第13回アクションプラン実行WG 議事概要

1. 日時

平成15年10月28日(火) 10:00〜11:10

2. 場所

永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室

3. テーマ
法務省との意見交換

「借家制度の抜本的見直しについて」

4. 出席者
(法務省)

房村民事局長、吉田民事局参事官、和田民事局付

(委員、専門委員)

宮内主査、鈴木副主査、奥谷委員、佐々木委員、八田委員、森委員、八代委員、稲葉専門委員、福井専門委員

(事務局)

内閣府 河野審議官、福井審議官、浅野間審議官
総合規制改革会議事務室 宮川室長 他


議事内容

○宮内主査 おはようございます。それでは、ただいまから第13回の「アクションプラン実行ワーキンググループ」を開始いたします。
 本日は、10月7日に本会議におきまして、アクションプランに追加いたしました5つの項目の中の、借家制度の抜本的見直しにつきまして、ただいまから1時間を予定しておりますが、法務省との意見交換をさせていただきたいと思います。
 本日は、大変お忙しい中、法務省から房村民事局長ほか、御担当の皆様方においでいただいております。ありがとうございます。何分よろしくお願いいたします。
 さて、御承知のとおり、我が国の賃貸住宅市場につきましては、借地借家法上の正当事由制度、すなわち貸主側に特段の正当事由がない限り、契約が更新されてしまうという制度による弊害や、高額な立退料の問題などが従来より指摘されておりました。
 こうした歪んだ賃貸住宅市場を活性化させ、低廉で良質、そして多様な物件を市場に供給させるために、平成12年3月から、期間の満了により契約が確定的に終了する定期借家制度が導入されましたが、これにより居住用の建物の建て替えや、不動産の資産活用や、証券化などが飛躍的に進展するなどの大きな効果が期待されておりました。
 しかしながら、お手元の資料1の1ページにございますように、この定期借家制度につきましては、要すれば借主の被り得る不利益に対する過剰な防止措置といいますか、居住用建物についての定期借家権への切り替えの禁止でありますとか、定期借家契約締結の際の書面による説明の義務づけ、あるいは借主からの一方的な解約権の容認など、その普及を妨げるような規制が多く残っております。
 その結果、1ページの下にもございますように、平成13年度のある団体の調査によりますと、定期借家制度は全体の契約の中で、まだ2.8 %程度にしか達していないとされております。
 こうした中で、資料の2ページをごらんいただきますと、当会議といたしましても、本件につきましては、これまでの間、都市再生ワーキンググループ、及び住宅・土地・公共工事ワーキンググループにおきまして、積極的な検討を行ってまいりました。当会議による答申などの結果、本件につきましては現在、規制改革推進3か年計画再改定におきまして、資料にございますような詳細な政府決定が既になされているところであります。
 本件に対する当会議の基本的スタンス、結論は、極めて明瞭でございます。資料の2ページの一番下にも書きましたとおり、定期借家制度の普及を図り、建て替え、証券化等による都市機能の更新の円滑化等を図るために、先ほどの3か年計画におきまして、15年度中に結論とされている項目について、早急に実施する。例えば、15年度中に措置することとすべきであるということでございます。
 さて、ただいま申し上げましたような点も御参考にしていただきながら、意見交換をしていただければ幸いと存じます。
 まず、法務省からお考えにつきまして御説明をお願いいたしたいと思いますが、20分ぐらいでお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。

