平成18年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第7節 損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

第7節 損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進

1 交通の指導取締りの状況

(1)概要
救助活動の実施状況
平成17年中における全国の救助活動実施状況は、救助活動件数5万4,598件、救助人員5万7,300人であり、これを前年比較すると、救助活動件数は1,790件(3.2%)減少しており、救助人員は8,554人(13.0%)減少した(第1-22表)。
救急業務の実施状況
平成17年中における全国の救急業務実施状況は、ヘリコプターによる出場件数を含め、528万428件で、前年と比較し、24万8,964件(4.9%)増加した。また、搬送人員は、495万8,363人で、前年と比較し、21万2,491人(4.5%)増加した。
また、救急自動車による出場件数は、全国で1日平均1万4,460件、約6.0秒に1回の割合で救急隊が出場し、国民の約26人に1人が救急隊によって搬送されたことになる。
(2)交通事故に対する活動状況
 平成17年中の救助活動件数及び救助人員のうち、交通事故に際して救出困難な者が生じた場合(自力で車外に脱出できない者が発生した交通事故)に、消防機関が救助用装備・資機材を用いて救助活動に当たったもの(警察との連携、協力の下に行った活動を含む。)は2万707件で、救助人員は2万7,534人となっており、それぞれ全体の37.9%、48.0%を占めた。
 また、平成17年中における救急自動車による救急出場件数527万7,936件、搬送人員495万5,976人のうち、交通事故によるものは、それぞれ65万4,621件(12.4%)、70万1,912人(14.2%)となっている(第1-23表)。
第1-22表 救助活動件数及び救助人員の推移
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第1-23表 救急自動車による救急出場件数及び搬送人員の推移
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1 自動車損害賠償保障制度の充実等

 自動車損害賠償保障制度は、自動車の事故による損害賠償の基本保障を担保する強制保険である自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責保険」という。)、ひき逃げ及び無保険車による事故の被害者に対するてん補を行う政府の自動車損害賠償保障事業(以下「保障事業」という。)、保険料の運用益を活用した被害者救済対策事業及び交通事故防止対策事業(以下「被害者救済対策等」という。)により交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。
 平成13年度から17年度の自賠責保険の支払件数及び支払額は、それぞれ0.5%増加、3.8%減少している(第1-24表)。

(1)自動車損害賠償責任保険(共済)の充実等
 自賠責保険では、被害者保護の充実が図られるよう、国による死亡等重要事案に関する支払審査のほか、保険会社等による被害者等に対する情報提供措置の義務付け、公正中立な紛争処理機関による紛争処理の仕組みの整備など、被害者を保護する措置がとられている。
 これにより、保険金の適正な支払の確保や、保険金支払をめぐる紛争処理の迅速かつ適正な解決による被害者保護の増進を図っているところである。なお、指定紛争処理機関である(財)自賠責保険・共済紛争処理機構による平成17年度の紛争処理件数は477件となっている。
 なお、自賠責保険の保険金限度額は、死亡の場合は3,000万円、介護を要する重度後遺障害者について、常時介護を要する者は4,000万円、随時介護を要する者は3,000万円となっている。
 また、被害者保護の増進、自動車事故の発生の防止が安定的に行われるよう、自動車損害賠償保障法(昭30法97)による自動車事故対策計画に基づき、補助等を行っている。
(2)政府の自動車損害賠償保障事業の充実
 自賠責保険による救済を受けられないひき逃げや無保険車による事故の被害者に対しては、政府の保障事業が被害者に損害のてん補を行い、その救済を図っている。
 この保障事業は、自賠責保険料に組み込まれた賦課金等を財源としており、損害てん補の限度額は自賠責保険と同一である。平成17年度の保障事業による保障金の支払額は、ひき逃げ2,475件及び無保険679件(計3,154件)に対し、約53億5,300万円(死亡122人、傷害3,032人に対してそれぞれ26億7,300万円及び26億8,000万円)である。
(3)無保険(無共済)車両対策の徹底
 自賠責保険は自動車の保有者等が加入を義務付けられている強制保険であるが、特に車検制度がない原動機付自転車及び軽二輪自動車において、期限切れによる無保険車両が発生している。
 このため、国土交通省において、都道府県ごとに無保険車指導員を配置し、街頭で無保険車両の保有者等へ指導を実施することにより、自賠責保険への加入の徹底を図った。
 また、かけ忘れを防止するため、自賠責保険契約期限経過後、再契約の締結が確認できない原動機付自転車等の所有者に対し、再契約を促す通知書を発送した。
 さらに、原動機付自転車等に係る自賠責保険加入の徹底に寄与するため、原動機付自転車等の自賠責保険を郵便局において受託して取り扱った。
(4)任意の自動車保険(自動車共済)の充実等
任意の自動車保険
平成10年7月の保険料率の自由化後、人身傷害補償保険を始め多様な保険商品の開発・導入が進み、補償内容・損害時の対応・保険料水準等について、契約者が自身のニーズにあった保険商品を選択することが可能となっている。
対人賠償保険については、平成17年度に契約された契約金額別構成比が、2,000万円までのもの0.2%、2,000万円を超え5,000万円までのもの0.4%、5,000万円を超え1億円までのもの1.0%、1億円を超えるもの98.4%(うち無制限のもの98.4%)となっており、契約金額の高額化が進んでいる。
なお、平成17年度に自動車保険(任意)の保険金が支払われた死亡事故の賠償額は、平均3,675万円である(第1-25表)。
任意の自動車共済
任意の自動車保険の他、農業協同組合法(昭22法132)に基づく農業協同組合、水産業協同組合法(昭23法242)に基づく漁業協同組合、消費生活協同組合法(昭23法200)に基づく生活協同組合、中小企業等協同組合法(昭24法181)に基づく中小企業共済協同組合、自動車共済協同組合、交通共済協同組合などで任意の自動車共済を実施している。
第1-24表 自賠責保険・自賠責共済の保険金支払件数及び支払額の推移
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第1-25表 自動車保険(任意)保険金支払死亡事故賠償額の推移
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2 損害賠償の請求についての援助等

