第1章 高齢化の状況(第3節 コラム4)

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第3節 国際比較調査に見る日本の高齢者の意識(コラム4)

コラム4 100歳まで働ける職場で多世代がつながる

平成26年現在、65歳時の平均余命が男性19.08年、女性23.97年1と延伸している。この延び続ける高齢期をいかに個人が有効に使うか、社会が高齢者に期待する役割は大きい。それは、労働力人口が減少する中、高齢者が意欲と能力を生かして活躍することを、社会が望んでいるからだ。高齢者が多様な選択肢の中からその能力を発揮できる仕組みづくりが、急速に高齢化が進展する我が国において、重要な課題となっている。

さいたま市に「100歳まで働けるものづくりの職場」を目指した「BABAラボ」という工房がある。定年後、地域に戻り、「何か役に立てることをしたい」「もう一度働きたい」と思っていても、自分の得意なことや、これまでの経験を生かして働ける職場となると、なかなか見つからない。年をとってから満員電車で通うのは大変なので、できれば歩いて行ける距離で、お小遣い程度でも稼げる所があれば、という思いから作られたのがこの工房である。ここでは、生まれた孫を抱っこするために、腕の力や腰が弱くなった高齢者でも使えるような抱っこ補助グッズなどの「孫育てグッズ」を作っている。内閣府実施の調査2によると、「理想の家族の住まい方」として、20~49歳の有配偶者では、共働き・片働きともに「親との近居」とする割合が高い。BABAラボでは、このような潜在的ニーズを背景とし、おじいちゃん・おばあちゃんが孫の面倒をみるときに使いやすい、使ってみたいと思わせるグッズを、地域の高齢者たちの経験と知恵を生かして開発している。また、企業や大学とのコラボレーションにより製品開発に取り組むこともある。高齢者だからこそ感じる問題点や解決の糸口が、よりよい商品づくりに生かされている。

100歳まで働けるものづくりの職場の写真1

ところで、「BABAラボ」とは言うが、「BABA」ばかりがいるわけではない。むしろ、30~40代の子育て中のメンバーが多い。現在、約50名が登録し、実際の作業に応じて賃金を支払う仕組みとなっているが、作業は細分化し、より多くの人が作業できるように工夫している。おかげで勤務管理は煩雑となるが、一人一人の能力を生かすことを大切にしている。作業は、工房でも、自宅に持ち帰ってでも構わない。工房に子供や孫を連れてきても問題ない。手作業が苦手でも、メンバーの賄いの食事を作るボランティアとして参加することも可能だ。作業を細分化し、あえて「非効率」にすることで、いろいろな年代の方が参加できるようにしているのが魅力でもある。

100歳まで働けるものづくりの職場の写真2

子育て中の女性にとって、柔軟な働き方ができることも魅力ではあるが、目的は他にもある。両親が遠くに住んでいる、核家族の若い夫婦は、自分の子供に「おばあちゃん」の温かさを経験させてあげたい、また、年を重ねても生き生きとしている姿を、これから年を重ねていく自分の希望にしたい、という思いから集まっているのだ。今は会社勤めの現役世代の人が、退職後を見越して「地域への就職活動」として休日に参加することもある。子育て中のお母さん、子供、高齢者、自然と多世代の交流が生まれる。若い母親たちは、自分の親よりも年が上のおばあちゃんに愚痴を聞いてもらったり、助言をしてもらったり、子供たちは叱られることも、褒められることもある。おばあちゃんがしばらく顔を見せないと、心配で電話をかけたり、訪ねていったりすることもある。工房が住んでいる地域にあるからこそ、工房の外でもつながりが生きている。

100歳まで働けるものづくりの職場の写真3
100歳まで働けるものづくりの職場の写真4

高齢化が急速に進展し、今後も、労働力人口の減少が見込まれる我が国では、高齢者が意欲と能力を生かして、社会の担い手、支え手として活躍することが期待されている。一方で、健康寿命が延伸しているとはいえ、高齢者が現役時代と同じように働くことは難しい。高齢者の就労には、加齢に伴う心身の変化への対応を含めた仕組みを考えることが不可欠である。

また、高齢者の姿は、若い世代にとっては将来の自分である。年を重ねることで生じる心身の変化を目にすることで、自分の高齢期について考え、生き生きと働く高齢者の姿を見ることで希望を持つこともできる。内閣府実施の調査3では、「就労希望年齢」について、60歳以上の約3割が「働けるうちはいつまでも」としている。加齢に伴う変化を認識したうえで、自分自身が高齢期に至ったときに、どこでどういう働き方をしたいのか、将来に向けた心構えや準備を人生の早い段階から考えておく上で、若い世代にとっても重要な場ともなっている。

BABAラボは、今後は仕組みを移転し、新たな拠点づくり・事業展開を視野に入れている。地域には、それぞれ特性があり、そこに住む人の強みも違う。BABAラボと同じことをするのではなく、その仕組みは生かしながらも、その地域に合った「ラボ」ができる。そして、このラボがつながっていけば、人やアイデアをつなぐ新しいネットワークとなり、それは社会を支える大きな力となる可能性を秘めている。


1 平成26年簡易生命表
2 「家族と地域における子育てに関する意識調査」(平成25年度)
3 「高齢者の日常生活に関する意識調査」(平成26年度)
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