○房村法務省民事局長 法務省の民事局長の房村でございます。法務省といたしましては、この平成15年3月に閣議決定されました、規制改革推進3か年計画において、借家制度の更なる改善ということで掲げられた各検討事項について、15年度末までに結論を得るとされていることを踏まえて、現在検討・見直し作業を行ってきたところでございます。
 これについて、状況を簡単に御説明したいと思います。まず、定期借家制度、あるいは普通借家契約の正当事由制度の検討・見直しに関する点でございます。
 これにつきましては、現在自由民主党内に定期借家権等特別委員会というものが設けられておりまして、ここでこの定期借家制度について取り上げ、次期通常国会に向けて法改正を図りたいということで、法改正検討プロジェクトチームというのが、7月に立ち上げられております。そこで、ほぼこの規制改革推進3か年計画に盛られた、定期借家制度、あるいは普通借家契約の正当事由制度の見直しというような各論点につきまして、取り上げて法改正の方向で検討を進めることになっております。
 法務省といたしましては、立法府を構成する、しかも最大与党である自民党内にそういう検討チームができたということを踏まえまして、この法改正検討プロジェクトチームの審議に協力をしながら、この改正検討事項についての検討を法務省としても進めていくという方向で現在行っているところでございます。
 まず、定期借家制度の実態調査でございますが、これについては国土交通省が調査主体となりまして、定期借家契約に係る事業者、それから入居者、それぞれに対する定期借家制度の実態調査を進めているところでございます。利用の実態、その問題点等を把握するためということでございますが、この調査に法務省としても調査項目の内容等について協力をし、その成果が得られました場合には、それを踏まえて更に検討をしていくつもりで現在その作業を進めているところでございます。
 また、そのほか普通借家契約の正当事由につきまして、予測可能性が非常につきにくい、あるいは賃貸人に酷ではないかといういろいろな御指摘もありますので、裁判例がどうなっているかという点についての調査をいたしたいということで、法務省において近時の裁判例を収集いたしまして、この正当事由についての現在の実務の考え方の分析作業を進めているところでございます。
 こういった実務の正当事由に対する考え方等も踏まえて、この正当事由の客観化等の見直し作業を行っていきたいと考えているところでございます。
 現在の作業はそんなところでございますが、定期借家制度に対する検討事項ということで、若干御説明させていただきますと、御承知のようにこの定期借家制度は、平成11年の議員立法で成立いたしました、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法によりまして、借地借家法が一部改正をされて、新たに設けられた新しい類型の借家契約でございます。
 この新しい借家契約については、要するに更新なし、定められた期限で完全に終了するという全く新しい類型でございますが、問題点と指摘されておりますのが、この良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法の附則の第3条で、この定期借家契約が平成12年3月1日から導入されたわけでございますが、それ以前の、既に締結されている契約につきましては、当分の間当事者の合意に基づく場合であっても、定期借家契約への切り替えが禁止されていると。この点について、廃止の方法を含めて検討しようということが言われているわけでございます。
 このような当事者の合意があるにもかかわらず、切り替えが禁止されたという理由につきましては、全く新たな制度である定期借家契約に関して賃借人の理解が不十分なままに切り替えが行われる恐れがあるということから、当分の間同意に基づく場合であっても切り替えを禁止するということになったと理解しておりますが、この点については基本的に当事者双方が合意をし、契約内容を理解しているのであれば、切り替えを認める、切り替えを禁止する理由は乏しいのではないかということが、一般には言えようかと思っております。
 ただ、立法当時そういう懸念があったということも事実でございますので、その点についてこの新たな類型の定期借家契約についての理解が、国民の間にどの程度広がっているのか、あるいはそれを廃止した場合のそのような理解不十分なままに、契約の切り替えに応じざるを得ないということが生ずる恐れがないかという点も含めまして、調査した上で更にこの点についての検討を進めたいと考えているところでございます。
 それから、定期借家契約締結に関しましては、定期借家契約を締結する際には、賃貸人があらかじめ賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければならないという説明義務が課されております。これは、従来ない、契約更新がなくて、完全にそこで終了するんだという定期借家の最も特色のある点を間違いなく契約締結時に借家人となる者に理解をさせるという趣旨から、このような条文が入れられたものと理解されているところでございますが、この点についてこの是非を含めて検討するということを言われておりますし、特に宅建業者が重要事項説明として、定期借家である旨を書面を交付して説明している場合にも、この書面による説明義務が課されているとか、既に定期借家契約を一旦結んで、期間が満了して終了した後に、再契約をする際にも再び書面交付義務が課されているというような、ある意味では重複する場合にもこの書面による説明義務が課されていて、合理性が欠けるのではないかという指摘もございます。その点も踏まえまして、この国土交通省が実施している実態調査の結果も合わせ、この説明義務の点についても検討をしていきたいと考えているところでございます。
 それから、第3点目が、賃借人の中途解約権の廃止でございます。これは床面積が200 平方メートル未満の居住用建物の定期借家契約については、転勤、療養、親族の介護等のやむを得ない事情により、建物を生活の本拠として使用することが困難となった場合には、賃借人に中途解約権が認められていると。この点でございます。
 その中途解約権は特約によっても排除できないとされておりますが、これは今申し上げたような、転勤、療養、親族の介護等のために、建物を生活の本拠として使用することができなくなったにもかかわらず、解約が認められないと、使用もできないにもかかわらず期間満了まで賃料を支払わなければならないと、極めて重い負担が賃借人に課されるということを考えまして、そのような過酷な結果を避けるためにこの中途解約権を認め、これは特約によっても排除できないという仕組みになっているわけでございますが、この趣旨からいいますと、これを特約で排除できるという場合に、その結果が賃借人にとって過酷なものとなり過ぎないか、こういう点が懸念されるわけでございまして、こういう点については相当慎重な検討が必要ではないかと思っているところでございます。
 次が、正当事由制度に関する検討事項でございますが、正当事由は先ほども御紹介もありましたように、基本的にこの正当事由がなければ、借家契約を解約できないということで、相当強い制約になっていると言われるわけでございますが、現在の借地借家法では、この正当事由に関しまして、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、建物の賃貸人が建物の明け渡しの条件として、または建物の明け渡しと引き換えに、建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合のその申し出、いわゆる立退料でございますが、こういったことを考慮するということが法律で定められております。
 法律で掲げている事項、ほぼ賃貸借契約に付随する諸状況を網羅的に掲げているものですから、ある意味ではその解約申し入れに正当事由があるかないかという点については、諸状況を網羅的に取り上げて判断ができるという面ではメリットもございますが、同時に非常に多くの事柄が盛り込まれているということから、どこに力点が置かれて、裁判所がどのような判断をするかということが、なかなか予測が難しい、そういう意味で予測可能性が乏しいという指摘もされているところでございます。
 そのようなことから、この正当事由制度について、もう少し客観化できないかという御指摘を受けているわけでございます。
 この点については、私どもとしても裁判例を見ましても、確かに相当ばらつきがあるように見受けられますし、なかなか今の状況で解約申し入れをしたときに、正当事由が認められるかどうかという点について、予測しにくいというのも多分実感ではないかと思っています。
 ただ、この正当事由制度、基本的に賃借人、賃貸人双方の事情を考慮して、できるだけ適切な結果を得たいということから定められている制度でございますので、これを客観化するという場合に、場合によってはかえって具体的妥当性を欠くような要件になる恐れもあるわけでございますので、客観化に当たってはそのような具体的妥当性を得られるようなものとしつつ、なお当事者双方にとって予測が可能なものとするということが望まれるわけでございます。
 そういう意味では、なかなか立法技術的にも難しい点もございますし、また実態としてどのような運用がされているかという点も踏まえなければいけないだろうと思っておりますので、そのような点についてもこの裁判例の調査結果も踏まえ、また幅広くいろいろ御意見を伺って、この点について検討していきたいと思っております。
 その一環として、立退料の位置づけ、在り方についても検討を加えなければならないと思いますが、この立退料の位置づけにつきましても、その明け渡しを求める必要性の本当に補完的なものとして、非常に副次的な位置づけを与える考え方もございますし、また相当額の立退料を払えば、必要性はさほどのものでなくても、解約を認めていいのではないかという御意見もございます。
 そういう点についても、何らかの形で明確な位置づけが与えられればと思っておりますが、具体的にどのような形で行うかという点については、今後できるだけ検討を進めたいと思っているところでございます。
 以上、簡単でございますが、法務省の現在の状況を御説明いたしました。

○宮内主査 ありがとうございました。
 それでは、ただいまから意見交換を始めさせていただきますが、当会議ではこれまで住宅・土地・公共工事ワーキンググループというところにおきまして、先行的な議論が行われておりました。その担当主査でございます、八田委員の方から口火を切っていただくということでお願いできればと思います。

○八田委員 八田でございます。それでは、最初にこの正当事由制度に関する検討事項について、幾つかお伺いしたいと思います。
 定期借家の方については、1、2、3については事情がよくわかりました。4については、後で議論する余地があると思いますけれども、時間があればということにしたいと思います。
 この正当事由についてですが、そもそも今、借家に入ってらっしゃる方が正当事由に関する事由がない限り出なくていいという権利を持っているというのはわかるんですが、昭和16年にこの借地借家法が改正されたときに、そもそもそれまで正当事由制度というのはなかったのに、これが導入された、それが導入せざるを得なかった、その事情について簡単にお話いただけますでしょうか。なぜこれが必要だったのか。

