第14回障がい者制度改革推進会議　差別禁止部会（2012年2月24日）
議事要録

【議事　日常生活（商品、役務、不動産）における差別禁止について】

（相手方の範囲）（何が差別か（合理的配慮については別項））

• （東室長）相手方の範囲として、どの範囲まで法的規制を及ぼすかについて議論が必要だ。韓国の差別禁止法は「財・用役等の提供者は」と余り限定していない。廃案になった154回国会提出の人権擁護法案では「業として」「対価を得て」と事業者で有償の場合に限定している。委員提出資料の「障害を理由とする差別を禁止する法律」日弁連法案概要（以下、日弁連案）では「公共的又は商業的なサービスを提供する国、地方公共団体、個人又は事業者」という形で限定している。なお、行政サービスを役務ととらえるのか独自の項目をたてるのかという議論も必要だ。韓国の差別禁止法では「司法・行政手続及びサービスと参政権」という項目で財・用役等とは別に規定されている。次に、何が差別かを議論していただきたい。日弁連案では「障がいを理由として、サービスの提供を拒否若しくは制限し、又はサービスの提供について不利益な取扱いを行うこと」とあり、韓国の差別禁止法では「障害を理由に、障害者ではない人に提供することと実質的に同等ではない水準の便益をもたらす物、サービス、利益、便宜等を提供してはならない」「財・用役等を利用することにより、利益を得る機会を剥奪してはならない」と規定されている。千葉県の条例では商品又はサービスと不動産の取引を分けており、前者について「障害を理由として、商品又はサービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること」と規定されている。
• （発言）日弁連案の「第７　サービス」では、対象範囲を具体的にイメージできるよう、宿泊施設、金融業、娯楽またはレクリエーションのための施設、飲食業、公共職業安定所その他の職業安定機関等、保健医療サービス又は福祉サービスの提供者と規定した上で、それに続いて「前各号に掲げるものの他、不特定かつ多数の者が利用する施設を設置して営業を営む者」「前各号に掲げるもののほか、公共的または商業的なサービスを提供する国、地方公共団体、個人又は事業者」としており、実際上無限定に近い。
• （棟居部会長）日弁連案の対象範囲について「営む者」と書かれているものには「業として」「反復・継続」の意味が入っている。その他の項目も、これに連動して1回だけの偶発的なものは対象とはしていないのか。
• （発言）日弁連案の対象は、業として反復・継続して行う者だったと記憶している。
• （発言）委員提出資料の法案骨格試案（以下、骨格試案）では物品・役務（13条）と不動産・交通（14条）を分けている。前者については「次に掲げる者は、その供給する物品又は役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない」として、１～18号で対象の具体例を挙げ、19号で「業として対価を得て」と人権擁護法案の考え方に則したものを入れた。
• （東室長）障害福祉サービス等については骨格試案13条11号に「社会福祉法に規定する社会福祉事業の運営主体及び社会福祉事業に従事する者」とあるが、これは行政自体ではない。行政が福祉サービスを提供する場合は、別途規定するという前提か。
• （発言）行政サービスは、骨格試案の16条「公務」に書いている。
• （棟居部会長）「業として」「営む者」「反復・継続」と規定して対象者を限定するのは何故か。
• （発言）「業として」「対価を得て」という限定を付けると、被災地のボランティアが障害者だけにサービスをしない場合は除かれるがこれをどう考えるか。役務の提供に関わって相手の感情を傷つける、尊厳を侵害するというハラスメントが生じた場合も、差別に当たると言える仕組みとするべきではないか。
• （東室長）日弁連案では公共的サービスの提供者を対象にしているので、これにボランティアを含み得るかという議論になるのではないか。ハラスメントについては、接客するときに差別的な言動をするといったような具体的な事例を念頭に置いて議論してほしい。
• （発言）公共性はメルクマールだ。法的に規制の対象にするのは社会現象としての差別なので社会的接触関係が必要で、パーソナルな事象や個人の生き方、信念に立ち入るものではない。
