p1  資料3 障害者政策委員会 障害者差別解消法の見直し検討におけるヒアリング資料    【議題】 事業者による合理的配慮の提供の義務化、合理的配慮の提供を促す環境整備の在り方及びその他必要に応じて意見書で言及された内容について     一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会     会長 神永芳子 ○先天性心疾患患者と就労における合理的配慮 〔成人先天性心疾患患者〕 医療の進歩により9割が延命されるようになりました。成人期を迎えた先天性心疾患患者(成人先天性心疾患患者)は50万人に達しており、今後も年に1万人ほどの患者が増えていくといわれています。しかし、先天性心疾患は手術によって「根治」することはありません。心臓病の障害が残存(遺残症)、加齢による新たな機能的問題の発症(後期合併症)、術前にはなかった障害が生じる(続発症)するといった、術後遠隔期における様々な問題が生じてくるのです。これらの遠隔期における問題により成人期以降の社会生活での大きな障害となっています。 さらに、精神・知的障害、発達障害といった他の障害をあわせもつ患者も増えており、利用できる制度がなく、障害者手帳が取得できない患者とともに、制度の谷間におかれている患者も増えています。 〔就労の状況と課題〕  障害としては、個々多様であること、障害の状態が固定しないこと(1年間、1日の単位で状態が違う)ということが特性といえます。また、見た目には「できる」けれども、「やってはいけない」、継続して「できない」ということは内部障害共通の課題です。まわりから理解を得ることが難しい障害です。さらに、生涯にわたり医療との関わりが重要であり、日頃の通院、突然の再手術や状態悪化などによる長期にわたる入院などが、社会生活の上で大きな障害になっています。  当会が2018年に行った患者の生活実態アンケート調査の結果(n=410人)では、就労している患者は63%、そのうち障害者雇用枠で就職しているのは半数でした。しかし、そのうち正規短時間、非正規雇用は32%となっていました。そのため、就労者の4割が年収200万円未満という低い収入の状況にあり、体調に合わせた仕事内容、雇用条件を選択せざるをえないために生活に困難をかかえている現状がわかります。また、非就労者は86人で、そのうち働いた経験がない人は31%、働いていたが辞めてしまった人は38%でした。いずれも、体力的に就労・就労継続が困難になったことが理由となっています。そうした現状から、「親の支えがなくなったらどうやって生活していけばいいのか」という切実な声が数多く寄せられています。就労保障のためには、雇用側の理解と一人ひとりに合った多様な配慮、働く環境の整備が必要なのです。  またコロナ禍では、事業所において障害者がどのような立場におかれているのか、障害への理解のために何が大切なのかという課題が明らかになりました。事業主の配慮によって、優先的に通勤や在宅勤務などの配慮が行われているという事例と、対照的に、障害者雇用だというだけで、仕事が与えられず自宅で待機するよう命じられたといったこと事例もありました。さらに、職場ではなかなか病気のことを言えない、人事や上司は障害のことを知っていても同僚には伝えづらい環境があることも問題となりました。正しい理解にもとづいた、適切な配慮が重要であるということ、また、自らの障害について正しく認識してもらえるよう、「困っていること」「望むこと」を言える環境作りが重要だと考えます。     p2   ○議題に対する意見 〔合理的配慮の提供の義務化〕  社会全体において、差別の解消と合理的配慮に対する認識は、まだ十分に広まっているとは言えなません。国民全体の認識にしていくためには、事業者に対する合理的配慮の提供の義務化は、法律での明記が必要であると考えます。その際、個々の障害特性に応じた配慮の必要性という点を踏まえつつ、義務化をしていくことが重要と考えます。 〔合理的配慮の提供を促す環境整備の在り方〕  またあわせて、谷間におかれている障害者手帳をもたない障害者への配慮についても必要であることを、あらためて重視していく必要があります。難病や慢性疾患をもつ人たちへの就労を保障すること、疾患をかかえた患者の障害特性についての周知が必要です。そのためには、障害者雇用促進法もあわせて改正して、難病や慢性疾患患者を法定雇用義務化、雇用率への算定に加えるなど、雇用施策における谷間におかれた障害者をなくしていくことが必要です。  さらに、見た目にわからない障害者が、職場で周りに自分自身のことを話ができる環境の整備、また、職場での相談体制を作っていくことも重要です。さらに、障害があるが故に就労が困難で、生活できるだけの所得が得られない障害者への所得保障もあわせて検討していくべき課題と考えています。  成人先天性心疾患患者が、生き生きと社会で生活できるよう、一人ひとりの障害の特性に合った、配慮が、当たり前に行われる職場環境を作っていくことへの理解が進むことを切に願っています。