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第2章 第3節 5 調査研究等の推進

第3節 分野別の施策の実施の状況

5 調査研究等の推進

「調査研究等の推進」については、高齢社会対策大綱において、次のような方針を示している。

科学技術の研究開発とその活用は、高齢化に伴う課題の解決に大きく寄与するものであることから、高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究、高齢者の利用に配慮した福祉用具、生活用品、情報通信機器等の研究開発など各種の調査研究等を推進するとともに、そのために必要な基盤の整備を図る。

(1)各種の調査研究等の推進

ア 高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等

高齢者の介護予防や健康保持等に向けた取組を一層推進するため、要介護状態になる原因として重要な認知症、運動器疾患等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を行った。

小さながんを超早期に発見するため、信頼性の高い画像診断技術や、従来技術では困難であった超微小ながん等の治療のため、次世代放射線治療機器等の研究開発を行う「がん超早期診断・治療機器総合研究開発プロジェクト」や、生体内において幹細胞の増殖・分化・再生を促進する次世代再生医療技術や、小柄な体格にも適用可能な小型の埋込み型補助人工心臓の研究開発を行う「次世代機能代替技術研究開発事業」を推進している。また、中小企業のものづくり技術を活かして、医療現場の課題・ニーズに応える医療機器の開発・改良を推進するため、①医療現場からのニーズが高く、課題解決に資する研究課題の選定、②地域の特色あるものづくり技術(切削、精密加工、コーティング等)を有する中小企業等と、それらの課題を有する医療機関や研究機関等とが連携した「医工連携」による医療機器の開発・改良、③臨床評価、実用化までの一貫した取組を実施している。

また、悪性新生物(がん)・生活習慣病等に関する有望な基礎研究の成果を実用化するための支援拠点の整備や、これらの疾患の早期診断・治療薬開発に資する分子イメージング技術の実証に向けた研究等を行った。さらに、こうした成果も活用しつつ、個人に最適な医療の実現に向けた取組を引き続き推進した。

さらに、平成23年度から、次世代のがん医療の実現に向けて、革新的な基礎研究成果を戦略的に育成し、臨床応用を目指した研究を加速する「次世代がん研究戦略推進プロジェクト」を推進している。

これに加え、アルツハイマー型認知症に関し、脳の画像解析等を進め、その発症前診断および発症後の進行度評価を簡便に行うことのできる評価指標を開発し、日本人アルツハイマー病の総合診断体系の構築を進めた。

イ 福祉用具等の研究開発

福祉用具及び医療機器については、福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、短期間で開発可能な福祉用具・医療機器の民間による開発の支援等を行った。

高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。

福祉機器に関しては、使用者ニーズに対応する新しい技術の可能性(シーズ)に関する調査を行った。「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年法律第38号)に基づく「福祉用具の研究開発及び普及を促進するための措置に関する基本的な方針」(平成5年厚生省、通商産業省告示第4号)に沿って、福祉用具の実用化開発を行う事業者に対する助成や研究開発を行うために必要な情報の収集・分析及び提供を実施している。

介護者支援等で役立つロボットについては、人との接触度が高く、より一層の安全性が求められるため、関係者と連携しながら対人安全技術等の開発や安全検証手法の確立を進め、また、国際標準化に向けた取組を実施した(表2-3-22)。

表2-3-22 主な研究開発助成福祉用具の事例

○就労支援分野(就労、職業訓練など)

・上肢筋力が弱い人のための全方向駆動型モバイルアームサポート
オフィスチェアや電動車いすに取り付け、上肢の上下、前後左右方向の動きを支援するアームサポート。

・高齢者の振え(本態性振戦)を抑えるセミオーダー手首装具
個人の手の形状にフィットし、スパイラルデザインで、手首の動きを安定させる装具。

○自立支援分野(排泄、入浴、就寝・起床、移乗、移動など)

・あらゆる歩行場面に対応できる革新的携帯用白杖
軽量、柔軟性、耐衝撃・補修性、情報伝達性に優れ、長寿命石突きをつけた携帯用白杖。

・頸髄損傷者用の心身共に負担の少ない入力装置が付いた車イス
入力装置は後頭部の可動方向を考慮したパラレルリンク機構で電動車イスの走行と座席操作ができる。

・高齢者や肢体不自由者用の無線型環境制御装置
無線リモコンや携帯型PCの制御装置でカーテン開閉、家電操作などができる。

・車椅子利用者用のバス乗車用スロープ
軽量かつ操作性にすぐれたFRP製のバス専用スロープ。

・エネルギー制御技術を利用した点字読取装置及び点字/文字プリンタ
サーマルヘッドによる点字読取、音声出力、点字/文字がプリントできる装置。

・車イス乗車用電動三輪車
車イスに乗ったまま、簡単なレバー操作で乗り降りでき、ステアリング・ブレーキ・スイッチ、走行中の風雨や飛来物から運転者を保護するルーフなどを装備した、スクーター感覚で運転できる電動三輪車。

