第15回アクションプラン実行WG 議事概要

1. 日時

平成15年11月10日(月) 15:00〜17:00

2. 場所

永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室

3. テーマ
厚生労働省との意見交換

「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進について」

4. 出席者
(厚生労働省)

労働基準局 松崎局長、高橋労災補償部長、杉浦労災管理課長、白川労働保険徴収課長、及川監督課長、南労災保険財政数理室長

職業安定局 青木局長、岡崎総務課長

職業能力開発局 坂本局長、妹尾総務課長

(委員、専門委員)

宮内主査、奥谷委員、八代委員、稲葉専門委員、福井専門委員

(事務局)

内閣府 河野審議官、福井審議官、浅野間審議官
総合規制改革会議事務室 宮川室長 他


議事内容

○事務局 委員長、定刻でございますので、よろしくお願いいたします。

○宮内主査 それでは、定刻でございますので、ただいまから第15回「アクションプラン実行WG」を開始させていただきます。
 本日は、10月7日の本会議におきまして、アクションプランに追加いたしました5つの重点検討事項の中の、労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進、これにつきましてただいまから約二時間にわたりまして、厚生労働省との意見交換を行いたいと思います。
 本日は、大変お忙しい中おいでいただいておりますが、松崎労働基準局長、青木職業安定局長、坂本職業能力開発局長ほか、御担当の責任者の皆様においでいただいております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 さて、本日のテーマでございますが、前回に引き続きまして、民間参入や民間経済の拡大を阻んでおります、いわゆる官業というものの民営化、民間譲渡、民間委託などの規制改革周辺領域に属する問題であり、当会議を挙げて横断的・包括的に取り組むべき最重要事項の一つであると考えております。
 労災保険及び雇用保険につきましては、現下の厳しい経済環境、雇用情勢の中で、労働者にとってのセーフティーネットとして極めて重要であることは言うまでもございません。にもかかわらず、その制度の内容を見ましたときに、本当に効率的かつ公正に運営されているかにつきましては、疑問を抱かざるを得ないというのが実情ではないかと思います。
 したがいまして、事業の整理、見直しや民間への開放を促進するなど、より効率的かつ効果的な労働保険制度へと抜本的に解決すべきであるという考えでございます。
 以上の点の個別具体的な論点につきましては、特区官製市場ワーキンググループの主査をお願いいたしております、八代委員からまず御説明をいただきたいと思います。
 それでは、八代委員、よろしくお願い申し上げます。

○八代委員 それでは、私の方からお話させていただきたいと思いますが、あくまでも我々はこの問題は官製市場への民間参入という問題の一環として、労災と雇用保険3事業の問題を取り上げたいと思っております。
 労災保険というのは、業務上の理由に基づく災害補償を行うことを目的に、昭和22年に設立された強制保険でして、労働基準法と一体的にこれまで運営されてきたということです。ただ、諸般の事情により、また労災事故防止という企業の努力もあって、保険収支が改善されてきたということもあるのではないかと思いますが、保険給付の方が本来の労働基準法の規定をどんどん上回って、規模が拡大し、対象範囲も広がってきていると。
 当時は、また年金や医療保険も不備であったわけですが、その後の医療保険の水準向上にもかかわらず、どんどん拡張して介護補償給付、障害補償給付等も充実されています。
 そういう意味では、類似の社会保障給付を上回る水準というものを確保されているわけであります。
 同時に、供給側のポイントとして、労災病院も、当初は病院が不足していたという事情もあったと思いますが、現在は必ずしも必然性がないのではないか。
 そうした中で、社会保険のうちで唯一大幅な黒字を上げている保険ということで、黒字があるがゆえにこれまで必ずしも改革の努力が十分進んでいなかったのではないかということであります。
 その意味では、同じ強制加入の損害保険として、国交省の自動車賠償責任保険制度(自賠責)というのがあるわけですが、同じ業務上の災害に対して被害者を救済するという意味では、ある意味で自賠責と非常に似ているのではないか、その意味では自賠責と同じような仕組みで民営化、あるいは大幅な業務委託の余地が大きいのではないかというふうに考えています。 資料の2ページ目でありますが、まず第一に適用の問題というのがあるわけでありまして、現在の労災保険というのは、事業所が労働者を一人でも雇用すれば、必ず強制適用事業所となるというふうになっています。労災事故が起これば必ず被災労働者に給付が行われる。これは、労働者保護の建前からいってそうなるわけですが、逆に言えば強制保険である労災保険に加入してない事業所というのがあったとしても、そこで起こった事故に対しては給付が出すという仕組みになっているわけであります。
 その結果、現在強制加入義務があるにもかかわらず加入してない事業所が、厚生労働省の調べでは60万ほど存在します。事業所統計の方では、これは有期事業が入っているということもあるのですが、130万ほど、はるかに多い数字が存在する。いずれにしてもそういう未届事業者に対して、労働基準監督署の職権が十分に行使されていない。言わば、保険料を払わなくても保険給付がもらえるという仕組みになっているわけです。
 また、そういう使用者が故意または重過失により労災保険に加入してない場合に、仮に事故が起こった場合は当然給付がされるわけですけれども、そのときにさかのぼって本来払うべき保険料のほか、実際に給付された保険給付費の一部が徴収されるという仕組みになっているわけですけれども、なぜこれが一部なのかと、本来保険が入ってないにもかかわらず保険給付を立て替えているのであれば、なぜ少なくとも100%、場合によってはペナルティーを課してもいいのではないかというのが、普通の保険の考え方であります。それに対して使用者が過大な経済的な負担を強いられるからだめなのだということでありますが、こういう言わば非常に甘い仕組みが一部の使用者のモラルハザードを助長しているのではないかということです。
 2番目には、料率の設定ということですが、この保険料率の決め方というのは、一応保険でありますから、リスクに応じた保険料というのが課されているわけでありますけれども、このときの保険料率というのは必ずしも本来のリスクに見合っていないのではないか。後ろの15ページの方に資料がございますが、これはこちらの規制改革会議のお願いによって厚生労働省の方を加工したもので、たしかこういう資料はまだ発表されてないのではないかというふうに思いますけれども、業種別に細かい実際の保険料と給付額がございます。
 これを、言わばリスクの低い方から並べたのがこの表でありますが、これを見ていただきますと、その他の各種事業、これはほとんどオフィスワークだと思いますけれども、これが実際の保険料のかなりの部分を払っているわけであります。
 それは後ろの方の、黒字貢献度というのが4番目の○にありますが、このオフィスの貢献度が全体の62%を占めていると。現在課せられている料率というのが、1,000分の3、0.3%ですけれども、機械的に計算しますと、これは本来0.13%で十分なわけです。
 それから、建築事業は危険なので、料率がかなり高いわけですけれども、収支を見ますと逆に言えば高過ぎるわけでありまして、本来13.2%でいいのが、17.5%課せられている。ここでの言わば黒字というのが、ほかの下の▲でありますような、細かいところに内部補填させられているわけでありますが、こういう内部補填というのが、本当に必要なものかどうか、本来やはりリスクの高い事業所にはそれに見合った保険料を課すと。それによって事業主の保険事故防止のインセンティブを高めるというのが、こういう損害保険といいますか、労災保険の本来の役割の一つではないかということです。
 そういう意味では、実際のリスクに見合わない低い保険料を払っていることによって、業種によってはリスク防止の努力が損なわれているという危険性があるのではないかということであります。
 これに加えて、1,000分の2.5%、業種にかかわらず一律の保険料が別途課されていて、それが労災福祉事業ですか、そちらの方にいっているわけですが、それが次の3ページであります。
 この労災福祉事業の方で、逆に言えば上乗せ給付というのをやっているわけでありまして、これも本来必要であれば規定を変えて、本来勘定の方でそういうことをすればいいわけだと思うのですが、黒字があるということによって、本来補足的な勘定である福祉勘定の方で実質的に本来勘定と同じような災害補償とか、障害補償の上乗せをやっているということでありまして、これも社会保障制度の充実の中でかなり重複的なものになっているのではないかという疑念であるわけです。
 4番目に、未払い賃金立替事業というのがありまして、これは事業所が倒産したような場合に、労働者の未払い賃金を立て替える福祉事業なわけですが、立て替えといっても実際はほとんど回収できませんので、実質的に企業に対する給付になっているわけですが、これがリスクと無関係にあらゆる業種に平等に課せられている。
