第8回構造改革特区・官製市場改革WG 議事概要

1. 日時

平成15年11月25日(火) 13:00〜14:30

2. 場所

永田町合同庁舎総合規制改革会議大会議室

3. テーマ
文部科学省ヒアリング

○教育委員会必置規制の廃止について(特区提案)

4. 出席者
(文部科学省)
大臣官房

樋口審議官(初等中等教育担当)

岩本行政改革推進室長

初等中等教育局

辰野初等中等教育企画課長

(委員、専門委員)

八代主査、鈴木委員、福井専門委員

(事務局)

内閣府 河野審議官、宮川室長 他


議事概要

○八代主査 本日は、たびたびお忙しいところをおいでいただきまして、ありがとうございました。
 本日は、第8回「構造改革特区・官製市場改革WG」で、教育委員会の特区における廃止ないし権限移譲の問題を議論させていただきたいと思います。そちらの方で、きれいな資料をつくっていただいておりますので、それでまずできれば15分ぐらいでお話いただいて、ディスカッションに入りたいと思います。よろしくお願いいたします。

○樋口大臣官房審議官 それでは、私ども文部科学省の方から、まず教育委員会制度について資料もの5枚用意をさせていただいておりますので、まずこれについて御説明申し上げた後に意見交換をさせていただきたいと思っております。
 御案内のとおり、教育委員会というのは、地方における教育行政の執行機関といたしまして、都道府県と市町村に設置をされているということで、戦後教育の地方分権ということで、アメリカの教育委員会制度を日本に導入いたしまして、住民自治、団体自治の観点で地方における教育行政の円滑な執行に当たる機関として設けているものでございます。行政委員会の一つとして、首長から独立して合議により意思決定をするものとしてあるわけでございます。
 その制度の趣旨は、1 教育行政における中立性、安定性、継続性を確保する必要があるということで設けられているわけでありまして、教育は個人的な価値判断でありますとか、特定党派、特定宗派の影響を受けずに、中立であることが極めて重要であろうかと思っておりまして、教育の中立性の確保については、教育基本法第8条、あるいは宗教的中立についての第9条の規定がございます。また、義務教育諸学校における政治的中立の確保に関する臨時措置法等の規定にもよりまして、私どもとしては教育の中立性の確保は、極めて大事な課題と思っているわけであります。
 冷戦構造がなくなりまして、イデオロギー体質がなくなったのではないかという御意見もありますが、近年でも国旗、国歌を巡るさまざま問題、教科書採択の課題、ジェンダー教育が近年大きな問題になっておりますが、こういった問題など、政治的な立場や、あるいは個々人の価値観によって評価が分かれる問題も依然大きく横たわっているわけであります。私どもといたしましては、一定期間長期にわたって行われる学校教育は、その内容はやはり中立的で、安定的で、継続的であることが重要であると思っているわけであります。
 また、同時にこの教育委員会制度は、地域住民の多様な声を生かしていくということで、住民自治の観点から、地域におけるさまざまな分野の知識や識見、経験を持つ方が教育委員となることで、多様な地域の意向を組み入れて教育行政を円滑にするという機能を持っているわけであります。
 また、併せまして教育行政は、学校教育だけではなく、社会教育、文化、スポーツなど、幅広い分野にわたる教育行政を一体的に遂行するというメリットも持っているわけであります。
 私どもといたしましては、こういった教育委員会制度を、都道府県、市町村に設置をさせていただいているわけでありますけれども、教育の中立性、継続性、安定性の確保というものは、やはりナショナル・ミニマムとして、国内どの地域でもやはり実現される必要があり、制度的に担保することが必要だということで、地方自治体の判断に委ねるという性格のものではなかろうというふうに考えているところでございます。
 2枚目に、教育の中立性、安定性等を確保するための仕組みがございますが、申し上げましたとおり1〜7のように、首長から独立した執行機関としてあるわけでございます。首長が教育委員を任命するに当たりましては、議会承認が必要でございまして、このため首長の恣意によってのみ選任することはできない構造になっているわけであります。このことによって中立性が担保されているのです。
 あるいは、委員は一定の事由がない限り、その職を失わないということで、首長が交代したからといって罷免されることはないわけであります。毎年、1名ないし2名ずつ解任されることによって、一度に代わることがないということで、中立性、安定性、継続性が担保されているわけであります。
 また、委員の政治的な中立性という観点からは、同一政党所属者が過半数を占めることを、法律でもって禁止し、委員の政治活動を禁止することで、中立性等を確保しているわけであります。
 このように、さまざまな工夫がほどこされた制度でございまして、首長が教育委員を選任するからといって、中立性が担保されないということはないわけであります。
 一部の御指摘では、条例による審議会を設置することによって、中立性を担保できるのではないかという御主張もあろうかと思いますけれども、審議会というのはあくまで諮問機関だということでございますので、その意見に従うかどうかは首長の判断によることとなるわけであります。私どもといたしましては、教育の中立性、継続性を担保するためには、やはり合議制の執行機関が教育行政を担任することが必要であろうかと思っているわけであります。
 3枚目でございますが、教育委員会制度については、これまでも地方分権の趣旨からのさまざまな改革の取り組みを行ってきております。近年、2度にわたって大きな改正をさせていただいております。平成11年には、地方分権一括法の中で、教育長の任命承認制度を廃止させていただきました。あるいは、都道府県市町村立学校に関する基準設定権を廃止するなどの大改正を行わせていただきまして、教育における団体自治を強化させていただきました。教育長の任命に当たりましては、地方で主体的責任でもって適材を得るということで、団体自治を強化させていただいたわけでございますし、都道府県と市町村との関係でも基準設定権を廃止することによって、市町村教育委員会の主体性を尊重する。あるいは、指導等に関する規定の見直しも、ここの2にございますけれども、これまでは行うこととなっておったわけでございますが、必要に応じて、指導を行うという形に変えさせていただいているわけであります。
 また、平成13年には、住民自治の観点から、これも改正をさせていただいておりまして、教育委員の構成に保護者や女性を含めるなど、教育委員の構成の多様化を図ろうと、これは委員の年齢、性別、職業、さまざまなことについても著しい偏りが生じないように配慮するように、そして特に学校教育という面からは、保護者が含まれるよう努めることを法律でもって明文化したわけであります。これによって、地域の多様な声が教育委員会の中に反映され、具体の教育活動の中に生かされていくという仕組みが設けられたわけであります。
 また、教育委員会会議の原則公開ということも法律でもって、これを明らかにいたしまして、教育行政のタックス・ペイヤーに対する説明責任を果たせるような公開制度を設けたわけであります。
 あるいは、教育行政に関する相談窓口も明示するということで、地域の意見に的確に対応できるよう機能を強化していこうということになったわけであります。 このように、2度にわたる大改正を、平成11年、13年に行わせていただいているわけでございますが、私ども教育を巡る課題が山積する中で、学校の課題だけではなく、やはり教育委員会制度の在り方についても、時代や社会の進展に合わせて、不断の見直しも必要であろうということで、私ども一番右にございますが、教育委員会制度の改革方策について、地方分権時代にふさわしい教育委員会制度の改革の在り方について、今後中教審で検討させていただきたいと思っているわけであります。
