事例17:寒川浄水場排水処理施設更新等事業(事業概要)

(神奈川県 人口8,600,109人(平成16年))

寒川浄水場排水処理施設の写真

本事業は、運転開始から30年余りが経過し老朽化が進んでいる寒川浄水場排水処理施設の脱水施設の更新等を行う事業で、施設の更新に当たり循環型社会の実現の観点から、汚泥の脱水処理に伴い発生する脱水ケーキの減量化と再生利用の促進に対応する新たな脱水施設を整備するとともに、既存の濃縮施設と合わせた排水処理施設全体の維持管理・運営を行うものです。
平成15年12月に特定事業契約を締結。2年4ヶ月の整備期間を経て、施設の供用開始は平成18年4月を予定しています。

1.事業化までの庁内体制の流れ

寒川浄水場排水処理施設の事業化までの検討経緯・庁内体制の流れを現した図
  • 平成12年5月に企業庁として「水道事業におけるPFI事業の調査・研究に係る検討会」を庁内に設置し企業庁の事業でPFIに馴染む事業の抽出を行った。
  • 県全体においてPFIに対する取組は積極的で、ガイドラインを作成し、PFIに適しているものは積極的に導入するという方針が掲げられた。
  • 同年11月に総務部財産管理課の所管する県有地・県有施設利用調整会議を開催し、寒川浄水場排水処理施設の更新事業をPFI導入可能性調査の対象事業とすることを県として組織決定した。
  • 平成13年、PFI導入可能性調査を(財)日本経済研究所へ外部委託。また、事務職2人+兼任技術職1人(平成14~15年度は事務職3人+技術職2人)の事務局を設置し体制を整えた。この他、総務部財産管理課などのバックアップ体制が整えられた。
  • PFI導入可能性調査において、本事業へのPFI導入により期待される効果が確認され、事業実施へとつながった。

2.本事業における課題とその解決策

処理量や需要の変動リスクに関して基本的には事業者の負担としました

本事業では、浄水過程で発生する浄水スラッジ(原水から取り除いた汚泥)を処理した脱水ケーキを全量再生利用(一部販売)することとなっています。年によっては浄水スラッジが多く発生したり、脱水ケーキがうまく再生利用できないということも想定され、そうした事態に対して、行政と民間事業者のどちらが、どのように対処するかということが議論となりました。

浄水スラッジ量の将来変動について

年間の浄水スラッジ量は、過去の実績値から、ある程度推測できることから、それほど過大なリスクが民間に負担されているわけではないと考え、あらかじめ定めた一定量までの将来変動への対処については事業者の責任としました。万一、想定外の量が発生した場合には、適切な対応を事業者との間で協議することを予定しています。

需要変動について

脱水ケーキを予定どおり再生利用(一部販売)できない場合の責任についても民間へ移転しました。ただし、やむを得ない場合には協議の上で最終処分場に埋め立てることも認めています。

事業者の参画促進に関して

集会形式での意見交換会や企業毎の個別ヒアリングを実施し、相互理解を図るとともに、できる限り事業者の意見を取り入れるようにしました。その結果、最適なリスク分担や事業スキームが構築できたものと考えています。

事業スキーム図

3.事業開始後の状況

(1)モニタリングの方法

県(事業担当課)が中心となってモニタリング(事業実施状況の確認)を行いますが、必要に応じて庁内の各関係部署から支援を受ける体制となっています。工事監理はSPCが行います。また、SPCの財務諸表のチェックについては、県の他のPFI事業と一括でコンサルタントに委託しています。
事業が円滑に進むよう調整を図るための組織として、県と事業者による「関係者協議会」を設置しています。また、下部組織として技術・事務に分かれたワーキンググループを構成し、それぞれの問題点の解決方法などを検討しています。

(2) PFI導入のメリット

事業コストを削減することができます

PFIの導入(一括業務委託、性能発注、長期契約)により、民間ノウハウを発揮しやすい条件が整うことから、効率的な施設の設計・建設、維持管理・運営等が実現され、事業コストを削減することができます。

柔軟性のある民間の創意工夫やノウハウの発揮を期待することが可能です

民間事業者にとって自由度の高い事業とすることにより、浄水スラッジの安定的な処理や脱水ケーキの再生利用の長期安定化に関して、民間の技術力や市場変動への対応力が十分に発揮されるものと期待しています。

(3) PFI導入のデメリット

PFI事業に特有の事務作業が増えることもあります。

PFI事業は従来型の事業よりも事業実施における手続き等が煩雑なため、従来型の公共事業ではなかった事務作業が生じます。特に、事業計画・事業者選定段階での作業量は膨大なものになります。また、実施段階に入ってからは、従来型の事業とは違った形でのモニタリング(事業実施状況の確認)をしっかりと行っていける体制が必要です。