 逆に言えば、それをあてにして倒産する前には、どうせそこから払われるということで、未払い賃金を助長しているような、モラルハザードを更に助長する面があるのではないかということであります。
 これはもともと賃金債権というのは、普通の債権より優先順位が高いにもかかわらず、こういうことをすることによって結果的に一般債権並みに優先順位が下がってしまうのではないかという疑問もあるわけで、こういうことが必要かもしれませんが、本来労働災害を防止するという目的の労災保険で、未払い賃金の立て替えまでやっているということが、本当に妥当なものかどうか、公平なものかどうか、これもやはり保険収支が黒字であるがゆえにどんどん事業規模が拡大してきた一つの結果ではないかというふうに考えております。
 4ページ目には、労災病院というのがあるわけで、これも労災被害者のための病院施設というものを、昔不足していたものを労災保険で見たわけでありますが、現在は一般の病院が充実しておりますし、普通の病院でも労災患者を受け入れている。その結果労災病院で労災患者を受け入れている比率が、入院で6%、通院で3%にまで低下しており、専門病院としての役割は終了している。
 この労災病院というのは、はなはだ効率が悪く、実際の業務自体は普通の病院と変わらないにもかかわらず、赤字額が多く累積欠損額も2,000億円を上回っていると。これが一般の労災の保険料負担で賄われているということで、この辺は独立行政法人化するという ことが決まっているわけですが、それとは別にきちっと統合とか民営化等による労災保険からの出資の削減の改革が行われなければいけないのですが、必ずしもそれが進展していないのではないかということでございます。
 6ページでありますが、そういうことから、この労災保険というのを、これまで黒字であるがゆえに見逃されていたということを、やはり改革する必要があるのではないかということでありまして、このときにはやはり民間の損害保険、自動車賠償損害責任保険のフレームワークを使って、現行の使用者の強制加入原則、労働者が排除されないような仕組みはきちっと担保した上で、かつ保険者の引き受け義務というのを、自賠責と同じように維持したままで、運営は民間保険会社に委ねる方式について考える必要があるのではないかということであります。
 そういうことをすると、労働基準法の罰則と切り離されるのではないかということでありますが、これは別に自動車事故を起こしても、きちっと刑罰を受ける。片方で被害者は自賠責から補償されるというのと同じであって、別にそれは分けたからといって障害があるとは思えないわけで、むしろこういうふうに切り離すことによって、今ただでさえ人手不足の労働基準監督署の職員に、民間の保険会社の人たちが加わるような意味があるのではないか。
 現在は人手不足のために、なかなか未加入事業者が放置されているというときに、民間の職員というか社員が保険加入を求めに行くと、仮にそれを拒否されたら直ちにそういう事業所というのは、労働安全上問題があるのではないかということで、労働基準監督署がフォローアップするという体制を取れば、言わば公の権威にバックアップされた保険加入というのができるわけですから、民間の方は極めて効率的にできるのではないか。言わば、政府が不足している公務員の分を民間が事実上協力でやるという、ある意味で民にできるものは民でという形の一番模範例になるのではないかということであります。
 保険会社が引き受けると、いろんな不公平が起こるのではないかというのは、現在の自賠責でもきちっと引き受け会社間で収支の平準化を図るための仕組みがあるわけで、それを適用できますし、厳格な保険数理に基づいた保険料の算定というのは、必ずしも御専門でない労働基準監督署であるよりは、保険数理の専門家がやる方が、将来の債務についてもきちっとした計算ができるのではないか。
 それから、未届事業所の一掃ということでありますが、これは先ほど言いましたように労働基準監督署による職権を行使するということをベースに、人手不足を解消できるのではないかということであります。
 あとは業種リスクに応じた、適正な労災保険料の設定ですが、現在の料率というのは、審議会等のプロセスを得て決定されていると言われますが、必ずしも審議会がきちっとした情報を持ってそういう料率を議論しているかどうか極めて疑問であるわけです。こういう職種別の保険料の格差といいますか、収支の格差というものを情報公開する必要があるのではないかということであります。
 それから、労働福祉事業についても、やはり見直しの必要があるのではないかという意識です。
 8ページに「雇用保険3事業」の方でありますが、この雇用保険3事業についても、先ほどの労災と同じで、過去失業率が非常に低かったことを反映して、黒字があった時代が長かったわけであります。勿論、保険料率も下がってきていますが、それを上回る黒字があったということが逆に言うと事業の拡大につながってきたのではないかというわけであります。
 失業保険給付というのは、諸外国にどこでもあるわけでありますが、日本の場合はそういう過去の豊かな財源ということをベースにして、失業を未然に防ぐという目的でこういう保険事業が始まったわけでありますが、それが本当に効果があるのかどうかという検証は必ずしもされていない。
 肝心の雇用保険収支自体が、特に給付勘定では下の表にありますように、1994年以降、それまで黒字であったのが赤字に転換し、その赤字幅が更に年々拡大していると。その結果、非常に多かった積立金も枯渇してきて、今年は機械的に試算しますとついに積立金がなくなってしまうはずであると。
 不況のときに失業給付が拡大するのは仕方がないことで、むしろそれは望ましいことなのですが、本来の失業給付の厳格化という形で給付の引き下げの制度改革が行われる一方、こういう効果が定かでない雇用保険3事業については、これまで見直しが余り行われてこなかったのではないか。
 そういう意味では、本来の失業給付、あるいは失業者に対する直接的な所得移転の方に雇用保険では重点を置くべきであって、そういう言わば副業である雇用保険3事業については徹底した見直しが必要ではないかというのが問題意識です。
 9ページには、その雇用保険3事業の各種助成金というのが、かなりばらばらで行われることによって、重複や過去実績のない事業がある。つまり非常に手続が繁雑であるために、そもそも応募自体がないという事業がかなり多いのではないかということです。
 その意味では、そういう事前に企業に対してお金を出すことによって、失業を未然に防止するという不明確なものではなくて、やはりセーフティーネットの機能として失業者を早期に再就職させるという本来の目的の方に限られた財源を向ける必要があるのではないかということであります。
 雇用福祉事業には財形というような事業もあるわけでありますが、これは既に、企業年金、特に確定拠出型年金というものが次第に充実している中では、かなり重複的な意味があるのではないかということです。
 10ページでありますが、雇用福祉事業については、いろいろ新聞等でも批判されていますように、雇用保険の事業の本来の趣旨から乖離しているものが多いのではないか。
 能力開発については、近年その重要性がますます高まっている中で、どっちかというとハコモノ事業にお金がいっているのではないか。
 また、公共の職業訓練事業というのは、設備はともかくとして民間でもかなりできる面があるのではないか、何よりもマッチングとの不備、つまりせっかく公共の職業訓練校に行った人たちが、仕事を求めるときはゼロからまたハローワークで仕事を求めなければいけない。公共職業訓練所で、蓄積されたノウハウが無駄になる。つまり、労働者を訓練していればその人の能力はよくわかるわけですから、本当は訓練したところが同時にマッチングもするということが効率的なわけですけれども、現行は縦割行政の中でそういうふうにはなっていない。むしろ民間に訓練も任せることによって、訓練した組織でそのままマッチングするということによって、まさに事業者からのニーズに基づいた訓練もできるという相乗作用が考えられるわけですが、そういうことが公共職業訓練校であるがゆえに、せっかく努力されてもマッチングとの連携がうまくいってないのではないかという懸念でございます。
 最後に雇用保険3事業の収支というのは、これは規模次第が5,000億ほど今あるわけでありますが、これがちょうど今年の失業給付の赤字に相当しているわけで、そういう意味でも速やかな見直しが必要ではないかということです。
 12ページには、改革の方向として、各事業の情報公開、厳格な事業評価の実施ということで、雇用安定事業の助成金については廃止ないし縮小が必要なのではないか。これは当然そちらの方でもやっておられるわけですけれども、より徹底的なものが必要ではないかと思われます。
 ただ、その中で最近少し始められている、一種のハローワーク等における職業紹介機能の強化ということで、ハローワークの仕事を補完するために民間の職員を雇ったり、あるいは民間の人材ビジネスに対して一種の成功報酬的な形で業務を委託される。こういう形で、企業に対してではなく、失業者個人に対して直接現物給付をするという形での雇用安定事業の方向に移っていかれることが大事ではないかと思われます。
 また、能力開発事業ついても、やはり一定の就職率目標を設定するなど、やはり目標を達成できない職業訓練に対しては廃止・見直しをするなど、ニーズに基づいた訓練というものが必要ではないかという問題意識でございます。
 こういうことについて、今日は意見交換をさせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。

