第1章 高齢社会対策の方向 第1節 高齢者の多様性 1 家族からみた多様性 (配偶関係)  高齢者(65歳以上)の配偶関係をみると、平成12(2000)年現在、男性の83.1%には妻がいるのに対し、夫がいる女性は45.5%と半数を下回っており、男女による差が大きい。これは、女性の平均寿命が男性より長いこと、また、夫が妻より高齢である場合が多いことによると考えられる。  また、これまでは、死亡率の低下に伴う平均寿命の伸びを背景に、有配偶率は男女ともに上昇してきた。しかし、近年、未婚者、離別者の割合もまた、男女ともに上昇してきている(図1-1-1)。このうち、未婚率に関しては、平成12(2000)年現在、50歳代前半の世代(昭和21(1946)年から25(1950)年生まれ)では男性の10.1%、女性の5.3%が未婚であり、この世代が60歳代後半になる平成27(2015)年には、一層の未婚率の上昇が予想される(表1-1-2)。  さらに、厚生労働省「人口動態統計」によれば、婚姻件数のうち、夫婦の少なくともいずれかが再婚である割合も上昇している。  したがって、これまでは、有配偶か配偶者との死別かがほとんどであった高齢者の配偶関係も、今後は、未婚、配偶者との離別、再婚など、多様化していくことが予想される。 「高齢社会」「高齢化社会」とは?  一般に、総人ロに占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が7%を超えた社会のことを「高齢化社会」、14%を超えた社会のことを「高齢社会」と呼んでいる。  1956(昭和31)年の国連の報告書において、当時の欧米先進国の水準を基にしながら、仮に、7%以上を「高齢化した(aged)」人ロと呼んだことが、「高齢化社会」という用語の起源ではないかとされているが、必ずしも定かではない。  また、「高齢社会」については、高齢化率が7%からその2倍の14%に到達するまでの期間(倍化年数)が、高齢化の進展のスピードを示す指標として国際比較などでよく使われている(→78ページ参照)ことから、高齢化率14%を一つの基準として、これを超えたものを「高齢社会」と呼んでいるものと考えられる。  平成7年に制定された高齢社会対策基本法は、「我が国の人ロ構造の高齢化は極めて急速に進んでおり、遠からず世界に例を見ない水準の高齢社会が到来するものと見込まれている」(前文)と述べており、法律として初めて「高齢社会」の用語を使用したものである。 「高齢社会対策」とは?  高齢社会対策基本法は、「高齢化の進展に適切に対処するための施策」を「高齢社会対策」と定義している(第1条)。  高齢社会対策は、高齢化の進展の速度に比べ対応が遅れている国民の意識や社会のシステムが高齢社会にふさわしいものとなるよう不断に見直し、適切なものとしていくことを目指すものであって、社会のシステム全体にかかわるものであり、高齢者のみを対象とするようないわゆる「高齢者対策」よりも広い概念であることに留意する必要がある。 図1-1-1 配偶関係別にみた高齢者の割合 表1-1-2 同時出生集団(コーホート)別にみた未婚率の推移 (子供との同別居)  高齢者のうち18歳以上の子がいる割合をみると、男女ともにすべての年齢階級で90%を超えている。今後、未婚率の上昇とともにこの割合は低下することが予想されるものの、大半の高齢者が成人した子を持っているという状況は続くと予想される(表1-1-3)。 表1-1-3 高齢者の男女・年齢階級別にみた子供の有無  次に、子と同居する高齢者の割合をみると、平成12(2000)年現在、男性で44.8%、女性で52.3%となっている。この割合は年々低下する傾向にあり、昭和55(1980)年以降、男女とも20ポイント前後の低下がみられ、特に三世代同居に代表されるような既婚の子との同居の割合が大きく低下している。  年齢別にみると、年齢が高いほど同居率は高く、65〜69歳で男性が41.9%、女性で41.3%であるのに対し、80歳以上で男性が55.1%、女性が72.0%となっている。その理由としては、前の世代ほど子との同居が多いということのほか、より高齢になって健康上の問題を抱えたり配偶者と死別したりしたことを契機にいったん別居していた子と再同居することがあると考えられる。  性別にみると男性より女性の方が同居率は高い。これは、女性の方が配偶者との死別割合が高いことが背景にあると考えられる。  