○房村民事局長 これは昭和16年、まさに戦時体制の中で、住宅の供給が非常に乏しくなってきたと、あるいは賃料が上がってきたということから、貸主の方で明け渡しを求める事例が相当増加して、賃借人が非常に困る事態が生じたということから、借家人を保護するために濫用的な明け渡しを防止するという目的でそもそも導入されたという具合に聞いております。

○八田委員 昭和16年にはもう既に地代家賃統制令がありましたから、賃料は上がってなかったんじゃないですか。

○房村民事局長 ですから、実態としてどの程度の賃料を取っていたのかは、私も申し訳ありませんが、理解が乏しいところがありますが、実態としてはともかく言われておりますのは、そのような住宅供給が乏しくなった中で、借家人を保護するために導入されたということが一般に言われているのではないかと思いますが。

○八田委員 昭和14年の地代家賃統制令によって賃料が上げられないという事情が発生したから、大家さんは今の借家人に出てもらいたくなった。そこで急に追い出しが始まったわけです。

○房村民事局長 失礼しました。それは御指摘のとおりでございます。

○八田委員 今の借家人に貸し続けるよりは、新たな借家人を入れ新たに権利金を取る、あるいは家を売却してしまうという方が有利になった。そこで追い出したわけですね。
 地代家賃統制令が生み出した追い出しを防ぐためには、正当事由がない限り追い出してはいけないとする借地借家法の改正が必要だったわけですね。

○房村民事局長 そこら辺はどうなのかということはあると思いますが。

○八田委員 そこは肝心なところだと思います。それまで日本では正当事由条項がなくて、そして全国平均で8割ぐらいの世帯が借家に住んでいた。それが昭和16年以降急速に変わったわけですけれども、これはやはり地代家賃統制令という戦時立法に対応して正当事由ができたことを反映していると思うんです。

○房村民事局長 ですから、そこは考え方があるとは思うんです。基本的に地代家賃統制令のような、地代家賃の統制をしなければいけないということになったのは、多分それをしなければ相当家賃が高騰する。家賃が高騰すれば借家人が困るという発想ではないかと思うわけです。
 確かにおっしゃるように、それを統制すれば、逆に貸し続けることにメリットがないということから、明け渡しを求めるということは出てくる可能性もありますが、そこのところは、ただ基本的に家の供給が少ないから家賃が上がる。上がると困るから統制するという方向にいったのではないかとは思っております。

○八田委員 家賃が上がった場合に、既得権のあるなしにかかわらず必要な人は誰でも住めるということにするのか、それとも家賃統制して正当事由でもって既得権を守ってやり、その代わり新規賃家借権を制限する結果をもたらすのか、そこのところが問題でしょう。いずれにしても、家賃統制したということを反映として正当事由条項が生まれたことは明らかだと思います。諸外国でもすべて、家賃統制令は正当事由とマッチしています。日本だけ例外的にやらなかった。これは失策だったと思う。後で失策を正さざるを得なくなったわけです。
 戦後、家賃統制令が外れてから、正当事由条項の存在理由は基本的にはもう消えてしまいました。もともとの立法当時の理由がなくなってしまったのに続けてしまったということですから、これはできるだけ問題を起こさないように解消していくのが大切なんだろうと思います。
 そうすると、先ほどおっしゃったように正当事由の客観化によって、予測可能性を高めるということも何より大切なことです。それに伴って今の居住の安定性を図ることも必要だとおっしゃったけれども、それよりはむしろ基本的にはもう既にたまたまそういう制度で居住権を得た人に、得た人に明確な基準の下で財産権をきちんと保障してあげて出ていただくということが必要だと思うんです。
 そうすると、それは基本的には正当事由の一つとして現金での居住権の補償ということを上げたらば解決する問題ではないかと思うんですけれども、それについてはいかがでしょうか。

○房村民事局長 おっしゃるように、借家の立場であると、そこに住み続ける、特に例えばそこで商店等の営業をして、客の範囲がその近辺に限られているというような場合には、場所を移ることによる不利益が非常に大きいというのは実際にあるわけで、裁判例等でもそういう形で争われている事例が相当多くあります。
 基本的には、そういうものも経済的な評価ができるのではないかという観点から見れば、それはそういう見方も当然あり得るとは思います。ただ、特に長年営業して、そこで顧客が周りにいるというときに、本当に立退料だけでそれがカバーできるかというのは、これもいろいろ検討してみなければいけない事項ではないかとは思っております。

○八田委員 住宅はもともと持ち主のものですね。それで、それがさっき言ったような戦時中の特殊な理由でできた法律によって、たまたま借家人がある権利を持っていると。そうすると、そのでき上がった権利、法律でたまたまできた権利に対して、正当な補償をしたらもう持ち主が取り返せるという、そういう制度にすべきではないかと思うのです。それに不都合がございますでしょうか。

○房村民事局長 その考え方の筋としては、そういった点は当然あり得るだろうと、そういう考え方はあり得るだろうと思っています。ただ、その評価の仕方というものも一つございますし、それからすべてがそういう経済的評価で本当に尽くせるのか、立法当時の事情というのはいろいろあろうかとは思いますが、少なくともこの正当事由の下での借家権というものが既に60年以上にわたって存在しているわけでございますので、そういうものを前提とした生活が成り立っているということも当然考慮していかなければいけないだろうと思いますので、おっしゃるように基本的に正当な補償で解決する方向性というものが、考え方として成り立つとしても、すべての場合それで割り切れるかというと、これはなかなか難しいのではないか。そういうことも含めて立法に当たって、どのような形で解決していくかということを考えていかなければいけないんじゃないかとは思っております。

○森委員 今の御説明は、賃貸人と賃借人との間だけの話なんですが、今のように町の実態がどんどん変わっていくとか、生活とか産業とか実態が変わっていくので、旧来の方が、言ってみれば安い家賃だから営業できるということで、そこにいらっしゃることによって、発展を阻害されるということも起こっているわけです。もっと言えば、再開発を阻害してしまうというところまでいくケースも多いのですが、したがって、単にそこだけを着目してではなくて、もっと大きな観点から、それは金銭の授受で代替できるというのは当然なければならないという種類のものだと私は思っております。

