平成19年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第1節 海上交通環境の整備

第2編 海上交通

第2章 海上交通安全施策の現況

第1節 海上交通環境の整備

1 交通安全施設等の整備

(1)開発保全航路の整備
 社会資本整備重点計画に基づき、船舶航行の安全性向上等のため、平成19年度は東京湾口航路や関門航路等の開発保全航路において浚渫等を行った。
(2)港湾の整備
 社会資本整備重点計画に基づき、平成19年度は事業費3,864億円(うち国費2,341億円)をもって港湾整備事業を実施し、その一環として海上交通の安全性の向上を図るため、防波堤、航路、泊地等の整備を行った。また、沿岸域を航行する船舶の緊急避難に対応するため、下田港等6港において避難港の整備を行った。
(3)漁港の整備
 平成19年度を初年度とする新たな漁港漁場整備長期計画に基づき、地域水産物供給基盤整備事業及び広域漁港整備事業等を実施し、外郭施設等の整備を通じて漁船の安全の確保を図った。
 また、水産物流通等の拠点となる漁港において、周辺の漁港等との連携に配慮しつつ、泊地、耐震岸壁、輸送施設等の整備を推進した。
(4)航路標識等の整備
 船舶交通の安全確保及び運航能率の向上を図るため、港湾及び航路の整備の進展や船舶交通の高速化等海上交通環境の変化に対応した航路標識の整備を実施し、平成19年度末現在で5,503基の航路標識を管理している。
 平成19年度は、ふくそう海域における海難の防止、船舶交通の安全対策強化等のため、阪神港等における船舶自動識別装置(AIS)を活用した次世代型航行支援システムの整備や東京湾等における既存航路標識の同期点滅化、光源の発光ダイオード(LED)化等821か所の整備を実施した。
(5)港湾の耐震性の強化
 社会資本整備重点計画等に基づき、19年度は仙台塩釜港等の耐震強化岸壁の整備、川崎港基幹的広域防災拠点の整備を行った。
 港湾の技術開発についても、耐震対策等の充実強化に向けた調査研究を推進した。
(6)港湾の保安対策の推進
 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(平16法31)に基づく国際埠頭施設の保安措置が適確に行われるように実施状況の確認や人材育成等の施策を行うとともに、内航旅客ターミナルの保安施設整備を進め、港湾の保安対策の強化に努めた。