• （発言）「業として」「公共的な」の意味を明らかにする必要がある。消費者契約法上の事業者とは、営利のためかどうかは関係なく、同種の行為を反復・継続して行う者である。同種の行為を反復・継続して行う者は消費者よりも情報・交渉力の点で優位に立つので、民法と異なる特別な規制が必要という説明である。先ほどから出ている「業として」がこの事業者と同じ意味であれば、被災地でのボランティア活動も事業者に当たる可能性があるので、営利まで含めるかどうかを議論する必要がある。その上で、同種の行為を反復・継続して行えば、差別禁止法の対象になって規制がかかるのはなぜかが問われる。公共性についてもまずその意味が問われ、その上でそうした公共性が持つ者に何故特別な規制がかかるのかが問題になる。
• （棟居部会長）ボランティアの場合、契約はあるのか。反復・継続という事実行為だけでも事業者だという理解でよいか。
• （発言）消費者契約法は契約を締結して初めて規制がかかるが、差別禁止法では対象を契約した場合のみに限定しなければ規制がかかることになる。民法における事業者は営利を目的とするかどうかに関わりなく、同種の行為を反復・継続して行う点がポイントになる。
• （発言）あるコミュニティの組織がチャリティで子どもにプレゼントをする時、障害者だけに渡さなければ差別に当たると考えるが、これは公共性という基準で説明できるか。
• （東室長）公共性や「業として」の意味を明確にすることで差別禁止と言えるという議論の流れだが、別の考え方もある。憲法の価値は自由と平等であり、自由権とは国家権力が個人の自由な活動に関与するなと私的自治を重んじることで、そこから契約の自由が出てくる。片や、平等という価値から言うと、差別は誰もしてはいけないというのが原則だが、現実の社会ですべてを対象にするのは政策的にも妥当でないため、対象を限定する手法として公共性や「業として」が出てくるという議論もあり得る。
• （発言）事業者を同種の行為を反復・継続して行う者と考えると、ボランティア団体もこれに当たり、差別禁止法の対象になる。
• （発言）事業者と公共性という時には、不特定多数の顧客を相手とし継続性をもって行う事業を指している可能性が強い。１回限りのサービス提供は、不特定多数を対象にするのは例外的で、時間や空間等が限定された事業だ。従って、抽象的な意味で差別禁止は成立しても、規制により差別禁止を義務化することは現実性がない。
• （発言）消費者契約法に関し、事業者は継続・反復的に一定の行為を行うため情報量や専門性が高まるので、平等な契約のためには消費者を保護する必要があるとの説明があった。これを踏まえれば障害者差別禁止法の法制化の意味は、障害のある人とそれ以外の人との間に力の差があり差別事象が起こりやすいため、そのアンバランスを是正することだと考えられる。ならば公共性や「業として」という形で主体を限定するより、財・用役等の提供という行為の場面で限定を加える方が、法の目的や理念にかなうのではないか。
• （発言）なぜ差別禁止法の適用対象にして平等取扱い義務を課すことが正当化できるのかは、難しい問題である。その説明としては、不特定多数の相手に一定の行為を継続して行うと決めた者は、そのような行為をする以上、障害者も含めて等しく扱わなければいけないという拘束をかけられても仕方がないということが考えられる。事業者を差別禁止の対象にする場合の説明としては、一定の行為を反復・継続して行う者は一定のルールに従って行動するのだから、等しい者を等しく扱うべきで、正当な理由がない限りは障害者を差別して契約することは許されないとされても仕方がないということが考えられる。
• （発言）日弁連案の差別の定義で、「サービスの提供を拒否若しくは制限し、又はサービスの提供について不利益な取扱いを行うこと」とある。不利益な取扱いは広い内容を含むので、拒否や制限も含まれるのではないか。その上で、障害のある人が証明しやすい書きぶりがよい。骨格試案では合理的配慮以外の差別行為を不均等待遇とし、「不均等待遇」とは障害だけではなく障害に関連する事柄を理由にした行為や基準が実質的不利をもたらすことと定義した。「実質的不利」は平等な機会を実質的に享受し得ない状態、人間の尊厳又は人格が害される状態、社会参加が実質的に妨げられる状態、自己決定が実質的に妨げられる状態のいずれかの状態をいう。「実質的」とは軽微又は些細な程度を超えた状態をいう。ハラスメントは尊厳又は人格が害される状態でカバーできる。以上により、障害又は障害に関連する事柄を理由として実質的不利を受けたと本人が証明できればよい。障害差別禁止法は単に等しい者を等しく扱えというのではなく人間の尊厳等民主主義社会で共有されている価値を実現するために存在する。
