第1章 高齢化の状況(第3節3(3))

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第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」~社会的孤立を超えて地域の支え手に~

3 高齢者の社会的孤立を防止し、高齢者自身を「地域」の支え手に

(3)高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を促進する取組

高齢者の社会的孤立を防ぐために高齢者を見守り、「居場所」をつくる取組の事例を紹介してきたが、一口に高齢者といっても、「お年寄り」と呼ぶにはあまりにも若い、元気な高齢者はたくさんおり、本章第2節5(1)で見たように、60歳以上の人はグループ活動(地域活動)やNPO活動への関心が高い(グループ活動に参加したい人は70.3%、NPO活動に関心のある人は56.1%)(図1-2-5-3図1-2-5-4)。また、何らかのグループ活動に参加している人の方が、参加していない人より生きがいを感じることができる(図1-2-5-2)。
今後一層の高齢化が見込まれる中で、元気な高齢者には、地域において支えられる側ではなく支える側として活躍してもらうことが期待されるところであり、そうした高齢者の「出番」の広がりは社会的孤立の防止にもつながる。高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を支援する地方自治体や市民団体等は各地で見られており、ここではそうした取組を紹介する。

事例<1>:介護支援ボランティア制度

高齢者が介護支援のボランティアに参加することを促進するため、活動時間に応じて換金可能なポイントを付与する「介護支援ボランティア制度」を導入する地方自治体が増えている。この介護支援ボランティア制度は、稲城市(東京都)の政策提言により、平成19(2007)年から介護保険法の地域支援事業交付金を財源として行われており、同様の制度は、全国40以上の地方自治体に広がっている。いずれも「元気な高齢者」が「助けを必要とする高齢者」を支える、高齢者同士の支えあいの仕組みである。


横浜市では、介護保険料の改定が行われた21(2009)年10月に介護支援ボランティア制度「ヨコハマいきいきポイント」をスタートさせ、今では登録者が4,000人にのぼっている。制度の目的は、本人の健康増進や介護予防のほか、社会参加、地域貢献を通じた生きがいづくりの促進である。
ボランティア活動を始めるには、まず研修会に参加した後、ボランティア登録を行い、ICカード(よこはまポケット)を受け取る。次に、現時点で250の受入施設から自分の希望にあった施設に申し込みを行い、ボランティア活動後、受入施設からICカードに200ポイントが付与されるという仕組みである。ボランティア活動の内容は施設ごとにさまざまで、入居者の話し相手、昼食の配膳、散歩の補助やレクリエーションの補助などがある。また、22(2010)年10月からは、高齢者を対象とした配食サービスや会食を行っている市民団体での活動も、ポイント加算の対象になった。ポイントは年間8,000ポイントが上限で、1ポイント1円換算で換金もしくは介護施設等へ寄付できる。また、上限までポイントがたまった人には、本制度の協賛企業が提供するスポーツ観戦チケットや商品ももらえる

介護支援ボランティア制度の写真1

横浜市のアンケート調査によると、実際に活動している人は登録者のうち約7割で、活動頻度は「週1回程度」の人が最も多い。感想を見ると、「お金をもらうことに抵抗を感じる」という意見もあるが、「今まで以上に張り合いが出た」「友人をボランティアに誘いやすくなった」「自分の存在が生かされて満足」といった肯定的な意見が多く寄せられている。

介護支援ボランティア制度の写真2

事例<2>:援農ボランティア

特定非営利活動法人「たがやす」(東京都町田市)は、高齢化により担い手不足が深刻化している農家に、草取りや種まき、収穫などの農作業を手伝う「援農ボランティア」を派遣している。現在、ボランティアを受け入れている農家は22件で、登録しているボランティア会員は約100人である。ボランティアの約7割が60歳以上で、男性が7割を占める。「たがやす」がこの活動を始めた背景には、農地が担い手不足で未利用になり、都市部における貴重な緑が失われることへの危機感のほかに、近所でもない職場でもない「地域のコミュニティ」を生み、退職者に活躍の場を提供したいという想いがあったという。
援農ボランティアは多くの地方自治体でも行われているが、「たがやす」の特徴は、週末も含めて随時、農家とボランティア双方から感想や苦情を聞いて派遣先を調整したり、芋煮会や収穫祭などのイベントを開き会員同士の交流を促すといった、きめ細かな配慮を行っている点や、ボランティアに対して、収穫した新鮮な野菜および若干の謝礼金を支払っている点である。有償のボランティアとなっていることで、「体験」や「研修」とは違い、農家から要求されるレベルが高くなることもあるが、ボランティアを継続する1つのインセンティブになっている。

援農ボランティアの写真

「たがやす」は、町田市から研修農園の運営を受託したり、東京都や町田市から助成金を受け、地方自治体との協力関係を築いている。財政状況は厳しく安定的な運営が課題となっているが、地域の住民と農家をつなぐ貴重な橋渡し役となっている。

事例<3>:子育て支援ボランティア

「岩沼市生活学校」(宮城県岩沼市)は、昭和43(1968)年に活動を開始した、女性を中心とした高齢者の集まりで、現在15人で活動している。平成18(2006)年度に始まった市の放課後対策事業「のびやか教室」に、常時10人ぐらいがボランティアとして参加している。
「のびやか教室」は市内の小学校で、6月~2月に月3回、午後2時~4時半まで開いている。「岩沼市生活学校」のメンバーが参加している「北部のびやか教室」では、44人の児童が在籍(22(2010)年度)しており、下校の早い低学年の児童には、教室に来ると宿題をさせ学習アドバイスを行い、高学年の児童が訪れる15時からは食育、紙芝居、昔遊びなどのほか、12月には「クリスマスリース」づくり、お正月前には「しめ縄」づくりなどの季節行事を行っている。近所の人たちも、子どもたちのためにと毎年参加して協力している。生活学校のメンバーは、夏休みには子育て支援の安全研修にも参加し、子どもたちの安全や救命方法を学び、活動に活かしている。

子育て支援ボランティアの写真

のびやか教室には、個人でボランティアに参加している人もおり、高齢者が自らの経験に基づき、得意なことを活かしながら子育て支援に貢献している。

事例<4>:コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)

公立学校を地域で支え、地域ぐるみで子どもを育てることを目的に、文部科学省により平成16(2004)年に「コミュニティ・スクール」(学校運営協議会制度)が制度化された。この制度の指定を受けている三鷹市立第四小学校では、制度ができる4年前から、家庭・地域・学校が連携して教育支援の取組を行っている。具体的には、総合的な学習の時間に指導者として授業に参加する「コミュニティ・ティーチャー」、授業や学校行事の指導補助として活動する「スタディ・アドバイザー」、竹工作クラブ、囲碁クラブ、サイエンスクラブといった課外のクラブ活動の指導にあたる「きらめきボランティア」という3種類のボランティアが教育支援にあたっており、この中で40人ほどの高齢者が活躍している。

コミュニティ・スクールの写真

なお、三鷹市立第四小学校では、教育支援ボランティアの自立組織特定非営利活動法人「夢育支援ネットワーク」が、学校内に活動の拠点を置き、ボランティアの発掘・登録、指導プログラムの提案などを行っており、ボランティアをしたい人と学校をつなぐコーディネート役として重要な役割を果たしている。
小・中一貫教育の実践でも知られる三鷹市は、市内の公立校全校で地域による学校支援を積極的に進めており、子どもの人間力、社会力を育むために、さまざまな場面で高齢者が活躍している。

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