佳作 【高校・一般部門】 田口 裕佑也

仕事のプロになるために

 

愛媛県立宇和特別支援学校高等部 一年
たぐち ゆうや
田口 裕佑也 (愛媛県)

僕は、今年の六月に、製材所で2週間の現場実習をしました。これまでの自分は、先のことを考えて行動することができなかったので、今度の実習では、周りを見て自分から行動することを目標にしていました。そして、職場の人とコミュニケーションを取りたい気持ちがありました。担当の人だけではなく、他にも働いている人と話したいと思っていました。

実習の最初は、相手のことをよく知らないのでなかなか話せず、不安で緊張していました。でも、加工場はだまってひたすら仕事をするという雰囲気があったし、工場の中はうるさいので、みんな口を大きく開けて会話していたことで、聞こえにくい僕は助かりました。相手の言葉を理解しよう、仕事に慣れようとがんばりました。

製材所では10人以上の人が働いていましたが、そのうち3人が僕にいろいろな仕事を教えてくれました。木材を運んだり、木の仕分けをしたりしました。初めのころは、聞き間違いをして、失敗したこともあります。「P地点に運んで」と言われた木材を、僕は「B地点」に運んでしまったのです。「P」と「B」は、口の開け方も音も似ているので、確認が必要だなと実感しました。会社の人も、その後はメモや手振りで分かるように教えてくれるようになって、間違いが減りました。

仕事をする中で思ったことは、状況確認をすることの大切さです。それは、聞き間違った失敗のほかにも、リフトやトラック、加工機械などの近くで作業するときに、周りを見ていないと自分自身に危険なことがあったからです。だから僕は、周りを見て、安全かどうか判断して行動するようになりました。

職場の人からは、リフトやトラックが来たら避ける様子を見て、「思ったより聞こえてるんだな」と言われました。最初は、「聴覚障がい」の人は「耳が聞こえない」と思われていたようで、話しかけてもらえませんでした。でも、実際に僕が話している様子や仕事をしている姿を見て、周りの人もだんだん僕のことを理解して、話せるようになりました。聴覚障がいのことを理解している人が少ないと改めてわかりました。

また、聴覚障がい者が実習に来ていることを取材したいと言われ、木材関係の雑誌のインタビューも受けました。とても緊張したけど、リポートの女性が聴覚障がいのことを分かっていて、ゆっくり話してもらったので、聞かれたことにきちんと返事をすることができてよかったです。

休み時間には、どこに住んでいるのかとか趣味について、いろいろ話すことができました。リフトに乗せてもらったことも、楽しかったです。でも、僕が相手にたずねるとき、発音がうまくできなくて、分かってもらえないことがありました。そんなとき、会社の人はメモを使ってくれたけど、僕は何度も聞き直されることがないようにしていきたいと思います。二つ目の目標だった「コミュニケーションを取る」は、まだだめなところがあったので、次の機会に向けてもっと発音練習をしたいと思います。

製材所の仕事は力仕事でした。一週目はきついきついと思っていたけれど、二週目になると余裕が出て、楽しいと思えるようになりました。加工場の中を無駄のない動きで運転したり機械操作をしたりと、手際よく働く人たちを見ていると、かっこいいと思いました。同じ職場で働く仲間と信頼しあっているところも、仕事を続けているからできることで、すごいなと思います。僕は新人なので、スピードに追いつけなかったり仕分けが分からなかったりすることがありました。担当の人が簡単にできることを、僕が間違うたびに、経験の差を感じました。

社長さんから、「プロはスポーツだけではなく、仕事を続けている人もプロなんだよ」と教えていただきました。僕はこの言葉が強く印象に残っています。「仕事を続けてお金を稼ぐ」ということに、耳が聞こえるかどうかは関係ありません。僕は社会でプロになれるように、今の学校生活をがんばっていきたいと思います。