第9次交通安全基本計画(中間案)に関する公聴会 議事録

平成22年10月22日(金)
13:00~15:00
東海大学校友会館「望星の間」(霞が関ビル35階)

司会 ただいまから、第9次交通安全基本計画の中間案に関する公聴会を開会いたします。
 開会に当たりまして、内閣府大臣官房審議官の太田よりごあいさつを申し上げます。

太田審議官 皆さん、こんにちは。内閣府で交通安全対策の担当をしております、大臣官房審議官の太田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日は大変お忙しい中、多数の方にお集まりいただき、誠にありがとうございます。第9次交通安全基本計画の中間案に関する公聴会の開催に当たり、一言ごあいさつを申し上げます。
 昨年中の道路交通事故による24時間以内の死者数は、57年ぶりに5,000人を下回ったところではありますが、いまだに90万人を超える方々が道路交通事故により死傷をされておられまして、道路交通をめぐる情勢というものは依然として大変厳しいものがあるというふうに認識をしております。
 また、鉄道、海上及び航空の各分野におきましては、ひとたび事故やトラブルが発生した場合には、被害者多数の重大な事故となるおそれが常にあることから、安全対策には万全を期さなければならないものであります。
 政府としましては、陸上、海上、航空のすべての分野において、全力を挙げて交通事故の防止に取り組んでおりますが、特に道路交通につきましては本年1月、平成30年を目途に交通事故死者数を半減させ、これを2,500人以下とし、世界一安全な道路交通の実現を目指すとしたところでございます。
 もちろん、究極的には交通事故のない社会を目指すというのが基本理念でございますことから、交通事故の発生件数その者を減少させていかねばならないと考えております。

このようなことから道路交通を始め、各分野において交通安全を確保するためには、来年度から始まる第9次交通安全基本計画を真に実効ある内容とするとともに、これを着実に推進していくことが重要であります。その意味におきまして、本日の公聴会は公述人の方々からさまざまな御意見を拝聴し、よりよい計画案を策定するためのものでありますので、大変重要な機会であると考えております。本日の公聴会が実りあるものとなりますことを期待申し上げる次第であります。
 最後になりますが、本公聴会への御出席を快諾いただきました専門委員を始めとする関係者の皆々様に対し、厚く御礼を申し上げましてごあいさつとさせていただきます。それでは、よろしくお願いいたします。

司会 続きまして、中央交通安全対策会議専門委員を御紹介いたします。
 中央の演壇右側の演壇寄りが、東洋大学国際地域学部教授の太田勝敏様でございます。太田様には、専門委員会議の座長をお務めいただいております。
 そのお隣は、千葉大学文学部長の尾形隆彰様でございます。
 本日は、よろしくお願いいたします。
 それでは、第9次交通安全基本計画の中間案につきまして、内閣府交通安全対策担当参事官の安部より御説明を申し上げます。

内閣府(安部) 参事官の安部でございます。よろしくお願いいたします。
 では、私から第9次交通安全基本計画中間案の概要について御説明申し上げます。内閣府の封筒をお手元にお配りいたしましたけれども、その中に「「第9次交通安全基本計画-交通事故のない社会を目指して」(中間案)の概要」という14ページの紙が入っております、それを御参照いただければと思います。
 まず、経過期間は平成23年度から27年度までの5年間であります。
 「計画の基本理念」といたしまして1.でございますが、真に豊かで活力のある社会を構築していくためには、その前提として国民の安全と安心を確保することが極めて重要である。
 人命尊重の理念に基づき、交通事故被害者の存在に思いをいたし、また、交通事故がもたらす大きな社会的・経済的損失をも勘案して、究極的には交通事故のない社会を目指すべきである。
 2.といたしまして、高齢者、障害者、子ども等の交通弱者に配慮し、思いやる「人優先」の交通安全思想を基本とし、あらゆる施策を推進する。
 この1.の「交通事故のない社会を目指して」、2.の「人優先の交通安全思想」というのが基本理念中の基本理念というものでございます。
 以下、それをより具体的にしたものでございますけれども、「道路交通」、「鉄道交通」、「踏切道における交通」、「海上交通」、「航空交通」ごとに目標を設定いたしまして、その実現を図るため、「人間」、「交通機関」、「交通環境」、それぞれについての施策を策定し、国民の理解と協力の下、強力に推進する。
 また、以下、「ITの活用」ですとか、「救助・救急活動及び被害者支援の充実」、それから「参加・協働型の国民安全活動の推進」、「効果的・効率的な対策の実施」、「公共交通における一層の安全の確保」ということを基本的考え方で出しまして、この案をまとめているところでございます。
 具体的な中身としましては、2ページ以降でございます。
 まず「道路交通の安全」でございますが、その総論的な話といたしまして、人命尊重の理念に基づき、究極的には、交通事故のない社会を目指すべきである。
 今後は、死者数の一層の減少に取り組むとともに、併せて事故そのものの減少をも十分考慮した更に積極的な取組みが必要である。
 また、交通安全に関してはさまざまな施策メニューがあるところであるが、それぞれの地域の実情を踏まえた上で、その地域に最も効果的な施策の組合せを地域が主体となって行うべきである。また、交通安全は総合的なまちづくりの中で実現されていくものであるが、このようなまちづくりの視点に立った交通安全対策の推進に当たっては、住民に一番身近な地方公共団体である市町村の役割が極めて大きいとしております。
 その上で、行政、学校、家庭、職場、団体、企業等が役割分担しながらその連携を強化し、また、住民が交通安全に関する各種活動に対して、その計画、実行、評価の各場面においてさまざまな形で参加し、協働していくことが有効である。
 更に、地域の安全性を総合的に高めていくためには、交通安全対策を防犯や防災と併せて一体的に推進していくことが有効かつ重要であるというのが基本的考え方でございます。
 2の(1)としまして、「道路交通事故のすう勢」を書いております。3ページにそのグラフもありますので、そちらも参照していただければと思います。
 我が国の交通事故による24時間死者数は、昭和45年に1万6,765人、これがピークでございます。それ以降、減少に向かいまして、一たん昭和54年には8,466人と、ほぼ半減いたしました。その後、また増勢に転じまして、平成4年に2度目のピークである1万1,451人に達しましたけれども、翌年から再び減少に転じまして、平成20年の死者数は5,155人ということでございました。第8次交通安全基本計画は、24時間死者数を5,500人以下とするという目標を掲げていましたので、この目標を2年前倒しで達成できたことになります。
 更に昨年、平成21年死者数は4,914人と、昭和27年以来57年ぶりに5,000人を下回ったところでございます。
 また、死傷者数と交通事故件数を見ましても、平成16年をピークに減少が続いているところでございまして、平成20年には死傷者数が95万659人となったところでございます。第8次交通安全基本計画の目標は、死傷者数を100万人以下とするということでございましたので、この目標も2年前倒しで達成できたということでございますが、しかしながら、絶対数としては依然として高い状態で推移しているというところでございます。
 3ページにまいりまして、今回の計画の目標でございます。究極的には交通事故のない社会を目指すということでございますが、この計画期間における目標といたしましては、平成27年までに年間の24時間死者数を3,000人以下とするということを目指すものでございます。この24時間死者数3,000人ということは、30日以内死者数に換算いたしますとおおむね3,500人となります。これは、人口10万当たりに換算いたしますと2.8人となるところでございまして、今現在、国際比較ができる29か国中で見ますと、人口10万人当たりの30日以内死者数は、我が国は29か国中の6番ということでございますが、この目標を達成できると、人口比では一番少ないということが達成できることになると思っております。
 一番下の丸でございますけれども、もとより本計画の最優先目標は死者数の減少でございますが、事故そのものの減少や死傷者数の減少にも一層取り組みまして、平成27年までに年間の死傷者数を70万人以下とするということも目標として掲げているところでございます。
 3以下が具体的な対策の中身でございますが、その際の対策を考える上での視点といたしまして、4ページから5ページに掲げまして3つの視点を掲げてございます。具体的には①といたしまして「高齢者及び子どもの安全確保」、②としまして「歩行者及び自転車の安全確保」、③といたしまして「生活道路及び幹線道路における安全確保」でございます。
 この①の視点といたしましては、諸外国と比較しましても我が国は高齢者の死者の占める割合は極めて高いということが言えます。高齢者が歩行者及び自転車等を交通手段として利用する場合ですとか自動車を運転する場合、それぞれの対策を構築しなければならない。また、少子化の進展についても考える必要があり、安心して子どもを生み、育てることができる社会を実現するために、子どもを交通事故から守る観点からの交通安全対策も一層求められるとしているところでございます。
