第1章 高齢化の状況(第2節 トピックス2)

[目次]  [前へ]  [次へ]

第2節 高齢期の暮らしの動向(トピックス2)

トピックス2 ドイツ「多世代の家」の取組

内閣府では、社会活動の中核を担う青年リーダーを育成することを目的として、「地域課題対応人材育成事業地域コアリーダープログラム」と銘打って高齢、障害及び青少年の3分野において、内外の実務者の派遣・招へいを行い、各地域で同じ課題に取組む青年同士の交流の促進と実務能力の向上に取り組んでいる。このプログラムの一環で平成29(2017)年度は、高齢分野の取組として、日本で高齢者福祉に携わる若手実務者9人をドイツに派遣した。ドイツでは、行政機関や高齢者関係施設を訪問し、その実態や課題等を現地の関係者と意見交換するなど、様々なプログラムを実施した。その中の訪問先の一つであり、ドイツ政府が国策として力を入れている「多世代の家1」をこのトピックスでは取り上げる。

「多世代の家」とは、フランスやスウェーデンの「コレクティブハウス2」が発祥となっており、ドイツが平成18(2006)年から力を入れている国策の一つである。「多世代の家」の目的は、地域の中で多世代間の交流を促すことで、必ずしも住居でなくともよい。現在ドイツ全土で約540ヶ所あり、その多くは福祉活動の担い手として長い歴史を持つ教会組織などから成る民間福祉団体やその他NPO団体、ボランティア団体などを母体とするものである。今回、地域における多様な社会的役割と協力のネットワークを構築しながら、子供、高齢者、障がい者など様々な人を対象とした包括的な活動やサービスを実現している2事例(ベルリン、ボン)を紹介する。

(1)ドイツ「多世代の家」と介護保険制度

ドイツでは、これまでの間にも、介護保険制度の改革が行われてきたが、要介護度の評価基準が身体的な介護に対応した設計であったため、認知症患者に対する適切な要介護度の評価が行われていなかった。こうした状況の中で、平成20(2008)年以降は要介護高齢者と認知症高齢者およびその家族に対する支援サービスへの需要が高まってきた。そこで従来から多世代交流の場として民間団体などで運営されていた「多世代の家」が介護保険で対応できない範囲の補完として認知症患者のための支援サービスおよび家族のための相談・情報の提供を持続的に行う施設として強化・拡大していくことが国策と位置づけられた。

(2)ベルリン、多世代の家「シュレツキ通り 44番」

ベルリンの「シュレツキ通り44番」の見た目はごく普通のアパートのように見える。建物には、11の個室住居と共用スペースなどがあり、1階にバリアフリー関連設備(入浴介助の機材や介護ベッドなど)の展示場がある。個室住居の内3箇所がバリアフリーとなっており、高齢者や障がい者でも安心して暮らせる設備が備わっている。また、ここには、1歳半から88歳までの住人が住んでいる。

この「シュレツキ通り44番」は、100年以上前に建てられたアパートが売却されそうになった際に住民から保存の運動が起こり、アパート管理組合に相談したところから国のプロジェクトに繋げられることになり、組合と住人が出資し建物を買い取り改築したという経緯を持つ多世代の家である。そのため、入居者は全員、多世代の家としてのアパートだという事を事前に承知した上で入居し、一般のアパート管理とは異なり、入居者の最終入居を受け入れられるかどうかの判断はアパート住民が決定しているとのことである。そして、住居部分は全て個室であり、共用スペースとしては1Fに情報センターがあり、月1回の定期ミーティングがそこで行われる。また、普段から子供が他の入居者のところへ遊びに行ったりする交流が生まれているとのことであった。多世代の住人が交流し、お互いに助け合っており、例えば、ちょっとした買い物を高齢の住人が他の入居者の子供に頼んだり、お昼ご飯を共に食べたりしている。お昼ご飯を共に食べることは、住人の中で自然に始まり、施設に関する様々な課題などについて話し合う場であると住民が話していた。

ベルリン、多世代の家「シュレツキ通り 44番」

(3)ボン、多世代の家「ハウス・デア・ファミリエ」

多世代の家「ハウス・デア・ファミリエ」は元々プロテスタント系トマス教会の施設であったが、2007年より「多世代の家」に参加し、多くの人が交流する場所として、教室やカフェとしての役割、相談やイベント、祭りなどを行っている。教室の内容は、大人の料理教室からヨガ、子供の工作教室など多くの種類の教室を開催しており、有償の講師や無償のボランティアが講師となっている。教室の参加は、住民以外でも可能であり、賑やかで温かい雰囲気である。何十もの教室プログラムがあり、参加者に応じてプログラムは定期的に刷新され、どの国籍・老若男女も歓迎し、裕福か否かは関係なく生涯学習を掲げて活動している。また、この多世代の家では、護身術や木工教室、ギター教室など様々なプログラムがあり、様々な人が参加している。母親が出産後に実施する体操の教室では、講習中は、高齢者の方などが子供の面倒を見ており、赤ちゃんに触れることを楽しみにしているといった意見もある。子育て中の母親のサポートでは、出会いは楽しい、母親は私の娘と同じ世代、2世代下の人とつながりを持てて嬉しいなどの反応もある。また面白いものを提供するというコンセプトのもと、町へ出たりお祭りをしたりと他のボランティアとの出会いの場もつくっているという。

ボン、多世代の家「ハウス・デア・ファミリエ」
「ハウス・デア・ファミリエ」活動風景

(4)おわりに

「多世代の家」はそれぞれの世代が支え合って生活している理想的な姿の一つと言えよう。ドイツ同様に少子高齢化が進み、要介護者や認知症高齢者の増加、介護需要の増大に伴う介護従事者の確保等の課題に直面する日本でも、このような施設が各地域で活動している事例は時々報道等でも話題になっている。また、ドイツでは教会組織が中心となることがあるなど、日本とは異なる点もあるが、日本には各地域に、公民館、コミュニティセンター等の様々な施設がある。そして、シルバー人材センター、社会福祉協議会、ボランティアセンター等、全国組織の人材登録センターもある。今後は、各地域の特色や環境等も配慮しながら、このような「家」づくりを考え、官民一体となって取り組むことも有益と考えられる。


1 「多世代の家」とは、子供から高齢者まで利用できる交流型施設で、様々な立場の幅広い世代の方々が同じ場所で、相互に助け合いながら生活することを目的とした場所のこと。少子高齢化という人口学的な要請のなかで考案された新しい生活モデルであり、2006年からドイツ連邦政府の主導のもとに設置が推進されている。「多世代の家」の設置には、政府及び欧州社会基金等から合計最大年間4万ユーロの助成金がある。
2 北欧などで仲間や親しい人々が生活を共同で行うライフスタイル。自立した個人が共同体に貢献することを主眼に置き、独立した居住スペースのほかに、共有の居間、台所、洗濯室等の共用スペースを備え、住民同士の交流、子育て、高齢者等の生活支援に有効とされる。
[目次]  [前へ]  [次へ]