共催者挨拶「高齢社会フォーラム・イン東京」

堀田 力
高齢社会NGO連絡協議会共同代表
公益財団法人さわやか福祉財団理事長

堀田氏

平日であろうと休日であろうと、お構いなしにやるところが高齢者の特権です。とはいうものの、3連休の中日です。朝のこの時間帯からおいでいただきまして、大変光栄にうれしく思っています。

姉崎審議官からの「共助の時代である」という実質的なお話を受けまして、共催者から――共催者といっても大きな象の上に止まっている蝶のような感じではありますが、15分か20分、プレゼンテーションをさせていただきます。

去年は、名刺の裏にボランティア活動、地域の活動、助け合いの活動を印刷しましょうということを訴えるために、朝1時間、山手線の各駅で辻立ちをやって訴えているという話をさせていただきました。あの辻立ちはまだ続けています。去年の6月1日に始まって300日。新橋駅から南回り、品川に向けてぐるっと回ってきて、御徒町も過ぎて来週から秋葉原です。あと4駅で新橋まで戻ります。名刺の裏にボランティア活動、地域の活動を印刷して活動を広げよう。どうぞよろしくお願いいたします。

立場のことを忘れて自分の財団の活動だけ話すのは、子どもか年寄りのすることです。自分のことが先。これはあまりよろしくない。共催者としての挨拶をしなければいけません。本日はようこそおいでくださいました。ありがとうございました。

高連協(高齢社会NGO連絡協議会)は長らくのおつきあいを頂戴しています。いくつになっても元気にやっていこう。そういうことです。生きがいを持ってやっていこう。その場面場面でその年々の社会状況は変わってくるので、その社会状況に応じたプレゼンテーションをし、そして分科会でいろいろなテーマを深めてきました。世の中、どんどんいい方向に進んでいます。皆様方のおかげです。ほんとうにうれしく頼もしく思っています。

今年のキーワードは「地域包括ケア」です。そのプレゼンテーションをさせていただきます。
地域包括ケアは、知る人ぞ知る、知らない人は全然知らない言葉です。私はテレビ朝日の番組審議会の座長をやっているのですが、マスコミは誰が総理になるかという政局ばかりやって、政策を全然報道してくれない。どういう政策を国民のために取るのか、それによって人を選ぶので、誰がどうのこうのという話ばかりでは少しも進歩しないと言ったのです。

例えば地域包括ケアは福祉・医療の世界ではみんなが知っていて、何年も前からその方向でといろいろな抵抗のある中を進んできているのに、いちばん基本的なことが報道では出てきていない。地域包括ケアを知らないのはマスコミの責任であると言ったら、「報道ステーション」が地域包括ケアを取り上げました。私は地域包括ケアだけを問題にしているのではない。いろいろな政策があるので、その政策の基本を報道したらどうかと言って例に地域包括ケアを挙げたら、地域包括ケアだけを特集する。素直というか何というか。でも、「報道ステーション」で被災地を回って、あのときは大船渡の市長さんと話しているシーンが出ました。

地域包括ケアは、メインは高齢者の問題で、もともと介護保険から出てきた発想です。介護保険制度は「やってもらう」介護から「選ぶ」介護へと大転換し、その5年後の見直しのときに、いい方向にきているけれども、やっぱり施設に入って最期は施設で迎えているじゃないか、自宅で自分らしく過ごせるケアに変えなければいけないのではないのかということで、5年目の改革で打ち出された考え方です。

そのときは厚生労働省の委員会を開いて、私がまとめ役をさせていただきました。樋口恵子先生に、いろいろな知恵をたくさんお出しいただきました。地域包括ケアが出て、地域でみんなで支え合いをしましょう、なるべくお家にいられるようにしましょう。これが10年目、去年の改革の基本の中でもっとはっきり打ち出されました。5年目の改革のときに副座長をしてくださった田中滋先生が座長をされて、去年、地域包括ケア研究会報告書が出ました。