 特に市町村合併が進み地方の統治構造が大きく変わっていく中で、地方行政体制の整備に合わせてこの教育委員会制度を考え直していこうと。あるいは、首長と教育委員会との関係、学校と教育委員会との関係が今日課題になっているということで、こういったことについても検討させていただこうということで、中教審で検討し、1年後を目途に何かの成果を出したいと考えているところであります。
 4枚目でございます。教育委員会と学校との関係でございますが、御案内のとおり学校にはさまざまな権限があるわけでございます。特に大きな権限は教育課程の編成権、これは学校にありまして、指導要録、入退学、課程修了、卒業の認定、教職員の人事に関する意見具申等々、さまざまな権限が学校にあるわけであります。私どもとしては、学校の権限が、やはり学校が自律的に、責任を持ってこの地域住民に対する説明責任を果たしながら学校を経営していくためには、やはり権限を強化していく必要があろうということを考えておりまして、平成10年の中教審答申でそのための方向性を打ち出しまして、文部科学省としてもその方向で推進させていただいているわけであります。
 教育委員会による承認を不要とするなど、関与を縮減するということで、1つは学校管理規則という教育委員会と学校との権限関係を決めている規則でございますが、この学校管理規則を見直しまして、教育委員会が学校の行うことに対して行う許可、承認等を縮減をしていこうということで、教育課程の編成は承認事項ではなく届出事項に、あるいは長期休業期間の設定も学校の判断として、例えば2学期制を導入するかどうかは学校の判断とする等々ここに挙がっているのは例示でございますが、さまざまな権限については学校の判断でできるように今、取り組みを進めているところであります。
 2点目には、この教育課程の基準の大綱化・弾力化でございますが、新しい学習指導要領はミニマム・スタンダードだと、最低基準性を明確にして、それを上回る発展的な学習を学校で許容しているわけでありますが、同時にこの教育課程の在り方については、学校長に、例えば総合的な学習の時間、週3時間については学校長が工夫して、どういう活動を総合学習の中で行うか、これはもう学校の判断とする。あるいは、選択学習の拡大、中学校で選択学習を今回の学習指導要領で大幅に拡大させていただきましたが、これをどのように組織するかも学校の判断だと。また、時間割の弾力的な編成というものも今は認めておりまして、45分ないし中学校では50分が一般的でございますが、これも15分刻みの3クールにする。あるいは、70分や90分のブロック的な授業にする。こういった時間割の工夫も学校の判断でできるようになっているわけであります。
 このように、基準を大綱化・弾力化することによって、教育課程編成に当たっての学校裁量が大幅に拡大をされております。
 次に予算でございますけれども、予算につきましては、校長裁量経費など、学校の判断で取り行うことができる予算を措置しております。
 例えば、横浜市の例を見ますと、小中高等学校にそれぞれ300 万〜500 万円のお金を一括与えて、その範囲の中で特色ある学校づくりに向けて、学校の裁量で予算を執行してくださいということをやっています。
 また、通常の予算についても、予算の枠を大幅に拡充し、他の費目の予算を流用することができるように校長の裁量権を拡大する取り組みも見られます。今後とも学校長の予算についても裁量権を拡充していくように、都道府県や市町村教育委員会を促してまいりたいと思っております。
 次に、人事につきましても、法改正を行いました。県費負担教職員制度、義務教育の小中学校の場合ですと、県に任命権があるわけでございます。任命権者である県と、学校の責任者である校長の教職員人事についての考え方とは、今まで距離感があったというのも事実でございます。私どもとしては法改正によりまして、教職員人事における校長の具体的な意見具申が、任命権者にきちんと届き、きちんと人事の中で反映されるような法制度上の仕組みを設けさせていただきました。
 この校長の意見具申が任命権者にきちんと届いて、人事に生かされるような制度化以降、都道府県の教育委員会にお聞きいたしますと、学校の校長等から十分なヒアリング、あるいは意見具申をいただきながら人事を行っているケースが、ほとんどの都道府県で見られるということで、私どもとしては今後ともこれを推進していきたいと思っております。 なお、取り組み例としては、例えば大阪府など、こういった例が少しずつ出てきているのですが、校長が学校の経営ビジョンを示しまして、教員を公募するといった仕組みも導入されております。これは、主に高等学校段階で行われているものでございますが、小中学校段階でもこういった試みは十分考えられると思っております。 資料の5枚目でございます。教員人事が一体どうなっているのかということでございますが、教職員の人事権、先ほど申し上げました義務教育の世界では、県費負担教職員制度ということで、都道府県の教育委員会が人事権を行使するという現行制度になっております。義務教育は憲法26条におきまして、全国どこでも、だれでも一定水準の良質な教育サービスを無償で受けられることを保障しようとするものであります。たとえ、山間、離島、僻地に子どもがいようとも、そこで一定水準の教育を確保するために、義務教育は優れた教職員を一定数確保する。そのためには、一定の力のある都道府県に人事権を持たせて、計画的かつ広域的に人事を行うことによって、どの地域においても優れた教職員数を一定数確保することが必要だという意味で、県費教職員負担制度があるわけでございます。
 このことの効果というのは、1つは県から見ますれば、各地域や学校の実情を考慮しながら、計画的かつ広域的な人事を行うことができます。そのことによって、山間、離島、僻地の学校を含め、各学校におきまして、組織的、機動的な学校運営のために、1つは年齢構成、経験、性別、あるいは教科の構成、こういったところにバランスの取れた教員構成を実現することができるわけであります。
 もう一点は、個々の教員から見ますと、さまざまな学校があるわけでございますが、そういったローテーション人事の中で、教員個々の資質を向上することができる。キャリア・デベロップメントも図ることができるということで、教員のライフステージに応じて、さまざまな学校を経験させることによって、教員が育つということが期待されるわけであります。
 私どもといたしますれば、仮に一部の市町村や学校に人事権を認めた場合には、それ以外の市町村や学校の教員の質や構成に不均衡が生じかねないのではないかということを危惧しているわけであります。都道府県の段階で、ある程度財政力、それから組織力、それから広域性ということがあるわけでございます。それを市町村段階まで下ろす。あるいは、学校まで人事権を下ろすということになりますと、より小さな組織になるわけでございますので、教職員の人事が停滞をする。そのことによって多様な教科バランス、多様な年齢構成をとらないと学校が生き生きとしたものにならない。そういった意味では、人事の停滞ということが教育活動の円滑な遂行に支障を生ずる。
 あるいは、ある学校にだけ、ある地域にだけ教員が長くいることによって、高齢化などの教員構成が偏るなどの弊害も起こるのではないかと思っているわけでございます。
 私どもといたしましては、教員の人事管理というものは、単に採用する、そこに配置をするということだけではなく、人事異動や不適格教員に対してのさまざまな研修、服務管理、退職管理等々も含めて、人事というのは入口から出口まで、人事管理を取り巻く業務いうのは、多端なものがあるわけでございます。その意味で、市町村や学校が人事権を持つことによっては、教員の資質・能力の向上がなかなか図りにくい。あるいは、指導力不足教員を速やかに現場から引き離すなどの対応が取りにくいといったような弊害も発生するわけでありますし、何といってもやはり規模の経済が学校単位では働きにくいということで、やはりバランスの取れた教員人事が行いにくいということがございまして、市町村の学校長が人事権を行使することについては、これはなかなかうまく機能しないのではないかと考えざるを得ないわけであります。
 以上、私どもの立場から、今の教育委員会制度、あるいは人事制度について御説明をさせていただきました。何かございましたら、意見交換をさせていただきたいと思っております。

