マンション建替えの要件に5分の4決議以外の制約は不要(抄)

平成14年7月30日

総合規制改革会議・ビジネス生活インフラワーキンググループ

1.規制改革の推進に関する第1次答申(平成13年12月11日)では次のように記されている。

(ア)区分所有法(昭和37年法律第69号)の建替え要件の見直し
区分所有法の建替え要件を5分の4以上の合意のみとすることや、隣接敷地との敷地共同化による建替えや住宅部分以外の床(商業・業務床)の大幅な増加を認めることも含めて、マンション建替えを円滑に実施するための方策を早急に検討し、平成14年秋までに改正法案を作成するべきである。

この答申を「最大限尊重し、所要の施策に速やかに取り組む」ことは、平成13年12月18日に閣議決定された。

(中略)

2.法制審議会で作成中の建物区分所有法改正要綱案(8月6日取りまとめ予定)は、老朽化の場合には30年経過を、損傷、一部滅失等の場合は「建物の効用の維持又は回復に要する費用」が現存建物の価額を超えることを、5分の4議決に付加して要件としている。

しかしながら、以下に述べる理由により、5分の4決議以外の要件を課すことは、マンションに居住する多くの国民の豊かな居住を将来にわたって損なうものであると同時に、都市の再生・土地の有効利用を妨げる有害な規制である。

第一に、5分の4もの多数が合意する場合に、社会的に不合理な建替えが行われる蓋然性はない。5分の4要件は、反対者の意思を賛成者の意思よりも相当重く評価している。それにも拘わらず、建替えをさらに別の要件で制約することは、大多数のものの財産権を不当に侵すことになる。

第二に、30年の単純年数の経過を経ない限り建替えを許さないとする合理性がない。建物の物理的寿命は、建物ごとに大きく異なる。30年を物理的寿命の最小年数とするのは画一的過ぎる。さらに、住戸面積が狭い、設備・構造の機能が現代社会の標準から見て劣っている、周囲の街づくりとなじんでいないなど社会的陳腐化が起こった場合には、物理的な寿命は来ていなくても、建替えることによって総合的な利益が高まることがある。経済的寿命が来た場合である。経済的寿命を最も的格に判断できるのは、建物の持ち主である。したがって、当事者の意思による円滑な建替えを認めるべきである。

第三に、法務省は、少数者の財産権の保護を図るために30年の存続を保証すべきである旨主張するが、理由がない。30年を越えたら突如として少数者の反対を押し切ってよく、それより短ければ、どのような事情があっても常に多数者の権利行使は妨げられるべきであることの論拠はない。実態としても、マンションの現実の居住者は途中入居者が多い。また、借家人であることも多く、借家人の平均的居住期間は数年にすぎない。

第四に、法務省は、30年未満の建替えでは、住宅ローンの残債を抱えた者が困窮する事態が多発する、高齢者保護に欠けるなどと主張するが、実態を無視した議論である。まず、あるマンションを中古で購入した人の多くは、そのマンションの築30年時点で残債を抱えている。したがって、30年要件は、残債問題の解決とは無関係である。つぎに、建替え規制の目的が高齢者保護のためならば、高齢居住者割合の少ない30年未満の建替えを特に厳しく制限する理由がない。本来これらは、建替え決議要件とは独立の政策で対応すべきものである。現に、平成14年6月19日に公布された「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」による事業制度を適用すれば、住宅ローンの抵当権も建替マンションに円滑に移行するし、高齢者など建替えに参加することが困難な者に対しては、公共賃貸住宅への優先入居などの居住安定のための措置が講じられることとなる。

第五に、損傷等の際の要件は、費用という不利益のみを考慮している点で問題である。建替えは、面積が広くなる、設備が新しくなるなどの利益を通常もたらす。建替えに踏み切るか否かを決する際には、通常、建替えから得られる利益と不利益を比較する。5分の4までが合意している場合には、所有者一人一人が利益と不利益を比較した総計として利益が上回っていることを示す指標だと考えることが出来る。

そもそも損傷等の際の要件は、現行法のいわゆる「過分費用要件」と内容的に同一のものである。この要件は抽象的に過ぎるため、決議の効力を争う訴訟が提起されれば建替え事業は頓挫してしまう可能性が高い。建替決議要件は具体的かつ明確なものだけにすべきという、そもそもの法改正作業の出発点を無視するものである。


内閣府 総合規制改革会議