p表紙   日本バス協会提出資料2 p1   「バス運転者のための行動マニュアル」より   移動が困難な方々  私たちが運転するバスには、乳幼児から高齢者までさまざまなお客様が乗車されます。移動に困難を感じているのは車いすを使用している方ばかりではありません。外見からはわからなくても、移動することに大変な思いをされる人も乗っているのだという認識をもって、一人ひとりのお客様に安全に気持ちよく目的地までご利用いただきましょう。   車いす利用者  車いすを使用している方は、下肢が不自由な場合だけでなく、高齢者、脳性マヒ、知的障害、心臓や呼吸器などの内部障害など、障害の内容は実に多様です。一人で行動できる方は自走型、介助者が同行する方は介助型の車いすを使用しています。   視覚障害者  全盲、弱視、視野狭さくなど、人によって見え方は異なります。白い杖をもっている方、盲導犬を連れている方は視覚障害者であるとすぐにわかりますが、外見からはわからない方もいます。   聴覚障害者  全く聞こえない方、難聴の方がいます。外見からはわからないので、何かを尋ねられたり頼まれたりしないと、気づきにくい障害です。アナウンス、テープ案内が聞こえませんので、降車停留所の案内時には周囲のお客様の協力を得る場合もあります。   知的障害者・精神障害者・認知症  外見からはわかりにくい障害です。危険なことに対する判断力が弱い方もいます。   内部障害者  外見からは全くわかりませんが、人工透析、人工肛門、人工膀胱、ペースメーカーなど、臓器に障害を抱えている方々です。ペースメーカーを使用している方にとって、車内での携帯電話使用は大きな不安です。   歩行困難者  松葉杖、杖などの歩行補助具を使用しているほか、義足をつけている方もいます。   高齢者  個人差はありますが、高齢化するに従い視覚・聴覚・触覚などの衰えや筋力の低下といったさまざまな身体機能の低下が起ってきます。疾病を抱えている人も増えてきます。そのためとっさのときの反応が鈍くなったり、転倒しやすくなったりします。   妊産婦  お腹が大きくなると足元が見えなくなり、からだのバランスも不安定になります。そのうえ、乳幼児を連れ、ベビーカーを持っている場合もあります。   けが人・病人  大きい病院のある系統は特に、けがをしている方や病気の方が多数乗車していることがあります。具合の悪い方は乗降等の動作も不安定になります。 p2   応対するときのマナー   相手を尊重することが基本  ノンステップバスや低床スロープ板付きバスの台数が増えていけば、障害のある方の外出を阻む「物理的な壁」は低くなっていきます。しかし、ほんとうのバリアフリー社会を実現するためには、障害のある方を“特別な人”と見て、普通に接することを阻んでしまう「心の壁(バリア)」をなくしていくことだと思います。「心の壁(バリア)」は無意識のうちに言動となってあらわれ、それは「物理的な壁」よりも相手の心を傷つけます。同時に、バス会社への信頼を失わせることにもなるでしょう。   まず声をかけましょう  車いすを押すとき、目の不自由な方を案内するときなど、黙ってからだに触れたり、突然車いすを押したりしてはいけません。 相手は驚いてしまいますし、物扱いされたようで不愉快な思いがします。また、体勢の準備ができていないときに動かすと、車いすから落ちてしまう場合もあります。 ●「よろしいですか、動かします」 ●「よろしいですか、進みます」 というように、まず声をかけてからお手伝いしてください。 (乗務員が車いすのお客様にお声掛けをしているイラスト。セリフ「よろしいですか?動かします」)   相手の人格を尊重しましょう  当たり前のことですが、人は一人ひとり別々の人格を持ち、一人の人間として尊重されたいと思っています。これは障害のある方でも全く同じです。「障害者」とひとまとめに考えるのは大きな間違いであると認識しましょう。相手を見下すような態度、面倒そうな態度、馴れ馴れしい態度などは相手をとても不愉快な気持ちにします。   子ども扱いは大変失礼です  バス会社へのクレームで多いのは、「子ども扱いされた」「一人では何もできないかのように扱われた」というものです。動作や言葉に障害があるからといって、相手を子ども扱いするのは大変失礼です。まずは日頃の言葉づかいを点検してください。 例えば、「どこまで行くの」ではなく、「どちらまで行かれますか」です。 (失礼な言葉づかいの例を示すイラスト「どこまで行くの?」「1人でできる?」「大丈夫?」)   何をしてほしいか聞いてから、お手伝いしましょう  お客様の障害の程度、できること、できないことは、人によってそれぞれです。必ずしも全ての方が介助を必要としているわけではありませんので、ます何をしてほしいかを尋ね、求められたことに対するお手伝いをしてください。 (乗務員がお怪我をされている方に、してほしいことをお尋ねするイラスト。セリフ「何かお手伝いできることはありますか?」) p3   どのように介助してほしいのか、確認しましょう  車いすを持ち上げる場合、着脱式になっている部分があるものもあるので、どこを持てばよいか確認しましょう。