III 叙勲制度の運用

III-1 叙勲の対象について 【現状】
勲章の授与は、昭和39年4月21日に閣議決定された「叙勲基準」(資料9)に基づき行われている。この「叙勲基準」では、勲章の授与は、公務員として、あるいは民間の各分野で国家又は公共に対し功労のあるものを対象とすることとしているほか、風水害、震火災その他非常災害に際し功労のあった者、現行犯人の逮捕等犯罪の予防、鎮圧に功労のあった者、生命の危険を伴う公共の業務に従事しその職に殉じた者などに勲章を授与することが定められている。(主な叙勲対象の例について資料11参照)。
【懇談会における主な議論】
  • 時代の変遷に応じて、国際社会に対して貢献した人、社会福祉など社会的な貢献をした人、経済の発展に貢献した人、地域の発展に尽くした人等を更に積極的に評価すべきではないか。
  • 新規創業、経営革新、ベンチャー企業の創設等に果敢に取り組み、多様な雇用の場を供給するとともに我が国経済の発展に貢献している人達を更に積極的に評価すべきではないか。
III-2 受章者数について 【現状】
現在、春秋叙勲における受章者数は、春と秋それぞれ約4,500名、年間約9,000名となっている。 春と秋それぞれの受章者数については、生存者叙勲が再開された昭和39年4月に197名、同年11月に534名が発令されて以来漸次増加しており、昭和45年春から約3,000名(年間約6,000名)、昭和52年秋から約4,000名(年間約8,000名)となり、昭和62年秋の叙勲から現在の約4,500名(年間約9,000名)となっている。
ヨーロッパの例では、イギリスが年間約1万2千人、フランスが年間約1万1千人、ドイツが年間約6~7千人、イタリアが年間約1万4千人、ベルギーが年間約1万5千人~2万といわれている。
【懇談会における主な議論】
  • 特に地方では叙勲は名誉なこととして大変喜ばれているので、1割か2割増やすべきではないか。
  • 民間の受章者や女性の受章者を増やすため、2割か3割増やすべきではないか。
  • 警察官、自衛官等著しく危険性の高い業務に精励した者については、春秋叙勲とは別の叙勲にして、受章者数をもっと増やすべきではないか。
III-3 受章の年齢、時期について 【現状】
叙勲は生涯にわたる国家や社会に対する功績を総合的に評価して行われるものであることから、受章年齢については、生涯における功績がある程度固まった時期をとらえて表彰するという考え方に基づき運用されている。
このような考え方から、現在、春秋叙勲においては原則として70歳以上の者が対象とされている。ただし、危険性の高い職務、精神的・肉体的に苦労の多い職務、あるいは人目につきにくい領域で多年にわたり業務に精励した者については55歳以上の者から対象とされている。
【懇談会における主な議論】
  • 叙勲の受章年齢について、現在の70歳以上、危険業務従事者等は55歳以上という原則は適当で、特に変える必要はないのではないか。
  • 叙勲の受章年齢は、70歳にこだわらず、元気なうちに受章できるようもう少し下げるか、あるいは功績のある者にその都度授与するのが良いのではないか。
  • 叙勲は最終的に固まった功績に対する評価を意味するのか、あるいは受章を機にその後の活躍の励みとすることを意味するのか、どちらにねらいがあるのかが(受章年齢を考える上で)大事な問題だと思う。
III-4 候補者の推薦・選考手続、審査の在り方について 【現状】
叙勲候補者は、栄典に関する有識者の意見を聴取して内閣総理大臣が定める「春秋叙勲候補者推薦要綱」に基づき、各省等(各省大臣等)から内閣府(内閣総理大臣)に対して推薦される。各省等においては、その所管分野ごとに各都道府県や関係団体から候補者の推薦を求め、候補者の選考を行っている。
内閣府賞勲局においては、推薦された候補者について、推薦省庁と協議しつつ、また、複数の分野にわたる功績を有する候補者については他の関係省庁とも調整しつつ審査が行われる。内閣府賞勲局においてとりまとめられた受章候補者の原案は、内閣官房長官が主宰する叙勲等審査会議の議を経、内閣総理大臣の了承の後閣議で決定され、天皇陛下の御裁可を得て発令される。
【懇談会における主な議論】
  • 現在の、それぞれの組織から主務官庁を通じて賞勲局、内閣に来る、そこで全体を考慮して受章者を決定するというシステムは、今でも正当に機能しており今後もそのシステムをとるのが良いのではないか。
  • 制度全体の問題については有識者の会議や民間の意見を取り入れたら良いのではないか。しかし、個別具体の審査については中立的な国の機関により行われるべきであり、最終的な決定は政府の責任において行われるべきものである。
  • 各省庁の所管分野毎に別々にみると取り上げられないが、多分野で活躍されて総合的にみれば非常に評価の高い方もいる。推薦の仕方について、このような多分野で活躍されている人などを含めて、なるべく漏れのないように拾い上げるシステムを更に整備することが必要ではないか。
  • 最終審査をより適正、公平なものとするためには、推薦や審査の過程において、いろいろな功績が総合的に評価されるということが大事ではないか。
  • 業績の評価について、従来の縦割りの構造の中での功績、貢献ではなく、時代の変化に対応して縦割りの領域を超えた貢献というものを総合的に評価するようにしていかなければならないのではないか。
