平成20年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第1章 道路交通事故の動向
特集 交通事故死者数半減を目指して

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第1章 道路交通事故の動向

特集 交通事故死者数半減を目指して

 平成20年中の交通事故死者数は、5,155人で、過去最悪であった昭和45年の1万6,765人の3分の1以下になるとともに、死傷者についても、10年ぶりに100万人を下回り、「第8次交通安全基本計画」の目標を、2年前倒しで達成した。
 しかしながら、いまだに多くの方が、交通事故で亡くなっていることは、憂慮すべきことである。
 平成21年1月2日に、「交通事故死者数が第8次交通安全基本計画の目標を下回ったことに関する内閣総理大臣(中央交通安全対策会議会長)の談話」を公表し、今後10年間を目途に、更に交通事故死者数を半減し、「世界一安全」な道路交通の実現を目指すという決意を明らかにした。政府としては、この談話に従って、平成30年を目途に交通事故死者数を2,500人以下とする政府目標を掲げ、交通事故防止対策の推進を図っているところであり、近年の交通事故死者数減少の主な要因及び交通事故死者数半減に向けた当面の取組み等を特集として御紹介したい。

1.交通事故死者数が第8次交通安全基本計画の目標を下回ったことに関する内閣総理大臣(中央交通安全対策会議会長)の談話

平成21年1月2日

 昨年1年間の交通事故死者数は、5,155人でした。平成22年までに交通事故死者数を5,500人以下とする「第8次交通安全基本計画」の目標を、2年前倒しで達成しました。
 近年の交通事故死者数の減少は、シートベルトの着用者率の向上や、飲酒運転の根絶等に向けた取組を始めとする政府、地方自治体、関係民間団体、地域の方々の努力の成果であります。この間、交通事故防止に御尽力いただいた方々に感謝いたします。
 また、平成15年からの10年間で、交通事故死者数を半減し、5,000人以下にするという政府目標を掲げております。その実現も、間近となりました。
 しかしながら、いまだに多くの方が、交通事故で亡くなっていることは、憂慮すべきことです。
 新たな年を迎え、私は、今後10年間を目途に、更に交通事故死者数を、半減させる決意をいたしました。
 この目標の実現は容易ではありませんが、政府、関係団体、国民を挙げて力を結集し、世界一安全な道路交通の実現を目指してまいります。
 そのためには、高齢化が更に進むことを考えると、高齢者に対する対策に重点的に取り組まなければなりません。また、飲酒運転の根絶、交通安全教育の推進、安全かつ円滑な道路交通環境の整備に力をいれます。
 国民の皆様の、御理解と御支援を、お願いいたします。

中央交通安全対策会議会長
内閣総理大臣 麻生 太郎

2.人口10万人当たりの交通事故死者数

 国際道路交通事故データベース(IRTAD)がデータを有する29か国について、人口10万人当たりの死者数を比較すると、我が国は5.2人(2007年)であり、第6位に位置している。
 平成30年を目途に交通事故死者数を2,500人以下とする目標が達成されれば、我が国の人口10万人当たりの死者数は2.3人となる。

人口10万人当たり死者数

3.交通事故死者数減少に係る各国の目標

 日本においては、交通安全対策基本法に基づき、数値目標を定めた交通安全基本計画を5年ごとに策定しているほか、今後10年間で交通事故死者数を半減するとの目標を談話で示したところである。OECD諸国においても、中期で交通事故死者数の減少を目標としている国が多く見られるが、この中でも日本の掲げる目標は高い水準のものとなっている。

交通事故死者数減少に係る各国の目標

4.近年の交通事故死者数減少の主な要因

 道路交通環境の整備、交通安全思想の普及徹底、安全運転の確保、車両の安全性の確保、道路交通秩序の維持、救助・救急体制等の整備等、交通安全基本計画に基づく諸対策を総合的に推進してきたことにより交通事故死者数は、減少してきている。このような減少要因のうち定量的に示すことができる主な要因としては、<1>シートベルト着用者率の向上、<2>飲酒運転等悪質・危険性の高い事故の減少、<3>高速走行の事故の減少、<4>法令違反の歩行者の減少、<5>車両の安全性向上が挙げられる。