(1)交通事故相談活動の推進
 交通事故被害者救済対策の一環として、交通事故相談所に勤務する初任の相談員に対し、相談員として必要な基本的知識等の習得を目的とした「交通事故相談員中央研修会」の実施、相談事例や判例等に関する事例研究会の開催、情報誌の作成・配布による相談員の複雑・多様かつ専門化する相談内容への的確な対応を目的とした「交通事故相談員育成事業」及び複雑・多様化する相談内容への即応能力の向上を目的として相談所に弁護士等を派遣し、相談員が弁護士等のアドバイザーから直接、助言を受けられる体制を整備する「交通事故相談員支援事業(アドバイザー事業)」を拡充するなど、地方公共団体の設置する交通事故相談所における相談活動(平成17年度の都道府県・政令指定都市の相談件数は11万2,131件)に対する支援を行い、被害者の損害賠償の適正化を図った(第1-26表)。
(2)損害賠償請求の援助活動等の強化
警察における交通相談の積極化
交通事故による被害者等の救済に寄与するため、全国の警察本部や警察署に交通相談を担当する係を置き、交通相談活動を行った。相談の内容は、示談の進め方、損害賠償請求手続等に関するものが多く、都道府県の交通事故相談所、交通安全活動推進センターの交通相談所等と連携を保ちながら交通事故当事者等からの相談に応じた。
法務省における人権相談
法務省は、全国の法務局、地方法務局及びその支局に開設している常設人権相談所並びに市(区)役所、町村役場、デパート、公民館、公会堂等で臨時に開設する特設人権相談所において、人権相談の一環として交通事故に関する相談に応じ、事件解決のための適切な助言や(財)法律扶助協会(平成18年10月以降は、日本司法支援センター(法テラス))への紹介等を行っている(第1-27表)。
また、平成19年2月から、一層地域住民の利便に資するため、インターネットによる人権相談受付窓口を開設し、人権相談の充実強化を図っている。
(財)法律扶助協会による民事法律扶助事業の推進
民事裁判等において必要な弁護士の報酬などの費用を支払うことができない資力に乏しい人々の正当な権利を守るため、その費用の立替えをするなどの援助を行う制度が民事法律扶助制度であり、(財)法律扶助協会(平成18年10月以降は、日本司法支援センター)が、国から交付される補助金等によって、民事法律扶助事業を実施した。平成17年度の交通事故関係の援助開始(扶助)決定件数は475件である(第1-28表)。
(財)日弁連交通事故相談センターによる交通事故相談活動の強化
(財)日弁連交通事故相談センターは、交通事故の損害賠償に関する無料法律相談等のほか、示談あっせんを行った。
平成17年度の交通事故相談活動は、延べ7,972回相談所を開所し、延べ3万4,848件の相談に応じた(第1-29表)。
(財)交通事故紛争処理センターによる交通事故相談活動の強化
交通事故に関する紛争の適正な処理を図るため、嘱託弁護士による無料法律相談及び和解の斡旋、審査会による審査・裁定業務を行った。
平成17年度は、東京本部のほか、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、高松及び福岡の各支部並びにさいたま市及び金沢市の各相談室で2万1,718件の相談に応じ、示談成立は5,754件、うち審査・裁定手続を経て示談成立に至った事案は580件であった(第1-30表)。
表1-26表 都道府、政令指定都市の交通事故相談所の相談件数の推移
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第1-27表 交通事故関係相談件数の推移
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第1-28表 民事法律扶助(交通事故関係)事件数の推移
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第1-29表 (財)日弁連交通事故相談センターの活動状況の推移
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第1-30表 (財)交通事故紛争処理センターの活動状況の推移
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3 交通事故被害者支援の充実強化

