第1章 高齢化の状況(第3節3(4))

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第3節 地域における高齢者の「出番」と「活躍」~社会的孤立を超えて地域の支え手に~

3 高齢者の社会的孤立を防止し、高齢者自身を「地域」の支え手に

(4)今後の取組の方向性

以上のような、高齢者の「見守り」や「居場所づくり」の取組、社会的な活動(ボランティア活動)を促進する取組は、高齢者の社会的孤立を防止するだけではなく、高齢者の「出番」をつくり、高齢者自身が地域社会の支え手として活躍することを目指した取組である。この取組を進める上での今後の方向性を考える。

ア 取組主体の多様化

高齢者の「居場所づくり」の取組は、これまで自治会や老人クラブなど、基本的に住む場所によって参加する場が決まる、いわば「地縁」による取組が主体であったが、本節で事例として紹介した「地域の茶の間」や「もうひとつの家」などのように、住む地域にかかわらず参加できる居場所が増えてきている。また、高齢者の「見守り」に関しても、地方自治体が、民生委員だけでなく、他の地域住民や学校、企業、NPO等とも協力して取り組む事例が増えている。
このように、地域の中で孤立した人を、地域と結びつけるためには、高齢者の多様な状況やニーズに応えられるよう受け皿を広く用意することが重要である。このため、「見守り」や「居場所づくり」、また社会的な活動の促進にあたっては、行政が主導する取組だけではなく、地域住民や市民団体、地元企業、NPO等との協力関係を築くことや、市民団体等の主体的な活動を支援していくことが必要であろう。


イ 多世代交流の促進

本節で紹介した「居場所づくり」の事例は、高齢者に限らず、そこに集う人々がお互いに助け合い、支え合うことを目指したものである。また、「コミュニティ・スクール」は、公立学校を地域全体で支える仕組みに変える試みだが、年齢にかかわらず参加できるようにした結果、多世代が集まる場になっている。高齢者の意向をみても、本章第2節5「高齢者の社会参加」の図1-2-5-11「若い世代との交流の機会の参加意向」で紹介しているように、若い世代との交流を望む高齢者は増加している。
また、本白書に掲載しているコラム「ドイツにおける高齢者の社会参加促進の取組」で紹介しているように、ドイツでは多世代交流を重視しているが、その理由の1つは高齢者のポテンシャルを有効に生かすことであり、もう1つは、今の若者が高齢になったときには、さらに高齢化が進んだ社会になっていることが確実であり、今からどのような社会を築いていくべきかを考えてもらうためである。
高齢者と若者との交流・支え合いは、若者が我が国の数十年後の社会のあり方、地域のあり方を考えるきっかけづくりとなるものであり、また、高齢者と若い世代との連帯を深め、希薄化している地域の絆をすべての世代で再生するという観点からも積極的に進めることが望ましい。


ウ 「有償」の仕組みを含めたきっかけづくり

事例で紹介した「介護支援ボランティア制度」のように、ボランティアをしたらポイントをもらえたり、「援農ボランティア」のように、収穫した新鮮な野菜がもらえるといった「有償」の仕組みがあると、ボランティアを始めるきっかけづくりになるだけでなく、支援が必要な人にとっても、かえってその方が助けを求めやすくなるという効果があると考えられる。実際、ボランティア活動に当たっては、交通費などの実費がかかることも多い。
また、「時間通貨」は、感謝の気持ちをカードに託して渡すものであり、まるで通貨のようにカードを受け渡しすることによって、頼む側は困った時に気兼ねなく頼むことができ、助ける側にも張り合いが生まれ、そういう意味で、ボランティアを促進する効果があると考えられる。
今後、高齢者の社会的な活動(ボランティア活動)を一層促進していくためには、さまざまなきっかけづくりが必要であり、その一つの形態として、有償ボランティアや、それに類した仕組みを導入することも有効であると考えられる。


エ 男性による活動の促進

本節1「社会的孤立の実態」で見たように、高齢者の中でも、特に「一人暮らしの男性」が地域から孤立しやすい傾向にあるといえるが、社会的な活動(ボランティア活動)は目的や活動内容が明確であり、人づきあいが得意でない人でも気軽に参加できると考えられる。このため、近所づきあいのない男性にとっても参加しやすいものと思われる。
また、60歳以上の人への調査によると、地域活動・ボランティア活動に「積極的に参加したい」又は「できるだけ参加したい」人の割合は、女性の23.9%に対して、男性は34.6%であり、実は男性の方が活動への参加意欲が高いことがわかる(図1-3-3-4)。

このため、参加意欲の高い人を実際の活動に結び付ける視点が重要である。その際には、本節2(図1-3-2-4)で見たように、日本の高齢者は、諸外国と比較して異性の友人を持たない傾向があることから、働きかけを行う際には、まずは男性が多く参加したいと思っている地域活動・ボランティア活動(図1-3-3-5)への参加について働きかけを行うことも有効であろう。

また、男性の場合、高齢期にいたる前は女性と比較して仕事中心の人が多いが、仕事を引退していきなり地域での活動に参加することは難しいと考えられることから、高齢期の世代だけではなく、それより若い世代に対しても併せて地域活動への参加を促すような取組が望ましいと言えるだろう。


(最後に)

高齢化が進む日本社会において、高齢者の孤立化を防止して安心・安全を確保するだけでなく、高齢者自身に地域の支え手として、「地域の絆」を再生してもらうことが大きく期待されている。ただし、「地域の絆」の再生は高齢者だけで行えるものではなく、世代を超えて国民全体で行っていく必要があることから、高齢になっても元気な間は地域における社会的な活動(ボランティア活動)に参加でき、働き盛りの世代でも仕事と社会的な活動(ボランティア活動)を両立することができるような社会の実現を目指すことが重要である。日本は平成67(2055)年に総人口が9000万人を切り、5人に2人が65歳以上になると予測されている。老若男女を問わず元気な人が活躍し、支え合う社会を築いていく必要がある。

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