○宮内主査 ありがとうございました。ただいまのが、私ども会議側の考えております論点でございまして、厚生労働省からお考えをお伺いした上で、このような点も御参考にしていただきながら、意見交換を始めたいと思います。
 次に厚生労働省からお考えにつきまして、お話をお伺いしますが、大体合計で40分ぐらいでお願いできればというふうに思います。
 よろしくお願い申し上げます。

○松崎労働基準局長 労働基準局長の松崎でございます。それでは、私の方から、労災保険関係についてでございますけれども、本日お手元に資料をお配りしてあると思います。「労災保険の民間開放の促進について」という5ページの資料をお配りしておりますので、この資料に基づきまして、私どもの方から御説明させていただきます。
 まず、1ページでございますけれども「労災保険の民営化について」という項目でございますが、その前提といたしまして、労災保険制度、更にはそのベースであります労働基準行政の基本的な考え方、またその仕組みについてまず説明をさせていただきます。
 勿論、労働基準行政の基本は、御案内のように憲法27条にございまして、そこでは勤労条件に関する基準という言葉を使っておりますけれども、いわゆる労働条件の最低基準は法律で定めるということが規定されております。
 この憲法の規定に基づきまして、御案内のように労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法と、こればかりではございませんけれども、各労働条件の最低基準を定めた法律ができておるわけでございます。
 こういった、労働条件の最低基準を定めております、以上のような法律についての施行上の特徴は2点あると考えております。
 1つは、こういった労働基準法を始めといたしまして、労働条件の最低基準を定めました法律の中身につきましては、この内容を罰則、刑事罰によって履行されることを担保しておるという点でございます。
 したがいまして、こういった法律に違反することは犯罪であるということでございます。これが1点でございます。
 もう1点は、そういった犯罪を防止して、労働条件の最低基準がきちんと履行されることを、どういうふうに施行していくかということでございますけれども、これは労働監督制度という特別な制度によって全国一律に国が実施しているという点でございます。
 これも御案内のように、もとはILOの81号条約でございまして、これは我が国も昭和28年に批准しております。これは、勿論先生方御承知のことで繰り返しになりますけれども、なぜ労働監督制度により実施しているかという点でございます。これは大きく2点あると私どもは考えております。
 1点目は、労働関係という特別な関係、要するに対等平等な私人間のルールとは異なっております、いわゆる昔の言葉でいいますと、使用従属関係と申しております。要するに、働くという労働力を売ることでしか生活のできない労働者と、資本を持っている使用者、こういう対等でない関係の中で、一方的に労働力再生産ができないような状況に追い込まれることを防止するという、労働者保護という観点でございます。こういう一般の私人間ルールとは異なっております、労働関係という特殊な分野において、今、申し上げましたように、労働者保護という特別の目的を持って、この労働監督制度により実施しているというものでございます。
 これもILOの81号条約を見てみますと、例えば第7条で監督官の資格、または研修、訓練、こうしたものがきちんと書いてございます。要するに、こういった特別の労働関係、そういった分野におきます監督をしていくために、必要な資格を特に考慮して採用していく。必要な訓練を受ける義務というものがILO条約の中にもあるわけでございます。これが1点でございます。
 もう1点は、これは労働基準行政の基本でもありますけれども、今、言いましたように、罰則でもって担保しております最低条件とか安全衛生、そういったものの違反の未然防止、再発防止が第一の目的であるということでございます。
 これは勿論、生命、健康に関係するものを考えていただけば、すぐ御理解いただけると思います。要するに、命が失われる、健康を阻害される、そうした場合に後で幾ら使用者に罰則を科したところで、また幾ら補償したところで、失われた命、健康は返ってきません。したがいまして、労働基準行政の第一の目的は、こういう違反の状態、不安定な状態、そういった命と健康を守るために、違反の未然防止、再発防止というのが最大の目的であるということでございます。あとで解決すればいいという問題ではありません。
 これもまさに81号条約の中に、労働監督制度の機能という点、第3条の1項に明確に書かれておるところでございます。
 そこで、この災害補償責任でございますけれども、業務上の災害補償責任につきましても、勿論もう御案内のように、最低労働条件として労働基準法の第8章に規定されております。これは明白に、最低労働条件として規定されておるわけでございます。したがいまして、その履行確保につきましても、冒頭に申し上げましたように、罰則によりその履行を強制しております。
 しかしながら、すぐお分りいただけますように、企業の支払い能力という問題がございます。これはもう倒産でありますとか、経営不振で何千万という補償を支払った場合に、倒産してしまうという場合がございます。
 そういうふうに、幾ら罰則でもって履行を強制したところで、企業の支払い能力によりましては、実質的な保護をすることはできないという状況があるわけでございます。そのために、実質的な保護を目的とした労働者のための制度が必要になります。これをどういう制度でやるか、勿論いろんな制度が考えられます。一般財源を基にして、国が直接保険とは関係なしにやらせると、そうしたものも理念としては考えられます。
 ただ、我が国におきましては、強制保険、保険制度という格好で、こういった労働者保護のための制度、これは事業主のための制度ではありません。労働者保護のための制度を設けているということでございます。
 すなわち、事故が起こった場合には、事故が起こった業務上の事故、職業病の発生、そういうものが起こった場合に、使用者が労働基準法上の義務を履行した場合に、その履行した範囲内で保険から給付するというものでございません。まず、事故が起こった場合には、労災保険制度でまず補償しますと、なぜかというと繰り返しになりますけれども、これが労働者保護のための制度だからということでございます。
 それでは、その限りで労災保険法上の給付が行われた場合には、企業が先ほど申し上げました労働基準法上の災害補償責任を免れるという仕組みになっております。ここは、一般の事業主の保険ではないことを御理解いただきたいと思っております。
 こういったことで、現在は企業負担の強制保険として国が実施しているというものでございます。
 また、中身でございますけれども、補償内容につきましては、まさに我が国の福祉国家の実現の一環といたしまして、国際基準、ILO条約があるわけでございますけれども、そういった国際基準を満たすよう順次内容を充実して、現在の基準になっております。これは御承知のように労働基準法上の最低条件を上回るものになっております。
 まさにこれは企業の集団的責任による社会保険として、国の福祉国家としての社会保障の一環を担っているという評価でございます。
 次に1ページの下の(2)でございますけれども、ここで申し上げたいのは、労災保険の運用、適用につきましても、労働基準行政の中の監督行政、安全衛生行政と一体的な運営によって初めてその意義が確立できるという点でございます。
 繰り返しになりますけれども、冒頭申し上げましたように、労働基準行政は労働者保護という観点から、労働者の命、健康、生活を守るということが目的でございます。したがいまして、その手法につきましても、違反があればその都度罰則をかけて、はいおしまいというものでございません。将来にわたって、災害でありますとか事故また違反を起こさないという使用者の決意、またその事業の仕組み、こういったものが事業場の中に定着して、それが産業全体に普及し定着するということを目的とした手法で、監督指導というものを行っているわけでございます。
 現実は、実際に事業所、現場に立ち入りまして、労務管理でありますとか、作業管理の実態、更には設備の状況、そういったものを具体的に自分の目で把握した上で、具体的な指導を行い、その効果測定を事後に行うという手法で、今、申し上げましたように、災害、事故、違反が起きないような仕組みというものが、その事業場に定着するということを進めているわけでございます。
 また、これが一人ひとりの監督官や職員だけではございません。こういった個々ばらばらな情報、ノウハウ、そういったものを労働基準監督署なり、また都道府県の労働局といった組織として整理し積み上げております。そういった組織としての力を使って進めているわけでございまして、具体的にはそういう個別ばらばらな情報、ノウハウ、そういったものを蓄積しておるわけでございますから、ほかの事業場を指導する上で応用をしていく。また、例えば、災害、職業病といった保険事故が発生した場合に、その原因究明と迅速な再発防止対策、そういったものをすぐさま指導することができるということがあるわけでございます。
 更には、これはもう御案内のように、いろいろな労働関係、従来より複雑になってきております。これはもう構内下請、派遣労働、また契約社員、そういったように労働契約関係もいろんなものが出ております。
 また、格好だけではなくて、実際はそうでない場合もございます。そういうふうに複雑な労働関係の中で、そういうものが増えている中で、労働者保護の観点、そういったものから迅速・適正な労災の認定を行うと。これは後ほどもう少し御説明したいと思います。
 そうしたものが、組織としての監督署で行うから可能になるというふうに考えております。
 2ページでございます。そういった考え方によって、労働基準行政、または労災保険制度を運用しているわけでございますが、ここで2ページにありますように、民営化した場合にどういうことが起こるかといいますと、一言で言えば労働者保護、この本来目的としております、労働者保護が後退するということでございます。
 1番目が、未加入・未納事業場が増大する恐れがあるということでございます。現在どういうふうにやっておるかといいますと、雇用保険と合わせて労働保険といっておりますけれども、労働保険の適用促進月間ということで、PR活動は勿論行っておりますけれども、それ以外に労働時間の短縮でありますとか、安全衛生でありますとか、またさきの国会で労働基準法の一部改正が成立いたしまして、来年の1月1日から施行になります。これの説明会といったものも全国各地で行っております。そういったあらゆる機会を通じまして、PRを行っているというのは勿論でございますけれども、これに加えまして、いろいろ個別事業場へ、先ほど申しましたように立入調査がございます。これは事故が起こった場合、また申告相談があった場合、それから順番に定期的に監督するということで順番に行う場合、いろいろございますけれども、個別の事業場に臨検監督を行う場合がございます。
 そうした場合に、その問題だけではなくて、労災保険の適用状況についても、まずチェックして指導するということでありまして、言わば労働基準行政の全ステージ、全精力を挙げてこういうふうに未加入・未納事業所を減らす努力というものをしているわけでございます。
 そういった中で、民営化した場合には、これはもう強制権限がないところ、また限られておるところがありますと、必ずこれが増えてきてしまって、労働者保護に欠ける恐れが出てくるというふうに、私どもは考えます。
 2番目が、的確な労災の認定が困難になるのではないかという点でございます。これは先ほども申し上げましたように、業務上の労災補償というものは、労働基準法によりまして、刑罰を背景にいたしまして、事業主に強制されております。これは言わば刑事責任でございます。これは労働基準法を施行する立場から、労働基準監督官、監督としての権限としてこの判断を行います。
 一方、この刑事責任は免れる前提となりますのが、労災保険法上の認定でございます。この判断、これは非常に難しいということ。確かに、一般の裁判につきまして、刑事責任と民事責任の判断が異なるということはあるかもしれません。しかしながら、現在はこれは監督署がきちんと一本化してやっておりまして、ここで分けることに何の意味があるのかと、分けることによってよけい労働者は混乱をし、不明確になる恐れがあるということで、これを分けることはできないというふうに考えております。
 次に、先ほど申し上げました、労災を認定する場合の要素でございますけれども、これは自賠責のように、事故があった、その交通事故かどうかだけではございません。まず最初に、その被害に被った方が本当に労働者かどうか、経営者ではないか、自営業者ではないか、いわゆる労働者性から判断をいたします。
 次に、だれが使用者か、要するに先ほども申し上げましたように、派遣とか請負とか、いろんな複雑な労働関係が出てきております。そういった中で、本当にどこの労働者の事故なのかという点、逆に言いますと、だれが使用者かということ、そうしたことをこの契約関係だけではなく、実態関係、指揮命令関係、そういうものを実際見ながら判断いたします。
 更には事故なり職業病、そうしたものの業務起因性、これもどういう仕組みの中で、どういう権限を持った者が関与しておる機会に基づいて起こったかという点、そうしたものもチェックして、業務起因性というものを判断します。
 更には、労働能力喪失の度合い、どの程度労働能力が喪失されたかどうか、またそれが確定したのはいつなのか、こうした点も今までのノウハウというものを総動員しながら認定をしていたわけでございます。
 したがいまして、今、申し上げましたような点は、労働保護法規、労働基準法を始めといたしました関係法規、労働現場の実態、そういったものを熟知しておらない者についてはなかなか難しいということが言えるかと思います。
 もう一点でございますけれども、これは繰り返しになりますけれども、労災保険は労働者保護のためのものでございますから、労働者保護の観点から公正に運営するという点が必要でございます。
 したがいまして、私どもは民間会社ではございませんから、まず利益追求とは相入れないと考えております。労働者保護という観点から、労働者を救うという観点から認定業務もしていきます。したがいまして、認定をしないで給付を減らせばもうかるといったような視点は全くありません。また、効率一辺倒でもございません。非常に難しくて時間がかかって、人件費がかかると、1年、2年かかるとしても、やはり労働者保護という観点から、効率一辺倒ではなくて、とことん給付するかどうかということを判断するために調査をいたします。
 制度の適正さを守るための公正な運営ということでございます、要するに最近でも起こっておりますけれども、いわゆる労災隠しの問題、こういったものがございます。それから、逆に労災でもないのに労災を不正受給する問題もございます。こうしたものについては、常々監督署が監督官を含めました全体制でもって、不正受給のチェック、または労災隠しの摘発、こういったものを行っております。
 特に不正受給につきましては、御存じの方もあるかもしれませんけれども、去年大分局におきまして、いわゆる振動障害でございますけれども、不正受給というものを3年間かけて追跡いたしまして、詐欺罪で告発して一掃したという例がございます。
 こうしたことをきちんとやることによって、いわゆる労災保険というものが、労働者にとっても信頼できる、使用者にとっても信頼できるものというふうにして運営できるということでございます。
 3番目としまして、経営破綻のリスクというものがあるという点がございます。やはり民間の場合ですと、経営破綻のリスクがあるということでございまして、こうしたことを考えますと民営化した場合には、労働者の保護に欠けてしまうと。特に、現在のように労働者がリストラに怯えながら、自分が過労死するのではないかといったような不安を覚えながらは働いているときに、まさにこうした労働者の不安を増長させるような変更というものは、基準行政をあずかっているものとしては認められないということでございます。

