平成27年度「心の輪を広げる体験作文」作品集 小学生部門優秀賞

伝える力と心

海津市立高須小学校四年 伊藤 大吾(岐阜県)

 ぼくには、遠くに住んでいるおばあちゃんがいる。おばあちゃんにはしゅ味がたくさんある。あみものにクロスワード、童よう、そして手話。ぼくの家族にも親せきにも耳に不自由な人はいないのにどうしておばあちゃんは手話を勉強しているのだろう。夏休みに遊びに行った時に聞いてみた。

 手話を習ったきっかけは、昔おばあちゃんが働いていたお店で、お客様が帰る時にたったひとつ「ありがとう」と手話で話したら、その方がとてもすてきな笑顔を見せて喜んでくれたそうです。たったひとつの手話での笑顔が忘れられなかったこと。病院の受け付けで困っていたこと。駅のホームで電車がおくれているアナウンスが聞こえず待ち続けている方を見たこと。そこで、今必要な情報をすぐに伝えてあげれたらなあ。と思ったそうです。

 ぼくたちが一年生の時に「あいうえお」を習ったように手話にも「あいうえお」がある。ぼくはまず「いとうだいご」をどうやってやるのかを教えてもらった。ふ段使ったことのない指の形や向きや動きがあって、頭で思っていても指が思うように動かずに首や体をくねらせなくてはできないくらいすごくむずかしかった。一文字ずつだととても大変で時間がかかる。けれど、もっと早くスムーズに伝えるように例えばおばあちゃんがお客様へやった「ありがとう」と言う言葉をひとつの動作で表現する方法もある。左手を曲げ胸の前に持って来て右手で左手の甲を軽くチョップする。これが「ありがとう」となる。

 おばあちゃんが手話の勉強を始めてもう9年目らしい。今では手話ができる人が働いているお店として耳の不自由な方がおばあちゃんを訪ねて来店されるらしい。みんなにこにこして楽しく明るく元気に帰って行かれる時におばあちゃんは「もっともっと勉強しよう」と思うらしい。今年六十九さいのおばあちゃんだけど手話検定を受けるために勉強している。きっかけは人の役に立てたらいいな。と思ったことだけどすっかり自分の楽しみになっている。

 今年もおばあちゃんは手話をしながら童ようを歌ってくれた。ぼくが聞いてもすぐに手話で教えてくれる。だけどむずかしくて困っていると、「大丈夫。ちゃんと上手くできんでも伝えようとすれば伝わるんよ。それにわかってあげようと心を開けば伝わってくるんよ。」と教えてくれた。おばあちゃんの手話は、いつ出会うかわからない方々への心の準備だ。困っている人にすぐに手を貸せるようにぼくも心に準備をしよう。

 今年も駅での別れは扉が閉まってからの「ありがとう」と「大好き」ぼくが覚えた最初の手話だ。