 また、②の視点としましては、我が国の交通事故死者数に占める歩行者の割合が3割を超えていて、欧米諸国と比較しても極めて高い割合になっております。このようなことから、人優先の考えの下、歩行者の安全確保を図る対策を講じていかなければいけない。また、自転車乗用中の死者数の構成率につきましても、欧米諸国と比べて高くなっております。自転車は、被害者となる場合と、加害者となる場合があることから、それぞれの対策を講じなければいけないということでございます。
 ③の視点に関しましては、交通死亡事故件数に占める生活道路における死亡事故の件数の割合は年々増加傾向にあります。このようなことから、今後は生活道路において自動車の速度規制を図るための道路交通環境の整備、交通指導取締り強化等の対策を講じることが必要であります。
 また、一方、幹線道路を走行すべき自動車が生活道路へ流入することを防止するための対策も推進しなければいけないと思っています。このような対策のためには、地域住民の主体的な参加と取組みが不可欠でありまして、その中心的役割を果たす人材の育成も重要な課題だと考えております。
 一方、この交通事故死者数の3分の2を占めるのは幹線道路でございますので、この対策につきましても効果を科学的に検証しつつ、マネジメントサイクルを適用して、効果のある対策、さらなる向上を図る必要があると考えております。
 具体的な中身が5ページの(2)以下でございまして、「道路交通環境の整備」の1つ目の柱でございますが、生活道路における最高速度を原則として30キロメートルとするようなことも含めました生活道路における交通対策ですとか、通学路等の歩道整備の推進、高齢者、障害者等の安全に資する歩行空間の整備等によりまして、人優先の安全・安心な歩行空間の整備を図る、これが1つございます。また、幹線道路におきましても「成果を上げるマネジメント」を推進して安全対策を推進する。
 また、6ページの方へまいりまして「IT化の推進による安全で快適な道路交通環境の実現」も含めた交通安全施設等整備事業の推進や、効果的な交通規制の推進も必要かと考えております。
 また、②としまして「交通安全思想の普及徹底」でございますが、幼児から成人に至るまで、段階的かつ体系的な交通安全教育を行うとともに、高齢者自身の交通安全意識の向上を図るとともに、他の世代に対しては高齢者を保護し、配慮する意識を高めるための啓発指導を強化します。また、その活動に当たっては参加体験型の教育方法を積極的に取り入れたり、関係者が互いに連携をとりながら地域ぐるみの活動が推進されるように促したいと考えております。
 ③の柱といたしまして「安全運転の確保」でございますが、運転者、特に高齢者に対する教育等の充実に努めるほか、情報通信技術等を活用した道路交通に関連する総合的な情報提供の充実や、自動車運送事業者の安全対策の充実を図ります。
 それから、4つ目の柱は「車両の安全性の確保」でございますが、これまでの被害軽減対策の進化・成熟化を図ることに加え、今後は運転ミス等の人的要因に起因する事故を車両構造面からの対策により未然に防止する予防安全対策について、先進技術の活用等により、さらなる充実を図るということで、先進安全自動車の開発・普及の促進等に努めてまいります。
 5番目の柱といたしまして、「道路交通秩序の維持」でございます。交通事故実態等を的確に分析し、死亡事故等重大事故に直結する悪質性、危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いた交通指導取締りを推進します。
 一般道路におきましては、児童、高齢者、障害者等の保護の観点に立った交通指導取締りの推進、事故多発道路等における街頭取締りの強化などが必要と考えておりますが、あとは過積載や過労運転等、背後責任の追及ですとか、自転車利用者に対する指導取締りの推進等を進めていきたいと思っております。
 6番目の柱といたしまして「救助・救急活動の充実」でございますが、救急関係機関相互の緊密な連携、協力関係を確保しつつ、救助・救急体制及び救急医療体制の整備を図る。特に救急現場における一刻も早い救急医療、応急処置の体制整備や、事故現場における応急手当の普及等を推進していきます。
 7番の柱といたしまして「損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進」でございますが、犯罪被害者等基本法等の下、交通事故被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進いたします。具体的には、交通事故相談活動の推進や、損害賠償請求の援助活動の充実を図るほか、自助グループに対する支援の推進、警察における被害者連絡制度の充実、法務省における被害者等通知制度による情報提供の推進と、交通事故被害者等の心情に配慮した対策を推進してまいります。
 8番目、最後の柱でございますが、「研究開発及び調査研究の充実」といたしましては、ITSの高度化により、交通の安全を高めるため、安全運転支援システムの実証実験や、ASVプロジェクトの研究開発を推進する等のほか、道路交通事故原因の総合的な調査研究の充実等に努めてまいることとしております。
 続きまして、8ページは「鉄道交通の安全」でございます。(2)としましてその目標を掲げておりますが、鉄道につきましては平成17年の福知山線の事故、それから羽越線の事故以降、乗客の死亡事故が発生していないところでございます。このような乗客の死亡数ゼロの継続を目指すとともに、運転事故全体の減少を目指すものとするとしております。
 その具体的な対策といたしまして、ここに書いてありますような鉄道施設等の安全性の向上、運転保安設備等の整備、鉄道交通の安全に関する知識の普及、鉄道事業者に対する保安監査等の実施、大規模な事故等が発生した場合の適切な対応等の施策の柱を掲げているところでございます。
 9ページにまいりまして「踏切道における交通の安全」ということでございます。(2)のところを見ていただきますと、踏切道の事故は長期的には減少傾向にございますが、踏切道における交通の安全と円滑化を図るための措置を総合的かつ積極的に推進し、踏切事故の発生を極力防止する。これを今回の計画の目標としているところでございます。
 そのための施策としまして、開かずの踏切への対策等、それぞれの踏切の状況等を勘案しつ、より効果的な対策を総合的かつ積極的に推進いたします。具体的には、踏切道の立体交差化及び構造の改良の促進ですとか、踏切保安設備の整備及び交通規制の実施をいたします。
 10ページにまいりまして、「海上交通の安全」でございます。10ページの(2)を見ていただきますと、今回の目標が掲げてあります。我が国周辺で発生する海難隻数を第8次基本計画期間の年平均2,496隻と比較して、平成27年までに約1割削減の2,250隻以下とする。
 また、「ふくそう海域」における航路閉塞や、多数の死傷者が発生するなどの社会的影響が著しい大規模海難の発生を防止し、その発生数をゼロとするという目標を掲げているところでございます。
 11ページにその対策でございますが、海難等の防止のための諸施策を推進するとともに、特に小型船舶海難に伴う人身事故が多い沿岸海域における迅速かつ的確な人命救助体制の充実・強化等を図るということとしております。
 具体的には、「ふくそう海域」における船舶交通安全対策、異常気象等発生時における安全対策、外国船舶に対する情報提供等、運輸安全マネジメント評価の推進、小型船の安全対策、ライフジャケット着用の普及促進、海難情報の早期入手体制の強化、迅速的確な救助勢力の体制充実・強化、船舶事故等の調査分析の強化等をいたします。
 次に、12ページにまいりまして「航空交通の安全」でございます。(1)の「航空事故のすう勢」のところですが、我が国における客席数が100を超える等の特定本邦航空運送事業者における乗客死亡事故は、昭和60年の御巣鷹山墜落事故以降、発生していないというところでございます。
 (2)の目標でございますが、引き続き航空交通事故の発生を防止し、昭和61年以降、継続している特定本邦航空運送事業者における乗客の死亡事故ゼロの記録を継続するということを目標として掲げております。
 そのための対策といたしまして、これまでは航空サービスの提供に関わる各主体の規範遵守を監督するという安全行政でございましたけれども、これからは各主体の安全パフォーマンスを継続的に評価し、航空全体として安全パフォーマンスの向上が図れるよう、総合的な安全マネジメントを行っていく次世代型安全行政への転換を図ることが主眼でございます。
 そのための具体的な施策としましては、今、言いました総合的な安全マネジメントへの転換を図るですとか、航空交通サービスの充実、航空交通の安全確保等のための施設整備の推進、航空運送事業者等に対する監督体制の強化、航空安全情報を通じた予防的安全対策の推進ということを掲げているところでございます。
 最後のページが道路の関係でございまして、1枚体系的にまとめております。繰り返しになりますが、道路交通におきましては道路交通事故のない社会を目指すということを究極の目標にする。また、死者数の減少だけではなく、事故そのものの減少についても積極的に取り組む必要があるということでございます。
 道路交通の安全についての目標は、24時間死者数を3,000人以下とし、世界一安全な道路交通を実現する。この24時間死者数を3,000人というのを、30日以内死者数に換算しますと、おおむね3,500人ということになります。また、合わせて死傷者数を70万人以下とするということを目標として掲げております。
 交通安全についての対策の視点とすれば、高齢者、子ども、歩行者、自転車、生活道路、幹線道路、特にこの生活道路、目の前の対策について視点を当てたというのが今回の特徴でございます。
 そのための柱としまして、先ほど説明しました8つの柱の対策を総合的に講じて、この目標を実現していこうというものでございます。以上、説明でございます。

