交通事故によってご家族を亡くされた方へ

心(こころ)の回復のために

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内閣府政策統括官(共生社会政策担当)
交通安全対策担当

はじめに

どんな場合でも、愛する人が亡くなることは大変つらい体験です。特に、交通事故はその朝まで元気だった家族が、もう帰ってこないという受け入れがたい出来事です。

このように突然、予期しない形で家族を失うと、その衝撃に圧倒されたり、いつまでも強い悲しみが続くようなことが起こります。また、人の手によって起こった出来事だという理不尽さへの怒りや、事故場面や病院での光景がいつまでも記憶に残って、苦しくなるようなこともあります。

その気持ちは、今までに体験したことがないようなつらさで感じられ、「自分がおかしくなってしまうのではないか」と思ったり、「もう生きていく意味がない」、「あの人(故人)なしでは生きていけない」と思うこともしばしばです。しかし、どんなにつらいとしても、そのことによって“あなたがおかしくなったわけではない”のです。あなたの身に起きた出来事があまりにもつらい体験だったからなのです。あなたの反応は、交通事故のような突然の死別を体験をした人にとっては、人間として自然な反応なのです。

多くの場合、人は自分自身の持っている回復力や周囲の支援などから少しずつ回復し、悲しみは消えないものの日常生活をおくることができるようになります。しかし、ときにはうつ病やPTSD(外傷後ストレス障害)、複雑な悲嘆反応によって、日常生活や社会生活が困難になることがあります。

このパンフレットは、交通事故によってご家族を亡くされたご遺族が自分の気持ちを理解して、どのように対処したらよいのか、相談や治療が必要な場合の手引きとなることを目的として作りました。皆様のご参考になれば幸いです。

もくじ

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1.交通事故被害者遺族によく見られる"こころの反応"

(1) 悲嘆反応とその時間的経過

親しい人を亡くすと、悲しみや思慕などさまざまな気持ちが表れます。このような死別に対する心の反応を“悲嘆反応”といいます。悲嘆反応は時間の経過とともに変化していきます。

急性期(数週間から数ヵ月)

最初は出来事の衝撃から、死の事実を受け入れられなくなります。死を現実のものと考えることができず、夢のように感じたり、他人事のように感じることがあります。感情が麻痺してしまい、つらいとか悲しいという感情がわいてこず、涙もでないことがあります。

周りから見ると非常に落ち着いて見えるため、周囲からは「気丈な人だ」、「しっかりしているから大丈夫」、「冷たい」などと誤解を受けてしまう場合もあります。この時期が過ぎると、次第に死を現実のものとして感じるようになるため、激しい悲しみが表れてきます。

慢性期(数ヵ月後)

数ヵ月経つと、少しずつ亡くなったという事実が認められるようになり、ご遺族自身の生活が取り戻されてきます。しかし、この過程で悲しみや気持ちの落ち込み、怒り、眠れない、身体の調子が悪いなど、さまざまな症状が表れてきます。やがて時間の経過とともに、悲しい気持ちの程度がやわらぎ、少しずつ社会生活に目を向け、将来のことを考えたり、喜びや楽しみの時間も感じられるようになってきます。

(2) 遺族の方が体験されることが多い感情の特徴

悲しみ

悲しみは誰にでも見られる感情ですが、人によってその表現は異なります。じっと表に出さない人、涙を流す人など、人さまざまです。

怒り

怒りは、加害者に対してだけでなく、このような事故を防げなかった社会制度や、止めることができなかったという思いで、自分や他の家族に向けられることもあります。

罪悪感と自責感

亡くなった人に対して、生前もっとこうしてあげればよかったとか、あのとき電話をしていれば助かったのにとか、自分が助けられなかったことに対して罪悪感や自責感が生まれます。ほとんどの場合、現実には不可能なことなのですが、自分を責めずにはいられず、「自分を責める必要はない」、「そういっても無理なことだった」などの周囲の慰めは、なかなか受け入れがたいことがあります。