特に、相手のからだに触れるような介助の場合は、本人または付き添い者の望む方法で対応してください。   目線の高さを合わせましょう  例えば、私たちが病気でベッドに寝ているとき、上から見下ろされての会話は居心地の悪いものです。車いす利用のお客様を介助するときには、立ったまま声をかけるのではなく、腰をかがめて目線の高さを合わせましょう。 (車いすのお客様に乗務員が目線の高さを合わせお話しかけているイラスト)   同情にもとづく言動は相手を傷つけます  障害のある方が必要としているのは、必要な手助けと人格を尊重した応対であって、同情ではありません。相手をいたわる気持ちが大切であることはいうまでもありませんが、「かわいそうに」という言動はかえって相手を傷つけることになります。 (同情にもとづく言動が相手を傷つける可能性があることを示しているイラスト)   コミュニケーションを大切にしましょう  わからないことは何度でも聞き直し、わかったら動作や言葉で示しましょう。  一方通行では相手が不安になりますので、コミュニケーションを大切にしましょう。   誠意をもって伝えましょう  どうしても車いすを乗せるスペースがないといった理由で、お客様の希望に添えない場合は、利用できない理由をきちんと伝え、次の時間を案内するなど誠意をもって対応しましょう。誠意のある応対は、ほかのお客様にとっても気持ちのいいものです。 p4   車いす利用のお客様への対応   乗車時  停留所に車いす利用のお客様がおられたら 1 停留所への正着に努めます。 2 車外マイクで行先を案内します。 3 乗車意思を確認します。  肢体不自由な方の場合、動作を見ただけでは乗車するのかどうか分かりません。必ず乗車意思と行先を確認します。 ・「はいどうぞ、中扉からご乗車願います。」 4 車内マイクで案内します。 ・「車いす利用のお客様がお待ちです。しばらくお待ちください。」 5 車いす固定場所にいる方には、丁重に別の席へ移動していただきます。 ・「車いす利用のお客様が乗車されますので、車いす固定場所にいる方は恐れ入りますが席をお移り(お譲り)願います」(お譲りいただいたらお礼をいいます) 6 ほかのお客様の協力が必要な場合は、車内マイクで同乗者に、または歩道で通行人に協力を依頼します。 ・「どなたかお手伝いをお願いします。」  運転席を離れるときの安全対策措置 1 サイドブレーキを引きます。 2 エンジンを停止します 3 中扉を開けます。 4 左前輪の前後に輪止めをします。 5 回数券等の保管に注意します。  スロープ板操作〜乗車〜固定 1 ハネ上げシートを上げ、スロープ板を操作します。(各バスの操作マニュアルに従います) ・操作を開始するときは、後方からのバイクなどの進入に注意します。 2 車いすをスロープ板上へ移動することを伝えます。 ・「お待たせいたしました」車いすを動かす前には必ずことばをかけ、お客様の了解を確認します。必要に応じ協力者の方に援助をお願いします。 ・車いすの動かし方はP9〜P10を参照してください。 3 車いすを所定位置にベルトで確実に固定します。 ・固定が困難な車いすもあります。状況に応じ、介助(介護)者に補助をお願いします。(固定方法は各バスの操作マニュアルに従います) 4 運賃を収受します。(前払いの場合) 5 スロープ板を格納します。 6 左前輪前後の輪止めをはずします。 7 運転席に戻り、中扉を閉めます。 8 車内マイクでお礼を述べます。 ・「ご協力ありがとうございました。発車します」 p5  乗車をお断りするときとは ・基本的には、混雑時でもほかのお客様に説明してお乗せします。 ・乗車か否かの選択の権利は、お客様にあることを忘れないこと。 ・「次をお待ちください」「次をご利用ください」「1台しか利用できません」といった言い方は乗車拒否にあたります。 ・ただし、車内が混雑していて車いすスペースが確保できない場合や車内のお客様の介助協力が得られない場合などは、車いす利用のお客様にご理解をいただき、納得していただいてから発車します。   降車時  停車〜固定ベルトをはずす 1 停留所に正着し、車内マイクで案内します。 ・「車いす利用のお客様が降車しますので、しばらくお待ちください」 ・「どなたかお手伝いをお願いします」(スロープ板付きバス以外のとき) 2 運転席を離れるときは、乗車時同様、安全対策措置を行います。 3 運賃を収受します。(後払いの場合) 4 中扉を聞けます。 ・スロープ板を操作します。(各バスの操作マニュアルに従います) ・操作を開始するときは、後方からのバイクなどの進入に注意します。 5 固定ベルトをはずします。 (停留所で車いすの方に乗務員がお辞儀をしているイラスト)  降車 1 車いすをスロープ板上へ移動することを伝えます。 ・「お待たせいたしました」 ・車いすを動かす前には必ずことばをかけ、お客様の了解を確認します。必要に応じ協力者の方に援助をお願いします。 ・車いすの動かし方はP.9〜P.10を参照してください。 