司会 続きまして、専門委員会議の座長であります太田先生より、中間案及び今後の道路交通安全対策につきまして御説明をいただきたいと思います。

太田専門委員 御紹介いただきました太田でございます。専門委員会の会議の方のまとめ役という立場で、今日は1枚物の資料を用意しましたが、これはあくまでも個人的なメモということになります。
 専門委員会議というのは、20人の専門委員から成っており、大変幅広い分野の専門家から構成されております。といいますのは、今、発表がありましたように、交通安全の基本計画ということになりますので、私などが専門にしております道路交通だけではなくて鉄道、航空、海上交通、そういったもの全体を含めた形での5か年の計画ということで、交通工学とか、私ども都市計画に近いようなことをやっている、いわゆる道路の安全問題をしている人、あるいは車両関係の専門家、それから交通心理学の方とか、それに加えましていろいろな交通教育、安全教育ということで大変広範な分野であります。
 それから啓発ということで、実際の現場で交通安全の啓発に携わっている関係者の方、あるいは医療関係ですね。救急医療ということで、大変幅広い専門家の方が参加して議論をする。基本的な原案としては前回の交通安全基本計画がございますし、その後の状況を踏まえながら次の5か年ではどんなことをしたらいいんだろうかということで、関連した多数の省庁の方がいろいろな情報提供をしていただきまして、それをベースに次の5年の基本計画を考える。そんなスタイルで進めてきております。
 ただ、全体にわたって私が周知しているわけでもありません。非常に分野が広いということでございまして、私の専門とする交通計画あるいはまちづくりの観点からの視点を中心に、少し私見を交えて状況をお話ししたいということで用意してきております。
 1枚物の個人メモということになりますが、やはり「現状認識」ということで「交通事故のない社会をめざして」という大きな基本方針ですね。それをまず、第一に人優先ということで進めたいという大きな方向は皆さん合意をもちろんしております。
 ただ、これを考える場合に、今、交通政策の一般的な目標は、交通基本法というのはまだ議論されてございますが、交通とはどうあるべきかということで安全を含めていろいろな機能、性能を考える。それから、個人の移動する権利をどう確保するかということを踏まえながら全体を見ていこうという一つの大きな動きがあります。その中で、特に交通安全ということで我々のこういった安全基本計画というものがあるのではないかと思っております。
 それから、いろいろな意味で現在の交通を全体的ということであれば、交通基本法の動きで特に移動圏の制約が大きい車をうまく使えない人、移動制約者ということになりますけれども、その人たちのシビルミニマムを確保するにはどうしたらいいかという議論が一方でありますし、同時に持続可能な交通ということで、これは世界全体の大きな動きの中ですね。その中には当然安全が入っておりますし、あとは経済的にも社会的にも、あるいは環境性能から見ても持続可能な交通あるいはモビリティをどう確保していくか。そういう大きな課題の中で、この交通の安全というものを考えなければいけないと私は思っております。
 それから、社会経済的な背景として少子高齢化の問題と、その中で我が国は高齢者、65歳以上の半分以上の方が今は免許を持っているということが最近の統計で出てきております。ということは、皆さんが車社会を前提にした生活の仕方をしている。それだけ、事故その他が起こりやすいということでもございます。
 そんな中で、それではどういうふうに安全を確保していったらいいかということです。そこに技術革新の可能性、これにより問題はある程度解決する可能性も残されているので、それを活用したいとか、価値観の変化で、そうは言ってもやはり生活の質とか環境がやはり今までよりも効率性だけではなくて、こういったところをより重視しようという動きがある。ということは、当然これは人優先ということにつながる。そういう大きな価値観の変化もあるということの中で考えましょう。
 交通事故の最大の問題は、そういう意味で道路交通安全、特に車との対応ですね。これがベースになるということでは、皆さん一致してその対応を中心に考えようということになっております。
 「政策の視点と内容」と書いてありますが、先ほど道路自動車交通の関係でありました3つの視点ということで、今回の大きなスタンスに関わるものと思いますが、やはり焦点を交通事故が増える、あるいはこれが大きな割合を占めていて、しかも今後増えそうだという「高齢者と子供」の交通安全が1つ、それから「歩行者と自転車」という視点、それから新しい視点として生活道路というようなことを前面に押して、生活道路の安全、これらに加えて幹線道路の安全ということです。
 特に生活道路につきましては、やはり高齢者の問題、子どもがそこで巻き込まれるとか、そこに歩行者あるいは自転車がいるといったことが相互に絡んでおります。だから、それぞれ①、②、③は独立した問題ではなくて、相互に関連した問題として戦略的にどこを重点的にやっていったらいいか。そういう一つの大きなものがあるかと思います。
 私の考え方では、その基本的なテーマはやはり車を社会的にどうやって賢く使うか。その中で、安全にどう使うかという分野ですね。そういうことで、安全な車、安全な道路環境、それから安全な利用の仕方、利用ルールといった、この中間案の中でもそれに対応した言葉があったと思いますが、そういった3つの視点がもちろん基本的な課題です。
 それを考える場合には、車利用の仕方を変えるということを先ほど申しましたが、車利用を適正化する。そのためには、場合によって抑制をせざるを得ないでしょう。特に安全利用の点から言いますと、速度についてもう少し下げていただくような規制的なものも考えなければいけないし、同時に代替交通手段ですね。車利用を抑制するということは、それ以外の方法で安全に移動できるということをしなければいけない。ということは、徒歩、自転車、バス、そういったものについても十分配慮し、それらについての安全性も考えなければいけないということかと思います。
 そんなことで、「主要な検討課題」などを書いておりますが、これは私の考える主要な検討課題ということで、今、安部参事官が発表しましたような中間案にはかなり漏れなくいろいろ出ておりますが、その中で更に今後検討すべきこと、あるいは重要と私が考えているものはやはり自転車の問題と、それから生活道路の話だと思っております。戦略的な対応として、自転車交通にきちんと対応する、そういう走行空間を確保していく。
 この10年で自転車に関する考え方はかなり変わったと思います。迷惑な違法駐輪とか、そういうものだけではなくて、自転車の持つプラスの面も考えましょう。高齢者にとってもこれは非常に便利な移動手段でございますし、健康にもいい。それから、環境性能もいいということで、こういうものをやはりきちんと使えるような空間、特に私が問題と思っておりますのは走行空間、自転車のレーンその他を確保する。
 これは、最近の新聞などにもちょっと出てきていましたが、幹線道路でも十分そういうことをやろうと思えばできるんだ。ただ、その空間を見直して車線の配置を変えるとか、そういうことをしなければいけない。そういったものに取り組む時代だろう。
 それから、例の歩道の通行可というものですね。これはやはり緊急事態で、特別の場合に高齢者と子どもたちに認められるということはあったとしても、これはできるだけ早く専用空間に移すということは基本であろうかと思います。
 それから、新しい自転車の使い方でパリとかロンドン、その他で新しいコミュニティ・サイクルというような言い方で車から移ってもらう。もっと空間的に、都市の真ん中ではもっと自転車をうまく使ったら使えるんじゃないかというような動きもございます。そういったものを準公共交通ということで、新しい形の公共交通ではないかという形で欧米では整備をし始めております。そういうことを含めて、やはり自転車に対する見直しが必要だろう。
 合わせて、そこにちょっと書きましたけれども、自転車の中には随分安全性能が疑問視されるようなものがあります。新聞によりますと輸入した折り畳み式の自転車の中で危ないものがあるとか、いろいろなことがありますし、そういったものを含めてチェック、品質保証の仕方あるいは自転車事故というものは増えておりますので、そのための保険制度、そういったものを検討すべき時期かと思ってございます。
 それからもう一つ、そういう意味で戦略的な対応はやはり自転車というものをもう一度再評価してまともにちゃんと交通手段のひとつとして位置付けて、それに対する安全な空間、それから使い方のルールを含めてそういう仕組みを考えていくことが、今後この5年ということでは大変重要ではないかということが1つでございます。
 もう一つは「道路の空間再整備と交通規制」と書きましたが、これは生活道路を中心にしてやはり市街地の中ですね。警察庁の方も、生活道路については30キロメートル規制というものを入れたらどうかという方向で動き出しております。
 ただ、これまでのこういった30キロメートル規制、低速化、交通静穏化と言いますけれども、これはやはりいろいろな物理的なデバイスと言っていますが、幅を狭くするとか、段差を付けるとか、お金がかかったり、もちろん住民の参加が必要なのですが、そのときの手間が非常に大変だとかということで、全国でも最近の安心歩行エリアみたいなものは合計して1,400か所くらいでしょうか。ただ、かなり重複もありますので実際はもっと少なくなると思います。それから、国交省などが中心に進めております暮らしの町ゾーンも全国で五十数か所というレベルです。ということは、全国の市街地のほんの一部でしかそういうものはできていないわけですね。こういうことは、次の5か年でそれは困るでしょう。もっと全国全体の市街地の中で低速化を図るような、そんな仕組みを検討したらどうか。
 実は今、イギリスでそういった面的な速度マネジメントということで、かなりコストを安くして、標識表示を中心にちょっとした物理的なものですね。それをして、市街地全体の生活道路はもう30キロにしてしまいましょうという方向に動き出しております。
 私どもはそういったことを含めて、日本でも迅速に早く日本の市街地全体を低速化する。幹線道路についてはやはり40キロ、50キロというものをきちんと確保した上で、幹線道路のめり張りのある整備と合わせて、幹線道路から生活道路に入るときは、ここからが生活道路だということがきちんとわかるような多少の工夫ですね。そのためにはちょっとお金がかかると思いますが、それをした上で、例えば市街地のそういう道路はすべて30キロということにしたらと考えています。
 場合によっては、これはいろいろ意見が分かれるかもしれませんが、法定速度を市街地の中の生活道路30キロに全部してしまえばいいじゃないか。ただ、皆さん標識だけでは守ってくれないという種類のことがあろうかと思いますので、そういう場合に限って物理的なデバイスを入れるという種類のめり張りのあるやり方であれば低速化は随分進むのではないか。
 こういう個人的な意見が入っておりますけれども、いずれにしましても生活道路とは何か。それと幹線道路の違いをはっきりさせて、幹線道路についてはきちんと安全に走れるようにということと同時に、そこに自転車、バス等もきちんとした空間をつくらなければいけない。
 それから、同時に生活道路についてはやはり歩く人、それから車いす等を含めた形でのきちんとした空間整備で人優先ということになろうかと思いますが、そこで30キロといったような形で、やはりそれをいかに早く全国的に進めるか。そういった大きな戦略を考えなければいけないと思ってございます。
 それが、その下にあります「道路の機能別段階構成に応じた整備・再整備」ということで、明確な区分をした上で、それがドライバーにすぐわかるということですね。運転する人にわかる。それから、生活者もそれに従ったルールで使うということです。
 そのとき、「“弱い立場の道路利用者”」と書きましたけれども、子どもとか高齢の歩行者あるいは車いすの利用者、それから自転車等に配慮した空間整備、あるいはそれをちゃんと配慮した走り方をするような啓発なり地元の住民の理解が必要だ。ということは、やはりこういったことは新しいといいますか、これまで以上に住民参加、住民の責任を含めてそういった形でやっていかないと、全国的に進めることは難しいのではないかと思っております。
 こういったことを含めて、道路空間の再配分という言い方をしてございますが、やはりそういう新しい視点でもう一度身の回りの公共空間としての街路スペース、道路スペースを見直していく。そういう場合には、当然コミュニティのいろいろな防犯とか、それから防災の問題と一緒になって住民は関心を持っていますので、そういったコミュニティをもう一度再建する、つくり直す。そういう運動と合わせてやっていくことが必要ではないかと思ってございます。
 私の多少、個人的な考え方を含めて御説明しましたが、戦略的な意味はやはり当初の3つの視点に相互に絡むものとして、今のような点を含めて更に検討したらと思ってございます。
 そういう意味で、今日はいろいろ公述人の方にお話を聞かせていただきますけれども、合わせて今日の機会を踏まえてまだパブコメの機会が残っていますので、今日の御意見を伺いながら、更にまた会場におられる方がパブコメに参加していただければと思います。以上です。

司会 全国から応募をいただきました公述人の方々から御意見を発表していただきたいと思います。お時間の方ですけれども、お1人10分ということでお願いをしておりますので、よろしくお願いします。
 パワーポイントを使っての説明をされる方がおられますので、若干準備に時間をちょうだいできればと思います。しばらくお待ちください。
 それでは、最初ですけれども、一般社団法人日本自動車工業会交通委員会交通安全部会委員の中西盟様です。よろしくお願いします。