不安感

亡くなった人が、生活や心の支えであった場合、その人なしでこれからどうしたらいいか、分からないという不安が生じます。

孤独感

他の家族や友人がいても“一人ぼっちだ”という感情が表れ、特に配偶者をなくした遺族には強く表れます。

疲労感

喪失のストレスからくる疲労だけでなく、実際に葬儀など疲れる出来事がたくさんあります。疲労は無気力や無関心(家事ができない、他の家族に関心をもてない、仕事ができないなど)といった形で表れます。

無力感

亡くなった人を助けられなかったと感じることや、強い精神的ストレスから家事や仕事、育児などができなくなると、自分は何もできないという無力感を感じるようになります。

思慕

亡くなった人を追い求め、何とかして再会したいという気持ちが強く表れます。

具体的症状

以下のような「体の不調を感じやすく」なります。

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幻覚

亡くなって数週間の間は、亡くなった人がまだ生きているように感じたり、その姿が見えたり、声が聞こえるなどの幻覚が生じることもあります。このような幻覚は、病的なものではなく、しばしば一過性にみられるとされています。もし、数週間経ってもこうした幻覚がずっと続くような場合には、医師に相談してください。

行動の変化

ぼうっとしていて、自分がどうやって帰ってきたかよく分からないというような状態になったりします。また、人に会いたくない(周りに合わせるのが困難、孤立感、自分が暗いので周囲に不快な思いをさせるなどの考え)から、引きこもりがちになることも多く見受けられます。

考え方の変化

亡くなった人に対して、生き返らせたいとか、過去に戻って助けたいと思ったり、亡くなった人のことで頭がいっぱいになります。その人を思い出させるものを避ける人(一切部屋に入らない、写真を飾らない、持ち物を捨ててしまうなど)もいれば、いつまでも納骨できない、故人のものを処分できない、部屋をそのままにしているなど、故人の存在をいつも傍に置こうとする人もいるなどその反応はさまざまです。

◇ ◇ ◇

ここにあげたことは、人を失った場合には通常に見られる反応です。このような感情をはじめて経験すると、自分が精神的におかしくなってしまったのではないかと思ってしまうこともありますが、そうではありません。時間の経過とともに、落ち着いてくることが多いのです。

2.専門家に相談したほうがよい“こころの状態”

これまであげたような“こころの反応”は、遺族ならば誰もが経験するものであり、それが一時的なもので、次第に落ち着いて生活が送れるようになるならば、あまり心配しなくてもよいものです。しかし、次のような問題や症状がある場合には、注意しなくてはなりません。

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このような場合には、一人で対処していくのが大変な状況になっています。また、今は大丈夫でも、長引いてくるとうつ病などさまざまな精神疾患をきたす場合もあります。早めに診察や治療を受けることが大切です。多くの精神的な問題は、休養をとったり、お薬を飲んだり、カウンセリングを受けたりすることで徐々に良くなっていきます。

ここでは、注意していただきたい状態として、外傷性(複雑性)悲嘆、PTSD、うつ病の症状をとりあげました。

(1) 外傷性(複雑性)悲嘆

悲嘆反応が長引いたり、反応が強く、複雑な症状がでることもあります。そのような悲嘆反応は、外傷性悲嘆あるいは複雑性悲嘆といわれています。

以下にあげるような症状のいくつかが2ヵ月以上続く場合には、外傷性(複雑性)悲嘆の状態にあると考えられます。このような状態のときには、悲嘆からの回復がとどこおっていることが考えられます。

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(2) PTSD(外傷後ストレス障害)

ご遺族の中には、ご自身も事故に遭っていたり、また亡くなったことに直面したときの精神的ショックが大変強い場合があります。そのような場合には、ご遺族にもPTSD(外傷後ストレス障害)が表れることがあります。

PTSDは、大変強い衝撃を受ける体験をしたあと、その記憶がしきりに思い出され、それによって日常生活が困難をきたすようになってしまう疾患です。次のような症状が1ヵ月以上続く場合には、PTSDを疑う必要があります。