子との同居が減少する一方で、夫婦のみ又は一人暮らしの高齢者は年々増加する傾向にある。男性の場合、夫婦のみの増加が著しく、昭和55(1980)年の29.6%から平成12(2000)年の44.2%へと約15ポイントの増加となっている。女性の場合は男女の有配偶率の違いを背景に一人暮らしの増加も大きく、昭和55(1980)年の11.7%から平成12(2000)年の19.1%へと約7ポイントの増加となっている(図1-1-4、図1-1-5)。 図1-1-4 高齢者の男女別にみた家族構成割合の推移 図1-1-5 高齢者の男女・年齢階級別にみた家族構成割合  このように、成人子との同居関係は三世代同居中心から、三世代同居、未婚の成人子との同居、成人子とは別居して夫婦のみ又は一人暮らしと、多様化してきており、今後もこの傾向が進むと予想される。  また、子や孫との関係についての意識をみると、平成13(2001)年現在、「子供や孫とはいつも一緒に生活できるのがよい」が男性で44.4%、女性で46.6%を占めており、昭和56(1981)年時点と比較すると、男性で11.4ポイント、女性で19.8ポイント減少している。一方、「ときどき会うのがよい」、「たまに会話をする程度でよい」、「全く付き合わずに生活するのがよい」の合計は男性で49.6%、女性で46.7%となっており、56(1981)年時点と比較すると、男性で7.7ポイント、女性で15.1ポイント増加している。現時点ではそれぞれの考えを支持する者の割合がほぼ拮抗しており、意識の面でも、子や孫に囲まれて過ごすことを望んでいる高齢者が必ずしも多数派とはいえなくなっている(表1-1-6)。 表1-1-6 子や孫との付き合い方(65歳以上の者) 高齢者の家族形態  本文で見たように、我が国の高齢者は、減少しつつあるとはいえ、依然として「子と同居」する者が半数近くを占めている。高齢者の家族形態を、諸外国と比較するとどうだろうか。  三世代世帯に住む高齢者の割合は日本と韓国で高いが(それぞれ24.5%、30.7%)、アメリカ、ドイツ、スウェーデンではほとんど見られない。これらの3か国では、単独世帯の割合が高く、それぞれ41.9%、40.8%、46.1%となっている。5か国で共通して高いのは、夫婦のみ世帯の割合であり、最も高いスウェーデンで48.4%、最も低い韓国でも30.1%を占めている。  このように、高齢者の家族形態には国により大きな違いが見られる。その背景には、家族に関する考え方(親が高齢になったら同居して面倒を見るべきか等)や社会保障制度の整備状況(公的年金制度が普及しているか否か)といった各国の社会経済的状況の違いがうかがわれる。 (別居子との関係)  高齢者が別世帯の子と、「一緒に住んでいる」、「同じ建物に住んでいる」、「同じ敷地内の別の建物に住んでいる」割合は単身世帯で8.8%、夫婦のみ世帯で10.7%、また、「近くに住んでいる」割合は単身世帯で15.9%、夫婦世帯で14.7%となっており、これらを合計すると、高齢者の単身世帯で24.7%、夫婦のみ世帯で25.4%は、別世帯の子が同じ敷地や近くに住んでいる。  一方、別世帯の子が「片道1時間以上の場所に住んでいる」割合は単身世帯で35.6%、夫婦世帯で35.5%となっている。  また、「別世帯の子はいない」世帯は、単身世帯全体の30.3%、夫婦世帯全体の17.5%を占めており、今後、未婚率の上昇に伴い、別世帯の子がいない一人暮らし高齢者も増えてくるものと思われる(後出第2章表2-2-7→83ページ)。  このように、一人暮らしや夫婦だけで暮らしている高齢者にも、別世帯の子が近くに住んでいて日常的な交流や相互支援が可能な者もいれば、片道1時間以上離れた場所に住んでいて日常的な支援を受けることは難しい者もいるし、また、そもそも別世帯の子がいない者もいる。  別居している子との接触頻度をみると、「ほとんど毎日」、「週に1回以上」の合計が男性で45.3%、女性で48.4%であるのに対して、「月に1〜2回」、「年に数回」の合計は男性で51.4%、女性で50.5%と、その割合はほぼ拮抗している。諸外国の結果と比較すると、アメリカ、ドイツ、スウェーデンでは前者が8割前後の水準となっており、これらの国に比べて、我が国の高齢者は別居子との接触頻度が低い者が多い(表1-1-7)。 表1-1-7 別居している子との接触頻度