中西 ただいま御紹介いただきました、日本自動車工業会の中西でございます。この度は、第9次交通安全基本計画(中間案)に対する意見を述べる機会をいただきましてありがとうございます。早速でありますけれども、自工会の考え方並びに意見につきまして、パワーポイントで御説明をさせていただきたいと思います。
 なお、皆様の机の上に配布しております自工会提言書につきましては既に中間案が公表される前に作成をしておりますので、その案の中に盛り込まれている内容も多々ございます。本日は、これらの提言書を基にしながら、特に強調したい部分に絞りましてお話をさせていただきます。
 まず、交通事故による被害は減少傾向にあるとはいえ、今なお年間91万人の方々が死傷されており、特に高齢者事故や生活道路における事故は重大な問題になっているところでございます。今回、策定されます第9次交通安全基本計画に対しまして、自工会の基本的な考え方をまず最初に述べさせていただきたいと思います。
 1つ目は、この計画が持続可能な、また活力ある社会の構築と矛盾しない、前向きな施策であってほしいということでございます。すなわち、車の持つ有用性を損なうことなく、広く国民理解の上に立った活力ある社会と安全の両立、これを目指すものであってほしいということでございます。
 2つ目は、既に中間案に提示されております死者3,000人以下という高い目標達成のために、事故そのものを減らす事故予防施策の一層の充実が重要であるということでございます。そして、この目標達成のためには人、道路環境、車の総合的な取組みがますます重要になってくると考えます。これらの領域に対しまして、効果的な施策を効率的に実施していただきたいということでございまして、自工会の提言もこの領域に沿ってお話をさせていただきます。
 まず「人に対する提言」でございまして、4点ばかり申し上げたいと思います。中間案に示されているとおり、今後の重点対象とされている交通事故は高齢者、自転車、生活道路の3点であり、いずれも事故被害者の住む地区及びその近辺で発生することが多いと考えられます。したがいまして、その対策としましては、人々の住む地域ごとに住民の交通安全意識を高める必要があると考えておりまして、まず住民参加型の安全教育を充実させるとともに、一度きりの教育ではなくて継続的に是非これを行っていただきたいと考える次第です。また、こうした地域の安全活動へ行政がしっかりとサポートすること、対象別、課題別のきめ細かい教育プログラムを充実させることも不可欠だろうと考えます。
 加えて、国としては一人ひとりの国民の交通安全意識が向上するよう、この第9次基本計画に示された交通事故防止の目標と具体的施策につきまして、積極的に情報発信をしていただきたいと思います。
 画面の下の方に出ておりますけれども、自工会では2008年、高齢ドライバー向けの参加体験型交通教育プログラム、「いきいき運転講座」を開発いたしました。現在までに推計ですけれども、全国で延べ20万人を超える方々に受講いただきまして、大変好評と聞いております。このプログラムは参加者のディスカッションにより、自らの交通行動に関する問題点や対処の気付きを促すものということでございまして、住民参加型教育の充実による住民の安全意識の向上のお役に立てるものと考えております。是非、積極的な活用をお願いしたいと思います。
 続きまして、「道路環境に対する提言」を5点申し上げます。
 こちらにお示ししたように、①、②、③、⑤につきましては既に中間案の方に反映いただいているところでございまして、着実に推進していただき、予算の確実な計上、執行を是非お願いしたいと思います。
 なお、①の「生活道路対策」につきましては、車の速度規制、流入規制など、その施策だけでは車の利便性が著しく損なわれる面もございます。生活道路に本来入るべきでない車が入ってこないようにするためにも、②にあります「幹線道路の整備・充実」と必ずセットの形で展開していただきたいと思います。
 なお、④の「二輪車の安全な走行空間の確保」につきましては中間案に触れられておりませんので、是非この視点を明記いただきたいと思います。
 二輪車の死者数につきましては、減ったとはいえ、昨年886人の方が亡くなっておりまして、中間案には二輪車対策については特段触れられていないというふうに理解をしておりますけれども、安全な走行空間の確保のためには二輪車専用レーンの設置なども是非進めていただきたいと思います。
 次に、「クルマに関する提言」でございます。自工会は、より安全な車の研究開発、普及を責務と考えております。これまで取り組んできました衝突安全技術はもちろんでございますが、一層の事故低減のためには予防安全技術の開発・普及、こういったものが重要となってまいります。こうした観点から、3点述べさせていただきます。
 1点目は、「交通事故調査・分析体制のさらなる強化・充実」でございます。こちらの図は、事故調査に始まり、安全装置が市販化されるまでの流れをお示ししたものでございます。ごらんのとおり、事故調査・分析はその後の安全装置の研究開発、更には市販化へとつながる出発点でございまして、その具体的な強化・充実策について2点御提案させていただきます。
 1つ目は、警察庁、国交省等の行政機関あるいは損保会社、医療機関がそれぞれ所有する事故データを相互にリンクし、一元化を図ることでございます。中間案には、医療機関の協力を得るというふうに記載されておりますけれども、更に踏み込んでいただきまして、三者の情報を一元化するとともに、確実にメーカーに情報提供されるようにしていただきたいと思います。
 2つ目は、市販のドライブレコーダーや、近年普及が進みますEDRの活用でございます。こちらは既に中間案に反映されておりますけれども、個人情報保護等の課題の解決と情報展開の仕組みづくりを進めていただいて、早期の実現をお願いしたいと思います。
 2点目は、自動車は国際商品であるということにかんがみまして、自動車アセスメント等の国際ハーモナイズ活動を更に推進、充実していただきたいということでございます。中間案では、保安基準の国際連携が明記されておりまして、是非進めていただきたいと思います。
 合わせまして、保安基準だけではなくて競争領域の性能を評価する自動車アセスメント、こういったところにつきましても国際的な強調を図っていただきたいと思います。特に、さらなる事故低減が期待されます衝突被害軽減ブレーキ等の予防安全技術の評価方法、基準につきましては、各国ともまさに策定に取り組みつつあるというふうに聞いておりますけれども、この分野におきましても日本が国際協調の議論を是非リードしていただきたいと思います。
 車分野の3点目でございますが、予防安全を重視した先進技術を搭載するASVの普及に関してでございます。ASV普及にはずみをつけるために、2点お願いしたいと思います。
 1つ目は、中間案にもありますように、購入補助に代表されるソフト面の支援の実施並びに拡充でございます。第8次基本計画期間中におきましては、大型車の衝突被害、軽減ブレーキ搭載に対する補助制度が実現しております。第9次計画期間中におきましては、補助対象を一般ユーザーへも拡充し、ASVのさらなる普及に向けて御支援いただきたいと存じます。
 2つ目は、ASVのインフラ協調による予防安全機能を発揮させるために、通信インフラの整備をお願いしたいということでございます。詳細は後述いたします。
 自工会では今後、高齢社会がますます進む中でも、高齢者のモビリティ確保には車が依然重要な手段であると考えております。そのため、高齢者でも安心して乗っていただける車技術の開発を続けてまいります。こうした車技術の普及促進についても購入補助等、政府からの御支援をお願いできればと思っております。
 最後に、ITSに関しまして2点提言させていただきます。
 1点目は、インフラ協調安全運転支援システムの早期全国展開でございます。下にグラフがございますけれども、この図のとおり、交通事故を類型別に見ますと、追突と出会い頭の事故で約6割を占めておりまして、この対策としましては車とインフラが協調してドライバーのヒューマンエラーを減少させる安全運転支援システムが有効であると考えております。
 これを早期に普及させるためには、路側のインフラ整備が必要です。中間案ではDSSSは実証実験とされておりますけれども、既に一部のメーカーは車両に搭載済みであり、ほかのメーカーも第9次計画の対象期間中に車両への搭載を進めることを検討しております。政府には、まず実用化を前提としたパイロット事業につきましては09年の一時補正予算で一たん決まりました約150億円の規模に戻していただくとともに、毎年の計画的な予算計上、執行により早期に全国の交通事故多発地点へのインフラ整備を実施、推進していただきたいと思います。
 また、路車間通信、車車間通信などの先進技術の研究開発も必要でございまして、中間案に記載されているとおり、官民が連携して一層進めることが必要であると考えております。
 ITSの2点目の提言につきましては、官民が連携した自動車走行情報の活用推進でございます。ちょっと見にくいかもしれませんけれども、現状は下の図にありますように、官民さまざまな主体がそれぞれ自動車走行情報を集め、プローブサービスを運営しております。このような情報を利用しまして、交通状況の実態把握やインフラ上の事故予防策の効果、検証など、安全対策に活用することが期待されております。この実効性を高めるためには、さまざまな運営主体が持つ情報の共有と活用を進めることが必要だろうと考えます。
 中間案では、自動車走行情報等の集約、配信が盛り込まれておりますけれども、これを具体的に進めるために官民が連携し、情報収集やデータ基盤の構築に向けたルールづくりなど、実用化に向けた実行計画をIT戦略本部で作成されるロードマップ等に織り込んでいただければと考えております。
 以上、簡単でございますけれども、よろしく御検討をお願いしたいと思います。ありがとうございました。

司会 ありがとうございました。続きまして、またパワーポイントを使っての説明をしていただきますので、少し準備にお時間をちょうだいします。
 それでは、続きまして株式会社ヤシマ常務取締役の吉野一様でございます。よろしくお願いをいたします。