○八代主査 どうもありがとうございました。今お話になった点は、大きく分けて2つのポイントだと思います。1つは、首長と教育委員会の関係で、もう一つは、学校と教育委員会の関係です。いただいた資料を見ますと、少なくとも首長と教育委員会の関係からすると、もともと教育委員会の人事というのは、どちらかというと国の承認とか、かなり統制色の強いものであったのが、より分権的な方向に移ってきているということですね。
 もう一つは、学校と教育委員会の関係でも、最後の資料でいただきましたように、より学校の権限を拡大する方向に来ていると。そういうことが必要だという御認識だと思うので、基本的に我々と大きな考え方の違いはない。問題は程度の違いでありまして、そちらはこれで十分だと思っておられて、我々はいい方向ではありますけれども、まだまだ不十分ではないかということで、そのスピードの違いであるというふうに考えております。 細かい点につきましては、やはり基本的に矛盾があると思うのは、1つは教育における、中立性、安定性、継続性の確保と、それから全国的にある程度均一の水準でやらなければいけないという必要性、ナショナル・ミニマムとおっしゃったわけですが、他方でやはり多様な住民の意向を反映させてやらなければいけないということが、これは矛盾するのではないか。だから、どっちの方向にウェートをかけるかということで、やはり変化の時代であれば、もう少し地方を信頼して、分権の方向に行くべきではないかというのがこちらの考えです。具体的に言えば今でも首長が委員を任命しているわけですが、それに対して議会の同意であるとか、1年に1人ずつとか、そういういわば変化に対して規制をかけることによって、政治的な中立性を担保しようというのがお考えだと思いますが、逆に言えば今、教育に対する不満が非常に大きいときに、そういう5年かからないと教育委員会のメンバーが全部変わらない状況でいいのかどうかというのが1つのポイントだと思われます。 学校の権限拡大というときも、いろいろやっていただいているのですが、例えばこの学校予算の裁量拡大というときに、小学校300 万、中学校400 万円というのが、どれだけ意味のある裁量なのかどうか、ある学校長に聞きましたら、トイレが壊れたらこれでほとんどふっ飛んでしまうような額ということです。そういう意味で本当の意味の裁量権と言えるのかどうかということだと思います。
 最後に、教員人事に校長の意見の反映というときに、大阪府の教育委員会の取り組み例というのが挙げられていたのですが、なぜこれを一部の非常に先進的な教育委員会が自発的にやったときしかできないのだろうか。なぜこれを多くの、多くというか、例えば特区を申請したところでこれと同じようなことができないのだろうかということです。その意味でもう少し教育委員会が非常に先見的で自発的にいろんなことをやっていただければいいのですが、それができないときにもう少し首長なり学校長がイニシアチブを取って同じような改革をするような仕組みを、特区を用いてできないだろうかというようなことです。もう一歩分権及び独立権というものを進めていただきたいというのがこちらの考え方であります。

○樋口審議官 今、八代先生から御指摘いただきました。教育の地方分権、我々は一生懸命進めております。この分権という切り軸と、やはり首長に教育の権限を与えるということは、ベクトル、その構造がちょっと違うと思っています。
 私どもは、教育委員会が住民自治、団体自治を体現して、円滑な教育活動を実施してもらいたいという基本的な気持ちを持っております。首長さんとの関係の問題では、やはり私どもとしては、あくまで教育の政治的な中立性はきちんと担保していく必要がある。そこは、やはり多様な意見、多様な住民の意見を、まさに教育委員の合議制によってそれを吸収していく、そしてそれを円滑な活動の中に生かしていくということで、私ども均質性と多様性というものは決して矛盾するものではないと思っております。