○介護支援分野(排泄、入浴、予防、移動、監視など)

・介護用口腔水分計
2~3秒で口腔内の湿潤度を測定し、口の渇きをデジタル表示できる。

・介護する女性・高齢者にやさしい車イス用ブレーキ
指の力を使わず、腕の力で車イスのブレーキがかけられ、上り坂、小回り、段差も楽にこなせる。

・ALS患者のためのIT文字盤及び意志伝達装置
CCDカメラ+処理回路一体型タブレットPCのIT文字盤と連動する多機能意志伝達ソフトによる患者と介護者のコミュニケーション機器。

・介護作業軽労化スーツ
中腰姿勢などが多い介護現場で、介護労働に適した筋力補助を行うことができる着用感もよい作業スーツ。

・簡単な動作で乗り降りできる車イス型移乗器
利用者の体格や症状等に合わせ、各部の高さ・位置が調整ができ、多種のベッドやトイレ等より広い環境へも適用できる、ワンタッチ操作の移乗機器。

○生体機能代行(補助)分野(人工臓器、義手・義足など)

・視覚障害介護対象者の社会生活向上のためのスクラレルレンズ
スチーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡などの眼疾患者用視覚補助具としての特殊ハードレンズ。

・小型酸素発生装置
呼吸弱者に室内外場所を問わずいつでも酸素を補給できる軽量小型の酸素発生器。

○その他

・視覚障害者のための電子楽譜の入力・作成・編集・出力ができるソフトウェア
電子楽譜の入力・作成・編集・出力ができるソフトウェアおよび画面の読み上げ、ピンディスプレイ表示、楽譜の演奏もできる。

・安全・軽量かつ持つ喜びがあるシルバーカー
モノコックボディで剛性確保、軽量化、デザインの良さを実現。ハンドルの無段階調整、段差乗り越えが容易、急こう配での制動が可能。

・ロコトレ座イス
高齢者や障害者が容易に足腰のトレーニングが行え、ロコモティブシンドロームによる要介護者発生のリスク軽減が期待できる。

・ベッド部材等の高性能リフレッシュ装置
ベッドのマットレスの芯まで強力洗浄、すすぎ、乾燥ができ、マットレスの再生機能を付加したリフレッシュ装置。

資料:NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)作成

独立行政法人理化学研究所と東海ゴム工業株式会社により設立された理研-東海ゴム人間共存ロボット連携センターでは、人をベッドや車椅子から抱き上げ、移動し、抱き下ろすという一連の作業を行うことができ、病院や介護福祉の現場で活躍できる生活支援型ロボット「RIBA(リーバ)」の研究開発を推進し、実用的にした新たなロボットの開発を進めた。RIBAの後継機として開発したRIBA-IIは体重が80kgまでの人の床からの抱き上げと移乗支援が可能である。

ウ 情報通信の活用等に関する研究開発

高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、高齢者等向けの通信・放送サービスに関する技術の研究開発を行う者に対する助成等を行っている。

また、高齢者の生活支援・社会参加拡大などに寄与するため、ヘルスケアや生活支援などの分野での活用を目指し、ネットワークを通じた情報収集や情況分析を行うことにより、きめ細やかな動作を実現するネットワークロボット技術の研究開発を実施するとともに、脳の仕組みを活かし、日常生活における行動・コミュニケーション支援において必要となる簡単な動作や方向、感情などを「強く念じる」ことで移動支援機器やコミュニケーション支援機器などに伝えることを日常的に可能とする技術の研究開発を推進した。

また、最先端の情報通信技術等を用いて、運転者に対し、周辺の交通状況等をカーナビゲーション装置を通じ視覚・聴覚情報により提供することで危険要因に対する注意を促す安全運転支援システム(DSSS)やITSスポット等、高齢者等の安全快適な移動に資するITS(高度道路交通システム)の研究開発及びサービス展開を実施した。

また、最先端の情報通信技術(IT)を活用して、高齢者等の歩行安全を確保するため、携帯端末を用いた情報提供、移動支援に関する研究開発等を実施している。

エ 高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究
(ア)高齢者の居場所と出番に関する事例調査

地方公共団体等へのアンケート調査を通じて、高齢者の居場所と出番に関する取組事例を把握し、事例集としてまとめ、その結果を地方公共団体等へフィードバックすることで、地域における取組の促進を図ることを目的として、高齢者の居場所と出番に関する事例調査を実施した。

(イ)高齢者の経済生活に関する意識調査

高齢社会対策総合調査として高齢社会対策の施策分野別にテーマを設定して高齢者の意識やその変化を把握している。平成23年度は、主として就業・所得分野に関連して、高齢者の収入・支出、就労、資産等、高齢期において安定した生活を送るために重要と思われる諸項目を調査する「高齢者の経済生活に関する意識調査」を実施した。

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