○宮内主査 時間がございますので、少しお急ぎいただければありがたいと思います。

○松崎局長 3ページでございます。こういった民営化によります問題点、労働者保護に欠ける点を解消すればできるのかということでございますけれども、3ページに書いてございますように、こういった労働者保護の観点ということから制度を考えた場合には、この図にございますように、未加入事業場の問題、また認定は行政処分として行う必要性、経営破綻に備えた仕組み、こうしたことによりまして現行制度に比べまして、二重、三重のいろいろな仕組みが必要になってくるということで、非効率につながっていくというふうに考えております。
 また、事務運営費につきましても、今、世界で唯一行われております、アメリカの例、これは査定費用とか、下の四角の中にありますように、よくわからないものも入っておりますけれども、こういったものを考えた場合にも、我が国とは保険料に占める事務費の割合、こういったものが格段に違うということで、我々が現在行っている制度に比べまして、非効率にならざるを得ないというふうに考えられます。
 次に4ページでございます。今度は、保険料率の考え方でございます。これは、まず原則でございますけれども、これは冒頭にも申し上げましたように、労災保険制度はまさに私保険ではなくて、社会保障の一環としての強制的な社会保険でございます。したがいまして、給付と反対給付というのが必ず均衡するというものでございません。したがいまして、現行の給付におきまして、総給付と労働福祉事業、更に合計額の見込みが、この料率と将来的に均衡するということを求めているわけでございまして、業種ごとに均衡するということは想定しておらないということでございます。
 したがいまして、2にございますように、基本的な考え方でございますけれども、現在業種ごとに保険料率を定めているという点を絡めて申し上げるわけでございます。これは(1)に書いてございますように、労働災害、職業病、こういったものは御案内のように業種ごとにある程度類型されるという傾向がございます。したがいまして、従来から安全衛生行政につきましても、業種ごとにまとめて行うということによって効率的に行っているのが現状でございます。
 したがいまして、業種ごとの安全衛生対策と相まって行うことによりまして、同種の災害防止努力を促進するという政策的な意味、更には、2に書いてございますように、実際問題としまして、業種による事故の発生率の差が非常に大きいものがあるわけでございますから、極端な不公平感を少しは是正するという観点、そういったことから現行制度におきましては、業種ごとに設定していくということでございますけれども、この理由は今、申し上げたとおりでございます。
 なお、このインセンティブにつきましては、業種ごとの努力と、(3)にございますように、個別事業主の災害防止の自主的努力のインセンティブとして、個別メリット制を併用しておるということでございます。
 なお、3に書いてございます、業種間調整の必要性は、ここにあるとおりでございまして、基本的な考え方、この労災保険制度は事業主に集団的に災害補償責任を負わせているということでございますので、こうしたところからこの業種間調整といいますか、計算上業種ごとに収支というものが計算できるとしても、こういう業種間調整は必要だということを述べたところでございます。
 更に5ページでございますけれども、労働福祉事業はここに書いてございますように、労災保険制度におきましては、被災労働者の社会復帰の促進でございますとか、被災者、遺族の援護、更にはその基になります災害、職業病の発生の予防、そういった点を含めたいろんな事業を、労働福祉事業として行っているというものでございまして、中身としましては、2にございますように、被災労働者の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業として、労災病院の運営等がございます。
 また、遺族、御本人への援護を図るための必要な事業として、就学等の援護費の支給等で、(2)にあるようなものでございます。
 更には、こういった事項、給付の基になります事故を防止するという観点から、根っこを絶つというのが労働基準行政の第一の目的でございますけれども、そういった観点から労働者の安全衛生の確保のために必要な事業、こういったものを行っていると。
 更には(4)にございますように、適正な労働条件の確保を図るための事業ということで、未払賃金の立替払事業も行っていると。特にこの未払賃金の立替払事業は、未払賃金の中には退職金も入っておりますように、非常に額が大きくなるということで、やはり倒産してしまったためにもらえないと、幾ら優先的な労働賃金債権があっても、それは労働賃金債権にすぎないということが非常に多いわけでございます。これは現実でございます。
 したがいまして、この実質的な労災保険制度と同じように、実質的に労働者の損害を救済するという意味から、未払賃金の立替払事業というものを労働基準行政の中で行っているわけでございますけれども、この考え方は別に制度をつくってもいいわけでございますけれども、同じような制度でございますから、効率的な運用をするために労災保険の福祉事業として便宜的に行っていると。これは国会でも質問がございましたけれども、こういうふうに答えて御理解をいただいております。
 なお、労働福祉事業の見直しでございますけれども、これはここに書いてございますように、「特殊法人等整理合理化計画」に基づきまして、労働福祉事業団の独法化が今、進められております。そういった中で、さきの通常国会で関係法案も通ったわけでございますけれども、そういった法案の質疑の中におきましても、この労働福祉事業の見直し、また労災病院の再編、こういったものにつきまして、説明をし御理解をいただいているところでございます。
 以上、簡単でございますけれども、総論として私の方から説明をさせていただきました。

○宮内主査 それでは、引き続き雇用保険事業の説明をお願いいたします。

○青木職業安定局長 職業安定局長の青木でございます。「雇用保険事業の民間開放の促進について」という宿題をいただいております。お手元に資料を7ページからお配りをいたしておりますので、これに沿いながら御報告を申し上げたいと思いますが、八代委員の方から制度の考え方についてはお話がございまして、それはもう事実でありますので、前提としてお話をさせていただきます。
 雇用保険3事業の性格につきまして、八代委員から言わば副業という形での御紹介がございました。これは、昭和50年に雇用保険制度がスタートしたときに3事業ということでスタートいたしましたが、その基本とするところは失業の予防、失業者の早期再就職の促進、能力開発の向上等を図るということで設けられましたが、これは本体事業でございます失業等給付に附帯する事業であるということで、この事業をうまく運営することによって、勿論それ自体の直接の効果もあるわけでありますが、その効果として失業給付全体の支出抑制に資するというようなことでスタートをいたしております。
 これにつきましては、その時々の経済情勢に応じまして、この事業についての力点の置き方というのは変わってまいりました。この事業をスタートしたころには、今日も御見解がございましたが、雇用調整助成金が昭和50年代の初めでございますけれども、オイルショック、その他のときに、それなりの効果を果たしたというふうに言われております。 それは、今、御報告をいただいておりますように、大分日本の産業形態が変わってまいりましたが、その制度発足の昭和50年代から60年代にかけて、やはり景気によって産業のアウトプットが多くなったり、小さくなったりしてきたと、構造的に言わば縮小していく産業というものがまだ余り健在化していなかった時代であったように思うわけであります。
 そういったことで、事業が活発になったときのために、不活発になったときの労働力をキープしておくというような機能があったのでございますが、この点につきましては、資料の10ページでありますが、制度の変遷について少し反省をしてみました。
 休業した際に、その休業手当の補償の一部を助成いたしまして、雇用継続を図ってきたわけですが、そういった業種を指定いたしまして、そしてそこの具体的に申請してきた事業主に対して支援するという形でやってまいりました。
 しかし、仰せのとおりでございまして、むしろ社会経済全体の動きの中で、日本の国の産業として立ち得ないもの、そういったものも出てきて、非常にわかりやすくなってきた。そして、今後縮小傾向が戻らないような産業に対して応援するということは、むしろ構造変化、自然の変化というものを阻害するものではなかろうかという御批判もございました。
 そういったことを含めまして、平成13年にこういった助成金全体を見直す中で、業種指定をするということをやめました。その意味は、業種に指定されたということだけで助成金を支給するという、どちらかというとモラルハザード、その他を防いでいこうと、そして支給する金額も期間も短くいたしました。むしろ、業種にかかわらず自己責任で非常に短期間の間に労働者の方々を休業させながら、経営を立ち直らさせて、もう一度みんなでちゃんと働いていくという、決意のある個別の事業主の皆さんが自己責任で活用できるようなシステムに変えていこうというふうに今なってまいりまして、そういう意味では構造変化に対してより中立的なシステムというふうに現在しようとしておりますし、また将来的にその問題があれば、そこのところもきっちり見ていきたいというふうに思っているところでございます。
 そういったことも含めまして、資料の9ページでありますが、雇用保険3事業の助成金、大きな見直しをこのところ続けておりまして、平成13年10月に61本あった助成金、来年度の概算要求では、29本に縮小いたしました。この考え方につきましては、八代委員の方からもお話がございましたけれども、省内に設けられました政策評価のための委員会、自己評価、あるいは省内に設けられました政策評価に関する有識者会議、こういったものの活動。それから、当委員会も勿論でありますけれども、部外のさまざまな機関の御意見。そういったものを総合しながら、政策決定を行っているところでございまして、その様々なところで、様々なことを考えて実施をするので、混乱しているのではないかという御指摘ではございますけれども、こういった見方で、個々の政策目的とは別に受給者を減らすと。あるいは、ミスマッチを解消すると、そういったものを焦点といたしまして、雇用保険事業全体としてこれを整合性のある制度にすると、運営するということで、ほかの能力開発であるとか、さまざまな事業があるわけでございますけれども、雇用保険事業として職業安定局で統括をいたしまして、それは厳重に審査をしておりますし、平成16年度におきましては、収入と支出が均衡するという形での概算要求をいたしておるところでございます。
 それから、11ページは能力開発の関係でございますので、12ページに飛ばさせていただきます。雇用福祉事業について、お話がございました。この雇用福祉事業に関しましては、名前が沿革的に実はお触れになりました、勤労者福祉施設、そういったものも含めた形で名前が付いておりますので、どちらかというとハコモノイメージが出てきてしまうわけでございますが、御案内のように現在では平成9年度における設置決定を最後に新設はいたしておりません。
 そして、来年3月1日までにこの施設については、民間の譲渡等を進めて、その営業は新しい独立行政法人には引き継がないということでございまして、以後はこれらハコモノに関わる経費というものは、3事業からの支出はゼロとなるということになっております。
 そういった流れの中で、雇用福祉事業につきましては、先ほどお話がございましたように、むしろミスマッチ解消のための仕組みとして活用をしていくというのが、私どもの今後の方向でございます。
 そして、これにつきましては、ハローワーク自身の相談機能を充実して、失業者の早期再就職、あるいは能力開発が必要な方への能力開発の導入といったことを含めておりますが、その中身としては、1つはまず民でできるものについて民間にお願いをするというアウトソーシングの仕組み、それからその下にございますが、今度は私どもの行政機能の中で、民間の力というものを入れていくという意味での専門家の導入等を含めた、そういった民間のお力をお借りした受給調整機能の拡大、こういったところに事業を変更しつつあるところでございます。
 いずれにいたしましても、この事業を的確に運営をして、委員の方からお話がございましたように、失業者が減る方向に使うということで現在見直しをしておるところでございます。

○坂本職業能力開発局長 引き続きまして、職業能力開発局長の坂本でございますが、11ページに戻っていただいて説明をさせていただきます。
 能力開発事業における民間活用でございます。失業の原因が能力のミスマッチにあることから、このようなことを解消するために、ニーズに則した能力開発を行い、再就職の促進を図るということは極めて重要であると認識しております。
 特に、離職者の能力開発につきましては、民間の教育訓練機関等を活用して行うということを基本方針にいたしておりまして、民間の教育訓練機関等といたしましては、これまで専修学校や各種学校を活用してまいりましたが、昨年からは多様な資源を活用しようということで、1つは高度な能力開発機会の提供を行うということで、大学や大学院を委託先としてお願いをいたしております他、介護や福祉等のこれからの有望な雇用創出分野であるNPOにもお願いをして委託訓練をやっております。
 そのほか、実際求人を出していただいている事業主に実戦的な訓練をやっていただくことは大変有効でありますので、事業主に対しまして教育訓練の委託をお願いいたしておるところでございます。
 公共職業能力開発施設におきましても、既存の科目につきまして、常にニーズに合っているかどうかということを、事業主団体等の意見も伺いながら、見直しをいたしておりますが、加えまして民間の外部講師を活用して施設内の訓練も行っておるところでございます。最近では、全体時間数の3割弱ほどを民間の外部講師にお願いをいたしておるところであります。
 今後についてですが、基本は労働市場の人材ニーズに適合した訓練を民間の教育訓練機関等を活用して積極的に行うということにいたしております。ここには、先ほど申し上げました大学等も活用したものにしていくことにしております。
 また、公共の施設内訓練におきましても、民間の専門家や実務経験者をキャリアコンサルタントとしてお願いをいたしまして、訓練をやるに当たって訓練の希望者の能力評価でありますとか、適した訓練コースの設定等を積極的にやっていただいて、高い就職率を確保したいと考えております。
 そのほか、公共の施設におきましては、科目の見直しと併せまして、民間の外部講師のさらなる積極的な活用もしてまいりたいと考えております。
 更に就職率を上げるという点で、来年度からは民間に委託をしているものにつきまして、委託費を職業実績を踏まえて交付をする仕組みを導入したいと考えております。
 また、公共の施設内訓練につきましても、雇用・能力開発機構は来年の3月1日から、独立行政法人になりますので、この中期目標の中で就職率等の目標設定をいたしまして、高い就職率を確保してまいりたいと考えておるところでございます。
 そのほか、民間の教育訓練機関等は、全国47都道府県は地域におきまして、かなり民間の施設の数等において差があるものですから、今後積極的な民間の教育訓練機関等の育成を図るという観点で、必要な情報提供等を行ってまいりたいと考えておるところでございます。
 以上でございます。