(1)シートベルト着用者率の向上

 シートベルト非着用者の致死率は、着用者の11.4倍でありシートベルトの着用が交通事故の被害軽減に寄与していると認められる。シートベルト着用者率の向上に伴い、致死率(自動車乗車中)も平成10年の0.65%から0.29%まで減少しており、死者数減少の要因の一つである考えられる。

シートベルト着用者率及び致死率(自動車乗車中)の推移

(2)飲酒運転等悪質・危険性の高い事故の減少

 10年前と比較すると飲酒運転による交通事故は約3分の1に、最高速度違反による交通事故は約2分の1にそれぞれ減少している。これら悪質・危険性の高い違反による事故の減少が、死者数減少の要因の一つであると考えられる。

飲酒運転・最高速度違反による交通事故件数及び死者数等の推移

(3)高速走行の事故の減少

 一般道路での危険認知速度別の死亡事故率を比較すると、50km/h以下が0.4%、50km/h超~80km/h以下が4.9%(50km/h以下の12倍)、80km/h超が24.9%(50km/h以下の62倍)と速度が高くなるほど死亡事故率が高くなっている。10年前と比較すると死亡事故率の低い50km/h以下の事故の減少が約3%にとどまっている一方死亡事故率が高い80km/h超の事故は4分の1以下となっており、高速走行の事故が減少してきていることが、死者数減少の要因の一つであると考えられる。

危険認知速度別交通事故件数(一般道路)及び死者数の推移

(4)法令違反の歩行者等歩行中の死者数の減少

 10年前と比較して、違反あり歩行者の死傷者数は約36%減少している。違反のある歩行者の致死率は、違反のない者の3.6倍となっており、歩行者に違反がある死傷事故が減少したことが死者数減少の要因の一つであると考えられる。

歩行中死傷者数及び違反あり歩行者の死傷者数の推移

(5)車両の安全性向上

車両安全対策の拡充・強化
死亡事故の削減の実施のため、事故データに基づいて、乗用車等の後部中央席への三点式座席ベルトの義務付け等安全基準の拡充・強化、被害軽減ブレーキ等の先進安全自動車の開発・実用化・普及促進、自動車アセスメント等を実施している。
車両安全対策の拡充・強化
事故発生年別・初度登録年別の普通乗用車10万台当たりの乗車中死者数
平成11年中に発生した交通事故のうち、普通乗用車の初度登録年別に、普通乗用車10万台当たりの乗車中の交通事故死者数を見ると、平成2年に登録されたものは8人を超えていたが、10年に登録されたものは4人を下回っている。
また、近年に発生した交通事故についても、同様の傾向が続き、19年中に発生した交通事故のうち、18年に登録された普通乗用車10万台当たりの乗車中死者数は、1人を大きく下回っている。
このことから、衝突吸収ボディの採用、エアバック装着等の衝突安全性の向上、ABS装着車の普及等の予防安全性の向上といった車両安全対策の拡充・強化による車両の安全性向上が、死者数減少の要因の1つであると考えられる。
事故発生年別・初度登録年別の普通乗用車10万台当たりの乗車中死者数

5.半減に向けた当面の取組みについて

【高齢者に対する対策】

1 講習予備検査(認知機能検査)の適正な実施と高齢者の理解の確保

 75歳以上の運転免許保有者の免許証更新の際に講習予備検査を実施することとする改正道路交通法が平成21年6月1日に施行されることから、講習予備検査の適正な実施を図るとともに、改正法施行後も実施状況を検証し、運用の改善を行っていく。また、講習予備検査の結果、記憶力・判断力が低くなっていると認められ、かつ、信号無視等の特定の違反がある場合には、臨時適性検査を実施することとなることから、相談窓口の充実を含む実施体制の整備を図るとともに、高齢者に対する広報啓発活動を積極的に行い、講習予備検査に関する正しい理解の確保に努める。