  • 情報公開の問題については、栄典というものが情報公開になじむのかという問題があり、具体的にどこまで公開できるかは別であるが、制度としてはどこまで公開できるのかその可能性を検討してみてはどうか。
III-5 功績評価の基準(尺度)(特に民の功績評価の基準(尺度))について 【現状】
功績の評価は、昭和39年4月21日に閣議決定された「叙勲基準」に基づき行われており、民間の分野については「国家又は公共に対し功労のある者には勲六等瑞宝章以上の勲章、いちじるしい功労のある者には勲四等瑞宝章以上の勲章、特にいちじるしい功労のある者には勲二等瑞宝章以上の勲章」を授与することとされている。具体的には、当該候補者の経歴、功績内容等について、過去の先例との比較衡量を行った上で個別具体的かつ総合的に行われている。
【懇談会における主な議論】
  • 叙勲の基準については、年功序列のようになっているきらいはないか。ポストや在職年数のほか、社会や地域に貢献した実績をもっと重視すべきではないか。
  • 評価が恣意的にならないようポストや在職年数等何らかの目安となる基準(内規)を設けることは当然必要。基準なしに決めることは恣意的になり逆の弊害が出てくるのではないか。
  • 民の功績評価の基準(尺度)をどうするかは難しい問題。民の尺度を時代の変遷に合ったものとすることが必要。
  • 誰にでもわかる、皆が納得するような単純な基準とし、できるだけ公開するようにしてはどうか。
  • どの分野でも勲一等の可能性があるのかどうかを検討してみることはどうだろうか。
  • 職業によって等級がリンクしているように見えるということについて議論しておかなければならないのではないか。
  • どの分野でも勲一等までの突き抜け方式にするというのは情緒的で、賞の秩序というものに大きく抵触することとなり、制度そのものを変えることにつながるのではないか。
  • 栄典や賞というものは、それぞれの分野、職業の持つ功績の質の違いをうまくかみ合わせながら評価するもので、どの分野、職業にも勲一等までの突き抜け方式にするというのは、栄典や賞というものの考え方や解釈と根本的に違い、栄典や賞というものの制度が成り立たないのではないか。
III-6 官民格差について 【現状】
平成13年春の叙勲における受章者の構成は、
  • 公選職(国会議員、首長、地方議会議員など)8%
  • 民間34%
  • 警察官、自衛官等の公務員18%
  • 小中高校教員等の公務員9%
  • 国の一般行政職12%
  • 地方吏員5%
  • その他の公務員7%
  • 三公社・郵政事業等7%
となっている(資料13参照
(1) 数の比率 【懇談会における主な議論】
  • 官民格差の問題については、もともと我が国の叙勲制度が官中心に創設されたという経緯や歴史、国家・社会・公共への貢献を功績として評価するという本制度の趣旨からすると、ある程度やむを得ない面もあるが、この際、これを是正しようとすることも必要。
  • 官と民の比率をあらかじめ1:1、また、等級ごとに1:1にするというような考え方はとるべきではない。官民を問わず功績の大きさが同じであれば等しく評価するという制度であるべきであって、あらかじめ官民の比率を決めるというのはおかしい。
  • 官民の比率について、どちらかといえば民の方が多くてもおかしくないのではないか。
  • 官と民というような機械的な分け方で比率を見るのはおかしい。
  • 官民構成の内訳を見ると、警察官、自衛官等の治安、防衛等に従事している公務員が官の中の31%を占めている。このような危険で人目につきにくい仕事に携わる方々は他の一般の公務員とは違うのだから、これらの方々について官とか民とかという分け方をするのは適当ではなく、これらの方々を官の中に入れて「官は民の2倍」という議論をするのは公正でないのではないか。これらの方々を別にすれば、あまり官民の差はないのではないか。
(2) 上位勲等における官民比率 【懇談会における主な議論】
  • 勲一等から勲三等までの上位勲等叙勲者を見ると政治家、高級官僚、判事、検事、国立大学の教授等がかなりの数を占めており、それが目立つので官中心ではないかという批判があるのではないか。もう少し民を増やすということも今回の見直しの一つのポイントではないか。
(3) 同一分野における官民格差 【懇談会における主な議論】
  • 国公立大学と私立大学の格差の問題について、次代の日本人を育成するという公共に資する仕事の7割を私学が担い、また、私学の場合は教育研究に加えて経営等、教育環境なども国公立大学に比べれば劣悪であることが多い。私学に対する評価に、私学の努力、苦労に報いるということが反映されるべきではないか。
III-7 勲等バランス(国・地方間、地域内各分野間等)について 【現状】
叙勲候補者の功績の評価は、「叙勲基準」(昭和39年4月21日閣議決定)を基に、個々人の経歴、功績内容等について、過去の先例との比較衡量を行った上で個別具体的かつ総合的に行われている。具体的には、功績の広がりや社会・国民生活に及ぼす影響、職務(業務)の困難、責任の重さ等を総合的に勘案して行われている。
【懇談会における主な議論】
  • 地方分権という観点からすると、もう少し地方に対する貢献というものを評価すべきではないか。
  • 全国団体の役員の方が地方団体の役員よりも勲等が高い、あるいは大企業の方が中小企業よりは勲等が高いというのは、見直しを考えても良いのではないか。

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