(1)自動車事故被害者等に対する援助措置の充実
独立行政法人自動車事故対策機構
独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)は、被害者の救済を図るため、次に掲げる業務等を行った。
(ア)
介護料の支給
自動車事故により重度の後遺障害を負い常時又は随時介護を要する被害者に介護料の支給を行った。また、在宅介護者に対し短期入院費用を一部助成した。
(イ)
重度後遺障害者療護施設の運営等
重度後遺障害者に対し専門的な治療及び養護を行う療護センター(千葉、東北、岡山、中部)の運営を行うとともに、中部療護センター、東北療護センター、岡山療護センターに加え、千葉療護センターにおいても短期入院の受入れを実施した。
(ウ)
貸付業務の実施
自動車事故により死亡した者の遺族又は重度の後遺障害が残った者の子弟である義務教育終了前の児童に対する生活資金の無利子貸付業務等の被害者に対する貸付業務を行った。
交通遺児に対する援助
(財)交通遺児育成基金は、自動車事故によって一家の働き手を失った交通遺児に対し、交通遺児家庭の生活基盤を安定させ、交通遺児の健やかな育成に資するため、交通遺児に支払われた損害賠償金等から拠出された資金に、国の補助金と民間団体の援助金を加えて運用し、これを遺児が満19歳に達するまで、年金方式で育成給付金を支給する交通遺児育成基金事業を実施した。
なお、平成17年度末現在における加入遺児総数は1,554人となっている。
交通安全活動推進センター
都道府県交通安全活動推進センターでは、職員のほか、弁護士、カウンセラー等を相談員として配置し、交通事故の保険請求、損害賠償請求、示談等の経済的被害の回復に関してだけでなく、交通事故による精神的被害の回復に関しても、交通事故被害者、遺族からの相談に応じ、適切な助言を行った。
(2)交通事故被害者等の心情に配慮した対策の推進
交通事故被害者等に対する情報提供の実施
交通事故被害者等にとって、事故の捜査状況、加害者の処分状況等は自らの問題として重大な関心事であることから、ひき逃げ事件、交通死亡事故等の被害者・遺族に対して、事故の概要、捜査状況等についての被害者連絡を適時、適切に実施するとともに、「交通事故被害者の手引」の配布や各種相談活動によって、被害者等にとって必要な情報の提供に努めている。さらに、加害者に対し意見の聴取等を行う期日、加害者に対する行政処分の結果について被害者等からの問い合わせがあった場合には適切に回答するなど、被害者等の心情に配慮した行政処分制度の運用に努めた。
検察庁では、被害者等に刑事事件の処理結果、公判期日等を通知する被害者等通知制度を実施しているほか、全国の検察庁に被害者支援員を配置し、被害者からの様々な相談への対応、法廷への案内、付添い、各種手続の手助けをするほか、被害者等の状況に応じて精神面、生活面、経済面等の支援を行っている関係機関や団体等を紹介するなどの支援活動を行うとともに、犯罪被害者保護制度について分かりやすく説明したパンフレットを検察庁等に備え付けるなどの支援業務を行った。
また、被害者等に対する不起訴事件記録の開示についても弾力的な運用を図った。
交通事故被害者等の声を反映した講習等の推進
運転免許に関する各種講習において、被害者等の手記集やビデオを活用するほか、被害者等の講話を取り入れるなどにより、講習において被害者等の声を反映させ、交通事故の悲惨さを受講者に効果的に理解させる施策の推進を図った。また、被害者等の手記を取りまとめた資料等については、交通安全推進団体等にも配布し、交通事故の悲惨さの紹介に努め、交通事故の惨状等に関する国民の理解増進を図った。
交通事故被害者サポート事業の実施
交通事故被害者の自立を支援する立場にある者の技術を向上させるとともに、交通事故被害者の自助グループに対する支援を行う「交通事故被害者サポート事業」を実施した。

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