第1分科会第1部「高齢社会フォーラム・イン横浜」

<第1部> -パネル討議-「これからの地域社会づくり」

第1分科会の様子1
コーディネーター
吉田 成良
高連協専務理事、エイジング総合研究センター専務理事
■発表者
佐藤 広毅
横浜市健康福祉局企画課長
馬 利中
上海大学教授

〔はじめに/分科会の趣旨説明〕

吉田:この第1分科会のテーマは、「これからの地域社会づくり」
分科会第1部では、急速に進んでいる長寿化少子化や家族形態の変化を、横浜市と上海市の実状からご紹介頂きます。
それを踏まえて、一家一族では対応できない状況の中で、要介護高齢者等をいかに支えていくかの現状課題について、「地域社会」で考えよう、支えてゆこう、その方策をつくろう、というのが第2部のパネル討議のテーマです。
また、パネル討議では、地域社会づくりに求められる基礎自治体と住民との相互理解と協働について、その事例や経験を伺い、その上で堀田さんが只今掲げておられる「地域包括ケアのまちづくり」を伺い、パネル討議「地域で支え合う仕組みづくり」を参加者全員で語り合いたいと思います。

〔各発表者からの報告〕

◆佐藤 広毅(横浜市健康福祉局企画課長)

○人口、世帯数に見る横浜市の高齢化の状況

 横浜市の人口は、平成23(2011)年10月1日現在369万2,523人で、日本の基礎自治体のなかで最大の市であり、47都道府県と比べても11番目の人口規模となっており、最大の東京都1,200万人の約3分の1に匹敵します。先行きを予測しますと、横浜市の人口は、2020年まで増え続け、ピ-クの2020年の374万7,000人を境にその後は少しずつ減少していきます。2055年では、321万4,000人にまで減少すると予測しています。
横浜市の人口

 高齢化の状況ですが、平成23(2011)年3月現在65歳以上の人口が73万2,000人で、高齢化率は19.8%です。約14年後には、高齢者人口は約100万人ということで、高齢化率は26.8%になることが予測されています。
少子高齢化の状況

 現在全国規模の高齢化率は約23%ですから、横浜市の高齢化率は全国的には低い水準です。去る10月26日に発表された平成22(2010)年に行われた国勢調査結果の要約版によりますと、65歳以上の人口は2005年から日本が世界最高水準になっていますけれど、高齢社会と言われる高齢化率7%から14%になるまでにかかった年数は、フランスで115年、日本は24年、横浜市は16年で、横浜市は非常に速いスピードで高齢化が進んでいる点に特徴があります。
単身世帯の増加

 若年世代も含めた世帯状況ですが、全国的には現在一人世帯が最も多い世帯類型になっていますが、横浜市は2010年ではまだ夫婦と子供からなる世帯が一番多い世帯類型となっています。近い将来、横浜市においても単身世帯が最も多い世帯類型に変わることが予測されています。

平成17(2005)年の国勢調査の結果によれば、横浜市では、高齢者の単身世帯が23.8%、夫婦のみが32.4%です。単身高齢世帯の全国平均では高齢単身世帯は15.1%ですから、横浜市のほうが高く、このため、家族のサポートは、非常に成り立ち難いという現実があります。
単身高齢者の増加

○横浜市の要介護者認定者の現況と先行き、ならびに課題

 要介護認定者数ですが、平成23(2011)年4月30日現在で、73万2,000人の高齢者のうち11万9,078人の方が要介護認定を受けています。介護保険制度が導入された平成12(2000)年に比べますとこの11年間で、要介護認定者は2.5倍にも増えています。今後についても、同様に要介護認定者数は右肩上がりに増えていくことが見込まれています。
要介護認定者数

 次に、1人当たりの介護サービスの給付水準について、全国の都道府県と横浜市がどのくらいの位置にあるかについてグラフにしてみますと、縦軸に第1号被保険者1人当たりの居宅サービス給付指数、横軸に第1号被保険者1人当たりの施設+居住系サービス(特定施設、グループホーム)給付指数を取りますと、横浜市の特徴は、居宅サービスは全国平均、施設等サービスは全国平均を上回っています。

 特に、横浜市は、現在市内に134か所の特別養護老人ホームの整備等を進めていますが、その特徴としましては、個室ユニットによる整備を基本に整備の推進をはかっています。