介護の分野で始まって、要するに最期までお家で過ごせるようにしましょう。これが去年、打ち出した発想の新しいところです。1人でトイレも行けない。食事も1人では食べられない。家族はいない。いまそういう状態になったら、絶対、施設か病院です。そういう状態になっても、自宅のほうが好きに自分らしくできるから自宅で過ごせるようにしましょう。そこまで打ち出したのです。

24時間巡回ケアと言っています。そういう状態で最期まで自宅で過ごそうとなると、ヘルパーさん、看護師さん、お医者さんがしょっちゅう家に来てくれないとできません。現にそれをやろうと仕組みを打ち出して、今年から試行が始まりました。

朝、起きたときにヘルパーさんが来てくれる。トイレをすます。着替えをすます。歯磨きを手伝ってもらう。帰ってほかのところを回っていただいて、今度は朝食をつくって食べるのを手伝ってもらってトイレをして、また別のところを回っていく。12時まで大抵もちます。お昼頃に来てもらって食事、排泄。また3時頃に来てもらって排泄。夕方来てもらってお風呂。お風呂はバスで行ってみんなで入ることもあります。夕食、排泄。寝るときに排泄、着替え。人によっては、夜中に一度、排泄。だから7回も8回も来てくれるわけです。その代わり、いまと違って、来てパッと用事をすませたらパッと帰る。そうでないと、たくさん行けません。それができたら、家で何とか過ごせます。

問題は、1人でさみしいじゃないですか。やってくれるときはいいけれども、あとはずっと1人でいる。だから地域包括ケアはわれわれがやっている生きがい・ふれ合いがないと、せっかく自分の家で好きにやれるのに、「やっぱりさみしいから施設に入っていたほうがいい」という方が出てきてしまう。「最期まで自宅で過ごしたい」というみんなの夢をかなえるためにケアのやり方を変えるのに、逆になってしまう。それではさみしい。

これをやるために大事なことは、仲間がたくさんいることです。ボランティアの仲間、いろいろな仲間。家族はお亡くなりになっても、仲間がいて訪ねてきてくれて話をする。現に私どもの仲間がやっていますが、歌の好きな人にはカラオケの道具を持っていく。重度で食事は人に食べさせてもらわなければいけないのですが、マイクを握らせたら1人で歌うのです。好きな人はほんとうにいつまでも好きです。普通われわれが行くときのカラオケと違って、その人が1人で歌って、私どもの仲間はほんとうは歌いたいけれども、聞くボランティアをやっています。

あるいは刺繍を教える。寝たきりだけれども、刺繍が上手で人に教えたいのです。人の世話になるよりは教えるほうがうれしいから、刺繍を教えたい。刺繍を教えてもらうほうは、女性は「そんなの自分でできるよ」と応募者が出ないのです。男性に「あなた行って習ってきなさい」。これはボランティアなのか強制なのかよく分かりませんが、"共生"社会だから仲間の男性は習いに行っています。そうすると、やっぱりうれしいのです。世話になってばかりではなくて、寝たきりでも人に教えるとうれしい、元気になる。

生きがいは、元気で体が動くうちにやる。これは大事な運動です。体が動くのにやらない人はいっぱいいます。これは濡れ落ち葉と言います。あとで樋口先生がバッシリやってくださいます。でも、それだけではなくて、動けなくてもやれることがある。動けなくなったらよけいふれ合いは大事だし、生きがい、自分を認めてほしい、これは最期までその人の望みです。その人ができることをしていただいて、最期まで人の役に立ってよかったなと、そこまで生きがいの幅をぐんと広げる。元気な人だけではない。みんな最期までそれが大事なのだと、そこまで生きがいの幅を広げる。このチャンスなのです。地域包括ケアはそれができるようにする仕組みなのです。

それがあってわれわれの活動、共生です。共助、助け合い。そして介護保険でしっかり体を見てくれる、しかも家で見てくれる。これに看護医療がしっかり入る仕組みができる。この両方が揃ってはじめて、どんな状態になっても、たとえ家族が先に天国にいっても、最期まで自分らしく、生きていてよかったと思いながら生きていくことができる社会が実現するのです。

