成10年から2年後には昭和末期の水準にまで低下しており、他の原因・動機においてみられるような長期間にわたる高水準が持続していない。そもそも、10年における急上昇の引き金は景気の悪化と言われていることから、「健康問題」を原因・動機とする自殺死亡率の上昇はその間接的な波及によるものであった可能性が考えられる。

以上をまとめると、「健康問題」を原因・動機とする平成24年の自殺死亡率は、自殺死亡率の急上昇以降も「健康問題」に関連する要因が大きく悪化していないと仮定した上で、地域における「健康問題」への取組が全国に広がりつつあることを踏まえると、急上昇以前の水準に近づいている可能性が高い。

(2)経済・生活問題

ここ数年の「経済・生活問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移(図8)をみると、平成19年には「負債(多重債務)」による自殺者数が最も多く、次いで「負債(その他)」が多かったが、これらはその後大きく減少している。一方、「生活苦」が21年以降には、最も多くなっているが、その後は減少に転じている。また、これらに続いて多い「事業不振」、「失業」は、「生活苦」と同様、21年をピークに減少している。

▼図8:「経済・生活問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

図8:「経済・生活問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

(失業率は景気変動に伴い、平成14~15年および21~22年にピーク)

一般的に「経済・生活問題」は、景気変動との関連が強いと考えられる。ここでは「完全失業率」を関連指標として取り上げ、「失業」による自殺死亡率との関係をみてみる。

完全失業率(図9)は、平成3年を底に上昇を続け、ITバブルが崩壊した後の14年には5.4%と一つ目のピークを迎えた。その後下降したものの、19年から再び上昇し、リーマン・ショック直後の21年には5.1%と二つ目のピークを迎えた。その後再び低下し、24年は4.3%となっているが、自殺死亡率の急上昇以前の9年の3.4%までは下がっていない。

▼図9:平成21年の値を100とした「経済・生活問題」及び「経済・生活問題」のうち「失業」による自殺死亡率並びに完全失業率の推移

図9:平成21年の値を100とした「経済・生活問題」及び「経済・生活問題」のうち「失業」による自殺死亡率並びに完全失業率の推移

完全失業率は、平成9年以前から、「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺死亡率と強い相関関係が認められており、近年においても「失業」による自殺死亡率とも強い相関関係がみられている。

したがって、完全失業率を急上昇する以前の水準にまで引き下げることにより、自殺死亡率がさらに引き下がる可能性は高いが、そのためには狭義の自殺対策を超えた総合的な経済対策が必要である。それに加えて、失業率の上昇などの景気悪化から自殺に結び付くこと自体が大きな問題であり、こうした経路を弱める取組が併せて望まれる。なお、「生活苦」、「事業不振」においても「失業」と似た推移がみられており、「経済・生活問題」における各原因・動機と相関関係を持つ適切な景気指標の把握が可能と考えられる。

以上をまとめると、「失業」、あるいは「生活苦」、「事業不振」を原因・動機とする平成24年の自殺死亡率は、急上昇以前の水準へ低下するというより、その水準は景気変動に大きく影響を受けて推移していると言える。

(自己破産は多重債務対策の進展もあり、平成15年をピークに著しく減少)

一方で、「負債(多重債務)」の推移は景気指標と必ずしも連動していない。「自己破産の新受件数」を関連指標として取り上げ、「負債(多重債務)」による自殺死亡率との関係をみてみると、地方裁判所における自然人による自己破産の新受件数(図10)は、平成4年ごろから増加し始め、8年には5万件を突破、10年には10万件を突破するなど急速に増加し、15年には約24万件とピークを迎えた。

一方で、その頃より払い過ぎた利息の返還請求などが活発化し、また18年に貸金業法が改正され22年に完全施行されるなどにより、23年には約10万件と著しく減少している。

▼図10:平成21年の値を100とした「経済・生活問題」及び「経済・生活問題」のうち「負債(多重債務)」による自殺死亡率並びに地方裁判所における自然人による自己破産の新受件数の推移

図10:平成21年の値を100とした「経済・生活問題」及び「経済・生活問題」のうち「負債(多重債務)」による自殺死亡率並びに地方裁判所における自然人による自己破産の新受件数の推移

自己破産の新受件数は、平成9年以降、「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺死亡率と強い相関関係が認められており、近年においても「負債(多重債務)」による自殺死亡率とも強い相関関係がみられている。

以上をまとめると、「負債(多重債務)」を原因・動機とする平成24年の自殺死亡率は、多重債務問題への対策が進展したことから、急上昇以前の水準まで低下しつつあるものの、新たな課題の出現により上昇する危険性もはらんでいると言える。

(3)家庭問題

ここ数年の「家庭問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移(図11)をみると、「夫婦関係の不和」による自殺者数が最も多く、「家族の将来悲観」、「家族の死亡」、「親子関係の不和」などが続いて多い。

▼図11:「家庭問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

図11:「家庭問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

(家族の死亡による自殺者数が、震災発生の平成23年に急増)

そもそも、「家庭問題」に関連する要因には、家族間の人間関係、子育て、介護などの他、家族内の健康、進学、就職、結婚なども含まれる。これらに共通する指標を特定する分析は容易ではない。また、こうした特徴から、「健康問題」と同様、平成10年の自殺死亡率の急上昇は景気の悪化の間接的な波及によるものである可能性が考えられる。ただし、その後については、「健康問題」における推移のような低下傾向がみられず、21年以降の低下傾向もみられていない。