○房村民事局長 おっしゃるように、土地の近辺の発展、こういったものも当然考慮に入れなければならない、現実に裁判例等でも周囲の利用状況等も考慮して正当事由の有無を判断している例もございますし、基本的な考え方としておっしゃるように、少なくとも正当事由の在り方が都市の発展、再開発にとって余りに障害になるようでは困るのは事実だろうと思います。そういった点も含めて、どのような形で、当事者に対する負担を適正にそれぞれ処理をして、かつ地域全体での発展も望めるような法制度に仕組んでいくかということを検討の際の指針にすべきだろうとは思っています。

○宮内主査 どうぞ、福井さん。

○福井専門委員 大分お調べは進んでいるとは思うんですが、過去の立退料の考え方なり金額なり、それと例えばある立退料が判決で認められたときに、その案件について過去に受け取った賃料に対して、どういう比率になっていたかとか、あるいは、その判決時点で支払っていた月額賃料の何倍ぐらいだったとか、その辺り、前回の改正のときにも随分議論になりましたが、今度の立退料の問題に当たっては一層重要だと思うのです。その辺りについて、現在どの程度調査されておられて把握しておられるか教えていただきたいのですけれども。

○房村民事局長 まだ網羅的に把握している段階ではなく、調査を進めている段階ですが、立退料については本当にさまざまです。非常に低額で、基本的に今の裁判所の考え方からすれば、当事者双方の必要性を比較して、それで勝負がつけば立退料は要らないということになりますし、必要性が若干なりとも弱いときに、立退料で補完するという形になりますので、必要性が高い場合には当然立退料は低くてもいい。必要性が低い場合には、相当高くなるという、ごく大まかに言ってしまえばそういう関係もございます。
 それから、現在の賃料との関係というのも、現在の賃料を基準に決めるという考え方を特に採っているわけではないので、立退料を決める際に、例えばこれは私の経験で言っても、明け渡してもらって建て直しをして、新たなビルを使ってやると。そのことによる利益が相当見込まれるのであれば、ある程度立退料を払ってもプラスではないかという発想になるので、当然高額になりますし、その後の利用で大きな収益が見込めない、自分で使うだけだということになれば、これはなかなか立退料を払えないということにもなりますので、立退料の性質自体からしてもなかなか一定の基準に基づいて算出されているというものではないわけですので、現実に裁判例を見ても相当ばらばら、非常に高額と思われるものもありますし、もうほとんどないのもございますので、これは分析をしてみないと最終的には何とも申し上げられませんが、多分相当丁寧に調べてみても、立退料について基本的な基準というものは出てこないんじゃないかというのが実感でございます。

○福井専門委員 恐らくそうだと思うのです。非常に個々の裁判官ごとに、かなり世界観にも関わる判断が羅列、網羅されていると思います。
 ただ、勿論いろんなパターンがあり得るわけです。例えば過去の判例にも受取賃料を基準にしたものとか、あるいは再開発後の収益を基準にしたものとか、いろいろあると思うのですが、そういうある程度定性的というよりは、数量的にアプローチしたものについて、できるだけ最大漏らさず調べていただくと一定の参考になる。余り定性的な基準は、立法の要件としては余り参考にならない。数値がわかるものは多少参考になるかもしれないということがありますので、そういうところに特に重点を置いて、必ずしも法則を抽出するというところまでいかないかもしれませんが、できるだけ網羅的に教えていただきたいと思っております。

○房村民事局長 できるだけ調べてみたいとは思っていますが、ただ申し上げたように、いろんな事情で違う、特にまさに右肩上がりで、非常にこれから伸びると思われていたときには、ある程度高額の立退料を払ってもということもありましたので、過去の例がどこまで参考になるかというのが、特に最近のような状況になりますと、余り過去の例を参考にしても現在の状況にぴったり合わないということも当然あり得るだろうと思っていますので、いずれにしても調べますが、その評価の仕方、あるいは利用の仕方というのは、相当慎重に考えないといけないのではないかと思っております。

○福井専門委員 概括的なことで申し上げると、まず日本の判例は基本的には、貸手事情と借手事情両方調べて、両方の利益考慮をするというアプローチですね。これが諸外国と非常に違う点でして、ヨーロッパの先進諸国やアメリカでは基本的に貸手事情のみで正当事由という国が一般的なのです。
 それから、この受取賃料なり、月額家賃なり、年間賃料との関係でいうと、過去の私の知る大きなものでは、受取賃料総額の150倍を借家人にお返ししてやっと正当事由が備わったという例がありますし、あと1,500年分の賃料が立退料だったというのもあるのです。これでは法隆寺より長く使い続けないと決して元が取れない。
 中には非常に極端なのがありますし、受取賃料総額の数倍から十数倍というものになると、これはもう枚挙にいとまがない。これは考えてみると1倍越えると、本当は経費もかかっているわけですからもっと小さいでしょうけれども、1倍を越えることがもしわかっていたら最初から貸さない方がよかったというのが、だれでも合理的な経済人の行動になるわけです。立退料が少なくとも受け取った賃料から公租公課とかメンテナンスの費用を引いたものを、越えるような立退料を強制するというのは、幾ら何でもいき過ぎだろうというのが、当初の5年前の借家法立法のときにも広く供給された議論でした。
 残念ながら前回の改正では新規に限ってということでしたが、既存のものについてもやはり判例の動向は既存の正当事由の条文の延長線のままである以上、ここはもう立法によって対応するしかない。そのときに、一つの非常に大きな基準は、借家人と大家との関係で言えば、必ずしもどちらが弱者かというようなことは、今はっきり言える状況ではございませんし、また大家さんが貸すということは、貸した以上そこからやはり何らかの経済的利得、最終的に仮に立退解消、再開発ということになったとしても、まさに借家契約自体で得られる一定の収益が全く手元に残らないどころか、収益の何千倍もふんだくられるということでは、もう借家経営について全くインセンティブがなくなるし、幾らなんでも正義公平の観念にも反する。ここが出発点だと思うのです。
 ですから、この立退料の位置づけ、在り方というのは、基本的にその人が、その借家契約期間中に得た利潤なり収益を越えての立退料を求めることは絶対ないということが、まず枠組みの前提で、その中でやはり客観的な基準として、できれば貸手、借手両方てんびんにかけないとわからないような、出たとこ勝負の予想可能性のない基準よりは、金銭的基準だけではっきりと解消がわかる。そこをやはり根幹にしないと改正の効果が非常にわい小なものなると思いますが、いかがですか。