(4) その他苦労した点

  • 公務員にとっては、金融の分野は馴染みがないこともあり苦労が多かったと思います。ただ、本事業を実施する以前から、リースを担当する部署があったため、比較的円滑にPFIの導入ができたのだと思います。
  • 評価基準を適切に設定することに難しさを感じました。特にコンソーシアムの総合力をどのように評価するかという点が議論の対象となりました。
  • リスク調整費については詳細な検討を行い、発現確率が高いと想定されるリスク項目を可能な限り列挙し、定量的な評価(金額換算)を行いました。ただ、金額換算に関し客観的な根拠を表しにくいという点も考慮し、リスク調整費を考慮した場合としない場合の双方についてVFMを公表しました。

4.PFI事業を振り返って

(1)PFI事業の成功のポイント

シンプルな事業スキームを構築するとこが望ましいと考えます

最も重要な目的に焦点を当て、事業範囲やスキームをできるだけシンプルにすることが大切だと思います。
例えば、本事業では当初、コジェネ(熱電供給システム)導入を検討しましたが、省エネ効果、コスト面、水道施設としての必要性等を総合的に評価し、最終的に事業範囲から除きました。(本事業においてはコジェネを導入しても十分な効果が得られないと判断しましたが、施設規模や事業内容によって評価が異なるため、当然ながらコジェネ導入が大きな効果を発揮する事業も数多くあると思います。)
事業範囲をシンプルにしたほうが事業目的を明確にできるため、民間事業者としても、どのようなノウハウの発揮が期待されているのかを考えやすくなり、参画しやすくなるのではないかと思われます。
また、あまり複雑な事業スキームにしてしまうと、民間負担リスクの範囲も拡大してしまいがちになるため、リスクプレミアム(リスクの増加に応じて事業者や投資家等が期待する上乗せ分の収益)が事業者の入札額に跳ね返り、結果としてVFMが減少してしまう懸念もあります。

適切な審査を行うことに留意することが必要です

提案審査に当たっては、はじめに事業の要点を押え、何が本事業にとって重要かをあらかじめ整理しておくことが大切です。
本事業では総合評価一般競争入札での事業者選定を行いましたが、県がこの事業において重視している点を民間事業者によく理解していただくために実施方針と同時に「落札者決定の考え方」を公表しています。本事業は、「安全な水道水の安定供給」に密接に関わる事業であることから、価格以外の評価としては「安全性」や「信頼性」を特に重要視しました。
また、総合評価方式では、価格点だけで優劣が決定してしまわないような(価格以外の評価による逆転の可能性があるような)配点割合とすることが望ましいと思います。

審査委員会は事業の内容や特性に応じた専門家により構成されることが必要です

本事業では、水道分野や環境分野をはじめ様々な専門分野の方々に審査委員になっていただき、各々専門的な立場からの御意見をいただきながら提案審査を行いましたが、審査委員会は、事業の内容や特性に応じた専門家により構成されることが必要です。
また、PFI事業では法律や金融など、従来型の公共事業では出てこなかったPFI特有の分野についての議論も多いため、この点にも配慮することが必要であると思います。

(2)PFI導入を目指されている他団体へのアドバイス

事業の必要性や求められる機能を明確にしておくことが重要です

PFI等事業手法の議論の前に、その事業の必要性や求められる機能を明確にするため、あらかじめ密度の濃い議論を庁内で行っておくことが最も重要だと思います。

参加しやすい事業スキームの構築に心掛けることが重要です

上記を踏まえたうえで、民間事業者にノウハウを発揮してもらうため、又はより多くの参加を得て適切な競争環境を作るためには、リスク分担や事業範囲をどのように構築していけばいいのかを十分に検討することが重要です。

(左から)田中さん、秋田さん、伊藤さん、石坂さんのお写真

本事業を御担当された神奈川県庁の
田中さん、秋田さん、伊藤さん、石坂さん(左から)

民間事業者との意見交換、相互理解が大切です

事業の計画に当たっては、民間事業者と意見を交換し、その内容を検討した上で、より良い事業とするために有益な意見については、これを取り入れていくという方針で取り組むことが大切であると考えます。また、意見交換を実施する場合には、一方的な意見把握にとどまらず、県の考え方についても十分に説明し、「相互理解」を図っていくことが非常に重要なことだと思います。
具体的な取組として、本事業では平成14年10月に意見交換会を、平成14年11月~12月にかけて事業者ヒアリングを実施しています。(これらの結果については、県のホームページで公表しています。)

事業担当者

神奈川県企業庁水道局寒川浄水場浄水部浄水課
主査 伊藤 聡氏
主査 石坂 智氏
〒253-0106 高座群寒川町宮山4271
TEL:0467-75-1058
寒川浄水場排水処理施設特定事業(神奈川県)

キーワード:上水道、既存施設の更新、BTO方式サービス購入型、発生土、再生利用、事業期間22年