吉野 皆様こんにちは。ただいま御紹介にあずかりましたヤシマの吉野でございます。第9次交通安全基本計画に対する意見公述の機会をちょうだいしましたことに御礼を申し上げます。時間が短いので、早速スタートしたいと思います。
 私の意見はかなり狭い範囲の話なので、公述人に選定されると実は思っていませんでした。狭い範囲とは、具体的に言えば中間案の50ページから54ページの間の話です。さて、計画に対する意見です。もちろん計画と言えば当然将来に関する話ですけれども、私は整備・車体整備という業界に身を置いていますので、現在の話、つまり現在の安全に対する課題を改善してこその将来と、こういう視点で話をしたいと思います。尚、「「車両の安全性の確保」に対する意見」は、シートに取りまとめてはありますが、時間の関係上、私が言いたいことの整理として後ほどお読みになっていただければよろしいかと思います。また、この先、ちょっと専門的な話もあるので理解が難しい面もあるかと思いますけれども、御容赦ください。
 現在、車両の安全性・走行性能・環境性能を確保するため、車というのはかなり電子化されています。昔は大部分が機械的なもので動いていたわけですけれども、今はコンピュータ制御で動いており、このコンピュータが30、40個、車の中に入っています。当然、これが正常に動いて初めて正常な車の走行が担保されるということになりますが、現在、それを担保する仕組がどうなっているのかを車体整備の視点で見た場合、車にはJ-OBDIIという車載コンピュータにログされた記録を外から読むという仕組みが車の中に実装されており、この中で環境に関するものは既に法制化されていて、それを外から読むための共通のルールというものもできている、という言い方になります。
 このルールを具体的に申し上げますと、こういう形です。まずは故障コード、履歴情報というものをちゃんとログしなさい。それから、故障が発生した時点の使用状況のデータや、現在はどうなのかというようなことも見られるようにしなさいと、こういう形でルール化がなされています。これは、国際的に自動車が環境に与える負荷というものが非常に重いということを勘案して、ここを最初に行っているのであろうと、私はそのように判断しております。
 当然、安全に資するいろいろな機能というものもここ経由のデータに基づいて整備ができるようになっていて、現実にはABSやエアバックというような、皆さんが名前を知っているような安全装備の状況もここで見られるようになっています。さて、ここを整備のベースとして実際に使用しようという国の方の動きというのは大体こんなスケジュール観になっている。
 こちらのシートは実際のコードというところまできてしまうので、この場では余り見ても意味がないかもしれませんけれども、このうちエンジン系のところだけは義務化されていて、ABSやエアバックなどの安全装置に関するところは、現在、義務化されているわけではありません。各メーカーさんの自助努力という形になっております。
 ここで非常に問題だと思われる点は、安全への対応が立ち遅れているということももちろんそうですが、まず車両の電子化、つまり安全性能や環境性能に関する制御、エレクトロニクス技術というものがかなり進んでいるという事実が国民に対して正確に伝わっていないのではないかという点です。
 これは安全計画中間案の方にも出てきますが、そもそも車の整備というのは自己責任が基本なのですから、車両の制御の電子化がかなり進んでいるという事実を国民が確実に知らないと、電子制御装置に関する整備の必要性、当然点検整備をやる場合はコストの負担というものがかかるわけですけれども、ここに対する国民の理解が得られません。もちろん国民が理解しなければ、整備不良の車がたくさん世の中を走り回る可能性があるので、この点に関する国民の理解を深める必要がある、ここをひとつ強調したいと思います。
 さて、現在車両の電子化に対して国や関連団体がどんなことを行っているかという具体例を2点示します。まず初めに、OBDという装置を使って情報提供をやろうという形で、情報提供の在り方検討会というものを国交省さんが中心になっておやりになっているというのは皆さんも周知のことと思いますけれども、この検討会は安全環境性能の向上の必要性に関する対応という形でやっておられます。
 ところが、実際にはすでに法制化されている「環境」に関するOBDに対する「整備情報の提供」、これをどう法制化するかということを検討しているにすぎず、その対象のシステムというのはエンジンとトランスミッションであり、ここではABSやエアバックに関する整備情報の提供というのは抜け落ちてしまっています。「安全」機能の整備に関わる情報ですね。環境に関するものというのは漏れなく列記されているのですけれども、安全のところというのは先送りのような状況に私には見えます。
 また、この検討会が今後の検討を進めていく上で、目的には「使用過程の車の安全や環境整備の向上のため」と、やはりここでも安全を入れているのですけれども、実際に行うのは環境のみであり、ここはもうちょっと何とかしていただきたいと考えています。
 次に、汎用スキャンツールについてです。これは、その整備OBD情報を読み取るための機器で、それに関しては、汎用スキャンツールの普及検討会というところでツール機能のあるべき姿の取りまとめを行っていらっしゃいます。しかし、ここでもスキャンツールを必要とする点検整備の対象を「安全環境性能」とうたっていながら、実際の内容は環境性能のところに特化されている。
 これらが現在の国や関連団体の動きであり、それはすなわち第9次交通安全計画の年限を待たずに、今現在、動いているものなので、ここで環境のみをテーマに取りまとめが進んでしまうと、次に安全をテーマにアクションを起こすのに非常に時間がかかるだろうと私は考えており、それを憂いて、あえて現在の問題としてこれを話しているわけです。
 国は実際にさまざまな文章に安全性能、環境性能と並列に表現しているにもかかわらず、安全性能への取組みというものが環境性能への取組みに比べて著しく遅い。実現に向けての具体的なアクションが全く見通せない。これが極めてゆゆしき問題であると私は感じています。
 具体的に言えば、実装率が特に高い安全機能のエアバックやABSに関しては、実際には先ほど紹介したOBDという装置に記録された情報を汎用のスキャンツールで確実に読め、それに対する整備情報の提供も同時に行うということにならなければいけないにもかかわらず、情報の開示が立ち遅れているのです。
 さて、時間がないので中間のシートは飛ばし、現実のリスクの話をします。これはロータス同友会さんというところが取りまとめたデータですが、過去10万台の診断に対してエアバックの故障コードが1.29%、これは100台に1.29台、ABSの故障コードに至っては100台に5.72台の割合で何らかの故障のエラーの信号が挙がってくるという事実を示したデータです。それに対して、これら安全機能に関しては法定の検査制度などもないので、このリスクは事実上野放しになっている状態です。これは非常に危ないわけです。
 この状況をやはり何とかしなければいけない。当然、これに関する法整備は必要だと感じていますが、それよりも何よりも、データを見れば現在のリスクは明らかなのですから、国は整備・車体整備関連団体に対してこれら安全装置に関する自主的な点検検査の要請を行うというような現実的な取組みをなさったらよろしいのではないでしょうか。
 時間となりましたのでこれで終了いたしますけれども、詳しくは皆さんに配布した資料を読んでいただければ、私の主張はご理解いただけると思います。
 以上で終了します。ありがとうございました。

司会 しばらくお待ちください。
 それでは、続きまして北海道交通事故被害者の会代表の前田敏章様です。よろしくお願いをいたします。

前田 私の長女は、前方不注視の車に轢かれ、17歳の短い生涯を終えました。被害ゼロを願う北海道の被害者団体として意見を申し述べます。
 まず理念と目標についてです。中間案がこれまでと同様に、「交通事故のない社会を目指す」が「一朝一夕に実現できるものではない」として、目標数値を年間死者3,500人以下としていることは問題です。昨年の意見聴取会でも述べましたが、人がつくった道具である車の使用によって、日常的に命と健康が奪われ続けている事態は、まさに異常と認識すべきです。
 私が高校などで交通安全講話の際に必ず触れる数値があります。2008年は96.3%、これは日本で身体犯被害者数に占める交通死傷者数の割合です。これを根絶ではなく、謂わば、3,500人×5年=17,500人+αの交通死者を「仕方がない」とばかりに目標にすること、これは到底納得できません。
 日本学術会議は2008年に「交通事故ゼロの社会を目指して」という貴重な提言を発表しました。その中で、「ゼロを目指すためには既存の施策の延長線では無理であり、新たなパラダイム~支配的な物の見方~を設定して、すべての関係者がそこに向かって努力していくことが必要」と述べています。中間案がこれまでの考え方を踏襲して死者数、死傷者数の目標設定をしていることは、学術会議も指摘し懸念する「事故はやむを得ない。事故にあったら運が悪い」という現状の追認にもなり、不適切です。
 お手元に今年のワールドデイ、北海道フォーラムのチラシを配布させていただいておりますが、テーマは「ゼロヘの提言」です。昨年のフォーラムで私たちは、「文明や進歩とは無縁の『静かなる大虐殺』、『事故という名の殺傷』による悲しみの連鎖を断ち切ろう」というアピールを採択しました。既にスウェーデン政府は「ビジョン・ゼロ」という長期目標を国会決議し、壮大な取組みを始めています。究極的ではなく、中期のゼロ目標を明確にして、パラダイムの転換をした上で、その核となる抜本策を定めた計画にしていただきたい。これが私の述べたい意見の中核です。
 パラダイムの転換を3つ提起いたします。
 その1つは、安全=生命尊重を、文字どおり第一義に置くことです。そもそも計画の親法である交通安全対策基本法の目的には、「円滑化」という文言はありません。しかし、中間案は数か所で「安全」と「円滑」を同列に扱っているように見えます。「安全」を「円滑」との関連で論じることは筋違いです。
 1つの具体例を挙げます。北海道の例です。私たちは道路上、それも交差点の横断歩道上で人が轢かれることは決してあってはならないと、歩車分離信号の設置・普及を要望しています。しかし、その普及率は、試行によって安全への効果が十分に確かめられているにもかかわらず、依然2%程度にとどまっています。北海道でその理由を尋ねました。担当者からは、車両通行の円滑な流れを配慮するからという返答でした。安全が円滑の犠牲になってはなりません。イギリスの交差点は100 %が歩車分離信号と聞いています。生命尊重が言葉だけではなく具体的に進むよう、これを標準化して下さい。先ほど私は座長の太田先生の個人的な考え方を聞きまして意を強くしたのですが、それを徹底していただきたいと思っています。
 パライダイムの転換の2つ目は、自動車交通の抜本的な速度抑制と制御です。自動車事故が発生し、それが深刻な事態となる根本の要因は、自動車が重くて高速で走るからであり、安全と速度の逆相関関係は明白です。効率とスピードの価値を優先して押しつけ、人命の問題を「費用対効果」で検討するなど理性を麻痺させてきた、いわば高速文明の幻想と矛盾から脱却すべきです。
 関連して、具体的に指摘します。中間案の「人間はエラーを犯すものとの前提の下で」、それらのエラーが「事故に結び付かないように」というくだりですが、このために必要なのは、自動車自体に装置を組み込むことによる速度の抑制と制御です。
 ITの活用はこの速度抑制対策にこそ有効なのであって、「認知や判断等の能力や活動を補い」、「人間の不注意によるミスを打ち消し」というのは、多くの学者も指摘するリスクホメオスタシスという考え方もあり、根本対策ではありません。そればかりか、逆の効果があります。いずれ近い将来とずっと言われているのですが、近い将来、ITによって人間のミスが補完されるという幻想を与えるわけです。そして、悲劇を日常化させている車優先社会の是認につながります。
 厳しいことを言いますが、これまでの計画、そして中間案でも随所に強調されているITS、これもこのような幻想を振りまき続け、他の根本的な対策を後送りにする役割を果たしていると思っています。速度抑制につながらないIT活用は問題です。
 では、何をすべきか。速度抑制につながる制御、ヨーロッパでも開発実験が進んでいるのはISA~情報技術を活用した速度調整、速度抑制です。これを実用化していただきたい。私たち北海道の会では、日本においてISAと連携してソフトカーというコンセプトでの研究実践が進んでいることを知り、昨年のワールドデイの基調講演で、脱スピード社会への具体的な方策を学びました。お配りした要望事項にも盛り込んでいますが、道路環境に応じた制限速度に対応して自動車自体にその設定最高速度を超えられない制御装置、リミッターの装着を義務づけるなど速度抑制の社会的インフラの開発整備を根幹に据えることが計画の課題と思います。そして、日本学術会議が提案する大規模な速度制御の社会実験を早急に行い、合わせて緊急には速度標識のない道路の法定速度が時速60キロという現在の道交法とその施行令の見直しを行っていただきたい。
 パラダイムの転換の第3は、歩行者優先の生活道路の普及と徹底です。歩行者や自転車通行者、とりわけ子ども、お年寄りが安全、快適に通行できる道路環境が最重要の課題です。そもそも道路というのは「通行」だけでなく住民の「交流機能」も合わせ持つ生活空間なわけです。ここでは速度抑制~これは30キロにとどまらず20キロぐらいが良いと思いますが~し、通過車両を規制する。そして、通行の優先権を車ではなくて歩行者に与える。このことを明確にすべきです。
 この歩行者優先の生活道路は、ハンプとかクランクという道路交通整備を前提とせず、また、コミュニティ道路などの特定な地域に限定せず、幹線、準幹線の道路以外、すべての道路を生活ゾーン、生活道路として扱うべきと思います。自転車通行の問題も非常に大事で、自転車専用道を標準化するということを徹底していただきたい。
 以上のパラダイムの転換の上に立って目標を見直し、8つの柱の1番目と2番目に、速度の抑制制御、歩行者優先の道路環境整備をきっちり入れてゼロ目標を具体化していただきたいと思います。
 あとは、詳しい項目はすべて要望事項の中に組み入れてあります。2、3だけ付け加えさせていただきます。
 公共交通機関の問題もありますが、北海道でも問題になりました高速道路の安全問題で、ロードキルという問題があります。動物の飛び出しが原因で事故につながることですが、それへの対策が項目に入っていません。高速道路では動物が絶対侵入できないような防護柵を徹底する、ほかの一般道路ではもっと速度を下げるというふうにしなければこれは避けられないのです。全国で年間に34,000件、北海道で1,800件ものロードキルがありますが、そのことも組み入れていただきたい。
 次に、ドライブレコーダーの全車装着義務化をしていただきたい。これは原因の解明と事故の絶滅につながりますし、私たちにとっては公正な捜査にもつながります。
 最後ですが、捜査に関して。今、検察庁の証拠改ざんなどが問題になっていますが、私たち交通事犯被害者にとっては「死人に口なし」の捜査や不公正、これは今もあると認識せざるを得ません。それを防いでいただきたい。そのためにも、交通事故調書を当事者に開示していただきたい。当事者の求めに応じて、送検以前の早期に調書を開示するということがなければ、捜査の公正さは確保されません。そのことも是非明記していただきたいと思います。
 以上、申し述べまして、私からの意見といたします。よろしくお願いいたします。