講習会

2 高齢者に対する交通安全教育の推進

 高齢者に対しては、年齢に伴う身体機能の低下が行動に及ぼす影響等を理解してもらうため、各種教育用機材を積極的に活用した参加・体験・実践型の交通安全教育を実施する。交通安全教育を受ける機会が少ないことなどにより、交通ルール等に関する理解が十分でない高齢者に対しては、歩行者及び自転車利用者の心得等について理解することができる内容の安全教育を、高齢運転者に対しては、安全な運転に必要な知識・技能を習得させるための講習会をそれぞれ実施する。
 高齢者に対する交通安全教育の実施に当たっては、平素から高齢者と接する機会の多い民生委員等の福祉関係者を始め、地域の関係機関・団体等と連携し、高齢者宅の訪問指導等により日常的に必要な知識の習得が行われるよう地域ぐるみの支援体制を構築する。さらに、高齢者間の相互啓発による安全意識の高揚を図るため、高齢者自身による交通安全に係るボランティア活動を促進するほか、老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会や交通指導員を設け、その活性化に努める。

講習会

3 高齢運転者対策の推進

 高齢運転者に対する運転適性相談の充実、申請による免許の取消し制度についての周知、免許返納者への支援の強化に努めるとともに、高齢者講習の講習内容を充実し、効果的な高齢者講習の実施を図るなど、総合的な高齢運転者対策を推進する。
 また、高齢運転者標識の表示について、高齢者講習を始めとするあらゆる機会を通じて表示の促進を図り、あわせて、他の年齢層に高齢運転者の特性を理解させ、高齢運転者標識を表示した自動車の保護意識を高めるよう運転者教育を行う。

【飲酒運転の根絶に向けた取組】

1 飲酒運転に係る国民の規範意識の確立

 飲酒運転の危険性や飲酒運転による交通事故の実態を周知するための交通安全教育や広報啓発を引き続き推進するとともに、交通ボランティアや安全運転管理者等、酒類製造・販売業者、酒類提供飲食店、駐車場関係者等と連携してハンドルキーパー運動の普及啓発に努めるなど、地域、職域等における飲酒運転防止の取組みを更に進め、「飲酒運転をしない、させない」という国民の規範意識の確立を図る。
 また、飲酒運転根絶の受け皿として、「運転代行サービスの利用環境改善プログラム」(平成20年2月に「安全で良質な運転代行サービス」の利用環境改善のために警察庁及び国土交通省が講ずる具体的な方策を取りまとめたもの。)に基づき、自動車運転代行業の健全化を図る。

ハンドルキーパー

●アルコールの影響の進み方

 右表は体重約60kgの人が飲んだ場合に、酔いがさめるまでの時間の目安です。(個人差があります。)
 個人の体質によりアルコールの分解速度は異なり、早く分解する人、遅く分解する人がいますが、日本酒三合を飲んだ場合、アルコールの影響がなくなるまでにおよそ半日かかります。「一眠りしたから大丈夫」は禁物です。アルコールは自分で思っているより長く体内に留まって身体に影響を及ぼします。アルコールの影響について、正しく理解し、適切な運転を心掛けましょう。

酔いがさめるまでの時間の目安

2 危険運転者の排除と改善

 危険運転者を道路交通の場から早期に排除するため、仮停止を始めとする行政処分の迅速・的確な実施のほか、運転に支障を及ぼす病気の疑いのある者等に対する臨時適性検査等の適正な実施に努める。
 また、違反行為をした危険運転者の改善のため、初心運転者講習、違反者講習、停止処分者講習及び取消処分者講習について、講習指導員を計画的に養成するとともに、講習施設等の資機材の整備・充実に努め、指導の充実を図る。
 特に、取消処分者講習については、指定講習機関制度の適正な運用と講習水準の維持向上に努める。

 道路交通法の改正(平成21年6月1日から施行)により、運転免許の欠格期間の上限が引き上げられ、より長期間、悪質・危険な運転者を道路交通の場から排除することが可能になりました。あわせて、道路交通法施行令の改正により、酒気帯び運転等の違反点数が引き上げられました。

運転免許の欠格期間の見直し

エンジン始動前にアルコール・インターロック装置に呼気を吹き込んでいる様子 資料提供:(財)日本自動車研究所

3 常習飲酒運転者対策

 飲酒運転による交通事故については、道路交通法の改正による罰則の強化等の効果により、近年、減少傾向で推移しており、10年前に比べ、飲酒運転による死亡事故件数は約4分の1にまで減少している。
 しかしながら、飲酒運転を繰り返す常習飲酒運転の背景には、常習飲酒者、多量飲酒者、さらには、アルコール依存症の問題が指摘されており、内閣府では、常習飲酒運転者の飲酒運転行動の抑止に総合的に取り組むため、課題の抽出、対策の整理のほか、教育的プログラム(ブリーフ・インターベーション)やアルコール・インターロック装置の活用を含めた、総合的な常習飲酒運転者対策について多角的に調査研究を実施している。
 また、警察では飲酒運転をした者の免許を取り消すなど、迅速・的確な行政処分を行うとともに、常習飲酒運転者等による飲酒運転を防止するため、飲酒学級の講習内容の充実に努めるほか、処分者講習等において、常習飲酒等が疑われる者に対する相談機関等に関する情報の提供に努める。

