平成21年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第1章 道路交通事故の動向
特集 第8次交通安全基本計画の政策評価より

第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第1章 道路交通事故の動向

特集 第8次交通安全基本計画の政策評価より

 道路交通事故死者数の推移をみると、昭和20年代後半から著しく増加しており、45年には過去最悪の1万6,765人となった。その後、減少に転じ、54年には8,466人となったものの再び増勢に転じ、平成4年に二度目のピークを迎えた後は減少傾向となっている。
 死傷者数については、平成4年までは死者数の推移とおおむね同様の傾向で増加した後も増え続け、平成16年には、過去最悪の119万人となった。
 このような状況を受け、平成18年には、「道路交通事故のない社会を目指して」及び「人優先の交通安全思想」を基本理念とした第8次交通安全基本計画を作成し、24時間死者数を5,500人以下、死傷者数を100万人以下とする目標を掲げ、各省庁において以下に示す8つの施策に示した諸対策に取り組んできた。
 その結果、平成20年にはそれぞれ、5,155人、95万人となり、第8次計画の目標を達成したところである。
 さらに、交通事故死者数を平成30年を目途に2,500人以下とする交通安全の目標達成に向け、この成果を次期基本計画に反映させ、交通安全対策をより一層強力に推進するため、平成21年度に第8次交通安全基本計画(平成18~22年度)の政策評価を実施したところであり、ここに紹介する。

I.評価の考え方

 第8次交通安全基本計画の政策評価において、目標である“死者数・死傷者数の減少”と、その実現に向けて実施している個別施策の関係をより明確にするため、道路交通安全対策を実施するに当たって特に重視すべき4つの視点、交通安全対策基本法に基づく講じるべき施策として取り組まれている8つの柱等を『施策群』として設定し、評価を行った。

第8次交通安全基本計画 第1部 陸上交通の安全 第1章 道路交通の安全

第1節 道路交通事故のない社会を目指して

※基本概念は「道路交通事故のない社会を目指して」

第2節 道路交通の安全についての目標

※24時間死者数を5,500人以下、死傷者数を100万人以下に削減

第3節 道路交通の安全についての対策

I 今後の道路交通安全対策を考える視点

※対策の基本的方向性を提示

1 少子高齢社会への対応 2 歩行者の安全確保 3 国民自らの意識改革 4 ITの活用

II 講じようとする施策

※各柱について、現況、対策の基本的方向性等を提示

※その後、それぞれの個別施策について記載

1 道路交通環境の整備  2 交通安全思想の普及徹底  3 安全運転の確保

4 車両の安全性の確保  5 道路交通秩序の維持    6 救助・救急活動の充実

7 損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進    8 研究開発及び調査研究の充実

II.第8次交通安全基本計画の評価

(1)施策群毎の評価例

<1> 8つの柱に基づく施策群の評価

8つの柱に基づく施策群の評価の例について、以下の通り概要を紹介する。

〈「道路交通環境の整備」評価結果より〉

○「事故危険箇所対策の推進」、「通学路等の歩道整備等の推進」についての評価例

【考え方】

 死傷事故の発生確率が高い又は発生するおそれのある『特定エリア』を指定するとともに、当該エリアに対して重点的な対策を講じることによって交通事故発生を抑止する取組である「事故危険箇所対策の推進」について、指定箇所数、着手率、概成箇所数・率、事故抑止率を把握した。また、全国的な取組として行う対策である「通学路等の歩道整備等の推進」について、整備率、子どもの通学・通園中(登校+学校+下校)における交通事故死傷者数について把握した。

【評価】

(事故危険箇所対策の推進)

 平成15年7月に全国3,956箇所が指定されて以降、対策に着手した箇所は徐々に増加しており、対策概成箇所は平成19年度末現在で2,149箇所・54.2%となっている。
 アウトカム(当該指定箇所における事故抑止率)に目を転じてみると、社会資本整備重点計画で定められた数値目標をほぼ達成しており、25道県で目標値を達成している。

  • ■指定箇所数(15年7月指定) 3,956箇所、(21年3月指定) 3,396箇所
  • ■対策箇所数・着手率  3,178箇所/80.3%(18年度末)3,487箇所/88.4%(19年度末)
  • ■対策概成箇所数・率  2,149箇所/54.2%(19年度末)
  • ■事故抑止率(19年度末)  25.2%(ほぼ目標値である3割抑止を達成)
  • 資料)国土交通省道路局資料