• （棟居部会長）差別禁止法はサービスの提供を受ける等の結果を保障するのではなく、結果に向かう機会を平等に保障することが根本的な理念だと考えるが、商品や役務の提供を拒むことが差別だとすると、機会の平等を実質的に保障することで結果も付いてくる。結果を保障することと同じ議論をすると福祉施策やアファーマティブ・アクションではないかと誤解を生む懸念がある。
• （発言）商品や役務の提供の拒否は差別だろうが、提供に当たって不当な条件を付すことは難しい問題だ。車いすの人が電車に乗る時、先方の駅に連絡をするので１本２本電車を待ってほしいといわれたら、その段階で不利となり救済機関に訴えられるのか。
• （東室長）乗ることの制限という問題ではなくて、乗せるための配慮をする場合のやり方の問題ではないか。
• （発言）現行法ではプラットホームの段差や隙間はできるだけ小さくしろとあるが、現実的にはほとんどできておらず、環境整備をしないこと自体が差別を生むという見方もできる。不動産の情報は視覚に訴える者が多いため視覚障害のある方は間取りが分からない等、情報障害のある方がサービスを受ける時に情報が得られないという問題がある。補助犬法で補助犬を連れて入る場合に拒否してはならないとあるが、犬の毛にアレルギーがある人にとっては拒否されていることになり、難しい問題だ。
• （発言）日弁連案の「サービスの提供について不利益な取扱いを行うこと」の例として、飛行機などで障害者が単独で搭乗しようとしたときに付き添いと一緒でなければ乗せないことがある。情報提供について、著作権の場合は権利者の保護と著作物の公共性維持の双方を守るとされており、視覚障碍者のための点字翻訳権は従来から認められてきた。最近も著作権法が改正され、情報障害者の著作物利用について、同一保持権等の制限やリライトの権利を認める等情報障害者のアクセス権が実現されてきている。
• （発言）サービスの拒否や制限は不利益な取扱いに含まれるのではないかとの質問について、不利益性が証明されなくても区別すること自体も差別性を帯びるのではないかということで、日弁連案では拒否や制限と不利益な取扱いの双方を書いた。
• （東室長）保護者同伴でなければ受け入れないであるとか、障害者の場合は費用がかかるからより多く負担するようにといった条件が付けられる事例は多い。

（何が例外か）（契約自由との関係でどのように考えるか）

• （東室長）例外について、千葉県条例では「サービスの本質を著しく損なうこととなる場合その他の合理的な理由なく」と書かれている。具体例としては解釈指針で、障害特性からクラシックコンサートの最中に会場で大声を上げてしまった場合、当該サービスに不可欠な静謐さを壊さないようサービスの提供を拒否しても不利益扱いとは解さないとしている。また、生命または身体の保護のためやむを得ない場合も例外事由とされることがあり、千葉県条例の解釈指針では、遊園地の遊具に乗車中に本人の体調が急変した場合に生命、身体の保護のためサービス提供を中止しても合理的な理由があるとされている。日弁連案では例外として<1>人の生命、身体、財産の保護のためやむを得ない場合、<2>他の方法ではサービスを提供できない場合、<3>サービスの基本的性質を著しく損なう場合を挙げている。しかし生命、身体の安全という抽象的な理由でサービス利用を拒絶されることが多く、例外が過大に適用されると制限が増えるという問題について議論してほしい。契約自由については、特に閉鎖的なメンバーズクラブ等でサービスが提供されている場合、会員になれるのかという問題がある。基本的な考え方を議論してほしい。その際、最初から適用除外にするのか、一般的な例外規定で対処できるのかも検討してほしい。
• （発言）私人間の契約で差別行為が行われる場合に何が問題になるのか。
  