 将来的な要介護認定者数の推計についてですが、団塊の世代が75歳になる2025年ごろに全国的に介護のニーズが飛躍的に高くなることが予測されています。横浜市では2025年に要介護認定者は約20万人で、平成23(2011)年4月の約12万人の1.7倍と推計されています。平成23(2011)年3月の65~74歳の方の認定率は約5%ですが、75歳を超える方の認定率は約30%です。また、近年の市民意識調査では、「自分の病気や老後のこと」「家族の健康や生活上の問題」、これらが心配事の上位にきているのが、横浜市の状況です。
一人当たりの介護サービス給付水準

 ところで、要介護認定者数がこれから飛躍的に高くなっていくなかで、行政上の課題もあります。まず、今後税収の伸びが見込めないという課題がありますし、横浜市には数多くの公共施設があるなかで、それらの老朽対策等の課題があります。また、生活保護受給者が増えていて、扶助費等の増加が見込まれているなかで、行政上の課題をクリアしながら、従来の社会保障等、公的サービスについてもしっかり実施していかなければならないという課題もあります。そのなかで今後見込まれる超高齢化という人口構成の変化を考えますと、従来の社会保障だけでは、将来にわたって市民の皆様に安心を提供するのは容易なことでない状況にあります。今後持続可能な横浜の福祉を築いていくためには、市民の皆様の自立(自助)を支え、地域でお互いに助け合う仕組み(共助)を強化していくとともに、これらを公的支援(公助)と組み合わせながら行っていくことが重要です。特に、お互いに助け合う仕組み、午前中の堀田先生のお話にありました「地域包括ケア」のような仕組みを、地域の中でいかに作っていくかが重要だと思います。

 一方、横浜の強みについてご紹介させていただきますと、市民意識調査では8割近くもの市民の皆様が横浜に愛着と誇りを感じているという結果が出ています。他にも、8割近い、比較的高い自治会町内会への加入率、地域における自主的な見守り支え合い活動、その約半分は保健・医療・福祉分野ですが1,300を超えるNPO法人の存在、横浜市独自の福祉保健活動の拠点が整備されていること等が挙げられます。

○「100万人の健康づくり戦略」

100万人の健康づくり戦略1

 以下、横浜市の特徴的な取り組みについていくつかご紹介します。
1つは、横浜市の未来図の実現に向けた中期的視点を持った戦略である「中期4か年計画の成長戦略」の中に「100万人の健康づくり戦略」を位置づけています。
この100万人というのは10年後の高齢者の数なのですが、メッセージ性の強い「100万人の健康づくり戦略」としています。これは、市民一人ひとりが、壮年期から高齢期にかけて楽しみながら健康を維持し、地域の高齢者・障害者等を支える活動にも幅広く参加できる仕組みづくりを進めるものです。そのなかに
「100万人の運動・スポーツ戦略」
「100万人のアクティブ・ライフ戦略」
「100万人の楽しく食事・栄養バランス戦略」
「100万人の社会貢献活動への参加支援戦略」
という4つの戦略を掲げています。


100万人の健康づくり戦略2

 取組としては、「運動・スポーツ戦略」では、介護予防、生活習慣病予防のための運動・スポーツを行う習慣を広めていくこと、
「アクティブ・ライフ戦略」では、文化芸術活動やレクリエーション活動などのさまざまな機会を提供していくこと、
「楽しく食事・栄養バランス戦略」では、食育をはじめ、地域での健康相談や料理教室などの取組みを進めること、
「社会貢献活動への参加支援戦略」としては、高齢者が生きがいや楽しみを感じながら子育て支援や高齢者・障害者の生活支援などの社会貢献活動に参加できる仕組みづくりを進めることを行おうとしています。

 それらによって、介護予防はもちろん、元気な高齢者の活躍、地域でのつながりづくり、市民の健康増進、介護給付費などの抑制、地域社会の活性化が、また、民間企業にとっても健康産業の活性化、高齢者雇用の拡大等の効果が期待されています。

○「ヨコハマいきいきポイント」

 これらの戦略のなかで、「地域貢献活動への参加支援」の仕組みの一つとして、「ヨコハマいきいきポイント」という介護支援ボランティアポイント事業に取り組んでいます。事業概要としては、高齢者の健康増進・介護予防や生きがいづくりの促進を目的に、65歳以上の横浜市民が、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護施設で行うレクリエーションの指導補助や利用者の話し相手などへのボランティア活動を行うものです。これは、登録団体に登録して実際に活動しますと、1回の活動で200ポイントを差し上げるという事業です。1,000ポイント以上貯まりますと、1ポイント1円で換金寄付することができ、年間最大8,000ポイント、つまり8,000円まで換金できる仕組みです。平成21(2009)年10月からスタートしていますが、現在、登録者数が5,185人で、昨年1年間で2,400人ほどの登録がありました。これを見ても、市民の皆様の力を非常に実感することができます。
ヨコハマいきいきポイント