取締り

4 飲酒運転の取締り等

 取締り結果や交通事故発生状況等を的確に分析し、飲酒運転が常態的に見られる時間帯・場所に重点を置いた効果的な飲酒運転の取締りを行う。
 また、飲酒運転や飲酒ひき逃げ事件を検挙した際は、運転者に対する捜査のみならず、車両等の使用者、飲酒場所、同乗者、飲酒の同席者等に対する徹底した捜査を行い、車両等提供罪、酒類提供罪及び要求・依頼同乗罪の確実な適用や教唆行為の確実な立件に努める。
 さらに、飲酒運転を始めとする悪質かつ危険な運転行為による死傷事故に対しては、危険運転致死傷罪の積極的な適用を図る。

5 飲酒運転防止技術の開発促進

 メーカーでは、呼気吹き込み式のアルコール・インターロック装置以外の煩わしさの少ない飲酒運転防止技術を開発しており、国土交通省では、新たな飲酒運転防止技術の実用化のための検討を行うこととしている。

【交通安全教育の推進】

1 交通事故実態等を踏まえた交通安全教育の推進

 幼児・児童に対して、学校等周辺の道路の具体的な危険箇所を取り上げるなど関心を持たせるよう工夫を凝らし、発達段階に応じた交通安全教育を推進する。生徒に対して、交通安全活動への参加を促すことなどにより、自主的に技術と知識を習得し、道路交通の安全を確保する意識を高められるように努める。
 地域の交通事故実態を踏まえ、多発している事故状況等に着目した交通安全教育を実施するとともに、薄暮時・夜間の事故防止対策として、車両の前照灯の早期点灯及び反射材の活用の促進について積極的に広報啓発活動を実施する。
 また、交通安全教育が地域、職域、学校等において主体的に行われるようにするため、交通安全教育指針の普及、交通安全教育を適切に行うことのできる指導者の育成及び活動に対する支援に努める。

2 全国交通安全運動の推進

 国民一人ひとりに広く交通安全思想の普及・浸透を図り、交通ルールの遵守と正しい交通マナーの実践を習慣付けるとともに、国民自身による道路交通環境の改善に向けた取組を推進するための国民運動として、国の運動主催機関・団体を始め、地方公共団体の交通対策協議会等の構成機関・団体が相互に連携して、交通安全運動を組織的・継続的に展開する。
 平成21年4月13日には、春の全国交通安全運動の実施に伴う中央行事として、大田区立萩中小学校において、麻生内閣総理大臣、関係閣僚等の出席の下「中央大会」を開催し、新入学児童へ横断歩道歩行訓練や自転車教室等の参加型・実践型の交通安全教室を実施した。

平成21年春の全国交通安全運動中央大会

小学校にて交通安全教育を実施

【安全かつ円滑な道路交通環境の整備】

1 生活道路等の対策

 歩行者及び自転車利用者に係る交通事故が多発する地区の生活道路においては、信号灯器のLED化や道路標識・道路標示の高輝度化、周辺幹線道路における光ビーコンや交通情報板の整備等を重点的に推進することにより、通過交通の進入抑制や速度抑制、幹線道路における交通流の円滑化を図り、歩行者・自転車利用者の安全かつ円滑な通行を確保するとともに、歩道の整備、歩行空間のバリアフリー化等により、安心して移動できる歩行空間ネットワークを整備する経路対策、ハンプ、シケイン等車両速度を抑制する道路構造等により、歩行者や自転車の通行を優先するゾーンを形成するゾーン対策、交差点の改良等により外周幹線道路の通行を円滑化し、エリア内への通過車両を抑制する外周道路対策を推進する。
 また、その他の生活道路においても「生活道路事故抑止対策マニュアル」を活用するなどして、地域住民等の意見を反映しつつ、歩行者、自転車利用者にとって危険な地点・路線において点的・線的な交通事故抑止対策を実施する。
 さらに、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平18法91)に基づき、重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路を重点に、音響式信号機等の整備、歩車分離式信号の運用や、道路標示の高輝度化等を推進する。

