平成21年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第3編 航空交通
第2章 航空交通安全施策の現況
第1節 航空交通環境の整備

第3編 航空交通

第2章 航空交通安全施策の現況

第1節 航空交通環境の整備

1 航空保安システムの整備と提供サービスの充実

(1)次世代航空保安システム

次期管制システム
航空交通の安全性と効率性を図りつつ、羽田再拡張等の空港整備による航空交通量の増大等に対応した管制処理能力の向上を図るため、多様な管制支援機能を付加した次期管制卓システム等の整備を推進している。平成21年度においては、東京及び那覇航空交通管制部に新航空路管制卓システム(IECS)を導入した。
航空交通管理(ATM)システム
航空交通量の増大に対応するため、シミュレーションを用いた空域構成の最適化や自衛隊等の訓練空域の弾力的な利用を進めるとともに、交通流や交通量の予測や制御性との向上等、航空交通管理センターの機能を充実・強化し、きめ細やかな交通整理を行うことで全国の航空路の混雑緩和や空中待機等の減少を図っている。
航空灯火・無線施設の整備
高密度空域における航空機の監視機能の強化を図るため、高機能レーダー(SSRモードS)の整備を推進している。平成21年度においては、福江航空路監視レーダーのSSRモードS化を行った。
新たな航空交通システムの構築
現行システムでは、長期的に増大が見込まれる航空交通需要や多様化するニーズへの対応に限界があること、また、ICAOや欧米において2025年及びそれ以降を見据えた、統合的で世界的に調和のとれた相互運用性のある航空交通管理(ATM)に関する計画が取りまとめられたことから、産学官からなる研究会を開催し、精密な時間・位置の管理による運航及び管制官やパイロットに対する高度な包括的支援システムの構築等を趣旨とした長期ビジョンCARATSを策定した。

(2)現行航空保安システム

 平成21年度末現在の管制施設、保安施設及び通信施設の状況は、次のとおりである(第3-2表)。

第3-2表 管制施設、保安施設及び通信施設の整備状況

管制施設の整備
(ア)
航空路監視レーダー
航空交通の安全性の向上と空域の有効活用を図るため、航空路上の航空機を常時監視することができる航空路監視レーダー(ARSR/ORSR)施設網を整備し、平成21年度末までに釧路等20ヶ所においてその運用を行っている。これにより、我が国の高度1万5,000フィート(約4,500メートル)以上の主要航空路を常時レーダー監視できるようになり、安全かつ円滑な航空交通の確保に寄与している。(第3-1図
第3-1図 航空路監視レーダー配置及び覆域図
(イ)
空港監視レーダー
空港周辺を飛行する航空機を常時監視することができる空港監視レーダー(ASR)の整備を推進しており、成田空港等3ヶ所の性能向上を行った。
(ウ)
管制情報処理システム
航空交通の安全性と管制処理能力の向上を図るため、飛行情報管理システム(FDMS)、航空路レーダー情報処理システム(RDP)、ターミナルレーダー情報処理システム(ARTS)及び航空交通流管理システム(ATFM)等の整備を推進するとともに、その性能向上を行った。
(エ)
遠隔対空通信施設
航空交通管制部の管制官が管轄区域内を飛行する航空機と直接交信し、管制承認、管制指示の伝達等を迅速に行うための遠隔対空通信施設(RCAG)については、札幌等14ヶ所において性能向上を行っている。
保安施設の整備
(ア)
方位・距離情報提供施設
航空機に高精度の方位及び距離情報を提供する超短波全方向式無線標識施設/距離測定装置(VOR/DME)等については、静岡空港等2ヶ所においてVOR/DME等新設、帯広等8カ所において性能向上を行った。
また、VOR/DMEの性能向上により、航空機に方位情報を提供する無指向性無線標識(NDB)を帯広等3カ所撤去する等、既存施設の性能向上等により、安全性を確保しつつ航法施設等の縮退を実施した。
(イ)
計器着陸装置
航空機に滑走路への適正な進入方向と降下経路を指示する計器着陸装置(ILS)については、静岡空港においてILS新設、熊本空港等3ヶ所において性能向上を行った。
(ウ)
航空灯火
航空機の離着陸時における安全性の向上と就航率の向上を図るための進入灯、滑走路灯等の航空灯火については、新千歳空港等11ヶ所において新設整備を行っている。また、東京国際空港等26ヶ所において性能向上を行った。
通信施設の整備
航空機の安全な運航に必要な多種多様の情報を伝達・処理するための航空交通情報システムについては、運航情報提供システム(FIHS)及び飛行情報管理システム・運航情報処理部(FDMS・FIMS)等の性能向上を行った。