(通学路等の歩道整備等の推進)

 子どもの通学・通園中における交通事故死傷者数は減少傾向にある。特に死者数に着目すると、通学・通園中の交通事故死者数は全体の交通事故死者数の減少傾向に比して、より減少傾向にあることが伺える。

学童の通行量の多い通学路の歩道等の整備率(H14)

子どもの通学・通園中(登校+学校中+下校)における交通事故死傷者数(人)

〈「交通安全思想の普及徹底」評価結果より〉

○「交通安全思想の普及徹底」全般にわたる指標による評価例

【考え方】

 国民の交通安全に対する意識を向上させ、交通事故を起こさない・交通事故に遭わない状況を実現するために行っている「交通安全普及啓発活動」への参加の前後での態度・行動の変容を確認した。

【評価】

 過去3年間に交通安全普及活動に参加した者への調査結果により、<1>「非常に役に立った」「役に立った」と回答した割合は約9割を占めており、また、<2>「交通ルール、マナーを守ろうとする意識が高まった」と回答した割合は約9割であり、交通安全ルールの遵守意識の向上が図られていることから、意識の向上が行動変容につながっていることが示されている。

〈交通安全普及啓発活動の役立ち度〉〈交通安全普及啓発活動参加後の態度・行動変容〉

〈「安全運転の確保」評価結果より〉

○「事業者を対象とする施策」に対する指標についての評価例

【考え方】

 企業・事務所における自主的な安全運転管理対策の推進といった事業者を対象とした施策により事業者の安全運転が確保されているかを測る指標として「事業用自動車による交通事故件数」を設定する。また、事業者を対象とした安全運転管理対策等により安全運転の確保が図られ、交通事故発生の抑止につながっているものと考えられることから、安全運転管理者等の選任、講習への参加状況、事故率について把握する。

【評価】

 「事業用自動車による交通事故件数」の実績をみると平成17年以降、減少傾向にある。
 このことから、事業者に関する安全運転の確保が適切に図られ、間接的に、上位目標の交通事故死者数及び交通事故死傷者数の減少につながっていると考えられる。
 また、安全運転管理者にあっては、そのほとんどが講習を受講しており、これらの管理下にある運転者が増加するとともに、全体の事故率については、管理下の運転者1万人当たり69.68件と、免許保有者1万人当たりの89.94件と比較して少なくなっている。

事業用自動車の業態別交通事故件数の推移

管理者数

講習実施回数・受講率

事故抑止率

〈「車両の安全性の確保」評価結果より〉

○「車両の安全性の確保」全般にわたる指標についての評価例

【考え方】

 車両の安全性の向上は、正面衝突事故時に死亡に至る確率の低減に寄与していると考えられることから、「車両対車両衝突事故における死亡事故率」を把握した。また、車両の初度登録年別の死者数、死傷者数について把握した。

【評価】

 車両対車両衝突事故における死亡事故率(正面衝突)は、平成12年度から20年度までに3.6%から2.9%へと減少しており、車両の安全性向上に向けた諸施策が有効に機能してきたものと評価される。
 また、同一事故発生年内における事故年別・初度登録年別10万台当たりの乗員の死者数について見ると、初度登録年が新しくなるに従って、死者数が減少する傾向が示されており、車両安全対策の拡充・強化による車両安全性の向上により、人的被害軽減効果が発現しているものと考えられる。

事故年別・初度登録年別10万台当たり乗員(運転者を含む)死者数(普通乗用車)

〈「道路交通秩序の維持」評価結果より〉

○「道路交通秩序の維持」全般にわたる指標についての評価例

【考え方】

 交通事故が発生した場合、何らかの交通法令違反が原因となっている。そのため、交通法令違反を減少させれば交通事故件数の減少につながることが期待される。また、ひとたび交通事故が起こった場合でも、事故当たりの死亡率を減少させることができれば、交通安全の向上につながる。そこで、アウトカムとしては「交通法令違反別交通事故件数」と「交通法令違反別交通事故件数当たり死亡率」を設定した。