自転車専用通行帯

2 通学路等における安全、安心な歩行空間の創出

 「あんしん歩行エリア」や「くらしのみちゾーン」を含め、小学校等に通う多くの児童が利用するなど、事故の危険性の高い通学路において集中的に交通安全対策を実施する。この際、市街地など歩道等の整備が困難な地域においては、路肩のカラー舗装や防護柵設置等の簡易な方法も含めて、安全・安心な歩行空間の創出を推進する。

3 自転車通行環境の整備

 自転車利用者及び歩行者の安全を確保するため、自転車道・自転車駐車場の整備、自転車専用通行帯の設置等の対策を計画的に推進する。
 特に、現在推進中の自転車通行環境整備モデル地区事業の早期完成に向けた取組みを重点的に推進する。

4 幹線道路の対策

 死傷事故率が高い、又は死傷事故が多発している交差点・単路を事故危険箇所として選定の上、交差点改良や歩道を含めた交通安全施設等を集中的に整備する。

5 道路ネットワークの整備と規格の高い道路の利用促進

 高規格幹線道路から居住地域内道路に至るネットワークによって適切に機能が分担されるよう道路の体系的整備を推進する。また、一般道路に比べ安全性が高い高規格幹線道路の利用促進を図る。

6 高度道路交通システム(ITS)の推進

 「IT新改革戦略」に基づき、交通事故の未然防止を目的とした安全運転支援システムの実現に向け、関係省庁(内閣官房、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省)と、民間の代表であるITS Japanと経団連が一体となった活動体「ITS推進協議会」を設立し、2008年度に実施した大規模実証実験を踏まえ、2010年度からのシステム実用化及び全国展開に向けた取組みを行っている。
 また、積雪寒冷地における路面情報提供や大都市圏における広域な道路交通情報提供に係る実証実験を実施し、プローブ情報を活用した道路利用者の更なる利便性向上を図る。
 さらに、上記システムを含め、カーナビ、VICS、ETC等の活用や組み合わせによる多様なITS(高度道路交通システム)サービスを実現する次世代の車載機やそれに対応した設備について、高速道路等において整備・活用を図り、交通流の円滑化や安全運転支援によるさらなる交通事故削減を推進する。

高度道路交通システム(ITS)の推進

【車両の安全性の確保】

 車両の安全性の確保については、安全基準、ASV推進計画、自動車アセスメントなどの対策について、<1>事故実態の把握・分析、<2>安全対策の実施、<3>対策の効果評価からなる「自動車安全対策のサイクル」の考え方を基本とし、事故実態の把握、必要な国際的協力の推進、透明性の確保を行いながら、今後とも継続、充実させることとしている。

1 安全基準の拡充・強化

 これまで成果を挙げてきた衝突後被害軽減技術に加え、予防安全技術に関し今後一層推進する。また、近年増加傾向にある頸部損傷への対策を進めるため、ヘッドレスト(頭部後傾抑止装置)の世界統一基準の策定作業等に積極的に参加する。さらに、歩行者保護基準(脚部)の導入検討や近年普及が進んでいるハイブリッド車等の静かな自動車に対する対策の検討を進める。

2 先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進

 ASVの開発・実用化・普及を促進すべく、平成18年度から産・学・官の協力体制で第4期ASV推進計画を進めており、システムの一部実用化に向け、システムに係る具体的要件や試験方法等を検討する。また、大型車用衝突被害軽減ブレーキに対する補助を引き続き実施する。

大型衝突被害軽減ブレーキの作動例

3 自動車アセスメント情報の提供等

 自動車とチャイルドシートに関する安全性能の評価結果を公表し、ユーザーの安全な自動車等の選択や製作者のより安全な自動車等の開発を促進する。

4 その他

 自動車メーカーによるリコールに係る不正行為の発覚を受け、平成16年度に再発防止対策を取りまとめ、情報収集体制、監査体制及び技術的検証体制を順次強化してきており、引き続きリコール制度の着実な運用に努める。さらに、不正車検の防止等を図るための自動車検査の高度化に引き続き取り組むとともに、自動車ユーザーの保守管理意識の高揚と点検整備の適切な実施の推進を図るため、点検整備推進運動等を引き続き実施する。