○八代主査 途中ですけれども、多様な意見を反映するために合議制が必要であるということですか。

○樋口審議官 首長さんの個人的な御意見や、個人的な政治的な価値観によって、例えば教育の在り方、教育の方針、教育の方向をお決めいただくということではなくて、多様な方々がそこで合議制でやることによって、教育の中立的な性格、あるいは安定的な性格を確保していこうということと思っております。

○八代主査 そのお考えは、首長さんというのは選挙で住民の多様な意思に基づいて選ばれるということが1つと。この教育委員会のメンバーは、首長さんが任命するわけですね。ですから、なぜそこが……

○樋口審議官 それは、ただバランスとして当然議会が同意をするという形でチェック・アンド・バランスが働くわけでありますから、私どもとしては教育委員に多様な方が入ることによって、多様な合議制の機関によって中立性を確保していくという機能があります。多様な声をもって首長さんが選挙で選ばれるかもしれませんが、首長さんが行う教育活動というのは、首長さんのそれは政治的な価値観というものが入り得る余地は十分あろうかと思っているわけであります。

○八代主査 なぜ教育委員会には、その政治的な価値観が入らないのですかね。

○樋口審議官 価値観が入らないということではなく、その合議制による多様な意見の議論の中で、中立性を積極的に担保していこうという性格のものであろうかと思っているわけです。いわゆる独任制により教育行政を行うのではなくて、合議制によって行うことによって、いわゆる緊張的な中立関係というものを堅持していこうという性格だと思っております。

○八代主査 それは随分ポジティブですけれども、逆に言えば何も決められないということも十分あり得るわけですね。

○樋口審議官 具体的には、教育活動というのは、教育委員が中立性というものを考えながら、具体の教育活動をどうすべきかということについて十分議論して、円滑な決定を十分行いながら進められます。
 それから、予算についてございましたが、これは私ども規定予算の活用についての裁量の幅ということではなくて、このために規定予算のほかに県や市町村が各学校単位、特色ある学校づくりで、活性化のために自由にこのお金を使ってくださいということで予算化しているものでございまして、こういった試みは今、進んできていると。規定予算についても、学校の校長の予算の執行の裁量性を高めています。
 もう一つは、特色ある教育のための予算も付けようということになっておりますので、予算についての校長の権限も次第に拡充されてきていると。
 それから、大阪府の教員の公募は、これも大阪府にとどまらず、広がりを見せつつございます。私どもとしては、学校の経営ビジョンを示して、それに賛同した教員が学校の中に来て、学校を活性化する取り組みを進めていただくように教育委員会にお願いしております。
 これは、先進的な県だけではなくて、いろんな県がこういった取り組みを今、進めつつあるということを御紹介申し上げたいと思います。

○八代主査 ですから、それが不十分だから特区の申請が出ているわけで、全国ベースでそういうふうにやっていただくのはちっとも構わないのですが、これが唯一無二であって、例えば別なやり方を実験してみようという特区の精神にはなじまないというお考えなわけですね。

○樋口審議官 別なやり方は、教育委員会制度についておっしゃっておられるのでしょうか。人事権についておっしゃっておられるのでしょうか。

○八代主査 両方です。

○樋口審議官 教育委員会制度については、最初に申し上げましたとおり、やはり子どもたちが全国どこでも良質な教育サービスを無償で受けられるということを、制度的に担保すると、これはナショナル・ミニマムとして担保していく必要がある。全国どこでもですね。ある地域で、ある県で、教育委員会制度は任意で首長さんがやられるということは、やはり義務教育制度の在り方としては、いかがなものであろうかと考えております。

○八代主査 それによって、必ず悪くなるということはないわけで、よくなるかもしれないわけですね。ですから、まさに特区というのは実験なのであって、今の制度を、今でもそちらもどんどん弾力的にやっておられるわけですから、もう一歩、例えば弾力的にやってみたときに、どうなるかというのをやってみようということで、その必要性が全くないほど今の教育委員会制度はパーフェクトに動いているとお考えですか。

○樋口審議官 そういうことを申し上げているわけではございません。全国的に、それは例えば志木市さんが特区でおっしゃられました、これは首長さんの在り方についても今の在り方を変えようと。
 地方の統治構造全体に絡まる御提言をされておられるわけです。ですから、私どもの教育委員会制度も、いわゆる地方の統治構造の1つなわけです。これを特区でやるということについては、なじみにくいのではないかと思うわけです。

○八代主査 統治構造というのは、随分大げさですけれども、例えば助役とか収入役の廃止という、まさに統治行為そのものについても特区が認められているわけでして、この場合も学校長が任命する教育委員会という方式を、より直接的なものに変えてみようというだけであって、それほど大きなものかどうかというのは、ちょっと意見が違いますけれども。

○辰野初等中等教育企画課長 先ほど大阪府の例もありましたけれども、まさに方向性については大体同じ方向を向いていると思うのです。ただ、今まで若干依存体質があったと、上意下達的なところがあったことはある程度認めざるを得ないと思います。
 最近、団体自治、住民自治の観点から40年ぶりに法改正をして、言ってみればこれは団体の責任ですよと、そこで住民の意見を的確に反映するようにということを進め、かつさまざまな形で学校の裁量をどんどんと拡大するように進めています。

○八代主査 やっているかどうかは、非常に疑問ですね。

○辰野課長 ところが、ある意味では国が今一番ラジカルなのです。やっていいよと言っても地方はなかなかやらない、なぜやらないのだというのが、むしろ逆にそちらの方が課題なのです。
 だから、まず今の仕組みの中で最大限やっていただきたいと。例えば、先ほどの大阪の話も、今でもできるわけです。特区でなくてもできます。また、県間交流をやるなど、いろいろ試みが今、出てきています。例が出てくると教育の世界というのは、これもやっていいのかという話になってどんどん進んでいくのです。
 ですから、最近、平成11年、13年に大きな改正をやって、今、それをてこに本当に地方分権にふさわしい教育行政の在り方というものを進めようとしているわけです。そこは御理解いただきたいと思います。
 ですから、これからそのような方向でまさに具体に進めますと、是非時間をいただきたいというのが本当のところです。