司会 続きまして、交通事故被害者遺族の声を届ける会代表の大塚兼治様でございます。よろしくお願いを申し上げます。

大塚 ただいま紹介いただきました、交通事故被害者遺族の声を届ける会の大塚です。よろしくお願いします。
 今日もまたどこかの道路で命が奪われ、残された遺族は呆然と立ち尽くし、絶望の縁に立たされているのでしょうか。このような悲しみをこれ以上繰り返さないように、私たちは『交通死ゼロ』を目指して取り組んでいます。以下、意見を述べさせていただきます。
 基本理念の6に、「計画段階から国民が参加できる仕組みづくり」とありますが、多くの交通犯罪被害者遺族団体から、第9次交通安全基本計画の専門委員に(遺族の)参加を求める要請がされたにもかかわらず、実現されなかったことを残念に思います。今後、これらの委員会にはこの基本理念に基づいて委員の選考を行っていただきたく、強く要望します。そしてまた、公聴会開催についてももっと早い時期から国民に告知していただくことをお願いいたします。
 全体的に楽観的な展望を持って交通犯罪を抑止しようとする中間案になっていますが、これではこれ以上の被害者減少は望めません。第8次の目標値が2年前倒しで達成されたことは一応の成果でありますが、自動車乗車中の被害者減少が主たる成果内容であり、第9次の目標を達成するためには日本の交通死の特徴である歩行者と自転車=弱者の被害をなくすことが急務です。そのためには、今までの考え方を根本的に改め、楽観視ではなく国民の危機意識を高める方向性の計画に見直す必要があると考えます。
 私たちとしては、第8次のときと同じく、目標は『交通死ゼロ』であるべきと強く訴えますが、このままでは平成27年に30日間死亡者数3,500人を確実に達成することすら危ういのではないかと危機感を抱いています。
 弱者の被害をなくすためには、道路整備など根本から考え直す必要があり、相当の時間を要すると思われます。それらの対策を急いで推進するとともに、弱者の保護を徹底する必要がありますが、車の運転者の弱者保護の意識は非常に低く、自衛のための安全教育も必要でしょう。
 日本における車の走行距離当たりの死者数は、交通安全白書のデータではワーストトップです。そして、弱者の犠牲の比率は欧米の2倍から3倍と異常な多さです。日本の道路は、最も危険だと言えるのではないでしょうか。日本は安全だという錯覚を助長するような表現は、見直す必要があると考えます。
 例えば、中間案の5ページの図1の考察は、「多くの人が、道路交通事故をゼロにすべき、あるいは、大幅に減少させるべきと考えている」、これだけの文章で終わっています。前回、平成16年の調査と比較して、調査項目で「なくすことが可能でありゼロとすべきである」が、18.2%から今回は9.3%に半減しています。また、「ある程度生じるのはやむを得ず、減少できなくても仕方がない」は前回4.1%、今回は11.2%と3倍近く増加していますが、この重大な事実に関して一言も触れられていません。これは、国民の交通犯罪に対する危機意識が薄れてきたことの証です。
 減少を続けていた交通犯罪は、今年2010年6月ごろから再び増加に転じる傾向にあり、今月10月17日には遂に昨年の24時間死亡者数を上回り、交通犯罪が増加に転じたことはほぼ間違いありません。この背景には、このような国民の意識の薄れがあるのではないでしょうか。
 また、11ページにある、「この目標を達成した場合には、他の各国の交通事故情勢が現状と大きく変化がなければ、最も少ない国となる」などという、あり得ない仮定を前提とした安全の幻想を記述し、世界一安全な道路交通が実現できるなどと、国民に間違った認識を植え付けることは交通安全の基本理念に反することではないでしょうか。現に第8次の基本計画でも同様の表現をしていますが、世界一安全な道路交通には遠く及びませんでした。
 それどころか、ヨーロッパでは国連で議決された世界道路交通犠牲者の日が積極的に推進され、2008年5月に第1回のNGO世界会議がブリュッセルで開催され、同年11月には第1回路上安全に関する閣僚級会議がモスクワで開かれました。そして、「交通安全のための行動の10年」と題した世界的な行動が来年(2011年)から始まります。
 このような世界の動きの中で、日本の交通安全対策は非常に遅れているのではないかと考えます。日本においても積極的に世界道路交通犠牲者の日の国民への周知、犠牲者を慰霊することによる全国民への交通安全の啓発という世界の動きに参加していただきたいと強く要望します。このままでは、世界一安全な道路交通を実現するどころか、現在の6位から更に後退する可能性が大きいと考えます。
 次に、基本理念の3の「交通社会を構成する三要素」として、「交通事故の科学的な調査分析や施策を策定し」とありますが、現実には再発防止策が出るはずもなく、むしろ被害者は車社会なのだから自分自身で身を守れ等、暴言を浴びせられ、弱者への対策などほとんど感じることができないのが現実と言えます。事故を根絶するためにも、再発防止策がきちんととられるように、その具体的な対策として鉄道、航空機等、他の交通事故には既に設置されているものと同様に、道路交通事故にも『事故調査委員会』の設置が必要ではないでしょうか。
 メディアも取り上げるような重大な事故に対しては警察独占ではなく、有識者を交えて構成される『道路交通事故調査委員会の設置』を具体案として挙げていただくことを要望します。
 また、41ページのキの「効果的な広報の実施」のところで、現在自動車メーカーはテレビ、ラジオ、新聞等でCMを盛んにしていますが、お酒の製造業者等が飲酒運転事故の防止を呼びかけているように、危険な車を製造販売する責任と義務を担う点を考慮すれば、当然CMに交通安全対策を取り入れるべきと考えます。自動車メーカーに対し、これらの義務付けをすることは当然です。自動車メーカーのCMで安全運転への警鐘が流れる日の近いことを希望し、早急な対応をお願いいたします。
 先にも述べましたが、交通死が今年に入り、減少から増加傾向にあることを非常に危惧します。交通死ゼロに向けた実効性の高い基本計画としていただくよう、心からお願いいたします。
 私たち交通死遺族の思いは、亡くした家族の命を無駄にしないことです。その思いが、目標はあくまでも交通死ゼロであると言わせているのです。是非とも車中心でなく、人の命を中心に見据えた基本計画としていただくために、私たちの声が届くことを祈っております。ありがとうございました。