【自転車の安全利用】

1 自転車利用者に対するルールの周知

 地方公共団体や学校、自転車関係事業者等と連携し、「交通の方法に関する教則」や「自転車安全利用五則」を活用するなどして、集中的かつ効果的な広報啓発活動を実施し、学校、教育委員会等との連携を強化して、児童・生徒に対する自転車安全教育を強力に推進するとともに、高齢者、主婦等の幅広い自転車利用者に対して自転車の通行ルール等の周知を図る。また、自転車指導啓発重点地区・路線を中心に、地域交通安全活動推進委員や地方公共団体の交通指導員、地域住民等と共同で街頭における指導啓発活動を積極的に推進する。
 また、自転車事故の実態やヘルメットの被害軽減効果についての広報啓発活動を推進し、特に、幼児や児童が自転車に乗車する際のヘルメットの着用を積極的に促進する。

自転車安全利用五則

自転車利用者に対するルールの周知

幼児2人同乗用自転車

いわゆる自転車の幼児2人同乗については、安全上問題があるにもかかわらず、これまで広く行われていました。このような状態を解消し、自転車の利用者や周囲の歩行者等の安全確保を図り、さらには、複数の幼児を持つ保護者のニーズに応えるため、平成20年4月、警察庁に部外有識者からなる検討委員会が設置され、1間にわたって慎重に検討が重ねられました。その結果、「幼児2人同乗用自転車」に限って幼児2人同乗を認めるべきとの結論となり、あわせて、「幼児2人同乗用自転車」に求められる要件等が示されました。今後、安全性を示すSGマークやBAAマークによる認証、警察と関係機関の連携等により、幼児2人同乗用自転車の普及と安全利用の促進に努めることとしています。子育て支援の観点からも、自治体等による助成制度やレンタル制度等の取組が期待されています。

自転車の安全利用に向けた指導取締りの推進

2 自転車の安全性の確保

 夜間における交通事故の防止を図るため、灯火の取付けの徹底と反射器材の普及促進を図り、自転車の被視認性の向上を図るとともに、自転車利用者が定期的に点検整備や正しい利用方法等の指導を受ける機運を醸成し、自転車事故による被害者の救済に資するため各種保険の普及に努める。

3 自転車の安全利用に向けた指導取締りの推進

 自転車の安全利用に向け、自転車利用者の無灯火、二人乗り、信号無視、一時不停止、歩道通行者に危険を及ぼす違反等に対する指導警告活動を一層強力に推進するとともに、歩行者や通行車両に具体的危険を生じさせたり、現場における指導警告に従わないなど悪質・危険な違反者に対しては、積極的な検挙措置を講ずる。

【その他】

1 最高速度違反による交通事故対策に関する検討
 車両の走行速度は交通事故の発生や被害の度合いに大きな影響を与えていることから、最高速度違反による交通事故の防止を図るため、走行速度の低下により交通事故の危険性を減少させるための対策について検討を行っている。

2 事業用自動車の安全対策

 事業用自動車に係る事故を削減するため、平成21年3月、以下の内容からなる「事業用自動車総合安全プラン2009」を取りまとめた。

<1>事業用自動車の事故削減目標を設定。

  • 10年間で死者数半減(平成20年513人を10年後に250人)
  • 10年間で人身事故件数半減(平成20年5万6千件を10年後に3万件)
  • 飲酒運転ゼロ

<2>事故削減目標を達成するために当面講ずべき措置として、以下の施策を明示。

  • 安全体質の確立(運転者の労働環境の改善、等)
  • コンプライアンスの徹底(行政処分の強化、等)
  • 飲酒運転の根絶(点呼時におけるアルコールチェッカーの使用の義務付け、等)
  • IT・新技術の活用(ASV技術の開発・普及、等)
  • 道路交通環境の改善(交差点改良や歩道等の整備、等)

<3>事故削減目標を達成するため、PDCAサイクルに沿って毎年の達成状況等をチェックする体制を構築。

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