事例11:PFIによる県営住宅鈴川団地移転建替等事業(事業概要)

(山形県 人口 1,225,990人(平成16年))

PFIによる県営住宅鈴川団地移転建替等事業のイメージ画像

県営住宅鈴川団地は、耐震診断の結果、建て替えが必要と判断された6団地の県営住宅の中の1団地です。県の日影条例等を勘案すると、現在の土地では現有戸数を確保した建て替えができないため、移転建て替えを行うこととなりました。移転先として利用可能な県有地の確保ができない、また、単なる建て替えではなく、同時に中心市街地の活性化も検討されていたという背景がありました。
そこで、県営住宅の整備のみならず、事業用地の確保も民間事業者にゆだね、民間のノウハウの活用を市街地活性化にも期待したPFI事業(BTO方式)として実施することとなりました。土地に関しては、提案された土地所有者と県が土地定期賃貸借契約を締結することになります。施設規模に関しては、敷地面積が約1,500m2で延床面積が約2,900m2となります。部屋は2DK及び3DKタイプがあり、合計30戸で構成されており、駐車場も戸数と同様に30台です。事業期間は22年間としています。

1.事業化までの庁内体制の流れ

PFIによる県営住宅鈴川団地移転建替等の事業化までの検討経緯・庁内体制の流れを現した図
  • 平成12年度に県の公営住宅ストック総合計画における耐震診断の結果、県営鈴川団地を含む6団地に対して建て替えが必要と判断。
  • 平成13年度に他都市の事例も参考にしながら、借上げや買取を含めた民間活用手法の検討を県内部で行い、そこで住宅課が主導となりPFIも検討対象へ。
  • 平成14年度に公営住宅関係の計画策定を含めてコンサルタントを選定し、PFI導入可能性検討調査を(株)佐藤総合計画へ委託。
  • 県としてPFI全般の総括窓口は総務部政策企画課が対応。
  • 本件に関する事務局は建築住宅課が主導となった。専属は1名。
  • PFI導入可能性検討調査業務と平行して、土木部や総務部職員で構成される庁内の検討会を開き、調査に対するアドバイス等を実施。

2.本事業における課題とその解決策

民間事業者に事業用地も提案させることに関して、事前に検討を行いました

本事業は県営住宅の建て替えに加え、中心市街地活性化にも寄与することを目的としました。そこで民間事業者募集の前に、金融機関や建設業協会等との意見交換を行いました。更に同建設業協会にて行われているPFI勉強会でも意見交換を行いました。その結果、土地提案を民間事業者にゆだねることに対して前向きな意見をいただきました。

国庫補助の取扱いに関して、関係省庁と事前に協議を行いました

従来でも「買取」の形で公営住宅を整備した際にも補助金は交付されることになっていましたが、BTO方式の事業として実施することにより、県の負担分が「割賦払」となるといった違いがありました。その点について、実施方針公表(平成15年6月)の約半年前から、国土交通省はもとより、総務省の地域振興課に対しても事前協議を行い、その結果、了解を得ることができました。

補助金の交付額の変動に関する責任(リスク分担)は県が担いました

補助金は買取価格の1/2の交付額となりますが、PFI事業では県が設計書を作成しないため、実際に民間事業者が設計図書を完成させるまで、詳細な施設内容が明確にはなりません。そこで、実際の補助金額が事前に想定した額と異なった場合、その差額は県が負担することとしました。

土地の提案については、1次審査と2次審査で段階的に評価しました

1次審査の段階で民間事業者に土地の提案を行わせ、審査を通過した民間事業者のみ、2次審査へ進むこととしました。1次審査では、民間事業者と土地所有者の関係を担保するため、土地所有者の提案に対する同意書の提出を求めました。また、2次審査では、特に土地に関しては、提案された土地が県の計画範囲内にあるか、また環境やアクセス利便性等について評価を行いました。

PFIによる県営住宅鈴川団地移転建替等の事業スキームのイメージ図

3.事業開始後の状況

(1)PFI導入のメリット

民間のノウハウの活用による優れた提案を期待することが可能です

公営住宅を性能発注するということで、どの程度の質の施設を民間事業者に期待するのかについて苦慮しましたが、バラエティに富んだ提案を受けることができました。住宅整備のみならず、土地の提案も含めた様々な要素を事業に取り入れることができ、コストの縮減も達成することができました。

