第2章 高齢社会対策の実施の状況(第2節1)

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第2節 高齢社会対策の動き

1 主な取組

(1)総合的な推進のための取組

○社会保障改革の推進について

平成22年10月に設置した「政府・与党社会保障改革検討本部」では、「社会保障改革に関する有識者検討会」や「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」等の議論も踏まえ、同年12月に社会保障改革の推進に係る基本方針(「社会保障改革の推進について」)を決定し、同月「社会保障改革の推進について」を閣議決定した。
また、平成23年2月に、社会保障・税一体改革の検討を集中的に行うとともに、国民的な議論をオープンに進めていくため、「社会保障改革に関する集中検討会議」を設置している。
一方、社会保障・税に関わる番号制度については、同本部において、番号制度の理念、必要な仕組み、今後の進め方等を内容とする「社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針」を1月末に決定した。


○「一人ひとりを包摂する社会」特命チーム

平成23年1月、新たな社会的リスクとしての「孤立化」、「無縁社会」、「孤族」などの問題について、セーフティネットの強化を含めた社会的包摂を推進するための戦略策定を目的として、「一人ひとりを包摂する社会」特命チームを設置した。
今後、同特命チームにおいては、「社会的包摂戦略」策定の基本方針の作成や社会的孤立に関する実態調査等を行うこととしている。


(2)就業・所得

○シルバー人材センターの支援等

「教育、子育て、介護、環境」の分野を重点にシルバー人材センターと地方公共団体が共同して企画提案した事業の支援を拡大するほか、各シルバー人材センターにおいて会員が身近な地域で安心して働くことができるよう多様な就業機会を提供するとともに、適切な運営の確保を図っている。


○高年齢者雇用確保充実奨励金の創設

高年齢者雇用確保充実奨励金を創設し、事業主団体が傘下の事業主を対象として希望者全員が65歳まで働ける制度の導入や、70歳まで働ける制度の導入等の高年齢者雇用確保措置の充実等を図るための相談・情報提供その他の援助を行う事業を実施した場合に、助成を行っている。


○「今後の高年齢者雇用に関する研究会」の開催

平成22年11月より、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討することを目的として「今後の高年齢者雇用に関する研究会」を開催し、<1>希望者全員の65歳までの雇用確保策、<2>年齢に関わりなく働ける環境の整備、を中心として調査・検討を行っている。


○テレワークの普及・促進

政府は平成22年5月に「新たな情報通信技術戦略」を策定し、その中で2.地域の絆の再生(2)高齢者等に対する取組に「テレワークの推進」を位置づけ、同戦略に基づき、企業のテレワーク普及・推進を図るためのセミナー等を開催するとともに、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握、大都市圏郊外部等におけるテレワークセンター等の普及に向けた取組を行った。


○持続可能で安定的な公的年金制度の確立

公的年金制度を持続可能なものとし、その信頼を確保するための財政上の措置として、基礎年金国庫負担割合2分の1の維持が必要不可欠となっている。この観点から、平成23年度政府予算では、財政投融資特別会計から一般会計への特例的な繰入金などの臨時の財源を確保し、基礎年金国庫負担割合2分の1を維持することを盛り込むとともに、第177回通常国会に所要の法案を提出した。
また、将来の無年金・低年金の発生を防止し、国民の高齢期における所得の確保をより一層支援する観点から、国民年金保険料の納付可能期間を2年から10年に延長する等の措置を行うことを盛り込んだ「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律案(年金確保支援法案)」を第174回通常国会に提出した。本法案は第176回臨時国会において一部修正の上、衆議院で可決され、参議院で継続審議の取り扱いとなっている。


○個人のライフスタイルの選択に中立的な公的年金制度の構築

年金制度改革については、年金制度を例外なく一元化し、すべての人が「所得が同じなら同じ保険料」を負担し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得比例年金」の創設などを骨格とする新たな年金制度について、国民的な議論を行って、平成25年の国会に所要の法案を提出することとしている。
平成22年6月、「新年金制度に関する検討会」において新たな年金制度の基本原則を取りまとめた。また、同年10月に「政府・与党社会保障改革検討本部」を設置し、その下に設置された「社会保障改革に関する有識者検討会」や「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」等の議論も踏まえ、同年12月に「社会保障改革の推進について」を閣議決定し、年金制度を含む社会保障制度の改革について、検討のスケジュールを示した。


○日本年金機構による適切な運営と年金記録問題への対応

年金記録問題への対応については、紙台帳検索システムによる紙台帳等とコンピューター記録との突合せ業務を平成22年10月から開始するとともに、インターネットでの記録確認をより使いやすいものとした「ねんきんネット」サービスを平成23年2月末から開始し、また、自宅でパソコンが使えない方のために市区町村や郵便局で年金記録の提供を行えるようにした。


