第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節4(3))

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第3節 分野別の施策の実施の状況

4 生活環境

(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護

ア 交通安全の確保

交通事故死者数のうち、高齢者の占める割合は半数以上となっており、今後、高齢化が更に進むことを踏まえると、高齢者の交通安全対策は重点的に取り組むべき課題である。
高齢者にとって、安全で安心な交通社会の形成を図るため、「第8次交通安全基本計画」(平成18年3月中央交通安全対策会議決定。計画期間:18~22年度)、「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」(平成15年3月交通対策本部決定)に基づき、<1>人優先の安全・安心な歩行空間の整備、<2>参加・体験・実践型の交通安全教育(世代間交流事業)、<3>シルバーリーダー(高齢者交通安全指導員)を対象とした交通安全教育、<4>高齢運転者対策等の交通安全対策を実施した。
なお、高齢者の交通安全対策として、地域交通安全活動推進委員の活動に「高齢者、障害者その他その通行に支障のある者の通行の安全を確保するための方法について住民の理解を深めるための運動の推進」を追加する「道路交通法の一部を改正する法律」(平成21年法律第21号)が施行されたことに伴い、同委員により警察と連携した高齢者の安全確保のための活動が積極的に実施された。
また、高齢運転者標識の様式について、外部有識者で構成される委員会の結論等を踏まえ、新しいデザインに変更した。

イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護

高齢者が犯罪や事故に遭わないよう、交番、駐在所の警察官を中心に、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、困りごとや要望、意見等を把握するとともに、必要に応じて関係機関や親族への連絡を行うほか、認知症等によってはいかいする高齢者を発見、保護する体制づくりを関係機関等と協力して推進した。
また、高齢者の被害が多いオレオレ詐欺を始めとする振り込め詐欺については、振り込め詐欺グループの検挙はもとより、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)等のあらゆる法令を活用するなどして、その取締活動を強化するとともに、高齢者等の被害者層に焦点を絞った広報啓発活動や、金融機関等と連携したATM設置場所における声掛け、「振り込め詐欺の撲滅に向けた全国官民連絡会議」における申合せに基づく官民一体となった取組等の予防活動を推進した。
さらに、高齢者をねらう悪質商法等の取締りの推進とともに、口座凍結等の被害拡大防止対策、悪質商法等からの被害防止に関する広報・啓発及び悪質商法等に関する相談活動を行った。「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者の支援に関する法律」に基づき、養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、平成21年度に引き続き必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態、その対応状況の把握に努めるとともに、その防止等の取組が推進されるよう必要な支援を行っていく。 なお、支援を必要とする高齢者の実態把握や虐待への対応など、高齢者の権利擁護や総合相談窓口の業務を円滑に行うことができるよう、各市町村に設置された「地域包括支援センター」の職員に対する研修については、引き続き実施することとしている。
法務局・地方法務局の常設相談所等において、高齢者の人権相談に応じるとともに、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を開始し、その結果、人権侵害の事実が認められた場合には、その排除や再発防止のための事案に応じた適切な措置を講じるなどして、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努める。平成22年度においても、引き続き高齢者施設等の社会福祉施設において入所者等及び家族が気軽に相談できるよう、特設相談所を開設したほか、全国一斉の「高齢者・障害者の人権あんしん相談」強化週間を設け、相談窓口の開設時間を延長するとともに、休日も相談に応じるなど、人権相談体制の強化を図った。

ウ 買物弱者支援の実施

平成22年5月、経済産業省でまとめられた「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」報告書において、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている高齢者の数を約600万人程度と推計し、その者に対する支援のあり方などが提言された。これを受けて経済産業省において、買物支援等の先進事例等を整理したマニュアルを作成・公表するとともに、「買物弱者対策支援事業」(平成22年度補正予算事業)を創設し、民間事業者等の新たな買物機能を提供する取組に対して助成を行った。

エ 高齢者所在不明問題への対応

平成22年7月29日、東京都足立区で111歳男性が白骨化した状態で発見されたことを契機として、以降、死亡・所在不明の高齢者が各地域において続々と確認された。
これを受けて同年8月、厚生労働大臣の下に「高齢者所在不明・孤立化防止対策チーム」を設置するとともに、高齢者所在不明問題5大臣会合(官房長官、総務大臣、法務大臣、厚生労働大臣及び国家公安委員会委員長)を開催し、<1>各自治体に対して地域福祉計画の策定の重要性を周知し、当該計画の策定と当該計画内容についての点検・見直しを依頼する、<2>各都道府県に対して、住民基本台帳の正確性を確保するため住民基本台帳担当部局と福祉関係部局等関係部局との連携強化を依頼する、<3>市町村等から所在不明高齢者等の情報提供を受けて、本人の健在が確認できない場合に年金支給を一時差し止める、などの対応をとった。