事故の記憶がまるでその場にいたかのようによみがえる。

本当は思い出したくないのに、事故に関係するような些細なきっかけ(サイレンの音など)で、記憶が勝手に(「侵入的」といいます)よみがえってくるもの。まるでその場にいるような感じを覚え、そのときの光景や音、恐怖感がまざまざとよみがえります。生々しい夢としてみることもあります。

記憶を思い出さないように関係あることを避ける

被災の現場付近に行くことを避けたり、関係あるニュースやテレビが見れなかったりという形で表れます。人によってはそのため仕事などの社会生活に支障をきたしたりします。

また、感情が麻痺して喜びや悲しみの感情の実感がなくなったり、未来が短縮したような感じ(早死にするに違いないなど)や、将来のことが考えられなくなったりします。

神経が興奮した状態が続く(過覚醒)

神経の興奮がおさまらないことからくる症状。夜眠れない、何度も目が覚める、イライラする、ちょっとしたことでも敏感になる、何となく不安や恐怖感が消えないなどの症状として表れます。

(3) うつ病

悲嘆反応の一つとしての抑うつは、遺族にはよく見られるものですが、うつ病は一時的なものではなく、症状も深刻です。以下にあげるような症状のいくつかが2週間以上続く場合には、うつ病を疑ってください

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3.どこに相談したらよいのか

こころの問題があるときに、どこに相談したらよいのでしょうか?こころの問題を相談することはなかなか難しいことです。友人や家族もどうしたらよいか、分からない場合があります。

そういうときには、皆様の住んでいる地域にある被害者支援団体や各都道府県の精神保健福祉センター、保健所にご相談ください。相談にのってもらえたり、適切な医療機関や専門家を紹介してもらうことができます。

まずは一人で苦しまず、相談されることをお勧めします。一人で相談することが難しい場合には、家族や友人に問い合わせてもらっても構いません。

◆精神科と薬

精神科の薬は副作用が心配だ、依存症になってしまう、薬に頼るのは弱い人間だなど、精神科のお薬を飲むことに抵抗がある人はたくさんいます。精神科にかかることは、自分がおかしくなっているというレッテルをはられるのじゃないかと抵抗があります。

しかし、日本で約15人に1人はうつ病を経験しているという報告があります。こころの病気は、誰でもかかる可能性があります。以前と比べて、精神科のクリニックは雰囲気も明るく、駅の近くなど、働く人でもかかりやすいところが増えています。

また、精神科のお薬は、以前に比べてずっと副作用が少ないものがあります。うつ病だけでなく、PTSDにもお薬は有効です。睡眠薬など確かに依存性はありますが、医師と相談して正しく服用し、減量していけばあまり問題は生じません。

お酒に頼ったり、苦しいのを我慢してどんどん悪くなるほうが問題です。こころの風邪と思って、こじらせないうちに対処するのが一番です。

どこにかかったらよいか分からない方は、近所の保健所や都道府県の精神保健福祉センターに問い合わせてください。また、最近はインターネット上にホームページを掲載しているクリニックもたくさんあります。

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4.回復のために必要なこと

今の段階では、この悲しみやつらさから回復できるとは思えなかったり、あるいは回復することを自分に許せないような気持ちもあるかもしれません。それでも次のことを心にとめておいてください。

悲しみ、苦痛、怒りなどの自分の感情を認めましょう

自分の感情がコントロールできない、泣くのは弱いなど、自分を責めないでください。悲しいときは、悲しいのは仕方がないと認めてあげることで、逆に気持ちが楽になってきます。

共感を持って聞いてくれる相手に、事件や亡くなった人について話しましょう

もちろん話したくないのに、無理やり話すことではありません。しかし、自助グループの遺族の仲間やこころの許せる友人、家族、支援団体の人、カウンセラーや精神科医師など、自分のつらい気持ち、亡くなった人の思い出など、自分の聞いてもらいたいことを話すことで、徐々に気持ちが整理されていきます。同じことを繰り返し話してもよいのです。