(3)健康・福祉

○地域包括ケア推進事業

平成22年11月30日、社会保障審議会介護保険部会において、平成24年度から始まる第5期介護保険事業計画に向けて、「地域包括ケア」の確立を内容とした「介護保険制度の見直しに関する意見」がとりまとめられた。これらを踏まえ、高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、定期巡回・随時対応型訪問介護看護等の新たなサービス類型の創設、保険料率の増加の抑制のための財政安定化基金の取崩し、介護福祉士等による喀痰吸引等の実施等の措置を講ずることを盛り込んだ「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」を平成23年3月11日に閣議決定し、4月5日に第177回国会に提出した。


○介護・福祉サービス基盤の整備

身近な日常生活圏域で介護予防から介護サービスの利用に至るまでの必要なサービス基盤を整備するため、「地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金」及び「介護基盤緊急整備等臨時特例基金」により、将来必要となる介護施設や地域介護拠点を緊急に整備するとともに、市町村が地域の実情に合わせて裁量や自主性・創意工夫をいかせるような介護・福祉サービスの基盤整備を支援している。


○福祉・介護人材の確保

介護関係業務未経験者を雇い入れた場合の助成など雇用管理改善に取り組む事業主への支援に取り組んだ。また、人材の参入促進を図る観点から、介護に関する専門的な技能を身につけられるようにするための離職者訓練の充実を図るとともに、全国の主要なハローワークに設置する「福祉人材コーナー」において、きめ細かな職業相談・職業紹介、求人者への助言・指導等を実施したことに加え、他産業からの離職を余儀なくされた非正規労働者等が多数利用するハローワークにおいても、介護に関する情報提供及び「福祉人材コーナー」への誘導等の支援を実施した。


○地域の支え合いによる生活支援の推進

地域福祉等推進特別支援事業において、高齢者等の地域社会における今日的課題の解決を目指す先駆的・試行的取組を行う自治体等への支援を行った。
また、高齢者も含む一人暮らし世帯等が地域において安心して暮らすことができるよう、見守り活動等への支援を行う安心生活創造事業を実施した。
さらに、平成22年度補正予算による地域支え合い体制づくり事業において、特定非営利活動法人、福祉サービス事業者等の協働による、見守り活動チームや生活・介護支援サポーター等の人材育成、家族介護者支援、地域資源を活用した徘徊SOS等のネットワークの整備等に対する助成を行った。


○新たな高齢者医療制度の検討

新たな制度の具体的な在り方を検討するため、平成21年11月に「高齢者医療制度改革会議」が開催され、平成22年12月に最終的な取りまとめが行われた。
 新たな制度では、<1>加入する制度を年齢で区分せず、75歳以上の高齢者の方も現役世代と同じ国保か被用者保険に加入することとした上で、<2>約8割の高齢者が加入することとなる国保の財政運営について、段階的に都道府県単位化を図り、国民皆保険の基盤である国保の安定的な運営を確保することとしている。


○現行の高齢者医療制度の問題点の解消等

現行制度の様々な問題点を解消するため、<1>平成22年度保険料改定で、前年度と比較し、約14%の増加が見込まれたが、広域連合の剰余金の活用等により、2.1%に抑制した、<2>平成22年4月の診療報酬改定で、75歳以上に着目した診療報酬の廃止、等の取組を実施した。
また、高齢者に混乱や不安を生じさせないよう、現行の負担軽減措置については制度を廃止するまでの間継続することとし、<1>70歳から74歳までの窓口負担を1割に軽減、<2>低所得者及び被用者保険の被扶養者の保険料を軽減する措置を継続するための費用として、平成22年度第二次補正予算に約2,800億円を計上した。


(4)学習・社会参加

○「新しい公共」円卓会議及び「新しい公共」推進会議

「新しい公共」円卓会議が平成22年1月から6月にかけて開催され、「新しい公共」宣言がとりまとめられた。また、官、市民、NPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」の推進について検討を行う場として、「新しい公共」推進会議が開催され、「新しい公共」円卓会議からの提案に対する政府の対応をフォローアップし、結果を踏まえた提案を行うとともに、「新しい公共」と行政の関係の在り方などNPO等の活動基盤整備について議論を行っている。11月に「政府の取組に対する「新しい公共」推進会議からの提案」、平成23年4月に「情報開示・発信基盤整備の在り方について」がとりまとめられた。


○地域活性化・雇用促進資金(社会貢献型事業関連)

地域活性化・雇用促進資金(社会貢献型事業関連)の活用により、ソーシャルビジネス事業者の資金調達ニーズに対しては、民間金融を補完しつつ、日本政策金融公庫を通じてソーシャルビジネス事業者に対する融資を実施することで資金調達の円滑化に向けた環境整備を進め、事業活動の促進を行った。


