第2章 高齢社会対策の実施の状況(第2節 4)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(4)

4 生活環境

○高齢者の居住の安定確保

平成23年10月の「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律」(平成23年法律第32号)の施行により創設された「サービス付き高齢者向け住宅」の供給促進のため、整備費に対する補助、税制の特例措置、住宅金融支援機構の融資による支援を行った。

さらに、高齢者世帯などの住宅確保要配慮者の増加に対応するため、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度を平成29年度に創設し、住宅の改修や入居者負担の軽減等への支援を行った。

住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施している。また、証券化支援事業の枠組みを活用したフラット35Sにより、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行っている。さらに、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関が提供する住宅の建設、購入改良等の資金に係るリバースモーゲージの推進を支援している。

○共生社会の実現に向けた「ユニバーサルデザイン2020行動計画」に基づく取組の推進

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、共生社会の実現に向けたユニバーサルデザインの街づくり、心のバリアフリーを推進し、大会以降のレガシーとして残していく施策を実行するため、平成29年2月、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣を議長とする「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」にて、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を決定し、本行動計画に基づき共生社会に向けた各施策に取り組んだ。

また、本行動計画に基づく、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号。以下、「バリアフリー法」という。)及び関連施策のあり方に関する検討結果を踏まえ、交通事業者によるハード対策・ソフト対策一体となった取組の推進、バリアフリーのまちづくりに向けた地域における取組強化、バリアフリー法の適用対象の拡大、利用者へのバリアフリー情報の提供の推進等の措置等を講ずることを内容としたバリアフリー法の改正法案を閣議決定し、第196回国会に提出した。

○多世代に配慮したまちづくり・地域づくりの総合的推進

地方創生の観点から、「生涯活躍のまち」の取組を推進し、中高年齢者等が希望に応じて地方やまちなかに移り住み、様々な世代と交流しながら、健康でアクティブな生活を送り、必要な医療・介護を受けられるような地域づくりを目指している。平成29年10月現在で245の地方公共団体が「生涯活躍のまち」に取り組む意向を示しており、79団体が既に取組を進めていた。平成29年度には、関係府省が連携して地方公共団体の取組を支援する「生涯活躍のまち形成支援チーム」の対象団体を7団体から16団体へ拡大し、取組の過程で浮上した課題の解決に向け、検討、助言等を行った。加えて、平成28年度にとりまとめた「『生涯活躍のまち』構想の具体化に向けたマニュアル」等を活用し、「生涯活躍のまち」の参考となる事例やノウハウ等の周知に努めた。

また、地域再生法に基づく特例措置に係る「生涯活躍のまち」の地域再生計画の認定は、累計で17市町、17計画、「生涯活躍のまち」分野の取組に関する地方創生推進交付金等の交付決定は、累計で96団体、120事業となるなど、各地で特色のある「生涯活躍のまち」の形成が進んでいる。

○交通安全の確保

高齢運転者対策については、平成28年中に高齢運転者による交通事故が相次いで発生したことを受け、平成28年11月15日に「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」が開催された。これを受け、高齢運転者の交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講じるため、平成28年11月24日、交通対策本部(本部長:内閣府特命担当大臣)の下に関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」を設置した。同ワーキングチームでは、内閣総理大臣からの指示を踏まえ、各種対策についてそれぞれ担当する省庁を中心に検討し、取り得る対策を早急に講じていくこととし、平成29年6月30日にそれまでの成果を取りまとめた。これを受け、同年7月には交通対策本部において、同ワーキングチームが取りまとめた施策を緊急かつ強力に推進することを決定した。引き続き、取りまとめた施策を推進するとともに、同ワーキングチームにおいて更なる対策について検討を行う。

○人権侵害からの保護

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成17年法律第124号)に基づき、養介護施設従事者等による虐待及び養護者による虐待の状況について、平成28年度に引き続き必要な調査等を実施し、各都道府県・市町村における虐待の実態・対応状況の把握に努めるとともに、市町村等に高齢者虐待に関する通報や届出があった場合には、関係機関と連携して速やかに高齢者の安全確認や虐待防止、保護を行うなど、高齢者虐待への早期対応が推進されるよう必要な支援を行った。