【評価】

 「交通法令違反別交通事故件数」について、「酒酔い運転」、「最高速度違反」による事故は減少していることが示されている。また、「交通法令違反別交通事故件数当たり死亡率」について、従来死亡率の高かった「酒酔い運転」、「最高速度違反」等で明確に低下傾向を示している。交通法令違反の減少とともに、事故発生後の生存確率も高まっており、道路交通秩序の維持が図られていると考えられる。

〈交通法令違反別交通事故件数当たり死亡率の推移〉

〈「救助・救急活動の充実」評価結果より〉

○「救助・救急活動の充実」全般にわたる指標についての評価例

【考え方】

 救助・救急活動の充実状況に関して、救急医療体制の整備状況や、救急搬送時における救急救命処置の実施による救命率(心肺機能停止の時点が目撃され、救急隊によって処置された傷病者に占める1か月後の生存者の割合)を把握する。

【評価】

 救命救急センターやドクターヘリの整備により救急医療体制の整備が進み、さらに、救急活動における重症度・緊急度判断基準により救急隊員の病院選定の適正化、観察判断の資質向上及び応急処置の適正化が図られる中で、救急救命士の増加、平成15年度以降、順次処置範囲の拡大(包括的除細動、気管挿管、薬剤投与等)がなされてきたこと等により、計画期間中の平成18年度から19年度にかけて救命率がさらに向上している。

救急救命士制度の導入による救命率

救命救急センターの整備状況の推移

〈「損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進」評価結果より〉

○「損害賠償の適正化を始めとした被害者支援の推進」に関する評価例

【評価】

 犯罪被害者等基本計画が策定され、施策の取組が進む中で、被害者参加制度等の刑事裁判手続に直接関与する制度が実現する等、施策の着実な進展が見られる。また、自動車損害賠償保障制度等についても、引き続いて被害者救済の中心的な役割を担っている。

〈「研究開発及び調査研究の充実」評価結果より〉

○「研究開発及び調査研究の充実」に関する評価例

【評価】

 安全運転の支援、高齢者の交通行動特性、道路交通事故原因等について調査研究を実施した。

(2)まとめ

 交通事故死者数についてみると、計画期間の3年目において「24時間死者数を5,500人以下にする(30日以内死者数等を同様に減少させる)」という目標を達成することができたほか、「交通戦争」と呼ばれた当時の1万6,765人(昭和45年)という死者数が3分の1以下となるに至った点において、飲酒運転の厳罰化、シートベルト着用者率の向上、危険認知速度の低下による効果が大きいものと考えられる。もちろん、これらに限らず、道路交通環境の整備、交通安全思想の普及徹底、安全運転の確保、車両の安全性の確保、道路交通秩序の維持、救助・救急体制の整備等の諸対策が効果を発揮したことは言うまでもない。
 また、交通事故死傷者数については、第7次までの計画期間では必ずしも低減していなかったが、第8次基本計画期間には減少が進み、計画期間の3年目において、「死傷者数を100万人以下にする」という目標を達成することができたことは注目に値する。
 その際、飲酒運転の厳罰化等による効果、危険箇所対策等による道路交通環境の整備、車両の安全性の向上、シートベルト着用率の向上等が寄与しているものと考えられる。
 一方で、我が国の交通事故による人口10万人当たりの30日以内死者数は4.7人(平成20年)であり、アイスランド、オランダ、イギリス、スウェーデン、スイスに次ぐ6位(国際道路交通事故データベース(IRTAD)がデータを有する29か国中)に位置しており、「世界一安全な道路交通の実現を目指す。」という目標については、必ずしも達成できたとは言えず、今後、さらに交通安全対策を推進することが重要であると考えられる。
 特に、交通事故死者数に占める高齢者の割合や高齢者が第一当事者となる事故件数が増加していること、交通事故死者数に占める歩行者が約3割(33.4%(平成20年))と高い割合であること、自転車関連事故の交通事故件数に占める割合が増加傾向(21.2%(平成20年))にあることから、今後、高齢者、歩行者、自転車利用者の交通安全対策をより一層推進することが重要であると考えられる。

目次 | 前へ | 第2章 道路交通安全施策の現況 第1節 道路交通環境の整備