オ 防災施策の推進

病院、老人ホーム等の災害時要援護者関連施設を守る土砂災害防止施設の整備、激甚な水害、土砂災害を受けた場合の再度災害防止等を引き続き図る。さらに、災害時における高齢者等災害時要援護者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「水防法」(昭和24年法律第193号)及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号)に基づき、浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内の高齢者等災害時要援護者が利用する施設への洪水予報等又は土砂災害警戒情報等の伝達方法を定めることを進めている。また、土砂災害防止基本指針に基づき災害時要援護者の避難支援体制の強化を図るとともに、「土砂災害警戒避難ガイドライン(平成19年4月)(国土交通省砂防部)」により市町村の警戒避難体制の整備が円滑に行えるように引き続き支援を行っている。
高齢者を中心に増加する住宅火災による死者数の大幅な低減を図るため、春・秋の全国火災予防運動を通じて「高齢者等の災害時要援護者の把握とその安全対策に重点を置いた死者発生防止対策の推進」等を重点項目として、地域が一体となって、住宅用火災警報器等の早期設置や防炎品の普及促進を含めた総合的な住宅防火対策を推進した。
また、平成21年度補正予算により、就寝を伴う小規模な社会福祉施設等で自動火災報知設備の設置が義務づけられていないものに対し、連動型住宅用火災警報器を国が一括で調達のうえ各地方公共団体に配備し、防火安全教育・指導の一環として設置を推進した。
さらに、高齢者の火災に対する安全性が効果的に確保されるよう、ユニバーサルデザインの観点を取り入れた消防用設備・機器等の開発・普及等を推進するため、「聴覚障がい者に対応した火災警報設備等に関する検討会」を開催し、音に加えて、光や振動等の多様な手段による火災警報を導入・普及するための方策等について検討、とりまとめを行った。
災害時要援護者の避難対策の先進的な取組を取りまとめた事例集を作成し、各種の会議等において紹介するなどして、市町村における災害時要援護者の避難支援対策の取組を促進した。また、平成22年4月21日の中央防災会議において、「災害時の避難に関する専門調査会」の設置し、高齢者をはじめとする災害時要援護者に対する情報提供のあり方等について検討することを決定した。
そのほか、山地災害からの生命の安全を確保するため、病院、社会福祉施設等の災害時要援護者関連施設が隣接している山地災害危険地区等について、治山施設の設置や荒廃した森林の整備等を計画的に実施した。

カ 東日本大震災への対応

第1章第2節6でみたように、東日本大震災では、地震による死亡者のうち60歳以上の者が6割を超えるなど、多くの高齢者がその被害を受けている。
今回の震災に対応して、厚生労働省では、被災した高齢者が適切な介護サービスを受けられるようにするため、都道府県・関係団体と一体となって、<1>被災地以外での施設での受入可能人数、被災地への介護職員等の派遣可能人数の情報収集、<2>被災地での施設受入及び介護職員等の派遣要請の集約、<3>両者のマッチングを進めた。
また、介護施設等において、<1>入所者の定員超過利用を認め、<2>その際の介護報酬の減額を行わないこと、<3>人員・設備・運営基準等について柔軟な取扱を可能とすることを周知し、近隣自治体への受入が円滑に進むよう関係自治体に要請した。
社会福祉施設の空きスペースなどを福祉避難所として提供するよう関係各団体に依頼をした。
さらに、介護保険の被保険者証を消失あるいは家屋に残したまま避難していることにより提示できない場合でも、氏名・住所・生年月日を申し出ることで被保険者証を提示したときと同様の介護サービスを受けることができるようにした。加えて、被災地域の住民で財産に著しい損害を受けた者等については、介護サービスの利用者負担や介護保険施設等の食費・居住費を減免することとし、介護保険料についても、市町村に対して減免及び徴収の猶予を働きかけた。これらの市町村が負担した減免分については、国による財政支援措置を行うこととしている。
年金に関しては、被災により、通帳、印鑑、キャッシュカード等を紛失した年金受給者であっても、運転免許証等本人確認のできるものを金融機関窓口へ持参すれば、年金の受給ができるようにするとともに、被災地の事業主への厚生年金保険料等の納付期限の延長を行った。
震災により多くの被災者が法的トラブルを抱えることが予想されるところ、特に高齢の被災者は、相続問題や震災に便乗した詐欺等の法的トラブルを抱えるおそれが高く、日本司法支援センター(法テラス)では、そのような高齢者を始めとして、震災に起因する法的トラブルを抱え、経済的・精神的に不安定な状況に陥っている被災者を支援するため、生活再建に役立つ法制度等の情報提供を行ったほか、平成23年3月23日から、日本弁護士連合会、東京三弁護士会との共催で、弁護士による無料の「東日本大震災電話相談」を実施した。

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