2 交通規制及び海上交通に関する情報提供の充実

(1)ふくそう海域における船舶交通安全対策の推進
 船舶交通のふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海に海上交通安全法(昭47法115)を適用して11の航路を設定し、航路航行義務等特別の交通ルール等を定めるとともに、航路の航行管制を行い、船舶交通の安全を図っている。また、狭あいな海域に多数の船舶が頻繁に出入りする全国の499港に、港則法(昭23法174)を適用して港内における特別の交通ルール等を定めている。このうち、特に入出港船舶等の多い84港を特定港に指定し、上記規制に加え入出港の届出等の船舶動静を把握するための措置を定めるとともに、港内の航行管制を行うほか、危険物荷役を規制するなど、港内における船舶交通の安全と港内の整頓を図っている。
 平成19年度は、東京湾及び伊勢湾における海上交通を取り巻く環境の変化に適切に対応するため、航路への出入又は航路の横断の制限の廃止、航路航行義務区間の変更、行先表示の見直し等を行うとともに、港湾施設整備の進ちょく等に伴う各港における船舶交通の実態の変化に適切に対応するため、浦河港の港域の拡張等の所要の見直しを行った。
 また、船舶交通のふくそうしている海域の安全性を確保しつつ運航能率の向上を図るために、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムである海上交通情報機構を整備し、海上交通センター等が運用を行っている。
 平成19年12月には、東京湾、名古屋港、伊勢湾、備讃瀬戸、来島海峡、関門海峡の各海上交通センターに引き続き、大阪湾海上交通センターにおいても、AISを活用した次世代型航行支援システムの運用を開始し、通航船舶に対する情報提供の一層の充実を図った。
(2)沿岸海域における情報提供の充実
 沿岸海域における船舶交通の安全を確保するため、気象・海象情報等の船舶交通の安全に必要な情報を携帯電話のインターネット・ホームページ等で提供する沿岸域情報提供システム(MICS)を全国69箇所の海上保安部等で運用した。
(3)海図・水路誌等の整備及び水路通報等の充実
海図・水路誌等の整備
水路測量、海象観測等を実施し、航海の安全のために不可欠な航海用海図(紙海図及び電子海図)、航海参考用としての海流図、潮流図等の特殊図を刊行しており、特に航海用海図については、補正図等により常に港湾、航路の現状に即した最新の状態を維持するよう努めた。
平成19年度には、伊勢湾等の沿岸測量、苫小牧港等の港湾測量及び鹿児島港等の補正測量を実施し、紙海図を新改版したほか、補正図を発行した。なお、紙海図の改版等に併せ、管区海上保安本部が設定している航法の内容又は当該情報の所在に関する情報を記載した。さらに、航海用海図に表現できない航海の安全のために必要な港湾・航路、気象・海象、航路標識等の状況について詳細に記載した水路誌を新改版するとともに、外国人が運航する船舶の海難防止対策の一環として、英語のみで表記した海図及び水路誌を刊行した。
また、従来の紙海図と同程度の情報量と精度に加え、画面上に自船等の位置、速力、針路等の航海の安全に必要な情報を表示できる電子海図表示システムに必要な航海用電子海図を刊行するとともに、その最新維持のため電子水路通報を発行した。
一方、(財)日本水路協会においては、平成19年は、パソコン用の航海用参考図(CD-ROM)3種類の更新版を発行した。
このほか、離島や沿岸域において火山噴火、地震、津波等の災害が発生した場合における海上からの救難・救助活動を迅速かつ適切に実施するため、海岸線、水深等の自然情報、公共機関所在地等の社会情報及び災害危険地、避難地等の防災情報を網羅した沿岸防災情報図の整備を行った。
水路通報、航行警報等の充実
船舶が安全な航海を行うために必要な情報や、航海に使用する海図・水路誌等の内容を常に最新に維持するため、平成19年には約3万件の情報を水路通報及び管区水路通報としてインターネット等により提供したほか、航海用電子海図の更新情報を電子水路通報としてインターネット等により提供した。
また、航海中の船舶に対して緊急に周知する必要がある情報については航行警報を発出し、平成19年には約1万2千件の情報を提供するなど、海上保安庁が運用している通信施設のほか衛星通信、インターネット、ラジオ、漁業無線といった様々な媒体により幅広く情報提供を実施した。
さらに、我が国周辺海域における海流・海氷等の海況を取りまとめた海洋速報や黒潮等の海流の状況を短期的に予測した海流推測図等を海流通報としてインターネット等により提供しており、平成19年には約105万件の情報を提供した。
(4)気象情報等の充実
 海上交通に影響を及ぼす自然現象について、的確な実況監視を行い、適時・適切に予報・警報等を発表・伝達して、事故の防止及び被害の軽減に努めるとともに、これらの情報の内容の充実と効果的利用を図るため、第1編第1部第2章第3節7(3)で述べた施策を講じた。また、波浪や高潮の予測モデルの運用及び改善を行うとともに、海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)において最大限有効に利用できるよう海上予報・警報の精度向上及び内容の改善に努めたほか、主に次のことを行った。
船舶に対する気象情報等の提供
(ア)
気象・海象・火山現象に関する情報の提供
気象庁船舶気象無線通報、気象庁気象無線模写通報、海上保安庁の海岸局によるナブテックス放送、NHKによるラジオの漁業気象通報等によって、海上の気象実況及び予報・警報や沿岸及び外洋波浪、海面水温、海流、海氷等の実況及び予想に関する情報を提供した。
また、平成19年12月から、火山現象に関する海上予報・警報の提供を開始した。
(イ)
船舶気象通報
沿岸海域を航行する船舶や操業漁船等の安全を図るため、全国各地の主要な岬の灯台等125か所において局地的な風向、風速等の気象・海象の観測を行い、その現況を無線電話、テレホンサービス又はインターネット・ホームページで提供する船舶気象通報業務を行った。
気象・海象に関する知識の普及等
海難防止に関する講習会等に職員を派遣するなど、機会をとらえて気象・海象に関する知識の普及や技術指導を行うとともに、エルニーニョ現象等の動向に関する情報を報道機関を通じて周知した。

3 高齢社会に対応した旅客船ターミナル等の整備

 高齢者、障害者等も含めたすべての利用者が旅客船、旅客船ターミナル、係留施設等を安全かつ身体的負担の少ない方法で利用・移動できるよう、段差の解消、視覚障害者誘導用ブロックの整備等を推進しており、平成19年度は、石垣港等で船舶乗降時の潮位差による段差の解消を図る浮桟橋等の整備を推進し、施設のバリアフリー化を行った。

※エルニーニョ現象

太平洋東部赤道域のペルー沖から日付変更線にかけての広い海域で、海面水温が平年に比べて高い状態が1年程度続く現象。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼んでいる。

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