  この場合、差別される側の平等に扱われる権利や人格権が害されるが、相手方にも権利があり、私的自治あるいは契約の自由がそれにあたる。民法でいう私的自治は広く意思の自由ととらえられており、基本的な自由として認められている。更に、私的自治は、憲法13条の幸福追求権にさかのぼる基本的な自由である。契約をするとそれに拘束されるという点で、契約の自由は私的自治と似ているけれども違う点がある。しかし、契約を守ってくれないと、こうしようと思っていたことができなくなるので、拘束力も含めて契約の自由も幸福追求権、つまり憲法にさかのぼる基本的な自由にあたる。
  契約で差別行為が行われている場合は、平等権等の基本的人権が問題になるが、憲法上の基本的人権は国と個人の関係に妥当するものである。私人間で問題が生じた場合は、民法を適用するときに憲法の趣旨を考慮するという形で、憲法の規定は間接的に適用されるというのが通説である。具体的には、民法90条の公序良俗に反する契約等は無効とする規定や、民法709条の不法行為に基づく損害賠償に関する規定を解釈し適用するときに、憲法の価値を考慮するということである。
  ＸがＹに権利を侵害されているときは、国は、Ｘの基本的人権をＹによる侵害から保護する基本権保護義務を有しており、先の間接適用説はこれによって基礎づけられる。ただ、国が保護することで相手方の権利の制約が大きくなり過ぎないよう、双方の権利や自由を衡量して判断する必要がある。
  まず、契約ができない又は不利な契約しかできないため、障害者であるＸの権利が著しく侵害されているときは、国はＸを保護しなければならない。特に生活する上で不可欠なサービスの場合や代替手段がない場合には、保護されやすくなる。
  次に、Ｘを保護することで、Ｙに契約上の義務を課すことによって生じる不利益がどの程度かが問題なる。Ｙが提供する商品や役務の本質を変えなければならない場合は、Yへの過剰な制約であり、例外として正当化されるだろう。見合わないほど低い費用で商品や役務を提供する契約をYに強制できるかは難しい問題である。実際には高い費用が必要であるときに、Ｘ以外の人に価格を転嫁できなければ、そのサービスをやめざるを得ない可能性もあるし、大変でも障害者等の権利を害する場合はだめだということになるかもしれない。
  また、契約の自由だけではなく、Ｙの重要な実質的権利が問題になる場合は、それも尊重されなければならない。Ｙが閉鎖的なメンバーズクラブである場合、相手を選んで親密な関係を形成する自由は幸福追求権の一つであるから、国がＸとも交流せよと強制できるかは難しい問題である。ゴルフクラブについての判例は、親密な関係を形成する自由を尊重したものと、ゴルフクラブはパブリックな性格を持つのでオープンになるべきだと責任を認めたものに分かれている。
• （棟居部会長）障害者であるＸと、差別をするＹという企業、団体、個人は契約当事者としては対等の立場にあり、両者の上に国がいるという図式だ。この三者のバランスが大事だという説明だが、このバランス上、Ｙへの契約を強制することもあり得るのか。
• （発言）Ｘを保護する手段には、契約を強制すること（締約強制）と損害賠償がある。
  
  前者はＹの権利に重大な制約を課すので、これを正当化するのは難しい。ガスや電気等不可欠な商品や役務について、Ｙが独占的な地位を持ち、Ｙと契約しなければこれを得られないときには、締約強制の可能性があるが、それ以外でこれを認めることは過剰な介入になる可能性が高い。
  後者の損害賠償には更に２つある。１つは仮に契約していれば得られたはずの利益（履行利益）の賠償を求めることで、もう１つは契約を履行するために無駄に費やした費用の賠償や契約のために相手に渡した財産等を元へ戻すことを求める信頼利益の賠償又は原状回復的賠償である。履行利益の賠償は契約締結と同じ状態を実現するので、過剰な介入という判断がされやすい。原状回復的賠償は認められる可能性は高い。慰謝料や人格権侵害は、以上とは別の問題である。
• （棟居部会長）民法90条の公序良俗や709条の不法行為というアバウトな概念に憲法の人権価値を落とし込むのが先の間接適用というテクニックだが、差別禁止法は基本権保護義務を形にするものである。障害者であるXを保護する一方でＹへの過剰な規制になってはいけないという悩ましい命題を裁判官に丸投げせず、両者のバランスをとる枠組みを立法で実現するため、保護義務という観点から考えるべきだ。