○宮内主査 ありがとうございました。ちょうどお願いしました時間に終わっていただきまして、ありがとうございます。
 それでは、ただいまから意見交換を始めさせていただきたいと思います。まず、ただいまの厚生労働省のお考えをお伺いさせていただいたということで、当方から議論の口火を切らせていただければと思いますが、それでは八代さんからお願いします。

○八代委員 それでは、簡単に今、労働基準局長の方から言われた話についてお話したいと思います。まず誤解がないようにお願いしたいのは、我々は労働基準監督署の役割については、極めて高く評価しておりますし、今後とも労働者の保護のために最大限の努力を払っていただきたいというのは、全くそのとおりで、それを言わば補完する役割として民間の保険というものを活用できないかということでございます。
 御指摘あったように、労働者の安全を確保するための行政というのは、重要なわけですけれども、その行政自体と言わば保険を運営するという金融的機能というものは、少し水と油の関係にあるのではないかと。勿論、何が労災であるか、特にいただいた資料の2ページ目の、労働者性であるとか、だれが使用者であるとか、権限関係はどうかと、こういうものの認定というものの基準は当然ながら国でなければできないわけですし、当然今、詳細なマニュアルを持っておられると思うわけです。
 ですから、今でも基準監督署ごとが恣意的に、裁量的に判断しているわけではなくて、やはり統一的なマニュアルに基づいて判断しているのであれば、そのマニュアルに基づいて民間の事故算定業者の専門家がやるということは可能ではないだろうか。言わば、国の公務員がやるとの同じな作業を民間の方がやるわけでありまして、そういうときに認定基準さえ国の方で決めれば、それに従って実際の施行をするというのは、民間の人でもできるのではないかということであります。認定基準の設定自体も民間でやるということを考えておられるのであれば、それは決して我々の考えていることではないのだということでございます。
 それから、もう一つはやはり民間に任すと未加入・未納事業者が増大するということは、全くこちらと認識が正反対であって、現在既に未加入者がかなりいるわけでありますから、それをまさに国と協力して民間がやるということ。こちらのペーパーに対するコメントという形には、必ずしもなってないわけですので、その点ついてまたコメントをいただければと思います。
 自賠責の車検制度ように、加入を担保する仕組みがないというのは全くの誤解であって、今の労働基準法の基準自体がまさに担保する仕組みでありまして、民間の保険会社が何も強制加入や滞納処分する必要はないわけで、それは基準監督署の仕事ではないか。つまり、民間の保険会社が加入を請求に行って、それを拒否されたら、それを直ちに労基署に連絡して連携を取るということでありまして、今のように単にPRをするとか、そういう間接的な手法ではなくて、まさに直接伺って、保険料をいただこうとすると、それを拒否されるというところが一番問題ではないか。そういう意味で、問題の事業所を判断するための手段として民間の保険会社を使うということに対して、どうなのでしょうかということであります。
 今、労基署の監督官が十分にいて、そんなことをする必要がないのであればそうでありますが、現にこれだけたくさんの事業所が入ってないということは、やはり労働力が不十分ではないかということだと思います。
 ですから、そういう補完的な関係ということに対してどうなのかということです。
 それから、4ページ目でよくわからないのは、何か給付と反対給付が均衡しなくていいのが社会保険の原則だというふうに考えておられるとしたら、これは例えば厚生省の考え方とはかなり違うのではないかと。厚生省の年金保険でも、自助努力ということをまさに重視しているわけで、保険料なくして給付なしということが、社会保険の原則であるというふうに言っておられるわけです。社会保険だから給付と反対給付が均衡しなくていいということにはならないのではないか。つまり、むしろ社会保険の原則というのは、強制性にあるわけでありまして、強制性を除けばやはり民間の保険と基本的には同じでなければ、保険原理が成り立たないかと思われます。
 特に、4ページの下に書いておられますように、2の(1)の1でありますように、業種ごとの安全性対策と相まって、同種災害の防止努力を促進するという政策的意味というのが労災保険の重要な機能であるとすれば、なぜこれをもっと徹底してやられないのかということであります。
 先ほど言いましたように、オフィスワークというのは、今の保険料率では高過ぎるわけでありまして、逆にもっと保険料率を上げなければいけない業種もたくさんあるわけであります。ですから、先ほど言われた、「社会保険の原則に関して言えば、業種別に収支を均衡させる必要はない」というのは、もうちょっと具体的にどういう意味なのか是非御説明いただきたいと思います。
 産業と職業は相互に依存関係があるということは当然だと思いますが、なぜそれが今のような業種間の大幅な不均衡を説明する理由になるのかというのが、よくわからないわけであります。
 ここに明確に書いてありますように、まさに個別事業主の災害防止への自主的努力のインセンティブとして、個別メリット制を制度化されているのはそのとおりですが、それがまだまだ不十分であるというのが、我々の観点であって、なぜ今の水準で十分なのかというのを是非御説明を願いしたいということでございます。
 それから、未払賃金については、便宜的に行っているというふうにはっきりおっしゃったわけでありまして、今のような労災保険がこれから問題になってくるときに、本当にそういう便宜的な制度でいいのかどうか。これが必要であればきちっと法律に基づいてやるわけでありまして、このように本来労基法で定められた基準を財源が豊かであったということで福祉事業として拡大しているわけですが、どこまでこの拡大が本当に必要なものかどうかということを、今まさに見直す時期にあるのではないかというふうな指摘です。
 それから、雇用保険3事業の方は、基本的にこちらと考え方はそれほど違わないので、あとは個別にまた議論させていただきたいと思います。

○宮内主査 それでは、ただいまの点につきましてお考えをお願いします。

○高橋労災補償部長 労災補償部長の高橋と申します。今、八代委員の方から何点か御指摘がございましたが、それぞれ簡単に私どもの考え方を申し上げさせていただきます。
 まず、認定ということに絡みまして、補完という観点から国と民間の保険運営と併せてやれるのではないかと。特に認定について民間でもできるのではないかという御指摘がございました。

○八代委員 認定基準はそちらでつくられて、それに基づいて実際の認定行為を民間でという意味ですが。

○高橋部長 ですから、私ども認定基準に基づいて、個々の具体的な労災請求事案につきましては、業務上外の認定をしていく上で、先ほど局長からも申し上げましたとおり、労働基準監督機関としての立入権限というものを十分に行使しながら、またそれまでの行政展開の中で蓄積をしております職場の変化、あるいは働き方の変化ということを十分踏まえながら、個々の認定ということを行っているわけでございます。
 特に、やはり具体的な認定を行います場合に、その被災者の実際の働いてきた実態というものを詳細に把握する必要があるわけでございますが、こうしたことを正確に判断していく上では、やはり事業主の持つさまざまな資料というもの、真に正しい実態を示す資料というものを十分収集する必要があるわけでございます。
 こうしたことをやっていく上では、やはり監督権限というものを背景にしてやって、初めて真実に迫れ得るのだろうというふうにも思っておりますし、また……

○八代委員 お話中恐縮ですけれども、そういう事故が起こったら、当然書類の押収とか、そういうことは労働基準監督署でやられるわけですね。当然ながら、保険の支払いにかかわらず、ですからそれを後で一般の保険会社の方にも見せていただければ、それでいいということです。

○高橋部長 ですから、見せていただければいいとおっしゃられても、恐らく本当の真実に迫られる資料をどこまで出せるかという観点から言うと、私どもは限界があるのではないかというふうに思っております。
 それから、これは民間保険会社というのは、保険者であると同時に、事業主という立場でもあるわけでございます。そういう観点から申し上げますと、民間保険会社が認定をする上で、仮に誠実かつ真実に基づいて行ったとしても、例えば業務外と判断された場合、被災者の立場から言うと本当にそうなのかと、それは事業主たる立場の民間保険会社というものの持つ公正さに対する疑問というものが、これは宿命的に持たざるを得ないのではないかというふうにも私ども感じております。

○八代委員 よくわからないので、もう一度詳しく、事業主性というのは、どういうことですか。

○高橋部長 民間保険会社は民間会社でございますので、当然労災補償、この基準法上の災害補償責任という意味では、事業主たる立場でも同時にあるわけでございます。つまり労働者を雇って事業を行っているわけでございますから、つまり労災保険の適用事業所でもある。

○八代委員 例えば利益相反関係があるとおっしゃるのですか。

○高橋部長 そういう恐れは十分あるのではないかと。

○八代委員 そんな話をだれがしているか、失礼ですが保険会社は事業者であるから、公平な保険料の算定ができないというのが一般的な通念かどうか教えていただけませんか。

○高橋部長 保険会社が正確なことをやれないと申し上げているわけでございません。ただ、そういう懸念というものを、どうしても被災者、特に業務外と判定された場合の被災者の立場からかんがみると、そういう疑問というものを持たれる恐れがあると申し上げているだけでございます。
 それから、未加入の問題でございますけれども、そちらの規制改革会議の御提案では、民間保険会社がさまざまな事業活動を通じて未加入事業所を発掘して、それでまだ未加入の状態であったら、それを監督署に連絡をして監督署の強制権限と申しますか、どういうイメージを持たれているのか、どういうことを想定されているのか、必ずしも判然といたしませんが、現場の加入に関わっての私ども行政機関が持つ強制権限としては、1つは職権による保険成立でありますし、もう一つは手続をやっておりませんので、当然保険料は未納でございます。そうした事業所に対しまして、今、申し上げた職権による保険成立と併せて納入告知をかけるということになるわけでございます。
 これは保険者たる立場にあるからこそ、こういうことができるわけでございまして、仮に保険者たる立場にない国が民間保険会社から発掘された未加入事業所に対して、どういう強制権限を発揮しろと申されているのか、正直申し上げてよくわかりません。
 結局、1つは民間保険会社といえども、加入すべき事業主から、どの保険会社に加入するかというのは、それぞれ事業主の自由であるわけでございまして、そういう意味では各保険会社というのは、その事業主が加入申し込みをしてくるのを持つというのが、やはり多くの場合はそういうことにならざるを得ないのではないかという意味では、私どもはこのペーパーでも申し上げているとおり、自賠責のような車検制度という確実に加入を担保し得る仕組みがない中では、今以上に無保険事業所というものが増大してしまうと。そういうことになりますと、被災者への補償というものに欠けるわけでございまして、それを欠けさせるわけにはいかないとするならば、既に自賠責の場合にも轢き逃げ車両でありますとか、若干存在します無保険車による事故に対しての補償事業というものを持っておるわけでございますが、これは自賠責の中では本当にわずかなウェートしか持っていないと承知しております。
 しかし、労災保険にこういう仕組みで、もしやったとしたら、そんなものでは留まらない、相当な別途の国が関与した補償事業というものを並立させる必要があるのではないかというふうに思っておりまして、これは極めて非効率、またいずれは保険料の引き上げにつながりかねない大変大きな問題ではないかというふうに思っております。

○八代委員 途中ですが、今のお話はこういうふうに整理したらいいですか。つまり、今は国が自らやっているから一生懸命やっているけれども、仮に民間会社が国の強制保険である労災をやったとしたら、国は一切協力しない、民間だけでやれと、そのときはうまくできないでしょうと。そういうような考え方と言ってもいいわけですね。