○八代主査 ほかにいかがでしょうか。

○鈴木委員 お伺いしていると、義務教育だから、それは全国一律どこにいても同じでというふうにおっしゃって、したがってそれははっきり言うと少し変わった首長が出てくるところに回して、それで教育委員長の任命とか、その他がいないものになるというと、何か変なことをやると。したがって、文部省でトータルにコントロールしなければいけないと、こう聞こえてくるのです。
 さっき八代主査も言われたけれども、あなた方に言わせると変わったと称する首長さんというのも、それは何も教育だけではなくて、あらゆる行政全般についていろいろな特色ある、あなた方に言わせると変わったことをやって、地方の特殊性というものを生かしていこうというふうに試みているわけですね。
 教育についても、そんな金太郎飴のようなことばかりやらずに、もう少しそういうふうにやっていく、それに対して文部省指導下において独立権限を持って、しかも合議制でもって反対するということをやってきたら、これからの多様な地方のつくり方に対して意味をなのではないかと。金太郎飴つくっても意味ないじゃないかという感想が私はしますけれどもね。

○樋口審議官 私どもは義務教育というのは、良質な教育サービス、やはり一定水準のものをきちんと保障していく責務がある。ただ、それは必ずしも金太郎飴的なものを考えているわけではございませんので、学校教育のミニマム・スタンダードはきちんと押さえながら、各学校で特色ある教育活動をやっていただき、国民として義務教育が求める資質を培ってもらいたい。それは必ずしも金太郎飴的な教育を想定しているものではない。 ただ、義務教育として、国民にこういったものは習得してもらいたいという基礎、基本は、当然考えていかないといけない。そのために、教育委員会は責任を持って円滑な教育の実施に当たってもらいたい。そのときに、それを首長さんにお委ねするということは、何も文部科学省が権限を握っていたいから、首長さんに渡してはいけないということを申し上げているのではないです。教育の本来的な性格からして、教育というのはできるだけ政治的な中立性というものを重視しながら、それを担保する制度を設けながら教育の実施に当たっていただきたいということで、私どもは教育委員会制度というものは全国どこでも設けられるべきと考えています。

○鈴木委員 それが、しかし、極めて一般的に教育の内容、その他に対して特色のあるものの波及の阻害ということに、結果的にはなっていると……

○樋口審議官 それは、今、実際特区でも……

○鈴木委員 それは、いかに入口をいかに広げようとおっしゃっても、現実の門戸は固く閉まったままと。

○樋口審議官 それは、お言葉ではございますけれども、実際に……

○鈴木委員 だから、1つのワントライアルとして、要するに特殊な教育というものをやっていくと、ところがそこのところの教育長さん、その他は、教育委員会というものの独自性、合議制というものを頼りとして、首長の方針というものに対して、仮に反対するという事柄で話が進まないと。一体どっちを取るのかというときに、教育はさっき言ったようなロジックの下に、どうしても全国一律でなければいけないから、そちらを優先するとまで言い切れるのですかと。特にそういう首長さんというのは、何も教育だけではない、ありとあらゆる県、地方の行政に対して責任を持っておるということですから、したがって教育はワン・オブ・ゼムであって、特に教育だけという主張をされる必要はない。もっとほかにも重要なことはある。それに対して、特色を出されていくと、そして教育についても特色を出していくと。こういうような地域というのが、現実にあるわけです。そういうものは尊重してあげてもいいではないかと、もしそれがおかしな結果になるのだったら、特区の監視委員会というものがそれをまた評価して、つまみ出す問題ではないかというふうに私には思える。
 それを入口で軽く、ほんの小さな隙間だけを開けて、それでやっています、やっていますというふうにおっしゃるが。
 義務教育が、本当にそんな金太郎飴でなければならぬかというのとも関連してきますね。基本的に。

○樋口審議官 今の教育委員会が画一的な金太郎飴的な教育を、すべての地域でやっているということではなくて、教育委員会は特色ある多様な取り組みをさまざま行っているのです。教育委員会制度があるから、画一的な教育しかやられないというものとは認識しておりません。
 また、特区制度の御提案もありましたがそういったことに限らず、さまざまに地方では特色ある教育活動に取り組んでいるということは御理解をいただきいたと思うのですが、首長さんでなければ特色ある教育活動が出てこないというものではなくて、教育委員会自身が、当然首長さんとの関係でも、当然予算の問題、あるいは実際に教育委員を任命するとき、あるいは条例などさまざまな教育関係の事務を推進するときに、首長さんとも十分連携を取らせていただきながら、その地域、地域の教育の在り方について、前向きに、首長さんともある程度連携しながら取り組みを進めております。
 ただ、それは首長さんが、独任制で直接やるということではなくて、やはり教育委員会制度の中で中立性を確保しながら、多様な声を入れながら、首長さんの意向もある程度反映しながらバランスの取れたところで、教育行政というのを執行するべきだと考えております。

○鈴木委員 教育委員会の委員の任命は、形式的任命権は教育長も教育委員会もみんな首長になるわけですね。

○樋口審議官 首長です。

○鈴木委員 だけど、実質的な選考権というのは、どういうふうになるのですか。

○樋口審議官 首長です。

○鈴木委員 そこは本当ですか。

○樋口審議官 本当です。これは、首長さんに一度お聞きいただければ幸いかと思いますけれども、リーダーシップを発揮されてやっておられます。ただ、その過程で、例えば教育委員会の方々から意向を聴取するということはあるかもしれませんが、首長さんがイニシアチブを取って委員をお決めになり、それを議会におかけすることになります。