運動や、自分がリラックスできることをしましょう

気持ちが重かったり、疲れていると体を動かすのは大変ですが、軽い運動でよいのです。少し外の空気を吸いに散歩したり、ラジオ体操をしたり、庭の手入れをするなど、体を動かすことで気持ちが切り替わります。また、お風呂にゆったり入る、好きな音楽を聴くなど、自分が楽しい、リラックスできることは積極的に行いましょう。ただ、あまりにも無理をしたり、疲れすぎるまでやらないように気をつけましょう。

人によって悲しみに違いがあることを理解しましょう

同じ家族でも、悲しみの表現には違いがあります。泣きながら話す人もいれば、黙って仕事に打ち込んで忘れようとする人もいます。相手の悲しみ方を尊重しましょう。自分のやり方を受け入れてくれる人に、自分の気持ちを表現することです。同じように、回復にも差があります。人と比べてはいけません。また、遺族以外の人が理解してくれないとしてもそれは仕方のないことだと割り切って、その問題については理解してくれる人に話をしましょう。

無理をしないこと(回復を急がない、大きな判断をしない)

回復には時間がかかりますし、また個人差もあります。自分のペースでよいのです。悲しみやつらさをとめることは、難しいことです。むしろ、悲しみ以外の感情――愛情、喜びなどを取り戻し、日常生活や社会生活を取り戻すことが大切です。自分が不安定だったり、余裕がなかったり落ち込んでいるときに、大きな決断(引越し、離婚、辞職など)を行うことは慎重になってください。少し先に延ばして、落ち着いて考えられるようになってからでよいのです。

苦しみをお酒や薬でまぎらわそうとしない

このことは特に大切です。お酒もタバコも体の健康にはとても有害です。特に、不眠やつらさをまぎらわせるためにお酒を飲んでいると、アルコール依存症になる恐れがあります。お酒やたばこよりは、遺族の仲間や支援者、医師やカウンセラーに相談しましょう。

日常生活を大切にし、自分の生活を少しずつ取り戻すこと

つらい中でも少しがんばった方がよいことがあります。できるだけ食事や睡眠、運動に気をつけて日常生活を送ることが回復の助けになります。もちろん、死別から間もない時期や疲れているときに無理をしてはいけませんが、できる範囲でよいのです。全く引きこもってしまう、誰とも話さなくなることは避けましょう。

時間とともに、以前自分が好きだったことをまた始めたり、あるいは新しいことを始めてもよいでしょう。友人や趣味の仲間との交流を再開するのもよいことです。

◆リラクゼーション

不安でどきどきする、落ち着かないという人や、体が緊張して痛い、眠れないという人は呼吸法をためしてみてください。

  1. ゆったりと楽な姿勢をとる。
  2. 静かに目を閉じる。
  3. 息を静かにゆっくり長めに吐く(リラ〜ックスと頭で唱えながら、細くゆっくりと吐きます。口から細く吐けない人は、鼻から吐いてください)。
  4. 息を吐き切ったところで息を止める(1、2、3くらい)。
  5. そのあと息を鼻から吸う。
  6. これを10分から20分続ける。

*腹式呼吸にあまりこだわらず、むしろ浅い呼吸を楽にゆっくりと行ってください。吐く息を長くすることがポイントです。

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おわりに

<…悲しむことをとめるということは、亡くなった人のことを忘れることではありません。結局のところ、悲しむことが少なくなればなるほど、一層亡くなった人が近くにいるように思えるのです。というのは、共に笑い、楽しかった日々、そして記念日を思い出すでしょうから。>

(MADD(Mothers Against Drunk Driving):“Your Grief: You’re NotGoing Crazy”)

(大久保恵美子訳「MADD(飲酒運転に反対する母親たち)」:“あなたは深い悲しみで気が狂ったりしない −突然の暴力犯罪により愛する人を失った犠牲者の方々へ−”より)


交通事故によってご家族を亡くされた方へ〜心(こころ)の回復のために〜
2006年3月31日発行
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)
交通安全対策担当
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