○高橋部長 国は一切知りませんよと申し上げているつもりはございません。つまり強制権限、公権力の行使を一体どういう形で想定をされて、今そちらの方からこのような案が提案されているのか、正直申し上げて私どもは具体的にはよくわからないということで申し上げているところでございます。

○八代委員 現在、でも事務組合なんかを使っておられるわけですね。

○松崎局長 補足させていただきますと、私さっきの説明で、PRとか、そんなことばっかり申し上げましたけれども、実際基準局の現場では滞納処分までやっております。勿論、私も現場で知っているわけでございますけれども、そういうふうに滞納処分までやることにつきましては、やはり保険制度というのは、適用し、徴収をし、そして給付するという一連でございます。その中で一番しんどいのが、今、言いました、適用、徴収、滞納処分でございます。実に逃げ回ります。嫌がります。行く方も嫌です。しかしながら、それを職務としてやっているわけです。それは、保険制度を運営する上でやはり一番最初は給付が大事ですけれども、やはり適用、徴収、そこをきちんとやらないと保険制度としての信頼性が失われるということから、そこは監督署自らやれということでやらせております。そういうことは、全体をやっているから、そこのところに力を入れるわけでありまして、そこに一番費用もかかります。
 そうすると、民間はそうじゃなくて、一番楽なところだけやって、一番そういう手間のかかる、一番しんどいところを国だけにやらせるということでは、これは話が合わないのではないかという気がします。

○八代委員 ですから、国がなかなかうまくできない適用、徴収を、まさの民間のインセンティブでやろうという考え方なわけですね。

○松崎局長 それにつきまして、さっきおっしゃった労働保険事務組合で地道に、まさに大変な努力をしてやっております。民間活力という面では、既に労働保険事務組合が大体中小企業の6割以上をやっているわけでございますけれども、そのところはまさに努力をして、まさに言われるような民間活用ということで適用、徴収というものをお願いしております。

○八代委員 ですから、その事務組合というのが、どれぐらいのインセンティブを持ってやっているかというところがポイントで、だからこそこれだけの未納の事業所があるのではないかという疑念で言っているわけでございます。
 だから、何か関連のある事務組合であればいいけれども、民間の事業者ではだめだという論拠がどこにあるのかということです。

○松崎局長 それはまさに事務手続だけですね。事務手続だけということであれば、また保険制度そのものの根幹ではありませんから、そういったものはまさに現在労働保険事務組合に、委託の格好でございますけれども、適用、徴収のところを委託しているわけでありますけれども、そういうところについてはまた所要の方法というものがあるのかもしれません。

○奥谷委員 社会保険庁との関わりというか、社会保険庁も同じようなことを言うのです。結局、徴収する強制力はないと、そこまで行って調査してどうのこうのやっても、本人が支払うというあれがなければ、そこまで立ち入ってやることはできないような。
 ですから、労働基準局と社会保険庁との関わりあいというのは、どういうふうなになっているのでしょうか。そういった払わない企業があって、まして悪徳な企業になりますと、入らなくていいように会社を細分化して、従業員の数を少なくして、そして勿論労災は1人でも入らなければならないのですけれども、特に雇用保険の場合は入らないでいいような形に細分化してしまっているという、そこにそういう会社があるといっても、社会保険庁はそこに立ち入らないと、立ち入ってそこまで調査はできないということをおっしゃっていましたけれども。

○松崎局長 労働保険、特に労災保険につきましては、そういうことはないと思います。立入権限もありますし、今、申し上げましたように、全部が全部いきなり滞納処分にはいきません。やはり継続的に毎年毎年事業者の方が本当に労働保険には入らないといけないと、今度そこからそれを理解していただいて、初めて目的が達成するわけですから、いきなり全部滞納処分というわけではございませんけれども、最終的には滞納処分までかけて、強制的に徴収をしておるということは、従来からやっております。

○奥谷委員 それだけ強制でやっていれば、これだけの未払いが出てくることはおかしいのじゃないですか。毎年毎年増えていくこと自体が。

○松崎局長 特に最近企業の廃業率が大きいわけでございますから、それはもう優良企業だけではなく、小さい企業もあります。適用したら、翌年倒産してなくなっている、また別の小さな企業ができるというように、御案内のように追い駆っこでございます。

○高橋部長 あと簡単に、もう2点ほど御指摘があったかと思います。
 1つは、保険料率に関わる考え方の問題でございますが、社会保険の原則として、給付と反対給付というのは均衡するものではないというこの記述について御指摘がございましたが、これは危険に応じて定められるべきとの原則はないという意味で、業種ごとに考えた場合必ずしも収支を均衡させるまで必要はないのではないかということを申し上げているところでございます。その場合は、その業種ごとの危険度合いに厳密に対応して料率を決めるべきではないかという御指摘がございまして、これについては事務局からの試算も示されておりますが、非常に確かに業種ごとに見ますと、ある一定部分の業種については、給付以上の保険料をいただいている面がございます。
 これは考え方として、既にお示しをしているところでございますけれども、長期療養に関わる部分でありますとか、年金給付に関わりましては、発生から3年を経過して初めて初回受給を迎えるような部分とか、こういう部分について事業主の集団的責任と、集団的な補償責任ということを勘案して、業種全体として御負担をいただいていると。

○八代委員 ちょっと済みません。議論を混乱させているように思いますが、それは付加分の1.5%が業種に関係なく出されているということの話ですね。

○高橋部長 いや、違います。1.5というのは、これは労働福祉事業に関わる部分でございます。そのほかに業種のリスクに関係なく一律という部分については、通勤災害を始めとした非業務災害。それから、平成元年から長期給付に関わる保険料の賦課方式の考え方を改めたわけでございますが、いわゆる充足賦課方式に改めたと、これはそちらの方から出していただいた資料の中にも若干コメントがございますが、元年以前の長期給付に関わっては6年間しかいただかなかったということで、その部分が過去債務として残っております。これも各業種で一律に御負担をいただいているということでございまして。

○八代委員 そういうものの占める比率が、本当に例えば倍ぐらいの、ホワイトカラーについての保険料格差を説明するのに十分な額か、単に名目的な額かということです。

○高橋部長 ですから、それはまた別の問題でございまして、恐らく事務局から試算をされた、産業間の、そちらの言葉で言えば黒字貢献度というふうに表示されておりますが、これはいずれにしても業務災害に関わって先ほど申し上げた長期療養分とか、年金給付の一定部分とか、そういう部分はそれぞれの業種のリスクということではなくて、全業種の事業主から共通して御負担をいただいた結果としてこういうふうになっているということで、今、八代委員が言われた、労働福祉事業とか、非業務災害とか、過去債務分に関わる部分とは恐らく違う問題だろうというふうに思います。
 こういう各産業、すべての業種に一定部分、一律的な御負担をお願いしているところについては、私どもは業種間調整の必要性ということで縷々申し上げているところでございまして、特にこれだけ資料の15ページでも金属又は非金属鉱業、水力発電等々を始めといたしまして、この表で言う▲になっているような業種に、厳密にリスクに対応して御負担をいただくとなると、大変業種としてはその存続を危ぶまれるような負担にならざるを得ないということから考えますと、やはり一定の業種間調整というものはお願いをせざるを得ないのではないかと。
 ただ、どの程度が公平なのかということについては、勿論議論のあるところかと思いますし、その点は我々も今後十分に広く御議論を賜らなければいかぬのかなと思っておりますが、厳密にそれに対応させるということまでは必要ないのではないかというふうに思っております。
 それから、労働福祉事業に絡みまして、黒字だから云々という御発言がございましたが、これは黒字だからという御理解は是非改めていただきたいと。と申しますのは、明確に労働福祉事業に関わっての料率は1,000分の1.5ですというふうに申し上げているわけでございまして、決して保険給付の黒字が生じたから、これをどんどん広げてきたというものではないということは御理解をいただきたいというふうに思います。
 いずれにしても、この1,000分の1.5という部分で、労働福祉事業を運営させていただいていると。ただし、特別支給金については、これは労働福祉事業として位置づけておりますが、この部分については保険給付と併せて保険料率を定めておるところでございますので、1.5の範囲からは除かれておるというところは、併せて御理解いただきたいと思います。
 それから、若干黒字黒字と、お出しいただいた資料でも、例えば13年度2,687億の大幅な黒字という表現がございます。これにつきましても、大変誤解を招く話でございまして、この2,687億の額と申しますのは、実は1つは積立金に回る部分と、それから翌年度の支払い備金、つまり労働保険料は年度当初概算でいただいて、初めて保険料として入る。しかし、4月からおおむね6月ぐらいまでは、にもかかわらず保険給付をやらなければいけないということで、前年度からいただいた保険料の中の歳入の一部を翌年度の備金として翌年度に繰り入れているという部分が若干ございますし、それから……

○八代委員 それは毎年のことだから同じことじゃないですか。それで、積立金もかなり膨大な額があるから、そこでも……

○高橋部長 ですから、問題は積立金、13年度で言えば約二千数百億の新規の積立金の繰り入れがあるわけでございますが、これは年金給付に絡んでの将来給付に必要な費用としていただいた保険料、これを積み立てているものです。

○八代委員 じゃ積立金はすべて年金給付の将来給付に相当するわけですか。

○高橋部長 基本的にそうです。

○八代委員 そんな多くの額が必要なのですか。

○高橋部長 はい。これについては、その算定の考え方については、既に資料としてお示しをしてきているところでございます。
 とりあえずは、そういうことでございます。

○八代委 わかりました。

○宮内主査 それでは、稲葉さん、どうぞ。

○稲葉専門委員 先ほどからずっとお聞きていしまして、この労働基準局の御説明に聞いていて違和感があるのです。何で違和感があるのかというと、1つは国と公共がやっていることはすべて公正で、適切であるのだと。
 それから、例えば事故の調査なども、権限を背景にしてやればより真実に迫れるのだとか。民間にやらせると疑念が持たれるとか。そういうお話がずっと続いているのです。私も労働基準監督といいますか、労働者保護といいますか、これは非常に重要な役割であって、重要でないとは全然思ってないのですよ。労働基準監督行政が非常に大事だということはわかっておるのですけれども、ちょっと脱線するかもしれないけれども、私、昔、総務庁にいたことがありまして、国の出先機関の調査なんかやっていると、労働基準監督署というのは割と評判が悪いのですね。職務に熱心なのかもしれないけれども、熱心な余り自分たちが正しいと思い過ぎて、市場の変化とか労働状況の変化というものに余り対応してないからです。今の御説明を聞いていて、なるほど大本もそうなのだという感を受けてしまったのだけれども、それはちょっと置くとして。
 別の角度から見ると、ルールをつくるものが自ら実施して、そのジャッジまで自分でするというシステムは、非常に疑念が持たれるシステムなのです。ルールをつくるものと、実施するものと、ジャッジするものが、同じ主体で、その間に監督関係があるもの。これは何も労働省だけの話じゃないのだけれども、それが一番適切だという考え方を持たれては、地方でできるものは地方で、民間でできるものは民間でということを検討しろという総理の方針に、全然そぐわないことになってしまいます。
 それはまた一方で疑念を持たれるわけです。そこでどういうマイナスが表われてくるかというと、その三者の癒着から、いろいろな問題が起こってくる。どの保険制度の話だったか忘れたけれども、地方公共団体の上部の介入で、一部の事業者を入れないようにというプレッシャーがかかったこともありますし、政治が介入することもあります。ですから民間でできることは民間でやらせて、やらせた民間を、ルールをつくった国が厳重に監督する。あるいは、事故の実態の解明だったら、第三者機関にやらせるとか。そういう方が、より公正で妥当なのではないかと思います。
 そういう観点から、私どもは提案しているわけでございまして、一切そういう観点については聞く耳持たない。今やっていることが一番適切で妥当なので、何か問題があるのだったらそっちで証明しろと、そういうような感じで対応されては非常に困るのです。
 例えば今の認定の問題だって、車検みたいな制度は確かにございませんから、困るというのはよくわかるのだけれども、例えば情報化が進んでいる世の中でございますから、いろんな方法で事業所を把握して、それが労災保険に入っていなかったら、ネットの上でどんどん公開していくとか、そういうやり方だってあるわけですし、そういう新しい方向に向かって少しでも工夫していただく、国全体がこれからそういう社会を目指そうという方向に努力していただく、そういう姿勢が是非欲しいと思うのですが、その辺いかがでしょうか。