○鈴木委員 文部省の占領地だとも聞いたけれども、そうでもないですか。

○樋口審議官 そういうことは一切ありません。

○鈴木委員 そうですか。

○八代主査 ですから、もちろん教育委員会もいいことをやっておられるのでしょうけれども、問題は合議制ということに何でそんな高い価値を置かれるのか、今、企業でも学校でもそうですけれども、やはりトップダウンといいますか、責任ある人が自分の権限でものをやらなければ、なかなか変わらないのではないか。そういう合議制というのは、おっしゃっているように急激な変化への防止ということには確かに役に立つでしょうけれども、逆に言えば新しいことはもうなかなかできないわけです。首長さんが任命権を持っていると言っても、1年に一人か二人だとか、最初の3、4年は何もできない、大げさですけれども、全部変わるまでに非常に時間がかかるという、そういうブレーキばかりある自動車みたいなもので、変化の時代にもう少し違うやり方もあっていいのではないかと。別に教育委員会を廃止したから、共産主義教育とか、宗教教育をやるというのも、またちょっとひどい話で、そこはきちっと勿論歯止めをお持ちなわけですね。学校教育法等で。
 だから、もう少し現場の裁量というか、今、学校に特に、小学校、中学校で大きな問題が起こっているときに、校長が何でも教育委員会にいちいちお伺いを立てないとできないというのは、おかしいのではないか、ここに日常のことは学校長に任せてあると書いてあるのですけれども、必ずしもそう理解してない教育委員会とか学校長が多くて、この前聞いたのは、ある父兄が自分の子どもがアレルギーなので、給食の代わりにお弁当を持って来ていいかと校長に聞いたら、校長が教育委員会に聞いて、教育委員会が文科省に聞いたという話ですけれども、それは余りにも大げさではないでしょうか。

○樋口審議官 お話としては面白いかもしれませんが、やはり学校長の見識が問われる問題かもしれませんね。
 今ございましたように、大学の場合は学問の自由、大学の自治、そして教授会自治という形がある。高等学校以下についても、自治的な構造というのは、教育というのはやはりデリケートな領域でございますので、価値に関わるものを取り扱っているわけでありますので、ある程度は中立性を制度的に確保していく必要があると私どもは考えているわけであります。確かに多数の地域の方々が入った合議制の執行機関ということについては、これはやはり多様な価値観を持った方が議論することによって、中立的なものを担保していこうという、積極的な意味合いがあると思っております。
 当時に、多数の人間が関わることによって、その責任意識が欠如するのではないか、あるいはスピーディーな決定が行われないのではないかという御批判もございます。
 私どもとしては、戦後の教育委員会制度というのは、その多数の地域の声を反映する、レイマンコントロールということで、地域の有識者の声を教育行政に生かしていくというレイマンコントロールの構造と、そこに教育長としての専門家を入れる。いわゆる、プロフェッショナル・リーダーシップ、この2つをバランスよく組み合わせることによって、教育行政の円滑な執行ができる。日々の機動的ないろんな問題、学校管理についての危機管理の問題が生ずるときに、教育長がきちんと責任を持って対応し、それについての基本的な方針は教育委員会で決定していただき、そして事後的にもきちんと教育委員会に報告し、教育委員会との関係については、プロフェッショナル・リーダーシップで教育長が責任を持ってやるという構造になっているわけであります。ただ、それは当然教育委員会としては全体的な教育方針の策定、あるいは教育の活動についてのさまざまな意思決定はここで行っていただくという、この2つのバランスを取って教育委員会制度を機能させております。

○鈴木委員 ただ、マッカーサーがつくった委員会制度の中で、戦後雨後のタケノコのごとくできましたが、しかしそうは言うけれども、やろうとする答えは1つですから、つまり結論は。だから、その中でいろんな議論をすることはするのでしょうけれども、しかしその答えは1つで決めなければいけないわけですね。
 その答えを1つにするときには、いろいろな人が入って議論するからと言って、だからといって1つの答えが必ず中立ということは言えないという、そういういろんな悩ましい問題もあったから、ほとんど委員会というのはつぶれていったというのか、なくなってしまったですね。いわゆる3条機関ですね。
 これを伺っていると、3条機関で残っている。国・地方を通じて、かなり珍しい存在という感じがするのですが、おっしゃっているのはわからぬではないが、幾つかの意見を入れて、そしてそれによって中立・公平な結論というものが出てくるのだという理屈はそうなのかもしれないけれども、それを足して、足して、2で割って、4で割って、8で割って、また足してというような、そういうわけのわかったような、わからないような、目標のはっきりしないものに、民主主義的であろうとすればなっていくと。
 そうすると、リーダーシップを発揮しようだとか、多彩な事柄をいろいろやっておるということになると、そんなことはできるのでしょうか。そういう、足して2で割って、更に2をかけて3で割るということで、さっきは個性的な、特色のある教育を一生懸命考えておるとおっしゃるが、果たしてそういうシステムそのものが内在するメカニズムから本当にできるのでしょうかと。やはり金太郎飴になるのじゃないですかと。
 だから、全部とは言っていないのだから、特別にそれを起用するところでは金太郎飴ではないやり方というものを認めてあげたらどうですかと、どっちが勝つかはやってみての勝負ということで、発想を少し変えられないですか。

○辰野課長 先ほどから、金太郎飴というのが非常に気にかかるのですけれども、これは認識の問題として、もう全く金太郎飴、どこを切っても同じという形に今の教育がなっているというふうには、私どもは認識しておりません。

○鈴木委員 私は、全くそのように理解していますけれどもね。

○辰野課長 水かけ論をやってもしようがないですから、本当に金太郎飴になっているのか、どうぞいろんな教育委員会の実態を見ていただきたい。
 先ほど教育委員会の決定についてのお話がありましたけれども、教育委員会制度の一番の大きな特徴は、結局独任制かそれとも合議制かと、そこにあるのです。ですから、程度問題と言われれば、またいろんな議論が出てくるのでしょうけれども、システムとしてはやはり独任制にして首長にすべて任せてしまうことについては、権力の集中を防ぎ、それから行政運営の構成の妥当を期する観点から、問題があると思います。現在の地方自治制度の基本的な考え方は、多元的執行機関主義であります。地方自治法のコンメンタールを見てみますと、執行権限を1つの機関に集中されることなく、行政機能の種類と性質に応じて、多くの独立の執行機関が設けられているという、多元的な執行機関を特徴としている。その多くは、合議制の委員会としての構成が取られている、これは権力の集中を排除し、行政運営の構成、妥当を期するとともに、住民の直接参加による機関により行政の民主化を確保しようとするものであると。
 教育委員会もその行政委員会の一つであるということで、行政委員会の種類というのは、例えば政治的な中立制の確保もありますれば、公平、公正な行政を確保する。それから、利害関係の調整、さまざまなカテゴリーがありますが、それごとに地方公共団体の中には、さまざまな行政委員会制度が現にあります。
 その多元的な執行機関の一つとして、教育の本来的な必要性から中立性、安定性、継続性のために、教育委員会が置かれております。そのようなシステムだというふうに我々は理解しております。