○房村民事局長 そこは、立退料をどう考えるかということでしょうけれども、現在の基本的な考え方から言うと、当然のことながら必要性が相当高ければ立退料は低くてもいいはずでございますので、一律に立退料を決めるという考え方は多分ないんだろうと思います。
 おっしゃる趣旨は、多分必要性の有無を問うまでもなく一定額を払えば、間違いなく明け渡しができるんだと、求められるんだという考え方が取れないかという趣旨かとは思いますが、それは一つの考え方としてはあり得る考え方かもしれません。ただ、立法的にそういう考え方を取ると、基本的に立退料の高額化につながらないかということも一つ心配されますし、またその額の定め方いかんによっては、賃借人にとって酷な結果が生ずる可能性もありますし、ですからそれは相当難しいかなと。一つのお考えだとは思いますが。

○福井専門委員 多分併用だと思うのです。再開発とか、あるいは非常な建物の老朽化とか、明白で客観的な要件がある場合は、そこだけでまず片を付ける。これがまず一つわかりやすいですね。とは言っても、そこは非常に裁量の余地がありますので、ファジーな部分が残る。
 そうすると、要件をちゃんと論証するには微妙だけれども、確かに何らかの再開発なり、あるいは何らかの土地の別途の利用がほしいというときの、一種のセービングクローズとして、例えば金銭で一定の、先ほど来議論の出た補償措置、一定の期待権として今までの正当事由判例から一定のものは合理化されるだろうけれども、幾ら何でも下級審の一部にあるように、極端な財産権剥奪、恩恵を与えたら逆にかえって過酷な侵害を受けるような形ではまずい。そう考えれば、おのずと一定の基準というのはあり得ると思います。
 これは、諸外国にも立法例はあります。例えばロサンゼルス市役所などでは、立退料だけ、一定何か月分かを払ったときに、その立退料だけで正当事由具備とみなすという立法を現に持っていますし、アメリカの州や自治体などでは、こういう例はほかにも散見されます。それで特に運用上支障がないという調査も私どもやっておりますので、日本でもそれらは非常に参考になる立法例だと思います。

○八田委員 ちょっと補足します。今、福井さんが言われたのではっきりしていると思いますけれども、少なくとも戦時中の立法時点では、正当事由があれば別に立退料を払う必要はなくて出ていってくださいということになっていました。期限が切れたんですから契約どおりですというのがもともとの趣旨だったと思うんです。
 とにかく、立法の趣旨からもどんどんずれてきた裁判例ができてきて、それはそれなりに事実上借家人の方は、そういう権利があると思っていらっしゃる。
 ただし、裁判で判例がぐらついている以上、明々白々な、私はこれだけの権利だというものはないというのが現状です。とすれば、結局2段階の補償基準であり得るんではないかと思います。
 1つは、ある種の正当事由と言われるような事由がある場合には、客観的な基準に基づいて立退料を安めに規定する。
 2つは、正当事由と言われるような、明々白々な事由がい場合には、それよりも高い金額の補償基準をつくる。この補償自体が契約更新を拒否する正当事由を構成することにする。
 だから、金銭で補償する場合も一律ではなくて、正当事由があった場合の率と、そうではなかった場合とを別々に算定すると、そういうふうなことをされてはどうだろうかということだと思います。

○房村民事局長 ただいま御指摘の、例えば必要性がある場合には低めに、言わば補完的にということは、現実の今の立退料がまさにそういうことですので、本当に必要性があって、正当事由を具備したと認められれば、立退料ゼロで勿論明け渡しを命ずる判決を出すこともあるわけでございます。

○八田委員 それは余りないのではないですか。

○房村民事局長 実例としてはですね、実際上は、そのぐらいはっきりしていますと、大体和解で明け渡しになるということで、早く解決するために多少の移転料相当額ぐらいは出して、それでやってしまうということが多いものですから、実際にいわゆる立退料ゼロでというのはそう多くはないと思いますが、しかし、理論的には勿論そういうことはあり得るわけでございます。
 その場合の立退料というのは、まさに必要性の評価、正当事由がどれだけ強いかということと相関関係ですので、なかなか基準という考え方は親しまない。一律に幾らと、これだけの必要性があったら、これだけの額というのは、なかなか基準としては決めにくい。相当必要性があれば、ごく少額ですし、必要性が低い場合には相当高額になるという関係にあります。実際に裁判例としても相当低いものもあれば、相当高額なものも出ています。 おっしゃるように、およそ必要性が全く具備しない場合に、額だけでいけるかという福井専門委員のおっしゃったことは、まさにそういうことだと思いますが、先ほど申し上げたように、それはそれで一つの考え方としてはあり得るところかとは思いますが、ただ現実に立法でそういう考え方を取るということについては、いろいろ難しい問題もあるだろうというのが、先ほど申し上げた点でございます。

○宮内主査 どうぞ。

○森委員 必要性が高いかどうかということを裁判官が決められるものかということなのです。一体どういう必要性を優先するのかと。昔は、家が絶対的にないとか、店がないとか、賃借人には生活権が全部かかっているとか、賃借人はもっと有利に貸せるのではないかレベルの話のときのことであって、自分が使うからというのも、自分が使うなら必要性が高いだろうなんて、そんなのどこにでも家があるんですから、決して自分が使うから必要性が高いとも言えないでしょうし、その必要性の論議というのは全く無意味だと思うのです。まず、それが1つあります。
 つまり、そんな基準を裁判官が決めるということ自体おかしいので、それならはっきり法律で必要性の基準というのを決めるべきだと、そう思います。
 再開発するときなどの必要性はうんと低いのかと、御当人が住んでいる既住権の方がずっと重いのかということをはっきりしてもらわないと困りますね。それが一つ言えることです。
 それから実際は、古くて安ければ、つまり有利に長く安く借りているほど立退料が高いと。なぜなら得べかりし利益を失うからという理屈ですが、これも貸手の方からすれば、わざわざ値上げをしないでいってあげたら、実際に空けてもらうときには、ものすごい立退料を要求されるという、そういう結果につながると。それから、なるべくどんどん値上げをしておかないといけないということを推奨しているようなものだというのが実態ですね。
 ましてや再開発などが起こるということになったら、もうほかへ移った方が有利だと思っていた人も、立退料をもらえるからと待っていた方がいいと。ひどい例は、それを担保に銀行が金を貸したりなんかするというようなことが現実に起こったのです。
 そういう形までゆがんでいるものを一生懸命保護をするということ自体、つまりもう時代錯誤もはなはだしいと思っているんですが、いかがですか。