• （発言）憲法29条は私的財産の絶対性をうたいながらも、公共の福祉による制限を認めている。その公共の福祉による制限の中に、平等の実現や人格権の保障という観点から憲法29条を適用することを考えられないか。また、契約の相手方の利益が制限されること自身を、公共の福祉による制約として理解することで、日本における差別禁止の体系が憲法上も認められるのではないか。
• （発言）憲法29条も国と個人の間に妥当する権利で、ＸとＹの問題について直接適用されないことが前提である。国が基本権保護義務を履行するとき、契約の対象が財産等であれば、Yは財産を相手に提供しなければ損害賠償責任等の制約を課せられるので、憲法29条の財産権がＸとＹの間で問題になる。その上で、公共の福祉による制約をどう見るかが問題になる。
• （棟居部会長）ＸもＹも多元的に自分の幸福を追求してそれぞれが両立するのが一番よい。ただ、差別する側に価値があるのかという反発がある一方で、Ｙはことさらに差別しているのではなく営業の自由や契約の自由によって自己決定しており、この両者のバランスが問題になっている。公共の福祉とはこのように複雑に絡み合う色々な人たちの価値や利益、夢などの複合体だと言えるので、単純な問題ではない。
• （東室長）差別禁止法制を国内法としてつくるという方向性について、当然と考えるか、それともそれは無理なことだと考えるか。
• （発言）まず、障害者には、障害を理由とした差別を受けない権利、平等取扱い義務に対する権利がある。また、人間の尊厳や人格権は侵害されてはならず、障害を理由とする差別はこれに当たる。以上は現在でも憲法上の権利として保障されているため、私人間の権利侵害に対して国は基本権保護義務に基づき最低限の保護をしなければならない。現在は民法の規定等を通じて保護しているだけだが、これで不十分だとすると、新たな立法によってこの保護義務を果たさなければならないことになる。
• （発言）低い費用で商品等を提供する契約をYに強制してＸ以外の人に価格を転嫁できなければそのサービスをやめざるを得ない可能性もあるとの指摘があったが、国が介入する限りは費用についても国が一定の負担をするべきだ。これを考えなければ、Ｙ責任が過剰になりかねない。
• （発言）新しい法をつくることは新しい裁判規範をつくることなので、裁判官が恣意的な適用をする、判断に幅がある等のことがあってはいけないという趣旨の議論をしてきた。今日は商品、役務、不動産に焦点を当てたが、韓国の差別禁止法のように行為を中心に規律する法律のつくり方と、相手方の範囲や何が差別かを定義するつくり方があるという議論だった。裁判規範として司法等の場面で解釈に幅ができないよう、かつ当事者が困っていることが解消されるようにするための法律を、いかにつくるのかが議論されている。
• （発言）現代社会の日常生活における財やサービスは、必ずしも契約の相手方の個性に着目しておらず、内容も定型化・類型化されているものが多い。ファミリーレストランでオムライスを食べることについて契約強制を課しても相手方にとって大きな不利益にはならない。また履行利益の損害賠償請求の訴訟をしても少額の賠償にしかならないし、店側の行為を是正する効果も期待できないため、契約強制についても考えるべきだ。ＸとＹと国という整理の仕方ではＸとＹが同等であることが前提だったが、実際には障害のある人が不利な立場にあり、そこに私的自治や契約自由の原則という形式的な原理を当てはめるとバランスの悪い契約となるので、これを構造的に変えるのが差別禁止法の役割だ。契約自由や知的自治が本来予定していた機能を回復させるために、障害者を底上げして不平等を平等に戻すということだ。
• （発言）クラシックコンサート等で大声を出してしまうのは、障害特性が原因だと決めつけてよいのか。幼稚園等でざわざわしていると、発達障害の子は感覚過敏があって苦手なので他の子にかみついてしまい、利用を制限されることがある。感覚過敏などは障害特性だが、騒がしい環境がなければもしくは的確な支援があればかみつかないはずだ。そした環境や支援がないことはその子のせいではない。生命または身体の保護のためというのもよくある。歯医者や床屋が苦手な自閉症の子は安全のためとして押さえつけて治療や散髪をされる。本人にすれば苦手な上に押さえつけられるから、怖さが増して問題行動が誘発される。最近はうまくコミュニケーションをとって、押さえつけなくてもできる歯医者や床屋等が出てきた。安心させる方法のスタンダードができつつあるが、そういうものを身につけずに暴れる子は無理だと拒否することは、例外と処理してよいのか。