(5)生活環境

○住宅のバリアフリー化の促進

住宅エコポイント制度において、エコリフォームと併せて行うバリアフリーリフォームについてポイント発行対象とし、住宅の省エネ化と併せて、住宅のバリアフリー化を促進している。


○高齢者向けの先導的な住まいづくり等への支援

高齢者等居住安定化推進事業により、高齢者向けの生活支援サービス付きの賃貸住宅を整備する事業や、高齢者等の居住の安定確保に資する先導的な事業の提案を公募し、先導性や普及性等に優れた提案に対して補助を行った。


○住宅と福祉の施策の連携強化

バリアフリー構造等を有し、介護・医療と連携して、高齢者を支援するサービスを提供する「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度の創設等を行うことを盛り込んだ「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律案」を平成23年2月に国会へ提出した。


○公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)に基づき、公共交通機関、建築物、道路等のバリアフリー化を実施している。


○住宅用火災警報器の普及促進等

高齢者の火災に対する安全性が効果的に確保されるよう、ユニバーサルデザインの観点を取り入れた消防用設備・機器等の開発・普及等を推進するため、「聴覚障がい者に対応した火災警報設備等に関する検討会」を開催し、音に加えて、光や振動等の多様な手段による火災警報を導入・普及するための方策等について検討、とりまとめを行った。


○東日本大震災への対応

厚生労働省では、被災した高齢者が適切な介護サービスを受けられるようにするため、都道府県・関係団体と一体となって、<1>被災地以外での施設での受入可能人数、被災地への介護職員等の派遣可能人数の情報収集、<2>被災地での施設受入及び介護職員等の派遣要請の集約、<3>両者のマッチングを進めた。
また、介護施設等において、<1>入所者の定員超過利用を認め、<2>その際の介護報酬の減額を行わないこと、<3>人員・設備・運営基準等について柔軟な取扱を可能とすることを周知し、近隣自治体への受入が円滑に進むよう関係自治体に要請した。
社会福祉施設の空きスペースなどを福祉避難所として提供するよう関係各団体に依頼をした。
さらに、介護保険の被保険者証を消失等により提示できない場合でも、氏名・住所・生年月日を申し出ることで被保険者証を提示したときと同様の介護サービスを受けることができるようにした。加えて、被災地域の住民で財産に著しい損害を受けた者等については、介護サービスの利用者負担や介護保険施設等の食費・居住費を減免することとし、介護保険料についても、市町村に対して減免及び徴収の猶予を働きかけた。これらの市町村が負担した減免分については、国による財政支援措置を行うこととしている。
年金に関しては、被災により、通帳、印鑑等を紛失した年金受給者であっても、本人確認のできるものを金融機関窓口へ持参すれば、年金の受給ができるようにするとともに、被災地の事業主への厚生年金保険料等の納付期限の延長を行った。
日本司法支援センター(法テラス)では、震災に起因する法的トラブルを抱え、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、生活再建に役立つ法制度等の情報提供を行ったほか、平成23年3月23日から、日本弁護士連合会、東京三弁護士会との共催で、弁護士による無料の「東日本大震災電話相談」を実施した。


(6)調査研究等の推進

○がん超早期診断・治療機器総合研究開発プロジェクト

小さながんを超早期に発見するため、信頼性の高い画像診断技術や、従来技術では困難であった超微小ながん等の治療のため、次世代放射線治療機器等の研究開発を行う「がん超早期診断・治療機器総合研究開発プロジェクト」を推進した。


2 高齢社会対策に対する評価について

60歳以上の高齢者を対象に実施した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(平成22(2010)年、内閣府)によると、「高齢者に対する政策や支援で大切だと思うもの」の回答は、「介護や福祉サービス」(60.9%)、「医療サービス」(59.5%)、「公的な年金制度」(57.6%)が拮抗している(図2-2-1)。本調査結果を前回調査(17(2005)年)と比較すると、「介護や福祉サービス」、「高齢者向けの住宅」、「高齢者に配慮した街づくり(交通機関、道路等の整備)」、「医療サービス」等が増加しており、介護・福祉、医療、年金以外にも、高齢者の日常生活を支援する住宅や街づくりに関する施策が高齢者から求められていることがわかる。

図2-2-1 大切だと思う、高齢者に対する政策や支援(複数回答)

また、対象を高齢者に限定しない「国民選好度調査」(平成21(2009)年、内閣府)によると、最も重要であると考える「政府が目指すべき主な目標」は、「公平で安心できる年金制度の構築」(69.2%)、「安心して子供を産み育てることのできる社会の実現」(64.9%)、「雇用や居住の安定を確保」(48.1%)、「質の高い医療サービスの提供」(41.9%)となっているが、その満足度は「公平で安心できる年金制度の構築」が最も低い(図2-2-2)。

図2-2-2 政府への期待と満足度(複数回答)
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