○八代主査 それが、変化に対する障害になっているのだというのが、こちらの認識なのです。

○樋口審議官 だから、具体的に例えばこういうことをやりたいのだから、教育委員会のブレーキで止められたと、結局できなかったという話を、個々に聞いてみると運用でできるものばかりです。
 例えば、特色ある教育をやりたいと、先ほどお話ありましたように、そもそも教育課程、カリキュラムが、各学校の裁量の余地を残すような形で改正されているのです。例えば、総合的な学習の時間でありますとか、さまざまなことがあります。
 それとともに、構造改革特区も認めまして、そこでも思い切った取り組みをやることができます。例えば小学校で英語とか理科をやりたいものについては、それは認めております。

○八代主査 それはこちらでやるのでしょう。中身はよく存じでおります。

○樋口審議官 ですから、その中でぎりぎりやってみてくださいと、我々はそれを推進している最中なのです。そこは是非御理解いただきたいというのが、再三の気持ちであります。

○八代主査 人事権ですけれども、先ほど教育委員会の人事権を、例えば市町村や学校長に下ろすべきであるという意見に対して、そういうことをするとやはり全体の質が落ちると、あるいは一か所だけに固まるということなので、これは何か質の高い教員を公平に配分するために必要だということなのですが、むしろ今の問題はその反面質の悪い教員も平等に配分されてしまうということで、先ほど指導力不足教員を引き離すのが教育委員会のお役目だとおっしゃいましたが、そこはまたいずれ別のところに押し付けられるわけですね。だから、そういう意味で厳格な内部労働市場を少しでも改善するために、例えば一部なりとも教職員の人事権を学校長なり首長が持つことによって、もう少し競争というか、教員の間の競争というのが活発になるのではないか。
 今、校長の具申権というのを確かに入れていただきましたが、あれこそ単なるお願いにすぎないわけで、聞いてもらえるかどうかわからないわけですね。そうではないのですか。

○樋口審議官 まず、指導力不足教員等については、私どもすべての都道府県、政令指定都市に制度化を今お願いをしておりまして、今年度中に制度化されます。もう既にこの制度がスタートして、やはり指導力不足教員は教壇に立たせない、研修をしてその成果が上がらなければ分限免職処分等を行うということをきっちりやっております。
 それから、教員評価制度も、今、導入に向けて各県が取り組み、東京等を中心に先進的な導入がどんどん進んでおります。私どもとしては、今後は優れた教員は積極的に活用する。不適切な教員については、研修も行い、なお不適切な場合は退職を迫るということで、安易な形で残すということは基本的に行いません。
 ただ、そういったことを制度的にきちんと担保できるのも、やはり行政組織が整っている都道府県段階でないと、これを単に人事権を採用権というふうにだけ解するとすると、学校や市町村では限界があると思わざるを得ません。
 私どもとしては、県費負担教職員制度の中で、県が計画的、広域的に優れた教員をどこでも一定数確保するように、教科のバランス、年齢、性別などを調整しながら、バランスの取れた教職員人事を行うということについては、やはり県が責任を持つべきだろうと思います。
 ただ、各学校が特色ある教育活動を取り組むときに、大阪府の事例のように経営ビジョンを示して、こういう教員が欲しい、こういう教育活動にもっと力を入れたいというときに、そのための教員を取りたいという声を校長がきちんと意見具申をしていく。この意見具申については、一体どれだけ校長の意見が採用されているかについて、今、各県にヒアリング等をさせていただいております。
 国立教育政策研究所のアンケート調査等でも、校長の7割前後が意見が反映されているという回答していました。ただ、私どもとしてはこれはもう限りなく100 %に近い形で、校長の意見ができるだけ具体の人事に反映されるように、今、各都道府県の取り組みを促しておりますので、相当程度広がってきている。単に意見の言いっぱなし、これは採用されないという構造は基本的になくなりつつあります。我々は、今後これをどんどん進めていきたいと思っております。
 ただ、それはあくまでも県費負担教職員制度という枠と、学校との調整という中で、バランスの取れた人事構造を進めていきたいと思っております。
 ここで御提案いただいているコミュニティースクールの問題も、具体的にはコミュニティースクールで描いた学校像に適した教員を、どのように確保するかという問題で、これも私どもとしても積極的に各学校の人事についての意向が反映されるような制度的な枠組みを設定して、コミュニティースクールの実施を促していきたいというふうに思っているところであります。

○八代主査 それは、県の教育委員会の役割だとしたら、人事権を持ってない市の教育委員会は何をしているわけですか。

○樋口審議官 実際には、重層構造になっております。県が任命権を持っておりますが、市町村教委が内申権を持っております。その市町村教委の設置している学校、校長にも意見具申があると。校長の意見具申というのは、最終的には市町村教育委員会を通じて、調整をされながら都道府県の教育委員会に上がるわけでございまして、市町村は市町村なりの地域の実情にあった特色ある教育づくりということで、それを人事にどう生かしていくかということについて、各学校長の意見を聞きながらとりまとめて県に上げるという構造で調整を図っています。

○八代主査 そういう重層構造が、もう今のスピードの時代に全然合ってないという御認識はないのですか。

○樋口審議官 ただ、これは単年度単年度の人事をやっておりますけれども、県の任命権者は不断に学校長の意見、あるいは市町村教委の意見を聞きながら人事を行っておりますので、これがスピーディーさに欠けるというものでは必ずしもないと思います。
 御指摘の趣旨も、私どもとしてはわからなくもないところはあるのですけれども、結局効率性と公正性というのか、中立性、公正性と考えたときに、特色ある教育とおっしゃっておりますが、より効率的な学校経営というのを考えるかどうか、その効率性の問題と公正性の問題のトレードオフの関係を、どこでバランスよく効率性も高めながら、他方やはり公正性も確保できるような制度設計を行っていくかということで、私どもはできる限り効率性というものを重んじながら改革は行っていこうというふうに思っておりますが、やはり公正性も確保していきたいと考えております。