それを去年、24時間巡回サービスとして打ち出して、今年から試行が始まり、来年、本格的に始まります。これをやりましょう。予算もついてしっかり始まります。ただし、これをやってくれるのはケアと看護医療のほうだけだから、生きがい、ふれ合いはわれわれがやらなければいけない。さみしい人を出したくない。せっかく最高のところまで達したわけだから。

それを被災地で実現しようというのが、地域包括ケアの町です。お手元の資料の中に「地域包括ケアの町」という資料が入っています。これを政府にもいっぱい配りました。被災地の行政にも配りました。何よりも被災地の被災者の方々に配って、一生懸命、説明して回っています。

6人で組んで提言しているのですが、下のところに樋口恵子様と堀田力という人が載っています。高連協と書いておくべきでした。吉田さん、ごめんなさい。高連協の代表を務めさせていただいている2人です。それぞれ個人としていろいろ知恵を出して提言しています。

どういう町か。われわれ日本全体が地域包括ケアの町を目指しているわけです。しかし、なかなか実現しない。これだったら施設に入らなくてすむから、国民全体はそのぶんお金が助かります。でも、施設業者は自分の基盤が崩れるから大反対です。そういう政治勢力は強いのです。国会でも悪口を言っています。「堀田力、樋口恵子はけしからん」と、施設業者の代表が国会で悪口を言っています。ほんとうは樋口恵子さんのほうが先に名前が出ていました(笑)。どちらが先でもいいのですが、「施設に来た人を抱え込んで世話をしてあげるわれわれの施設をつぶすのか」と、国会議員や施設の事業者の代表に悪口を言われています。

そんなものに負けていられないです。彼らは儲けたいから反対している。われわれはみんながよくなってほしいから言っている。立場が違います。向こうは力は強い、お金はある。われわれは皆さんの力を借りなければいけない、お金はないという立場ですが、みんなでいい姿にしてほしい。

震災地はいろいろなしがらみがあって実現がなかなか難しい。でも、被災地は特に津波のあと全部なくなったのです。そこでせっかくつくるなら地域包括ケアの町をつくろう。この図面(地域包括ケアの町イメージ図)のメッセージを読み取るのは難しいのです。

全部、見ていただかないと読み取れません。全部、見ていただくと何が浮かんでくるか。施設がどこにもないということが浮かんでくるのです。施設を書いていないところに、この図面の味があるわけです。

外部サービス付き高齢者住宅等々をつくって、外側からどんどんサービスを届けましょう。24時間巡回サービスをやりましょう。子どもたちとも交わりましょう。居場所もたくさんつくりましょう。いろいろなメッセージを出しています。中身はどうぞお読みください。第4分科会もあります。

厚生労働省ももちろんこのラインで来ているわけだから、震災向けの予算もつけてくれています。税と社会保障の一体改革でこの図面を出して私が説明したら、菅総理は最後にテレビが入ったところでテレビに向けてこの図面を示して、「震災地でこういう姿をするのは素 晴らしい。被災地がこういう姿になり、それが日本中に及ぶように私は望んでいる」。菅総理はあまり評判がよくないのですが、いいことをおっしゃるではないですか。まとめて引っ張る力がないだけであって、結構いいことをおっしゃっているのです。いろいろいいことをおっしゃった中でも、これを褒めたのが最高だろうと私は思っています。

でも、菅総理が褒めてくれようと何であろうと、大事なのは、みんなで自分の人生の最期まで幸せになるようにするということです。震災地からまず幸せになってほしいから、どうぞ応援してください。賛同を寄せていただくと、また力が広がります。そしてわれわれの町もこういう町になるように、みんなで頑張っていければうれしいと思っています。今年のメッセージはそういうことです。ご清聴ありがとうございました。

共催者挨拶の様子