「第5章 『規制改革特区』の実現に向けて」における関係省庁の主な意見及びこれに対する当会議の見解

事項(関係省庁)関係省庁の意見当会議の見解
2.制度設計の方向
(2)特区制度に関わる法的論点
1)法の下の平等との関係
(厚生労働省)
  • 医療や福祉など、国民の生命や身体・健康に関わる規制は、全国一律で遵守すべきそれ以上後退できない基準を定めたものであり、経済活性化を目的として一部地域の判断で規制を解除できるような性質のものではない。

  • 労働者保護に関する規制は、労働者が健康で文化的な生活を営むために必要な全国一律に適用すべきセーフティーネットであり、地域によって異なる規制を適用することは、法の下の平等の観点から不適当である。

例えば、高度な医療研究体制を持つなど、地域の特性を活かした上で、必要な代替措置等を講ずることにより、規制の特例措置を講ずることは可能である。また、当該規制が「全国一律」であるべきか否かは、規制の目的に照らして検証されるべきであって、先験的に決定されるべきものではない。

いずれにせよ、実際に特区制度が施行された後、個別具体的な案件について国が最終判断すればよく、あらかじめ制度化の段階で除外すべきではない。

2.
(2)
2)試行的な制度の妥当性
(厚生労働省)
  • そもそも国民の生命や身体・健康、労働者保護に関する規制は、「実験」や「試行」に馴染まない。

そのような規制であればこそ、「試行的」な制度も活用することにより、常に最善の規制の内容が求められるべきである。地方公共団体が当該地域に応じた最善の方法を採用することは、躊躇されるべきことではない。

  • 国民が注目する特区の中で行われる国民の生命や身体・健康に係る規制緩和については、懸念されるような国民の生命や身体・健康の危険に関わる問題が発生しないよう周到な配慮が講ぜられることが想定されるため、特区での「試行」が成功したとしても、全国ベースの一般化された先例にはならない。

代替措置等により、一定の「配慮」が講ぜられる範囲内で、規制の特例措置を全国に一般化することは可能である。

  • 規制緩和による低コスト化を目指し、医療の質の低下をもたらすような改革の「試行」はもとより許されないものと考える。

医療の質の低下を防ぐための十分な評価を前提に、「試行的」な制度も認められる。なお、コスト面からだけで医療の質は確保できない。

2.
(2)特区制度に関わる主な法的論点
3)不可逆的な規制改革
(警察庁)
  • 「講ぜられた規制の特例措置について、評価機関による一定の期間後に評価を行った上で、重大な問題等が発生しなかった場合には、当然に全国へ展開する又は当該地域において継続して規制改革を行い得ること」を「講ぜられた規制の特例措置について、一定の期間後に評価を行った上で、重大な問題等が発生しなかった場合には、全国へ展開する又は当該地域において継続して規制改革を行い得ることを検討すること」に改めるべきである。

(理由)

特例措置の成果及び重大な問題等の発生の程度等の評価については、構造改革推進の観点からの判断のみではなく、公共の安全と秩序の維持などの経済的な利害には還元できないが、政府としてその実現に責任をもつべき諸価値に係る専門的な判断を加えた方がより適切に行い得るため。なお、講ぜられた規制の特例措置によってどのような成果、重大な問題等が発生したかについては、規制に係る事務について責任を有する立場からでなければ的確な判断はできないと考えられる。

経済活性化の観点からの評価基準については、公共の安全と秩序の維持の視点も含まれる。

同上
(総務省)
  • 消防法を所管する立場から、国民の生命、身体及び財産の保護に係る規制に対する代替措置については、当該規制と同等以上の水準が確保されるよう留意すべきであると考える。

各種規制ごとに、個別・具体的に検討されるべきである。

同上
(厚生労働省)
  • 人の生命や身体・健康に関する「重大な問題」は、事後的な取消によっては取り返しがつかないことから、特区の対象外とすべき。

  • 労働者の生命、健康、生活や労働条件を守る労働者保護に関する規制については、不可逆的で代替措置もないことから、特区の対象外とすべき。

「重大な問題」であればこそ、それに関する規制についても最善の内容が求められる。現行の規制が特例措置よりも「重大な問題」を引き起こさないとは言えないのであって、地方公共団体が当該地域に応じた最善の方法を採用することは、躊躇されるべきことではない。

(5)検討すべきその他の法的論点
6)特例措置を講じた後の評価方法(体制)
(厚生労働省)
  • 医療サービスについては、その特性として、提供される医療の内容そのものを公的に規制することは不可能(プロフェッショナルフリーダムの領域)であることから、医療従事者の一定の知識・技能の担保や、過剰検査、過剰診療などの患者との情報格差を利用した医療の質の低下やそれに伴う健康被害の防止のためには、医師国家試験(国家資格)の実施、医療経営主体規制、設備構造基準規制等の事故の未然防止のための包括的な事前規制が必要不可欠であり、「代替措置」による弊害除去は困難。

あらゆる事前規制については、現行制度が必ずしも最適であるとは言えず、その目的の達成にとって最適な手段となっているか否か、常に検証される必要がある。また、代替措置の有無については、各種規制ごとに、個別・具体的に検討され、判断される必要がある。