• （棟居部会長）初めから排除する店が多い中で、スキルを持つ床屋等が出てきていることから、市場原理が機能して「こういうお子さんはダメです」という店は淘汰されるという意見もある。あえて法で介入しなくてもうまくいくという結論にもならないか。
• （発言）自閉症の子どもを持つ医師が自閉症児者の治療について研究し、スタンダードな方法を作り、広めようとしている例がある。自閉症児を受入れている床屋では口コミで客は増えているが、手がかかる子ばかり来るのでかえって迷惑をかけている。
• （棟居部会長）国が認証マークのようなものを付ければ、多くの親が自閉症の子どもを連れて来るようになり、うまく機能するかもしれない。
• （発言）人口呼吸器を付けた車いすの人がクラシックコンサートに行った所、隣の席の人が劇場に「うるさいから出ていってほしい」と訴え、この人は出されたという話を聞いた。商品の本質を損なう場合に例外が認められるのは、理論上は分かるが、それではこの事例の人はクラシックコンサートに未来永劫行けないのか。商品の本質は提供する側と提供される側の認識によって決まり、固定化されたものではない。例外規定を設ける場合、具体的な例示は抑え、救済委員会や裁判で本質を問うことができるようしてほしい。
• （発言）先ほどの自閉症児の例について言うと、看護師が適切な声掛けをする、他の客に静かにしてもらう等の配慮をすればこの子は落ち着くので、そうした配慮を歯医者等に要求したにもかかわらず、それをしない場合には差別に当たるのではないか。
• （東室長）例外が認められるには「合理的配慮を尽くしてもなお」という点が考慮されるべきだとの議論だが、これまで合理的配慮という考え方がなかったので、これを考えない形でしか例外を規定しなかった。今後は、合理的配慮と例外を必ずセットで考えるべきであり、この点は後で議論していただきたい。
• （発言）既存の法律との整合性にこだわってばかりいると、差別禁止法はできないのではないかと懸念する。今の法律が障害者差別を生んでおり、差別を救済していないからだ。人権の視点、社会正義の視点から差別禁止を考えるべきだ。

（約款との関係）（合理的配慮について）（不動産に特有の問題はあるか）

• （東室長）「約款との関係」について。障害者を最初から排除する、契約後に障害が生じた場合に役務等の利用を中止する、特別の出費の費用を徴収する等の約款をどう考えるか議論してほしい。約款とは、取引が定型化された場合にあらかじめ契約の内容をモデル化したものだ。資料１「商品の購入、役務の提供、不動産の利用について、担当室整理メモ」に示した約款の事例を踏まえて、議論していただきたい。次に「合理的配慮について」、またその例外について、具体的な事例を出していただき、イメージを共通化したい。商品に関する合理的配慮として、情報提供以外に商品の売買という観点から事例を出してほしい。役務の提供についても事例を示すとともに、日弁連案のように詳細な例示規定が必要かどうかも検討してほしい。最後に「不動産に特有の問題はあるか」について、賃貸借は商品の提供でも役務の提供でもないので、別建てで規定する必要があるかどうか等について議論してほしい。
• （発言）「約款との関係」「合理的配慮について」という論点は、予防措置等を併せて考える必要がある。旅行会社の中には、障害者を受け入れるに当たり、集合時間や集合場所等の連絡を口頭だけではなくボードにも示す等、事前に改善措置を組み込む等の努力をする所もある。駅の利用に当たり事前の連絡が不要で、また駅員に対応を求めなくてもアクセスできる交通機関も相当数ある。こうした対応を約款等の形で事業所内に位置付けることが、障害を理由にした制約を受けないための担保になるのではないか。障害者差別禁止法が差別をする人を罰することではなく、障害者が制約を受けないことを目標にするのであれば、以上の観点が必要だ。
• （発言）契約行為に当たって知的障害、発達障害の人への意思決定支援をする際に、どんな合理的配慮を用意するべきか。知的障害の人に分かり易く契約内容を説明することはイメージできるが、加えて本人の決定を支援することも想定される。