 登録している人からは、「役に立った実感が得られた」「健康に繋がると思う」「ボランティア仲間ができた」「元気がもらえる」「日々の生活に張り合いができた」といった感想をいただいております。
登録者の声

○高齢者のための住まいへの取り組み

 もう1つは、住まいへの取り組みです。現在、「横浜型高齢者向け住まい」として、市有地貸与等により民間企業等がコストを抑えて新しい住まいを整備する取り組みを行っています。市が市有地を貸与することによる効果としては、厚生年金をいただいている方たちが無理なく、入居費用を用意できることがあります。内容としては、高齢者の皆様に加え、子育て世代の皆様にも住んでいただき、中には交流スペースを設けて、訪問介護・看護、通所介護等の事業所にテナントとして入っていただき、そこで多世代交流等を行いながら、ケアが必要になっても住まい続けられる住まいを創出していこうという取組です。これは今年度から始めました。
横浜型高齢者向け住まい(仮称)

 また、横浜市内にも高齢化が進む既存の大規模団地が多数あります。そういう団地等に介護・医療サービスの事業所を誘致する取組も行っています。
既存住まいの機能強化

○「地域ケアプラザ」

 さらに、市の特徴としましては、「地域ケアプラザ」という、介護予防や食事サービスなど地域の福祉・保健活動を支援し、福祉保健サービスを身近な場所で総合的に提供する横浜市独自の施設を整備しています。これは、日常生活圏域(中学校区)に1か所ということで、平成3(1991)年から整備を進め、現在123か所整備したところです。ここでは、専門職を常勤で5名配置しており、さまざまな取り組みを行っています。
地域ケアプラザ

 具体的な内容の1つが福祉・保健の相談・支援で、地域の身近な相談窓口としての取り組みです。もう1つは、地域活動・交流の拠点として、交流の場や多目的ホール等の各部屋をご利用いただいています。また、認知症予防教室や介護予防、子育て相談など講座なども実施しています。
地域ケアプラザの機能

 このような住まい、あるいは支え合いのボランティア活動、地域包括支援センターを含めた地域ケアプラザ等々、地域の中で皆様がいきいきと住まわれる地域包括ケアのイメージの実現に向けて、施策等を行っています。健康福祉局としましては、「今日の安心、明日の安心、そして将来への安心に向けて」という基本目標を立てて、取り組みを行っているところです。
地域包括ケアのイメージ

吉田:次に上海大学の馬教授にお話をいただきたいと思います。
馬先生は、横浜市とは長いお付き合いをされています。20年ぐらい前に横浜と上海は姉妹都市の関係で、「高齢化の問題」で年間数十名の交流をされておりました。その間、最初は通訳のようなかたちで来られ、その後は人口の専門家として7~8回横浜市に来ておられます。

 それでは馬先生、お願いいたします。

◆馬 利中(上海大学教授)

○西欧とは異なる人口転換を実現した東アジア

 上海大学の馬利中です。上海の人口高齢化と高齢者事情について説明させていただきます。去年は、上海で万博が開催されましたが、そのスローガンは"Better City Better Life"で、高齢者を含めて市民の生活をよりよくさせるということです。東アジア儒教文化圏にある中国、日本、韓国は一衣帯水の隣人です。この東アジアの人口変化は、東アジアモデルと言われており、欧米と比べると、多産多死から少産少死への人口転換が大変短かったことなど、いろいろな特性があり、東アジア各国としての共通点があります。

 2010年の国連資料等によれば、いま全中国の高齢化率は8.2%です。日本は21.3%、韓国は11%ちょっとです。これらの国々の高齢化率が7%から14%になる所要年数は、ヨーロッパと比べて全然違います。

 ヨーロッパの国々は半世紀、あるいは100年以上かかっていますが、こちらの国々は20数年です。

中日韓三国における65歳以上の高齢者数とその比率 中日韓と欧米諸国との高齢化進展速度の比較

○少子高齢化のスピードの速い上海市

 上海の人口高齢化について述べます。現在上海市は中国最大の都市で、改革開放の窓口と言われていますが、少子高齢化のスピードも中国で一番速いのです。上海の総人口は2,300万人(2010年人口センサス)で、2000年の人口センサス結果と比べると4割増です。現在、出稼ぎ等流入人口が900万人で、総人口の4割程度を占めております。