ところで、「家族の死亡」を原因・動機とする自殺者数の推移(図11)をみると、平成23年に急増し、24年には他の原因・動機が軒並み減少する中で、ほぼ横ばいで推移している。そこで、23年における変化をさらに詳しくみると(図12)、男性の20~40歳代および60歳代、女性の30~60歳代は過去数年で最も高くなっている。また、24年には男性の50歳代、女性の20歳代、70歳代が最も高くなっている。

▼図12:男女別、年齢階級別、原因・動機が「家族の死亡」による自殺死亡率の推移

図12:男女別、年齢階級別、原因・動機が「家族の死亡」による自殺死亡率の推移

一般的に「家族の死亡」を原因・動機とする自殺死亡率は男性高齢者層において高く、平成23年においてもこうした傾向が持続しているものの、若い世代における上昇は注目すべき変化と言える。

なお、平成23年には東日本大震災が発生し多くの方が犠牲となった。自殺死亡率について発見地ベース、住居地ベースのいずれにおいても、特に被災地で「家族の死亡」による自殺死亡率が高まった様子はみられていないが、この震災が「家族の死亡」などの喪失体験を背景とした自殺死亡率に何らかの影響を及ぼした可能性については、まだ結論を出せるには至っていないと考えられる。

(4)勤務問題

ここ数年の「勤務問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移(図13)をみると、「仕事疲れ」、「職場の人間関係」、「仕事の失敗」、「職場環境の変化」の順に自殺者数が多い。また、ほぼ全ての原因・動機において平成23年までは増加傾向にあったが、24年には軒並み減少に転じた。

▼図13:「勤務問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

図13:「勤務問題」における原因・動機詳細別自殺者数の推移

(一般労働者比率は減少し、一般労働者の長い労働時間は改善していない)

ここでは、「仕事疲れ」などとの関連が想定される「総実労働時間」を取り上げ、「勤務問題」による自殺死亡率との関係をみてみる。

月間総実労働時間(事業所規模5人以上)(図14)は、平成9年の157.6時間から24年の147.1時間まで緩やかに減少し続けている(-6.7%)。ここで、一般労働者に限定すると、9年の168.8時間からほぼ横ばいで推移、21年には164.7時間まで減少したものの、24年は169.2時間とそれ以前の水準にほぼ戻っている。一方で、パートタイム労働者においては、9年の96.8時間から24年の92.1時間まで緩やかに減少し続けている(-4.9%)。

▼図14:一般及びパートタイム労働者の月間総実労働時間の推移(事業所規模5人以上)

図14:一般及びパートタイム労働者の月間総実労働時間の推移(事業所規模5人以上)

すなわち、総実労働時間の減少は、パートタイム労働者における労働時間が減少したこととともに、一般労働者数に対するパートタイム労働者数の比率(事業所規模5人以上)(図15)が平成9年の18.5%から24年の40.4%まで増加したことによる。

▼図15:一般労働者及びパートタイム労働者数並びに一般労働者数に対するパートタイム労働者数の比率の推移(事業所規模5人以上)

図15:一般労働者及びパートタイム労働者数並びに一般労働者数に対するパートタイム労働者数の比率の推移(事業所規模5人以上)

なお、平成21年にはリーマン・ショックの影響による事業不振などを受けて一般労働者の総実労働時間に一時的な減少がみられたが、その一方でリストラなどに伴う「職場環境の変化」による自殺者数が増加しており、これらが相殺し「仕事疲れ」による自殺者数にほとんど変化がみられなかったと考えられる。

以上をまとめると、一般労働者においては、そもそも海外と比較して労働時間が長いと言われながらもほとんど改善しておらず、また、特に平成10年以降は労働者全体に占める人数の割合が減少していることから、年々より一層業務量が多くなってきていると考えられる。そして、こうした雇用構造の変化により、「仕事疲れ」など「勤務問題」による自殺者数が高水準で持続していると言える。

(20歳代の労働をめぐる環境は厳しい)

こうした一般労働者とパートタイム労働者との間における業務量の差の拡大は、特に若年層において著しいと推測される。ここ数年の年齢階級別の「勤務問題」による自殺死亡率(図16)をみると、20歳代においては上昇し続けており、平成24年には全年齢階級の中で最も高くなっている。

▼図16:年齢階級別、原因・動機が「勤務問題」による自殺死亡率の推移

図16:年齢階級別、原因・動機が「勤務問題」による自殺死亡率の推移

また、「勤務問題」以外においても、20歳代の自殺に多い原因・動機は、「経済・生活問題」のうち「就職失敗」、「学校問題」のうち「その他進路に関する悩み」など、いずれも就職の問題に関連しており、しかも自殺者数は増加傾向にある(図17)。

▼図17:原因・動機が「就職失敗」及び「その他進路に関する悩み」による20歳代自殺者数の推移

図17:原因・動機が「就職失敗」及び「その他進路に関する悩み」による20歳代自殺者数の推移

若年層の自殺の状況についてはまだ不明な点が多いものの、こうした就労問題を巡っては、先行き不透明な状況下で将来の進路を決めさせられ、厳しい就職活動を何とか勝ち抜いたとしても、経験年数が短いにもかかわらず重い仕事が課せられ疲弊してしまう現実を投影しているのかもしれない。いずれにせよ、20歳代の自殺死亡率が他の年齢階級にはみられない上昇傾向にあり、また、20歳代の死因のうち半数近くを自殺が占めるという深刻な状況を踏まえると、「勤務問題」のみならず、関連が深い「経済・生活問題」、「学校問題」、そしてこれらが引き起こす「健康問題」に対し、若年層への効果的な取組を早急に実施していく必要がある。