○房村民事局長 まず、必要性の点でございますが、これは確かにさまざまなことがあって、一律の基準が定められるかというと、これは難しいのはそのとおりだと思います。
 ただ、要するに普通の住居でそこに住んでいて、別のところに移ったからといって特に困らないという人と、例えばそこで親子代々営業して、固定客が周りに付いているという場合とで、利用する必要性に違いあるのではないかと言えば、社会の大方の人はそれは違うだろうと思うんでございますね。

○森委員 私は明け渡しの必要性のことを言っているのですよ。

○房村民事局長 失礼しました。今、申し上げたのは、使う方の必要性でございますが、それから明け渡す立場としても、やはり外国から帰ってきて、自分の家がそこにあって、そこに住みたいんだという場合と、ほかに家があって、ここは貸すのに使っていてというのではそれなりの評価の違いは、社会的に見れば、普通だれでもそう思うという、一般的な傾向のようなものはあると思います。
 ただ、それを厳密な基準で考えていくと、なかなか難しいというのは御指摘のとおりです。そこがなかなか難しい。実際にやっていても、こういう事情があるんだからもう少し待ってくれと言われて、しょうがないなということは世の中はあるんだろうと思うんです。あるいは逆に明け渡すのも、そういう事情でどうしてもというんならしょうがないから、明け渡しましょうかということもあるだろうと思います。
 それが、その必要性の基盤になっていると思いますが、それをぎりぎり詰めていくと、おっしゃるようになかなか、本当に裁判所がそれを決められるのかというところが出てくることは事実だと思います。
 ですから、それをどうやってできるだけ客観化するかというのはなかなか難しい問題ではある。しかし、同時にそれをしないと確かに予測可能性がつきにくいということも事実だろうと思いますので、できるだけ工夫をしていきたいと思います。

○森委員 私が言いたいのは、必要性によって額が変わるのだということ自体が非常に奇妙な話だということです。期限が来たら条件を改定するか、明け渡して次の人に貸すという契約自由の原則がここの場合には通用しないという理由として、「必要性」だと言われるのですが、しかもその重みをはかるなどと、時代も違う、場所によっても違う、人によっても違う、全部ケースが違うので、いちいち裁判官に頼んでそんなことをやっていたら、時間もかかるのは御承知のとおりで、私のところは20年かかったことがありますが、そういうことで町のつくり替えとか、立直しとかどうなるのかと、そのこと自体がものすごく大きな社会的問題だと思うのです。
 だから早々に撤廃してほしいと、通常の自由契約ができるようにしてほしいというのが私どもの主張なのです。

○八田委員 ちょっと補足したいんですけれども、今、森委員が言われたように、正当事由ということが、少なくとも今は余り意義を失っているではないかと、何が正当かということを評価するというのは、非常に現代では難しいんではないかとおっしゃる点なんですが、くどくなりますけれども、一番最初の立法の趣旨に戻りますと、基本的に借地借家法の下でも、やはり契約が終わったら出ていってもらうのが原則なんです。
 ただ例外があって、それは本当に自分が戻るためであって、これを家賃統制令の下で、家賃が取れないからという理由で今の借家を追い出して高く売るとか、それに新たな権利金を取って貸すとか、そういうことはしてはいけないよと、それが趣旨だと思いますうんです。
 正当事由がない場合にはそういうことをし得るから、だからそれを禁止しようということで、だから明らかに立法の趣旨に照らして、もう今は、この正当事由というのは無意味な条項なんですね。とすると、なるべく戦線を縮小していった方がいいので、この正当事由について、もともとの前提となる法律がないんだから、これを正確に意義づけるのは難しいんですから、財産権の補償ということで金銭で補償していくというのが、これから取っていくべき戦線の縮小の方法ではないかということだと思うんです。
 そういうことでよろしいですか、もともと今、この制度上にいろいろ趣旨を考えようにもないんですね。

○森委員 要するに、借家人がもし商売上有利で居続けたいなら、更新時に家賃の値上げに応じるか、一時金を払うかすべきなのであって、逆の立場でもし下がっていれば、居続けてもらうために貸主は家賃を下げなければならないわけですね。当たり前のマーケットの世界に戻っているにもかかわらず、ここは裁判所が出てきて、ここではマーケットは通用させないという理由があるのかと、そのことで一体何を守っているのか、どれほど弊害を起こしているのか御存じなのですかということを言いたいですね。

○房村民事局長 今、八田委員からも立法の趣旨の御指摘もありましたが、ただ、いずれにしても法改正を行っていくということになれば、現在の日本においてどういう理解がされ、どういう運用がされているかということを踏まえて、それをどの方向でどこまで変えていくのかということを検討していかざるを得ないと思います。
 そういう意味でいろいろ御指摘を受けておりますが、そういう御指摘も踏まえて、私たちとしても、自民党の法改正検討プロジェクトチームの中でも正当事由についての検討もされるということになっておりますので、そういう場を利用しつつ、できるだけ検討をして、適正な改正を行っていきたいと思っているところです。

○森委員 つまり、地価はどんどん上がるに違いない、家賃もどんどん上がるに違いないという時代と、これだけどんどん地盤沈下する、地価も下がっていくというときに、市場を阻害するような制度を一生懸命維持しているということのばかばかしさの方も一つ考えていただきたいと思うのです。

○福井専門委員 正当事由については、今の各委員の御指摘のとおりなんですが、是非出発点として、比較法的な意味で認識を持っていただきたいのは、日本の正当事由制度というのは、万国に冠たる強力な解約制限だということです。
 欧米の正当事由を導入している国や、あるいはアメリカの州でも、例えば家族が居住するという場合は、通常無条件にそれだけでお金なしで正当事由です。フランスなどは転売するといっても正当事由です。建て替える、これも通常無条件に正当事由です。これらの場合お金なんか一切要らないことになっている。こういうことを金銭を要求させているのは、先進国で日本だけです。
 こういう一種の相場感からしても、先進国を自負するのであれば、こんな制度を残しておいて、土地利用について先進国並みだということにはとてもならないと思われます。
 やはり、貸手の事情で基本的に判断するのが諸外国の潮流ですが、貸手の事情ということは、要するに貸した人は、自分がどういう事態になれば返してもらえるかわかるわけですね。てんびんにかけられると結局わからないし、両方が自分の有利な事情を言い合って弁護士はもうかるかもしれないけれども、当事者は苦労する。裁判所だってある意味では本来立法が明確であれば持ち込まれなくて済むような瑣末な紛争を、いっぱい引き受けることになって、司法コストの観点でも非常に問題が多い。あいまいな要件があれば、そこに巣くう法律家はいても、当事者は不幸で、裁判も非常に遅れます。その構造を直すには、やはり明確な、事前にはっきり予測できるような基準でないと、やはり正当事由はまずいというのが出発点ですし、その場合に金銭というのは非常に意味がある。
 特に、さっき借家権価格の話題が出ましたが、継続賃料を一方で判決が抑制しておいたら、当然将来期待が大きくなるわけです。現在価値は莫大なものになる。お尻を切らないで継続賃料を人為的に抑制したら、これは法外な立退料の前提となる借家権価格が発生するのは当たり前のことですから、これはある意味では人為的産物です。それを立ち切るのは、立法しかないわけで、まさに立法としては、先ほど来議論の出ているような明確なものは明確なものとしてそれだけで、例えば建て替えるとか、家族居住だったら無条件に正当事由とする。デリケートなもの、その他一般のものについては、少なくとも本人の受け取った利潤を全部はき出させる以上のことは、絶対しないという前提での一定の合理的な基準とする。この辺りが一番望ましい方向ではないかと思います。