なお、支援を必要とする高齢者の実態把握や虐待への対応など、高齢者の権利擁護や総合相談窓口の業務を円滑に行うことができるよう、各市町村に設置された「地域包括支援センター」の職員に対する研修については、引き続き実施した。

法務局・地方法務局等において、高齢者の人権問題に関する相談に応じるとともに、家庭や高齢者施設等における虐待等、高齢者を被害者とする人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として調査を行い、その結果を踏まえ、事案に応じた適切な措置を講じるなどして、被害の救済及び人権尊重思想の普及高揚に努めている。平成29年度においても、引き続き高齢者施設等の社会福祉施設において入所者等及び家族が気軽に相談できるよう、特設相談所を開設するほか、全国一斉の「高齢者・障害者の人権あんしん相談」強化週間を設け、電話相談の受付時間を延長するとともに、休日も相談に応じるなど、相談体制の強化を図った。

○悪質商法からの保護

業務停止を命ぜられた法人の役員等に対する業務禁止命令や、電話勧誘販売における過量販売への解除権といった、高齢者被害の防止のための新たな措置が盛り込まれた「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」(平成28年法律第60号)が、平成29年12月に施行された。

一人暮らしの高齢者の判断能力の低下等につけ込んで、大量の商品を購入させる被害事案が、店舗契約の事例も含めて発生していたことから、過量な内容の消費者契約について消費者に取消権を認める規定を新設した「消費者契約法の一部を改正する法律」(平成28年法律第61号)が、平成29年6月3日に施行された。「知っていますか?消費者契約法-民法・商法の特例となる規定について-」というリーフレットの作成・配布を通じて、消費者への周知活動を行った。

このような被害事案の発生・拡大の防止及び被害の回復を図る観点からは、消費者団体訴訟制度の活用が重要であり、平成28年10月から施行された「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)により、特定適格消費者団体が消費者に代わって損害賠償等の請求に関する訴訟を追行できる制度が導入されたため、同団体が実効的に被害を回復できるよう、平成29年10月に施行された「独立行政法人国民生活センター法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第43号)において、独立行政法人国民生活センターが特定適格消費者団体に代わって仮差押えの担保を立てることができる措置を盛り込み、消費者団体訴訟制度の機能強化を図った。

○防災施策の推進

災害時における高齢者等要配慮者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、「平成28年台風第10号災害を踏まえた課題と対策の在り方(報告)」を踏まえ、関係行政機関・団体が連携して平成29年8月に「要配慮者利用施設における避難に関する計画作成の事例集」を作成し、全国にその知見を展開した。「水防法」(昭和24年法律第193号)及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が一部改正され、浸水想定区域内又は土砂災害警戒区域内に位置し、市町村地域防災計画に名称及び所在地を定められた高齢者等が利用する要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成及び計画に基づく訓練の実施が義務づけられた。これら改正法の施行にあわせて、水害及び土砂災害に関する要配慮者利用施設における避難確保計画作成の手引き、避難計画点検マニュアル等を作成するとともに、同年8月「土砂災害防止対策基本指針」を変更し、要配慮者利用施設における避難確保計画の作成、計画に基づく訓練の実施が推進されるよう支援を行った。

○成年後見制度の利用促進

認知症高齢者等の財産管理や契約に関し本人を支援する成年後見制度について周知を図った。

成年後見制度は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を支える重要な手段であり、その利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、平成28年4月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(平成28年法律第29号)が成立し、本法律に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえ、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」を閣議決定した。基本計画には、利用者がメリットを実感できる制度、運用の改善、権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり、不正防止の徹底と利用しやすさとの調和などの観点からの施策目標を盛り込んでいる。

また、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく措置として、成年被後見人及び被保佐人(以下「成年被後見人等」という。)の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための措置を講ずる「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」を平成30年3月に閣議決定し、国会に提出した。

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