 1949年の革命以降、人口センサスは6回行われています。現在上海の人口は大変大きくなりました。以前は戸籍人口が対象のセンサスでしたが、いまは改革、都市づくりでその方面の労働者が必要であるため、流入人口が大分増えました。

 1世帯当たりの家族規模は、革命後は4.7人ぐらいでしたが、いまは2.5人ぐらいと相当縮小しました。
第1~6回の中国人口調査における上海市総人口、総世帯数など関係データの変化

○上海市の人口高齢化をめぐる実態

 人口高齢化の主な原因は低死亡率と低出生率です。いま、上海の合計特殊出生率(TFR=total fertility rate)は1を切って0.83です。

上海市人口の出生率、死亡率の変化 上海市民平均寿命の変化 1951-2010

 その一方で、平均寿命は延びました。いま、上海の平均寿命は、男女平均で82.13歳、男性は日本人男性よりも少々高く79.82歳、女性は日本よりも2歳ほど低い84.44歳で、先進国並みです。平均寿命は、1949年革命のときには44歳ぐらいでしたが、特にここ20~30年は急激に延びて80歳以上になっています。100歳以上の高齢者は現在1,000人ぐらいです。最初の人口センサスのときには1人だけでした。100歳以上の高齢者のうち、女性が8割を占めます。
上海市平均余命の変化

 扶養人口も変わりました。いま、年少人口は減少しつつある一方、高齢人口が増えています。人口扶養係数も平均世帯規模も変化していまして、平均世帯規模は現在2.5人ぐらいしかありません。したがって、要介護高齢者を家族でみることは大変難しくなりました。

 上海は、1979年に高齢化率が7%となり、高齢化社会に突入しました。そのときの高齢化率は、全国平均よりも20年、北京市、天津市よりも10年早いものでした。21世紀と共に高齢化率は14%になり、高齢社会に突入しました。

 2010年末現在の上海の戸籍人口のうち60歳以上の高齢化率は23.4%、65歳以上の高齢化率は16.0%で、中国30省市のなかで最も高齢化率が高く、先進国並みです。中国の統計では、60歳以上と65歳以上の2つのデータを用いています。経済がそれほど豊かになっていない地方と比べるとか、先進国として比べる場合には60歳以上のデータを用います。国際共通で国連のデータを比べる場合には、65歳以上のデータを使います。

○上海市の高齢化の特性と今後の行方

 上海のもう1つの特性として、高齢化のなかでの後期高齢者の問題があります。中国では後期高齢者は80歳以上です。

 上海市の高齢化の特性と言えば、1つはスピードが速いことです。高齢化率が7%から14%になるのに27年しかかっていません。

 もう1つは後期高齢者の割合が高いことです。 

 さらにもう1つは、「老々世帯」です。

 上海における現在の60歳以上の人口構成を見ますと、60~69歳が半分ぐらい、70~79歳が3割、あと2割近くが80歳以上です。

 上海の65歳以上の高齢化率は現在16%ですが、これからが大変です。1つは、2010年~2015年の5年間で、高齢者は毎年20万人ずつ増加します。もう1つは、2年後の2013年から新たに増える高齢者のうち8割以上が一人っ子の親です。中国は、1979年から「一人っ子政策」(計画生育政策)を始めましたが、いまその子供の殆どが20代になって結婚の時期になります。そのことは特に高齢者のケアをはじめ大変な問題を孕みます。上海の高齢者人口がピークになるのは、2025~2030年です。そのときには、上海人口の3人に1人が65歳以上の高齢者になります。

上海市高齢化の特徴 2010年上海60歳以上高齢者の人口構成 上海市高齢人口構成の変化 1982-2010

○人口高齢化の漸増趨勢を鈍化させている外来人口の急速な流入

 上海市は活力のある大都市として、現在900万人近くが外来人口です。若年層の労働者を主とする外来人口の急速な流入は、若年層の労働者が常住人口に占める割合を増加させました。そして、それは、近未来に向けた上海の人口高齢化のスピードをある程度鈍化させています。