関係者との意見交換の機会の創出

本事業では、民間事業者から土地の提案を受けるために、地域の土地所有者の方々へ事業を周知いただく必要がありました。その過程で、商店街の方々と意見交換等を行うことができたことは、貴重な機会であり、メリットであったと考えています。また、民間事業者が資金調達を行う関係から、金融機関やその他の民間事業者の方々と意見交換できたことも、同様に有意義であったと認識しています。

(2) PFI導入のメリット

民間事業者の選定等の手続きが煩雑で、多くの時間が必要であることはデメリットであると考えます。その中で、財務・法務その他全体的な業務量に対する体制を整えることが厳しく、課題であると認識しています。

4.PFI事業を振り返って

(1) PFI事業の成功のポイント

庁内において横断的な、関係部署から成る検討会を設置しました

土木部、総務部政策企画課、管財課及び住宅課等により構成される検討会をPFI導入可能性検討調査時点において平行して設置し、土地提案の扱いや、そもそもPFI事業としての実施を前提とした検討ではいけない等のアドバイスを得て検討を進めることができました。その結果、円滑にPFIの事業化へつなげることができました。また、財政課からも事業スキームについて理解をもらっていました。

民間のノウハウの活用に対し議会等が前向きな姿勢を持っていました

本事業に対してPFIを導入する検討過程において、議会からも本件のみに限らず、広く民間活用事業を検討すべきであるという提言を受けていました。また、コスト縮減、中心市街地活性化及び地元企業も参加できるスキームを評価いただきました

補助金に関して関係省庁と事前協議を実施しました

本施設は国庫補助対象事業と考えられる中で、従来の施設の買取方法とは異なり、本事業をPFI事業として実施することで割賦による買取方法となるといった点に留意し、実施方針公表以前から関係省庁に対して事前協議を行いました。その過程では、総務省から、「土地提案を事業者に求める際には、県として事前に特定の用地を想定しているというような誤解を与えないように」等の助言をいただくことができました。
結果、事業化の前に、補助金交付に関して関係省庁からの了解を得ることができ、補助金に関する責任分担も明確化した上でPFIの事業化に進むことができました。特に、国土交通省総合政策局、住宅局より多くの支援、アドバイスをいただきました。

(2) PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス

事業化へはスピードも必要です

事業化に先立っての基本構想や勉強会等を慎重に検討し過ぎることは、かえってPFI事業を実施することを控えてしてしまう原因にもなり得ます。PFI事業を実際に事業化へと進めるためには、ある程度のスピードを意識して検討を進めていくことが重要です。

住宅建設でもPFIを検討する余地があります

本件では単なる建て替えではなく移転による市街地活性化という要素がありました。県では、耐震診断の結果、建て替えが必要と判断された、本件以外の5団地においても、それぞれ市の施設、民間施設と併設する、または他の公営住宅と合築する等の工夫をした上で、PFI事業として実施することを検討しています。

補助制度はPFIに対しても前向きです

本件の事業化に際して、事前に関係省庁に協議を行った中で、窓口である国土交通省住宅局においてもPFIに対する補助を優先的に考えていただきました。むしろ補助交付の検討においては、PFIを含めた民間活用手法の検討結果に関する説明を求められるほどの状況であるということを確認することができました。

検討体制について

長谷川さん(左)と大江さん(右)のお写真

事業担当の山形県の長谷川さん(左)と
大江さん(右)

現在、PFIの総括窓口である県の総務部政策企画課において、PFIのマニュアルを作成しています。PFIのみならずCM(コンストラクション・マネジメント)等も含めて検討を行う体制を各事業課で進めています。その中で、個々のPFI検討は各事業課が行っており、先進事例の調査等を行っての勉強会を積極的に行っている課もあります。一組織としてのノウハウの蓄積は重要であり、今後の課題としても認識しています。

事業担当者

山形県 土木部建築住宅課
大江 正男氏
〒 990-8570 山形県山形市松波二丁目8番1号
TEL:023-630-2657

キーワード:公営住宅、土地提案、地元企業の参画、国庫補助、土地定期賃貸借契約、BTO方式サービス購入型、事業期間22年