○宮内主査 どうぞ。

○松崎局長 確かに、今おっしゃった点は、私が冒頭申し上げましたように、対等な私人間の経済ルール、いわゆる市場経済ルールにおいてはそのとおりだと思います。
 しかしながら、これは何回も言っていますように、例えば労働市場という言葉がございます。しかしながら、労働市場という言葉は便宜的に使っているので、これはやはり市場ではありません。生身の人間です。

○八代委員 それは、職業安定局長に是非、労働市場というのは存在しないという、今の労働基準局長のご発言について、後でコメントを伺いたいと思います。

○松崎局長 それは便宜的に市場というわけです。市場経済ではありません。いわゆる労働者の保護というのが、私ども行政の目的ですから、そこのところは全く一般の経済原則の規制緩和なり、そうした一連の流れの中の考えではないと思っております。
 特に現在のように厳しい状況の中で、労働者はこれまで以上に不安を覚えること、そういったことは是非とも避けなければならないと。少なくとも現在私どもが行っていることが、最良とは考えておりません。しかしながら、保護を後退することは認められないということを言っておるわけでございまして、認定につきましても、やはり我々が難しいといっておりますのは、何年になればできる、また認定基準さえあればできるというものではありません。やはり我々と同じように、私も経験ありますけれども、労働者から申告を受け、雇用を保護しながら、事業所に調査に行き、向こうの事業主に脅されながらも賃金を支払うよう説得すると、そういったことを積み重ねてきて、20年、30年やるわけです。そうすると、労働者の保護というものをちゃんと持っている人間が認定するから、何とかこの労災保険制度についても、被災者にとっての信頼性というのが保たれているわけでございまして、そこを民間企業の営利優先なり効率性優先、こういった判断ではできないというふうに考えております。

○稲葉専門委員 二分法で物事を考えるべきではないと思うのです。営利優先か効率優先かとか、公正と効率が相反するとか、市場と言うか言わないとか、現実派その両面を持っているのじゃないですか。
 先ほどの一番最初の御説明にあったように、この保険の一部分が保険になじまない部分までカバーしているということはよくわかりますよ。年金だって保険というか、かけ金ではなくて税金で賄わなければならない部分がある。そういう部分があるというのは認めるけれども、全部がそうじゃないのだから、事業としてなじむ部分もあるし、事業としてなじむ部分もあるのだったら、お嫌いな言葉かもしれないけれども、市場原理に委ねるのが一番公正ではないか。
 ちょっと言いにくいことを申し上げますけれども、さっきおはなししたような三者の癒着構造があるがゆえに、例えば古い名称で申し上げますけれども、労働福祉事業団でも、雇用促進事業団でも、たくさんのファミリー企業をいっぱい持っているじゃないですか。そこでいろんな人が飯を食べているけれども、働きに見合うだけの仕事をしているのかどうか、もししてないとすれば、それは市場原理よりももっと歪んだ形で利潤を確保していることではないか、こういう疑いを持つような議論になってしまうのです。
 その点、いかがですか。

○松崎局長 これは、保険の適用、徴収、認定とは別の問題です。別の問題ですが、まさにその点は、もしそういうものがあるとすれば、厳に改めなければならないと考えております。

○稲葉専門委員 しかも、先ほどちょっと出ましたけれども、そういう全体としての資源配分をやることが行政機関と同じような、厳格な審査を受けているわけではなくて、何か審議会みたいなものを持たれて、事業者代表、労働者代表を適当にお集めになられて、ちょこちょこと議論して決めてしまうと、非常に不公正な、市場原理よりももっと不公正な感じを受けるのです。

○松崎局長 先ほどちょっとお話がございました、ルールをつくるものがルールを施行してはおかしいと言われましたけれども、これは冒頭言いましたように、労働監督条約、81号条約の1つでございます。それはILO条約にも反することになります。
 もう一つ、ルールをつくるのは我々で、現場の監督署、労働局ではありません。これは現に分けております。私自身も監督官ですから、これは現に自分がルールをつくって、自分がルールを施行してはならないというふうに思っていますから、それは最後の最後まで取っておるわけでございまして、現在のところ自ら監督権限を施行することはしておりません。
 そういうふうに、ILO条約の中では労働監督制度という仕組みの中では、そのルールをきちんとつくって、その一体の監督制度の中で施行しろとなっていますけれども、実際の運用は今、申し上げましたように分けているつもりでございます。

○稲葉専門委員 ただ、人事権は持たれているわけですから、実際の運用を分けているといっても、人事権を持っているものが指揮監督の形でやっていれば、やはりそれは癒着という疑念は持たれるわけですよ。

○松崎局長 それはすべての行政がそうです。

○稲葉専門委員 だから、すべての行政について今、民間でできるものは民間にという議論をしているわけです。おたくの行政だけやっているわけじゃないのです。

○松崎局長 その時に、労働者の最大の保護者は誰かと、これは使用者の保険でありません。労働者のための制度です。したがって、労働者が不安を感じたり、労働者の保護に疑念が生じるようなことはしてならないと言っているわけです。

○稲葉専門委員 それはわかりますけれども、それは労働者の声を実際に聞いての上の議論ではございませんから。

○松崎局長 更に言えば、これは奥谷委員も、失礼ですけれども、かなり目からうろこの面があったと思います。労働基準法の改正案を審議したときに参加されておるわけでございますけれども、まさに私ども労働政策については、公労使というほかの審議会になかなかない構成になっております。特にこの制度につきましても、受益者たる労働者の代表、負担者たる使用者の代表、それから制度全体を考える公益の代表、三者構成の中でもって、多数決というものを取らず、お互い納得して議論をして、三者それぞれ納得できる範囲内で、完璧ではないかもしれませんけれども、一歩前進でも三者納得できるもので一歩一歩行政の施策というものを進めているということでございます。

○稲葉専門委員 これ以上抽象的な議論をしてもしようがないと思うのですけれども、その三者構成で、そこで出てきている使用者、労働者が、本当に使用者の利益、労働者の利益を代表しているかというと、これもまたかなり疑念を持たれているところなのですよ。労働組合官僚とかそういうのがありまして、その辺にも疑念を持たれているところでもあるので、もうちょっと透明性を確保していただきたいという感じがするのです。余り否定的な話になってもいけませんが。

○宮内主査 福井さん、どうぞ。

○福井専門委員 労働者保護の必要性があるという点、全く当方も同じ考えです。そういう前提で何点かお聞きしたいのですが、この労災給付の前提となる危険ないしリスクなのですが、この発生原因者という点で考えると、どの業種が発生原因者ということになりますか。

○高橋部長 ちょっと御質問の趣旨がよくわかりませんけれども。

○福井専門委員 例えば、建設事業で発生するリスクの発生原因は、例えばオフィスワーカーの業種であったりするかどうか、ということです。

○高橋部長 これは、適用事業所単位で見ましたときに、建設事業、建築事業に属する事業所であるというふうになるわけですが、その中には勿論現場で実際に工事に当たっている方もおられますし、現場の中の一部で事務をとっておられる方もいるということです。

○福井専門委員 そういう意味ではないのです。建設事業者以外の、例えば工業労働者とか、あるいは別の業種の方との関わりについてお伺いしているのですか。

○松崎局長 建設業者というのは。

○福井専門委員 要するに、この料率の前提となっている業種には、リスクの高い業種とそうではない業種があるという点先ほどデータを拝見しましたが、言わばある業種のあるリスクと別の業種の別のリスクとは、どういうふうに関連しているという御理解なのでしょうか。

○高橋部長 直接ある業種のリスクと他の業種のリスクが関連を持っているということは、基本的には恐らくないのだろうと思います。抽象的にはもしかするとあるかもしれませんが。

○福井専門委員 恐らくそうだと思いますが、そうしますと給付と反対給付が均衡するものではないということなのです。結局ある業種で発生したリスクの分をほかの業種でも分担するのが、ここの言葉によりますと事業主間の相互扶助や集団的責任の観点から妥当だということなのですが、しかしそれを貫けば、リスクをほかの、言わばリスクの発生者でない主体がリスクを分担するということになりますね。
 このことは冒頭の命題、まさに労働者を保護するという観点からいいますと、言わば危険な仕事を行う、あるいは労災の発生リスクなり発生の被害の程度が重い業種について、保険料負担を少なくさせるということを意味しますから、それは危険な事業の存続を許すということになって、かえって労働者を危険にさらすことになりませんか。

○高橋部長 理念的には、恐らくそういう面があるのだろうと思いますが、リスクが高い業種だから、この日本の経済から、日本の産業から要らないと、もう存在しなくてもいいということには、恐らくならないのだろうと思います。

○福井専門委員 それは労働者保護という観点と矛盾しませんか。

○高橋部長 労働者保護というのは、被災者に対して基準法の最低基準は勿論でございますが、決められた補償というものが確実に行われるように、事業主全体で補償のための費用の負担をやりましょうというのが、労働者保護ということの意味だろうというふうに思います。

○福井専門委員 そうしますと、リスクが高くても、言わば被害さえ補償すればよい。労災の発生確率が高いような業種で、そのリスクに見合っての保険料負担をしてないがゆえに、言わば本来のリスクに見合った保険料負担をするならば、市場から駆逐されていたかもしれない業種が存続する。要するに、リスク管理の甘い業種が存続する。あるいは、リスク管理の甘い事業主が存続するということで、労働者を危険にさらしても、それは補償さえすれば構わないということになるわけですか。