○生活実態と意識調査に見る上海の高齢化の課題

 市民の養老保険制度等の整備、医療保険事業の発展、老人ホームの改善は、依然として上海市の最も重要な課題です。最近この方面の調査は少ないのですが、5年前に「上海市高齢者の生活実態と意識調査」という調査が行われました。中国では年金制度が整備されていないのですが、会社の就労者や公務員には年金があります。農村や郊外ではまだありません。上海は生活が豊かになっていますから、企業や連帯組織でいろいろつくった制度がありますが、現在保険料を払っている市民は大体8割を占めています。
年金と生活保障状況:2009~2010年

 日常生活の動作能力を見ますと、主観的には「自立できる」が95%と多いのですが、「自立が難しい」「要ケア」「部分的には自立できる」は5%ぐらいです。
日常生活動作能力

 健康状況の主観的評価では、「健康的にいい」が2割、「普通」が5割、あと3割ぐらいが「よくない」「あまりよくない」と答えています。
健康状況の主観的評価

 「一人暮らし」の高齢者の比率は9%ぐらい、「老夫婦のみ」は36%、「子供あるいは孫と同居している」は53%です。
家族類型

 「要介護老人と家族内での主な介護者の関係」と言いますと、配偶者は約35%で、日本と同じで1位ですけれど、2位は息子で25%ぐらいです。これは日本と多少違います。3位は娘で20%ぐらいです。そして、「日常生活が困難になった場合に、手伝ってくれる人がいない」高齢者は約4%です。
要介護老人と主介護者の続柄

 老後を過ごしたい場所(養老場所)は殆ど自宅です。都市部では9割、農村では85%です。この理由の1つは施設不足です。「施設で老後を過ごしたい」人は、都市部で2.5%、農村では4.1%です。ですから、意識的な問題が働いていると思います。
養老場所の意識

 生活満足度で言えば、6割が「満足」と答えています。満足度の高い5つの面があります。それは「尊敬、尊重されている」「子供との交流」「配偶者との付き合い」「子供から生活介護をもらう」「子供から経済扶養を受ける」です。

生活満足度 満足度の最も高い五つの面

 政府や社会にもっと希望し、解決して欲しいことは、1つは「敬老意識を高めるための広報教育」で、もう1つは老後の生活で満足できないことも多いのだと思いますけれど、なかでも「年金問題をよりよく解決すること」でして、また、「生活困難な高齢者に法律による援助を提供すること」、そして、「医療改革等をよりよく行うこと」です。
政府や社会に最も希望・解決したいこと

○上海市の養老サービスの仕組みと現状

2010年上海市の老人ホームとベッド数

 上海市の養老サービスの現状ですが、上海市政府は第11次5か年計画の期間中(2006~2010年)に展開する「9073」という運動プログラムを出しました。これは、日本ほど施設が整備されていないから9割は高齢者が自宅で家族による養老ケアを受ける、7%は「社区」(コミュニティ地域)で養老サービスを受ける、そして、3%は施設養老、即ち老人ホームで老後を過ごすようにするというものです。上海市はここ数年間で発展してきたため、現在老人ホームの施設とベッド数は、高齢者の3%しか対応できていません。コミュニティ地域(「社区」)での在宅の養老サービスでは、ディサービスセンターが現在普及しつつあります(現在330か所)。社区の助老サービスセンターが大分増えました(現在233か所、対象者25万2,000人)。いま一番に高齢者に喜ばれているのは、地域サービスで昼ご飯を自宅に届ける老人配食センターです(現在、404か所、サービス対象4万人)。健康な高齢者のためには、2~30年前からいろいろな老人活動室が社区には設けられています(6,062か所)。

○老々世帯とそれの面倒を看る活動

 老々世帯は重視しなければなりません。現在上海では、94万5,600人が老々世帯です。そのうち、80歳以上の高齢者は27万4,600人で29%を占め、一人暮らしの高齢者は19万3,200人で20.4%を占めます。老々世帯の面倒を看る活動は以前は盛んでしたが、いま改めて提唱されています。

○上海市で組織された高齢者の手助けをする人的体制

 1980年代後半~90年代に上海しでは、困っている高齢者を助けるいろいろないいモデルとなる方法がありました。1つは「包護組」です。つまり、2人以上の元気な高齢者がグループで要介護高齢者の日常生活の手助けをするという人的体制が約10,000組ありました。もう1つは、「老年互助組」で、高齢者同士で助け合いをする体制が約7,000組ありました。高齢者にサービスを提供するあのような制度をつくりましたが、現在中国は経済成長が速過ぎるものですから、このような敬老意識でつくった住民活動も弱体化しつつあります。