司会 続きまして、全国交通事故遺族の会副会長の戸川孝仁様でございます。よろしくお願い申し上げます。

戸川 御紹介いただきました全国交通事故遺族の会の戸川と申します。よろしくお願い申し上げます。
 本日は、このような席、機会を与えていただきまして、大変光栄なことと思っております。本来であれば、井手渉という私どもの会長がここに立たなければいけないわけですが、あくまでもこれは本人いわくでございますが、高齢を理由に最近、公の席には出無精になっておりますので、代わりに私から意見を述べさせていただきます。時間の制約もございますので、ただいまから第9次交通安全基本計画に関する意見を述べさせていただこうと思います。
 昨年の交通事故死者数は9年連続して減少し、遂に5,000人を割りました。交通戦争と言われた昭和45年の死者、1万6,765人に比べれば3分の1以下になったことになります。しかし、状態別の交通被害者数について見ると乗車中、つまり運転者及び同乗者の側よりも、歩行者、自転車、すなわち交通弱者と呼ばれる者たちの被害の割合が確実に増えています。昨年は、交通弱者側の犠牲者が乗車側の数を超えて第1位となってしまいました。この事実を踏まえれば、今後交通死者数を減らしていくための政策としては、より交通弱者にスポットライトを当てることが緊急かつ重要であると考えます。
 交通弱者保護につきましては、今回の第9次案においても広範囲に提唱されておりますけれども、即効性、具体性に欠けるように私は感じております。同案3つの視点において高齢者、歩行者及び自転車、そして生活道路に着目しておりますけれども、もっと明確に強い姿勢での人最優先策というものを実行していくことが求められるのではないでしょうか。
 まず、交通事故で現在最も被害を受けているのは、交通弱者であるという事実認識を国民に周知徹底させる必要があります。我が身は自分で守るという交通弱者の側に責任を転嫁するのではなく、行政と市民が一体となって事故防止を図ることが絶対条件です。交通行政の成果を交通死者数だけで測ってはならないと考えます。安全社会の実現、すなわち交通弱者の安全がどれだけ確保されたかという本質的な問題としてとらえてください。
 行政の役割についてですけれども、住宅地や文教地域、病院や公園などが主人公であるエリアを生活ゾーンとして法的にきちんと設定し、地方行政や周辺住民の関わり方について方向性を示していただきたい。更には、形骸化しつつあるスクールゾーンなどの現行の域内規制を見直してください。その上で、車優先の幹線道路と人間優先の生活道路を明確に区分して、両者の住み分けを明確にすることから取りかからなければなりません。歩道、ガードレールの整備、歩行者の通行妨害になっている電柱の地下埋設化、道路表示、標識などの整備を進めていただきたいと思います。
 次いで重要なことは、生活道路における車の走り方です。計画案には、歩車分離信号やIT技術の導入など、ハード面における対策がうたわれています。ですが、その前に生活道路では人の安全が最優先されることを実感できる政策を実行するべきではないでしょうか。近道、抜け道や渋滞逃れなど、住民に関わりのない外部者の侵入制限や侵入者の速度制限など、現行法下においてもすぐできるような施策の実行可能な対策が求められています。
 生活道路に不要不急の外部者を侵入させないため、そして侵入してきた車に物理的なストレスをかけるライジングボールやハンプなどを増設して市民の安全を確保してください。場合によりましては、これらの施策の効果をより高めるため、警察による取締りの強化や、違反者への厳しい処罰など、徹底した包囲網をしくべきだと考えています。
 以上、生活ゾーンと、生活道路の設定と、交通弱者対策を今般計画に盛り込むとともに、タイムテーブルを設けて計画の実効性を監視していただきいと思います。そして、これが第9次交通安全計画の目玉であるということを市民に知らしめ、市民の側もこの計画に引き込むための徹底した啓蒙活動をお願いしたいと思います。
 ところで、政府は環境やエコロジーの観点から自転車の普及に乗り出しています。それに連動して、道交法が改正された結果、あくまでもこれは自動車の仲間なんですけれども、軽車両である自転車が大手を振って歩道に侵入してきました。必然的に歩道における自転車とのトラブルが増え、歩道といえどももはや安全な通路ではなくなってしまいました。このところ、自転車による事故は激増し、また、ひき逃げも増えています。
 しかし、自転車には自賠責保険のような被害者救済制度がないため、救済されない被害者も多く出ています。自転車専用道路や駐輪場の増設、自転車の運転マナーや事故時の対応など、教育、自転車の登録制による悉皆保証制度など、行政が力強いリーダーシップを発揮して、来るべき自転車社会を牽引していただきたいと考えています。
 また、最近、自転車と自動車の間に位置するさまざまな移動機が登場してきています。身体障害者や高齢者用の電動車いす、セグウェイのような遊具、ますますパワーアップする電動自転車、発売目前だそうですけれども、電動バイクや少人数用の電気自動車等々、従来の自転車と自動車の間隙に多種多様な乗り物がひしめき合う時代が間もなく到来しようとしているのです。
 高齢化社会、省エネ、生活の多様化などに後押しされ、これから急速に発展、発達が予測されている移動機について、性能面における基準づくりを急がなければなりません。更に、免許制度の見直しを含めた法的整備が必要と思われます。何よりも、被害者対策はすぐにでも取りかかっていただきたいと思います。
 自転車及び新規移動機について、今般計画における重点施策や新規施策には積極的に盛り込まれていないように見受けられます。その必要性と重要性を認識されるとともに、本計画の中に対策を盛り込んでほしいと考えています。さもないと、一番近距離にある歩行者にこれから大きなリスクを負わせることになりかねないわけです。
 最後に、1つの提言を行いたいと思います。交通安全はそれぞれの国が取り組むべき問題ですが、今後は地球規模で取り組む時代に変わっていくと予想されています。世界では毎年130万人もの命が道路交通で失われています。すべての国がこの問題に関心を持ち、知恵を出し合い、先進国は振興国を物心でサポートし、そして国家間で安全を競い合う。こうした社会を実現する義務が我々にはあると思うのです。このきっかけとなった2つの国連議決があります。
 1つは「世界道路交通被害者の日」、これは交通死者を悼むことから交通事故防止につなげようという出発点としての運動です。もう一つは、国連決議された世界的な交通安全の改善に伴い、09年モスクワで開かれた交通安全に対する世界閣僚会議で採択された「交通安全のための行動の10年」という指針です。今回の安全計画は、これら2つの決議を踏まえたものになることを望むとともに、こうした世界的な流れに乗り遅れることなく、むしろ積極的に関わり、世界をリードする役割を日本が担っていってくれることを切に希望するものであります。御静聴ありがとうございました。

司会 続きまして、NPO法人KENTO代表理事の児島早苗様でございます。よろしくお願い申し上げます。

児島 皆さんこんにちは。奈良県から参りましたNPO法人KENTO代表理事の児島早苗と申します。今から、基本理念提言の対策に加えていただきたい3つの点をお話しします。
 その前に、お願いがあります。18歳の息子が道路交通事故で亡くなりました。その日のことを今から皆さんにお話しします。皆様方はそれを他人ごとと思わないで、目を閉じて自分のこととして想像してください。では、皆さん、お願いです。目を閉じていただけますか。そして、うつむいてください。
 今、皆さん方は第9次交通安全基本計画(中間案)公聴会に参加されています。今まさにこのとき、皆さんの携帯がなります。あるいは、職員の方が駆け付けてこられます。息子さんが、お嬢さんが、御家族が交通事故に遭われました。緊急を要する状態です。すぐに病院に駆け付けてください。到着されるまでに緊急を要する手術をしなければなりません。その許可をこの電話で欲しいのです。輸血をしないといけないかもわかりません。
 病院に駆け付け、救急・救命室に行きますと、今まで見たこともないような我が子、家族の姿がベッドの上にあります。生命維持のための管が頭、額、腕、足、胸、体じゅうにつながれ、命の危険を知らせる電子音が、ピーピーと鳴っています。「どうしたん! なぜ! 何があったん! 死んだらだめ! 生きて! 生きてくれ!」と叫びます。命の火が消えようとしている家族の前で、私たちは何ひとつできません。「なぜ! なぜ! 生きてくれ! 死んじゃだめだ!」と叫び続けます。
 しかし、皆さんの腕の中で家族は息を引き取り、動かなくなり、体はだんだん冷たくなっていきます…。
 どうぞ、目を開いてください。自分の家族が交通事故に遭う。このようなことはだれも考えたくありません。何という不吉なこと、そう思います。しかし、平成21年の交通死者4,914名、これは24時間以内の死者の合算です。1年間を通すと、その1.4倍強、7,000人を超えます。私たちの日常のすぐ横に家族の交通死が迫っているのです。
 では、今から3つの基本理念へ追加していただきたいこと、対策に加えていただきたいことをお話しします。この3つを直ちに実行してくださるならば、必ず着実に交通事故死は減少します。道路交通だけではありません。空の交通、海の交通、鉄道も踏切も着実に減少します。
 1番目、それは起きた事故の真相徹底究明、迅速化、透明化です。被害者遺族にとり、何が起きたのか、まず一番に知りたいです。物事が起きたとき、あやふやに取り組むと結果も中途半端、その先にあるのは同じことの繰り返しです。悲しみです。
 2番目、情報開示です。昭和60年のJAL航空機事故、せんだってのJR西日本阪神尼崎脱線事故、だれも皆、真相を知りたいと通い詰め、自分たちも動いています。しかし、何年待てばいいのでしょうか。道路交通被害者遺族も同じです。真相を知りたい。二度とだれもこんな苦しみを負わないために、まず真相を明らかにしてほしい。情報を開示してほしい。5年、6年待たされる間に国と企業の間で情報の操作が行われるなど、もってのほかです!
 3番目、専門委員が25、26名おられます。その中に、最低3名の被害者遺族を加えてください。なぜならば、私たち遺族は事故以後、どうしたらこの悲しみを食い止められるのか。愚かな過ちを二度と繰り返さないでいられるのか。日々、年じゅう考えています。危険運転致死傷罪が成立した第一歩は、一人息子さんを亡くした母親です。分離信号の活動が始まったのも、息子さんを亡くされた御両親です。私たちの中には必死になって改善したい、止めたいという思い、アイデア、それがたくさんあります。
 皆様のお手元に、この冊子があると思います。これは、プロの人がつくったものではなく、18歳で亡くなった奈良高専の当時18、19歳のクラスメートと私、被害者の母親と一緒になって社会に文句を言うだけではなく、息子の氏名はケントですが、ケントの命に変わるもの、役に立つものをつくりたいと、3年間かかって仕上げたものです。命を終わらせるのではなく、泣き寝入りさせるのでもなく、死人に口なしとさせるのでもなく、何とかこの現状を変えたいと、この冊子が生まれました。これは今、当事者にとってバイブルに近いものとなっています。この1冊を胸に抱え、裁判の傍聴をされる御遺族もおられます。
 基本計画案をもっと私たちの身近なものにするためにも、どうぞ私たちの知恵をお借りください。専門委員に3名、最低でも加えてください。以上です。ありがとうございました。