○八田委員 まず今のことに補足します。いま、諸外国で正当事由が非常に明確で立退料を伴わないという話に出てきた諸外国における正当事由があるのは、全部家賃統制令と一体になって規定されているものです。
 ある意味では、日本は本当に特殊な状況で、家賃統制令がなくなったのにやっている。それで家賃統制令の役割を裁判所がやっておりますから、そこでどんどん深入りしてしまっている。その結果、非常に正当事由が厳しいものになっていると思います。
 それから、次に定期借家についてですけれども、最後の居住用定期借家契約の賃借人の中途解約権の廃止については、例えば病気とかで代わらなければいけないとか、そういうやむを得ない理由があった場合に解約できるようにしてやるべきではないか。これについては、ほかの2、3と比べて、すんなりこれを廃止するわけにはいかないとおっしゃったんですが、現状のように強行規定にするのではない、要するに強行規定であるところが問題なんですから、標準的な規定として途中で中途解約する場合には、何か月分かのお金を払えば解約できるというのを標準的な契約にしておいて、そしてそれを変えたければ変えられるという仕組みにするということはどうなんでしょうか。

○房村民事局長 基本的に強行的にしているのは、病気とか、余り予測可能でない事柄が生じて現実に使えなくなったときに、ともかく中途解約できないというところで一旦結んでいる以上は、ともかく最後まで賃料を払い続けなければいけないんだということでは余りに酷だということから来ていますので、性質上は、そういう場合にはどうしても中途解約できると法律で決めざるを得ないんだというのがこの考え方ですので。

○福井専門委員 普通借家の中途解約権は。

○房村民事局長 基本的に普通借家の場合は、長期間の契約を結んで、しかもその間できませんという事例が余りないので、特に法的手当は講じられていませんが、もし普通契約でそういう事例が頻発して困るということになれば、普通契約についても中途解約権の制限をしようという議論は当然出てくるだろうと思います。

○福井専門委員 ただ、普通借家も別に立法意図としては2年というわけでもないわけですし、業務用あるいは居住用の古いものでは長いものもありますから、要するにバランスで言えば、普通借家の方は強行規定として、中途解約権は置いておりませんから、普通借家の場合は、要するに契約で決めれば、例えば10年借り続けるという契約をしたら有効で、途中で病気になろうが、あるいは療養になろうが、転勤になろうが、絶対に解約できないということになっているわけでしょう。それと比べて、定期借家がなぜ中途解約の必要が大きいのかという点はどうですか。

○房村民事局長 現実に、普通の契約の場合、借家で長期間でそういう中途解約ができないということを余り想定していないがゆえに、特にそういう法的手当はされていないんだろうと思います。

○福井専門委員 普通借家に年数の制限はあるのですか。

○房村民事局長 いえ、ありません。だから、私が申し上げたのは、現実にも普通借家で大体2年から3年程度で契約をしているのが通常でございますので、特にそういう規定を置くほどの必要性を感じていない、余りそういう問題点が意識されなかったんだろうと思います。
 ただ、定期借家ということになれば、相当期間定めて、しかもその間解約しないという、そもそもの契約の趣旨がそうですから、そういう場合に当然こういうことが生じ得るということから意識をされて、この法的手当がされたのではないかとは思っています。

○福井専門委員 ただ普通借家でも例外的にかどうか、少ないかもしれませんけれども、あり得るわけです。

○房村民事局長 だから、それはあり得ます。

○福井専門委員 長い契約を結んでいて、一般的に言えば、今まで普通借家より非常に解約制限なんか強かったということも、借家人は一般的に弱者であろうという想定もあって、そのように位置づけられていた普通借家でも、長期契約があり得るとすると、少数かもしれないけれども、そういう方が途中で病気になったり、過酷な目に遭ったときでも絶対に解約させないというのが法律の意図であるわけですから、そこの部分で比較するとバランスが取れていないということになりませんか。

○房村民事局長 それは法律の意図というか、余り想定していなかったということではないかと思いますが…

○福井専門委員 いや、想定していなくても、もし事件になったらどう判断されるんですか。

○房村民事局長 多分裁判所に行けば、事情変更で認めるかどうかという判断を検討することになるだろうと思いますけれども、今の裁判所の考え方からいけば…

○福井専門委員 しかし立法には書いていないわけでしょう。

○森委員 関連して質問したいのですけれども、定期借家の場合では途中解約権がありますね、居住の場合は。だから定期借家の方に変えればいいのではないですか。たとえ当事者の合意があっても、今の法律では、定期借家に変えるのを、今の法律が変えてはいけないというようになっているのではないですか。契約の合意があっても変えられないというんだから。

○房村民事局長 おっしゃっている趣旨はあれですか、普通借家で中途解約を認めないような形でいるときに、中途解約を認めたかったら定期借家にしてやればいいじゃないかと、それはあり得るところですが、しかし切り替えるときに、もともと中途解約がないようなときに切り替える以上は、中途解約しない特約付きの定期借家と言われれば、応ぜざるを得ないかもしれないし。

○森委員 それは応じる必要はないのです。基本的な話は、定期であろうが、今までのであろうが、権利というものはお互いに守らなければならないということになっていて、その間は、借りる方は借り続ける、貸す方は貸し続けなければならないわけですね。
 ところが、普通とおっしゃるけれども、私は特殊と言っているのですけれども、特殊な今の借地権は、片方は永久に貸し付けなければならない、片方は自由に解約できると、こういうことになっているわけでしょう。