• （発言）知的障害や発達障害の方のコミュニケーション支援や意思決定の支援は難しい問題だが、知的障害の人のための新聞を本人も入って作っている組織では、分かり易くするために二重否定は使わない、文節を短くする、漢字は必要最小限にする、比喩は使わない等のルールを積み上げている。発達障害の方には、絵記号やイラスト等視覚的に構造化されたツールを用いると見通しが持ててコミュニケーションがスムーズになるという知見は、国内外で積み上げられている。配慮の内容は個別によって違うが、研究等によってある程度通用するものはある。
• （発言）意思決定支援について成年後見制度は問題がある。今後、差別禁止法をめぐって個別法との関連をどうするかという問題を、将来の議論に含めてほしい。
• （発言）合理的配慮との関係は重要だが、精神障害の方は入会できないと書かれたスポーツクラブの約款等、偏見に基づく約款はなくす必要がある。
• （発言）骨格試案では、障害または障害に関連する事由に基づく行為または基準が障害のある人に実質的不利をもたらす場合に不均等待遇、つまり差別になるとしている。この基準は、制度、慣行、慣習、観念、規定等と幅広く、約款も入る。相手側が目的と達成する手段が適切であることを証明しない限り、その約款は違法な差別になり得る。合理的配慮は、<1>物事の決め方ややり方の変更、<2>建物等の物理的形状の変更、<3>補助手段の提供の３つから成る。ただし情報保障は重要なので、<4>として<1><3>については情報保障を明記する必要がある。合理的配慮の例外事項は、役務、商品等にかかわらずすべてに該当するが、<1>事柄の本質を変更すること、<2>財政上その他の過剰な負担を伴う、<3>第三者に著しい損害を与えること、<4>障害の存在を知り得なかった状態の４つが挙げられる。
• （棟居部会長）合理的配慮について、日弁連案では詳細な例示を示しているが、骨格試案はアバウトだ。
• （東室長）総論では骨格試案のように抽象的な規定でよいが、各論では例示規定を盛り込む必要があるのではないか。
• （発言）各項目に規定を設けることは、差別禁止法の要綱をつくる段階では必要だ。その理由は、差別規定が抽象化されると社会的な規範として果たすべき目標との関係でよくないからだ。また、国民に分かり易くイメージを提示する点からも必要だ。立法化の段階で可能ならば、一般化や統一化をするべきだ。
• （発言）建築の分野では、ガイドラインは法的な規制力はないが、整備のレベルとして使われている。これを法律本体に入れるのかどうかは議論の余地があるだろう。社会の変化によって例示が妥当でなくなる場合があり、バリアフリー法では５年ごとに見直すという規定がある。ただ、ADAは見直しの際に反対勢力によって後退させられるのではとの懸念があったため長年改正できなかったので、安易に見直し規定を入れてよいのか疑問はある。時代ごとに出てくるいろいろなやり方を反映できる形にしておくべきだ。
• （発言）合理的配慮義務があるにもかかわらずその義務を履行しないときに、損害賠償を求めるというのは分かり易いが、合理的配慮義務を履行していないときに履行請求や履行強制まで認められるのかは問題である。日弁連案には、合理的配慮義務として、「（３）サービス提供するにあたり、障がいのある人がサービスを利用することを容易にするための補助機器及び人的援助を提供すること」とあるが、これを提供することを請求できるのか。また、自分で補助機器や人的援助を調達して、その費用を請求できるのか。
• （発言）合理的配慮がない時に履行義務まで要求できるのか、金銭補償になるのかは難しい。我が国の救済体系では直ちに履行義務まで課すことは、特別な法律がない限りは難しい。合理的配慮がないことは差別だと認識した上で、差別の解消に向けて社会がどのようなものを用意するのかというスタンスに立つべきだ。
• （東室長）差別禁止法で、一定の要件を付した上で、履行を義務づけないと権利保全の観点で問題がある場合、裁判所の判断で命令するという規定はつくれるか。