司会 それでは、ここで太田座長及び尾形先生からコメントをちょうだいしたいと思います。よろしくお願い申し上げます。

太田専門委員 ありがとうございました。ただいま、6人の公述人の方からさまざまな立場から御意見を伺ったと思います。一つひとつにお答えすることはできませんけれども、やはりこういった交通事故がすべての国民の身の回りに日常的に起こっている大変な悲劇であるということを改めて痛感したところでございます。
 そういった中で、政策として何ができるんだろうか。あるいは、戦略的に何をしなければいけないんだろうか。やはりこれはきちんと科学的なデータと、それから実効性のある施策をきちんとやっていくことが必要だということを改めて感じたところでございます。
 いろいろな御意見がございましたが、基本的なものとしてパラダイムシフトというようなことも出ましたけれども、人優先というようなことをうたっておりますが、これを本当に実効性のあるものにする。その内容、肉付けですね。この点を更に追求すべきではないかということが、私としては非常に重要なテーマというふうに思っております。実効可能性ということになりますと、いろいろな省庁あるいは地方自治体からということもございますが、同時にやはり市民といいますか、ドライバーとしての我々自身がどう関わっていくかということでもございます。そういう意味での仕組みづくりといいますか、そういったものをやはりきちんと議論しなければいけないのではないかということが1つです。
 それから、グローバルな視点ですね。自動車はグローバルな商品であるという意味でのグローバル化についてはいろいろな意味で対応していると思いますが、むしろ国連で実はこの交通事故に対して大きなテーマとしてこれからの10年取り組んでいこうとか、こういった動きについて日本の皆様にはまだ余り知られていない。余りそういうこととの関係について議論されていないようにも思います。そういった大きな動きの中で、日本の安全というものが本当に世界一なのだろうか。それを世界一にするため、世界一ですという相対順位で威張っていてもしようがないわけです。やはり交通事故を本当になくしていくためにはどうしたらいいか。その点について、世界の動きを確認して一歩一歩進めていく。そういうスタンスをもう一度きちんとすべきかと思います。
 それから、いろいろお話を聞いた後で幾つか十分検討されていなかった項目があることにも気が付きましたし、もう一つは技術の使い方ですね。特に先進交通安全技術なりITS技術というものがございますが、これが有効に使われるためには、先ほど公述人の方からありましたように点検整備的なものもきちんとしていかないと、単に技術があるよというだけではだめだということ。それから、ITS技術と、やはりもう少し交通安全ということに対して直接関わるようなものを更に実効性ある適用を進めてほしい。例えば、ISAの技術、速度抑制の話ですね。
 ITSの技術は、私はやはり安全ということに対して非常に大きな潜在的な力を持っているかと思います。ですから、こういったものをうまく活用していく。そういうことが日本のものづくりという中では非常に重要だと思いますし、その技術をうまく使うためには先ほどの点検整備もありますし、基本的な情報の整備ですね。
 実は、交通安全のためのいろいろな規制情報、例えば速度規制の情報などというものはナビには絶対今まで入っていないんですね。入れられないといいますか、そういう情報がきちんと整備されていないということもございます。こういうものをきちんとデータ化しないと、実は速度抑制ができないということにもなります。ですから、そういう一つの技術だけではなくてそれを支えるための、それを普及させるためのさまざまなものを同時にやっていかないとだめだということを感じております。
 それから、新しい移動器具への対応です。これも、確かにいろいろなものが出始めていまして、それに対する一般的な安全基準の話と、それを交通移動器具として使う場合には必ず交通空間といいますか、道路の上で使うことになると思いますので、そのときのルールの基本的な考え方とか、そういうことをしていかないといつも後追いになってしまうということについては、やはり大きな課題かと思っております。
 ちょっとばらばらなお答えになったかもしれませんが、特に私が今、感じたところです。

尾形専門委員 今日教えていただいたことに一つ一つコメントすることはできませんが、私は社会学というものをやっていまして、何で交通問題にそんなものが関わっているんだと思われるかもしれませんけれども、今まさに時代のパラダイム転換をしなければいけない。その際に、意思決定をどうするかということが問われているんだと思います。
 一言で言うと、今までいろいろな幹線道路での交通事故はいろいろな努力でやってきた。救急体制もある程度整ってきた。しかし、自分の住んでいるところから500メートルの範囲で歩行者や高齢者や子どもが死んでいる。これは世界の水準からみてもひどい。
 しかし、はっきり言って日本の道路環境は悪いです。私の住んでいるところでもとてもじゃないですけれども、自転車に乗って走ることができないようなところはたくさんあります。そうなりますと、国土交通省がやることなのか。やれることなのかというふうに私も委員会で言いました。つまり、現場のそれぞれの生活道路に相応した問題点を住民の方たちが自分で考え、自分で提案し、そういう人たちのいろいろな提案がありますから、すべてを公平にというわけにはいきませんけれども、それを担当者の方がどうとらえるかということでございます。
 それができるのか、できないのか。これができないと絶対に2,500人、3,500人は不可能だと私は思っています。今までの事態に対しては頑張ってきたけれども、これからのものは最も条件の悪いところで減らそうというわけですから。
 偉そうなことを言っていますけれども、その意思決定がいかに難しいかということは、例えば私の千葉大学でも同じです。そこでは弱者は教授ですね。年寄り、私もそうですが、自転車で轢かれる事故がたくさんあります。それで、自転車をどうしようかともう10年来、学長と悩みに悩んで来ましたが意思決定ができないんです。マナーに訴えたり、学生からの参加活動も促したりしたのですが、できません。もう少し強く学生からの要求を求めたりしながら、はっきりとした意思決定をしなければいけないと思っています。
 ところでやはり参加というのはどちらかというと、今までは上から参加させるという形だったんですけれども、下からの参加というものを育成するというのも大変なんですね。参加を育成する。そういう参加ができるようなムードをキャンペーンしていく。
 ただし、これは大変です。自治体の担当者なども警察の方も大変だと思います。でも、そういうパラダイム転換をするの時期がきたんだと思うわけです。例えば、生活道路への流入制限とか速度制限とかハンプを多くするとか、ヨーロッパでは当たり前のことですが、それを日本でやろうとしたら、ハンプ一つつくるのでも大変です。私の大学で大変で、自転車道をつくろうとしただけで大騒ぎになりました。もしそこで事故が起こったら誰がどう責任取るのか、ということで二の足を踏むわけです。しかしそういう困難さを当事者であるはずの住民が引き受けざるを得ない時代なのです。誰か人のせいにしている時代ではないし、そうした要求を無視する時代でもなくなっているのです。
 1つだけ例を挙げます。私の住む所でも、防犯パトロールの市民の方々が朝子どもたちを道で誘導しているんです。朝から不審者がいるのかなと思ったら、結局交通安全運動をしているんです。どうして交通安全パトロールというのぼりを立てて自転車のチェックなどはしないんですか、と聞いたところ。その方たちが、「どうしてなんでしょうね」と答えていました。
 警察関係の方はおわかりですね。防犯関係と交通安全は管轄が違いますから一緒にやりにくい。そういうことを思っても現場の人の疑問が取り上げられないという構図が無いのか、ということです。
 ですから、恐らくいろいろなことを下からいわれた場合に、それを聞かざるを得ないというか、それを喜んで聞くといいますか、そうした構えが必要になるのではないでしょうか。自治体と国との役割権限の違いだといって無視しない、という構えが必要になるのではないでしょうか。また、逆に一番のパラダイム転換を必要とされているのは意思決定に参加を求められている市民の皆さんのところにくるのではないかと思います。それができなければ、絶対に2,500人、3,500人は不可能だと私は考えています。数ではかっては言ってはいけないと言われましたけれども、そういうパラダイム転換が無ければだめだと思います。もしかしたらこの専門委員会の参加システムもそういうふうに考えなければいけないのかもしれません。
 自分の大学でも出来ていないことを皆様に申し上げて大変申し訳ないんですけれども、そういう事に直面せざるを得ない時代だと私は思っております。

司会 ありがとうございました。
 それでは、ただいまから質疑応答等の時間に移らせていただきます。なお、この場での御質問あるいは御質問といったものに対する回答につきましては、別途現在内閣府のホームページ上でパブリックコメントを行っております。そのパブリックコメントにおける回答と合わせて行いたいと考えておりますので、よろしくお願いをいたします。
 それでは、時間も押しておりますので、特段この中間案に対する御意見、御質問がおありの方は挙手にて申し出ていただければと思いますが、何かございますでしょうか。

質問 全国交通事故遺族の会の佐藤と申します。今日はいろいろと聞かせていただきましてありがとうございます。
 質問というわけではないんですけれども、先ほどから遺族の団体がいろいろと言っていますが、死者目標というものを表に出すと、これまで9年間どんどん右肩下がりに減少しているということで、よいニュースのように報道され、国民もそういう意識になるのかもしれませんけれども、8ページの全体の表を見ていただくと、死傷者、発生件数を100万人以下にするということの目標自体がずっとさかのぼって、昭和45、46年の1万6,000人死者が出たときの数と変わらないことになるんですね。いわば、現状は第1次交通戦争と言われた年の件数に匹敵する数にようやく下がったという状態になります。
 こういうこともしっかりと国民に理解させ、この第1次交通戦争のときにここから急激に下がったのは国民の意識が危機感を持って変わったからだと思うんです。そういう危機感を持たせるためにも、死者数の減少というような空論的な数値で示すのではなく、あるいは先ほどどの団体からも言われたように、交通弱者が標的になってしまっている。これは明らかに交通戦争そのものだと思うんです。車を利用しない者が、している者に命を奪われる。こういった第3次交通戦争というようなことをしっかりと危機感として明確に国民に知らせていただきたいと思います。

司会 そのほか、何かございますでしょうか。
 ないようでしたら、これをもちまして第9次交通安全基本計画の中間案に関する公聴会を終了いたします。どうもありがとうございました。