○房村民事局長 今の中途解約の点ですが、実は自民党の検討委員会で、全宅連の方が来て、やはりこれについて発言されているんですが、これについてアメリカの定期借家制度では、特約解除権を厳しく制限している例が多いが、これは賃貸人が賃借人に反対権利として、転貸権を大幅に認めており、これにより賃貸人と賃借人のリスク負担がバランスよく調節されていると。そういう考え方の下にあるんだということをおっしゃっているんです。
 ですから、まさにそういう形であれば、仮にこういう事態が生じても転借人を探すことによって、自分のリスクを軽減する可能性があるわけですが、日本のように転貸はおおよそ認めていない、それで病気になって使えなくなってもなお賃料を支払い続けるというのは、これは社会的に見ていかにも酷だということから、こういう規定が設けられているんだろうと思いますので、この点については…

○福井専門委員 ちょっと補足ですけれども、転貸権はアメリカでも許可が要るのです。オーナーの許可が要ります。そういう意味では、日本でもオーナーが許可すれば同じですから、その点は法制的にそれほど違いないと思いますが。

○森委員 つまり、転貸を認めるというふうに早く改めるべきだと思うのですね。

○房村民事局長 ですから、それはそれで1つの考えだと思うのです。しかし日本のように…

○森委員 途中解約したいなら、損害金を払って出ていかなければならないというようにすべきなのです。もしそれをしないならね。要するに公平というものだと思うので、やはり賃貸人、賃借人の両方にとって公平な法制に戻してほしいと、そうしないと正常なマーケットは成立しないのです。

○房村民事局長 それについては、やはり申し上げたように、非常に限定された居住用の建物について、しかもまさに社会的に見れば、やむを得ない事情が生じた、そういうときを想定していますので、そういう場合について一律に中途解約ができないような特約が有効になるというのは、なかなか難しいのではないかと。

○森委員 申し上げたいのは、そういう福祉や何かに関わる問題を家主に転嫁させるという考え方がおかしいし、マーケットを不健全にしているわけなので、そんなに大事ならば、国が家賃の面倒をみればいいのではないですか。そういうふうに考えるべきであって、移転すべき家がないとか、養護老人ホームがないとか、そういう時代ならともかく、全部そろっているのに、一生懸命家主の負担において救済しろという、そんなことを強制するのは、やはりばかばかしいといいますか、時代錯誤だと思えてしまいます。

○福井専門委員 中途解約で若干補足しますと、これも転勤、療養とかの一見なるほどもっともだというふうに見えるんですが、これも実務に携わる仲介業者の方や弁護士の方と内々に議論しますと、幾らでもねつ造できるというのが常識です。
 例えば、療養だって、診断書なんか知り合いの町医者に行けば幾らでも書いてくれるらしい。転勤だって、中小企業などだったら転勤したことにすればいいとか、幾らでも簡単に対応できるから、これは事実上フリーパスだというのが、巷の相場感です。
 だから、言わば弱者のふりをしようと思ったら簡単にできてしまうような条文を残しておいて、それは例外的だからというのは、やはり貸す方にとってみはれば全く信用できないわけです。
 現に、これも仲介業者の方の常識では、今、長期なんていうのは中途解約権を行使されたらたまらないから、長期の定期借家なんて絶対やる気はないというのが普通の感覚なのです。非常に長期の契約を阻害しておりますし、端的に言えば、居住用の住宅証券化というのは、今、住宅公庫等にも絡んで非常に重大な課題になっていますが、これがあるために、住宅の証券化なども非常に阻まれている。これも巷の常識です。
 社会経済的に大きな阻害要因になっているので、そういう前提で、是非福祉は福祉として別に考えることとして、借家法そのものの見直しを進めていただきたいと思います。

○宮内主査 時間が迫ってまいりましたので、どうぞ。

○八田委員 今の定期借家の賃借人の中途解約権の廃止についてですけれども、今出てきた議論で、やはり一番肝心なところというのは、転貸を認めればすべての問題が解決するということです。転貸ができる場合には、中途解約ができないよということにしても、借家は絶望的な状況にあるわけでも何でもなくて、人に貸せばいいわけです。要するにサブリースをすればいい。そういう仕組みをつくっていくこと、あるいは、それがやりやすいようにするということの方が肝心です。さまざまな特約ができるということと、そういう転貸の可能性があるということを考えて、やはり中途解約権というのは廃止して、期限まできちんとできるということを本則にすべきではないかなというふうに思います。

○宮内主査 時間でございますが、法務省の方から何か最後ございますか。

○房村民事局長 いろいろと厳しい御指摘を受けましたので、いずれにしても、今日いただきました御意見も踏まえまして、先ほど来申し上げておりますように、自民党内でのプロジェクトチームが、今後、更に立法に向けて作業を進めると思いますので、そこと協力をしながらできるだけ実現していきたいと思っております。

○宮内主査 この問題は、既に良質な賃貸住宅等の供給を促進するという法律ができたけれども、ほとんどそれが動いていないと。賃貸住宅が動くということは、日本経済にとりましても、また国民一人ひとりにとりましても、住環境という非常に大きなものを根本的に変えていくシステムチェンジだと思います。それが、もし法律が阻害して、そういうところでお金が流れていかないと、それによって国民全部が非常にマイナスを被っているということであれば、これは大変大きな問題ではないかと。そういう極めて大きな国民生活全体に関わるものを含んでいるんではないかというふうに思っております。
 そういう意味で、今後とも引き続き意見交換をさせていただきまして、よりよい方法を模索させていただければと、このように思っております。よろしくお願い申し上げます。 それでは、以上をもちまして、法務省との意見交換を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 ちょっと、委員の方はお残りいただきたいと思います。

 (房村民事局長、吉田民事局参事官、和田民事局付 退室)

○事務局 委員、専門委員の方々、皆さん、お疲れ様でございます。ありがとうございました。
 事務局からでございますけれども、この後、記者会見の方を1階の方でさせていただきます。
 それから、次回でございますが、11月6日の9時から11時まででございますけれども、議題がまだ未定でございますけれども、5つ追加したうちの2つございますけれども、できましたら、その2つの方を可能であればここでやらさせていただきたいというふうに考えてございます。
 11月6日、6時から11時ということで予定の方をよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

○宮内主査 ありがとうございました。以上をもちまして閉会させていただきます。


内閣府 総合規制改革会議