2 安全な位置に移動していただきます。 ・必要に応じて介助します。やむを得ず車道に降ろした場合は、歩道まで誘導または介助します。 ・「ご乗車ありがとうございました」 3 スロープ板を格納します。 4 左前輪前後の輪止めをはずします。 5 ハネ上げシートを元に戻します。 6 運転席に戻り、車内マイクでお礼をします。 ・「ご協力ありがとうございました。発車します。」 7 もし、トラブルが発生した場合 ・直ちに営業所に連絡し、指示を受けます。 p6   視覚障害のお客様への対応  視覚障害といっても、まったく見えない、明暗がわかる、形がぼんやりとわかる、拡大鏡を使えば文字が読めるなど多様です。ですから、求められる援助の方法もその方によって異なり、乗り馴れたバスか初めて乗るのかによっても異なります。援助が必要かどうか、ます本人に聞くことが大切です。   盲導犬を連れたお客様への対応  乗車時 停留所に盲導犬を連れたお客様がおられたら 1 停留所への正着に努めます。 ・「このバスは○○行きです」と車外マイクを使ってはっきり案内します。 2 盲導犬を確認します。 ・口輪の携帯(装着は不要です。ただし、車内混雑時等にほかのお客様の理解が得られない場合は、必要に応じ装着を求めます) ・首導犬の運賃は無料です。 3 降車停留所を確認します。 ・「どちらまで行かれますか。ご案内いたします」 4 席への誘導と車内協力の呼びかけ ・「ただいま盲導犬を連れたお客様が乗車します。どなたか席をお譲りいただけませんか」 ・(譲ってくれたら)「ありがとうございます」 ・「盲導犬は仕事中ですので、お触りにならないようお願いします」 ・一般のお客様の乗降等に支障がなく、落ち着いて乗っていられるところへ誘導します。 ・着席またはつり革などの利用を確認してから発車します。 (盲導犬を連れたお客様が車内で着席をしておられるイラスト)  降車時 1 降車時の案内 ・「次は、○○です」(降りるバス停の案内をします。テープのみではなく、車内マイクでも伝えましょう) ・降車時には、事故防止ならびに目の不自由なお客様が方向を迷わないよう停留所に正確にバスを着けるように注意します。 ・「盲導犬を連れたお客様が降車しますので、通路をお開けください」 ・「ありがとうございます」 ・降車を確認します。 2 運行管理者への報告 ・「○○停留所から○○停留所まで、盲導犬を連れたお客様が乗車しました」  「誘導」のしかた ・誘導者は視覚障害者の前に立ち、白杖を持たないほうの手であなたのひじの上か肩を持ってもらい、ゆっくり進みます。 ・後ろから押したり、腕や杖を引っぱったりしてはいけません。また、黙って行動せず、「段差があります」「段差はこれで終わりです」「左に寄ります」など、声をかけながら誘導します。 (乗務員が視覚障害者を誘導しているイラスト)  運賃収受時の注意 ・お金を受け取ったときは、声に出して金額を確認します。渡すときは、紙幣や硬貨の単位を言いながら、ひとつずつ渡します。 p7   その他のお客様への対応   聴覚障害のお客様への対応  中途で聴力を失った方は話のできる方が多いので、落ち着いて聞き取るようにします。話がわかったときは、「うなづく」という身体表現を行うとお客様も安心して話が続けられます。  こちらから何かを伝えるときは、口の動きを読み取って理解されようとする方もいますので、バスを停車させた状態で相手に口の動きが見えるようにして、ゆっくりわかりやすく話します。「どこまで行きますか」より、「どこまで」のほうがわかりやすい場合もあります。  補聴器をつけているからよく聞こえているだろうと考えるのは間違いです。エンジン音や周囲の雑音で聞き取りにくい環境にあるということを考慮しましょう。  相手の言うことがわからないときや、こちらが言ったことが伝わらない場合は、文字に書いてもらったり、もう一度話してもらうようにします。メモ帳などを活用すると便利です。 (聴覚障害のお客様への対応に関するイラスト)   知的障害のお客様への対応  知的障害のお客様に何かを尋ねられたり、頼まれたりしたときは、ていねいな言葉づかいをすることは前提ですが、難しい言葉づかいを避け、わかりやすく話をしてください。また、危険なことに対する判断力が弱い方もいるので、危ない動作に気がついたら、遠慮なく安全なほうへ導いてください。   精神障害のお客様への対応  精神障害は外見からはわかりにくい障害です。お客様から手助けを頼まれた場合は対応するとともに、何かに困っておられるような場合は声をかけるようにしましょう。   認知症のお客様への対応  認知症には、脳出血や脳梗塞などを原因とする脳血管障害型とアルツハイマー型があります。脳血管障害型の場合は、片マヒ、歩行障害、言語障害などの障害をもっている場合が多く、車いすを利用している方もあります。認知症の程度や症状は人によってさまざまで、かなり重度の方でもすぐに認知症とわからないケースもあります。軽い症状の方であれば、一人で乗車なさる場合もありますので、もし車内でお困りのようであれば声をかけましょう。介助者がいる場合は、その要望に従ってください。