【中学生部門】 ◆優秀賞 深澤 菜月(ふかざわ なつき)

特別な一本深澤 菜月(高山市立朝日中学校1年 岐阜県)

「障害者はなにもできない。」「障害者はきたない。」「障害者は人を不幸にする。」障がい者に対して、そんなイメージを持った人に伝えたい。一本の染色体が私に教えてくれたことを。

「おはよう。」今日も朝から元気な声がします。「なっきー、今夜一緒にお風呂入ろう。」なっちゃんが誘ってきます。いつもニコニコ笑顔の絶えない私の姉はダウン症です。

ダウン症について詳しく知っている人はどれ程いるでしょうか?おそらく多くの人はよく知らないでしょう。私も姉がダウン症でなければ知らなかったし、知ろうともしなかったと思います。

ダウン症は21番目の染色体が一本多く三本あるために発症します。でも、その一本には、私を含め、みんなが持っていない何かがあると思っています。

姉はとても優しい心を持っています。私たち家族のことを大好きな気持ちが伝わってきます。私が落ち込んでいるとき、何も言わずそばにいて一緒に泣いてくれます。反対にうれしいときは自分のことのように飛び上がって喜んでくれます。本当に優しい姉なのです。

それなのに、私は姉に対して冷たい態度をとってしまう時があります。姉にはがんばっても出来ないことがたくさんあると分かっているのに、無理なことを言ってしまう時。できないことにイライラしてしまう時。どうして自分だけが叱られなくてはならないのかと思ってしまう時などです。特に二人で同じことをしていたのに、私の方が強く叱られたりすると、その感情が抑えられなくなってしまうことがあります。そして、姉に八つ当たりをし、ひどい言葉を浴びせてしまいます。

一度姉と大喧嘩をしたことがあります。原因はささいなこと……。取っ組み合いの喧嘩になり二人とも大泣きしました。その時、姉にも抑えられない感情があったんだと少し驚きました。いつもは穏やかで優しい姉。きっと、本当はいつも私に色々言われて我慢していたのだろうと思いました。心の中で思っていることをうまく言葉で表現できないから我慢してしまう。日々その繰り返しなのかもしれないと思いました。だから、私は姉の気持ちを姉の立場になって考えてあげなくてはいけないと考えるようになりました。イライラした時、一度目を閉じて「私が姉なら……。」と考えてから話をするようにしました。すると、私自身がとても優しい気持ちになることが出来ました。

姉の周りにはいつも多くの人が集まってきます。だから、私は、姉のおかげで多くの人と知り合うことができました。姉には人と人とを結びつける力があるのだと思います。以前、姉と話をした人が「とても楽しくて、優しい気持ちになれたよ。」と言ってくれました。その言葉を聞いて私は嬉しくなりました。

昨年行われたアンケートで、ダウン症のある人の90%以上が幸せだと感じているという結果が出ました。障がいがあるということは、もちろん大変です。でも、その分幸せも大きいのです。私は、その幸せな気持ちが周囲の人にも伝わり、周りまで幸せで優しい気持ちにしてしまうのだと思います。

ダウン症の人しか持っていない特別な一本の染色体。その特別な一本には、思いやりの気持ち、優しい気持ち、みんなを幸せにする心がたくさん詰まっているのです。

私は、ダウン症の姉がいることで多くのことを学ぶことが出来ます。学んだり知ったことを、自分の心の中だけにとどめておくだけでなく、友人や周囲の人に伝えていくこと。そして、ダウン症に限らず、障がいのある人とこれからも触れ合っていくこと。これこそが、障がいをもった姉の妹として、そして一人の人間としての私の生き方です。

こんなふうに考えさせてくれたのも、姉の持つ特別な一本の染色体のおかげです。みんなを幸せにする一本。みんなを優しい心にする一本。そして、人と人とをつなげる一本。

本当に特別な一本です。