2.
(4)特区制度の対象となる規制の選定基準
2)規制の選定基準
(警察庁)
  • 「生命・身体・健康、公序良俗、消費者保護等に関する規制であるという理由によって対象外とすべきではなく」を、「個々の規制について特区制度の対象となるか否かは」に改めるべきである。(理由)「対象外とする例示は必要最小限とし、なるべく幅広い検討を妨げないようにする」趣旨は理解できるが、例示される事項が適当ではないと考えるため。

そのような規制であればこそ、「試行的」な制度も活用することにより、常に最善の状態が求められるべきである。地方公共団体が当該地域に応じた最善の方法を採用することは、躊躇されるべきことではない。また、実際に特区制度の対象とすべきか否かについては、個別の要請があった際に具体的な検討が行われるべきである。

  • 「刑法に関するもの」の下に「・犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるもの」を加えられたい。

(理由)

公共の安全と秩序を維持することは、国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり、国内の地域ごとに差異が生じることになじまないものである。貴会議事務室7月12日付け回答では、「対象外とする例示は必要最小限度と」する旨主張されているが、当庁意見は、上記観点から、必要最小限の事項を掲げたものである。例えば、児童虐待・児童ポルノの取締り、銃器・薬物の取締り等は、実験的に規制改革を実施すると公共の安全と秩序の維持に不可逆的な支障を及ぼすため、そもそも検討対象となる規制の対象外とすべきものであることは明らかであると考える。

そのような基準は、「刑法に関するもの」の概念に含まれるものである。また、実際に特区制度の対象とすべきか否かについては、個別の要請があった際に具体的な検討が行われるべきである。なお、「公共の安全・秩序の維持」とは広範で不明確な概念であって、これを一律に排除すべきではない。

同上
(厚生労働省)
  • 医療や福祉等国民の生命や身体・健康に関するサービスに係る規制については、次の理由から、特区制度の適用対象外とすべき。

    • 「試行」が失敗して事故等が生じた場合に事後的な対応は不可能であること

    • 一部地域の住民のみを危険に曝すことは問題であること

    • 生命や身体・健康に関する被害を防止するための代替措置を講ずることは困難であり、未然防止のための事前規制が必要不可欠であること

  • 労働者保護に関する規制については、次の理由から、特区制度の適用対象外とすべき。

    • 労働者保護に関する規制は、労働者が健康で文化的な生活を営むために必要な全国一律に適用すべきセーフティーネットであり、地域によって異なる規制を適用することは、法の下の平等の観点から不適当であること

    • 労働者保護に関する規制を緩和した結果、労働者の生命や健康に危害が及んだ場合であっても適切な代替措置を講ずることは困難であり、未然防止のための事前規制が必要不可欠であること

医療、福祉、労働、教育といった分野でも、地域の特性を活かした上で、必要な代替措置等を講ずることにより、規制の特例措置を講ずることが可能なものは存在し、これらを一律に排除するべきではない。

また、生命などに関わる「重大な問題」であればこそ、「試行的」な制度も活用することにより、それに関する規制についても最善の内容が求められるべきである。現行の規制が特例措置よりも「重大な問題」を引き起こさないとは言えないのであって、地方公共団体が当該地域に応じた最善の方法を採用することは、躊躇されるべきことではない。

いずれにせよ、実際に特区制度が施行された後、個別具体的な案件について国が最終判断すればよく、あらかじめ制度化の段階で除外すべきではない。

同上
(文部科学省)
  • 教育に関する制度については、憲法や教育基本法における教育の機会均等などの理念を具体化するために設けられているものがあり、特区において特例措置を設けることにより、このような理念を没却するような結果を招く場合には、特例措置を設けることは不適切である。

同上
(厚生労働省)
  • 医療サービスや医療保険に係る規制の特例措置を講じた場合には、全国の患者や保険者に影響を与えざるを得ず、地方公共団体の責任において特区内で完結させることは困難であること

そのような規制についても、特例措置を講ずることによって、全国の患者や保険者にも間接的な利益が及ぶとともに、代替措置等により影響を特区内に完結させることは可能と考える。

  • 「犯罪特区」を否定するため覚せい剤取締や児童労働保護など刑法以外の警察法規についても対象外とすべき。

「刑法」には警察法規も当然に含まれ、「犯罪特区」が是認されないことは自明である。また、実際に特区制度の対象とすべきか否かについては、個別の要請があった際に具体的な検討が行われるべきである。

3.特区制度の推進方法
(2)推進母体における検討
2)法的枠組みの検討
(内閣官房特区推進室)
  • 法的枠組みについては、2.(1)で提言されている趣旨を重要な論点として尊重しつつ、立法の合理性、他法令との整合性等内閣法制局とも協議しながら検討して参りたい。

3.
(3)推進母体と総合規制改革会議との関係
(内閣官房特区推進室)
  • 総合規制改革会議においてこれまで「規制改革特区」の検討が深められてきたことを踏まえ、総合規制改革会議と当室が意見交換しつつ事業を推進していくことが重要であると認識している。今後、特区制度の検討・推進に当たっては諸情勢を踏まえ、適時・適切な措置を講じて参りたい。


内閣府 総合規制改革会議