○最近さかんになっている見守り責任者のシステム

 現在中国は、このように経済成長ばかりを望んでいては、昔からのいい伝統や文化を損なったり、失ったりして大変な問題になる、と反省しています。新聞の社説でも、「魂を間に合わせるように、経済成長のスピードを落として欲しい」という主張が載せられていました。 こういう見守り責任者のシステムは、子どもも親に対しても契約のようにやらなくてはなりません。1つの試みとして、上海市の普陀(ふだ)区(く)で実施しています。老々世帯に対して、 子どもは毎日1回電話で挨拶をしなければなりません。週に1回家庭訪問し、2週間に1回、親と同行して買い物をする。月に1回、親の入浴の手伝いをし、散髪に同行する、3か月に1回大掃除を手伝う、というテストを行っています。

 浦東(ほとう)新区(しんく)でもテストを行っています。内容は大体似ているのですけれど、1~2日ぐらいに1回は電話をし、1~2週間に1回家庭訪問をして、雑談するというものです。

 それから、夏や冬には子どもが両親の慰労のために電気、ガス、水道の使い方のチェックをすることも試みています。

 近所同士もボランティアも見守り責任者の契約のかたちで、電話、家庭訪問、精神的慰め、日常生活で異常が起こったときの社区の老人協会への報告等を行っています。

「守望責任者」に子どもが実施すべきこと 「“五星”老人サポート・ネットワーク」に子どもが実施すべきこと 「守望(見守り)承諾書」に近所ボランティアの実施すべきこと

○中国における介護の社会化検討の動き

 中国は、競争社会となったため、親の面倒をみなければならないと思っていながら、一人っ子であるため、できないという事情があります。そこで、社会で介護することが現在検討されています。中国は、国内の老人ホームや介護サービスを充実させる方針であり、2020年の介護・養老分野の市場規模は5,000億元、日本円で6.3兆円になると試算されています。

老年医療

 いま、その方面の施設は、たとえば老年医療関係では老年病院、老年護理院(高齢者介護病院)が増えています。また、現在施設不足で、「家庭ベッド」、つまり世帯内の病床については、定年退職した医師(60歳以上)や看護婦(55歳以上)がグループ組織で巡回診察を公的サービスとして行っています。

○その他、健康な高齢者に関わる動き

 老年教育も、健康な高齢者向けは、数が大分増 えました。

 もう1つは老年法律相談で、いろいろな高齢者の相談に乗っています。定年後の生活という意味の「退休生活」を隔月で発行し、高齢者の日常生活の指導、医療相談等いろいろな内容が載っています。

 学術・文芸、体育・スポーツ等健康な高齢者に対するさまざまな関係団体がつくられました。

老年教育 老年法律相談 上海市老人活動の関係団体 2010

○上海市の高齢者の婚活

 最近流行っているのは、一人暮らし高齢者のお見合いパーティー、つまり婚活です。改革解放政策の推進、生活スタイルとその意識の変化に従って、一人暮らしの高齢者が支え合える新たなパートナーを求めるニーズが高まっています。そのニーズに応え、いま上海では、お見合いパーティーなどの婚活が盛んです。1つの事例を挙げれば、「上海退職者委員会」という1つの結婚紹介所によるお見合いパーティーは、週1回金曜日の午後1時半~5時半に、大規模に行われています。上海のテレビは、いい事例を日曜日に放映しますが、これは、社会的に提唱しているこの婚活の雰囲気づくりのためでもあります。高齢者は老後になって経済的にそれほど豊かではないのですが、敬老の日には集団お見合い、グループ結婚も行っています。そのときは、1日中テレビで中継しています。
高齢者も婚活する時代

 最後になりますが、中国と日本は文化、伝統などに共通するところがあります。幸せなことは、人数はそんなに多くないのですが、現在「東アジア地域人口高齢化専門家会議」という定期的交流の仕組みがあります。中国は、これまでこの定期的な交流を通じて、人口変化で先行する日本から沢山の情報が得られ、勉強になっています。交流を通じて、あの津波のようなエイジングを乗り越える経験、知識等を学び合い、中国としては今後も日本の経験、知識の伝播を期待しています。

吉田:馬先生、大変明確なご説明をありがとうございました。それでは、第2部のパネル討議に入りますが、壇上席を整えますので10分程度休憩に入ります。