(3)航空交通サービスの充実

RNAV運航環境の整備
航空機の安全で効率的な運航を確保するため、RNAV(広域航法)の導入を促進している。平成21年度においては、航空路におけるRNAV経路として新たに30経路を設定し、計114経路に拡大し、空港周辺におけるRNAV経路は、新たに8空港に導入し、計26空港に拡大した。
航空情報サービスの充実
航空機の安全で効率的な運航に不可欠である航空情報サービスの拡充の一環として、平成21年度に電子航空路誌(eAIP)のインターネットによる提供を開始した。また、高度化する航空技術等に適切に対応するため、引き続き航空情報の提供体制の拡充及び品質管理体制の強化を図るとともに、航空情報の電子化を進めている。
小型航空機の安全対策
低高度を飛行する小型航空機の安全運航に必要な悪天気象情報を提供するため、現在運用されている広域対空送受信サイトと同じ周波数のアンテナを増設し、琵琶湖北部を始め小型航空機の運航者要望が特に高い地域での低高度における通信覆域の改善を図った。また、ヘリコプター専用の低高度RNAV経路を設定するなど、悪天候下における消防防災活動等を円滑に実施するために、小型航空機の飛行特性に合わせたIFR飛行の実現に向けた環境整備を行っている。
さらに、海上部及び山間部における送電線への接触事故等を未然に防止するため、特定された地区の航空障害物件への航空障害標識の適切な設置を促すとともに運航者に対して物件情報の提供を実施している。
飛行検査の充実
航空交通の安全を確保するためのRNAV経路等の飛行方式の確認や航空保安施設等が所定の機能を保持しているかについて、飛行検査用航空機により検査を行っており、平成21年度は検査対象となる方式及び施設866局について飛行検査を行った。

2 空域の整備等

(1)空域の容量拡大

洋上空域
福岡FIR内の洋上空域において、管制間隔の短縮等を行い、空域の容量拡大を図っているところであるが、これに加え、UPR方式など、航空機の効率的な運航を促進する飛行方式を導入・拡大した。
※UPR方式
User preferred Route:運航者が諸条件を考慮し、任意に作成する経路を飛行できる方式
国内航空路
航空機の効率的運航を促進するため、航空路再編(スカイハイウェイ計画)実施計画に従ってRNAVルートを30経路新設した。
空港周辺空域
羽田空港の再拡張事業等による交通量の増加により、関東の上空空域の更なる交通混雑が見込まれることから、RNAV及び多様な管制支援機能等の導入により、空域の容量拡大や運航効率の向上等を実現するため、関東空域の再編並びに新たな管制方式の検討を実施した。

(2)空域の有効活用

 米軍、自衛隊との連携を強化し、自衛隊訓練試験空域、米軍空域を訓練等に使用していない場合や悪天域を迂回する場合に当該空域を民間航空機が飛行するための調整を実施し、訓練空域を通過する航空路を設定するとともに、管制官の指示に基づき訓練空域等を民間航空機が飛行することが可能となり、航空機の安全で効率的な運航の促進を図っている。
 航空会社等に交通状況を共有するための専用端末を設置し、航空機が混雑空域を迂回する等、航空機の遅延削減や運航効率の向上のための調整を実施している。

3 空港の整備

 東京国際空港については、新たに4本目の滑走路等を整備する再拡張事業を推進しており、平成22年10月末の供用開始を目指し、着実に整備を推進している。
 また、既存施設の空港能力、利便性等の向上を図る機能向上事業についても継続して整備を推進している。
 関西国際空港については、平成19年の2本目の滑走路の供用により、我が国初の完全24時間運用可能な国際拠点空港となった。平成21年4月には二期国際貨物地区の供用を開始するとともに、連絡橋道路の料金引き下げによるアクセスの改善が図られたところであり、引き続き国際競争力の強化に取り組んでいる。中部国際空港については、国際ビジネスジェット格納庫の整備などを通じ利用者利便の向上を図り、更なる需要拡大に取り組んでいる。
 一般空港等については、施設の更新・改良などにより、既存空港の機能保持を行ったほか、多様化する空港利用者の安全性・快適性向上のため、利用者動線のバリアフリー化を実施した。加えて、空港面での航空機の安全を確保するため、滑走路占有状態等を管制官やパイロットへ視覚的に表示・伝達するシステムの整備を推進している。

4 空港・航空保安施設の災害対策の強化

 地震災害時の空港機能の確保を図るため、東京国際空港、仙台空港、新千歳空港、新潟空港、大阪国際空港等の耐震化を実施している。

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