• （発言）バリアフリー化やエレベーター設置を求める裁判を提起した場合、裁判所はそれを求める根拠規定がないという判断をする。児童扶養手当が聴覚障害者に届く形で情報提供されていないことが問題になった事件でも、周知徹底を義務付ける規定がないことを理由に棄却している。そういう裁判例の流れを踏まえれば、差別を社会から排除するための障害者の側からの積極的な行動を基礎づける規定が必要だ。また、駅にエレベーターを付けることを求めるだけでは裁判として成立しない可能性もあるので、この請求を受けとめる第三者機関や調整機関が対応し、場合によっては、調停や第三者機関による調整という形で解決を図ることもあり得るのではないか。
• （発言）立法で履行請求まで強制する規定を定めることはできるが、まだ契約を締結していない段階で配慮を求める場合は、契約の締結を強制するのと同じ意味を持つ側面がある。つまり、まだ契約していないにもかかわらず合理的配慮を強制するので、こうした負担を相手方に課すことが過剰な制約にならないかが問われる。既に契約が締結された場合も、本質的には同じ問題である。
• （発言）合理的配慮や過度の負担の内容は個別に判断する必要があるので、最終的には裁判所に行くのだろうが、第三者機関や骨格試案にある障害者権利委員会、あるいは更に簡易な方法が必要かもしれない。そういうことも含めて将来どう履行するのかについて議論してほしい。
• （発言）男女雇用機会均等法をつくるときに救済機関をどうするかという議論があった。入口の募集・採用で差別をした場合は不法行為に当たり損害賠償までは請求できるが、裁判で採用するように履行強制ができるのかについては学説も否定的だった。ただし、行政委員会である労働委員会が出す救済命令には使用者への作為命令が含まれるので、均等法においても労働委員会が救済命令を出せるようにするべきとの議論をしたが、実現しなかった。現在は、個別紛争解決として行政機関による相談、助言、指導、あっせん等が行われている。均等法やパートタイム労働法では、それぞれの法の定めるところによって勧告までなされ、当事者が必要と認めれば調停が行われる。障害者差別禁止法でも、労働関係についてどこまで強制できるかは、労働法全体のシステムを照合しつつ議論するべきだ。
• （東室長）不動産について、賃貸が役務提供に含まれるならば、特有の問題の有無を議論する必要はないが、どう考えるか。
• （発言）賃貸契約の場合は、車いす使用者が使えるように自費で改造したとして、契約解除の際に誰の費用で元に戻すのか、あるいは原状復帰する必要があるのかが問題になる。
• （発言）原状に回復する義務は、賃貸借契約では一般的にある義務である。それ以外に、改造について承諾を求めたときに、賃貸人は必ず承諾をしなければならないのかが問題である。また、契約終了時に手すり等がついていて賃貸物の価値が高まっている場合、借主は貸主に有益費を償還請求できるという規定が民法に定められているので、これを請求できるかという点も論点になる。
• （発言）住居がなければそもそも地域生活ができないので、差別禁止法で不動産を取り上げる場合は、権利条約19条が思想的な背景にあると考えられる。
• （発言）不動産については提供拒否以外に、粗悪物件を提供することが想定される。契約に当たって業者から説明を受けて同意をする等手続が細かいという点では、他の役務とは大きな違いがある。更に重要なのは、決定支援の実効ある仕組みだ。
• （発言）借りることができるかどうかという前に、そもそも選択肢がない。ホテル等には全客室数の２％程度のアクセシブルな部屋を設けるといった目安があるが、住宅にはない。一般的に共用部分についてアクセシビリティの要求はあるが、個別の部屋についての規定はなく、車いすを使う方が改造しても、自分の部屋のトイレや風呂が使えないという例はたくさんある。部屋数の何％はアクセシブルにするといった要求が法的にできるかどうかという論点がある。
• （発言）日弁連案では、差別の定義の適用除外として小規模居住用建物を挙げているが、その理由は何か。閉鎖的なメンバーズクラブも利用可能であるべきで、拒否することは差別に当たるのではないか。
• （棟居部会長）閉鎖的なメンバーズクラブについては憲法上の権利である結社の自由が大きな壁だ。
• （発言）日弁連案の適用除外は、１世帯にしか貸していない小規模な大家さんにとっては過度の負担になるという考えだったと記憶しているが、適切かどうか疑問が残る。
• （発言）「生命、身体、財産の保護のためやむを得ない必要がある場合」を適用除外の例示とするのも不適切だ。日弁連案は2007年に作っているので、見直す必要がある。