○八代主査 こちらの提案が効率性にプラスだということは認めていただいたわけで、そこは非常にありがたいと思いますが、どうぞ。

○鈴木委員 私も具体的な事例についてよく知らないのだけれども、これは特区の要請ですね。だから、今おっしゃっておられるのは一般論の議論の問題であって、あるスペシフィックな特区が手を挙げて、こういうことをやってもらいたいと言ったという、実際の要望があるわけです。その特区においては何か格別な問題があるのですか。

○樋口審議官 先ほど申し上げましたとおり、教育委員会制度というのは、地方の統治構造に不可欠な組織の一つとしてあるわけでありまして、こういう統治構造に絡む問題は、特区という形に本当になじむのかどうか、これは統治構造そのものをどういうふうに考えるかということにつながってまいりますので、私どもとしてはあるところに特区で穴を開けて特区としてやっていただいていいというわけにはいかないだろうと、やはりナショナル・ミニマムとして義務教育の水準を一定に確保するための一つの制度的な担保措置として教育委員会制度があると思っております。これを特区で一部外すということについては、特区提案としてはなじみにくいのではないかと考えております。

○鈴木委員 それはちょっと逆の考え方で、議論になってしまうからやめますけれども、特区からこそまさにやってみていいじゃないかという感じがするが、だからもう一回聞くけれども、スペシフィックな特区で手を挙げた人に対して、どういう人か私も正直言って知らないけれども、それに対して問題意識がおありなのではないのですね。
 要するに、制度としては穴は1個たりとも開けてはならないというお考えですか。

○辰野課長 事柄の性質によると思うのですが、特区と言えども治外法権を認めるものではありませんね。

○八代主査 それは当然です。

○樋口審議官 先ほどから特に義務教育については憲法上の要請から、中立性、公正性、安定性の確保というものを制度として担保する必要があり、その仕組みとして教育委員会制度というのがあるという前提に立って私どもは考えているわけです。

○八代主査 治外法権というのは大げさな言い方で、例えば私立学校というのは、この教育委員会と関係なくやっているわけですね。

○樋口審議官 これは首長部局の方で所管しております。

○八代主査 そちらの局ではないかもしれないけれども、私立学校だった中学校、小学校は義務教育なので、やはり義務教育の枠の中でやっているわけで、そちらはちゃんとうまくいっていて、しかも評判もいいわけで、それがなぜ特区で公立学校について特区でやると治外法権だとか、行政組織の変更だとか、そういう大げさな話になるわけですか。

○辰野課長 私立学校というのは、選択して、行きたい人がそれだけの授業料を払っていくわけで、公立学校というのは、最後に義務教育を保障するための制度ですから、おのずから違っていると思います。

○八代主査 それは学校選択制というのは認められているわけですね。

○辰野課長 そうです。その中における一つの工夫としてあるわけです。

○鈴木委員 だから、手を挙げた人は変わった人だから、その人に変なことをやられては困るというならまだわかるけれども、さっきからおっしゃっているような観念論で、教育はすべて金太郎飴であるべきであって、したがって穴は1つもあってはならないと、実験的にもいけなと、これは大きく広がるというのは夢の見過ぎで、そういうことを。

○樋口審議官 先ほど、資料で御説明しましたように、3ページ目にございますが、教育委員会制度についてさまざまな御意見をいただいていることは認識しております。一層主体性を発揮してもらうように、機能強化、あるいは今の地方分権の時代にふさわしいような構造というものをどういうふうに考えるかということについては、これはやはり中教審でじっくり検討してもらおうと、必要な見直しは行っていこうということで、1つは市町村合併等が進む中で、どういうふうに教育委員会制度を考えていくのか、特に小規模市町村は教育委員会としての十分に機能しきれていないのではないかという御指摘もございます。あるいは首長さんとの関係についてもいろんなお声を聞きます。それから学校に権限をもう少し下ろしたらどうか、これはやはり学校に基礎を置いた経営というのが必要になってくるだろうと、そういった問題意識は我々もないわけではないということで、ここについてはちょっとお時間をいただいて、改革の検討をさせていただきたいと思っております。
 ただ、おっしゃられたように、首長さんに一挙にこの教育権限をお委ねして、教育行政を行っていただくということについて、やはり私どもとしては憲法26条の考えからするといかがなものであろうかというふうに考えざるを得ないわけであります。

○八代主査 地方分権不信としか思えませんが、ただこの中央教育審議会の検討の方向というのは、過去の流れを見ればやはり地方分権、すなわち市長さんの権限強化。それから、学校長の権限強化の方向で検討されるというふうに、程度はともかくとして理解してよろしいですか。

○樋口審議官 私ども、地方分権というのは必ずしも首長さんの権限を強めることが地方分権だという認識は持っていないわけで、実際の教育の具体の担い手は地方ですよということであって、首長さんに委ねれば地方分権が達成されるというふうには必ずしも思っておりません。
 ただ、それは当然総合調整役として首長がおられるわけです。自らも執行するし、それから各種の行政委員会を設けておられたら相互調整しますと、そのときにもう少し地方自治体から地域活性化ということが要請されるときに、首長さんというのはいかにあるべきかということは、教育についても関わりがないわけではないと、そこのときに首長さんと教育委員会との在り方というのは、新しい時代にふさわしい形で、もう一度検討し直してみる必要はあると思っております。そこは教育論の立場からどういう形での制度設計がいいのか、中教審で検討させていただきたいと思っております。

○八代主査 そうすると、首長さんは余り信頼しないけれども、教育委員会には絶大な信頼を置いておられると、その教育委員会にもっと権限を下ろしていこうというお考えなわけですね。
 その辺は異論がありますが、ちょっと時間もありますので、ほかによろしいですか。
 事務局の方から何かありますか。特によろしいですか。
 それでは、内部でまた検討しまして、必要があればまた再度お願いするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
 本日はどうもありがとうございました。

○樋口審議官 どうも失礼いたしました。


内閣府 総合規制改革会議