○高橋部長 ちょっと御指摘の趣旨が必ずしもよくわかりませんが、決してこのような仕組みの結果としてリスクの高い状態に労働者をさらさせてよいという結論を私どもは言っているつもりはございません。当然、労働者がさらされる危険というものをできるだけ低くしていくことが、これは行政として大変大事なことでありますし、そのうちの1つのメカニズムとして、確かに労災保険制度というものがあるだろうと。労災保険の持つ仕組みとしてあることは否定はいたしませんが、労災保険制度だけで果たしてリスクが軽減なり縮小できるかと申し上げれば、それはそうではないだろうと思います。それは別途、やはり技術的な側面もあるわけでございますので、そうした面からの安全衛生指導というものも合わせ、全体としてリスクを軽減させるべきものだろうというふうに思っております。

○福井専門委員 ほかがあるからといって、必ずしも保険の方でリスク管理はやらなくていいということにはならないと思いますし、普通の保険数理の考え方からしますと、リスクが高い業種の保険料が高いということは、それはまさにそういうリスクに見合っての、言わば危険の分を払っていただくことが事業存続の前提なると考えられるわけです。
 それを払って、言わば労働者をリスクにさらす可能性があるにもかかわらず、そういう負担を払っても事業を継続するか否かという判断を、言わば当事者のリスク認識に委ねるわけです。これはリスク軽減の効果が結果として生じるわけです。

○松崎局長 勿論、それはリスク軽減の効果はありますけれども、それはあれじゃないですか、まさにリスク軽減が手段として、保険制度しかない場合の話じゃないです。冒頭申し上げましたように、事故、災害、それから違反事案、こういうことの未然防止が基準行政の最大の目的です。ですから、労働監督制度の中で、単に事故を防止することではなくて、特に労働安全衛生法を遵守すると。こうしたものをやるわけです。
 それをやった上で、更に保険制度もあるから、保険制度でも若干はその制度でもって、それを応援しましょうということでございますが、何も労災保険制度は完全に組織内部ではありませんから、もっと本体のところで災害減少というのは一番効果があるところでやっておるということでございます。

○福井専門委員 勿論、基準行政自体は厳格にやられることは大変結構なことだと思いますが、保険の方で結局リスクの低い保険料を払って、リスクの高い業種に給付をしているということは、それはリスクを温存するという側面につながる点は、やはり重要な論点だと思います。

○八代委員 ちょっと補足で、まさに今おっしゃっているように、行政的にそういうリスクの高い業種をきちっと指導されれば、その業種のリスクが下がって高い保険料を払わなくても済むわけですね。ですから、現にこれだけ高い保険料を払わなければいけない業種が存続するというのは、監督が甘いからであって、まさに監督を推進する一つの指標として、きちっとリスクに見合った保険料を取ることが非常に重要ではないかということを考えるわけです。

○福井専門委員 ですから、もし危険がなければ保険料は下がるわけですから、まさにその業種では、自然体でも保険料が下がるような監督行政をなさるべきだし、もし下がるのであれば、それに見合って業種の存続が危ぶまれるということは起こらなくなると、その部分の機能は決して軽視しない方がいいと思います。
 もう一点なのですが、先ほどの御説明で車検のような確実な担保がないから、なかなか民間にはなじまないのだというお話でしたが、車検も非常にパラレルに考える余地があると思います。といいますのは、車検の場合は、自賠責保険をかけていなければ、車検を受け付けない、通らないわけです。
 これはどういうメッセージかといいますと、そういう危ない車を走行させないという法的なメッセージなわけです。全く同じことが労災にも言えるわけで、要するに労災保険をちゃんとかけてないような事業所は、事業自体を継続させないというふうにするならば、言わば自賠責とパラレルなわけで、労災保険もかけてないような危ない事業主が労働者を雇って、その労働者を危険な目にさらすこと自体を許すべきでないというのが、本来自賠責とパラレルに考えても、妥当な線なのじゃないでしょうか。

○高橋部長 まさに保険の手続をやってない事業者は、事業者たる資格がないというのは、そのとおりだろうと思います。それを具体的にどう担保するのか、未加入事業所が見つかったときに、その事業停止を権限行使としてやれるのかということになると、これまた別の問題だろうというふうに思っております。

○福井専門委員 自賠責の場合は、車検を取らないで走っている車というのは、直ちに拉致されるわけですから、事業主だって同じことじゃないですか。しかも、だれが未加入か、だれが加入しているかということを、少なくとも公表する必要はあるでしょうし、それでも未加入で雇うような事業主があるのであれば、それについては労働者に対してここは危ないですよという告知をするやり方なども、いろいろあると思うのです。禁止の手前にもいろいろな段階があると思うのですが、言わば本来事業継続の資格がない事業者が存続していることを許さないためのいろいろな手立てについて工夫の余地があると思います。

○松崎局長 ですから、その点もう少し具体的な有効な方法があれば、事業停止命令を出せると思います。そういう方法があれば、御提言していただければと思います。私どもも審議会で十分検討はしたいと思います。

○奥谷委員 例えば、新聞広告なんかに社保加入という形で募集をかけるわけですね。現実に調べて入ってないというような会社があるわけです。それに対してクレームを言っても、クレームを言う場所がないのです、受け付けないわけです。例えば、職安にしても、社会保険庁にしても、それは広告主に言ってくれと、そこが責任があるのだと。そういったものを出したところというような。

○青木局長 建前の議論と実効の議論があると思うのですけれども、実際には雇用保険なんかでも、そういう届出というのは事業主の責任というのが第一なのです。事業主が一番効率的だし、迅速に進みます。
 事業主がやってくれないときがある。それは、その本人が実はできるのです。それは本当にハローワークに来ていただければできるし、そういう数はばかにならない数あるのです。実際問題として手続取られておりませんから。
 ですから、そういう方がハローワークに来て、そして手続をしていただければ、今度はそこからさかのぼって雇用保険だけではなくて、労災保険の適用まで進んでいます。
 ただ、すべての方がおいでになるわけではないしという問題はあります。

○奥谷委員 ですから、そういったことを未然に防ぐために、さっき言った入ってない企業があれば、インターネットに載せるなり、情報を検索するなりということができないのかということなのです。一般の労働者を守るという意識がもしあるのであれば。

○松崎局長 名前の公表というのは、例えば話がずれますけれども、いわゆるサービス残業、この企業名を公表しろというのは、よく国会で質問がございます。それに対して、私どもは、これも冒頭御説明したことと関連するわけでございますけれども、ペナルティーをかけて、見せしめをするのは目的ではありませんと、その事業所が継続して違反を起こさないようにすることが目的ですと。だから、悪質なもので送検したものについては公表しますけれども、勧告に従って直したものについては公表いたしませんと言っております。それは、やはり名前を発表することが、非常に企業イメージにとってまずいというふうに考える方がいまだに多いからです。
 したがいまして、そういうことを考えた場合に、この労働保険の適用だけペナルティーをかけるものかどうか、その必要があるのかという点、そういったものを考える必要があるというふうに考えております。

○稲葉専門委員 今の点ですけれども、例えば情報公開請求があった場合は、拒否するのですか。

○松崎局長 はい。

○稲葉専門委員 どういう理由ですか。そんなことは企業秘密じゃないでしょう。

○松崎局長 いや、企業秘密です。

○稲葉専門委員 保険に入っているか、保険に入っていないかというのが秘密になるのですか。

○八代委員 しかも強制保険ですからね。

○福井専門委員 要するに、保険に入るということは、その事業主が非常に安全管理に気を配っているということの一つのメッセージにもなるわけですね。その情報も知らせないということは、労働者にとって極めて危険なことじゃないですか。

○稲葉専門委員 労働者保護だと言っておいて。

○松崎局長 済みません。私が拒否しますというのは、さっきの奥谷委員のあれで、勧告をして、その勧告に従って是正をしたサービス残業のような形では、これは情報公開請求があっても拒否します。
 保険について、今まで例がなかったかどうかは記憶にありません。

○稲葉専門委員 労働者保護が第一であれば、そういうことはどんどん公表するべきだと思います。

○奥谷委員 一般の労働者からすると、いちいち新聞広告でそういったものを書かれていて、それをチェックして、書かれたものを信用するわけですね。それで入ってみて、それが全くでたらめだったといって、訴えていく場所が結局広告主の方に行けと言われたら、一体どこへ文句を言いに行けばよろしいのですか。

○松崎局長 少なくとも労働保険については、請求があればできます。

○奥谷委員 労働基準局がきちっとやってくれるのですか、職安はやってくれるのですか。

○松崎局長 職安は勿論やっておりますし、監督署の方では雇用保険、労災保険、両方についてやっておりますから、それはやっております。

○青木局長 新聞広告の求人は、この中身について、いろいろ表現の自由だとか、たくさんいろんな問題があることは委員も御存じだと思います。
 ですから、そこの中まで官庁がチェックする仕組みになっていないことも御存じだと思います。

○福井専門委員 表現の自由と言うが、これは保険に入ってない企業が入っているという広告をする自由があるのですか。それは詐欺じゃないですか。

○青木局長 それを全部どうやってチェックしたらいいか教えてください。

○福井専門委員 そういうことを言っているのじゃなくて、官庁が表現の自由があるからチェックできない、詐欺を広告していてもチェックできないという根拠をお聞きしているのです。

○青木局長 入ってないのに入っているということが、一目瞭然としてわかれば、それは見捨てておくわけにはいかないと思います。それから……

○福井専門委員 一目瞭然ではなくても詐欺は詐欺です。

○青木局長 ちょっと待ってください。私の言うことを聞いてください。ですから、そこで雇われて、実は入っていなかったという端緒がございます。それで監督署なりハローワークに来ていただく、それは私ども手続をするように言います。
 場合によっては強制的な手続も取ることができます。これは労働者から訴えがあればですね。

○福井専門委員 おっしゃったことをすり替えていると思うのですけれども。おっしゃったのは、表現の自由があるからチェックの権限がないということでしたが、それは取り消されるのですね。

○青木局長 ですから、挑戦されても困るのですけれども、新聞広告に並んでいるのを、全部毎日見てチェックするのはなかなか難しいということを申し上げているのです。

○福井専門委員 そんなことは当方のだれも言っていないわけで、表現の自由があるから詐欺をチェックできないという恐るべき発言があったようにお見受けしたので、そこを聞いているのです。

○青木局長 そういう誤解があれば、取り消しましょう。

○福井専門委員 わかりました。

○宮内主査よろしゅうございましょうか。ちょうど時間がまいりましたので、大変有益な議論をさせていただき、また問題のあるべきところがクリアーになったと思います。したがいまして、今後とも引き続きこの問題につきましては、私どもと意見交換をさせていただくということで、言うならば官にどうしても寄らないといけない部分と、民間でできる部分というものもあるのではないかと、その役割分担について厚生労働省の御担当になっている部分につきましてもお考えいただくということで、民間の活力というものを利用することによりまして、相当なプラスがあるのではないかというのが私どもの認識でございます。
 そういう観点から、引き続き意見交換をさせていただき、また新しい考え方に基づいて同じ目的を追求していくことができれば幸いではないかというふうに思います。
 本日は、御多用のところ各局から責任者の皆さんにおいでいただきまして、大変ありがとうございました。
 以上をもちまして、厚生労働省との意見交換を終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。


内閣府 総合規制改革会議